第5章…撮影モードと絞りの効果

■各種の撮影(露出)モード

 ほとんどの最新オートフォーカス一眼レフカメラには、普及タイプの機種でも下記のような各種の撮影モードが搭載されています。カメラの取り扱い説明書の始めには、一番簡単確実な撮影方法としてフルオートの撮影の仕方が説明されていますが、これから本格的な花の写真を撮影しようと考えている方なら、下記の撮影モードについて、しっかりとした理解をしておきたいものです。

●プログラムオート
 カメラに内蔵されるコンピューターによって、適正露出となる撮影対象にあた絞り値とシャッター速度を選んでくれる完全自動のお任せモードです。花の名前を覚えるためにネガカラーフイルムを使用して撮るのなら誰もが簡単なお任せモードです。機種によっては更に被写体にあわせて各種のプログラムオートのモードがありますが、慣れるまではノーマルなモードだけ覚えておけば良いと思います。
●絞り優先オート
 絞りの効果のところでも書いたように、絞りは作画上重要な働きをします。絞りを選べば適正露出となるシャツター速度をカメラが選んでくれます。主観的な作品としての花の撮影を目指す方に最適の撮影モードです。また、機種によっては、上記のプログラムオートを選んでプログラムシフトをすることによて任意の絞り値を選択できますが、この機能が付いているカメラをお持ちでもしばらくの間は、絞り優先オートで撮影することをお勧めします。
●シャッター速度優先モード
 上記とは逆に、シャッター速度を選べば適正露出となる絞り値をカメラが選んでくれます。花の写真においては使用することはほとんどありません。
●マニュアルモード
 絞り値を選んでカメラ内蔵の露出計の表示が適正露出となるようシャッター速度を手動で設定するか、逆に、シャツター速度を選んでカメラ内蔵の露出計の表示が適正露出となるように手動で絞り値を決めるモードです。このモードも花の写真撮影では使用しませんが、極端な露出補正をする場合には有効となります。また、時間と余裕があったら絞り値とシャッター速度の関係をしっかり覚えるために、また、昔の写真家の労苦を味わうために、たまには使ってみるのも良いものです。
 以上のような各種の撮影モードがありますが、ポジフイルムを使用した花の写真撮影には絞り優先オートが最適で、このモードだけでほとんど完璧な花の写真撮影が撮影出来ます。また、以下に絞りの役目と効果を詳述しますが、同一レンズを使った作品作りに、絞りの果たす役割の大きさを知ったら、プログラムオートなどというカメラ任せの撮影モードは、気軽なスナップ以外に使えなくなるでしょう。

■レンズの絞りの役目

















 絞りリングの付いているレンズはカメラから外して、蛍光灯などの光に透かして覗きながら絞りリングを回して見ましょう。絞り開放の時は見えなかった絞り羽が、絞りを絞るに従って見え始め、何枚もの絞り羽が作る光を通す穴が次第に小さくなって行くことに気づくと思います。一杯に絞り込めば楊枝でさして空けた穴のように小さくなっていると思います。このように絞りはフイルム面に到達する光の量を調節する機構なのです。例えば水道の蛇口を思い出してみましょう。蛇口を開ければ勢い良く水が出てきます。逆に、蛇口を絞れば水はチョロチョロと出てきます。これと同じように、絞りはフイルム面に届く光の量を調節しているわけです。
 もしフイルムを適正に感光させる光の量を水道の蛇口の下に置いたバケツに水が一杯にたまるのと同じと考えますと、蛇口を開けば水は勢い良く出てバケツはすぐに一杯になります。逆に、蛇口を閉じればバケツが一杯になるのに時間がかかります。フイルムを感光させるのもこれと同じで、絞りを開ければフイルムに届く光の量は多くなって短時間で感光します。すなわちシャツター速度が速くなるわけです。逆に絞りを絞ればフィルム面に届く光の量は減ってシッター速度は遅くなります。このように絞りとシャツター速度は一定の同じ明るさなら下記のような比例の関係になります。

《例》
絞り値 f2.8   1/1000秒
      f4      1/500秒
      f5.6   1/250秒
      f8       1/125秒
      f11      1/60秒
      f16      1/30秒
      f22      1/15秒
      f32       1/8秒

 以上のように、絞り値を変えるとシャツター速度は変化して行きますが、フイルム面に届く光の量は同じです。初心者の方はカメラを三脚に据え絞り優先モードで、じっくりとこの絞り値とシャッター速度の関係を確かめてみましょう。

■レンズの絞りの効果

















 上記したようにレンズの絞りはフイルム面に届く光の量を調節する機構なのですが、光学的な特性から、絞り値によって作画上多大な変化が生じます。端的に言ってしまえば被写界深度が絞り値によって変化するということです。被写界深度とは同じレンズを使用した場合、絞りを絞れば絞るほどピントが合ってみえる範囲が前後に広がって行くことを言います。専門的になりますが、厳密に言うとピントが合う部分はレンズからピントを合わせた距離の平面上だけなのですが、実用上ピントが合って見える部分が、前に浅く後ろに深く生じます。その割合は前が1とすると後ろが2の割合になると言われています。この範囲を被写界深度と言い、絞りを絞るほど、焦点距離が短いレンズ(広角レンズ)ほど深くなります。
 以上のことがカメラを初めて手にした方には理解がしがたいことになっています。なぜならカメラのファインダースクリーンに映っている像は、ピント合わせをし易くするために使用しているレンズの絞り開放の像なのです。例えばレンズの明るさがf2.8 の中望遠マクロレンズレンズを使用している場合、レンズの絞り値はf2.8 、f4、f5.6 、f8、f11、f16、f22、f32となっていると思いますが、例えば絞りをf8に絞っても、ファインダースクリーン上にはf2.8 の被写界深度の浅い像が映っているのです。このため初心者の方は絞りを絞って被写界深度が深まっているにもかかわらず、ファインダーに映ている像が写真として出来上がって来ると考えてしまうわけです。そして出来上がった被写界深度が深まった背景までピントが合った写真を見て、イメージ通りではない、こんなはずではないと感じる訳です。
 それではどうしたら絞りを絞った像をカメラのファインダスクリーン上で確認することが出来るのでしょうか。プレビューボタン(被写界深度確認ボタン)を押してみれば良いのです。ファインダー画面は暗くなりますが(実際の出来上がった写真は暗くはなりません)おおよその絞りを絞った時の被写界深度が深まった像を確認できます。お勧めする一眼レフカメラの所でも書いたように、プレビューボタン付きのものでないと確認することは出来ません。どのくらい背景を活かすかぼかすが決め手となる花の写真では、プレビュー機構は作画上とても重要な機構の一つですから、繰り返しになりますが購入の際には十分注意しましょう。
 もしプレビューボタンの付いていないカメラを買ってしまった方は、一本フイルムを無駄にするつもりで、全ての絞り値を使って同じものを撮影してみましょう。そして、絞り値による被写界深度の違いをじっくりと比較して頭に叩き込んでおきましょう。一般的に花の撮影では、イメージ的、デザイン的な写真では絞り開放か一絞り絞るくらいのことが多く、図鑑的、風景的な写真では絞り込むことが多いものです。ですからプレビューボタンがなくとも経験を少々積めば、撮ろうとしているイメージと絞り値の関係が即座に分かるようになると思います。
 話は少し横道にそれますが、カメラのレンズのカタログを開いてみると、レンズの明るさが明るいレンズなどと紹介されています。レンズの明るさについての光学的な説明は前述しましたが、例えばカタログにF2、F4、F5.6 などとレンズの明るさを示す値が書かれています。この数字の値が小さいほど明るいレンズということになり、ピントが合わせがしやすくイメージもつかみやすいものです。また、曇り日や林の中などでも絞りを開放で使えば早いシャッター速度が得られます。そこで、例えばF2.8 のレンズをお持ちで、F5.6 のレンズを購入しようと考えている方なら、絞り値をf5.6 にしてプレビューボタンを押してみれば、購入しようとしているレンズがファインダースクリーンでどのくらいの暗さになるかが分かります。

■手ブレとシャッター速度

 私はどんな場合でも花や風景の写真を写す時は三脚を使用します。厳密な構図を考えたり、風で揺れる被写体が止まるのを待ったり、手ブレを防ぐためです。しかし、手早い撮影を要求される花に訪れている蝶などは手持ちで撮影しています。お勧めはしませんが、もちろん、花風景や花の接写でも手持ち撮影は可能です。その場合、手ブレを防ぐためにシャッター速度には気をつけましょう。普通、手持ちの場合のシャッター速度は、使用しているレンズの焦点距離分の1と言われています。例えば、100mm 前後の中望遠マクロレンズなら1/125秒以上ならなら大丈夫ということになりますが、もちろん人によってカメラの構え方によって撮影倍率によって変わって来るものです。昆虫写真で有名な写真家は、何と1/15 でもブレないと言っていますが、一般の方は中望遠マクロレンズを使用していたなら1/250秒以上が手持ちの安全シャター速度と考えたほうが良いと思います。もちろん、広角になればなるほど焦点距離は短くなりますから低速でも可能です。