第4章…レンズ特徴をつかんで撮り分ける

■交換レンズの基礎知識 

 各種の35mm一眼レフカメラ用の交換レンズが発売されていますが、基本的な用語の知識を持っていないと、各種メーカーのレンズカタログや後述する事柄も、スムーズに理解出来ない場合もあるかと思われます。そこで簡単ですが、ここで記しておきます。また、ここで説明している事柄は各メーカーのカタログにも詳述されていますので、併せて参考にすると良いと思います。

●焦点距離
 レンズカタログを見ると、焦点距離○○mmの超広角レンズとか、焦点距離○○mmの望遠レンズなどと書かれています。カメラの交換レンズは、何枚もの凸レンズや凹レンズを使って光学上で問題となる各種の収差を補正しているのですが、全体としては一つの凸レンズとなっています。従って、無限遠からの平行になった光は、レンズ面で屈折してフイルム面で結像します。このレンズ群の中心となる点から結像する地点までの距離を焦点距離と呼んでいます。焦点距離が長ければ長いほど、望遠鏡のように遠くのものを大きく引き寄せる望遠レンズとなるわけです。
●レンズの明るさ
 レンズの明るさは大文字のFを頭にして、F2.8 とかF5.6 とか表示されています。このレンズの明るさ(F値)は焦点距離を入射瞳径で割ったもので、この値が小さいものほど明るいレンズとなります。簡単に言えば、同じ焦点距離ならレンズの前縁の口径が大きければ明るいレンズということになります。レンズが明るいということは、ファインダーが明るく見やすくなり、ピント合わせが楽でイメージもつかみやすく、また、シャッター速度は速くなり、ボケも大きなものとなります。以上の点を考えますと、F4前後の明るさのものがお勧めのレンズとなります。
●画角
 写真として写し得る範囲を角度で表示したもので、焦点距離が短いものほど広範囲な画角が得られます。普通、われわれの肉眼での画角は焦点距離の50mm前後のレンズと同じで、画角では50度前後ということになります。従って、それ以上の画角の広いレンズを広角レンズ、さらに広いものを超広角レンズと呼んでいます。また、それ以下の画角のものを望遠レンズ、さらに狭いものを超望遠レンズと呼んでいます。
●遠近感(パースペクティブ)
 カメラ用のレンズ、特に広角レンズは、近くのものをより大きく、遠くのものをより小さく写すという特性があります。表現を換えて言いますと、近くのものと遠くのものとの距離が広がって写るということになります。とくに超広角レンズになればなる程この傾向は強くなって、遠近感が誇張された表現が可能となります。逆に、望遠レンズになると遠近感が圧縮されたものとなって、遠くのものが被写体のすぐ後ろに大きく迫ってくるように写ります。

■どうしても必要な中望遠マクロレンズ

































 初めて写真を始めた方がよく間違えるのですが、マクロレンズとマクロ機能付きのズームレンズとは異なります。マクロ機能付きのズームレンズは一般撮影もこなし手軽に花の写真を撮るには便利ですが、ほとんどのものがレンズの明るさは暗く各種のボケを生かした主観的な花の写真には適していません。また、いわゆるおまけ的なものですから画質的にもマクロレンズに比べて劣ります。また、マクロレンズは接写しかできないと誤解されていますが、風景や人物などの撮影もできます。このようにマクロレンズは接写専用に設計されているのですが、無限大の距離から至近距離までピントが合うレンズです。至近距離にピントが合うということは撮影最大倍率が高く、1/2 倍ないし等倍までの撮影ができるように設計されています。等倍とは1cmの被写体がフイルム上でも1cmに写ることを言います。ですから極小の花や花の花芯まで写すことができます。 マクロレンズの種類は、焦点距離が50mm前後、100mm 前後、200mm 前後と特殊になりますが、ズームマクロレンズや無限大にはピントは合いませんが等倍以上の撮影が可能な特殊なものも発売されています。この中で花の写真にまず一本ということになりますと100mm 前後の中望遠マクロレンズがお勧めです。なぜなら、50mm前後の標準マクロレンズは一般的な撮影もこなし、ピント合わせもしやすく、しかも軽くて画角の広さと被写界深度の深さを生かした花風景や生態的な写真を撮るには好都合なのですが、背景をぼかした主観的な花の写真には向きません。また、標準マクロレンズは同じ大きさに写そうとした場合、中望遠マクロレンズより被写体に接近することになりますから、自分の影が被写体に写ったり、昆虫などをも取り入れた花の写真では、近づき過ぎて昆虫が逃げてしまうことにもなります。
 200mm クラスの望遠マクロレンズは、まず重く値段も高く、被写界深度が浅いためピント合わせはしづらく手ブレの心配もあります。そして思ったほど使用機会も多くないものです。ただ背景のボケは大きく、遠くの背景を引き寄せる効果は抜群で、また、湿原の木道の上からの撮影、植物園の立入禁止の柵からの撮影、高いところに咲いている木の花の撮影には重宝します。このようなことを考えますと、200mm クラスの望遠マクロレンズはどうしても必要となったら購入すると良いでしょう。その代わりに風景や人物の撮影にも便利な後述するズーム幅の広いズームレンズやテレコンバーターを購入することをお勧めします。

■各種アクセサリーの活用は撮り慣れてから

 各種の花の撮影の本や接写の本、あるいは写真用品カタログには、一般撮影レンズに取り付けるだけで接写が容易く出来る各種のアクセサリーが紹介されています。もちろん本書でも後述しますが、中間リングやテレコンバーターやクローズアップレンズです。確かにこのようなアクセサリーを一般撮影レンズに取り付ければ接写が出来、花の写真撮影にも好適です。しかし、野外でのこれらのアクセサリーの取り付けは意外に面倒で、ピントの合う範囲が制限されたり、レンズが暗くなってファインダー上でピントが合わせづらくなったりして、結局、中望遠マクロレンズを購入することとなって、押入の片隅に眠る運命となります。まずは迷わずに中望遠マクロレンズを購入して撮影し、撮影に慣れて来たらこれらのアクセサリーの活用を考える方が無駄なくスムーズだと考えています。フィールドで美しい花に出会った時、これらのアクセサリーの装着に手間取っていては、花の写真の魅力を知るどころではなくなってしまうことでしょう。

■一本持っていると重宝するズームレンズ

















 今やカメラのレンズはズームレンズが主流となり、かつてはカメラを買うと必ずついてきた50mm前後の単焦点標準レンズに変わり、標準ズームレンズが普通となっています。例えば、28mmF3.5〜80mmF5.6とか28mmF4〜105mmF5.6といった標準ズームレンズです。もちろんカメラボディを単体で買うことも出来ますが、初めて一眼レフカメラを手にする方は必ずといって良いくらいに、カメラ店の店員さんに勧められるはずです。もちろん、各所で記しているように買っておいて損はありません。カメラ歴が長い方には常識となっていますが、このようなズームレンズの絞り開放値がズーミングすることによって、すなわち画角を変えることによって変化することを初心者の方は知らないことが多いようです。前記した例では28mmにした場合は絞り開放値がF3.5、80mmにした場合は絞り開放値がF5.6となるわけです。ファインダーを覗きながらズームリングを回してみれば分かると思いますが、広角側ではファィンダーは明るく見えますが、望遠側にズーミングするにつれ暗くなって行きまのす。 最近発売されているズームレンズはコンピューターによる設計で性能が向上し、ズーミングする画角も幅が広くなっています。しかもマクロ機構が付いているものが普通となり、また、全域で最短撮影距離が短くなっているものもあります。レンズの明るさは暗くてピント合わせがしずらかったり、シャッター速度が遅くなりますから手ぶれが心配であったり、イメージ的な大きな奇麗なボケは期待できませんが、本格的な花の写真はもう少したってからと割り切って、風景やスナップ以外にもちょっと花の写真も撮りたい、花の名前を覚えるために写したいと考えている方にはお勧めできます。しかも、うまく使いこなせばこのレンズ一本だけで軽快に行動できるのですから最高です。
 購入するにあたっての留意点は、広角側が28mmまたは24mmから始まるものを選んで下さい。望遠側は、85mm、105mm 、135mm 、200mm 、300mm と様々ですが、上記した遠いところに咲いている花を写すのが目的でないのなら、各種のブレが心配ですから105mm ないし135mm 位にとどめおいた方が無難です。また、100mm 前後の所で最大撮影倍率が1/3 倍前後(できれば1/2前後)、最短撮影距離が40cm前後となるものが使いやすく、メーカーによってはこの焦点距離にもかかわらず、被写体に異常に接近せねばならない使いにくい方式のものもありまのすから、必ず店頭でカメラに取り付けてもらってから十分検討して購入しましょう。
 もし既に買ってしまった標準ズームレンズにマクロ機構が付いて無い場合は、買い換えたりしないで取りあえず安価ですから、クローズアップレンズを購入して花の写真にチャレンジしてみるのも方法です。前述したようにピントの合う範囲が制限されたり、取り外しが面倒だったりしますが、手軽に花の写真が楽しめます。また、花の写真撮影の趣味が高じて、中望遠マクロレンズを購入した場合でも、クローズアップレンズを着けた標準ズームレンズによる連続的な画角の変化は捨てがたく、このためクローズアップレンズを購入しても決して無駄にはなりません。クローズアップレンズは各種の焦点距離が発売されていますが、どのような倍率を欲しているかによってその選択が異なって来ます。通常、標準ズームレンズでの花の撮影ではNO3のものがお勧めです。

■その他の交換レンズ

 上記の2本、中望遠マクロレンズと標準ズームレンズがあれば、フィールドで風景から花の写真までスムーズに撮影できます。また、これにテレコンバーターとクローズアッブレンズを加えれば、28mm〜180mm位までの近接撮影が可能になります。たくさんの交換レンズを揃えるのには金銭的にも大変ですし、重たいので全てのレンズをフィールドへ持って行くこともできません。しかし、特殊な効果を狙った花の撮影には以下に紹介するレンズも使用されます。しかし、上記の2本を徹底的に使って撮影してみて、自分の撮影したい花の写真の方向性が分かってから購入することが原則となります。

●最短撮影距離の短い広角レンズ

















 撮影対象である花が存在感あるくらいに大きく、しかも背景を広く取り入れた写真は中望遠マクロレンズで望めません。また、標準ズームレンズの広角側は最短撮影距離が長くて接近できません。このため標準ズームレンズにクローズアップレンズや中間リングの併用という手もありますが、フィールドでの取り付けは煩わしいものです。また、画質的にも劣ります。そこで、最短撮影距離が短く最大撮影倍率が1/4 倍程度になる24mmや28mmクラスの広角レンズを持っていると、独特な花の写真を手にすることができます。しかし、このような最短撮影距離の短い広角レンズを発売していないカメラメーカーもあります。その場合にはレンズ専業名メーカーのものを購入するか、中間リングの薄いものをつけて使用することになります。

●素直な描写の50mm前後のマクロレンズ

















 手頃の大きさ重さで持ち運びが楽、風景撮影や家族のスナップもこなせる50mm前後のマクロレンズはとっても素直な描写をします。絞り開放近くで背景をぼかした中望遠マクロレンズのような使い方をしたり、また、絞りを絞って背景まで取り入れた広角レンズのような撮り方も可能です。野山を歩き回って生態的な花の写真を撮ることを考えていらっしゃる方には好適なレンズです。また、50mm前後の標準レンズ一本で、中間リングやテレコンバーター、マクロテレコンバーター、クローズアップレンズ等を利用して、取り外しなどでスピーディーな撮影とはなりませんが、あれこれ楽しく撮影するのも味があります。いずれにしても小さくて軽いレンズであるからこそ、カメラボディーも小型で軽いものが最適です。

●遠くのものを引き寄せる望遠マクロレンズ


















 200mm 前後の望遠マクロレンズは、ただ単に遠くに咲いている花を大きく写すためだけではなく、被写界深度が浅い背景の大きなボケを積極的に活用して、イメージ的な写真を撮影するには最適です。一般の明るい200mm 前後の望遠レンズに中間リングを着けて撮影するのも良い方法ですが、普通、これらのレンズにはしっかりした三脚座が付いておらず各種のブレに十分な注意が必要となります。また、明るい70mm〜200mm 前後の一般ズームレンズにクローズアップレンズを使用する方法もあります。いづれにしても、以上の二つの方法は無限大にはピントが合わなくなります。

●レフレックスレンズとソフトフォーカスレンズ

















 独特なリングボケが発生するレフレックスレンズは、イメージ的な独特な写真を手にするにはとても有効なレンズです。しかし、現在発売されているものは500mm 前後の超望遠でレンズの明るさもF8と暗く、レンズそのものの重量は比較的軽いものの、大きくて重い三脚が必要となります。このため野山を気軽に歩いての花巡りには適していません。かつて発売されていたもっと焦点距離の短いものが発売されることを期待します。
 また、薄い霧の中に咲いているようにソフトにぼけた花の写真を手にするには、ソフトフォーカスレンズが必要となります。また、ソフトフォーカスにするフィルターも発売されています。人とは違った写真、イメージ色の強い写真を積極的に撮影したい方は、この他各種発売されているフィルターや自作のフィルターで、多重露出やストロボ等も駆使して撮影すると良いでしょう。