第8章…どんな機材が良いのだろう 

■コンパクトカメラでは花の写真は無理?

 APSや35mmフイルムを使ったコンパクトカメラでは花の写真は無理なのでしょうかとよく聞かれます。一眼レフカメラでなくては無理ですよと答えてしまいたいところなのですが、一眼レフカメラを一式そろえるのにはお金がかかります。また、人に言われるのではなく納得した形で一眼レフカメラを購入した方が良いと思って、ポジフイルムを使って試しに撮ってみて下さいと答えます。なぜなら、一口にコンパクトカメラといってもたくさんの種類が発売されています。デジタルカメラや、使い捨てカメラを除いたAPSフイルム用や35mmフイルムを使用する一般的なコンパクトカメラだけでも、たくさんの機種が発売されています。ですから質問された方がどのような機能のコンパクトカメラを持っているのか、また、これが一番大切なことですが、どのような花の写真を撮りたいのか、どのような目的で花の写真を撮りたいのかによっても、答えが自ずと変わって来るからです。なお、コンパクトカメラはレンズが暗いことからシャッター速度は遅くなりがちで、また、シャッター速度の表示が出ないのが普通ですから、手ブレを防ぐためにもISO400以上のフイルムを使用し、曇日や日陰の場所での撮影や接写になったら、コンパクトカメラといえども三脚の使用が望まれます。

【コンパクトカメラに適した例】

@花を小さめに入れて花がある風景(花風景)や花の群落をネガカラーフイルムを使って撮ろうとする場合。
A高級コンパクトカメラになりますが、露出補正機能がついていて、ポジフイルムで花風景や花の群落を撮ろうと考えている場合。
B最短撮影距離が短く近くまで寄れる、あるいは一定距離のみのだけのマクロ撮影が可能のものではなく、ある範囲の幅でのマクロ撮影が可能 なコンパクトカメラで、ネガカラーフイルムを使って、花の名前を覚えるためや絵画等の参考に撮影しようと考えている場合。

 以上のような考えをお持ちの方には、コンパクトカメラは軽くて便利です。 また、パソコンが使える方ならデジタルコンパクトカメラは、上記の目的を全て叶えてくれる機種が多数発売されています。しかし、次のような考えの方には、コンパクトカメラでの撮影は断念した方が良いと思います。

【35mm一眼レフカメラならではの例】

































@前ボケや後ボケ、玉ボケなどをたくさん取り入れて、ファンタスチックな作品を撮りたい場合。
Aデジタルではなくフイルムを使ったコンパクトカメラは、パララックス(視差)があるために難しい、厳密な構図を重視しする場合。
B絞りの効果を十分に加味し、ポジフイルムならではの忠実な発色の図鑑的な写真を撮りたい場合。
C将来の印刷物での使用を考えにいれてポジフイルムで写真を撮りたい方。
Dデジタルコンパクトカメラでは可能ですが、花芯や極小の花までを精密に撮りたい方。

 以上のような考えをお持ちの方には、思い切って35mmの一眼レフカメラを購入しましょう。

■どのような一眼レフカメラが良いのか?

 それではどのような一眼レフカメラが良いのでしょう。植物園やフラワーセンターなどの起伏の無い狭い場所でのみ撮影するのではなく、野山を散歩しながら花の写真を撮ることを前提としますと、まずは軽くて小さなカメラが快適です。特に女性の方や電車やバスを使っての撮影には軽くて小さいことが第一の条件となります。一日撮影に行って翌日肩が凝たら、それこそ花の写真の趣味は長続きしません。軽くて小さなカメラを買ったカルチャーセンターの生徒さんに私の使用しているカメラを見せますと、その大きさや重さに驚いて“私のはまるでおもちゃみたい”と言われる方がたくさんいますが、それは写真の講師だから高くて高級のものを持っていないと格好がつかないという、ただ単なる見栄の部分もあるのです。また、よく高いカメラは良く写るのでは、高いカメラでなくては良い作品が作れないのでは、といった疑問を持っている方もたくさんいます。それはとんでもない誤解です。
 それでは高いカメラと普及価格のカメラとの違いはどこにあるのでしょうか。高級なカメラはシャッターの最高速度やストロボに同調するシャッター速度が速かったり、オートフォーカス(AF)時におけるピント合わせやフイルムの巻き上げ速度が速かったり、各種機能が付いていたりします。以上のことは花の撮影には直接関係はありませんが、高級カメラでないと味わえないものとして、ファインダーの見え方があります。ファインダーの見え方とは視野率が高いということと、ピント合わせがしやすいということになります。この中で視野率とは、最高級カメラではフイルム一杯に写る像が全くカットされずにファインダーで100 %見え、高級機はほんの数%カットされるだけです。しかし、普及機になりますと8〜10%カットされます。このため注意していないと普及機では四隅に不必要なものを写し込んでしまう可能性があるわけです。ファインダー視野率を高めるには大きなプリズム等を使用しなくてはならず、このため耐久性を増すことも加わって大きくて重くなってしまうのです。
 以上のことから、厳密な構図を重視し、しかも体力がある方で、比較的平坦でアップダウンの少ない撮影地が多く、車を使って撮影する方には高級機がお勧めとなります。しかし、野山を自由に歩き回っての四季の花巡りには、視野率の低さを十分に頭に入れて、普及機を気軽に使いこなしましょう。

■花の撮影に最低必要な機能は?

 前述したように一眼レフカメラの普及機をお勧めしたわけですが、最低限これだけは必要とする機構があります。現在最もポピュラーな存在であるAF一眼レフカメラに限って列挙しますと、
@プレビューボタン(被写界深度確認機構)が付いているもの。
 絞りを絞った場合、絞り開放の状態で映って見えるファインダー上の像と絞り込まれた実際にフイルムに映る像とは異なります。プレビューボタンが付いていればおおよその見当がつきます。
Aレリーズまたは電子レリーズが使えるもの。
 シャツター速度が遅くなった時、特に望遠レンズでは三脚を使用していても指でシャッターを切ったのではブレが発生しがちです。面倒臭がらないでレリーズや電子レリーズを使いたいものです。また、無理な姿勢や風が止むのをじっくり待つ時にも大変便利です。
B露出補正が、1/2 または1/3 ステップで±2以上まで可能なもの。
 ポジフイルムを使用した撮影では微妙な露出の過不足が致命傷となります。このため小刻みな露出補正が行えない機種では困ります。

 以上の3点については購入する時にしっかりと確認しましょう。普及機にはこれらの機能が省略されているものも有りますから、後悔しないよう十分の注意が必要です。

■もっと手軽に一眼レフカメラで撮りたい

 予算の面もありますが、もっと気楽に普及版の一眼レフカメラと一本のレンズだけで四季の花巡りをしたい。主観的、デザイン的な写真は撮れなくとも、ポジフイルムを使ってきっちりとした花の写真が撮れれば良い。しかも、レンズ一本で家族や旅行でのスナップもこなせるようにしたい。そう考えている方もいるかもしれません。そのような方にはプレビューボタンが付いていない廉価版の一眼レフカメラと、前述した出来れば0.5倍までのマクロ機構のついた28から80mm位の標準ズームレンズを購入すれば良いと思います。撮影方法は次に紹介するプログラムオート、多分割測光で、露出補正を加えて撮影します。もし、このようなレンズがお手持ちのカメラメーカーになかったら、レンズ専業メーカーのものを購入しましょう。性能的には何等問題はありません。また、将来、花の写真撮影にのめり込んで上級機を購入した場合でも普及版のカメラはサブカメラとして使えますから無駄にはなりませんが、上級機と普及機の価格の差は2万円位ですから、耐久性や作りの良さなども考えに入れて選択しましょう。

■多くの機能に振り回されない

 現在発売されている一眼レフカメラは数多くの機能が搭載されています。長年写真を撮り続けていますが、一度として使用したことの無い機能もたくさんあります。メカに強い方なら良いのですが、カルチャーセンターの生徒さんの中には、付いているものすべてを使いこなそうとして、かえって一眼レフカメラアレルギーに陥ってしまう方もいます。そうなる前に、詳しい機能については前述しましたが、もう一度、簡単に一眼レフカメラの使い方をまとめてみました。

●一般撮影(ISO400以上のネガカラーを使った人物スナップ・結婚式等の記念写真、旅行での写真)

 ・ピント合わせ AF(オートフォーカス)撮影中心
 ・撮影モード  プログラムオート
 ・測光方式   多分割測光
 ・露出補正   極端な場合(背景が真っ白、真っ黒など)を除いてしない。

 以上これだけをカメラの説明書に従ってセットしフイルムを入れれば、三脚なども使わずに気軽にシャッターを押すだけです。新しくカメラを購入すると、取扱説明書の冒頭に必ず書かれているものです。

●花の撮影(ポジフイルムを使用した作品としての花や花風景の写真)

 ・ピント合わせ MF(マニュアルフォーカス)撮影中心
 ・撮影モード  絞り優先オート
 ・測光方式   中央重点測光(機能の無いカメラは多分割測光)
 ・露出補正   被写体によって多用する

 以上のように、AFカメラが出現する前に普及していた絞り優先マニュアルカメラの操作とほとんど変わりがありません。この他の機能は写真撮影に慣れるに従って順次取得して行けば良いことですが、花の写真では他の機能はほとんど使用しませんし、無理して覚えると頭の中が混乱するだけになってしまいます。花の写真撮影のポイントは撮影機材よりも、より多くの場所へ出かけてより多くの花に巡り会うことと、前者とは一見矛盾しますが、定期的に通うフィールドを見つけて四季の微妙な変化を味わって、作画する目を磨くことが第一であることは言うまでもありません。繰り返しになりますが各種の機能は暇な時に順次取得して行くとして、馬鹿の一つ覚えではありませんが、上記の方法で徹底的に撮影することをお勧めします。

■各種の表示に注意する

 カメラのメーカーや機種によって様々ですが、ファインダーを覗いて見えるファィンダーの中の表示とカメラ本体の外部ディスプレーの表示に、どのような情報が表示されるのかをしっかりと覚えておきましょう。例えば撮影モードが絞り優先オートの場合、自分が選んだ絞り値がどこに表示され、その絞り値に対応するシャッター速度がどこに表示されるのか、露出補正をした場合に、その補正値がどこにどのように表示されるのかをしっかりとつかんでおくといった具合です。今の一眼レフカメラは撮影モードを各種のオートにすれば、そのようなことを気にしなくとも撮影できますが、常に確認することによって、絞り値とシャッター速度の関係や露出補正とは何かといった事柄の理解がより早く確実に深まります。撮影中はどうしても撮影に夢中になりがちですから、暇な時に室内でカメラを取り出して三脚に据えて、じっくりと行うと良いでしょう。

■三脚には気を配る

 鮮明さの欠けた写真ばかり写している方が、その原因をカメラやレンズの性能のせいや年齢から来る視力の衰えのせいにしている場合が多いものです。しかし、これらの写真のほとんどが手ブレやカメラブレ、被写体ブレを起こしているのです。先日、植物園で高級なカメラを使用していますが、300mm まである明るさの暗いズームレンズでハナショウブを曇り日に撮影しいる方がいました。その方の使用している三脚をみるととても華奢なもので、話してみると感度の低いフイルムを使用していて、また花の写真にとっても熱心な方であることもわかりました。もっとしっかりした三脚を使用しなければブレ写真の山を作りますよ、とアドバイスをしたかったのですが、気を悪くされたらと思い一般的な話に終始しました。 高い交通費や入園料を支払って、また、フイルム代や現像代を加味しますと一回の撮影に数千円はかかります。しかも、花に限らず自然相手の写真撮影でのチャンスは非常に短く、天候などを加味しますと出会った時に三脚を使って確実な撮影をしておかないと、後悔の山を築くことになります。初心者の方は、カメラやレンズには惜しみもなくお金をかけますが、三脚には気を配らず貧弱なものを購入する場合が多いものです。また、三脚を携行しての撮影は億劫であると考えがちですが、慣れるとそれ程のことではありませんし、良い作品を確実にものにするためには、ほんのちょっとの苦労をいとまないで欲しいものです。もし予算がなければカメラやレンズを一クラス落として、あるいは中古品にして三脚だけは高級なもの選びましょう。
 それでは花の撮影にどのような三脚が向いているかというと、エレベーターを使用しないですべての足を伸ばしてカメラをセットした場合、ファインダーの位置が目の高さまでになり、しかも、できるだけローアングルが可能となる三脚です。この場合、雲台はツマミ一つで自由にアングルを変えられる自由雲台の使用を想定して下さい。この他、ローアングルにする場合の操作のし易さ、足を伸ばす方法がナット式かレバー式か、エレベーターがギヤー式かセンターコラム式かなどにも十分留意して下さい。また、最近ではカーボン等の新素材で出来ているとても軽い三脚が発売されています。値段はとても高価ですが、軽快な野山での撮影が約束されます。特にアップダウンの多いフィールドや電車やバスを利用される方、女性の方には最適です。
 雲台は三脚を買うと付いてくるスリーウエイ雲台ではなく、前述したようにツマミ一つで自由にアングルを変えられる自由雲台をお勧めします。自由雲台に変えるだけでもお手持ちの三脚の使用がとてもスムーズになります。また、三脚の機種によっては脚のみ購入できるものもあります。また、スリーウエイ雲台も重量のある超望遠レンズなどの使用に際しては有効ですから、自由雲台に変えても大切に保管しておきましょう。また、この雲台の交換は誰でも容易く行えます。

■写真を勉強するにはポジフイルムが一番

 次に使用するフイルムですが、フイルムに実際の像とは逆(例えば白⇒黒)に写り、写真屋さんでフイルム現像だけでなくプリントしてもらわないとと見られない、きっと今まで何遍も使ったことのあるネガカラーフイルムではなく、ポジフイルムの使用をお勧めします。ポジフイルムはスライド用フイルムとかリバーサルフイルムとも呼ばれています。ポジフイルムは使いこなしが難しくなりますが、露出補正のテクニックを習得すればカメラのファインダーで見た通り、自分で意図した通りにフイルムに写り、フイルムを現像するだけで小さいですがライトボックスやスライドビュアー、スライド映写機で鑑賞できます。もちろん、割高になりますがダイレクトプリントやレーザープリントにすることも出来ます。もっとも一般的なマウント仕上げではなく、スリーブ仕上げといって現像だけをしてもらって、気に入った作品のみを自分でカットしてマウントし、その中から数点をダイレクトプリントに出すのが普通ですから、逆に現像同時プリントのネガカラーより経済的とも言えましょう。
 なぜ花の写真撮影の腕を上げるためにポジフイルムをお勧めするのかというと、ネガカラーフイルムを使用した写真では、相当の露出の過不足があっても写真屋さんにある機械が自動的に補正してくれて適正露出に近いものとしてプリントされます。このことは逆に意図的に明るくしたり暗くしたりしたつもりの作品が、標準的で平凡なものとなってプリントされて来ることにもなります。また、良く経験することですが、プリントする写真屋さんは実際の色合いを見ていないのですから、たとえ機械焼きではなく値段の高くなる手焼きで頼んだとしても、自分が目で見た色合いとは異なっていることも度々です。しかも、これが一番厄介なことかもしれませんが、現像引き伸ばしに出す写真屋さんによっては、現像液などの管理がまちまちで、時には劣化しているものを使用している場合もあるようです。
 以上のことから、使いこなしは後述する露出についての各種の知識の習得やそれに基づいた露出を補正することが必要ですが、だからこそ、写真の腕前を上げるにはポジフイルムの使用が最適です。意図的に撮影したものがそのまま現像後に現れますし、逆に写真の腕の未熟さもはっきりと現れるからです。もちろんポジフイルムの方が花の色に忠実で生き生きとした発色の写真を手に出来ますし、将来の印刷物の使用を考えている方に対しても最適です。それでは実際に、どのようなメーカーのどのようなフイルムが良いかというと、フイルムの感度は最も使いやすいISO100のもので、発色に関しては好みの問題がありますから、使い分けてみて自分にぴったりのものを選びましょう。また、撮影に慣れてきたら手持ち撮影はしないという前提で、シャッター速度は遅くなりますが、フイルムの感度は低ければ低いほど粒子が細かくなりますから、ISO50 前後のフイルムにも挑戦してみましょう。なお、ポジフイルムにはプロ用とアマチュア用に分かれていますが、自分の好みの色が得られるのならどちらでも構いません。