2003年:つれづれ観察記
(10月)


10月27日、神奈川県秦野市渋沢丘陵〜弘法山

 最近、蝶やその他の昆虫をあまり写していないと感じている。ハンドルネームが「花虫とおる」なのだから、花や風景やキノコばかり写していると欲求不満になってしまうのだ。やはり季節なのだろうか昆虫も数が少なくなっているのは事実だが、この時期にはこの時期なりの昆虫もたくさんいる。そこで今日は重たい200mmマクロレンズを持参して「蝶よ昆虫よやって来い」と期待して出かけた。蝶や昆虫の鮮明な写真を得るには、出来うる限り焦点距離の短いレンズを使いたいが、逃げられてばかりいると欲求不満になる。昆虫の中でも蝶やトンボ等の近づくと逃げるものには、常用の105mmマクロレンズではちょいときつい場合が良くある。一度、200mmマクロレンズで撮って、まだ逃げずに撮影チャンスが続いたら105mmマクロレンズ、更に続いたら28mm広角レンズと徐々に焦点距離の短くなるレンズに変えていこうという作戦である。
 ウラギンシジミと言う蝶を知っている方は多いと思う。その名の通り羽の裏面は全て白銀色に輝く蝶である。このためウラギンシジミを撮影する場合、普通、羽を開いている状態で撮らないと面白くない。雄なら橙色の雌なら白銀色の紋が良く見えるように撮りたいと誰もが思うはずである。しかし、羽を閉じた状態の白銀色一色でも、とっても情緒溢れる写真を2点程知っている。一つは青山潤三氏が写した柿に吸汁しているもの、もう一つは日比野克氏が写したカラスウリの実にとまっているものだ。共に橙色と白銀色のウラギンシジミの対比がとても美しい。そんな訳でいつかはこのような写真を撮りたいと、この時期なると胸が騒ぐ。カラスウリの実にとまるものは万に一つの偶然だが、柿の汁を吸いに来る場面は何回も遭遇している。しかし、なかなか絵になるような柿に吸汁していないのである。まだ崩れていない熟した柿の実が一つ垂れ下がっていて、ウラギンシジミが真横から吸汁している。もちろん、バックは秋の青空か鮮やかなグリーンということになる。
 そんな写真を期待して今日は柿の畑がたくさんある秦野市の渋沢丘陵に出かけた。しかし、野の花やキノコに戯れていたためか、時期は一、ニ週間位遅かったようで、畑に残っている柿はほんの僅かになっていた。畑のミカンが色づいて秋が予想以上に早く進んでいるように感じる。しかし、そんな事でがっかりする程写すものがないという情けないフィールドでは無いから、北海道のような雄大な眺めが展開する場所に行ったり、正月に間に合わせようと植えられた広大な波打つ大根畑へ行って風景写真を撮影したり、日当たりが良くてリュウノウギクやガマズミの実が美しい雑木林の縁に行ったりと、これはというカットを納めた事は言うまでも無い。また、ミカンが青空に美しく輝いていたのだが、これは来週あたりに大磯町のミカン山へ行くまで撮らずにおいた。
 今日は昆虫はやはりだめなのかと諦めたのだが、午後からは弘法山へ行った。雑木林の下草はつんつるてんに刈られている事は以前述べたが、なにしろお役所仕事とはそんなもので、あの舞岡公園ですら野の花の命を省みない草刈が行われている。「せめて一輪でも咲かせてやってから刈り取って」と言いたくなるのだが、一人では「あんた頭がおかしいのでは」と笑われるだけだ。こういうことに対しても数は力で、まとまって抗議しなければ相手すらしてくれないだろう。非道なS社のバソコンユーザーサポートと同じなのだ。弘法山のお隣の権現山で鳥を撮影していた方が、藪が好きな鳥が寄りつかなくなってしまったと嘆いていた。権現山には鳥を至近距離で観察できるようにブラインドが設えてあるのだ。
 そんな訳で草刈がなされてない弘法山公園外の農家の果樹園や畑に行ってみたら、カラスウリの実やイシミカワの実が撮ってくださいとばかりに待ち構えていた。これを見て笑ってしったが、舞岡公園も公園外の方が魅力溢れる場所がたくさんある。そんな訳で弘法山一周コースはパスしようと思ったが、下草がつんつるてんに刈られているとキノコは探しやすいと思って、機材をキノコ用に変えて登り始めるがキノコは皆無で、しかし、諦めたはずの昆虫が待ってましたとばかりに、桜の古木の幹で日向ぼっこをしているではないか。鳴き声からスイッチョンとも呼ばれるウマオイ、ヤマトフキバッタ、センチコガネである。綿羊の丘等と言う人集めに出来た羊の牧場をずっと苦々しく思っていたが、センチコガネのような糞を食べる昆虫には願っても無いことだったのだ。お役所がどのような自然環境を無視した事を展開しようとも、それを逆手にとって利用するというのも、都市周辺に住むウィークエンド・ナチュラリストの情けないが必要不可欠な心構えなのである。

<今日観察出来たもの>花/シラヤマギク、ホトトギス、リュウノウギク、アキノキリンソウ、ワレモコウ、オケラ、コウヤボウキ、イヌタデ、シロヨメナ、ノコンギク、ノハラアザミ、タイアザミ、ヤクシソウ、ヤマハッカ、セイタカアワダチソウ等。蝶/ヒメアカタテハ、キタテハ、ベニシジミ、ヤマトシジミ等。昆虫/ウマオイ(写真右)、ヤマトフキバッタ、オオセンチコガネ(写真左)、アキアカネ、コバネイナゴ等。その他/ガマズミの実、イシミカワの実(写真下)、カラスウリの実、ヤブミョウガの実等。


10月24日、東京都町田市小野路町・図師町

 「終わってみれば、とっても楽しい小野路・図師であった」と、今日一日の自然観察及び写真撮影は表現できるだろう。来月に入ると大仕事が待っているから忙しくなる。そんな訳でその前に、時間さえあればフィールドへとなるわけだが、自宅の上空は素晴らしい鱗雲が広がっていたものの、現地に着くと雲一つない穏やかな晴天であった。これでは情緒溢れる風景写真は無理である。そこで午前中は、しばらく行かなかった牧場経由でキノコ山まで行って、万松寺谷戸に下りて来ようということにした。今日の一番の目的は朱色に色づいたカラスウリである。何処へ行ってもカラスウリは見られるものの、いざ朱色に色づいた実を風情溢れるように撮るのは難しい。なぜなら多くが散策者によって取られてしまうのだ。カラスウリの実は食べられるわけでは無く、また、漢方として効能効果があるわけでも無い。しいて言えば種子が黒くて「打手の小づち」に似ているから、財布に入れとくとお金が溜まると言われている。まだ、試したことは無いが、そんな事でお金持ちになれるのだったら、この世の中はとっても楽しい。だから多分、家に持ち帰って飾るのだろう。自然を大切にしなければと思っているご婦人でもしてしまうのだから、とても魅力があるのだろう。そんなこともあって実は少なくなって、あっても絵になるようにぶら下がっていないとだめなのである。だから、毎年恒例のほとんど誰も来ないカラスウリの穴場へ行ったのだが、あるにはあるが風情溢れるようにはぶら下がってはいなかった。まだ色づいていないものもあったから、もう少したったら再度挑戦してみよう。
 そのカラスウリの穴場まで行く途中に、とても美しい竹林がある。このところ雨がたくさん降ったから、地下のキノコの菌糸も「わが世の秋」がやって来たとばかりに活性化して、キノコをにょきにょき地上に生えさせたのではないかと思ったのだが皆無である。秋だから大いにキノコを撮りたいと思っていたのに、今年はとんでもない不作である。いつも家畜の糞と藁を混ぜ合わせた堆肥に生えるからと敬遠していたネナガノヒトヨタケやクズヒトヨタケでも良いからと、畑に積んである所に行って見ると、こちらは何事も無かったように元気である。しかし、やっぱり背景が汚らしいくて写欲が沸かない。ふとその傍らの日陰の道端を見ると、数え切れない程のヒカゲシビレタケが生えていた。もちろんこれは頂きとばかりに撮影したが、雑木林に行ってもキノコ山に行っても後が続かない。「あーあ、こりゃーだめだなぁー、黒川へ行けば良かった」と愚痴が出る。それでもアメリカハナミズキの実を雰囲気溢れる秋らしい背景の中に納めたり、勢いを盛り返して来たキクイモを撮ったりと、来たからには手ごたえのある写真は数枚だが撮った。
 昼飯は少し力をつけて来ようと鶴川の駅近くまで焼肉を食べに行った。もちろん「清貧は美徳」だから、安楽亭の480円(税別)のカルビランチである。焼肉を食べて昼寝をすると、しょ気ていた元気は回復して、午後からはキノコ尾根から五反田谷戸へ行った。途中、多摩丘陵では今年初めてになる毬栗坊やのホコリタケを一つ見つけ、写欲は沸かないものの小さくて地味なキノコも見られるようになって、以前よりいくらかキノコ尾根は動き出したようである。良い按配に太陽が雲に隠れたから、これはチャンスと五反田谷戸に降りて行くと、秋の花も晩秋の花もたくさん咲き乱れている。具体的な名を書くと盗掘が心配なので明記しないが、小躍りするばかりに夢中になったのだから何が咲いていたかは想像して欲しい。秋の日は短く、野の花の撮影に夢中になっていたら夕闇が迫って来た。もう一度キノコ尾根に登り少し下って見回すと、目に大きなキノコの艶かしい傘が入って来た。まるで雑木林に不時着した、他の星からの宇宙船のようである。なんと久しぶりに多摩丘陵で見る大型のキノコだ。多分、タマゴテングタケモドキだろう。これだから小野路町・図師町は一度通ったら止められない。そんな訳で冒頭にも記したように、終わってみれば、とっても楽しい小野路・図師であった。

<今日観察出来たもの>花/リュウノウギク、アキノキリンソウ(写真下)、ワレモコウ、ツリガネニンジン、オケラ、キバナアキギリ、コウヤボウキ、カシワバハグマ、ナギナタコージュ、ミゾソバ、イヌタデ、シロヨメナ、ヨメナ、ノハラアザミ、ヤクシソウ、ヤマハッカ、セイタカアワダチソウ、キクイモ等。蝶/キタテハ、クロヒカゲ、ベニシジミ等。昆虫/セスジツユムシ、ササキリ、コバネイナゴ、ショウリョウバッタ、アキアカネ等。その他/タマゴテングタケモドキ(写真左)、ネナガノヒトヨタケ、ヒカゲシビレタケ、ホコリタケ(写真右)、カラスウリの実、アメリカハナミズキの実等。


10月23日、神奈川県平塚市土屋

 先日行った時は雨が降って来たこともあり、土屋霊園の小高い丘とセイタカアワダチソウが咲く草原しか歩けなかった。平塚市土屋のフィールドは広大で、今日はオオスズメバチに脅された野花の宝庫の土屋霊園の小高い丘は敬遠して、前回歩けなかった琵琶の方へ行った。これからとっても気になるポイントがあるのだ。それは雑木林に隣接した水道施設の周りの鉄条網である。最近、犯罪は増えたものの、なかなか鉄条網にお目にかかれない。農作物を盗む犯罪が増えているから、農家の方々に鉄条網が見直されるかもしれない。本当に嫌な社会となったものだ。そもそも鉄条網は平和と幸福のシンボルからはほど遠い代物である。しかし、そんな鉄条網が大好きな生き物がいる、モズである。モズについて図鑑で調べてみると、「秋から冬は縄張りをつくって里山で生活するが、繁殖後いったん姿を消すことがある」と書かれている。どうやら春から初秋までの詳しい生態は分かっていないようだ。そのモズが先日、舞岡公園で「キィー、キィー、キィー」と高鳴きをしていたから、そろそろ「早にえ」が見られるのではないかと、平塚市土屋の鉄条網が気になり始めていた。尖ったものに獲物を刺しておくというモズの習性をご存知の方も多いと思うが、そんなモズにとって鉄条網の刺は最高の刺なのである。今日は、まだたくさんの獲物が手に入るからか、それとも縄張りをつくっていないのか、水道施設の鉄条網には僅か一匹のコバネイナゴしか見られなかった。しかし、いよいよ「モズの早にえウォッチング」の季節が到来した。今年はどんな早にえに遭遇できるのかと思うと楽しみである。ちなみに私が今まで観察した早にえは、コバネイナゴ、ツチイナゴ、ヤマトフキバッタ、ツユムシ、エンマコオロギ、アカスジキンカメムシの幼虫、センチコガネ、オケラ、ゲジゲジ、ヤスデ、ミミズ、カナヘビ等である。
 水道施設の鉄条網の早にえは期待倒れだったが、琵琶青少年の家までの谷戸田や雑木林の小道は賑やかで、花ではシロヨメナがたくさん咲いていた。種名を間違ってはいけないと、似通ったシラヤマギクとノコンギクとの違いをしっかりと予習して行ったから大丈夫だろう。蝶ではキタテハがたくさんいて、無尽蔵にある今年最後の野の花であるセイタカアワダチソウに、イチモンジセセリとともに群がっていた。その他、ヒメアカタテハ、アカタテハ、モンシロチョウ、キチョウ、ウラギンシジミ、ベニシジミ、ヤマトシジミが見られ、特筆すべきは、神奈川県で今年初めて観察するウラナミシジミに1頭出会った。蝶の写真を撮っている大変お世話になっているKさんが、今年はウラナミシジミが見られなくて寂しいと言っていたが、やっと関東地方にも登場となった。いったいウラナミシジミは、いつからいつ頃まで見られるのかと、かつて私が調べた横浜市港北区新吉田町の記録を見ると、9月初旬から11月末までで、一番多く見られるのが10月だった。はたしてこれからウラナミシジミは横浜市内まで北上できるだろうか。
 午後からは琵琶とは反対側の芳盛寺下の谷戸へ行った。今日は風はないものの抜けるような秋晴れだから、日が当らない北斜面を中心とした探索である。先日買った白色のビニール傘という手もあるが、野の花はキノコより背が高いから、出番は少ないと思って持参しなかった。芳盛寺の境内にあるヒャクニチソウは勢いを盛り返していて、生き生きとしてとても綺麗である。何か昆虫が休んでいたら傑作写真が撮れるぞと思って探してみると、花弁を食べているヤマトフキバッタとクダマキモドキが鎮座していた。しかし、残念ながら今一背景が汚らしいのでバスして、山裾の小道へ急いだ。たくさんあるヒョドリジョウゴは完全に花は終わって実は赤く色づき、ツリフネソウは花期が長いようでまだたくさん咲いている。更に前回気づかなかったが、サラシナショウマやヤマトリカブトもあって、写真は無理としても野の花好きにはこたえられない小道である。
 今日は夕日を撮るんだと意気込んで来たので、野の花の探索は早々と切り止め、車の中で身体を休めた後、七国峠へ向かった。遠藤原から七国峠にかけては、ここが神奈川県かと思う程の雄大な眺めが展開する。左より大山、塔ノ岳、、富士山、金時山、明神ケ岳、明星ケ岳、ニ子山が見渡せる。秋だけでなく他の季節もそうなのだろうが、落日の速度は信じられない位の速さで、しかも雲は刻々と流れて行くから「露出補正はどのくらいにしようか?」等と悠長に考えていたら、シャッターチャンスを逸してしまう。そんな訳で一段単位で露出を変えて、ばんばん撮っていたら、太陽が山の端にかかった時に36枚撮りのフィルムはThe Endとなってしまった。

<今日観察出来たもの>花/ツリフネソウ、サラシナショウマ、ヤマトリカブト、ナギナタコージュ、ミゾカクシ、ミゾソバ、イヌタデ、シロヨメナ、ヨメナ、ノコンギク、ノハラアザミ、タイアザミ、ヤクシソウ、ヤマハッカ、セイタカアワダチソウ、アキノノゲシ等。蝶/ウラナミシジミ、キタテハ、ヒメアカタテハ、アカタテハ、ウラギンシジミ、ベニシジミ、ヤマトシジミ、キチョウ、イチモンジセセリ等。昆虫/クダマキモドキ、セスジツユムシ、トノサマバッタ、コバネイナゴ、ツチイナゴ、ヤマトフキバッタ、ショウリョウバッタモドキ、アキアカネ、ナツアカネ等。その他/モズの早にえ(コバネイナゴ、写真下)、ヒヨドリジョウゴの実、カラスウリの実、スズメウリの実、ナガコガネグモ等。


10月20日、山梨県甲府市乙女高原

 「白樺林ってこんなに美しいものか!」と乙女高原に着いた時に先ず最初に驚いた。今まで何べんも来ているが、乙女高原の風景が特別美しいと感じたことは無かった。ただ、たくさんの高原の花が咲き、蝶が見られるから来ていただけだったのだ。しかし、今日の白樺林は感激するほど美しかった。抜けるような青空、時折横切る白い雲の塊、だいぶ葉を落としているとは言え様々な広葉樹は紅葉し、清々しい斜光が白樺の幹に当って、よりいっそう美しく輝かせている。青梅から来た熟年のグループに出会ったが、「乙女という言葉に引かれて来た」とい言うので、「何べんも来ているけれど、今日の乙女高原は最高ですよ」と言って心から感動しあった。乙女高原でさえこのように美しいのだから、八千穂高原の白樺林はうっとりと見とれてしまう程だろう。しかも、夏に様々な花が咲き乱れていたお花畑は、輝くススキの穂で埋まって、風が白波をたてている。
 こんな上天気では陰影がはっきり出るし、地面に木漏れ日が落ちて斑模様をつくるから、キノコの撮影には不向きなのでわ?と考えるのが普通だが、昨日、今日の晴天を予想して、秘密兵器を購入して来たのだ。それもたったの380円という安さだ。このHPでリンクさせて頂いている神奈川キノコの会のTさんが愛用している、白色のビニール傘だ。昨日、八菅山からこちらに向かう途中、コンビニに寄ったら運良く白色のものが置いてあった。傘の大きさは携帯性を考えて380円の一番小さいものにしたが、なるべく大きいほうが良いと後で分かった。この白色の傘でキノコに当る太陽光をカットしてしまって、薄曇のような光を当てようという訳である。だから透明や着色したものではだめなのだ。こんな秘密兵器があるから、後は憧れのベニテングタケを探すだけと、夏にキノコがたくさん見られた場所に最初に行って見た。覚えている方もいるかもしれないが、仮称バームクーヘンタケが生えていた場所である。この私の第六感は当って、なんと3本のベニテングタケをすぐ見つけ出すことが出来た。思わず「ヤッター」と心の中で叫んでしまったことは言うまでもない。しかし、背の低い熊笹の中に生えていたので、自然のままに撮りたいからあまりやりたくはないが、熊笹をナイフでカットして写しやすいようにしてから撮影した。もちろん予想したように、青空から降り注ぐ太陽光線がベニテングタケの傘に反射してしっとりとした情緒感を喪失させ、木漏れ日が地面に斑模様を作っていた。そこで380円の秘密兵器を開いて太陽光をカットすると、「当り前田のクラッカー」とばかりに、やんわりとした光となって雰囲気溢れる写真を撮ることが出来た。
 そんな訳でキノコを見つけると傘を被せて撮りまくったことは言うまでも無い。さんざんキノコやちょうど見頃のリンドウを撮って傘を差して駐車場に戻ると、「何にを撮ってるんですか?傘を差して」と不思議がられたので、駐車場の地面で実演してあげたら、「なるほど、さすが」と尊敬されてしまった。Tさんのお知恵を拝借して素晴らしい写真が撮れ、尊敬までされてしまったのだから、帰宅するとすぐに感謝のメールを送ったのは言うまでも無い。もっと、早く傘を買っておけば、前日、自分の影の中に入れて撮ったミゾカクシも、もっとやんわりと撮れたかもしれない。風さえなければ野の花にも応用できるとほくそえんだ。一度、ベニテングタケを見つけてしまうと、さすが長年フィールドで鍛えられた経験がものを言って、同じような場所、やや北向きの緩い傾斜の白樺林へ行けばまた見つかるだろうと、ゆっくりと昼食をとって思い当たる場所へ行って見た。案の定、また3本のベニテングタケを見つけることが出来た。その他、キノコの不作の秋にもかかわらず、アシナガタケ等のキノコも生えていて、乙女高原はキノコの観察には抜群のフィールドであることが判明した。
 最後に昨日泊まった勝沼の「勝沼ぶどう郷ユースホステル」のご主人は、私が良く行く舞岡公園の近くの舞岡高校の卒業生であることが分かった。先日、一人静さんと舞岡のKさんが、実は中学・高校の同級生で、30数年ぶりの涙の再会をこの目で見て来たが、こんな偶然が続くのなら、ひょっとしたら私にもあるかもしれない。例えば、中学一年の夏休みの宿題で昆虫採集を選んで、これ以上にないという展翅、展足をした美麗な標本を提出したら、なんと同級生の女の子のKさんが、クジャクチョウ等の憧れの蝶の標本を提出して、私の多摩丘陵の昆虫たちの標本は色あせてしまった。その頃、サラリーマンの師弟は夏の高原に連れてってもらえたようだが、自営業の父には、そんな洒落た旅行など思いつかず、道志川での川遊びが夏の最高のレジャーだったのだ。その時感じた「くやしー」という思いが、こんな素晴らしい道を歩ませることになったのだから、ぜひとも、そのKさんに再会したいものである。

<今日観察出来たもの>花/リンドウ(写真下)、マツムシソウ等。蝶/エルタテハ等。昆虫/ヤマトフキバッタ、イナゴ等。その他/秋の陽に輝く白樺林(写真左)、ベニテングタケ(写真右)、アシナガタケ等。


10月19日、神奈川県愛甲郡愛川町八菅山

 先日(10月17日)、とてもお世話になっている一人静さんとお仲間のお二人のご婦人が舞岡公園に来られた。こちらも運良くTさん、Sさん、Kさん、Nさんが都合がついて、火の見櫓の休憩所(瓜久保の家)は8人の自然好きでごったがえすという、舞岡公園でも前例をみないという大雑談会となった。この時の話題のトップは、Tさんが撮影したアケビコノハの幼虫である。一度見たら忘れられないグロテスクな姿は、自然界の不思議さを感ずるのにぴったりの存在である。Tさんは、「この虫に惚れ込んでしまった」と言っていたが、それはまこと同感で、これからはTさんのことを舞岡のファーブルと呼ばなくてはならなくなった。昼食をすませると、当然のことながら即席自然観察会となった。植物好きが多かったので、谷戸田へ行くと前回来た時に咲いていたアゼムシロ(ミゾカクシ)を探してみた。同行したSさんもKさんもここで見ていると言う。しかし、もう花期は終わったのか見つけることが出来なかった。アゼムシロは何処の田んぼの畦にも普通に見られる訳でもなさそうで、私が知っているのは黒川と八菅山である。しかも、その両方とも群生するわけでは無く、ほんの一群あるだけなのだ。珍しくは無いが見つけるのに苦労する不思議な野花、お好みの場所以外には生えない気難しい植物のようである。そんな訳で今日はアケビコノハとアゼムシロを探しに、まず八菅橋の上流の田んぼに行った。
 今日は雲ひとつ無い晴天で、秋の澄んだ空を邪魔物無しに通り過ぎた太陽の光は強烈だ。おまけに斜めから射すから、どす黒い影が長く出来る。こんな日は花の撮影には不向きと何べんも書いているが、アゼムシロを見つけると自分の影の中に入れて撮影した。形良く咲いているものが少ないと思って、帰って図鑑を調べてみると、花期は6月〜10月とある。もう終期を迎えていることになる訳で、生き生きとした花が少なかったのも頷ける。こんなに自然度の高い愛川町の田んぼでもアゼムシロが見られる所はわずかで、畦にむしろを敷きつめたように群生するからアゼムシロ、溝を隠すようにはびこるからミゾカクシと呼ばれているのにどうした訳だろう。図鑑を調べていたら、その姿からは想像がつき難いキキョウ科の植物とある。茎や葉をちぎるとキキョウ科ならではの白い乳液を出すとある。今度、お目にかかったら色々詳細に調べてみよう。さて、ミゾカクシは一応確認したし写真を撮ったからと、今度はアケビコノハの幼虫を探しに行った。どうしてだか分からないが田んぼの用水路のフェンスにアケビが絡まっている場所がある。かつてここで多数の幼虫を見つけたことがあった。しかし、アケビはほとんど無くなっていて、もちろんお目当てのアケビコノハの幼虫にもお目にかかれなかった。舞岡にもいるし、震生湖や葉山島でも出会っているし、先日、野辺山のローソンの灯かりに2頭の成虫がいたし、何処にでもいるはずなのだが、いかんせん目の届く所にアケビが少なく、あったとしても注意していないから通り過ぎてしまうのだろう。
 八菅橋上流部を一回りして、雲ひとつ無い晴天が災いしてか、これと言った成果は無かったものの、ちょっとしたことで元気一杯になるのが自然観察及び写真撮影の常である。八菅橋の駐車場に戻り乾いた喉を潤すと、今度は下流部へ行った。撮影はしなかったもののカラタチの実にいつものように気をとられる。だいぶ黄色く色づい来ている。青空をバックにして見ると実に美しい。たわわに実った柿園も大きな橙色の実が重そうに一杯ついている、今月下旬からもぎ取りが始まるようだ。前回来た時、とても美しいミヤマアカネの雄がたくさんいたので、200mmマクロを用意して来たのだが、今日はすすけた雌ばかりで雄がいない。やはり「いる時に徹底して撮るというのが、生き物相手の写真撮影の極意なのだ」と苦笑する。農家の庭先には筵にたくさんの落花生(写真右)やインゲンが干されている。炒って食べたらとても美味しそうだ。風もほとんど無く眠気を催す暖かい陽が差し込んで、寒い冬を前にした実りへの感謝の喜びの声が筵の上でささやきあっているようで、思わず一カット撮影してしまった。地元の農家の方々が植えているコスモス畑の前の農道に行って見ると、近所の農家の方々や子供たちがシートを敷いて酒宴の会が開かれていた。ここにも実りの秋への感謝の喜びが溢れていて、今日は自然観察及び写真撮影は後回しにして、まさに充実した秋を味わう一日となった。

<今日観察出来たもの>花/キクイモ、マルバルコウソウ、シュウメイギク、キバナアキギリ、ツリフネソウ、ミゾカクシ(写真左)、ミゾソバ、アキノウナギヅカミ、イヌタデ、ヨメナ、ノコンギク、タイアザミ、ヤクシソウ、ヤマハッカ、セイタカアワダチソウ、アキノノゲシ、コスモス、キバナコスモス等。蝶/キタテハ、ヒメアカタテハ、ウラギンシジミ、キチョウ、イチモンジセセリ等。昆虫/トノサマバッタ、クルマバッタモドキ、コバネイナゴ、ショウリョウバッタ、アキアカネ、ナツアカネ(写真下)、ノシメトンボ、コノシメトンボ、ミヤマアカネ、オオアオイトトンボ等。


10月18日、神奈川県平塚市土屋

 16日が雲ひとつない晴天であったため、アキノキリンソウを撮りに秦野市の弘法山へ行くことを日延べしたが、今日は曇り日だと思って喜んでいたのが、次第に晴れて来て風がややある。おまけに弘法山のアキノキリンソウやセンボンヤリ等がある斜面は草刈がなされて丸坊主である。もちろん他の場所を探せば野の花が咲いている所はたくさんあるはずだが、何だか拍子抜けしてしまった。おまけに長い棒の先に小さな鎌がついた道具を持った二人の方が斜面を掻き分けながら歩いている。キノコ採りに来たのだとすぐに分かった。これでは花はだめ、キノコもだめということになってしまうので、Uターンして平塚市土屋へ行った。こんな時は車はありがたく、目的地の近辺に良く知っている他のフィールドがあると助かる。ちょっと寄り道してしまったが土屋霊園の駐車場に10時に着いた。駐車場の回りにはスダジイが植えられている。もちろん小野路町のTさん宅にある巨木に比べると赤ちゃんだが、立派に実をつけ、この時期には駐車場にたくさん落ちている。以前は子供の頃食べた味が懐かしく、たくさん拾って良く食べたものだが、歳をとって味の好みが変わったためか、あるいは皮を剥いて食べるのが面倒になったためか、ここ数年食べたことが無い。今日も拾おうかなと一瞬食指が動いたが、それより写真と霊園内の小さな山に登って行った。
 ここは恐らく霊園を管理する方以外、誰も知らない野の花の宝の山なのである。ここで今日観察出来た花を列挙してみよう。コウヤボウキ、アキノキリンソウ、シラヤマギク、ノコンギク、オケラ、タイアザミ、ヤクシソウ、ヤマハッカ、リンドウ、ヤマハギ、ホトトギス等である。これらが幼稚園の運動場程しか広さが無い所にたくさん生えているのである。しかも、人の手によって植えられたものとは考えられないのだから素晴らしい。特にホトトギスは見事で、平塚市土屋の雑木林にはたくさんあって、このフィールドの秋の花の代表格である。そして、ここにはリンドウまであるのだ。今日は晴れていたのが嘘のように急に雲ってしまったので花は開いてなかったが、蕾はふっくらとしていたから、晴れの日には咲いていたことだろう。こんな野の花の宝の山を、また、盗掘が心配なリンドウがあるというに、このHPで紹介する気になったのは実は訳がある。、しかも本当に恐ろしい訳があるのだ。それはオオスズメバチである。良い按配に曇り空になったものの風があって、オケラを長時間粘って撮影し、立ち上がって歩き始めると、ブーンと羽音をたてて虫が左肩に体当たりして来た。何だろうカナブンかなと見上げると、オオスズメバチが目線の方向5m位で一匹静止飛行をしている。オオスズメバチが偵察に来て威嚇したのだ。「これはやばい」と物凄い勢いで逃げて難を逃れた。いつかは遭遇するかもしれないが「花虫とおるさん、虫に襲われる」なんて洒落にもならない。きっと何処かにオオスズメバチの巣があるに違いないと遠くから観察すると、ブンブン飛んでいる所は見当たらない。しかし、何処か近くにきっとあるのだろう。小学生の頃、オオスズメバチに追いかけられたことがあるものの、本当に久しぶりの出来事だ。そんな訳でこんなに素晴らしい野の花の宝の山にしばらくは近づけなくなった。
 オオスズメバチに体当たりされて野の花の撮影を断念せねばならなかったが、風が強くて撮影に梃子摺ったから時計を見ると12時を指している。平塚市土屋には食堂もコンビニも無いから、途中で買って来た弁当を車の中でぱくついていると雨が降って来た。今日は散々な目に会ったが、しっかりちゃっかり野の花の写真は確保したから早めに帰ろうと思ったが、フイルムがまだ少し残っている。撮りきってしまわなければと様子を見ているとすぐに雨が止んだ。しかも午前中の風が嘘のように無くなった。舗装道路を挟んで駐車場の反対側は、セイタカアワダチソウが見事に群落をつくっている。すこし空は暗いが風が無いから、この時期必ず撮りたくなる定番の群落写真を撮影した。これでフィルムは撮り切ったし帰ろうと歩き始めると、アキノノゲシがセイタカアワダチソウの黄色のバックに生えて咲いている。しかもそれだけでは無い、ツバメシジミ、ベニシジミ、キチョウ、イチモンジセセリがセイタカアワダチソウの花や他の草の茎にじっと静止ししている。こうなっては撮らなくては失礼ということになって、車に戻ってフイルムを詰め替えてばんばん撮ったら雨が本降りとなった。今日はなんと言うのか、物凄く怖いこともあったが、終わってみれば充実した一日となった。

<今日観察出来たもの>花/コウヤボウキ(写真下)、アキノキリンソウ、シラヤマギク、ノコンギク、オケラ、タイアザミ、ヤクシソウ、ヤマハッカ、リンドウ、ヤマハギ、ホトトギス、セイタカアワダチソウ(写真左)、アキノノゲシ等。蝶/ツバメシジミ(写真右)、ベニシジミ、キチョウ、イチモンジセセリ等。昆虫/オオスズメバチ等。その他/スダジイの実、トキリマメの実等。


10月16日、東京都町田市図師町〜野津田公園

 今日はアキノキリンソウ等を撮影しに、秦野市の弘法山へ久しぶりに行こうと思っていた。しかし、朝起きてみると雲ひとつ無い晴天である。こうなっては土曜日に稲の干してある谷戸の風景(写真上)を撮ろうと思っていた計画を前倒しにして、東京都町田市図師町の五反田谷戸へ行った。久しぶりの清々しい晴天だから、きっとたくさんのお仲間がやって来ていると思ったのだが、着いてみると誰もいない。最も、誰もいないほうが、人影が入ることもある風景写真には好都合ではある。ここの風景はさんざん撮っているから撮り尽くしてしまったのでわ? また、多くの人が撮っているから同じような写真になるのでわ?等と思ったが、それらを乗り越えて、まだ素晴らしい写真が撮れる筈であると視点を変えて挑戦してみた。こんな時は24mm〜120mmのズームレンズはとても重宝だ。このレンズ一本をカメラに付け、重たい荷物は撮影の邪魔にならない所に片付けて、まるで長靴を履いた猿飛佐助のように身軽になって、あっちこっち立ったり座ったりと縦横無尽に歩き回った。案の定、今までとは異なる風景写真を手にすることが出来た。かつて大学生の頃、写真家を目指して何べんも鎌倉通いをしたことがあった。行けば行くほど「絵」が見えて来るのだ。今日は風景写真だったが、花や虫だって、撮れば撮るほどに「絵」が見えて来る。何べんも撮っていると写真の神様のお情けで、お気に入りの写真を一枚位手にすることが出来るのだ。そうなると写真道の地獄に陥る訳だが、しばらくはそのお気に入りの撮り方でたくさんの写真を手に出来る。しかし、しばらくするとその撮り方に飽きて、違った撮り方をしてみようと挑戦するようになる。そうなるとまた一歩違った「絵」が見えて来るのだから、写真道は地獄道である。
 今日は縦横無尽に歩き回っても汗が出なくて疲れ知らずの快適な陽気だが、さすが絵にしようとする感覚は薄れて来た。そこでこんもりとした芝地で一休みしながら、「空澄みて、稲干す棚田、眺めつつ、人世の幸よ、ここにもあらん」等と下手な短歌を作っていると、皮工芸家のOさんがやって来た。「こんにちわ!お久しぶり!と互いに笑顔で挨拶し合った。彼に初めて会った時、見晴らしのよい場所で、ぼーっと辺りを眺めているだけなので、何をしているのだろうか?と不思議に思った。何回か出会った後に親しくなって話してみると、皮工芸の仕事は室内での座り仕事。仕事に疲れると身体のことも考えて、それに自然が好きだから野山に出かけて来るのだという。そうだ、もう二人奇妙な方々がこのフィールドにやって来る。昆虫が好きな虫愛でる姫君たちだ。真夏だというのに帽子もかぶらず、藪蚊に刺されても痒み止めを塗るわけではなく、衣服が汚れても一向に気にする事無く、歩き回って昆虫を中心とした生き物たちに触れ合って満足して帰って行く。私のように偏差値教育と金儲け主義のビジネス社会にどっぷり浸かって来た貧乏性の人間には、何らかの具体的なお土産の無い行為なんて信じられない。私にとってのお土産は写真なのだが、彼らにはそう言った具体的なお土産なんて何も無い。しいて言うなら精神的な充足という目には見えないお土産ということになるのだろう。より良い写真を撮りたいのなら、彼らのように何ら見返りを求めない、フィールド吹くの風、フィールドに射す日差しを楽しく味わう余裕が必要ではなかろうか。
 以上、何だか道徳の授業の先生になったようなことばかり並べてしまったが、今日観察したものの中で特筆すべきものがある。それは棚田奥の山裾に咲く紅紫色のシュウメイギクだ。このシュウメイギクは去年も同じ場所に咲いていて、写真仲間の間では不思議がられている。誰かが植えたのではなかろうかという結論に至っているのだが、家に帰って図鑑を調べてみると、人家の庭に植えられていたものが逃げ出して野生化したものも見受けられるとある。ことによったら何処からかやって来て、ここに逞しく根づいたのかもしれない。シュウメイギクは、もともと古く中国からの帰化種と考えられていて、キクと名が付くがキンポウゲ科の植物で、独特な花芯のまん丸な雌しべを見れば誰もが納得できるはずである。

<今日観察出来たもの>花/シュウメイギク、コウヤボウキ、カシワバハグマ、オケラ、ナンバンギセル、キバナアキギリ、ワレモコウ、ツリガネニンジン、アキノキリンソウ、セイタカアワダチソウ、ヨメナ、シラヤマギク、ナンテンハギ、ヤクシソウ、ヤマハッカ、ミズヒキ、ゲンノショウコ、イヌタデ、ミゾソバ、ノハラアザミ等。蝶/ヒメアカタテハ、キタテハ(写真下)、ヒメジャノメ、イチモンジセセリ等。昆虫/トノサマバッタ、アキアカネ等。


10月15日、神奈川県川崎市麻生区黒川〜小野路町

 今日は自然観察に出かけても観察記は書かないつもりでいた。なにしろ8月からフィールドへ行く回数が急に増え出し、もちろん、行けばとっても楽しいのだが、つれづれ観察記を書いたり、撮って来た写真を整理してHPに貼り付けたりと結構大変なのである。しかし、今日は書かなければならない発見があった。いつものように右手の谷戸に入り、車を小川の傍らに停めた。ここの小川のフェンスには、スズメウリやセンニンソウが絡み付いていて、特にスズメウリは何処に行っても少なく、また、絵になるように生えている所が少ないから、本当に大切な場所なのだ。スズメウリはすでに白く熟していて、これでは撮影する気になれない。もし、スズメウリがカラスウリのような鮮やかな橙色になったら、さぞかし素晴らしいだろうと思うのだが、そうなったら来る人に取られてしまって撮影にまで回って来ないだろう。センニンソウの果実もこれまた風変わりで面白いのだが、今日は今一絵にならないから、今度来た時にゆっくり挑戦することとした。畑には美味しそうなナスがたくさんなっている。アメリカイヌホウズキ等のナス科植物の親分格であるナスの花を撮ろうと、見かけるといつも挑戦するのだが、道端では限界があって涙を飲む日が続いている。畑の脇の草むらには、もう花期が終わったと思っていたハキダメギクが可憐に咲いている。このところ雨がたくさん降ったから、萎れかけていた植物が再び勢いを増して来た様だ。キクイモも再び花をたくさんつけている。しかし、ハキダメギクとは可哀想な名である。この名を付けたのは尊敬する故牧野富太郎博士なのである。博士は茶目っ気があってとても面白い方だが、この命名だけはちょっといただけない。なにしろ小石川植物園の掃き溜めで発見したから、そう名を付けたとあるが、この可愛らしい花を見ると、私ならミチバタコギク(道端小菊)とでも名を付けることだろう。そんな訳で今日はハキダメギクをミチバタコギクのように撮ってあげた。
 今日は薄曇で風も無く花の写真には絶好の日和だから、たくさん野花を撮って谷戸の終点まで行った。帰り道はオケラを探そうという事になって、なんとなくオケラが誘ったのか、ジュウニヒトエやニオイタチツボスミレが咲いていた春やヤマツツジが美しかった初夏以来、入ることの無かった美しい雑木林の小道を登って行った。この雑木林は持ち主によって、毎年冬になると落枝落葉が全て掃き清められるが如くに山掃除される雑木林なのである。しかし、夏になると下草が勢い良く伸びて薄暗くなり、何となく入りづらくなっていたのだ。それが入るや否やオケラが白い花を付けて咲いているではないか。見渡すと他にもかなりある。それに加えてオヤマボクチがにょきっと頭を伸ばして咲いている。しかも、タムラソウまで美しく咲いているのだ。また、コナラの根元を見ると普通種だが硫黄色のニガクリタケがにょきにょきとたくさん生えている。「えっ、ここが多摩丘陵?」と目を疑った。もう喜び勇んでシャッターをばしばし切った。こんな時って必ず誰かが来るものだが、雑木林を下って農道へ出ると、案の定、二人連れのご婦人が植物観察及びデジカメ撮影をしていた。「オケラやオヤマボクチ、タムラソウが咲いていましたよ」と教えてあげたら、是非見たいと言う事になって、また、先頭切って案内したことは言うまでも無い。先日、図師町の五反田谷戸で多摩丘陵の野花の撮影をライフワークにしているIさんに会った。氏の撮影した写真を見せて貰ったが、自然度100%の小野路町・図師町でも見られないものが、多摩丘陵の他のフィールドへ行けばたくさんある場合があると教えて頂いた。やはり黒川の雑木林にもたびたび入り込まねばなるまい。
 そんな訳で今日は黒川のフィールドの三分の一しか歩けなかったが、午後からはいつものように小野路町の午後コースを一回りすることにした。様々な昆虫が見られる万松寺谷戸の不思議な道端で、ヤブミョウガの実や咲き始めたばかりのヤクシソウ等を撮影していると、こう言っては失礼だが、陽が余り当たらない谷戸奥の痩せた土地で、毎日自転車でやって来て耕作している老人に出くわした。「ここに来るのは僕くらいでしょ」と笑って質問すると、「そうだな、本当に良く来るね。それにしても今日は寒いね」と言う。「黒川はこれほど寒く無かったよ。おじさんの畑はイチリンソウやニリンソウが咲く頃が一番。それにしても毎日おじさんも本当に好きだね」と茶化して言うと。「町場は空気が悪いし、金儲けのことばかり、ここは空気が良いから長生き出来るぜ」と真顔で言う。まさにこのようなおじさんこそ、本当のナチュラリストなのだろう。

<今日観察出来たもの>花/オケラ(写真右)、オヤマボクチ(写真左)、タムラソウ、サラシナショウマ、ノダケ、ツリガネニンジン、アキノキリンソウ、セイタカアワダチソウ、アメリカイヌホウズキ、マルバルコウソウ、シロヨメナ、ヨメナ、ノコンギク、アキノノゲシ、ヤクシソウ、ヤマハッカ、ミズヒキ、ゲンノショウコ、イヌタデ、ノハラアザミ、ハキダメギク等。蝶/キタテハ、ヒメジャノメ、イチモンジセセリ等。昆虫/アオマツムシ、ヤマトフキバッタ等。その他/ニガクリタケ(写真下)、ヤブミョウガの実、スズメウリの実等。


10月13日、栃木県鬼怒川河川敷

 今回もミヤマシジミの時と同じように観察場所をあいまいにするのは、先ずは蝶の撮影に精力的に取り組んでいるKさんに聞いた場所であり、首都圏では絶滅したツマグロキチョウだからである。誰かに手ほどきを受けた訳では無く、また、誰かに影響された訳でも無く、小学校の夏休みの宿題で昆虫採集を選んでしまったのが運のつき、徐々に深みにはまって、中学から大学2年まで昆虫採集に凝ってしまったという話は以前にも書いたと思う。また、その頃の採集場所は多摩丘陵の南端の現在の港北ニュータウン地域である。今から40年も前になるが、山栗がたくさん落ちている季節、自転車に乗って隣町の10月4日の観察記で紹介した新吉田町の倉部谷戸に行き、雑木林に通ずる坂道を登って行くと、キチョウより羽が厚ぼったく見えるツマグロキチョウがたくさん飛んでいた。そんな光景を今でも鮮やかに思い出すのだから、秋の心地よい日差しとともに、ツマグロキチョウの美しさが忘れられないのだろう。15年前に「昔とった杵柄」で蝶を中心とした自然観察を始め、もちろんツマグロキチョウはどうしても会いたい蝶の一つで、前述したように1989年に新吉田町の倉部谷戸で奇跡的な再会を果たすのだが、何しろ写真撮影も再開したばかりで、ポジフイルムには露出補正はつきものということも忘れ、しかも安易なカメラの構え方で露出不足のボケボケ写真となってしまったのである。私の本やこのHPをご覧下さる方に「どうして上手く撮れるの?」なんて質問を度々されるが、その度に「だって、撮り始めた頃の露出のおかしいブレブレ写真を見せて無いでしょ!」と答えている。15年間も毎週末、一生懸命に取り組んで、始めたばかりの方より上手く写真が撮れなくては、「何をしていたの?」ということになってしまう。
 そんな訳でツマグロキチョウに会いたいと各種の記録や資料をあさって、県内はもとより首都圏各地へ出向いたのだが、ずっと会えずじまいだった。そこで意を決して茨城県那珂郡那珂町へ行って、思う存分撮影したのが今から5年程前。それから毎年行くつもりでいたら、なんと死者も出た恐ろしい放射能事故があって行かれずに、久しぶりに去年行ったら環境が変わったのか、5年程前に行った場所には一頭だに見られなかった。そこでKさんに教えて貰ったのが今日の観察地となった鬼怒川の河川敷である。 Kさんが「キチョウよりたくさんいますよ」と言うので期待して、車を停めてすぐのセイタカアワダチソウが咲く草原に踏み込んだら、2頭もじっとしているではないか。しかし、絵になる場所には止まっていない。先ずは証拠写真とばかりに近づくが、三脚が各種の草に触れて逃げられてしまった。今日は雨が降りそうな曇り空、鮮やかにツマグロキチョウを撮ろうとベルビアにしたから、絞りを開け気味にしてもシャッター速度が遅くなる。三脚を立てて風が止むのをじっと待ち、レリーズで慎重にシャッターを切らねばならない。なんとか良い写真を撮ろうと盛んに歩き回ったのだが、曇りにしては異常に気温が高いからすぐに逃げられてしまう。咲き出したセイタカアワダチソウに盛んに吸蜜していて、とても良い写真になるはずだが、風が無いと言っても河川敷、いくら待っても揺れは止まらない。少しぐらい揺れていてもシャッター速度が早ければ、ハガキ程度に伸ばしても止まったように見えるはずである。しかし、妥協を許さないから、シャッターを切る前にツマグロキチョウは他の花へ飛んで行ってしまうのだ。
 Kさんが、私が那珂町で写したツマグロキチョウは羽裏の色が濃く、三本程ある茶褐色の筋も色濃いと言っていたが、確かにこの場所のツマグロキチョウは淡い色をしている。場所によってこんなにも色が違うのかというのも大発見である。何とか数枚は証拠写真のようなものは撮ったのだが、草むらには蚊もうようよしているし、三脚の足が草や蔓にとられて「逃げられる。追いかける」の繰り返しで、長靴の中はゴミだらけ、トレパンには待ってましたとイノコズチがびっしりと付く、こうなったら土手にもいるのではないかと行ってみると、数は少ないものの飛んでいる。しかも、刈り入れの終わった田んぼの土にも吸水している。こんな場面は揺れないから撮影はいたって楽で数枚撮ったが、やはりツマグロキチョウはセイタカアワダチソウがお似合いと、また河川敷の湿地に舞い戻り頑張ったのだが、昨夜の天気予報「昼前から昼過ぎは雨」が当って、きっちり11時半になったら雨が降って来た。今晩何処かへ泊まってもう一日と思ったが、明日も天気が悪いようだ。まだ、東北自動車道は渋滞していないと言う。後ろ髪を大いに引かれたが、「来年また来るからね」とツマグロキチョウに挨拶して、地元のりんごを農協で買ってお土産とし、一目さんに東京目指して帰路に着いた。

<今日観察出来たもの>花/セイタカアワダチソウ、アメリカイヌホウズキ、アカツメクサ、ノコンギク(写真左)、ワレモコウ等。蝶/ツマグロキチョウ(写真下)、キチョウ、モンキチョウ、モンシロチョウ、ヒメアカタテハ、キタテハ、イチモンジセセリ、ウラギンシジミ、ツバメシジミ等。昆虫/ミヤマアカネ、アキアカネ、ノシメトンボ、オオカマキリ等。その他/ノイバラの実(写真右)。


10月12日、埼玉県滑川町国営武蔵丘陵森林公園

 今日は久しぶりに森林公園へ行った。「今年は森林公園へフクジュソウを写しに2月に行ったっきりで、ずっと行っていなかった。何故行かなかったのだろう?」と、疑問に思うほど森林公園はとっても楽しい公園である。いつものように中央口から入ることにした。森林公園は恐ろしい程の広さの公園だから、くまなく歩くことなど、一日では不可能である。じっくりと観察しながらすべてをくまなく歩いたら、丸4日間はかかるだろう。そこで観察対象や撮影目的に応じて南口、西口、北口、中央口を選ばなければならない。今日はコスモス等の花壇の花が目的だから中央口を選んだ。公園の駐車場は高いので農家の経営する駐車場に車を停める。なんと開園から閉園まで一日停めておいて、たったの300円なのである。数年前まで、この時期の森林公園は広大なコスモスが咲き乱れて有名だったのが、どうした訳か今はその場所(運動広場)に秋の七草がたくさん植えられている。入場口の女性に「じゃ、コスモスは何処に咲いているの?」と質問すると、「ここだけです」と入ってすぐの植え込みを指さす。「えっ、ここだけですか」と言って落胆するが、今日は花の撮影には最適な薄曇で風が無風に近い状況だ。蝶や昆虫と異なって花は逃げたりしないから、風がなければ構図をしっかり考えて、前ボケ、後ボケ等を取り入れたりして、様々な角度から撮影すればなんとかなる。最も数が極端に少なければお手上げだが、それを可能にする位のコスモスが咲いている。あまり多くて目移りするより、この位の方が良いかもしれない。
 コスモスを写すと舗装された道ではなく、かなり急な小道を登って行く。ここはちょうど雑木林のヘリの草原のような環境で、各種の野の花が咲く所だ。すこし上ると人工的に作られた浅い池がある。ここでは余り見られなくなった田んぼや沼の植物が植えられている。アサザ、コウホネ、ヒルムシロ、トチカガミ、ミズアオイ、コナギ、オモダカ、ヘラオモダカ、ヒシ、ガガブタ等である。今日はちょうどカガブタが咲いていて、5片に分かれた花弁に白い綿毛が密に生え、中心部は黄色く色づいている。とても小さくて可愛らしいが、ずっと眺めていても飽きないという不思議な魅力を持った花である。この池にはアジアイトトンボやショウジョウトンボ等も見られるのだが、生憎の天候か時期はずれのため、トンボの仲間はみられなかった。また、少し登ると雑木林の中にクサギの実が、今朝の雨に濡れてしっとりと魅力的に招いている。カメラを向けると風もないし雑木林の木漏れ日で玉ボケも美しい。三脚を目一杯伸ばし、センターポールも使うという不安定な設置だが、レリーズを使って慎重にシャッターを切った。
 また、しばらく行くと大きなシマラヤ杉の林に出る。ここはキノコがいつでも見られるという不思議な場所だ。今日は大型のモミタケがたくさん生えていたが、今一絵になるものがなくて、残念ながら通り過ぎる。しかし、森林公園は多摩丘陵とは異なって、キノコがいくらかは期待できると思わせるのには充分だった。そこでモウソウ竹の林の中に入って目を光らせたのだが何も無った。こうなっては花壇の花だと植物園に足を早めた。植物園には各種のハーブやホトトギス、シュウメイギク、サフラン、コルチカム等が咲いていたが、今一撮影する気にならず、キノコがありそうな場所へ行ってみると、釣具の上州屋さんのバーゲンで買った私の長靴なんか問題にならない立派なアウトドア用の長靴を履いた方にめぐり合った。その格好と三脚と50mmマクロレンズとくればキノコに決まっている。「何を撮影なさっているのですか?」と一応聞くと、当たり前だが「キノコです」という答えが帰って来た。「何か絵になるキノコがありました?」と聞くとだめだであると言う。足立区から来たというが、やはり今年は全国的にキノコが不作であると言っていた。
 食事をすませると野草コースへ歩いて行った。途中、今まで見たことも無い広大な目が覚めるような各種のコリウスの植え込みがあって、さかんにカメラを向けてる方がいたが、花では無い園芸植物なのでバスをした。それにしても、植物園から野草コース入り口まではかなりの距離だ。途中、オオカマキリを襲って食べているオオスズメバチを見て、ぞっとしたりという収穫はあったものの、やはり園内循環バスに乗るべきだったと、くたくたになった。野草コースに入ると、初夏にベニランがたくさん咲く場所へ行ってみた。なんとなんと紅色ではないが、たくさんのテングタケがお待ちかねではないか。歩き疲れたのが嘘のように元気になった。見ると何本かは倒れている。人間の仕業? 聞いた話によるとタヌキもカラスもキノコを食べるという。しかし、猛毒のキノコだから彼らの仕業では無さそうだ。倒れたキノコを手にとって見ると、センチコガネが柄の元にもぐり込んでいるではないか。銅がね色の金属光沢を持つセンチコガネが、こんな悪さ(食性)をするとは今まで知らなかった。思う存分久しぶりにキノコらしいキノコを撮影すると、最後に秋の七草が植えられている運動広場へ行った。秋の七草は、確かキキョウ、オミナエシ、フジバカマ、ススキ(オバナ)、ハギ、クズ、ナデシコ(カワラナデシコ)だったと思うが、クズだけは植えられてなく、そのかわりかワレモコウがたくさんあった。びっしりと植栽されたフジバカマに一頭のアサギマダラが緩やかに舞い、キキョウがこんなにたくさん咲いているのが嬉しなって思う存分撮影したら、もう帰りの時間となってしまった。本当に、いくら時間があっても足りない楽しさ一杯の森林公園であった。

<今日観察出来たもの>花/ガガブタ(写真右)、シラヤマギク、ヨメナ、ノコンギク、ヤマハッカ、カシワバハグマ、ワレモコウ、コウヤボウキ、キクイモ、ヤブマメ、ヒガンバナ、ミズヒキ、ゲンノショウコ、イヌタデ、ノハラアザミ、キキョウ(写真左)、オミナエシ、フジバカマ、ススキ、ハギ、ナデシコ、コスモス、各種ハーブ、ホトトギス、シュウメイギク、サフラン、コルチカム等。蝶/アサギマダラ、キタテハ、イチモンジセセリ等。昆虫/オオカマキリ、オオスズメバチ、センチコガネ等。その他/テングタケ(写真下)、モミタケ、クサギの実、コリウス等。


10月11日、横浜市緑区三保町

 今日は自然観察と写真撮影を始めた頃、前に紹介した港北区新吉田町と同じく5年間も毎週末通った緑区三保町へ行って来た。秋だからちょっとしたセンチメンタル・ジャーニーと言うことなのだろう。この辺りは横浜市の上水道が通っているために、自然がたくさん残されている地域である。四季の森公園と新治市民の森に挟まれていて、最近、その存在が薄れつつあるが、ちょとした深山気分を味わえる「三保市民の森」もあるのだ。また、ズーラシアと言う動物園が出来たために、緑地はかなり削られたものの、旭区の上白根町と川井宿町にまたがる地域もとても良いフィールドである。車で出かける方は、土・日にしか利用できないが三保市民の森に無料駐車場もあるから、ここを利用すると安心だ。この地域は三保市民の森を除いて、これと言ったコースは無く、民家、農家、畑、雑木林、休耕田等をあの道、この道、ぶらぶら歩いて、面白いもの絵になるものを探して歩くという、言うなれば「里ぶら」である。今日は車を新治町に停めて、先ずいつもこの時期に美しいコスモスがたくさん咲く畑に行った。途中、大雨が降った時に水を蓄える遊水池には、背の低いセイタカアワダチが各種のイネ科の植物と混じって群落を形成している。これはちょっとした低湿地を見るような景観である。しかし、今日も風が少し強くて、咲き始めたセイタカアワダチソウも畑のコスモスも撮影することが出来なかった。その遊水池の傍らに大きなピラカンサがあって、ようやく色づいて来たし、来週末がセイタカアワダチソウの見頃のようだし、秋が急速に深まりつつあるのが感じられる。
 なるべく車の往来が激しい道路を避けて、三保市民の森まで行くのが午前中の今日のコースだが、民家の庭には赤や白のシュウメイギクやホトトギスが咲いている。今年、ニシキギで大発生のキバラヘリカメムシが、ツルウメモドキにもたくさんついているだろうと、畑に植えられているものを覗いて見ると、案の定、たくさんいてにんまりする。どうしてだか分からないが、15年以上も前から棚を作ってツルウメモドキを栽培している。そんなことから幹は信じられないくらいに太くなって実に見事である。家へ帰って図鑑を調べてみると、赤く熟した果実が美しいので観賞用に植えられると書いてある。また、果実は花材、蔓はリースに使われるともあるが、ここの畑の持ち主は後者の目的で栽培しているようには思われない。いずれにしても、この道を歩く時の楽しみを提供してくれて大助かりである。緑区三保町でも新吉田町と同様にたくさんの傑作写真を撮らせて貰った。サンジャクバーベナに吸蜜するアゲハ、ハルジオンに吸蜜するミヤマセセリと懐かしい蝶の写真が一杯ある。そんな思い出の傑作写真を撮った場所をあちこち寄り道して、ようやく三保市民の森へ着いた。水飲み場やトイレ、ベンチのある広場へ行く途中の、草刈がしばらくなされていない空き地に、びっしりとイヌタデが群落を作って一面赤紫でとても美しい。所々に大きな株のアメリカイヌホウズキが生えていて、ナスの花を白く小さくしたような花がたくさん咲き、ようやくまん丸の緑の実も見られるようになった。このアメリカイヌホウズキ、ヒヨドリジョウゴ、ワルナスビは、ともにナス科植物で花の形も実の形も似ているのだが、ヒヨドリジョウゴだけが人気で、誰からも振り向きもされないのがアメリカイヌホウズキであろう。
 昼食を済ませると、ずっとホームページの大改造で寝不足気味なので、車の中でかなり長い間の昼寝をした後、今度はキノコの森に行って見た。途中、かなり広い面積に背の低いセイタカアワダチソウの群落があって、ベニシジミ、ヒメアカタテハが花穂に止まって休息しているのだが、それ程気温が低くくはないためか、90mmのマクロレンズで近づくと逃げてしまう。各種のセンダングサの仲間もたくさん咲いていて、こちらの方には、この花が大好きなキチョウやヤマトシジミが吸蜜している。いつもならウラナミシジミも仲間に入っているのだが、今年の異常気象のために、横浜まで北上できなかったようである。このフィールドには他のフィールドではあまり見られない、白い花弁を持つコシロノセンダングサがたくさん生えている。しかし、花弁が邪魔なのか蝶はこちらには寄ってこないで、花弁の無いコセンダングサが大のお気に入りの食堂だ。本来なら今がキノコの最盛期、楽しい観察と美しい写真がこのHPを飾るはずだったが、多摩丘陵にはめぼしい絵になるキノコがほとんど見当たらない。梅雨時にいくらでもキノコが見られたキノコの森ならと期待したのだが、ほとんど皆無に近い状況で、変わって大型のヒカゲチョウであるクロコノマチョウが数頭飛び出して来た。梅雨時に「キノコの森」と名を付けたが、夏は「カブトの森」になって、今度は「クロコノマの森」となった。

<今日観察出来たもの>花/コシロノセンダングサ(写真左)、セイタカアワダチソウ、アメリカイヌホウズキ、マルバルコウソウ、マルバアサガオ、シロヨメナ、ヨメナ、ノコンギク、アキノノゲシ、ヤクシソウ、ヤマハッカ、ヤブマメ、ミズヒキ、ゲンノショウコ、イヌタデ、ノハラアザミ等。蝶/ヒメアカタテハ、アカタテハ、ツマグロヒョウモン、ヤマトシジミ、クロコノマチョウ、イチモンジセセリ等。昆虫/オジロアシナガゾウムシ、オオカマキリ、ハラビロカマキリ(写真下)、ササキリ、アキアカネ、ウスバキトンボ等。その他/シラカシの実(写真右)等。


10月9日、東京都町田市小野路町・図師町

 昨日の朝日新聞神奈川版の「花めぐり」というコーナーでオケラが紹介されていた。しかし、待てよ!説明文はオケラだが、写真の花はどう見てもカシワバハグマなのである。これは著者のうっかりミスで、きっと朝日新聞社横浜支局の電話に植物好きからの電話が殺到し、著者も新聞社からお叱りを受けたかもしれない。こういう私も蝶の本でウグイスカグラをウグイスカズラと、花の本でタケニグサをニガナとうっかりミスをしてしまった苦い経験がある。しかし、私は間違えても、頭を掻きながら「すいません」と笑って済ませるウィークエンド・ナチュラリスト。専門家やナチュラリストではないのだから気楽なものである。坊主と乞食は一度やったら止められないと言うが、ウィークエンド・ナチュラリストも一度やったら止められない訳で、一生、専門の写真家やナチュラリストになるつもりがないのはこのためである。そんな記事を目にしてしまったので、オケラとカシワバハグマをどうしても撮りたくなってしまって、本業をサボって、また今日もフィールドへ出かけてしまった。カシワバハグマは何処にでもあるとしても、オケラはなかなか生えていないのである。一番良いのは秦野市の弘法山や渋沢丘陵、平塚市土屋なのだが、例の東名高速集中工事やらで渋滞が心配されて行かれず、小野路町・図師町へ行った。それに愛車「小野路号」のみならず私自身も、一週間に一度行かないと、心も体調もすぐれなくなってしまうのだ。心病んだ時、心疲れた時、小野路町・図師町は完璧にそれを癒してくれ治してくれるという名神経科病院なのである。
 そうは言っても今日はピーカン、そして風も相変わらず強い。こうなるとオケラやカシワバハグマのみならず、ひなたの野の花を美しく撮るのは難しい。そこで今日は稲刈りがすんで稲を干してある谷戸田風景(写真上)を写そうという事になった。小野路町へ着くと野菜の無人販売所が再開していて嬉しくなった。なにしろ心無い方によって並べてある野菜が盗まれてしまったので、しばらくの間、休業中であったのだ。久しぶりなので千円札を出して10品も購入した。ホーレンソウを二束、キュウリ、アカカブ、カブ、ピーマン、シシトウ、ホーレンソウ、コマツナ、ナス、インゲンを各一束の10品である。これらをスーパーで買ったとしたらの差額で、往復のガソリン代は出るし、新鮮で美味しい料理も食べられ、家族の絆も強くなるのだから一石三鳥である。買った野菜が傷まないようにと車を日陰に止めて、雑木林に向かう舗装道路を歩いていると、ツヅレサセコオロギがものすごい早足で現れた。何だろうと思ったら、それを狙ってニホントカゲが追いかけて来たのだ。しかし、私の出現をニホントカゲはすばやく察知してUターンし、道路脇の草むらに逃げ帰ってしまった。ツヅレサセコオロギ君には悪いが、パクリとやられるところを見たかった。先日、五反田谷戸で久しぶりに出会ったYさんは、この緑地で手に入れたマムシを飼っていて、ペットショップでマムシ向きの大きさの冷凍のネズミを買って来て与えていると言うのだが、そのパクリの現場を見てみたい気もするが、目をそむけたくもなるという、何とも言えない肉食動物の食事風景である。
 肉食動物と言えば昆虫ではカマキリが有名である。雌が雄を食べてしまうということになっているが、それは本当だ。しかし、ごく少ない事例だと言う事になっている。そのカマキリ(チョウセンカマキリ)が、田んぼにさしてある竹の棒の先によじ登っていた。一匹なら日向ぼっこのために上って来たんだと思って通り過ぎるところだったが、もう一匹も同じような場所によじ登っていた。おかしいなと思いつつ、しばらく眺めていると、アキアカネが竹の棒の先に止まろうとするではないか。それをあの鋭い鎌を伸ばして取り押さえようとする。何処かで書いたと思うし、みんな知っているようにアキアカネ等のトンボの仲間は棒の先にテリトリーを張る習性があるのだ。カマキリはこのアキアカネの習性を知っていて、竹の棒に登って先端近くで息をひそめていたという訳なのである。うんうん頷いて、これはこれはすごく頭が良いと納得するに至った。しかし、アキアカネも目が良い昆虫だから、そうやすやすとカマキリの鎌にかからぬようである。高原から戻って来たアキアカネだが、平地の方がジョロウグモ、ナガコガネグモ、オニヤンマ、カマキリと天敵が多すぎるのではなかろうか。でも今朝、長野県の菅平では氷点下を記録したというから、高原では凍え死んでしまうことになる。何処へ行っても安住の地が無いのは、我々現代人のようである。

<今日観察出来たもの>花/シラヤマギク、シロヨメナ、ヨメナ、ノコンギク、ヤマハッカ、カシワバハグマ、オケラ、ワレモコウ、コウヤボウキ、キクイモ、ヤブマメ、ヒガンバナ、ミズヒキ、ゲンノショウコ、イヌタデ、ノハラアザミ、タイアザミ等。蝶/ヒメアカタテハ、ウラギンシジミ、ムラサキシジミ、ヤマトシジミ、ヒメヒカゲ等。昆虫/カマキリ(写真下)、コバネイナゴ、オンブバッタ、セスジツユムシ、ササキリ、アキアカネ、ヒメアカネ等。


10月8日、神奈川県鎌倉市大船植物園〜横浜市港北区新吉田町

 今日は雨のはずだったが、起きてみると曇り日だ。雨だったら遠征帰りで疲れているし、たくさん溜まった本業の仕事や写真の仕事をしようと思っていたのだが、シャッターが押せるとなると出かけないと落ち着かない。言わばこれは一種の病気で、タバコが止められないのと同じで、恐ろしい自然観察病、写真撮影病の中毒症状なのだ。自分の症状はいたって強く現れることは認めるものの、フィールドで良く会うご婦人も「しばらく行かないと、心も身体もおかしくなる」と言っていたから私特有の病ではない。また、どうして自然観察や写真撮影がそんなに面白いのかを説明するのも難しい。タバコを吸わない方にタバコの味を説明できないのと同じである。それにしばらく行かなかった秋の園芸品種の花々を撮りたくなっていたのだ。そこで大船植物園か相模原公園へ行こうと思っていたのだが、なかなか曇り日で風が弱い日がやって来ない。このところ毎日のように風が強く吹く。ウォーキングやハイキングなら肌に心地よい風だと思うが、花が揺れて困るのである。例年なら無風に近いぼんやりするくらいの晴れの日があるものだが、今年はやはり異常に風が強いのではなかろうか。それとも小春日和と呼ばれるような日は、まだ先のことだったのかなと記憶を引き出そうとするのだが、老朽化した脳細胞は活発に記憶を呼び起こしてくれない。歳を重ねるとは困ったことである。
 今日も風が強いから海に近い大船植物園や相模川に近い台地上の相模原公園も写真撮影には不向きなのだが、どちらかへ行って秋の園芸品種の花を撮りたいという欲望に対して、そんな理由は馬の耳に念仏だ。しかし、困ったことだが必要である東名高速集中工事とかいうのが始まっていて、並行する国道246号線も渋滞気味とのこと、こうなったら大船植物園に一直線となった。先ず最初にバラ園に行った。バラはご承知のように年に2回の花期があるので、秋バラにはちょうど良い頃だと、去年の観察記録を見ずに出かけたが、見頃は10日ないし2週間後のようである。家に帰って去年の観察ノートを開いて見ると10月下旬が見頃で、11月初旬でもまだ咲き残っていたようだ。しかし、バラの花だけは最盛期に行っても、大船植物園の5倍は広い神代植物公園のバラ園に行っても、高島屋の包装紙の絵柄のような綺麗に巻いたバラにお目にかかれるとは限らない。今日は花期にはまだ早いのだが、一輪だけ綺麗に渦を巻いたバラが咲いていた。これは本当にラッキーなことなのだ。風待ちで三脚にカメラをセットし、電子レリーズをつけてチャンスを待っていると、「すみません、カメラを覗かせて下さい」と花が好きな中年の紳士に頼まれた。「どうですか? このバラは本当に形が良いでしょ」と言って、前述した美しいバラの条件を説明した。紳士はファィンダーを覗いた後、ぐるっとバラ園を一周して来て、まだしぶとく風待ちの私に、「本当ですね。綺麗に巻いているバラは他になかった。今度、バラを見る時の楽しさが増えました」とお礼まで言われてしまった。この美意識は独断偏見なのかもしれないが、中年の紳士も同意してくれたのだから、まんざら独りよがりのものでもなかろう。
 大船植物園はコスモスも見頃で、その他、黄色いスカシユリがたくさん咲いていた。その花弁にイチモンジセセリやオンブバッタが休んでいて、黄色の花弁をバックにおしべの茶褐色のやく、そして昆虫を配すると素晴らしい写真になるのだが、いかんせん、ずっと待っても花を支える棒を持って来ても、スカシユリの揺れは止まらない。おまけに気温が低くて風があるという状況で、身体がすっかり冷え切ってしまった。こうなったらいたずらに駐車料金がかさむ大船植物園を後にして、昼食をとるついでに自宅近くの新吉田町へ行った。ここでももちろん風は強かったが、なんとかコスモスの写真を撮ることが出来た。昆虫では羽化したての美しいツマグロヒョウモンの雌が風に乗ってひらひらと舞い。どこかに止まってくれないかとずっと目で追ったのだが、まるで風に舞う枯葉のように舞い続けて遠くへ行ってしまった。ツマグロヒョウモンは関東地方に完全に定着し、舞岡公園で良く会うKさん宅のパンジーやビオラの葉を幼虫が食べているという。ことによったら、このHPに投稿なさってくれたBさんの言うように、アカボシゴマダラも関東地方に定着するかも知れない。野生とは温室育ちの者には想像がつかない逞しさなのだ。

<大船植物園で今日観察出来たもの>花/バラ(写真上)、コスモス、シュウメイギク、スカシユリ、サザンカ、ツクシハギ等。昆虫/イチモンジセセリ、オンブバッタ等。
<新吉田町で今日観察出来たもの>花/キクイモ、ヤブマメ、ヒガンバナ、ミズヒキ、キンミズヒキ、ゲンノショウコ、イヌタデ、ママコノシリヌグイ、コセンダングサ、コスモス(写真下)、キバナコスモス、オシロイバナ等。蝶/ツマグロヒョウモン、ヒメアカタテハ等。


10月6日、長野県南佐久郡南牧村野辺山八ケ岳高原

 「とても面白い」、10月初旬の高原を歩いてみて感じたことは、その言葉に尽きる。目的のベニテングタケは今年のキノコの不作のために見られなかったが、シラカバやカラマツの遊歩道を散策するのはとても風情がある。高原に避暑に来ている方が帰って静かになっためではなく、本格的な紅葉はまだだが、見渡した所すべてが秋色なのである。今まで高原と言えば、キベリタテハやヒメオオクワガタを探しに行った9月中旬までだったが、自然観察にキノコが加わったが為に、こうして10月初旬に初めの高原散策が楽しめた。まず、多摩丘陵では希少種となっているリンドウやセンブリが、車を停めた駐車場の周辺や舗装道路の脇にもたくさんあるのには驚いた。今日は生憎の曇り日だったので花は開いていなかったのは残念だが、キノコの撮影日和と喜んでいたのだからいたしかたあるまい。昨日、清里ユースホステルに着いてペアレントの方と話していたら、地元紙の山梨日日新聞に、今年の県内のキノコはとっても少ないと書いてあったと聞かされた。しかし、高原では普通種であるはずのベニテングタケだから一本見れれば良いのだと、それを打ち消したわけだが、多摩丘陵程ではないにしても数種類のキノコしか生えていなかった。こんな遠くまで来て目的のものが見られなくて落胆するのが普通だが、それを「とても面白い」と変えてくれたのは、秋の野の花である。なんと数は少なかったが、ウメバチソウの白い花にもお目にかかれた。
 そもそも今日のフィールドは、女房から聞いた場所である。親戚に音楽一家がいて、音楽に関係する施設があると必ず尋ねて行く習性がある。まるで自然観察によさそうな公園があると、必ず尋ねて行く誰かさんのようである。今日のフィールドは、正式には長野県南佐久郡南牧村の高原野菜で有名な野辺山にある八ケ岳高原ロッジ周辺である。ここには音楽堂があるので、親戚の音楽一家が尋ねて行ったのも頷ける。かの有名なチャイコフスキーのピアノ協奏曲第2番を演奏させたら、世界でこの人をおいて右に出る者はないと言われるピアニストのスヴャトスラフ・リヒテルやスメタナ弦楽四重奏団もやって来たと書いてあったので、音楽関係の方には著名なのだろう。そこで良い所だからと女房も連れて行ってもらった訳で、そこまではよくある話なのだが、音楽堂のシラカバ林にベニテングタケがたくさんあって写真まで写して来たのである。ベニテングタケは童話の白雪姫等に登場する真っ赤な傘に白いナッツのかけらを散らしたような格好だから、女性も「まぁ、可愛らしいキノコ」となって、パチリとなる。女房に探せたのだから、そしてまあまあ見られる写真を撮って来たのだから、この私が行って写したら、「世の女性たちを夢見る気分にさせる作品が撮れるのでわ」と思ったのだ。しかし、自然はそんな思い上がった高慢ちきな思いを打ち砕くかのように、一本だにベニテングタケを見せてはくれなかった。「まだ、10年早いよ」と、地下でベニテングタケの菌糸が笑っていることだろう。
 秋の野の花だけではなく、とっても面白いとさせてくれたのは他にも二つある。その一つが真っ赤な実をつけたマムシグサである。花風景という花の写真の一ジャンルを確立した、尊敬する写真家の夏梅陸夫さんの写真の中に、確か小淵沢で撮ったと記憶しているマムシグサの写真が印象的だった。花が咲いている時と実が赤く色づいた時のものと両方あったと思うが、その印象的な光景が散策していて眼前に現れたのだ。とっても嬉しくなったのは言うまでもない。また、八ケ岳高原ロッジにはレストランもあるのだが、長靴にトレパンの谷戸散策スタイルで、一番安いカレーライスを食べに行くのも失礼かと思い。国道141号線に戻ってローソンへ行ったら、何と24時間の明かりに魅せられて飛んで来た、アケビコノハ、クスサン、ヒメヤママユを発見した。どれもこれもそう簡単にはお目にかかれない大型の美しい蛾である。車の中でカレーライスをぱくついていると、様々な山、横岳、赤岳、甲斐駒ケ岳、北岳、間ノ岳、鳳凰三山、富士山、金峰山等が見えて、みんな昨夜の降雪が山頂付近を真っ白にお化粧させていた。どうりで寒いわけである。飯盛山や天女山へ登ったら、とても素晴らしい光景を目にすることが出来るだろう。雪が高原に下りてくれば沈黙の長い高原の冬が始まる。

<今日観察出来たもの>
花/ヤマハハコ、アキノキリンソウ、ノコンギク、ツリガネニンジン、マツムシソウ(写真下)、センプリ、リンドウ、ノダケ、ゲンノショウコ、ワレモコウ、ウメバチソウ、ヤマトリカブト、ヤマラッキョウ、ノハラアザミ等。昆虫/アケビコノハ、クスサン、ヒメヤママユ、イチモンジセセリ等。その他/マムシグサの実(写真右)、メギの実、キノコ5種類位(写真左)等。


10月5日、神奈川県愛甲郡愛川町八菅山


 コスモスで有名な所と言ったら数多くあって、近場ならば立川にある「国営昭和記念公園「や横須賀の「くりはま花の国」等が有名だが、私がたびたび行くフィールドでは八菅山の麓が一番である。今晩は清里に泊まるのだから、中央高速に近いこのフィールドを例によって選んだ。いつものように八菅橋の袂の駐車場に車を停めて、下流右側の田園地帯に行った。すぐに地域の高齢者が管理する花園に、色とりどりのコスモスが咲いていた。そればかりか夏からずっと咲き続けているキバナコスモスも混じっていて、パステル調の様々な色合いに包まれると、まるで遠い夢の国に来たような錯覚を受けた。緑滴る八菅山をバックにするコスモスもまた格別である。今日は風が弱いからコスモスの撮影日和と頑張ったのだが、中津川に面した所だから川風があって、やはり撮影に苦労する。まだ、時間も早く、このところ定着した涼しさもあってか、地上で羽を開いて身体を温めているヒメアカタテハも多数見られた。いつものようにカラタチの植えられている畑に行くと、実は黄色に色づき始めている。畑の土留めとして横たえてある材木やモウソウチクには、美しく色づいたミヤマアカネが止まって暖をとっている。多くの異論はあるかもしれないが、アカトンボの仲間ではミヤマアカネが一番である。最近、多摩丘陵等の平地のフィールドで目にすることが少なくなったが、川崎市の黒川で観察しているので、気をつけていれば、きっと出会えることだろう。ただし、アキアカネに良い場所を占領されてしまって、片隅のような狭い空き地にテリトリーを張っている。
 八菅山の麓は果樹栽培も盛んで、柿の実を収穫する農家の方も見られた。いよいよ「柿食えば、鐘は鳴るなり、法隆寺」の季節となった訳である。道端自然観察及び写真撮影に精を出していて行く暇は無いものの、法隆寺の五重の塔をバックにした柿の実を撮りに大和路を散策したいものである。何と言っても橙色に色づいた柿の実は、平地の秋の風物詩のトップとも言える。しかも熟した柿の実には様々な蝶がやって来る。主なものとしてはウラギンシジミ、キタテハ、ルリタテハ、ヒカゲチョウ等だが、ごく希だが第3化のゴマダラチョウがやって来ていたこともあった。そんな訳で、雑木林を背負った良く日が当る柿の畑へ登って行った。枝にある実は熟していないものの、落下して芳香を放つ実にこれらの蝶が吸汁していて、突然の侵入者にあわてて飛び立った。しかし、その美味しさに未練たらたらの蝶達は、侵入者が立ち去るまで、付近の葉上で日光浴となるのだから好都合だ。ウラギンシジミの雄の深い味わい溢れる明るい赤の斑紋をじっくりと観察出来た。また、そんな場所は柿の実を目当てに来た訳ではないが、ムラサキシジミの社交場でもあって、秋の陽に美しく光る青紫色の斑紋もこれまたじっくりと観察出来た。陽だまりと蝶、こんな光景は毎年繰り返される秋の一齣なのである。
 昼食をすませると、八菅山に来たもう一つの目的であるトノサマバッタを見に、中津川の河川敷にある棚沢運動広場へ行った。もう地域の運動会が催されていて、草が綺麗に刈り取ってあると思ったのだが、やはり運動会は来週の体育の日あたりなのだろう。そんな訳で背が低い草が茂っていて、トノサマバッタの観察及び写真撮影には不向きなのだが、なんとか頑張って、残念なことだが緑色型では無く褐色型のトノサマバッタを撮影した。運動場の端の草原の中に柔らかい砂が少しだが積んであった。こんな場所はトノサマバッタの産卵には好適なはずと足を踏み込んでみると、案の定、雌が尾端を砂の中に深々と差し込んで産卵している。しかし、どうも様子がおかしい。近づいても手で触っても逃げないのだ。これは産卵中に死んでしまったものではないかと思い。触覚を触ってみたり少し身体を持ち上げてみたりするのだがほとんど動かないが、なんとなく僅かばかり動いたようにも感ずる。なんと言ってもトノサマバッタは表情を変えぬ鉄面皮だから困ってしまう。そこで身体をぐっと掴んで卵がついた尾端まで持ち上げてみると、やっと足をスローモーに動かすではないか。そっと地面に降ろすとじっとして動かない。寝ぼけ眼なのか産卵の苦しさを癒しているのかは分からぬものの、これは撮影の大チャンスとばかりにカメラを三脚にセットし、いざシャッターを切ろうとしたら、青空高く飛び上がって、運動広場のかなりの彼方まで飛び去ってしまった。

<今日観察出来たもの>
花/スズメウリ、カラスウリ、マルバルコウソウ、キクイモ、ヤブマメ、ヒガンバナ、ミズヒキ、ゲンノショウコ、イヌタデ、ママコノシリヌグイ、コセンダングサ、アメリカイヌホウズキ、コスモス(写真左)、キバナコスモス、オシロイバナ等。蝶/ヒメアカタテハ、ウラギンシジミ、ムラサキシジミ(写真右)等。昆虫/トノサマバッタ(写真下)、コバネイナゴ、クルマバッタモドキ、アキアカネ、ナツアカネ、ミヤマアカネ、コノシメトンボ等。


10月4日、横浜市港北区新吉田町

 青空にコスモス。これだけで秋の清々しい情景が浮かんで来るのだが、これにヒメアカタテハが加わると最高である。皆、それぞれに、これが最高だと言う秋の一コマを抱いていると思うが、花を虫(特に蝶)を撮る者にとって、青空、コスモス、ヒメアカタテハと並ぶと、身震いするような幸福感に包まれる。コスモスは言わずと知れた誰もが認める秋の名花であり、ヒメアカタテハは英名でペインテッド・レディー(おめかしした貴婦人)と呼ばれる美蝶で、しかも、両方とも、ちょっとした郊外へ出かければお目にかかれるのだから、ぜひ注目して欲しい。もしこのイメージを撮影しようと思ったら、無風状態に近い晴天の日に、ISO100のフイルムを詰め、絞りを空け気味にしてシャッター速度を上げ、手持ちで撮影しないと難しい。今日もそんな光景に出会ったのだが、撮影しょうとしたら車がやって来て逃げてしまった。
 私が抱くコスモスとヒメアカタテハのイメージはもう一つあって、朝まだ早いうちの気温が低い時に、細かい水滴が着いた首をかしげたやや赤みを帯びたコスモスの花びらの上に、羽を広げたヒメアカタテハが休んでいる。それを黄金比例分割の左線上に配し、残った右側の空間を色様々なコスモスを暈して入れ、背景は鮮やかな緑と言うイメージである。こんなイメージの写真が撮れたら、飛び上がらんばかりの嬉しさだろう。そうだ、まだかなり先だと思っているが、葬式の写真は、その写真の黄金比例分割の右線上の下部に、丸く暈した縁取りの中にカメラを構えた私を入れよう。しかし、そんなイメージの写真を撮らなければならないとなると、かなり難しい。もっと健康に留意して頑張れと言うことなのだろう。最もアドビ社のフォトショップを使えば、それぞれ別々に撮って来て合成することも可能かもしれない。フォトショップの使い手である舞岡公園に来るNさんに聞いてみよう。
 ずいぶん前書きが長くなってしまったが、今日は午後から友人に釣りに誘われているので、午前中だけ自宅から最も近いフィールドへ行った。車で10分程だから午前9時前に到着した。このフィールドは前に書いたと思うが、子供の頃から慣れ親しんで来た場所で、15年前に道端自然観察及び写真撮影を開始した頃、なんと5年間も毎週末通った懐かいフィールドである。ここは公園でも緑地保全地域でもなく、雑木林と畑と農家で構成された、かつては横浜市の何処にでも見られた田園地帯である。第三京浜の都築インターが出来る前は、谷戸田もあって、それこそ素晴らしい環境のフィールドであった。今まで写した写真の中で、最も素晴らしいと思っているものの多くが、このフィールドで撮影したものである。例えばクヌギの樹液に吸汁するゴマダラチョウ、ダリアに吸蜜するキチョウ、前者は現在、都築パーキングエリアになっている所で撮影し、後者は学習塾で机を並べたI君の玄関先である。それと1989年に、首都圏では絶滅したと思われるツマグロキチョウも観察している。余り自慢話は好きでは無いが、恐らく首都圏でこの蝶を最後に見た人間はこの私であり、見られた場所はこのフィールドなのではなかろうか。本当は遠くへ行くだけのお金と時間が無かったからかもしれないが、身近なフィールドでの自然観察及び写真撮影は素晴らしいと、このHPの随所で飽きれる程に書いていると思うが、それはこのフィールドが教えてくれたものである。
 今日も開けてしまったとは言え、身近に咲く野の花は一通りあったし、蝶だって美しいキタテハの秋型がカボチャの黄色い花で吸蜜し、前記したヒメアカタテハが白、薄ピンク、赤紫の花色のコスモスに吸蜜していたし、ウラギンシジミの雌やムラサキシジミが雑木林の小道の陽だまりで日光浴をしていた。木の実では、ゴンズイの赤い苞とその中に鎮座する黒い実が、そのニ色効果と青空と陽の光の相乗効果でとても美しく輝いていた。新吉田町はかなり広いから、丹念に探せば、今だってかなりのものにお目にかかれるはずである。春にはニリンソウも咲き、庄屋さんの溜池にはカワセミが居着いている。名も無きフィールドでも、その気になって親しめば道端は宝物で一杯だ。

<今日観察出来たもの>花/ノハラアザミ、キクイモ(写真左)、ヤブマメ、ヒガンバナ、ミズヒキ、キンミズヒキ、ゲンノショウコ(写真右)、イヌタデ、コセンダングサ、アメリカイヌホウズキ、コスモス、オシロイバナ等。蝶/ヒメアカタテハ、キタテハ、ヒカゲチョウ、イチモンジセセリ、ウラギンシジミ、ムラサキシジミ等。昆虫/ハサミツノカメムシ(写真下)、アオマツムシ、ササキリ、コカマキリ、アキアカネ、キバラヘリカメムシ等。


10月3日、横浜市戸塚区舞岡公園

 今日は朝起きると久しぶりの薄曇である。そして風も無く写真撮影日和だと喜んで舞岡公園へ行ったのだが、徐々に雲はとれて風がいくらか出て来た。ヒガンバナが咲き終わると、いよいよコスモスである。コスモスは少しの風でも揺らぐので、晴れであっても曇りであっても無風に近い状況が撮影日和となる。コスモスの人気は、花の美しさはもちろんだが、少しの風にも揺れる風情が物の哀れを感じさせ、日本人の感性に訴えるのだろう。そうは言っても舞岡公園ではヒガンバナが満開で、やはり今年の異常気象によって花期が遅れたようである。神奈川県足柄上郡中井町のヒガンバナは、お彼岸に合わせて律儀に咲いてくれたが、多摩丘陵や舞岡公園ではだいぶ寝坊してしまったようである。長い間、自然観察を続けているが、こんなことは初めてだ。初めてと言えばキバラヘリカメムシの大発生も印象的だ。いつもの所に車を止めて瓜久保のカッパ池奥のニシキギの植え込みに行くと、舞岡公園内を毎朝回ってゴミを集めてくれる管理事務所の顔見知りの女性が、ニシキギの植え込みを覗き込んでいる。まさかキバラヘリカメムシを眺めているとは思わなかったので、「何かいるんですか」と尋ねると、「カメムシがいるんです」と言う。「キバラヘリカメムシですね」と成虫を指さして言うと、「キバラヘリカメムシって名前なんですか、今年はニシキギの木にたくさん見られますね」と不思議そうな顔をするので、自分の知識をひけらかすつもりは毛頭無いが、以下のようなお節介な講釈をしてしまった。
 「ほら、見て下さい。お腹が黄色いでしょ」と成虫の止まっている葉を引き寄せ、「黄色い腹、すなわちキバラ(黄腹)となる訳なんですよ」と説明した。「じゃ、ヘリカメムシわ?」と質問されたので、「カメムシの仲間にヘリカメムシというグループがあって、そこに属しているからなんです」と答えた。更に「なぜヘリカメムシって言うですか?」と突っ込んで聞かれたら大変だったが、そこまでの質問がなくてほっとした。実は、その名の由来は色々な本を調べてみたが、まだ分かっていないのだ。しかし、このグループの仲間は見れば何となく分かってしまうという独特の風体なのだ。よせば良いのに「キバラヘリカメムシは、ニシキギ、マユミ、ツルウメモドキが好きなんですよ。それから足を見て下さい。人間で言えば膝よりちょっと上までの黒い長靴下を履いてるでしょう」と注意を促すと、「本当ですね気づかなかった」と笑って言う。本当に純真なご婦人は教えがいがある。そこで頭が混乱されては元も子もないが、その女性のお腹は凹んでいるので「舞岡公園には、クズの葉に二つの黒い紋を持つ、お腹の広いカメムシと言う意味で名づけられた、ホシハラビロ(星腹広)ヘリカメムシもたくさんいますよ」と更に講釈してしまった。かつてお腹が飛び出た男性に、このカメムシの話をすると、「なんだか僕みたいだな」と言って笑い合ったことがあったのだ。
 今日はコスモスと野の花を撮るんだと意気込んでいたが、風は少し強くなってコスモスはもちろんのこと、アキノノゲシ、イヌタデ、ミズヒキ等が風に揺らいで、三脚を立ててじっと粘るのだが諦めざるを得なかった。もっと、風の無い薄曇りの日に再挑戦となった。そんな訳でたいした写真も撮れないままに、あっという間にお腹が空いて、火の見櫓の休憩所て弁当をぱくついていると、花や昆虫の好きな花虫撮るのご婦人のNさん、Kさんがやって来た。「古谷戸の里に、ヒヨドリジョウゴとツリフネソウが咲いていましたよ」と言うと、見たい写したいということになって歩いて行くと、アキアカネが去年の枯れたセイタカアワダチソウの茎の先にとまっていた。「でも、舞岡公園は少ないね」と言うと、Nさんが「鎌倉の広町緑地には踏みつける程いました」と教えてくれた。彼女は、このHPにたびたび投稿して頂いてる一人静さんのメインのフィールドである、鎌倉中央公園や広町緑地にも出没しているのである。古谷戸の里に行くまでに気の早いセイタカアワダチソウに吸蜜するベニシジミや、葉で休むNさんが去年シータテハと見間違えたのも無理は無い美しいキタテハの秋型やウラギンシジミを観察していたら、なんと風に乗ってアサギマダラがふわふわやって来た。サシバと同様、南西諸島に向かって伊良子岬から飛び立つ途中に立ち寄ったようである。古谷戸の里の古民家の裏には、ツリフネソウやトリカブトが咲き、オオアオイトトンボが身体を緑色に光らせていた。

<今日観察出来たもの>花/ツリフネソウ、トリカブト、イヌショウマ、ノダケ、ヤブマメ、タイアザミ、ヒガンバナ、ホトトギス、ミズヒキ、キンミズヒキ、ゲンノショウコ、オミナエシ、キキョウ、アキノノゲシ、イヌタデ、ミゾソバ、イボクサ(写真下)、タカサブロウ、キツネノマゴ、ハキダメギク、ミゾカクシ、コセンダングサ、アメリカセンダングサ、コスモス等。蝶/アサギマダラ、キチョウ、ヒメアカタテハ、キタテハ、ヒメジャノメ、ヒカゲチョウ、イチモンジセセリ、ベニシジミ、ヤマトシジミ、ツバメシジミ、ウラギンシジミ等。昆虫/オオアオイトトンボ、アキアカネ、キバラヘリカメムシ(写真上)、チャバネアオカメムシ、セスジツユムシ等。


10月1日、東京都町田市小野路町・図師町

 いよいよ10月に入った。早いもので今年もあと残すところ3ヶ月になった。だいぶ日も短くなって、秋が深まり行くのを感ずる。10月もメインフィールドである小野路町・図師町から始めようと思った訳だが、来る途中、様々な場所でキンモクセイの甘い香りに包まれた。昨日は風が強かったが今日は穏やかで、甘い香りがじんわりと道端に漂っている。フィールドに着くと、アキアカネがまるで夏の高原に行ったかのように多数見られる。みんな成熟していて、特に雄は腹部が鮮やかな朱色に色づき、秋の陽に照らされて本当に美しい。これで山や高原に避暑に行っていたもの全てが、平地に舞い戻った。実は28日にも小野路町・図師町に来たのだが、人を案内してのものだったので、カメラは持参しなかった。日頃、自然観察や写真撮影で大変お世話になっているのに、なんら里山管理のお手伝いをしないのは片手落ちと、自宅近くでボランティアをほんの少しだが始めたと以前に書いた。そこのメンバーを案内して来たのである。先ずは良いお手本を見て来よう、そして自分たちのフィールドにフィードバックさせよう。いくら本を読んだり、高名な先生に講義されようとも「百聞は一見にしかず」と言う訳なのだ。そもそも里山とは稲作と生活を豊かならしめんと、稲作が伝来してからずっと利用され管理されて来たものだから、昔ながらの手法と知恵にのっとった栽培方法の図師町の谷戸と里山は、最高のお手本なのだ。
 今日はまず最初にヒガンバナを撮ろうと思ってやって来た。ヒガンバナは神奈川県の中井町でさんざん撮ったから「今年はもういいや」と思っていたのだが、先日来た時にも印象に残ったし、このHPにMさんからの投稿もあったし、多摩丘陵の谷戸に咲くヒガンバナを美しく花風景的に撮影しておきたいという思いが強くなった。今年の多摩丘陵のヒガンバナの咲き方は少しおかしい。開けた日当たりが良い山裾の田んぼの周りは彼岸前に満開だったが、谷戸奥や丘の上は今がちょうど満開だ。だが、総じて見ると花期がだいぶ遅れたようである。五反田谷戸に着くと、写真仲間では超有名なI老夫婦が稲刈りの準備をしていた。今週末に息子さんに機械で刈ってもらうのだと言う。だから、機械が入りやすいようにと畦の傍の稲を鎌で刈っているのだ。私は人が入った風景写真を撮らないが、人が入ると谷戸の風景が暖かく息づいて来る。しかも、もくもくと農事に精を出すI老夫婦の姿は、谷戸に調和して、美しいドラマをかもし出してくれるのだ。「ここにヒガンバナは、前には無かったですよね」とおばちゃんに聞くと、「ほんの少しあったんだけど急に増えたね」と言う。「田んぼにヒガンバナってのは良いね」と私だけでなく田んぼを作っているおばちゃんも感じるようだから、きっとその内、ヒガンバナの咲く谷戸としても有名になるかもしれない。「どこから来ているんだね」と尋ねられたので、「横浜の綱島、でも僕のおばあちゃんは忠生村の常盤の桶屋で生まれたんだよ」と言うと、「私も忠生村の矢部だよ」と言う。小野路町は昔は鶴川村だが、この図師町は昔は忠生村であった。「じゃ、僕とおばちゃんの家とは血が繋がってるのかも知れないね」と言って笑った。
 昼食を済ませると、あまり期待は出来ないが、小野路町の午後のコースを一回りした。秋になったらキノコをと大いに期待していたのだが、もちろん皆無である。各種の昆虫が集まるクヌギの樹液も枯れ果て、セスジツユムシやヤブキリ、コカマキリやオオカマキリ、エンマコオロギやクサヒバリと言ったバッタやキリギリスの天国となった。それでも一回りして戻って来ると、このフィールドに初めてやって来たというご婦人に声をかけられた。きっと風体がここに自然観察と写真撮影に来た者と思えたのだろう。「すいません、ミズオオバコが咲いている所知ってます?」と言う。「えっ、ここの谷戸では知りませんが」と答えると、「万松寺というお寺のある所の奥にある休耕田の中で、稲を作っている所の後ろの池に4株あると知人に聞いて来たんですが」と言う。「ああ、あそこか、あそこにはありそうだな」と、だいぶ陽が傾いてご婦人一人で行かせるのが不安になって案内すると、淀んで濁った水面に可憐な薄いピンクの花が咲いていた。行く途中で色々話してみると、ナンバンギセルを見て感激したと言うので「野津田公園へ行くといくらでも見られますよ」と言ったら、ぜひ見たいとなって、またまた案内することになった。今日はこれと言った収穫は無かったが、28日と同様、「人を案内して喜ばれる」という善行を大いに積んだことになった。

<今日観察出来たもの>花/ミズオオバコ、キバナアキギリ、ヨメナ(写真下)、アメリカセンダングサ、イヌタデ、ハナタデ、ミゾソバ、ミズヒキ、ノダケ、ヤブマメ、トキリマメ、タイアザミ、ノハラアザミ、ヒガンバナ(写真上)、ゲンノショウコ、ツリガネニンジン、ワレモコウ、ヒヨドリバナ、オモダカ、コナギ、シュウカイドウ、コスモス等。蝶/キチョウ、メスグロヒョウモン、ヒメジャノメ、イチモンジセセリ、ヤマトシジミ等。昆虫/オニヤンマ、アキアカネ、ナツアカネ、マユタテアカネ、ヒメアカネ、セスジツユムシ、ヤブキリ、オオカマキリ、コカマキリ等。その他/クヌギの幹を登って行くシマヘビ等。



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