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下野の国だけではありません(シモツケ)
バラ科シモツケ属シモツケ(下野)、本州、四国、九州、朝鮮半島、中国
梅雨時に雑木林や公園の小道を歩いていると、一際鮮やかな薄紅色の花に出くわす。アジサイの花をミニチュアにしたような印象を受けるに違いない。多数集まった花に霧雨が降りて、やや長い雄しべに小さな水玉が現われ、かすかに日が射して来ると水玉が光り輝いてとても美しい。一見すると草本植物かと思われるが、れっきとした落葉低木である。シモツケはバラ科の植物で、ウメやサクラと同じだから、小さな花をよく観察すると花弁もがく片も雄しべも5個である。その名のシモツケは下野の国(栃木県)のことで、下野産のものが古くから栽培されていたことより来ている。シモツケの花はとても美しいので、庭園や公園にも植栽され、鉢植えで楽しんでいる方もあるようだ。花色は野生のものでは薄紅色がもっとも普通で、紅色、濃紅色、まれに白色と変異が多く、民家や公園には白色のものも数多く植栽されている。外に出るのが鬱陶しくなる霧雨が降ったりやんだりする時に、一度は傘をさして、シモツケ咲く公園や雑木林の小道を散策して欲しい。
<2003年6月10日、神奈川県秦野市弘法山>
ホタルを入れて遊びました(ホタルブクロ)
キキョウ科ホタルブクロ属ホタルブクロ(蛍袋)、本州、四国、九州
科名を見ると分るように、紫色のキキョウの仲間である。ホタルブクロの花色を紫にして切れ込みがもっと深くなったらと想像すると、確かにキキョウの花になる。ホタルブクロはホタルが山野に飛ぶ頃に花開く。その名のおこりは、子供達がホタルを捕らえてこの花に入れて持ち帰ったり、この花にホタルを入れて遊んだりしたことから名付けられたというのが一般的だ。また、花の形が火垂る袋(提灯)に似ているから名付けられたという説もある。この独特な花の形は印象的だから各地に様々な呼び名があって、チョウチンバナ、ツリガネソウ、トックリバナ等と呼ばれている。やや山地に行くとホタルブクロの変種で、がく片が膨らんでいるヤマホタルブクロが見られる。ホタルブクロはがく片がむしろへこんでいるように見えるので、慣れれば簡単に見分けがつく。最近、植物園や公園の花壇でカンパヌラ・メディウム(フウリンソウ)という花を良く見かけるが、ホタルブクロと極々近縁の花である。花弁の先が丸く丸まり、ホタルブクロのように垂れ下がることはない。
<2003年6月10日、神奈川県秦野市弘法山>
日本の梅雨の名花です(アジサイ)
ユキノシタ科アジサイ(紫陽花)、日本原産
雨がしとしと降る中で、あるいは霧雨がむせぶ中で、あるいは雨上がりの中で見るアジサイは美しい。しかも、花期が非常に長く、梅雨の間中私たちの目を楽しませてくれる。アジサイの花言葉は「移り気」だとある。なぜならアジサイは、別名を七変化と呼ばれるように花色が変化するのである。はじめは薄緑色、次に白色、そして紅色を経て紫色に変化するからである。しかし、私たちが見頃と感ずるのは紅色から紫色の頃である。最もこの色の変化は普通のアジサイの場合で、日本在来のものが18世紀末に海を越えてから品種改良によって各種の花色は勿論のこと、花形まで多種多様となっている。もともとアジサイは南関東、伊豆半島、伊豆諸島に自生していたガクアジサイからの変種と考えられていて、私たちが花弁と思っているのは実はガク片で、本当の花は小さく退化しているとある。英名は「Otakusahydrangea」と言うが、このOtakusaとは、あの有名なシーボルトが長崎の出島のオランダ屋敷で愛した女性「お滝さん」より来ている。
<2000年6月26日、東京都町田市薬師池公園>
とっても雄しべが長いです(ビョウヤナギ)
オトギリソウ科オトギリソウ属ビョウヤナギ(未央柳、美容柳)、中国原産
庭園や公園等に普通に植えられていて梅雨空に似合う花である。中国から渡来したものだが、古くから植栽されていたらしく、日本各地で顔なじみな花となっている。ビョウヤナギとは面白い名前であるが、ビョウとは美しいと言う意味らしい。国語辞典で和名に付く「美容」という言葉を引いてみたが、美しいという意味は無く、美しく整えるという意味となる。ビョウヤナギのヤナギとは写真を見て頂ければ分るように、葉が柳に似ているからである。だからきっと、美しく整えられた花を持つ、柳に似た葉の植物となるのであろう。しかし、何と言ってもビョウヤナギの特長は長い雄しべで、図鑑によると、30から40個づつが5つの束になっているとある。そうすると一輪の花での雄しべの総数は、150本〜200本となるのだから凄い数となる。しかも、その長さがとても長いのである。こんな花は他にあるのだろうか? そしてその真ん中に、先端が可愛く割れた雌しべがある。写真は真上からだが、真横から見た姿も美しく、ぜひ一度湿度の多い日に近づいて観察して欲しい。
<2000年6月15日、神奈川県鎌倉市大船植物園>
夏枯れ草です(ウツボグサ)
シソ科ウツボグサ属ウツボグサ(靭草)、北海道、本州、四国、九州
梅雨の間に咲く野の花と言えばホタルブクロやオカトラノオ、ネジバナ等をすぐに思い出すが、日当たりの良い田んぼと雑木林の境の、いつも草刈が行われる草地に咲くウツボグサも忘れられない存在である。ウツボとは変な名前だが、海に居る恐ろしいウツボから来ているのではなく、昔の武士が弓矢の矢を入れて持ち歩く筒状の容器「靭」から来ている。また、ウツボグサは別名を「夏枯草」とも言い、夏になると花穂全体が黒くなって枯れ、そのままの状況でしばらく残っているから名付けられた。また、ウツボグサは薬草としても古今東西で知られていて、学名はドイツ語の扁桃腺炎から来ていて、英名は自ら癒すと言う意味でのセルフフィールと言うのだそうである。もちろん日本でも漢方として重要で、カゴソウと呼び、利尿、抗菌、消炎に効果があるとされている。こんなに薬効が優れているとは言え、首都圏平地では数が少なくなっているので大切にしたい野草である。最も夏に高原に出かけると、実に素晴らしい群落に出会うことがある。
<1999年6月15日、東京都町田市図師町>
晴れては風情がありません(ハナショウブ)
アヤメ科ハナショウブ(花菖蒲)、日本、朝鮮半島、中国北部、シベリア
日本人はハナショウブが大好きなようである。各地にある植物園や庭園には広大な色取り取りのハナショウブが咲き乱れる。このような場所を、ただ単に「菖蒲園、菖蒲田」と呼び、ショウブと言えばハナショウブのことを指しているかのように思われている方も多いはずである。しかし、本当の「ショウブ」とはサトイモ科の植物で菖蒲湯に使われるものである。ハナショウブは中部地方以北に自生するノハナショウブから品種改良されたもので、その改良の歴史は古く、平安時代にはすでに観賞用とされていたとある。本格的な品種改良は江戸時代に入ってからで、最初は江戸を中心に品種改良がなされて、次いで肥後藩、伊勢藩でも熱心に改良され、それぞれの系統を「江戸ハナショウブ」「肥後ハナショウブ」「伊勢ハナショウブ」と呼び、また、近年ではアメリカでも品種改良されて逆輸入されていると言う。こんなことを頭に入れて様々な花の形、花の色を楽しみながら菖蒲園を歩くのも楽しいに違いない。花言葉は、伝言、優しさ、信頼、優遇とあるがどうしてだろう。
<2000年6月15日、神奈川県鎌倉市大船植物園>
梅雨空にも光ってます(キンシバイ)
オトギリソウ科キンシバイ(金糸梅)、中国原産
ビョウヤナギに似るが漢字で書くと金糸梅で、梅の字が付くように花弁は丸みを持っていて、ふくよかな感じを受ける。しかし、雄しべの数はビョウヤナギに負けておらず、約60本が5つの束になっているというから、一輪で総数が何と300本と言う物凄い数となる。しかし、その長さはビョウヤナギに比べて短く花弁の中に上品に納まっているので、同じ仲間の花とは言え、ずいぶん異なった感じを受ける。しかし、花弁の大きさが大きいから、たくさん咲いていると眩しい程で、梅雨時に多い曇天の中でも鮮やかに自己主張している。ビョウヤナギにしてもキンシバイにしても、こんなに特長のある花だから、科名になっているオトギリソウとは一体どんな花だろう。オトギリソウとは草本植物で、夏に土手や畦で花咲かせる野草である。図鑑を見て頂ければ分るが、やはりビョウヤナギやキンシバイに似た花色と格好である。オトギリソウ科の仲間は草本植物が多いとあるから、ビョウヤナギとキンシバイは、例外の常緑の低木ということになるのだろう。
<2001年6月10日、東京都町田市薬師池公園>
近頃、野の花の仲間入り?(オオテンニンギク)
キク科ガイラルディア属オオテンニンギク(大天仁菊)、北アメリカ西部、ニューメキシコ原産
最近、オオキンケイギクが見られるような空き地に、ルドベキア等と一緒に見られることが多い。このような荒地や空き地に繁茂する花を、植物園等ではワイルドフラワーというジャンルに分けていたと思う。オオテンニンギクは、真っ赤な真ん丸な花に黄色い縁取りがあるという洒落な花である。こんな柄のスカートがあったように思えるがいかがだろう? オオテンニンギクは明治時代に渡来したもので、原産地は北アメリカ西部、ニューメキシコとある。そう思うと昔はやった西部劇に、このような格好と柄の帽子を被ったメキシコ人が出て来たように思う。英語名はblanket flower、直訳すると毛布の花となる訳で、強い繁殖力で大地を覆うように広がることから名付けられたとある。オオテンニンギクは植物学上では宿根性多年草だが、園芸的には一年草として扱われていて、種子は園芸店で袋に入れられて売られている。このような性格から日本の原っぱで逞しく花咲くのも頷ける。なお、花言葉は「協力、団結」とあるが、的を得たものではなかろうか。
<2001年6月10日、東京都町田市薬師池公園>
眩しくて見ていられません(オオキンケイギク)
キク科オオキンケイギク(大金鶏菊)、北アメリカ原産
初夏から梅雨にかけて道路わきの空き地や斜面等で、真っ黄色に咲いている花の群落を目にする。たくさん咲いている場所に近づくと、まるで目がチカチカする眩しさを感ずる。なにしろ花弁も花芯も真っ黄色なのである。図鑑によると、このような野の花の仲間入りをしたかのような群落は各地に広がっていて、オオキンケイギクは秋のセイタカアワダチソウ等と同様に、日本の原風景を変えつつある植物と評されている。オオキンケイギクは、明治の中頃に観賞用として北アメリカから渡来し、主に花壇に植えられていたものが逃げ出し、戦後急速に勢いを増したとある。このような植物を逸出帰化植物と言うのだそうである。しかし、幸か不幸かは別として乾燥した場所を好むために、田んぼが広がる場所や雑木林の谷間の中には見られない。このような繁殖力の強い外来種は、世界共通の都市化という波の中で栄えているものが多く、日本在来の野の花のためにも、そのような状況の中でしか繁茂することの出来ない植物であり続けることを祈りたい。
<2001年5月20日、東京都町田市野津田公園>
朝露の精と思いませんか(ツユクサ)
ツユクサ科ツユクサ属ツユクサ(露草)、日本全土
徳富蘆花のみみずのたはごとの中に「花では無い、あれは色に出た露の精である」とあるとある。さすが明治の文豪、研ぎ澄まされた感性の持ち主である。梅雨に咲く花はたくさんあるが、青紫の花弁に朝露や霧雨が着いて、そこに陽が指して来て逆光に透かして見る花弁の美しさは、この上も無い爽やかな美しさである。ツユクサは単子葉植物だから、花の各部は3を基本の数としているはずだが、どうみても花弁は2枚にしか見えない。実はもう1枚あるのだが白色で小さく、包葉の中に隠れて見えないのである。しかし、そうであるから、2枚であるからツユクサは清楚で美しいのだ。ツユクサの花の汁は、遠い昔から友禅染の下絵を書く時に重宝された。それは水に弱くて洗うと直ぐに消えてしまうからである。このためツキクサ、着色のための草とも呼ばれ、「つき草の移ろいやすく思へかも、わが思う人の言告げこぬ」と万葉集にあり、儚く水に消えるツユクサの着色のように、言葉もかけてくれなくなったかつての恋人の心変わりを悲しんでいる歌である。
<1999年7月18日、山梨県北巨摩郡敷島町>
風に揺れる欧州生まれの粋な奴(ヘラオオバコ)
オオバコ科オオバコ属ヘラオオバコ(箆大葉子)、ヨーロッパ原産
最近ではかなり標高の高い林道等でも見られるようになった、人が歩く所には必ず見られる生命力溢れる雑草であるオオバコは日本の自生種だが、ここに紹介するヘラオオバコはヨーロッパ原産で江戸時代の末期に日本に渡来したとある。しかし、日本のオオバコと同様にその生命力は強いようで、またたく間に全国に広がって荒地や土手等で見られるようになった。その名に付く「ヘラ」は、葉が細長いヘラ状であるためで、花穂は非常に長く肥沃な土地に生えているものだと30cmは超えるものまである。この細長い花が初夏の爽やかな風に揺れている様は美しく、道端の雑草と言えどもこんな野趣が愛されてか、生け花や茶花に良く使われると言う。花は下部から咲き上がって行くので、写真はやや花期を過ぎた頃のものである。ヘラオオバコの花で印象的なのは白い玉を端に持つ長い雄しべで、上から見ると放射状に出ていて多くの雄しべで円形を作る。オオバコは食用、薬用として有名だが、ヘラオオバコにもそのような用途があるのだろうか。
<2001年6月9日、東京都東京港野鳥公園>
草の牛乳と呼ばれています(コンフリー)
ムラサキ科コンフリー、コーカサス地方原産
畑が続くフィールドを歩いていると、一際大きな緑の濃い葉を持っている植物に出会う。別に畑で栽培しているようには見えず、畑の片隅に放っておかれるいる。一見して外国産の植物だと想像がつくが、花はとても可愛いい薄紫色の釣鐘状をしていて印象に残る。図鑑を開いて見ると、ヨーロッパでは「草の牛乳」と呼ばれる程に各種の栄養素を含み、我が国でも健康野菜として注目されているコンフリーである事が分った。コンフリーは別名を「ヒレハレソウ」および「ロシアムラサキ」と呼ばれ、コーカサス地方原産の植物である。日本には根がジャガイモのようになるので、戦前に家畜の飼料として輸入されたが定着しなかった。葉にはビタミンB2を特に多く含み、滋養強壮、疲労回復、胃腸病に効果があると言う。その食べ方は、生ジュース、おひたし、テンプラ等で、若葉を用いるのが良いようである。荒地のような場所でも土地を選ばず生育するとあるし、虫がついたり病気になったりしない手間のかからない野菜だから、今後、大いに見直されるに違いない。
<2000年5月21日、東京都町田市小野路町>
丘の小道に咲いてます(ウンシュウミカン)
ミカン科ミカン属ウンシュウミカン(温州蜜柑)、関東地方以西
若い人には笑われるかもしれないが「ミカンの花咲く丘」という曲を聞くと懐かしさで一杯になる。「ミカンの花が咲いている。思い出の道、丘の道。遥かに見える青い海、小船は遠く霞んでる」という歌詞だったと思う。やっぱりミカンは海が見える小高い丘が良く似合う。橙色にたわわに実ったミカンが秋の斜光を浴びているのも美しいが、カラタチよりだいぶ遅れて咲く白い花をたくさんつけている初夏も美しい。今日本で栽培されているのはほとんどがウンシュウミカンで、江戸時代の初期に中国から鹿児島にもたらされたミカンの一種の種から作出されたものであるという。ミカンと言えば紀伊国屋文左衛門を思い出すが、当時のミカンは紀州ミカンで、今でも和歌山に僅かに栽培されていて、味もなかなか良く、特に香りはウンシュウミカンの比ではないと言う。しかし、その大きさや形、果汁の多さ、更に紀州ミカンが12月末でないと食べられないのに、一月以上も前に食べられるのも魅力で、明治維新になると鹿児島のウンシュウミカンが天下を取った。
<2002年5月23日、神奈川県秦野市弘法山>
金平糖の蕾が可愛いです(カルミヤ)
ツツジ科カルミヤ(亜米利加石楠花)、北アメリカ原産
カルミヤの花を見た時、一体この花は何の仲間の花なのだろうかと思った。葉は常緑で花弁はぱりぱりとして硬そうだし、花の形も独特なのである。しかも、蕾がお菓子の金平糖のような格好で、それがたくさん付いていて次々に花開くのだから不思議である。図鑑を調べてみるとツツジ科の植物で、別名を「亜米利加石楠花」と書いてある。また、独特な花の形から「花笠石楠花」とも言うそうである。そう分ると、シャクナゲに似ているなと感じる。花の色は各種あって白や桃色が多いものの、濃い赤色の花は毒々しい程の色合いを感じさせる。そんな風に思っていたら、図鑑にアセビと同じような毒があって、アメリカインディアンは、この木の樹液を川に流して魚を捕ったとある。日本ではこの用途にエゴノキの果実を砕いて用いたが、毒を流して魚を捕るという手法は、人類に普遍的な漁法であることを知った。最近、各所で見かけるようになったが大変丈夫で、実生、接木、取り木等で簡単に増やせるというから、ますます人気が出て来るこ
だろう。
<2001年5月26日、東京都あきる野市深沢>
ホトトギス早も来鳴きて夏が来た(ウツギ)
ユキノシタ科ウツギ(空木)、北海道、本州、四国、九州
最近、開発が進んで遠い昔の御伽噺のようになってしまったが「卯の花の匂う垣根で、ホトトギス早も来鳴きて、忍び音漏らす、夏は来ぬ」と歌にある。卯の花はウツギのことで、歌詞のように良い香りがするわけではなく、「匂う」とは、こぼれんばかりに花を付けて咲いている様を言ってるようだ。ついでに「ホトトギス」について調べてみると、日本に夏に渡ってくる夏鳥で、日本にはホトトギスの仲間が4種類渡って来て、ツツドリ、ジュウイチ、カッコウ、ホトトギスの順にやって来るのだとある。ホトトギスは一番最後な訳で、5月下旬とあるから、ウツギの花が満開になる頃と一致する。ウツギの名は、卯月(旧暦4月)に咲くから、材の芯が空洞になっているから名付けられたとある。関東地方では畑の境界線に列になって植えられている事が多く、これは根から不定芽が出にくく、畑では種子が容易に発芽しにくく、さらに刈り込みに強い等の特性から植えられているのだという。ウツギと名が付くが、ハコネウツギ等とは異なったユキノシタ科の落葉低木である。
<2002年5月18日、東京都町田市図師町>
赤い詰め草です(アカツメクサ)
マメ科シャジクソウ属アカツメクサ(赤詰草)、ヨーロッパ原産
四葉のクローバーで有名なのはシロツメクサだが、それに対して薄紅色の花をつけるからアカツメクサまたはムラサキツメクサと呼ばれている。花期は5月から8月と長いが、シロツメクサよりやや遅れて開花する。葉には微毛が密集しているようで、霧雨が葉の上で丸まって水滴となって光っている様は美しい。アカツメクサは別名をオランダウマゴヤシと言うように、シロツメクサに遅れて明治初年に牧草として北海道に持ち込まれ、牛の飼料に用いられたことは言うまでも無いが、土地の改良にもはなはだ多く寄与したようである。日本にはツメクサの仲間は少ないが、ヨーロッパでは何と約400種類もあり、それぞれ牧草として牛馬の飼料になっており、一面に続くツメクサの田園風景が見られると言う。シロツメクサは茎を地面に這わせるが、アカツメクサは直立させるので踏みつけには弱いとあるから気遣ってあげよう。また、最近では白花もあるストロベリーキャンドル、別名ベニバナツメクサという大型のツメクサも植栽されていて、たくさん植えられていると実に見事である。
<2001年6月12日、神奈川県足柄上郡大井町>
黄色い汁は有毒です(クサノオウ)
ケシ科クサノオウ(草黄)、北海道、本州、四国、九州
低山帯の山裾や人家の近くで、やや日陰になるような所に生えているのだが、その真っ黄色ともいえる鮮やかな花色から人目を引く。しかし、葉や茎を傷つけると黄色の乳液が出て、この乳液にはケリドリン、プロトピン、サングイナリンなどの有毒なアルカロイドが含まれている。このため乳液が皮膚につくとかぶれを起こし、間違って誤食すると胃腸の粘膜のただれや呼吸麻痺を起こすとある。このような植物の毒性は薬用として利用されるものだが、かつては胃痛や腹痛に用いられたようだが、危険性が高くて最近では使用されなくなったとある。そんなにまで毒性の強い植物であったのかと驚いたが、フィールドへ出向くと普通に見られる。しかし、そう言えば、あまり昆虫が食べた跡を見たことが無い。ツタウルシ等もたくさん見られるが、こちらもいつもピッカピカの葉のままであることが多い。アオスジアゲハは防虫剤の樟脳を採るクスノキを食べるように、毒があるから昆虫は食べないとは言い切れないものの、虫も食わぬものはやはり要注意なのだろう。
<2001年5月20日、東京都町田市薬師池公園>
みすぼらしいけど重要です(イボタノキ)
モクセイ科イボタノキ属イボタノキ(疣取木)、北海道、本州、四国、九州
もうすぐ梅雨入り、あるいは6月と感ずる頃、雑木林の日当たりの良い林縁で白い花が咲き出す。決して見栄えの良い木ではないし、それ程美しい花ではないし、匂いも御世辞にも良いとは言えなものの、雑木林を構成する大切な樹木で、特に昆虫とは縁が深い。こんなこともあって、昆虫に興味の無い人たちには雑木扱いされ、里山管理おいても刈り取られることも多い。しかし、イボタノキの生命力は旺盛で、刈り込まれても直ぐに回復する。このためか、地方によっては生垣に利用している所もあるそうだ。しかし、昆虫に興味を持っている者にとっては大切な木で、ウラゴマダラシジミという羽の表が青紫色の蝶の幼虫の食樹である。ちょうどイボタノキが花咲く頃に発生するので、大きなイボタノキがあれば付近を飛んでいることだろう。また、桜の花の咲く頃に発生する大型の蛾、イボタガの幼虫の食樹でもある。この他、枝が真っ白に綿のような物に覆われていたら、イボタロウカイガラムシの出したロウで、これは漆器の艶出しに使われるという。
<2003年5月28日、横浜市青葉区寺家町>
最も身近な薬草の王様です(ドクダミ)
ドクダミ科ドクダミ属ドクダミ、本州、四国、九州、沖縄
毒と付くから子供の頃は何となく恐ろしくて近寄りがたかったが、その素晴らしい正体を知るにつれ、ドクダミという名に重厚さを伴った風情溢れるものを感ずるのだから不思議である。まずは漢方としての効能だが、ジュウヤク(十薬)と呼ばれるように様々な効果効能があり、乾燥して煎じて飲めば、脚気、急性腎炎、むくみ、高血圧に、生の汁が腫れ物の炎症に、塩もみしたものは虫刺され、あぶったものは水虫、たむしに効くと言う。子供の頃、おできが出来ると祖母が葉を揉んで張ってくれたが、腫れ物の毒を吸い出す「毒を溜める」がその名の謂れとなったとある。しかも、ドクダミは中国では煮ると臭みが取れるので食用として使われ、花が美しいのでヨーロッパでは観賞用に親しまれているという。何処にでも有り、一度生えるとその駆除に厄介で強靭なドクダミだが、その効能はとても十役どころでは納まらない。最後に北原白秋が「どくだみの花のにほいを思うとき、青みて迫る君がまなざし」と歌っていると言う。梅雨時の忘れられない野花である。
<2003年5月24日、神奈川県城山町葉山島>