は じ め に
多摩丘陵とは、どのような範囲の地域を指しているのだろう。私は多摩丘陵の一角を歩きながらいつも疑問に思っていた。本で調べてみると広義には高尾山などの関東山地、多摩川から東の武蔵野台地、境川から西の相模原台地、三浦半島に囲まれた丘陵地帯を言うとある。狭義には多摩川と多摩川支流の浅川、横浜市の帷子川、登戸と保土ヶ谷を結ぶ線から海側の下末吉台地に囲まれた地域とある。しかし、浅川や境川の最上流部、通称南高尾山稜と呼ばれる地域は多摩丘陵と思えないし、下末吉台地の北部は多摩丘陵と同じ景観を呈していて、多摩丘陵に含めて良いのではと思う。そこで本書に言う多摩丘陵とは、狭義の地域から浅川や境川の最上流部の地域を除き、多摩丘陵の核心部に源を発する鶴見川中流域からを多摩丘陵とした。行政区分で言うなら横浜市の北東部、川崎市の北部、東京都の町田市、多摩市、稲城市、八王子市の南部を指している。
以上のように多摩丘陵を規定してみたものの、実際には、私の住んでいる横浜市港北区から行き易い場所、すなわち鶴見川中流部より上流の地域の昆虫たちを多摩丘陵の昆虫たちとして、ここに紹介する。この地域は、今でこそ多くの人たちが暮らす町並みが続いているものの、以前は鶴見川に沿って広がる田んぼや畑、雑木林の丘陵とそこに源を発する細流が刻んだ谷戸と呼ばれる田んぼ、そして丘の上の畑、各所にある溜池や湿地といった景観が広がっていた。また、この地域を特徴付けるような特異な昆虫たちが生息しているわけでもなく、横浜や東京等の都市部から近いにも関わらず、きめ細かな昆虫調査はされずに都市化の波がまともに襲って来た地域である。
このよう開発の波の中においても、私にとっては宝の山に思える昔の面影を残す地域が僅かだが奇跡的に各所に残っている。そこが私のメインのフィールドなのだが、花や鳥を写している方はいるものの、昆虫全般を本格的に撮影している方が見当たらない。ほんの一部の昆虫を除いて、全国の里山で普通に見られる昆虫たちしか生息していないから、あえて定期的に通って撮影する意味がないからだろうか。それとも、最も身近な隣人であるはずの昆虫たちへの関心が薄いからだろうか。そこで本ページは、普通種だけど確かに多摩丘陵で生活している昆虫たちを、出来うる限り多く写して紹介し、身近な昆虫たちへの関心を呼び起こして欲しいと願ったページである。このページ片手に近くのフィールドへ出向けば、すぐにでも50や100種類位の昆虫たちと、仲良しになることが出来るだろう。