おもしろ花日記
(2)

田んぼの畦に舞い降ります(ムラサキサギゴケ)

ゴマノハグサ科サギゴケ属ムラサキサギゴケ(紫鷺苔)、本州、四国、九州

サクラが咲いて日差しが急に強くなる頃、田んぼの畦にたくさん咲いている。花を見れば解かるように、その形が田んぼに舞い降りたサギに似ていて、地面に張り付く様が苔に似ているので、花の色と合わせてムラサキサギゴケと名付けられたようである。花はみんな同方向を向いているのではなく、あっちこっち気ままに向いて、その可愛らしさから好き勝手に遊ぶ子供たちのグループのようで、思わず微笑んでしまう。花の色は普通、写真のように薄紫色だが、白い花も時々見られ、場所によっては白い花が多い田んぼもある。ムラサキサギコケの葉は根元に集まっていて、そこから地面を這うように伸びる枝、専門的には走出枝(ランナー)が次々に株を増やして行く。このような植物を「ほふく植物」と言い、私たちが体育の時間によくやらされた「ほふく前進」を思い出す。こんな春の暖かい日差しの中で、田んぼや田んぼの畦に咲く花が見られるのも一時だ。なぜなら田お越しが始って、畦は奇麗に田んぼの土で塗り固められてしまうからである。
<2003年4月19日、神奈川県愛川町八菅山>

小鳥たちの大好物です(ハコベ)

ナデシコ科ハコベ属ハコベ(繁縷)、日本全土

小鳥を飼った経験をお持ちの方なら誰もが知っているのがハコベである。最も都会の真ん中ではハコベが生えるような湿潤で土が柔らかいような所は少なくなっているので、小鳥のための青菜はコマツナ等を買ってくるのが普通になっているのだろう。このようにハコベは小鳥たちの大好きな植物なのである。正岡子規が「カナリヤの餌に束ねたるハコベかな」と歌っているというし、「ヒヨコグサ」「スズメグサ」という別名でも親しまれている。また英名は「チック・バード」で、鶏の雑草という意味であるという。このようにハコベは、日本だけでなく世界に名が知れた小鳥の餌のようだ。こんなに小鳥が好きなのなら人間だって食べそうだと思うが、七草粥に用いる以外、春の食べられる野草として摘んでる方に出会ったことがない。江戸時代の初期には、栄養満点な青菜として重宝されていたと図鑑にある。たんぱく質、ビタミンB、ビタミンCが豊富で、軽く茹でておひたしや胡麻和えにしたり、細かく刻んでご飯やお粥に混ぜて食べるのも美味とある。
<2003年4月19日、神奈川県愛川町八菅山>

若葉の中で目が染みます(ヤマブキ)

バラ科ヤマブキ属ヤマブキ(山吹)、北海道南部、本州、四国、九州

山野では、主に渓流や小川沿いのやや湿ったあまり陽が射さない場所に自生していて、このような場所は常に風が吹いていて、ヤマブキの花を撮影するのには苦労する。それは名前にもあらわれていて、ヤマブキは古くは「山振」という字があてられていたらしく、しなやかな茎が垂れ下がって、風に常に揺れている様から名付けられたのだという。ヤマブキと言えば、狩りに出た大田道潅が途中で雨に降られ、民家に立ち寄って蓑を借りようとしたところ、ヤマブキの一枝を差し出されたという有名な話を思い出す。その話の元となったのが「七重八重 花は咲けども 山吹きの 実のひとつだに 無きぞ悲しき」という歌であると言われている。写真のような一重の山野に自生するヤマブキは実がなるが、歌に出て来るヤエヤマブキは園芸品種であって実がならないのである。ヤマブキの髄は真っ白く柔らかい発泡スチロールのようだが、顕微鏡用の切片を切り取るピスというものにされるのだとある。また、葉や花は利尿剤として漢方にも供されるとある。
<2003年4月19日、神奈川県愛川町八菅山>

花も立派で見事です(ナシ)

バラ科ナシ属ナシ(梨)、ヤマナシからの新種改良

春といえば春分の頃はピンクのモモ、そしてサクラと続くが、一面に真っ白となるナシの美しさも捨てがたい。私たちが食用とするナシは、ヤマナシから品種改良されたものとあるが、このヤマナシは古い時代に中国から渡来して野生化し自生したものらしい。現在のスーパーや果実店で売られている品種は、幸水、豊水、新水、新高等だが、ナシは古くから多くの品種改良がなされ来て、特に明治時代に川崎市の當麻長十郎の梨園で見出された「長十郎」と、松戸市の松戸覚之助の自宅内で見出された「二十世紀」は、日本の梨の歴史においてとても大きな存在で、一昔前の店頭には、この二種だけが並んでいた時代が相当長く続いた。現在の甘くて果肉のやわらかい品種も、この長十郎と二十世紀が元で作り出されたと言う。明治時代に園芸品種に於いての特許のようなものがあったのかどうかは解からないが、この二種のナシの発見は、私たちに多大な恩恵をもたらした素晴らしい出来事であったわけで、今なら国民栄誉賞位には匹敵するものであろう。
<2001年4月18日、横浜市青葉区市ヶ尾町>

どの花見ても奇麗だな(チューリップ)

ユリ科チューリップ、地中海東部沿岸〜中央アジア原産

「咲いた咲いたチューリツプの花が、ならんだならんだ赤、白、黄色、どの花見ても奇麗だな」と童謡にもあるように、春の花壇で最も美しく親しまれている花の一つである。チューリップと言えば誰もが風車の国、オランダが原産ではないかと思うだろう。しかし、トルコ、アフガニスタン、中央アジア等に原産するものが、園芸品種として改良されたとある。初めてヨーロッパにチューリップが紹介されたのは1554年のことで、その後、ヨーロッパ各国に広がって、1630年代には球根が信じられないほどの高値で取引されるという程のブームとなり、この時代を「チューリップ狂時代」と言うのだそうである。日本には江戸時代末期に渡来したが、本格的に輸入され出したのは明治の終わり頃からで、現在、新潟、富山、島根の砂丘海岸地帯が我が国のチューリップ栽培の中心地となっている。畑一面にチューリップが咲いてる光景は、さぞかし圧巻なことだろう。写真のチューリップはピンクの単色だが、花びらに縁取りがあるもの等、世界には何と2500品種もあるのだという。
<2003年4月14日、神奈川県相模原公園>

アヤメ科の野草です(シャガ)

アヤメ科アヤメ属シャガ(射干)、本州、四国、九州

シャガとはとても変わった名であると思っていた。お釈迦様に関係があるのかなと思ったくらいである。図鑑によると、中国ではヒオウギのことを「射干」と表し、これを誤って音読みしてシャガと名付けてしまったらしい。シャガはやや日陰の農家の裏庭等にたくさん生えているし、神社仏閣の庭園にはなくてはならぬ花である。もともと中国から輸入され、アヤメ科には珍しく冬でも緑の葉をつけるので、盛んに各所の庭に植えられたとある。これが野生化しものだから、人の臭いのする場所に多く見られ、雑木林等の自然度の高い場所には見られぬものの、最近では低山帯の林道等でも見られるようになった。シャガはいつ見ても萎びた花がないなと思っていたら、一日で咲きやんでしまう1日花だという。宮沢賢治の短歌に「しゃが咲きて きりさめ降りて 旅人は かうもりがさの柄をかなしめり」とあるとある。シャガは霧雨が降るような日に似合う花である。大きくて紫と黄色の帯があるのは実はがく(外花被)で、白一色のものが花びら(内花被)である。
<2003年4月14日、神奈川県相模原公園>

ヤマトシジミの食草です(カタバミ)

カタバミ科カタバミ属カタバミ(片食、傍食)、日本全土

フィールドで花や風景を写している方が「マクロレンズ(接写専用レンズ)で覗くと、カタバミはとっても奇麗な花だ」と言われていたが、同感である。一戸建ての庭でも、都市公園でも、道路際でも、何処にも普通に見られる植物で、花が小さいから見過ごされているが、近づいて見れば何と端正な花であるのかと驚かれるに違いない。また、種子の入った緑の鞘も尖がり帽子で風情がある。カタバミの名は、葉が夜になると就眠運動で閉じてしまう。その時、葉の一片が欠けたように見えるので、そう名づけられたとある。写真のカタバミは葉が緑色だが、街中には葉も花もやや赤っぽいものが見られるが、アカカタバミと呼ばれるカタバミの変種である。カタバミで忘れられないのが、何処にも普通な水色の小さな蝶、ヤマトシジミの幼虫の食草なのである。珍奇なものだけが貴ばれ注目されるのではなく、何処にも普通なカタバミを植えて、何処にも普通なヤマトシジミを飼って蝶にして飛ばしてあげる等と言う事が、とっても大切なことだと思うが、どうであろう。
<2003年4月12日、横浜市港北区>

時には三輪咲いてます(ニリンソウ)

キンポウゲ科イチリンソウ属ニリニソウ(ニ輪草)、日本全土

あまり日が当たらない湿り気のある雑木林の北側斜面の山すそに見られることが普通で、林床一面に群生していることが多く、それはまるで緑の地に白い花を散らした絨毯のようで、その群落の中に入って行って群落を汚すのが憚れる程の見事な美しさである。ニリンソウの名のいわれは、もちろん一つの茎から二つの花が咲くからで、最初は写真のように一輪が伸びてきて咲き、時間がたつと、花茎の根元にある蕾が伸びてきて普通はニ輪となる。しかし、一輪のみのことも三輪になることもある。一般的にキンポウゲ科の植物は毒があることで有名だが、このニリンソウは昔から食用とされてきた山菜である。若葉は柔らかくて美味しいとあるが、猛毒で食べると死に至るトリカブトとそっくりなので、トリカブトをニリンソウと間違えた死亡事故が新聞で度々報道される。山菜がたくさんある地方でもそうなのだから、われわれ普通の者ならよした方が懸命であるし、数少なくなっている首都圏平地の雑木林のニリンソウのためにも止めてもらいたいものである。
<2003年4月14日、町田市小野路町>

不味いけど食べられます(ヘビイチゴ)

バラ科ヘビイチゴ属ヘビイチゴ(蛇苺)、日本全土

何となくその名から毒ではないのと、子供の頃から遠ざかっていた花であるが、端正なハート形の5つの黄色い花びらをつけて田んぼの畦や農道で咲く姿は美しい。また、梅雨時になると霧雨降る中で真っ赤な実をつけ雨を弾く姿も風情がある。この実は毒ではないが、海綿質で水気も甘味も無く美味しくない。しかし、地方によっては、この実を食べると伝染病に罹らないという風習があるそうだから、何とか料理方法を考えて誰もが好むものに出来たら素晴らしい。こんなに花も実も可愛いのだから、ヘビイチゴ等という気の毒な名前から解放させてあげたい。これでは俳句や短歌に詠み込まれることも少なかろう。本によると中国名が「蛇苺」で、人間は不味くて食べないが、蛇なら多分食べるだろうということから名が付けられたとある。そう言えば最近減ったとはいえ、蛇も田んぼの草むらが大好きである。ヘビイチゴに遅れて、近縁種であるオヘビイチゴも同じような所で花を咲かす。ヘビイチゴは小葉が3枚だか、オヘビイチゴは小葉が5枚だから区別は容易い。
<2002年4月11日、横浜市戸塚区舞岡公園>

秋ではなく春に咲きます(フデリンドウ)

リンドウ科フデリンドウ(筆竜胆)日本全土

かつては身近な所にたくさん咲いていたのだろうが、多摩丘陵でも見つけ出すことが大変になった。図鑑によると乾燥した所を好み、萱原や明るい雑木林の中に自生するとある。昆虫の仲間でもオオウラギンヒョウモンとかオオルリシジミ等の草原を好む蝶が減少しているが、身近なフィールドに背の低い芝や萱の原は少なくなっている。また、雑木林は下草刈り等の手入れがされずに、アズマネザサが伸び放題といった按配では、背の低いフデリンドウが生育できるわけは無い。多摩丘陵の自生地は勤勉なお百姓さんが、定期的に草刈をする乾燥した芝地である。リンドウと言えば晩秋の花と思われるが、このフデリンドウ、ハルリンドウ、コケリンドウ等は背が低く春に咲く。晩秋に咲くリンドウは、日が射してくると花が開くが、小さな春のリンドウたちもこの性格は同じだとある。フデリンドウの名は、細い茎の先に付いた蕾が筆のように見えるので、そう名が付いた。こんなに可愛らしいにもかかわらず、秋に芽生え冬を越して春に花が咲く、とっても健気な植物なのである。
<2002年4月14日、町田市小野路町>

草ではありません木です(クサイチゴ)

バラ科クサイチゴ(草苺)、本州、四国、九州

サクラが咲くと同じ仲間の木の花がフィールドを埋め尽くすようになる。梨園の純白な花が満開になる頃、何処へ行っても普通に見られるのがクサイチゴである。名前にクサ(草)と付くから草本植物かと思っていたのだが、樹木図鑑の方に紹介されているのだから立派な木、木本植物なのである。日当たりの良い雑木林の縁や崖地の下に生えていて、冬を越した根からたくさんの茎が出て群がっているように見える。クサイチゴと言っても木苺なのだから茎に刺があるのだが、同時期に咲いているモミジイチゴに比べると柔らかい刺である。車の通行のある林道や道路の傍にも生えていて、塵や埃を被っていたりすることが多いが、雨上がりの朝などに観察すると、花はバラ科特有の5枚の花びらでとても立派で美しい。そして、5〜6月に赤く大きな木苺がなるのである。別名をワセイチゴ、ナベイチゴとも言い。実が熟すのが早いから早稲苺(ワセイチゴ)となり、実のへたを取り除いて、その部分から見ると鍋に見えるので、鍋苺(ナベイチゴ)になった訳である。
<2002年3月31日、横浜市港北区新吉田町>

最も普通のスミレです(タチツボスミレ)

スミレ科スミレ属タチツボスミレ(立壷菫)、日本全土

首都圏平地の雑木林から低山帯まで最も普通に見られるスミレである。図鑑によると日本全国、人里から山地、浜辺から亜高山帯まで分布しているとある。花の色は変化があり、淡い青紫色から紅紫色まであると言う。しかし、首都圏平地では圧倒的に薄紫色が多いようである。大好きな和歌に「春の野にすみれ摘みにと来し我そ 野を懐かしみ一夜寝にけり」と万葉集で山辺赤人が歌っているが、タチツボスミレが咲く雑木林や野原は春の草花が咲き乱れて、一晩そこに泊まって、また明日も戯れたくなる魅力で一杯である。俳人松尾芭蕉も「山地来て何やらゆかしすみれ草」と詠んでいると言う。日本はスミレ王国とも言われる程種類が多く、約84種類があるという。スミレを大きく分けると地上に茎があるものと、地下に茎があって葉や花が咲くものとに分けられるが、タチツボスミレは前者の代表で、最近少なくなったスミレは後者の代表である。日当たりの良い場所だと厳寒期にもちらほら咲いているが、タチツボスミレの最盛期はサクラの花と同時期となる。
<2002年3月31日、横浜市港北区新吉田町>

野の花の仲間になりました(オオアラセイトウ)

アブラナ科オオアラセイトウ属オオアラセイトウ(大紫羅欄花)、中国原産

日本の春の野の花になくてはならぬ存在となったが、元々は中国原産で江戸時代に渡来し、昭和の始め頃に野生化したと言われている。ここではオオアラセイトウと名を記したが、別名がたくさんあって「ショカツサイ」は諸葛菜の日本読みで、中国の三国時代の武将である諸葛孔明からつけられた由緒ある名であると言う。また、花の色から「ムラサキハナナ」、美しい花が咲くという意味で「ハナダイコン」、また「シキンサイ(紫金菜)」とも呼ばれている。オオアラセイトウはアブラナ科であるが花弁は大型で、がくも薄紫色で、その群落は実に美しい。野生化しているといっも何処でもあるわけでは無く、湿潤でやや日陰の人家近くに見られる。最初は誰かが種を蒔き、それがそのまま野生化して広がったように思われる。蝶が好きな人間にも、このオオアラセイトウが野生化して何処でも見られるようになったために、シロチョウ科の年に1回春にだけ現われるツマキチョウの食草となって、都心部の公園でもツマキチョウが見られるようになったと喜ばれている。
<1999年4月10日、横浜市港北区新吉田町>

まだまだ頑張ってます(カントウタンポポ)

キク科タンポポ属カントウタンポポ(関東蒲公英)、関東地方

市街地や住宅街ではセイヨウタンポポが我が世の春を謳歌しているようだが、自然度の高い緑地へ行けば、まだまだ健在である。カントウタンポポは、エゾタンポポとトウカイタンポポの両者の交配によって生まれたと言われている。このためもあってか関東地方中心に分布していて、その名に「カントウ」と付くわけである。しかし、タンポポの分類は学者によって見解が分かれていて、その内、ニホンタンポポという名で一くくりになる可能性もある。関東地方には花の付け根の緑の総苞の反り返っているセイヨウタンポポ、アカミタンポポと、反り返っていないカントウタンポポ、シロバナタンポポの4種類が自生している。山梨県で自然観察会を繰り広げている植原彰さんの本で、タンポポの花の天婦羅が一番美味いと書いてあるし、フランスには食用タンポポもあるらしいので、何処にでもあるし見間違うこともなかろうから、ぜひ試食して欲しい。また、根を乾かして粉にし、タンポポコヒーとして飲むことも出来る。たかがタンポポだが、されどタンポポである。
<2003年3月28日、横浜市青葉区寺家町>

小さくとも蝶形花です(カラスノエンドウ)

マメ科ソラマメ属カラスノエンドウ(烏野豌豆、烏豌豆)、本州、四国、九州、沖縄


春になると路傍や草原にいくらでも見られ、細い巻きひげを伸ばして、近くにあるものなら何でも絡み付いて成長する。植物の名の頭にカラスと付くと、約に立たないものに付けられるとばかり思っていたのだが、カラスノエンドウのカラスは、実が熟すると鞘が真っ黒になり、これをカラスの羽に例えて、そう名付けられたとある。去年、ウィークエンド・ナチュラリストを標榜しているのだから、春の食べられる植物を多種類集めて天婦羅にしてみた。タンポポの花、ヤブカンゾウやカラスノエンドウの葉、セリ等である。一番美味しかったのはセリで、カラスノエンドウもなかなかいける口であった。もうじき食用のサヤエンドウの花が開くが、野生のカラスノエンドウも小ぶりとは言え、そっくりの薄紅色の蝶形花である。別名を「ヤハズエンドウ」とも言い、小葉の形が矢筈(弓矢の弓の弦を受ける部分)に似ているからとある。私はまだ聞いたことが無いが、実が熟してくると鞘がねじれて種子を飛ばす音がするのだという。こうして子孫を残すために、遠くまで種子を飛ばすのだろう。
<2002年3月30日、東京都町田市図師町>

スカンポとも呼ばれています(スイバ)

タデ科ギシギシ属スイバ(酸葉)、北海道、本州、四国、九州

噛むと酸っぱいから「酸葉」で、実に単刀直入の覚え易い和名である。別名のスカンポはそれが訛ったとあるが、どのように転じて訛ったのだろう。スイバの酸味は蓚酸を含んでいるためで、イタドリやカタバミも同じ成分で酸っぱいとある。スイバは田んぼや畑や農道等で、何処にも見られる多年草で雌雄異株の植物だが、ヨーロッパと北半球の温帯が原産であるとある。スイバは食べられる植物としても著名で、茹でて和え物にしたり、酢の物にしたりして食べる。ただし、たくさん食べると身体に悪いらしい。かつて私の友人が、フィールドで喉の渇きに良いと、その茎を生でかじっていたことが懐かしい。本によれば学名はルーメックスで「吸う」という意味らしく、ローマ時代に喉の渇きにこの葉を吸ったことより来ているらしい。洗わないでそのままでは抵抗を感じるが、試してみる価値はありそうである。こんな身近な植物だから各地に方言があって、葉が牛の舌に似ているので「ウシノベロ」、酸っぱいから「スイスイゴンボ」「ウメボシ」等と多彩である。
<2001年4月1日、神奈川県平塚市土屋>

春の田んぼの花の女王です(レンゲソウ)

マメ科レンゲソウ(紫雲英、蓮華草)、日本各地

化学肥料の発達や田植えが以前より早くなったこともあり、田んぼ一面に咲いている光景が最近見られなくなった。かつては稲刈りが終わると田んぼに種を蒔き、田植えをする前に鋤きこんで緑肥とする重要な植物であった。しかし、種を蒔いているとは思えないが、田んぼの畦には昔の名残りなのかもしれないが必ずと言って良い位に見られるし、時には田んぼに群落をつくっている光景にも出会う。ご存知のように根に瘤がたくさん付いていて、この中に空気中の窒素を固定する根瘤バクテリア菌が住み、いわば天然の窒素肥料工場となっていたのである。このようなレンゲソウや雑木林などからの落葉落枝が重要な肥料となって、かつての稲作生産は行われていた。最近、アイガモ利用による田んぼの雑草除去と糞による追肥などもこれ加えたら、とっても魅力的な無化学肥料による稲作生産が行えるように思われるのだがどうだろう。レンゲソウは室町時代に中国から輸入され、別名の「紫雲英」は一面に咲く様を雲のようだと例えたものらしい。
<2003年4月14日、東京都町田市小野路町>

刈られても刈られても咲いてます(クサボケ)

バラ科ボケ属クサボケ(草木瓜)、本州、四国、九州

刈られても刈られても、どんなに小さくなっても、毎年、雑木林や河川の土手で、早春に咲き出すという生命力の非常に強い植物である。園芸品種のボケも刈り込みに強く、また、刺があるので他人の侵入を防ぐために農家の垣根等に利用されている。しかし、園芸品種のボケは中国原産だから、日本自生のボケと言ったら、おそらくクサボケが唯一つということになるのだろう。そんな訳だから、雑木林の山掃除には少し気を使ってもらっても良いものだと思うのだが、大きな株にお目にかかったことがほとんど無い。別名はジナシと言い、秋になると黄色く熟する果実がなるからで、良い香りがあって、果実酒として利用される。図鑑によると花が朱赤色のために火を連想させ、火災を心配して、屋敷内には植えないという。しかし、まだ草木の芽が開き始めたばかりの寂しい雑木林の中でのクサボケの花は印象的で、早春の陽光が差し込むと、ぱっとそこだけが明るく賑やかで楽しい春が演出される。雑木林になくてはならぬ貴重な存在の植物である。
<2003年4月1日、東京都町田市小野路町>

ひっそりと静かに咲いてます(ヒトリシズカ)

センリョウ科センリョウ属ヒトリシズカ(一人静)、北海道、本州、四国、九州

平地の雑木林ではなかなかお目にかかれなくなったが、山桜が満開になる頃、低山帯に出かけると山道の脇などで群がって咲く姿に出会う。別名を「吉野静」とも言い、江戸時代の和漢三才図会に「静かとは源義経の寵妾にして吉野山に於いて歌舞の事あり、好事者、其美を化して以て之に名づく」とあるように、義経の愛した静御前の舞の美しさにから由来している。初夏になると咲くフタリシズカはより大型だが、ごく近縁の植物で、お互いに葉は四枚で、ヒトリシズカは白い花が集まってつく花穂が一本なのに比べて、フタリシズカは二本ないし三本つく。この為、ヒトリシズカ、フタリシズカという名になった訳だが、フタリシズカは和漢三才図会では「俗謡に云う、静女と幽霊二人と為り同じく遊舞す、此花二朶相並び艶美なり、故に之に名づく」とあるように、フタリシズカの一本の花穂は静御前、もう一方の花穂はその幽霊で、二人して舞を舞っている美しさに例えたわけである。そんな名前の由来を噛み締めながら、ひっそりと咲く姿を鑑賞するのも楽しいものである。
<2001年4月11日、神奈川県藤野町石砂山>

美しく咲いて邪気を払います(ハナモモ)

バラ科サクラ属ハナモモ(桃)、中国北部原産

食用とする大久保や白桃等の桃の花は一重で花期もやや遅く、これからの花だが、観賞用の八重咲きや菊咲きのハナモモは3月下旬に咲く。3月3日のひな祭になくてはならないのが桃の花で、桃の節句という言葉すらあるほどである。この時に飾られるのはハナモモが普通で、早目に刈り取られた枝を加温して花期を早めたものが売られている。桃といえば昔話の桃太郎も思い出すが、桃は陰気な鬼を退ける明るく陽気な邪気を払う木として古来から信じられているとある。牧野富太郎博士の本に、成蹊学園の校名の由来が書かれているが「桃李もの言わず、下自ずから蹊(みち)を成す」という史記の李将伝に出て来る文句に由来するとある。博士の解説では、モモやスモモは美しい花を開くが、自らの美しさをいささかも誇ろうとはしない。しかし、人々はモモの花を慕い集まって来て、いつしかその木の下に蹊(こみち)ができるという意味だとある。実に素晴らしい含蓄溢れるものではないか。私達もいつも明るく、わが道を静かに歩くことの大切さを感じた次第である。
<2003年3月30日、横浜市青葉区元石川町>



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