おもしろ花日記
(3)

白から黄色に変わります(スイカズラ)

スイカズラ科スイカズラ属スイカズラ(忍冬)、北海道、本州、四国

 スイカズラはどうみても草ではないのかなと思い、野草図鑑を調べてみたのだが出ていない。そこで樹木図鑑を取り出してみると半常緑のつる性の低木とある。植物の生態的な分類の中にマント植物というのがあるが、スイカズラは日当たりの良い雑木林の林縁で、他の樹木に絡まって生育しているマント植物のようである。漢字では「忍冬」で、ニンドウと読み、名前とは異なっているが、スイカズラの葉は冬になると黒くなって葉を丸めて冬を越すので、まるで寒さに耐え忍んでいるかのように見えると言う訳である。たかが植物で、しかもそれほど自己主張が無い植物だが、昔の人はとても感性溢れた名を付けたのだなと感心させられる。花は近縁のハコネウツギ等とは異なって独特で、良い香りがし、咲き始めは白いが黄色となって落花する。また、漢方としても重要な植物で、葉はそのまま生で食べたり、乾燥してお茶にしたり、茎や葉や花を酒に付けたりして用いる。それぞれ忍冬茶、忍冬酒と呼ばれていて、強壮剤として効能があると言われる。
<2003年5月21日、横浜市戸塚区舞岡公園>

梅雨時に星屑が一杯(ナワシロイチゴ)

バラ科キイチゴ属ナワシロイチゴ(苗代苺)、北海道、本州、四国、九州、沖縄

 ナワシロイチゴもスイカズラと同様に、樹木とは思えない風情の落葉小低木である。別名をサツキイチゴと呼ばれるように花は5月から6月に咲き、湿気が充満した鬱陶しい曇り空の下に、また、霧雨降る中に咲いていると、それほど美しい花とは言えないものの風情溢れるものが感じられる梅雨時ならではの名花である。また、そんなこともあってか、ナワシロイチゴと言い、サツキイチゴと言い、とても良い響きを伴った名と感じさせられる。萼は西部劇の保安官のバッチか、海にいるヒトデのように美しく完璧な形で開くのだが、花は完全に開くことは無く、雌しべや雄しべが花弁から顔を出すといった程度である。しかし、各種の昆虫には好まれているようで、吸蜜に訪れる蝶等の姿を良く見かける。実は真っ赤に光り輝くように実り食べられる。開花からその結実のまでの速さにはいつも驚かされる。葉はとても柔らかて可愛らしく、葉柄や茎に刺があって痛いのだが、可愛らしさを感じさせる憎めない存在と感ずるのは、ナワシロイチゴならではのものであろう。
<2003月5月25日、山梨県韮崎市穂坂町>

変幻自在に変わります(ハコネウツギ)

スイカズラ科タニウツギ属ハコネウツギ(箱根空木)、北海道南部、本州、四国、九州

 雑木林の縁や幅広い山道などの日当たりの良い所でみかけるが、園芸品種と見間違う程の美しい花をこぼれんばかりに咲かせる。花は初めは純白で日がたつにつれて薄紅色に変わる。こんな花は日本でも珍しいのではなかろうか。花は漏斗状の筒になっていて、上部は鐘のように膨らんで先端は5裂する。花の落花はもちろんこの筒状のまま落ちる。果実は花の美しさから想像がつき難い小枝のささくれのような形をしていて、熟すると褐色を呈するのですぐ分る。花の名前にウツギと付くが、卯の花のウツギはユキノシタ科の樹木で縁は遠い。名前にハコネ(箱根)と付くから誰もが箱根に多いと思うかも知れないが、箱根の山中には分布してなく、その名は誤認によるものとされてきたが、箱根の低地には自生しているという。図鑑によると潮風に強いので各地の海岸沿いに植栽されているとある。変種としては初めからベニバナのベニバナハコネウツギや、ずっと白いままで紅色にはならないシロバナハコネウツギや、香りが良いニオイウツギがある。
<2003年5月20日、横浜市戸塚区舞岡公園>

京都にたくさん生えてました(ミヤコグサ)

マメ科ミヤコグサ属ミヤコグサ(都草)、日本全土

 野山に咲く花の中で、こんなにまで鮮やかなレモンイエローの花は他にないのではなかろうか。ちょうどミヤコグサが咲き盛る頃は曇り空が多いが、群落をつくって咲いていると、そこだけが日が当たっているような賑やかさと暖かさがある。ミヤコグサとは粋な名だが、もともと京都に多く生えていたので、この名前が付いたとある。写真の花をじっと見詰めて欲しい。何となく黄色いアヒルの赤ちゃんの顔に見えて来ないだろうか。あっちを向いたりこっちを向いたり、気ままな姿が笑いを誘う。こんな所が気に入ったのか、はたまた成金主義で金箔が大好きだった太閤豊臣秀吉の側室であった「淀君」が、こよなく愛した花とある。別名を「淀君草」とも呼ばれ、今でも大阪城にたくさん見られると言う。また、西洋ではクレオパトラがとても好きな花で、船の紋章にもしているそうである。東西の美女として名が高い女性に愛されて、ミヤコグサはなんと幸福な花だろう。こんなことを思いながら、芝地に寝転がってミヤコグサとしばしの対話をするのも楽しいものである。
<2003年5月18日、東京都町田市図師町>

今年最初のアザミです(ノアザミ)

キク科アザミ属ノアザミ(野薊)、本州、四国、九州

 一年の最初に野山を彩るアザミはノアザミである。普通、首都圏では5月に入ると咲き始める。花は大きく、総苞(そうほう)と呼ばれる花の下部の玉の様になった所が、ねばねばとべとつくのですぐに判別できる。夏に高原へ行くと一面のアザミの群落に出会うが、これもノアザミである。図鑑によると花の盛りに花の上を触れると、昆虫がやって来たとばかりに、昆虫の大好きな花粉を吐き出すのだとある。昆虫によって受粉する花ならではの、びっくりする程の戦略である。ノアザミの葉の刺は鋭く、触れるととて痛い。このためアザミの種類が多く、とても身近な花として親しまれているヨーロッパでは、各種の逸話が多い。ことにスコットランドでは国花となっている。それはデンマークとの戦いに於いて、夜討ちをかけようとした敵の兵士がアザミの葉に触れて、あまりの痛さに声を上げたために見つかって、この夜討ちから逃れられたことより「救国の花」となり、国花となった言う。この他、ヒイラギの葉と同様に、魔除けや雷除けになっているそうである。
<2003年5月18日、東京都町田市図師町>

小さくてもアヤメの仲間です(ニワゼキショウ)

アヤメ科ニワゼキショウ属ニワゼキショウ(庭石菖)、北アメリカ南東部原産

 
足元に注意していないと踏みつけてしまいそうになる位、初夏の芝地や農道脇などに、何処でも普通に見られる。花は一日でしぼんでしまう1日花だから、いつも新鮮な花をつけている。こんなに可愛らしく背の低い花が「アヤメの仲間ですよ」と言ったて、アヤメと比べて、誰も信用しないことだろう。花を良く見ると6枚の花弁がある。アヤメの仲間は花びらのように見える3枚の蕚と、3枚の本当の花びらの合計6枚で構成されていて、ニワゼキショウもその本質をしっかりと踏襲しているのである。写真は白花だが淡紅色の方が普通である。ニワゼキショウのニワは庭にたくさん見られるという意味での庭で、セキショウは石菖、すなわちサトイモ科ショウブ属のセキショウに葉が似ていることより来ている。別名は「ナンキンアヤメ」と言うが、原産地は中国では無く、明治時代の中頃に北アメリカから観賞用に輸入されたのが、野生化して現在のような何処にでも見られる野の花の一員となった。きっと小さいながらも、たくましい繁殖力の持ち主なのだろう。
<2003年5月20日、横浜市戸塚区舞岡公園>

みんなこちらを向いて咲いてます(タツナミソウ)

シソ科タツナミソウ属タツナミソウ(立浪草)、本州、四国、九州、沖縄

 雑木林の縁のやや湿った所で、花がみな一方向に向いて咲いていて、その名の謂れとなった高波が浜辺に打ち寄せる様に似ている。こんな高波が襲ってくるのは、台風が沖に接近した時だが、台風情報を伝えるテレビ等で、その様が良く紹介されるから想像がつくのではなかろうか。この独特な姿は古くから注目されていたようで、江戸時代には「立浪模様」として図案化されて着物の絵柄に取り入れられて大流行したそうである。きっと大胆な躍動感溢れる生き生きとした文様ではなかろうか。また、陶磁器にもたくさん絵柄として取り入られているとあるから、博物館でも行って探して見たいものである。そう言えば「立浪模様」とは関係は無いと思うが、安藤広重の東海道五十三次にも打ち寄せる立浪が良く書かれていたのを思い出す。タツナミソウは栽培し易いことから山野草の愛好家から親しまれ、漢方としても強壮剤や通経剤として用いられるとあるが、野山で減少する貴重な花だから、是非とも「盗掘」はなされないようにお願いしたい。
<2003年5月18日、東京都町田市図師町>

いつもの所で咲いてます(ゼニアオイ)

アオイ科ゼニアオイ(銭葵)、南ヨーロッパ原産

 図鑑によると春蒔きの二年草とあるが、まるで宿根草のようにいつも同じ所に毎年咲いている。こんなに美しい花なのに、その生命力はとても豊かなのである。しかし、移植を嫌うらしく、直蒔きにしてそのまま栽培するのだとある。また、初夏に一度咲くのだが、秋になっても傷ついた葉をつけながら、また花をつける。しかし、青々とした瑞々しい葉をつけている初夏がゼニアオイの花の見頃だ。ゼニアオイの名の謂れは、花や葉が銭の形に似ているからとあるが「そう言われて見れば、そう思える」という程度で、あまりぴったりした名とは言えない。ゼニアオイは南ヨーロッパ原産で、園芸的に品種改良はほとんど進んでおらず、原種そのままで栽培されているらしい。上記したゼニアオイのしたたかで頑固な性格は、人為的な品種改良を嫌うのかと思うと「あっぱれ」と声をかけたくなる。花言葉は、信念、説得とあるが、何となく頷ける気持ちがする。

<2001年6月23日、横浜市港北区新吉田町>

雑木林のシャンデリア(エゴノキ)

エゴノキ科エゴノキ属エゴノキ(野茉莉)、北海道、本州、九州、四国、沖縄

 
雑木林に普通に見られる樹木で、幹は暗茶褐色で滑らかな樹肌をしているのですぐ分る。薪炭用等に定期的に伐採される所では、数本が株立ちしているのを良く見かける。しかし、何と言ってもエゴノキはその花で、首都圏では5月中旬に満開となる。真っ白の花冠は五裂して垂れ下がって多数咲く様は、初夏の雑木林の美しい風物詩である。また、その実は、未熟な頃は有毒のサポニンを含んでいて、これを砕いて川に流して魚を採る魚毒とされたり、成熟した種子は鳥の餌に使われる。材は粘り強い性格がから鎌の柄などに使われ、心材と辺材の区別がなく白くて削り易いために漆器の木地やこけしなどの木工細工に使われるとある。身近な樹木だが多方面に私たちの生活と密接していて、また、最近では花色の美しい園芸品種も作られて、公園や庭園に植えられるようになった。名前の由来は果皮がえごい(えぐい)ことからつけられたとある。

<2003年5月13日、横浜市都筑区>

野の花の仲間入り(ムラサキカタバミ)

カタバミ科カタバミ属ムラサキカタバミ(紫片食)、南アメリカ原産


 こんなに美しい花を咲かせるのに、その生命力は抜群で、路傍や空き地に遠い昔から野の花であったかのように咲いている。黄色い花をつけるカタバミよりも花も葉もずいぶんと大きい。図鑑によれば暖地の畑や果樹園等で、ムラサキカタバミが侵入してくると完全に除去するのが難しく、農家の方の嫌われ者となっているようだ。そう言えば毎年同じ場所に必ず咲いているのを見ると、その根性は美しいながらもしたたかで、根性者の美少女といっても良いだろう。その秘密は根にあるらしく、たくさんの鱗茎をつけて増えて行く多年草である。原産地は南アメリカで、日本には江戸時代に観賞用として渡来し、関東以西に野生化しているとある。今のところ首都圏では広大な群落は無く、家庭の花壇に植えたものが、ほんのちょっぴり勢力を広げていると言った感じだが、この先どうなるのであろう。広大なムラサキカタバミの群落を想像すると楽しくなる。ムラサキカタバミの仲間は良く似たイモカタバミやハナカタバミがあり、イモカタバミは路傍でも良く目にする。
<2001年6月9日、東京都千代田区岩本町>

上等な蜂蜜が得られます(シロツメクサ)


マメ科シャジクソウ属シロツメクサ(白詰草)、ヨーロッパ原産

 子供の頃は農道や空き地、土手等にたくさんあって、花を摘んで首飾りを編んだことが懐かしい。また、都会育ちの方であっても「幸福の四葉のクローバー」を一度くらいは探したことがあるだろう。実は四葉は奇形で、図鑑によると1枚からなんと10枚の葉を持つものまであるという。シロツメクサはヨーロッパでは代表的な牧草で、その名の由来となったのは、16世紀後半(江戸時代)にオランダからギャマン(ガラス器具)を送る際、品物が壊れないように緩衝材としてシロツメクサが詰め込まれ、それが発芽して野生化したから、白い「詰草」となった訳である。このため別名を「オランダレンゲ」とも言い、そして、赤い「詰草」は後述するアカツメクサである。シロツメクサの花の蜜は上等で、花の開花を追って養蜂業者が全国を移動したと聞いているが、現在はどうなのであろう。何しろ1キログラムの蜂蜜を得るのに、シロツメクサの花が数十万個必要とあるから、働き者のミツバチ君も大変なことだろう。また、夜には葉をたたんで睡眠運動をすることでも知られている。
<2003年5月10日、町田市小山田緑地>

薬草としても重要です(シャクヤク)

ボタン科シャクヤク(芍薬)、中国北部、モンゴル、シベリア東南部、朝鮮半島北部

 日本人なら誰もが知っている「立てばシャクヤク、座ればボタン、歩く姿はユリの花」と美人の例えに用いられている言葉は有名である。ところでボタンとシャクヤクはどこがどのように違うのだろうか。誰しもが思う点、知りたい点で、この写真を植物園で写している時にも、ご婦人連がひそひそと話し合っていた。図鑑によると、ボタンは茎が木質化して冬でも枯れずに残る点が異なっているとある。また、雌しべを囲む花盤がシャクヤクより発達しているともある。そしてシャクヤクは葉が茂ってから花茎を伸ばすためか、花期がボタンより約2週間位遅れるようである。シャクヤクの花の形は、写真のように雌しべ雄しべが見え、花弁が一重や二重のものから、それらが花弁になって八重咲きや獅子頭のようになるものまで様々の品種がある。とシャクヤクは漢字で書くと「芍薬」と薬の字がつくように、紀元前から中国では重要な薬用植物として栽培されていて、その効能はボタンと同様で、鎮痛、消炎、浄血に良く、中風や腹痛等に効果があるとある。
<2003年5月7日、鎌倉市大船植物園>

アザミ属ではありません(キツネアザミ)

キク科キツネアザミ属キツネアザミ(狐薊)、本州、四国、九州、沖縄

 最近、何処へ行ってもたくさん目につくようになったと感じていたが、キツネアザミはかなり古い時代に中国大陸から渡って来た、史前帰化植物であるらしい。こんなに何処でも目に付くようになったのは、田んぼが放置されて湿地化しているためだろう。以前、多摩丘陵で地元の方々と里山と谷戸田を精を出して手入れ管理している方に聞いた話だが、キツネアザミが繁茂する姿は昔ながらの本来の谷戸の姿ではなく、荒れて放置された姿だとおっしゃっていた。しかし、そうは言うもののキツネアザミが群落を作り、真っ白なハルジオンと共に、初夏の陽の中で薫風に揺れている休耕田や湿地は、私たち一般の者にはなかなかの風情として感ずるものである。キツネアザミはアザミとつくが、葉には痛い刺は無く、キツネアザミの花が終わる頃に咲き始めるノアザミとは異なっていて、前者はキツネアザミ属で後者が正真正銘のアザミ属と言う事になる。キツネアザミを見て「アザミが咲いてる」等と言ったら、藪の中で昼寝中の狐が大笑いすることだろう。
<2003年5月3日、東京都町田市小野路町>

木漏れ日に黄金に輝きます(キンラン)

ラン科キンラン属キンラン(金蘭)、本州、四国、九州

 雑木林の梢が伸展した緑の葉に塞がれる頃に咲き出す。薫風に揺れる梢と太陽の日周運動によってキンランに木漏れ日が当たる時、黄金色に輝いて咲いている姿にはっとする。野生ランは愛好家に大人気で、遠くから業者が盗掘に来るのだと言う。この為、私の知っているフイールドでは、咲き出すと目立つので花を茎から採ってしまうという所があり、また、ある場所ではアズマネザサ等を切って来て、キンランを隠してしまうのだと言う。図鑑によると根が深いために簡単には掘り出せず、また、庭に植えても栽培がとても難しいとある。「野の花は野にあってこそ美しい」と誰かが言っていたように思うが、もういいかげんにして欲しいものである。キンランと言えばギンランを思い出すが、ギンランもキンランと同じ時期に、また、同じような場所に咲くので、自然環境の良い里山では同所で同時に見られることも多い。どちらも固まって群生することは無く、コナラやクヌギ林の下草が刈られて管理された林床に、ポツリポツリと咲いている場合が多い。
<2003年5月3日、東京都町田市多摩丘陵>

花色は変幻自在です(イカリソウ)

メギ科イカリソウ(錨草)、北海道西南部、本州、四国、九州

 首都圏の雑木林では少なくなったが、農家の庭先や山野草が好きな方の庭に良く見られる。新潟県の里山ではごく普通に見られ、花の色も白、桃、紅色と色取り取りな株が同じ場所で咲いている。その名の由来となった錨のような花の形と、4枚のがく片と4枚の花弁からなる独特の形は、見間違うことは無い野の花である。また、別名を「三枝九葉草」と言うらしく、これは葉の柄が三つに分かれ、そこに三枚の小葉が着くので3枝×3葉で合計9葉となり、そのような特長の草と言う意味で名付けられたとある。また、イカリソウは疲労回復、滋養、強壮の漢方としても知られていて、乾燥させて焼酎に漬けるか、煎じて飲むとあるので試してみる価値がありそうだ。イカリソウの仲間は我が国では約12種類にも上り、中国地方より西の地方では錨のような花の形ではなく、また、葉も丸みを帯びて白い花のバイカイカリソウや、北国や日本海側の山地では黄色い花のキバナイカリソウ、やや大型で冬にも枯れないトキワイカリソウが等があるそうだ。
<2003年5月5日、新潟県南魚沼郡堀之内町>

日陰に咲いてる美人です(イチリンソウ)

キンポウゲ科イチリンソウ属イチリンソウ(一輪草)、本州、四国、九州

 図鑑で調べていたらイチリンソウは春の花壇を彩るアネモネの仲間で、その気品溢れる姿に、どうりでと納得させられた。花弁に見えるのは実は「がく片」で、我が国固有の花とある。学名は栃木県の日光が織り込まれているという。イチリンソウはニリンソウと同じような肥沃で湿潤な雑木林の半日陰になるような北斜面に咲いていて、ニリンソウのような大きな群落を作ることなく、ポツリポツリと咲いている場合が多いものである。多摩丘陵で私と同じように花の写真を撮っておられる方が「あそこに咲いているのは、少し紅色を帯びているでしょう」と言っていたが、場所によってはがく片の裏面が淡い紅色を帯びるものがあり、このため「ウラベニイチゲ」という別名もある。漢字で書くと「裏紅一華」で、一華とは一輪ということなのだそうである。春の初めにひっそりと咲くイチリンソウ、ある本によると「花も草も寿命が短いので、出会いたいならくれぐれも時期を逃さぬように」と書いてあるが、ほんとうにそう感じさせる他には無い気品溢れる花である。
<2003年4月22日、東京都町田市小野路町>

春のお墓参りにぴったりです(キンセンカ

キク科キンセンカ(金せん花)、南ヨーロッパ原産

 花だって好き好んでそうしている訳ではなかろうが、春のお彼岸にはキンセンカ、お盆や秋のお彼岸にはヒャクニチソウが、お墓に手向けられる花となっている場合が多い。ヒャクニチソウは百日草で、とても花期が長いことを意味しているが、キンセンカも属名がカレンデュラと言い、ラテン語で「一年中」という意味で、長時間花が持つことから来ているとある。ヒャクニチウと同じと言うわけである。私たちはお墓参りに毎日来れないのだから、いつまでも萎れず、故人を慰め続ける花が良いのは当たり前のこと。しかし、茶室には飾ってはいけない花となっているらしく、これは千利休が切腹する時にキンセンカを飾ったことから来ているのだとある。また、イギリスではシェイクスピアの時代から「マリーゴールド」と呼んでいるらしく、これは「聖母マリアの黄金」という意味で、マリア様になぞらえたものとある。写真のキンセンカは「中安」という品種で、この他、花が小型のものや花色が黄色のものもあり、その暖かい色合いが聖母マリア様の慈愛を感じさせるのだろう。
<2003年4月23日、神奈川県大船植物園>

幸福を運ぶ小さな鐘(スズラン)

ユリ科スズラン属スズラン(鈴蘭)、北海道、本州、九州

 鈴蘭と蘭の字がつきますがユリ科の植物である。雪が溶けて木々が芽吹き、遅い春がやって来た北国や高原の喜びを表わすかのように、小さな白い釣鐘が囁き合うがごとくに一株にたくさん咲いています。フランスでは「聖母の涙」と称され、5月1日にスズランを送ると、送った相手に幸せが訪れるとされています。また、花言葉は「幸福を取り戻す」ということですから、精神的に苦しまれている方に送ってみたら大変喜ばれることでしょう。また、その可憐な姿から「純愛」という花言葉もあって、誰もが納得できる青春のシンボルのような花です。しかし、こんなに可憐で美しく幸福だとか純愛だとかに結びつく花だというのに、有毒植物で、特にその毒は花に最も多く含まれているとある。スズランを花瓶に差しておいて、その水を飲んだことによって死亡事故が起きた例があるという。属名のConvallariaは「谷間の百合」を意味していて、種小名はkeiskeiで、シーボルトから植物学を学んだ、我が国最初の理学博士である伊藤圭介博士に由来するとある。
<2000年5月29日、栃木県藤原町中三依>

提灯下げて咲いてます(クマガイソウ)

ラン科アツモリソウ属クマガイソウ(熊谷草)、北海道南部、本州、四国、九州

 かつては「竹林の陽の当たるような場所にたくさん見られた」と多摩丘陵で古老が話していた。しかし、現在では雑木林の管理放棄は言うに及ばず、クマガイウのみならずキンラン、ギンラン、エビネ等の野性蘭は、その独特な美しさから盗掘が絶えず、雑木林の小道を歩いているだけでは見つからない状況となっている。「クマガイソウは気難しい花だから、盗掘して庭に植えても枯れてしまうのにな」とやはり多摩丘陵の古老が話していた。クマガイソウはアツモリソウと近縁だが、両者の花は平家物語の「一の谷合戦」で戦った熊谷直実と平敦盛に因んで名付けられたとある。クマガイソウやアツモリソウの独特な袋のような花弁が、弓矢を防ぐ防具である「母衣」に似ているためらしい。また、熊谷直実は年配であるため、木陰にひっそりと咲くクマガイソウに、平敦盛は紅顔の美少年であったため、草原で紅紫に鮮やかに咲くアツモリソウに当てたのだという。たかが野の花の命名だが、こんな古の物語を背負っていると思うと、すごい親しみが湧いて来て嬉しくなる。
<2002年4月23日、神奈川県多摩丘陵>

垣根も通って咲いてます(カキドオシ)

シソ科カキドオシ(垣通)日本全土

 生命力豊かな植物で垣根を通り越してまで繁殖する様が、その名の由来となった。茎は四角形で、初めは茎が立ち上がって花を付け、花が咲いた後は垂れて長くつる状に伸び、垣通の本領を発揮する。漢方薬として良く知られていて「カントリソウ」と呼ばれるように、乾燥してお茶として服用すると子供の癇の虫を静め、また虚弱体質の改善にも効果があるそうだ。カキドオシの花を良く見ると赤紫の斑点が良く目立つが、これは私たちの目を楽しませてくれるためにあるのではなく、昆虫を呼び寄せるためのもので、専門的には「蜜標」と呼ぶそうである。こんな目印に昆虫は誘われて花びらに止り、花の奥にある蜜線に身体ごと突っ込んで蜜を吸い、カキドオシの受粉を助ける訳である。昆虫は甘い蜜をもらう訳だから互いに利益があるわけだが、そんなことは昆虫もカキドオシも知っているわけではない。しかし、ダーウィン流に突然変異が淘汰されてそうなったのだと考えるではなく、カキドオシの効率の良い子孫繁栄のための意思がそうならしめたと考えたい。
<2003年4月19日、神奈川県愛川町八菅山>

一重のタンポポではありません(ジシバリ)

キク科ジシバリ(地縛)、日本全土

 田んぼの畦などやや湿気のある肥沃な土地に見られるが、乾燥した栄養分の無い裸地にも逸早く侵入するパイオニア精神旺盛な植物であると言う。その生育適合範囲はとても広いようだ。走出枝(ランナー)が節ごとに出て、次々に株を増やして行く「ほふく植物」であることが、その強さの秘訣なのだろう。このため農家の厄介者の害草でもあるという。花の色は黄色で、何となくタンポポを一重にしたように見えるが、よく見ると何処か違うことにすぐ気づくはずだ。まず葉は小さなスプーンの匙の部分をたくさんつけたように見え、茎も糸状で弱々しい。そんな訳で春のそよ風に良く揺れている様はすがすがしい。場所によっては一面に群生している所もあって、走出枝が地面を縛り付けるかのようなのでジシバリ(地縛)と名が付いたらしい。ジシバリの花は雨の日や曇りの日には開かず、太陽が昇ってくると開き始め、夕方になるとしぼんでしまうという睡眠運動を繰り返すとある。茎を折ると白い乳液が出て手につくとべとべとし、やがて黒く変色する。
<2003年4月27日、静岡県富士郡芝川町>



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