第2章…四季の花を撮る

■早春の花を撮る

































首都圏ではお正月が過ぎるとソシンロウバイや少し遅れてロウバイの花が咲き出します。そしてマンサクや梅やサンシュユ、ツバキ、ミツマタ、ネコヤナギなどの花が咲いて、桃の花まで各種の花木の花が咲き競います。このような花木の花の撮影には、背の高い三脚が欲しくなります。また、一方ではスイセンやフクジュソウ、クロッカス、ビオラ、スノードロップなどの花壇の花、郊外へ出かけるとフキノトウやオオイヌノフグリ、ヒメオドリコソウやホトケノザ、遠くへ旅すればセツブンソウ、ザゼンソウなどの野の花が咲いて、背の低い三脚が欲しくなります。このためカメラバックの片隅に、ローアングル専用のミニ三脚とアングルファインダーを忍ばせておくと大変役立ちます。この季節は気温は低く野外に出るのが億劫になりがちですが、しっかりと防寒対策を考えて行動すれば、とても楽しい一日となります。特に梅は種類も多く花期も長く花の写真を会得するには最適な花ですので、じっくりと腰を据えて撮影しましょう。

■春の花を撮る

































ツクシが芽を出しナノハナが一面に咲き、桃の花が咲き終わると春本番です。チューリップやヒヤシンス、アネモネやアイスランドポピー、スノーフレーク、ラッパスイセン、そして木の花では何と言っても各種の桜ですが、ナシやカリン、リンゴといった果実のなる木等、ぞくぞく花の世界の大物が登場して、花の写真撮影のピークを迎えます。今まで褐色一色に塗り込められていたフィールドは緑に変わり、様々な背景を選んで撮影できます。また、ピンクや黄色の花を前ボケに入れて、ふんわりとした春らしい作品に仕上げるのも、この季節ならではの醍醐味です。また、野の花も様々なものが咲き競い、特に水田の畦に咲くレンゲソウやケキツネノボタン、タガラシ、ハルジオン、ムラサキサギゴケなどを、水面反射の玉ボケの中に写し止めるのにも絶好の季節です。その他、花ではありませんが、各種の樹木の芽吹きや若葉を撮影するのも楽しいものです。

■初夏の花を撮る

































ゴールデンウィークに入ると、木の花では色とりどりのツツジ、花壇の花ではボタンやシャクヤク、アイリス、ハナビシソウなどが咲き競い、バラやフジ、キリなども開花します。この頃、雪深い信州や新潟県などへ出かけると、首都圏では希少種となっているカタクリが一面に咲いています。また、場所によってはミズバショウも見事で、ミヤマカタバミ、エンレイソウ、キクザキイチゲ、オオバキスミレ、イワカガミ等も見られます。野の花では可憐なニワゼキショウやアカツメクサなどを、地面すれすれのローアングルで撮影すると良いでしょう。雑木林では、シャンデリアのように無数に白い花が垂れ下がるエゴノキは見逃せない被写体です。この他、ヤマボウシやハコネウツギ等も見られるでしょう。また、各種の野菜の花、サヤエンドウやネギ坊主などにも積極的にカメラを向けてみましょう。5月一杯はからっとした晴天が続きますから、爽やかな青空に抜いて作画するのも一法です。

■梅雨の花を撮る

































梅雨の季節の花と言えば何と言ってもハナショウブやアジサイでしょう。ことにアジサイは花期が長く各種の花形や色合いがあって、風景的なものからクローズアップ、カタツムリや昆虫などを入れた撮り方など、様々な作品を手にすることが出来ます。この頃の花としては、木の花としては黄色いビョウヤナギ、キンシバイ、良い香りのする純白のクチナシ、花壇の花としては何と言っても、すっと背の高いタチアオイでしょう。また、野の花としては、ホタルブクロ、ウツボグサ、ユキノシタ、ドクダミ、ネジバナなどが挙げられます。それぞれが独特の雰囲気を持っていますので、それぞれの花の持つ風情を大切にした作画が大切です。また、この頃になると太陽の光も相当強くなり、晴れの日は陰影のはっきりとした写真となってしまい、気温も上がりますので身体もバテてしまいます。このため雨では困りますが、曇り日の方が梅雨の花としての情緒溢れる写真がものに出来ます。特に雨上がりなどは水滴が残って最高です。また、小雨、霧雨程度でしたら傘を差しての撮影も楽しいもので、カメラを濡らさないように充分注意して、必ずタオルを持参しましょう。

■夏の花を撮る

































7月中旬過ぎになると長かった梅雨もやっと明けます。この頃の首都圏は大変な蒸し暑さとなり、また、強い太陽の光でどす黒い影が発生します。晴天の日は花の写真撮影をあきらめた方が無難です。しかし、夏の花の代表格とも言えるヒマワリやサルスベリ、ノウゼンカズラ、ムクゲなどは、この青空をバックにしてこそ見栄えのある作品に仕上がります。また、炎熱地獄の中に、朝から午前中一杯、ハスやスイレンが清純無垢に咲くのもこの頃です。花壇の花ではダリア、ペチュニア、モナルダ、ポーチュラカなどの花を曇り日に狙ってみましょう。山野草では純白のヤマユリやヤブカンゾウ、ノカンゾウが見事です。田んぼの中にオモダカの可憐な白い花が見られるのもこの頃です。また、被写体としては見向きもされないヘクソカズラやヤブカラシなどの花にもカメラを向けてみましょう。夜になったらストロボが必要となりますが、カラスウリの花も撮影しておきたい夏ならではの花です。

■秋の花を撮る

































平地では9月一杯まで残暑が残りますが、下旬の頃になると快適な花の写真撮影が楽しめます。花壇の花はまず初めにハナトラノオやシオンが咲きますが、何と言ってもコスモスでしょう。広大なコスモス畑には是非一度、風のない穏やかな日に撮影に出かけたいものです。各種の交換レンズを使って、様々な角度から様々なテクニックを使って作画してみましょう。コスモスの時期にキバナコスモスやシュウメイギク、ケイトウ、タマスダレ、シュウカイドウなども咲いていることでしょう。この頃、フィールドは燃えるようなヒガンバナやピンクの可憐なツルボなどで埋まります。また、少しの風でも揺れててこずるツリフネソウや可憐なゲンノショウコ、黄色いキクイモも忘れられない存在です。畑ではタデ科のソバやニラの純白な花が見事です。雑木林におもむけばクズの花も咲いているでしょう。

■晩秋の花を撮る

































どこからが晩秋とは言いがたいのですが、10月下旬から11月にかけて花壇の花も野の花もキクの仲間で一杯です。花壇は大小様々な色合い豊富なキクで埋まります。植物園に出向けば菊花展が開かれていることでしょう。大輪は言うまでもありませんが、小菊の懸崖作りや盆栽作りも見事です。また、市民菜園等では食用菊も見られます。このように今年最後の花とも言えるキクを、様々な角度からカメラに納めておきましょう。野の花ではセイタカアワダチソウやススキの群落が美しく、田んぼではイヌタデやミゾソバ、ヨメナ、ユウガギク、雑木林の南斜面にはノコンギク、リュウノウギク、ヤクシソウ、アキノキリンソウなどが咲いていることでしょう。また、谷戸田にはノハラアザミ、リンドウ、フユノハナワラビ、ウメバチソウなどが可憐に咲き出しますが、近年めっきり少なくなり残念です。気温が下がって外へ出るのが億劫になる頃、チャ、ヒイラギ、サザンカ、フユザクラ、ツワブキ等の花が咲いています。

■初冬からは実や紅葉や芽も撮る

































一年間を通してのカメラ片手の花巡りはとても楽しいものですが、初冬からは花が少なくなってしまいます。それでも年末にはカンツバキやヤツデが咲き出します。とは言っても花は寂しい限りで、花を撮影する機材で実、紅葉、枯葉などを撮影してみましょう。より変化の富んだ作品が手に出来るばかりか、自然との触れ合いが一層楽しくなります。ことに秋から晩秋にかけて各種の木の実、草の実がなり、また、低い位置からの太陽光線は紅葉や枯葉を美しく輝かせます。冬になったら霜が降りた各種の葉や枯葉などを撮影してみましょう。早起きはつらいものですが、首都圏では日陰でも9時になると霜は溶けてしまいますから、フィールドには8時くらいに着かないと満足した作品を写すことはできません。また、言うまでも無いことですが、雪が降ったらフィールドへ駆けつけましょう。見慣れたものがすべて新鮮なものになって、撮影の絶好のチャンスとなります。くれぐれも防寒と思わぬ事故を防ぐために、通い慣れたフィールドでの慎重な行動と滑らない長靴の着用をお勧めします。また、厳しい冬に耐える各種の冬芽の観察や撮影も、より深い植物への理解のためにも精出して行いたい、冬ならではの被写体です。