第7章…花の撮影の実際
■最低1年は花の写真に徹してみる
花の写真撮影を勉強したいと思っていたのにも関わらず、花の写真が意外と難しく、しかも辛抱がいるジャンルであること分かると、他の風景などの撮影に食指が動く方がいます。要するに他人の庭は美しく見えてしまうわけです。しかし、やって見ればすぐに分かることですが、どんな撮影ジャンルでも難しく辛抱が必要です。しかも、今まで買いそろえた機材以外にも必要なものが出て来ます。要するに一つの撮影ジャンルを習得しようと一生懸命にチャレンジしなければ、費用的にも無駄になるのはもちろんのこと、いつまでたっても写真の腕前は上がりません。一つの撮影ジャンルを習得すれば、他のジャンルの写真を撮影するのにも比較的スムーズに行きます。写真がうまくなろうと思ったら浮気心は捨てることです。最低1年間は、そして2週間に一回は花の写真を撮影に出かけましょう。そうすれば奥深い魅力あふれる花の写真撮影の醍醐味や自然の四季の微妙な移ろいなど、今まで経験出来なかった様々な素晴らしいものが見えて来るはずです。そうなれば自ずと花の写真も上達して行きます。
■撮影に際しての服装
花の写真を撮影しに行く時の服装ですが、基本的にはハイキングに出かける時と同じです。しっかりと大地に踏ん張るためにも靴は植物園ではしっかりとしたスニーカー、自然度の高い里山や雑木林、山や高原では軽登山靴がベストです。雨後や湿地、雑木林や草原、川岸などに踏み込む場合には長靴が快適です。夏の撮影では暑さのために半袖のシャツを着たいものですが、長袖のシャツの袖をまくって着用しましょう。これだけでも藪蚊や擦り傷の対策には有効です。また、地面に肘をついての撮影でも、袖を戻せばスムーズです。冬場の撮影は、姿格好は二の次にして十分の防寒対策をこらして、くれぐれも風邪など引かないように注意しましょう。
■女性に向いた撮影場所
女性だからと言って、特に花の撮影場所に不向きな所は無いと思いますが、危険な人間が現れずにトイレが近くにある場所が適当かと思われます。私は様々なフィールドへ通っていますが、自然度の高いフィールドで何となく危険を感じさせるような人間にあったことはありません。むしろこのような人間は、人がたくさん集まる繁華街や繁華街に隣接する公園のほうが圧倒的に多いものです。しかし、トイレとなると自然度の高いフィールドではなかなか見つけることが出来ません。このため出かける前にはトイレの有り無しを確認してから出かけましょう。
このため、あえて女性に適した花の撮影場所としては各地にある植物園やフラワーセンター、国や自治体が管理している自然公園や市民の森などが好適です。例えば横浜市にある昔ながらの谷戸田を有する舞岡公園は、地下鉄の駅からすぐにフィールドが広がり、各所にトイレや水飲場があって、野の花や樹木の花の撮影には絶好の撮影場所です。きっと、このような場所が各地にもあると思いますので、数多くの場所に足を運んで、自分なりのフィールドを見つけましょう。
また、地図を広げて小さな緑の多い公園を巡り歩くコースも考えて見ましょう。途中にレストランやコンビニを挟んで計画すれば、荷物になるお弁当や水筒を持って行かなくとも済みますから軽快です。こんな自分だけの秘密の花の撮影散歩道を見つけたら、きっと花の撮影がとても楽しくなって、毎日でも出かけたくなるでしょう。もちろん写真の腕前もぐんぐん上がることでしょう。
■撮影の手順
それでは次に私がフィールドへ出かけて、どのような手順で撮影しているかをご紹介しましょう。まずは中望遠マクロレンズを付けたカメラを首に掛け、三脚を腕の脇に抱えて美しい花を求めてブラブラと歩きます。美しい花に出会ったら、どのようなアングルから撮影すれば背景処理もうまくいって、より美しい写真が撮れるかをファィンダーを覗きながら作画します。よしこれならと決まったならば、カメラの位置を見定めて三脚を立てます。この順序が逆で、三脚にカメラを付けたままで作画している方がいますが、これでは疲れますし三脚の使用が厭になって、同時に花の写真撮影も億劫になるでしょう。
三脚を立てたらカメラを雲台に取り付け、フレーミングの微調整を行います。次にピントをどこに合わせたら良い写真になるかを常に考えながらピント位置を選びます。そしてファインダーを覗きながら絞り値を決めます。背景をぼかしたいと思ったら絞りを開放近くに、逆に、背景まで克明に写そうと思ったら絞りを絞り込むといった具合です。次に露出を考えます。反射率が高い色であったらプラスに露出補正し、反射率が低い色であったらマイナスに露出補正します。そしてもう一度ピントを合わせ直してシャッターを切り、露出の過不足が心配ですから、前後±0.5位露出を変えて撮影します。要するに一被写体に3カットの撮影となります。
こうして一つの被写体に対しての写真撮影ができたのですが、もしかしたら同一被写体でもっと素晴らしい作品をものに出来るかも知れません。そこで一休みしたら再度色々な角度から検討してみましょう。
■あらゆるアングルから考えてみる
アングルとは撮影角度、すなわちレンズの方向ということになります。美しい花を発見したら、どのような角度から撮影したら一番良い写真になるかをファィンダーを通してあらゆる方向から探ってみることが大切です。上下左右ばかりでなく裏側へ回ったりと撮影位置は無限大と言えましょう。これは写真にならないなと思ったものでも、あらゆる角度から作画してみることが必要です。思わぬ絵が浮かび上がってくることがあるからです。そしてこのようなことを繰り返していると作画する力は上がって、被写体に対峙した時に瞬時に絶好の撮影ポジションを見いだすことが出来るようになります。
また、素晴らしい被写体なのにどうしても絵に出来ない場合があります。そのような場合には、帰りがけなど時間を空けて再度挑戦してみると、頭も冷静になり太陽光線の差す方向なども違って、傑作をものに出来る場合もあります。このように良い写真を手にするためには、しつこさも大切なものとなってきます。
■あらゆるフレーミングを考えてみる
アングルが決まったら次にフレーミングに移ります。フレーミングとはカメラのファィンダー上で作画することをいいます。いいかえると構図を決めるということになるでしょう。アングルを決めると同時におおよそのフレーミングも完了しているわけですが、三脚を立ててカメラを雲台に載せてからが厳密なフレーミングの始まりです。背景をどのくらい取り入れるか、脇役をどのくらい入れるか、主題となる花をどの位置に置くか、前ボケを活用するかなど様々な事を考えながら作画します。アングルにしてもフレーミングにしても、後述するピント位置や前述した背景処理などでも、写真撮影に最悪な曇天の時でもカメラを持っていなくとも行えますから、常日頃、気をつけておくことが大切です。また、このような事柄を意識して数多くの作品に触れるてみましょう。
■ピント位置で雰囲気が変わる
人間や動物の撮影は目にピントを合わせます。花の場合は出来れば雌しべに、雌しべが隠れている場合は雄しべや花芯にピントを合わせることが鉄則となります。しかし、雌しべ雄しべに合わせるより、よりはっきりと見えるピント位置があることもあります。そのような場合には、落ち着いて考えてからシャッターを切りましょう。とりあえず両方を撮っておくことも後悔しないためには大切です。また、必ずしもこれにこだわらずに絵になれば、そこが適正なピント位置ということにもなります。良く出会うことですが、山野草の群落やたくさんの花が植えこまれた花壇、群がるようにして咲く花木に出会ったら、まずは自分のイメージに合った花にピントを合わせて一枚撮影し、それでおしまいにすることなしに、他の花にもピントを合わせてみましょう。思わぬ絵が現れてくることがあるからです。
■写真は引き算か足し算か
私の知人の女性が花の写真をカルチャーセンターで教えてもらった時、講師の方が写真は引き算であると言われたそうです。主題となる花をなるべくシンプルな背景の中に浮かび上がらせると言うことでしょうか。実は私も長い間、広告関係の仕事に従事していますので、どうしてもポスターやパンフレットに使用できるようなシンプルな引き算の写真が好きで、今もってそのような写真から脱することが出来ずにいます。しかし、最近、まだ良い作品を撮影してはいませんが、なるべく多くの情報が背景に写っていて、しかも絵として均整の撮れた美しさを出せないものかと心がけています。すなわち、足し算の花の写真を撮ろうとしているわけです。しかし、このような写真は非常に難しく、ちっと間違えると何も考えずに一般の方がスナップしたような写真になってしまいます。みなさんも引き算の写真ばかりでなく足し算の写真も、素晴らしい被写体に出会った時に考えてみましょう。