(11月)
11月28日、東京都町田市野津田公園〜小野路町
前の会社の同僚から電話があって、「明日、銀座で昼飯でも食べない」と誘いがあった。こんな世捨て人的な生活をしていても、気にかけてくれる仲間がいると思うと有り難い。もう今年の忘年会も二つも入っているのだから涙が出る。そこで今日は雨のはずだから東京へ行って、色々溜まった私的な用事を済ませて来ようと思ったのだが、朝起きてみると曇り空である。パソコンで天気予報を見ると、一日中曇りとある。そして明日、明後日は雨となる。こうなっては約束をしてなかったのが幸いして、道端自然観察に出かけるしかない。私的な用事は明日が雨だから明日行けば良いのだと、とっても遅く家を出発した。何処へ行きたい、これを撮りたい等と言うものが無かったので、こんな時は小野路町に行くに限る。
途中、サンシュユの実を撮りたくなって野津田公園へ寄り道する。サンシュユは何処にも植えられていて、早春に咲く線香花火のような黄色の花は独特である。しかし、実となるとどんな樹でもなっているというわけではないのだ。ことによったらイチョウのように雄と雌に分かれているのかなと思って図鑑を調べてみたが、そのような事はないようだ。どうしてたくさん実をつけると樹とほとんどつけない樹があるのかは分からないが、野津田公園に植栽されているものは、毎年、たわわに真っ赤な実をつける。こんな事を書くと撮影するための実が採られて無くなってしまうかもしれないが、果実を酒に浸して作る山茱萸酒は強壮強精作用があり、お疲れ気味の男性諸兄にはまこと朗報の秘薬となるのだとある。
サンシュユを無事に撮影し、他に何か被写体がないかと探してみると、最も普通に植栽されている淡い紅色のカンツバキが咲いている。しかし、植物名を書き記したプレートにはサザンカと表示されている。いつも頭を悩まされるのがサザンカとカンツバキの区別である。しかし、近頃、これを厳密に分けようとするのが間違いであって、カンツバキはサザンカの中の一園芸品種と考えれば良いのだと思うようになった。日本にはツバキの仲間が8種類もあるらしいが、代表的なのはヤブツバキ、ユキツバキ、サザンカの3種類で、これらに加えて中国原産のサルウィンツバキ等が交配されて各種の園芸品種が作られたと言われている。そんな訳で、山口県以南に自生する野生のサザンカらしからぬ花の形のものがあっても然るべきなのだろう。
すこし寄り道してしまったが、小野路町の午後のコースをちょうど1時に歩き始めた。万松寺谷戸には人っ子一人見られない。それもそうだろう、こんなに寒くて曇り日だから、みんな家の中に閉じこもっているのだろう。今日は厚着をして来たから身体はぽかぽか暖かい。いよいよとっても楽しい冬の季節が始まろうとしている。これからしばらくはフィールドで出会う方々は超自然好きな方々ばかりである。雑木林は完全に葉を落とし、蜂も蛇もいないから、枯れ葉をかさこそ音をさせながらあてどなくさ迷い歩くのは、ちょっとした探検気分で最高である。しかも、様々な冬ならではの生き物たちの姿や活動した痕跡が心を暖めてくれ、ぼろを着てても身体が暖かければ、“生きている証拠の温もり”を感じ取るにも最高という訳で、感謝の気持ちが溢れ出て来て、とてもハッピーな気分となってしまうのだ。
そんな冬の楽しさを予感させるが如くに栗林へ行くと、葉はほとんど落ちて、今まで発見しにくかったジャコウアゲハの蛹がたくさん見られた。細い糸で身体を縛り付けられた番町皿屋敷のお菊さんのようで、別名“お菊虫”とも呼ばれている。橙色の口紅を塗って日本髪姿でかんざしまで刺しているのだから面白い。ジャコウアゲハと言えば体内に食草であるウマノスズクサの毒を取り入れていて、小鳥たちに食べられないはずなのだが、冬が進むにつれて蛹の数が減って行く。まさか人間の仕業とは思いたくはないが、大切に見守ってやりたい冬の風物詩の一つである。ジャコウアゲハの蛹を数えながらさ迷っていると、なんとアオマツムシの雄が栗の幹にへばりついていた。「まだ、生きていたの」と感激しながらカメラの中にその姿を納めた。
一応いつものルート通りにキノコ山へ行ったが、もちろんキノコは何も生えていない。しかし、23日に来た時に比べて落ち葉がたくさん積もって、歩き回るとふかふかとしてとても気持ちが良い。落ち葉はこれから雨や雪や霜にやられて腐食して行き、また、激しい北風に吹き溜まりに纏め上げられてしまうから、かさこそ音を立てて歩き回る快感を味わいたかったら、これから年内一杯が最高のシーズンとなる。それに加えクロスジフユエダシャクが静寂の中に舞う粉雪のように、地面すれすれを緩やかに飛んでいる事だろう。今日も数匹発生していたから、来週あたりからが見頃となるに違いない。今日は午後のコースを一周したが、誰にも会わずの静寂の中の散策となった。最後に車を停めた場所に隣接する畑に、スエヒロタケが生えているオニグルミの実を発見した。カキの実から生えるカキノミタケを以前見ているから不思議ではないが、キノコ君たちの頑張りに脱帽して、思わず笑みがこぼれてしまった。
<今日観察出来たもの>花/ノハラアザミ、ヨメナ、サザンカ(写真左)等。昆虫/アオマツムシ(写真下)、テントウムシ、クロスジフユエダシャク、チャエダシャク、ツマグロオオヨコバイ、ジャコウアゲハの蛹、ウスタビガの空繭等。その他/サンシュユの実(写真右)、ツタの紅葉、スエヒロタケ等。
11月27日、神奈川県秦野市弘法山〜渋沢丘陵
「今日は寒いですね」なんて言葉を交し合う季節となった。晴れていて風が無ければ暖かいが、曇り日だとたとえ風が無くともかなり寒い。これからの道端自然観察は晴れていて風が無い日が最良である。今日は少し前の天気予報では晴れと言うことだったが、曇り日と変わった。晴れの日は昨日一日だけで、しばらくは雨や曇りの日が続くようである。「今ごろの季節って、そんなにぐずついた天気が長続きしたっけ?」と疑問符を打ちたくなる。いづれにしても、また晴天が戻って来る頃には雑木林の葉は完全に落ちて、初冬の12月になっていることだろう。今日は晴天なら大磯町東小磯にあるミカン山へ行くつもりであったが、曇り日のミカン山ではどう考えたって絵にならない。ミカンは風が遮られる南斜面に作られていて、晴天ならば少し風があってもミカン山は“ほっかほっか”の別天地なのである。そこで行く先を秦野市の弘法山に変えた。もちろん弘法山にもミカンは作られているが、大磯町の広大な規模に比べれば雲泥の差である。なぜこんなにミカンに固執するのかと言うと、ミカンやミカン山を青空をバックにして撮影したいという願望だけでなく、ミカンそのものを買ってきたいのだ。たまにスーパーへ行って買い物をすると、野菜や果物は本当に重い。冬なんか手袋をしていないと手が千切れる程になる。こんな思いを毎日のように繰り返している主婦には頭が下がる。我が家の場合、野菜は家族平等に胃袋に到達するが、果物となると大半が我が胃袋に到達してしまう。そんな訳で、行った先で出来るだけ果物を手に入れ、車で運んで帰るというのが家庭平和の要となるのだ。しかし、ミカンは多摩丘陵では手に入らないから、平塚市土屋や秦野市弘法山等へ、ちょくちょく行かなければならない。
いつものように弘法山の綿羊の丘の駐車場に車を停めると、坂道を少し下がって右に折れてミカン畑へ行った。弘法山のメインルートは毎日のようにハイカーがやって来るし、ご丁寧に公園管理の職員の方がこれ以上に無いと思われる程の美しさで清掃されているから、蔓性のカラスウリ等という人目を誘う実は全く無いが、横道にそれれば目を見張る程、たわわにぶら下っている。前回来た時は、まだ色づいていなかったものもあり、また、絡み付いている樹木の葉も茂っていたため気づかなかったが、今日は数えるのが疲れる程の量である。こんなにあるとカラスウリの実の風情が損なわれる。やはり数個の色づいたカラスウリの実が北風に揺れてこそ、一句詠みたくなるという訳である。前回来た時にたくさんあったイシミカワの実は完全に落ちて跡形も無く、付近に植えられたイチョウは真黄色に色づき、ビワの花が咲いて、こんなに寒いというのにヒラタアブの仲間が吸蜜に訪れていた。もちろん、今日は青空では無いがミカンの実も撮り、ユズの実もと欲張ったのだが、絵になるものは見当たらなかった。
弘法山のいつものコースを一回りしたが、ヤマハッカ、ヤクシソウ、センボンヤリの穂がある位で、これといった注目すべき被写体も無く、うんと暖かい昼食を摂ってから渋沢丘陵へ行った。渋沢丘陵には数え上げれば切りが無い程の各種の実があった。スイカズラ、アオツヅラフジ、ガマズミ、ウツギ、マユミ、ヤブラン、ヤブミョウガ、ノイバラ、リュウノヒゲ等の実で、スイカズラの実が真っ黒で可愛らしいのを初めて知った。しかし、なんと言っても嬉しかったのは、畑に植えられたイチジクの実である。紫色に熟したイチヂクの実を撮りたいとずっと思って来たのだけれど、熟したら直ぐに収穫されてしまうのか、なかなかお目にかかれなかったのだ。しかもそればかりでは無く、例年なら最も普通に見られるカミキリムシであるはずなのに、今年は異常気象も手伝ってか余り出会えなかったキボシカミキリがたくさんいた。キボシカミキリは、かつてキボシヒゲナガカミキリと呼ばれた触覚の長いカミキリムシである。クワやイチヂクを食害する農家にとっては嫌われ者の昆虫だ。クワとイチヂクは同じクワ科で葉の形も似ているし、キボシカミキリが好んで食べると言うのに、属を違えていると、その実がこんなにも違うのかと考えさせてくれる樹木である。ちなみにクワはクワ属、イチヂクはイチヂク属である。
<今日観察出来たもの>花/タイアザミ、シロヨメナ、ノコンギク、リュウノウギク、ヤマハッカ、ヤクシソウ、ベニバナボロギク等。蝶/ヤマトシジミ等。昆虫/ヤマトフキバッタ、キボシカミキリ、コバネイナゴ等。実/スイカズラ、アオツヅラフジ、ガマズミ、ヤブラン、ヤブミョウガ、ノイバラ、リュウノヒゲ、マユミ、ウツギ、カラスウリ(写真下)、イチヂク(写真右)、ミカン(写真左)、一歳ユズ、ユズ、ナツミカン、カキ等。その他/センボリヤリの穂、ツチグリ、ニガクリタケ等。
11月24日、横浜市緑区三保市民の森〜寺家ふるさと村
晩秋を味わうフィールド行きの第4弾は、初冬を味わう寒さとなってしまった。暖かい季節だったら今日のような曇り日は大歓迎のはずだったが、さすがに晩秋の曇り日は寒い。おまけに風も少し強いから尚更である。車からウインドブレーカーを出し、襟巻きを首に巻き、帽子は毛糸で編んだ正ちゃん帽(スキー帽)を被った。これで上半身は寒くは無くなったが、下半身に風が布地を通してすうすう進入して来る。しかし、まだ股引を履くのは憚れるし、なんとか耐えられそうである。しかし、いくら身体が寒くなくなっても、これからの時期の曇り空は心も寒くなり、これだけはどんなに文明が発達しても防ぐ手立てはありそうにない。しかし、何を考え出すか分からない人類だから、その内に心が楽しくなる医薬品や健康食品が発売されて、飛ぶような売れ行きの大ヒットとなることもあるかも知れない。しかし、そんな楽しさはやはりまやかしの偽ものである。この歳になっては毎日がばら色の異性との恋などは望むべくも無く、せいぜい憧れの撮影機材を手に入れて、心弾ませる位が関の山であろう。
さて、たくさんのフィールドを熟知しているつもりの私だが、この3連休は高速道路も渋滞するから遠くには行けず、近場と言ったら限られてくる。そんな訳で今日は三保市民の森へまず行った。ここはシラカシ、スギ、ヒノキと言った常緑の樹木が中心となる森だから、見られる昆虫や花は限られてくる。しかし、三保平と呼ばれる狭いが開けた広場は意外な穴場で、これから年末までウラギンシジミやムラサキシジミがツバキやサザンカの葉に止まって日光浴をしていて、じっくり撮るのには最高の場所である。今日はそのつもりでカメラバックに重たい200mmマクロレンズを忍ばせて来たのだが、こんな天気では出番は無さそうである。何か撮らないとこのHPに載せるための写真がないなどということになってしまうので、たくさん実ったアメリカイヌホウズキの黒々とした実を撮ったり、桜の紅葉した落ち葉(写真左)等を撮影し、この時期ここで一番の美しいウメモドキの真っ赤な実に焦点を合わせていると、「この実、何ですか」とご婦人に声をかけられた。ご夫婦で犬の散歩に来たらしく、可愛らしいシェットランドシープドックが尻尾を振っている。「これはウメモドキ、他にもアメリカイヌホウズキやヒヨドリジョウゴの実もありましたよ」と言うと、「あちらにヤブミョウガの実もありました」とご婦人が教えてくれた。ご亭主が「これ何ですか」と指差した先を見ると、フユノハナワラビがたくさん生えている。ご婦人によるとツリフネソウもキツリフネソウも付近で見られると言う。今はほとんど来ることが無くなった三保市民の森周辺だが、探せばまだかなりの野の花が見られるようだ。
時間があるので三保平を後にして懐かしいコースを一周してみた。10年も前には毎週のように歩いた道である。谷戸奥に産廃施設が出来る前までは、谷戸の小道が最高の道端自然観察の道で、ウラゴマダラシジミ、アカシジミ、ミドリシジミ、イチモンジチョウ、テングチョウ等がたくさん見られた。今でもそれらの蝶が現れる梅雨時の湿気を含んだ乳白色の大気に包まれた小道の情景が眼前に浮かび上がる。また、梅雨の晴れ間に、コナラやハンノキの梢の先に覗かれた美しい青空が懐かしい。今でこそ遠路はるばる町田市まで行くはめとなってしまったが、10年以上前のこの地域(台村町、上白根町、今井宿町、三保町、新治町、長津田町)がそのまま残っていたら、私の道端自然観察および写真撮影は、この地域から一歩も抜け出す事無く続けられていたことだろう。
午後からは寺家ふるさと村へ行った。町田市の小野路町や図師町は人に会えばたいがい自然大好き人間ばかりだが、寺家ふるさと村は観光地化してしまって、やって来る方々の毛並みが少し異なり、しかも人出が多くて休日は実に居心地が悪い。里山へ行く目的の一つに命の洗濯があるのだから、都会の盛り場の雑踏の延長では困ってしまう。しかし、このフィールドに10年以上も毎週末通っているNさんは相変わらず通い続けていて、山や藪の中に入ってしまえば静かだし、まだまだ捨てがたい多くの生き物に出会える。今日だってトゲナナフシに出会ったし、キツネの足跡も確認した。また、このフィールド周辺を撮影場所に選んでいる写真グループの活動も続いていて、12月20日より四季の家で写真展が開催される。更に信じられないような事だが、Nさんが世界で4例目の発見となる昆虫寄生の珍しいカビ「スポロディニエラ」をつい最近発見している。そんな訳で少し暇が出来ると、寺家ふるさと村の心優しき仲間達に会いたくなってやって来るというわけだが、今日は写真も撮らずにKさんのキツネの足跡の石膏取りにつき合ってしまって体が冷え、管理事務所にあるレストランでの懇親会となってしまった。
<今日観察出来たもの>昆虫/ウマオイ、トゲナナフシ等。キノコ/クリタケ、ニガクリタケ等。実/カラスウリ、ヤブミョウガ、アメリカイヌホウズキ(写真下)、ウメモドキ、ヒヨドリジョウゴ等。その他/フユノハナワラビ、キツネの足跡等。
11月23日、東京都町田市小野路町・図師町
晩秋を味わうフィールド行きの第3弾は、もちろん小野路町・図師町である。17日にちょこっと行ったのだから、まだ一週間も経っていないというのに、おいでおいでと手招きしている。いくら自然度の高いフィールドだって、この時期には見るもの撮るものはほとんど無い。しかも、以前にも書いているように、魔の給料日前後だから、なお更一層見るもの撮るものが無いに決まっている。昨日まで暖かかったが今日は晴れていてもとても寒い。町田市は横浜市に比べると3度程気温が低いから尚更だ。車をいつもの所に停めると、もちろん真っ先にアメリカハナミズキのウスタビガの繭を見に行った。もう一つ残っている繭の羽化が始まっていないかなと思ったのは言うまでも無い。しかし、繭には枯葉のような蛾がぶら下ってはいない。もうすでに羽化してしまったのかも知れない。17日に羽化および交尾が見られた繭に卵が産み付けられていないかと期待したが、残念ながら緑一色の繭である。ウスタビガの卵は小豆色で目立つからすぐに分かる。付近に卵が産み付けられてないかと思ったが、その確認は本格的な冬になっても間に合うと先を急いだ。
万松寺谷戸に行くとTさん達が小さな藁塚をつくったり、神明谷戸で取れた籾をみんなで乾していた。籾を入れた重そうな袋がたくさんあるので、「どのくらい取れたんですか?」と聞くと、なんと80Kgだと言う。私が知っているボランティアの手によって耕されている田んぼや、子供たちによって耕されている田んぼの収穫と異なって、すごい量である。さすがこの地域で長年農業を続けてこられた方々の腕はただものではない。邪魔になってはいけないと、そそくさと万松寺谷戸を後にしキノコ山を覗いて見た。キノコ山は各種の樹木が色づき、落葉も始まって、歩くとカサコソと快い音がする季節が始まっていた。もちろん、前回、ほんのちょっと見られたキノコも胞子をすっかり飛ばして萎びていた。久しぶりに持参した超広角20mmレンズを取り出し、色づいた雑木林の梢を撮っていると、このフィールドの主的存在となりつつあるMさんがやって来た。「今日は野津田公園で、花とみどりの祭典のボランティアではないんですか?」と聞くと、「だいたい準備は整ったから、抜け出して来たんです。小野神社のモミジがすごく美しかったですよ」とおっしゃる。このフィールドに魅了された中年男は、私やMさん等で沢山だと思うのに、なんだがここ一年で数が急に増したようだ。仕事のストレスを抱えていたり、私のような何もすることの無いリストラされた人間が増えているのかもしれない。いづれにしても橋本内閣の失政による長引く不況が、いくらか影響しているのではなかろうか。
Mさんと同行して、途中、神明谷戸の渋柿を撮影したりして、五反田谷戸へ行った。先週まで咲き誇っていた各種の野の花は盛期を過ぎて、もうすぐやって来る本格的な冬まで儚い命を繋ぐかのように、リュウノウギク、ノハラアザミ、アキノキリンソウ等が咲き残っているだけだ。オケラの花は完全に咲き終わり、尾根筋にあるカシワバハグマはタンポポのような真っ白の綿毛を飛ばしている。仕方無しに今盛りのフユノハナワラビをローアングルで写していると、Aさんがやって来た。「このHPのつれづれ観察記を読んでいると、ローテーション的に今日は小野路町・図師町に現れるだろうと予測していたのが、どんぴしゃりと当たった」と、お年にも関わらず青年のような微笑を浮かべて言った。今までこの時期や冬はあまりフィールドへは出向かなかったらしいが、「冬のフィールドへ行かないようでは片手落ち」という私の生意気な見解をご理解なさって、これからもちょくちょくこのフィールドに現れると言う。「これからフユシャクも出てくるし、各種の蝶の冬越しの仕方を観察したり、冬芽や葉痕を観察したり、あてどもなく落ち葉をかさこそさせて歩き回るのも良いですよ」と、また生意気なことを言ってしまった。Aさんもすっかりこのフィールドに魅了されてしまった様である。
小高くなった芝地に腰を下ろして、Aさんが若かった頃のわくわくするような蝶の話を聞いたりして楽しい会話が長く弾んだ。「学生時代には、絶滅しかかっているオオウラギンヒョウモンが、容易に20頭位見ることが出来ました」等という話は、蝶愛好家にとっては夢のような事である。「若かった頃のいろいろの蝶の生息状況や思い出などを、ぜひ活字に残して下さい。いつのことになるかは分かりませんが、オオウラギンヒョウモン等の絶滅危惧種を、たくさん見られるようにしよう等と言う盛り上がりあるかもしれませんからね」と、またまた生意気な事を言ってしまった。この五反田谷戸も現在高齢のIご夫婦が大切に守って来たから残っている訳で、その里山管理の方法を絶やさずに後世に残して行かなければならない。何処かで読んだが、谷戸の稲作ならびに雑木林等の里山管理は日本の尊い文化遺産である。となると勲章等は貰えないかもしれないが、Iさんご夫婦は隠れた文化功労者で人間国宝なのだ。
<今日観察出来たもの>花/ノハラアザミ、アキノキリンソウ、イヌタデ、シロヨメナ、ヨメナ、リュウノウギク、シラヤマギク、ツリガネニンジン等。蝶/ヒメアカタテハ、ヤマトシジミ等。昆虫/オンブバッタ、ハネナガイナゴ、ヒメアカネ、マユタテアカネ等。その他/フユノハナワラビ(写真左)、ドクダミの紅葉(写真右)、スエヒロタケ(写真下)等。
11月22日、横浜市緑区新治市民の森〜キノコの森
この連休はシーズン中にお世話になったフィールドへ行って、何も考えずに晩秋を味わいながら、その時出会う印象に残る一齣一齣を撮影して来ようと考えていると前日書いたが、今日はその第2弾という事になる。今日はいつものように7時半に起きるつもりであったが、目覚し時計をセットするのを忘れてしまって、起きたのはなんと9時であった。日ごろの疲れの解消のためには良い事だし、今日は近場だから別段慌てることは無かったのだが、今日は土曜日でゴミの収集日に当たっている。どういう経路で回って来るのかは分からないが、自宅マンションのゴミ置き場には市の衛生局の車が8時前迄には回って来るのだ。これは困ったなと思ったが、隣のマンションのゴミ置き場は午後に回って来るので、そちらにゴミを出してからの出発となった。
いつものように水道施設の横に車を停めると、大水の時に備えた遊水池のピラカンサの実を見たくなった。前回来た時はやや色づいた橙色であったが、今回は真っ赤に色づいて、青空に浮かんでとても綺麗である。まだ、小鳥たちの餌がフィールドにたくさんあるのか、ついばまれた様子も無い。今日は風も穏やかだから簡単に撮影できると思ったのだが、なかなか揺れが止らずにかなり苦労して撮影すると、お墓横のクリ林(写真左)に行った。クリの葉は褐色に色づいて、真っ青な青空と濃い緑の杉木立と淡い緑の竹林の中に鮮明に色分けされて眩しい程であった。前述したように、これと言った撮影対象は無かったのだが、この時期の新治市民の森といったら、池の横の日が当たる雑木林の小道にいるオオアオイトトンボである。そう思って、途中、スッポンタケ等のキノコは出ていないかと竹林を覗いたりしながらのんびりと歩いて行った。
いつもなら数匹のオオアオイトトンボが日向ぼっこに余念が無い季節だというのに、今日は一匹も見られない。これは困ったなと思っていたら、雑木林の際の垂直に近い土の壁に、ずっと撮影したかったツチグリがたくさん生えていた。ツチグリとはキノコで、クヌギの実が毬から顔を出したような格好をしているから誰でも間違わずに判別できる。私のHPの「キノコのへや」は「星のへや」と名づけられていて、なんと言ってもツチグリは一番星に見えるキノコだから、どうしても撮影したかったのだ。何処へ行っても卵の状況で、キノコの不作の今年は皮が開くことはないのではないかと危惧していたのだが、たくさんあって夢中になった。確かな手応えでツチグリを撮影し終わり背筋を伸ばしていると、尊敬するIさんがやって来た。私は自分のことを少し生意気なところのある嫌な奴だと思っているが、Iさんは誠実で腰が低く、そして蝶が大好きで、私なんかよりずっと長く地道にもくもくと、身近な蝶の調査、研究、写真を続けておられる方である。
「お久ぶりです。蝶もだいぶ少なくなって来ましたね。今日はどんな蝶が見られましたか?」と尋ねると、クロコノマチョウやムラサキツバメ等も観察したと言う。「今年は良い写真が撮れましたか?」とまた続けて尋ねると、「蝶研フィールドにクロコノマチョウの写真がたくさん載りましたから、雑誌送りましょうか」と親切におっしゃる。何とクロコノマチョウだけで3000カットもの写真を撮ったと言うのだ。「えっ、そんなに観察したんですか? それにお金がかかったでしょう?」と聞くと、「一番多い時で20頭位かな。一頭につき角度を変えて数枚撮るし、500円の一番安いフイルムを使ってますから」と言う。しかし、3000カット÷36枚×500円だから、フイルム代だけでも4万円を超えるし、現像代も入れると12万円位になる筈である。「Iさんの蝶に対する情熱には、まったく頭が下がりますね」と言うと、「だって唯一の道楽ですから」と照れながらおっしゃった。
その後、オオアオイトトンボの事はすっかり忘れてしまって、Iさんと蝶や写真の話をしながら、ススキの葉裏のクロコノマチョウの蛹を見せてもらった。クロコノマチョウの蛹は、本当に細い糸で垂れ下がった垂蛹である。もうすぐ羽化するようで、羽の表の赤や白の斑紋まで透けて見えていたから雌であろう。「羽の大きさからすると思ったより小さいですね」と尋ねると、「お腹にたくさん水を蓄えているから、ポンプの力で羽が大きく開くんでしょうね」と言う。Iさんも私も成虫がいれば、まずそちらが先の蝶の世界だが、卵や幼虫や蛹にもお目にかかると一層の親しさが湧いて来る。私も時間があったら多くの蝶の卵や幼虫、蛹を探してみようと思った。
Iさんと別れると既に12時だというのに、遅い朝食だったのでお腹がすいていない。これからキノコの森へ行こうかなと思ったが、いつものコースで一回りして見ると、別段これと言ったものにお目にかかれなかったが、とても美しい鱗雲が現れた。上空にある鱗雲は物凄い速さで流れて行くのに、低くたち込めた雲はほとんど動かない。上空と低空とでは風の流れの速さが異なるのだ。しっかりと三脚にカメラを据えて数枚撮って車を停めた所まで戻る間に、鱗雲はたくさん集まって色の濃い灰色の鱗雲に変わっていた。しかし、それもまた晩秋の寒々とした情景にはぴったりでまた数枚カメラにおさめた。今日は遅く起きて短時間であったが、とても充実した新治市民の森となった。しかし、キノコの森は梅雨時のキノコの大発生が信じられない程に、これといったキノコは見られなかった。今年はキノコの大不作で見る影もなかったが、来年の秋のキノコの森の情景を想像すると、今からとても楽しみとなって、心軽やかに帰宅した。
<今日観察出来たもの>蝶/クロコノマチョウ、クロヒカゲ、ムラサキツバメ(Iさんが観察)、キタテハ、ベニシジミ、ヤマトシジミ、ウラギンシジミ、ムラサキシジミ等。昆虫/オオカマキリ、ツチイナゴ等。その他/ツチグリ(写真下)、クロコノマチョウの蛹(写真右)等。
11月21日、横浜市戸塚区舞岡公園
このところフィルムの消費量ががくんと減った。いつもなら一日フィールドヘ出向けば、36枚撮り一本を撮り切ったのだが、最近は半分撮るのが精一杯となった。なにしろもうすぐ12月である。咲く花も虫も少なくなったし、後1ヶ月もすれば冬至だからすぐ暗くなってしまう。梅雨の頃、花やキノコや虫がたくさん見られた頃は、なんと一日に3本撮り切ったこともある。そんな日々が懐かしいが、これからも暇さえあればフィールドへお邪魔することになる。今日、午後から一緒に自然観察をした一人静さんが「冬を感じさせるものを撮らないとつまらない」と言っていたが同感である。日本は中緯度の温帯地方に位置していて、四季が鮮やかに巡って来るのだから、四季を鮮明に味わってこそ自然観察および写真撮影は充実する。私もフィールドへ行き始めた頃は、主に蝶や昆虫を撮影していたから、冬はフィールドへ行く回数が激減した。しかし、昆虫たちの越冬、冬芽や葉痕、冬鳥、冬景色や雪景色等の撮影の魅力を味わってからは、冬も変わらずにフィールドへ出向くようになった。防寒具に身を固め、落ち葉をさくさく音を立てながら踏みしめて歩き回り、見晴らしの良い所で休んで農家の方が落ち葉や枯れ草を燃やす紫煙等を眺めていると、思わず「冬って良いな」等と一人ごちるようにもなった。しかし、まだ関東地方は晩秋の真っ盛りである。今度の連休は雨は降らないと言うから、じっくりと晩秋を味わって、カメラの中に少なくとも良いから、その一齣一齣を納めようと思っている。
その第1弾が今日の舞岡公園である。いつもより少し遅く出かけたのに、また、昨日の雨は完全に止んで風も無く薄日が射す絶好の日和だというのに、いつも車を停める場所には一台も止っていない。みんな今年のフィールド歩きのシーズンは終わったと、やって来ないかのようである。瓜久保の小さな谷戸は、北斜面に面しているからまだ陽が当たらずに寒々としている。そこで小谷戸の里に向かって歩き始めた。途中、ニシキギの葉や実が色づいて美しい。今年大発生のキバラヘリカメムシも寒くなったから完全に姿を消しているのでは無いかと調べて見たら、まだ、黒い大きなボタンを二つつけた幼虫がかなりいる。日本原色カメムシ図鑑を開いて見ると、キバラヘリカメムシはニシキギ、マユミ、ツルウメモドキの実を好むとあるから、これから幼虫たちが成虫に達するまで実が残っているとは考えにくく、若齢幼虫の大部分は餓死してしまうに違いない。人間社会にあっては考えられない事なのだが、万が一の生き残りを賭けてでも、昆虫たちはその勢力拡大の努力を怠らないのだ。
例年なら日当たりの良い場所にウラナミシジミが見られるのだが、今年は夏の異常気象が影響して、この舞岡公園では一頭だに見られなかったのは寂しい限りだ。しかし、今日は暖かくキタテハ、キチョウ、ヤマトシジミ、ウラギンシジミが現れて日向ぼっこに余念が無い。小谷戸の里で、ちょうど撮り頃のヒヨドリジョウゴの実に焦点を合わせていると、鎌倉のNさんがやって来た。「今日は暖かいから各種の蝶が見られますね。ツマグロヒョウモンも飛んでいましたよ」と言う。明日から木枯らしが吹いて寒くなると言うから、Nさんに、「風が無いからヒヨドリジョウゴの実を撮るには最適だよ」と勧めると、「薄皮の下まで輝いて本当に美しいですね」と言う。確かに秋の斜光が薄皮の下の細胞の一つ一つまで輝かせているかのようなのだ。午後から合流した一人静さんが、「ヒヨドリジョウゴの実は毒なんですよ」と教えてくれた。でも、ヒヨドリジョウゴの名は鳥のヒヨドリが好んで食べるからそう名が付いたと記憶していたので、帰って図鑑を調べて見ると、やはり有毒でヒヨドリが好むとある。きっとヒヨドリは毒を消すものを体内に持っているのだろう。
昼食はいつものように瓜久保の火の見櫓の休憩所で摂った。コンビニの冷たいお弁当を食べるにはつらい季節となったが、近くの自販機で暖かいお茶を買って来て胃袋に一緒に流し込んだが、一つ頂いた合流した鎌倉のMさんの作った温かさが残る赤米のおにぎりの美味しさには敵うはずは無い。午後からはオニグルミ、ネム、サワグルミ等の冬芽や葉痕を見て笑い合ったり、アオツヅラフジのアンモナイトに似ている種子を見せてみらったり、カマツカの実を見たりしてモミジの森まで行った。いくらかは紅葉しているとはいえ、見頃はこれからといった状況であったが、今日は自然観察および写真撮影は一人も良し、気の合った同好の志と歩くのも良しと感じさせる、穏やかで暖かい晩秋の一日であった。
<今日観察出来たもの>花/ノコンギク、ツワブキ、リンドウ、ホトトギス等。実/アオツヅラフジ、カマツカ、ウメモドキ、ガマズミ、マユミ、ニシキギ(写真右)、ナンテン(写真下)、コムラサキ、ウツギ、ムラサキシキブ、スズメウリ等。蝶/ツマグロヒョウモン(Nさんが観察)、キタテハ、ヤマトシジミ、ウラギンシジミ、クロコノマチョウ(?)等。昆虫/コカマキリ、チョウセンカマキリ等。その他/ジョロウグモとその卵、各種の冬芽と葉痕、カキの紅葉(写真左)、コサギ等。
11月19日、東京都調布市神代植物公園
今日は何処かのミカン山に行こうと計画していたのだが、どうも神奈川県下は天候がすぐれないようである。しかし、東京都は一日中曇りで雨が降ることは無いとあるので、久しぶりに神代植物公園へ行った。例によって入場無料の駐車場裏のグリーンギャラリーのある公園の方をまず覗いてみた。以前にも紹介したと思うが、ここは意外な穴場で、知っている方しか来ないからとても静かで、入場料を払って入る本園よりも道端自然観察には優れている。入り口近くには早春に咲くはずのスノードロップが一箇所だけ咲いている。樹の花の狂い咲きは知っているが、花壇の花にもそんな異変があるとは知らなかった。いくら美しく可憐に咲いていても、時期はずれでは写欲がわかない。スノードロップが植えられている場所の小道を隔てた反対側に、ベニバナトチノキの若い木が植えられている。ベニバナトチノキは日本産のトチノキによく似たセイヨウトチノキとアカバナトチノキの種間雑種で、花としては一番大きく端正だから神代植物公園にはたくさん植えられている。しかし、冬芽や葉痕を写すとなると、他の場所のものは高木になり過ぎて難しい。そこで写すにはちょっと時期が早い気がしたが、形の良い冬芽と葉痕を探して撮影した。 今日のお目当てはフユザクラだが、この公園にも奥まった場所に2本咲いていた。しかし、撮影可能な高さで絵になるものが無く、美しく黄葉した大きなイチョウに見送られて本園へ行った。
本園では、まだ菊花展が開かれていた。花期が盛りを過ぎてやや煤けた感じがしたが、ワンパターンの一カットを撮ると、お目当てのフユザクラを見に行った。フユザクラは3本あって、その内の一つはジュウガツザクラと書かれている。良く見ると確かに花の形が違うが、この時期に咲く桜を一括してフユザクラと呼んでも良いのではなかろうか。いづれにしてもフユザクラと書かれているものを撮影したことは言うまでも無い。枯れ木にぽつんぽつんと白い花がまばらに咲いて、しかも背景は葉が落ちた木々だから寂しい感じは否めない。一生懸命に撮影していると、「覗かして下さい」と中年の男性に頼まれたので、「いまいち絵になっていないんですよ」と断って見せてあげると、「寒々とした感じが出ていて風情がありますね」とおっしゃる。また、通りがかりのご婦人が「フユザクラは寂しいわね」等と語り合って見上げている。この寂しさ侘しさが好きで今日も撮影に来てしまった訳だが、フユザクラはサザンカ、カンツバキ等のツバキ科の花々を除くと本年最後の樹の花であり、フユザクラが咲き終わればロウバイが咲き出す1月中旬まで、この広い神代植物公園に咲く花は無くなって、木枯らし吹く寒々とした初冬の情景だけが広がる。
絵としてはとっても不満足だったが、一応、フユザクラを撮影すると、サザンカを撮りに行った。「サザンカ、サザンカ咲いた道、焚き火だ焚き火だ、落ち葉焚き」と歌にもあるように、この時期を代表する樹の花である。しかし、本当にサザンカらしい一重の美しい花を、まだ撮影していないのである。神代植物公園でも大船植物園でもたくさん植えられているにも関わらず、絵になるものに出会っていないのだ。しかし、ふと道を歩いていて手入れの行き届いた家の庭先に咲いているのを良く見かけるから、今年こそはと思ったのだが、またまた踵を返すことになってしまった。キノコでも生えていないかと自然林に入って行くと、枯れた実がはじけ、もうすぐ種が旅立って行くのかなと思わせる風情でウバユリが立っていた。最近、身近な雑木林で目にすることがほとんどなくなったウバユリである。高原へ行くとオオウバユリが普通に見られるのにどうした訳だろう。
最後に広大なバラ園に行った。最盛期は過ぎたとはいえ、まだバラが美しく咲いていた。今日の目的はバラではなかったのだが、とっても美しく咲いているのを見つけたので、カメラを向けて撮影したことは言うまでもない。バラ園にはヒメアカタテハが複数見られて、日向ぼっこと思ったのだが、撮影しようと近づくとハハコグサの小さなロゼットに一生懸命産卵していた。きっと葉裏には縦に筋の入った俵型の光り輝く卵が産み付けられているに違いない。少し時間が早いが出口に向かうと、正式な身分は分からぬものの、神代植物公園でボランティア活動をしているご婦人たちが各種の実を展示していた。神代植物公園には無いが、ヒメグルミの実等もあって、それはそれは参考になりとても楽しかった。また、ご婦人がシイの実をペンチで割って薄皮を爪で取り除いて、一つだが食べさせてくれた。懐かしい味が口の中に広がった。こんな心優しいご婦人たちが、各地の植物園や緑地で植物に親しむこじんまりとした催しをしてくれたら、どんなに楽しいことだろう。ほんとうに枯れ野に心温まる花が咲いたようであった。
<今日観察出来たもの>花/フユザクラ(写真左)、ジュウガツザクラ、スノードロップ、イソギク、各種のキク、各種のバラ、ツバキ、サザンカ、カンツバキ、チャ等。蝶/ヒメアカタテハ、キタテハ、ヤマトシジミ等。その他/センリョウの実、ウバユリの実(写真右)、メギの実、ベニバナトチノキの冬芽と葉痕(写真下)等。
11月17日、神奈川県川崎市麻生区黒川〜小野路町
今日は観察記を書くのは止めようと思っていた。なぜなら僅か3カットしか写真を撮っていないからだ。しかし、ウスタビが羽化し繭の上で交尾していたので報告せねばならなくなった。また、この日を記載して残し、ウスタビガの羽化の今後の観察に役立てようと思うからだ。ウスタビガは木枯らし第一号が吹く頃に成虫となって現れ出るという特異な生態の持ち主である。これから寒風吹きすさぶ雑木林の小枝で、緑色に輝く変梃りんなものを見つけると思うが、この変梃りんなものは別名、ツリカマス、ヤマカマス、ヤマビシャク等と呼ばれるウスタビガの空繭である。ウスタビガは大型揃いのヤママユガ科に属し、各種の広葉樹の葉を食べて成長し、梅雨明け頃にこの変梃りんな繭を作ってその中で蛹となる。その頃はまだ葉が茂っているからなかなか見つけることが出来ないが、葉が落ちると陽に輝いて容易く見つけ出すことが出来る。
今までの記録から11月の下旬頃から羽化が始まると思っていたのだが、今日、こんな風の強い日なのに羽化し交尾していたのには驚いた。もう少したって完全に羽化期が過ぎたら繭を手にとって見ると分かるが、上部に裂孔があって、成虫が羽化してくる際の脱出口となっている。下部には小さな穴があいていて、雨水を流す口と言われている。たぶんフェロモンが関係していると思うのだが、ウスタビガの雄は雌が羽化することを事前に察知して、繭から出てくると即座に交尾するという生態を持っている。そして延々長い時間にわたって交尾を続ける。今日、11時に見つけて帰る時間の3時半までは交尾し続けていたので、交尾は少なくとも6時間以上にわたるものと思われる。
今日は初めに黒川に行った。昨日とても強い風だったので今日は治まるはずだと思っていたのだが、今度は北風になって木枯らし第一号のようであった。しかし、風が当たらない陽だまりにはアカタテハ、ヒメアカタテハ、キタテハ、ヤマトシジミ、ベニシジミ、ムラサキシジミ、モンキチョウ、モンシロチョウ等が見られ、その気になって試みれば撮影できたと思うのだが、みんな風が強いから枯れた草の混じった地面に止って日向ぼっこなのでパスしてしまった。黒川は果実の栽培が盛んな所で、近くに柿生と言う地名があるくらいだから柿が第一だが、梨をはじめリンゴまで栽培されている。しかし、生憎の風の為に何とかフユガキ(写真左)をカメラに納めることは出来たのだが、リンゴやカリンはいくら待っても揺れが止らずにギブアップしてしまった。こんな時には動かないキノコの撮影が一番なのだが、このところキノコをだいぶ撮ったので食指がわかない。しかし、去年、スッポンタケが生えていたので、その場所だけには行って見たのたが、今年は何も生えていなかった。
こうなったら、今日は物思いに耽りながら小野路のフィールドをさ迷い歩くかと決めて、早めに小野路町に移動した。愛車「小野路号」を日が当たる所に止めて、例のアメリカハナミズキの小枝を覗くと、前回確認した時に比べるとツリカマスの数がだいぶ減っている。人間の仕業?それとも鳥の仕業?と落胆したのだが、一番撮影しやすい場所のツリカマスに褐色の花が咲いているではないか。背の高くなる頑丈な三脚を出して、なんと30分以上も粘ったのだが北風に揺れに揺れて、たったの一回シャッターを切ったのみとなってしまった。180分の1秒だったので、なんとか止ってくれたかもしれない。こんな時はベルビアではなくてISO感度400のフイルムが欲しくなる。
<今日観察出来たもの>蝶/アカタテハ、ヒメアカタテハ、キタテハ、ヤマトシジミ、ベニシジミ、ムラサキシジミ、モンキチョウ、モンシロチョウ等。昆虫/ウスタビガ(写真右)等。その他/アミスギタケ等キノコ数種、アオサギ等。
11月16日、横浜市都筑区茅ヶ崎公園
心配された雨も夜中に降り終わって、今日は抜けるような青空と南よりの風が吹いて暖かい。茅ヶ崎公園生態園の子供たちが作っている稲の脱穀の日である。私のボランティアは午後のヒサカキの伐採だから、邪魔にならない程度に覗き見をして、余った時間を写真撮影に当てることにした。生態園に着いてみると懐かしい脱穀の農機具が並んでいる。一番懐かしいのは足で踏んで回す脱穀機だ。子供の頃に祖母が小面積だが田んぼを耕していたから、この脱穀機を足で踏んで回すゴーゴーという音、稲を入れるとサザザーと籾が脱穀される音が秋の陽だまりとともに懐かしく思い起こされる。次に懐かしく感じたのは「唐箕」と呼ばれる木製の機械で、これは重い充実した籾、中身の薄い軽い籾、そして最も軽い脱穀した時に混じった稲の葉や茎をより分けるのである。端的に言ってしまえば霧吹きの原理と同じで、風を送って籾を飛ばすわけである。それからもう一つは「千把扱き」と呼ばれる鉄製の櫛のようなものを垂直に立てた農具だ。これは歯と歯の間に稲を入れて引っ張ると脱穀されるという、最も原始的な道具である。さすがの私もこの「千把扱き」を見るのは初めてで、我が国に稲作が伝来した頃は、きっと木ないし青銅の櫛であったと想像させる代物である。これらの道具を見ていると、また、実際子供たちがこれらを使って脱穀するのを見ていると、「昔の人は本当に偉い」と、私たちのご先祖様の重労働に頭が下がる思いがした。
ほんの少し覗き見をした後、生態園の雑木林に入ってキノコを探した。今日は有り難い事に晴れたが風がとても強い。こんな時には少し位の風には微動だにしないキノコを撮るしかない。また、ピーカンだから例の380円の秘密兵器であるクリーム色の傘を持参したことも言うまでも無い。この生態園を運営するKさんによれば、少し前に神奈川キノコの会の人と回ったときに、約20種類におよぶキノコが見られたと言う。どうも緩やかな北斜面の雑木林を持つ茅ヶ崎公園は小面積にしてはキノコの宝庫のように思われる。今日まず注目のキノコはムラサキシメジである。これは生で食べると毒であるが、列記とした有名な食菌である。何本か生えていたことが熔けてしまったがいくらか格好を残しているものが見受けられるのですぐわかる。これは時期が少し遅かったかなと残念に思ったが、一本だけ薄紫で美しいものが生えていた。次に喜ばしてくれたのは格好が変幻自在のノウタケである。今回見つけたのはどう見てもイギリスパンに見える立派なものである。何とか美しく撮影しようと傘をさしてうずくまって構図を決めていると、通りがかった子供たちが寄って来た。「これ何んですか」と女の子に聞かれたので、「何に見える?」と質問すると、「パン」と子供たち皆が言う。「だけど誰がこんな所に置いたんだろうね」と言うと、「猫かな犬かな」等と不思議がるので、「これはノウタケという食べられるキノコなんだよ」と教えてあげると、納得して目を輝かして観察していた。この生態園にお邪魔して子供たちに接するたびに、子供って本当はとても自然が好きなんだなと感じさせられる。
その他、ホコリタケや小型のキノコがあったものの、これぞと思われるキノコは無かったので、脱穀の状況を覗きに行くとほぼ終了していた。農家の方やその道のプロからすれば貧弱な収穫なんだろうが、怪我も無く無事に終わって、子供たちも貴重な経験をして、「茶碗に一粒でもご飯を残す」なんてことはしなくなるだろう。昼食を済ませると午後からは大人たちだけでヒサカキの伐採に入った。ヒサカキは関東地方ではサカキの代用品として神事に使うので有名であるが、とても強い木で、これが繁茂すると下草に光が当たらなくなって各種の野の花が咲かなくなってしまうのである。町田市の小野路町・図師町の里山を管理するTさんたちもヒサカキを伐採していた。ヒサカキはホタルガの食樹であって、他の昆虫たちや鳥などにも必要な樹木であるのかもしれないが、強い木だからあっという間にまた生えてくる。また、ヒサカキはヒサカキ属、サカキはサカキ属で、同じツバキ科だが比べてみると葉や花や実の形がずいぶんと違う。そんな訳でほんの1時間半位であったが、ノコギリで木を倒し、枝を鉈で落として片付けると汗をたくさんかいてくたくたになった。いつも思うのだが、里山管理という仕事は本当に大変な肉体労働である。
<今日観察出来たもの>花/タイアザミ、シロヨメナ、ヤクシソウ等。蝶/ルリタテハ、ウラギンシジミ等。昆虫/コバネイナゴ等。その他/ムラサキシメジ(写真左)、ノウタケ(写真右)、ホコリタケ、カワセミ等。
11月14日、東京都町田市野津田町・図師町・小野路町
久しぶりに薬師池公園から町田ボタン園へ行った。もう薬師池公園には写すものが無いと思ったのだが、ちょっと覗いてみなければ落ち着かない。そうしたらアジサイ園の道端の一段高くなった草むらに、瑞々しいスッポンタケが2本置かれていた。ここに生えていたものが抜き取られて置かれたものか、それとも何処か違う場所に生えていたものが置かれたのかは定かでは無い。しかし、新鮮だからこの近くに生えていたことだけは確かなようだ。スッポンと名が付くように、甲羅から目一杯に首を伸ばしたような格好だからすぐ分かる。今年の秋はキノコに関しては不作であると何回も報告しているが、これを見たら急に探す目がキノコモードに変化したことは言うまでも無い。今後、キノコ専門のキノコ屋さんになるつもりは毛頭無い。しかし、里山の自然を語るにあたってキノコは必要不可欠なものと感じて精を出して撮影したら、とんでもなく多くのキノコを撮影してしまった。しかし、まだスッポンタケの良い写真が無いのである。キノコだけでなく里山の生き物の代表的な種は写しておきたいのだ。
そんな訳でスッポンタケが生えていそうな場所に寄り道しながら町田ボタン園まで歩いていった。途中、ソバの畑があって、まだいくらか咲き残っているかなと期待したのだが、借り入れの真っ最中であった。次に、多摩丘陵では稀少植物であるセンブリがまだ盗掘されずに残っているかなと、また寄り道してみると、有り難い事に以前と変わらずに数株残っていた。こんな場所に?と思う程の所だから、誰にも探し出されずにひっそりと生き残っているのだろう。ボタン園に着くと緑の葉に光輝く赤が美しいセンリョウの実とツワブキの花を撮った。ここのツワブキは花期が他所に比べてとっても遅いのである。例年なら陽だまりにウラギンシジミやムラサキシジミが日向ぼっこをしているのだが今日はお留守のようで、また、寒ボタンも一輪だに咲いていなかった。いつもならこれで薬師池公園の駐車場に戻るのだが、目も心もキノコモードとなってしまったので、自由民権家の石坂昌孝の墓地から民権の森を通って帰ることにした。しかし、形の良いホコリタケがあったくらいで、スッポンタケを発見することは出来なかった。
昼食を済ませると小山田緑地の駐車場に車を停めて、神明谷戸から五反田谷戸、キノコ尾根からキノコ山経由で戻って来ることにした。なにしろ顔なじみのMさんが回りを整えてくれた柿の木と、三つ並んだ、その内の真ん中の一つをMさんが作った藁塚をばっちりと撮影したかったのである。また、週初めにたくさんの雨が降ったし、スッポンタケを見てしまったから、キノコの発生に何らかの変化が生じているはずだと思ったのである。しかし、いくら図師町・小野路町と言っても、晩秋に入ったフィールドにはそれほどの変化は無かった。明日、町田市で行われる里山に関する講演会でのメイン講師であるTさんに運良く出くわしたが、「やっと今朝、霜が降りた」と言っていた。「霜が降ると種が浮いてしまうから、昔はもっと前に麦を畑に蒔いたんだけど、ずいぶん暖かくなったんだね」と感慨深げに言う。地球温暖化は事実のようで、暖かくって過ごしやすい等とは言ってられないのかも知れない。
<今日観察出来たもの>花/センブリ、リンドウ、ノハラアザミ、アキノキリンソウ、コウヤボウキ、シロヨメナ、シラヤマギク、ノコンギク、リュウノウギク、ヤクシソウ、ツワブキ(写真左)等。蝶/キタテハ、ヤマトシジミ、イチモンジセセリ等。昆虫/マユタテアカネ、オオアオイトトンボ、コカマキリ(写真下)等。その他/センリョウの実(写真右)、ホコリタケ、ホコリタケの仲間、カワセミ、アオサギ等。
11月13日、神奈川県平塚市土屋
雨が降ったり仕事だったりと、自然観察及び写真撮影の間隔がだいぶ空いてしまった。本当は今日も雨の筈だったが、一日中雨が降らない天気と変わったようで、本当にラッキーであった。秋の天気は移動性低気圧が周期的に通り過ぎるから、短期間で空模様は変化する。ことに11月に入ってからの変化は激しいようだ。フィールドのセイタカアワダチソウの最盛期は過ぎて、フィールドに花の蜜がなくなってしまったのだから、もうそろそろ各種の蝶は越冬に入ることだろう。余計な体力を使うのを避けなければ、厳しい冬は乗り越えられない。これから咲いている花といったら庭の菊や垣根のサザンカ位で、活発に活動する為のエネルギー量を確保出来ないに違いない。それでも暖かい日にはキタテハ、ウラギンシジミ、ムラサキシジミ等が陽だまりに顔を出すから、年末まで蝶がまったく見られなくなることは無い。
しかし、今日は少し晴れたがすぐに曇り空となって肌寒い。今年はなかなか寒くならないなと思っていたのだが、これからは平年並みの気温に落ち着きそうだ。そんな訳で、蝶や昆虫はお出ましになりそうもないから、野の花の最後を締めくくるリンドウとリュウノウギクを撮影することにした。この時期になると、また、リュウノウギクとなると必ず平塚市土屋にある土屋霊園脇の陽の当る坂道に行きたくなる。雑木林の裾を削って小道が作られていて、陽の当たる崖地にリュウノウギクやヤクシソウが咲いている。崖地だからほんのちょっとの土の溜まった部分に根を降ろして生育している。この為、成長は芳しくは無いものの、とっても風情溢れる写真が撮影できる。リュウノウギクは陽だまりに、こじんまりと咲いてこそ相応しい。
リンドウは土屋霊園の中の陽が差し込む雑木林の中に咲いている。平塚市市営の大規模霊園だから常時職員が複数いて、霊園内はもとより周辺の雑木林の中まで手入れをしているのだ。有り難い事にその結果、ほったらかしの雑木林では絶滅してしまった各種の野の花が見られるのである。顔見知りの職員に出あったので挨拶すると、「まったく良く来るね」と笑って言う。私が花や虫を撮りに来ているのを知っているから、墓場荒らし等と怪しまれことはないのは有り難い。「だって、ここは野の花の宝庫だから」と言うと、「野の花が咲き終わるまで草刈はなるべくしないようにしているよ」と、何処かの公園管理職員に聞かせてやりたい泣けてくるような優しい心遣いである。「それでもヤマユリなんか、ずいぶん取られてしまったよ。お墓参りに来て、悪さをして行くんだからね」と嘆いていた。
風が強い中で無事にリンドウとリュウノウギクを撮り終えると、水道施設の鉄条網にモズの早にえを見に行った。しかし、今年のモズはこの場所がお気に召さないようで、何にも無いのだから不思議だ。そこで前回は見られなかった谷戸奥の梅の木に刺してないかと行ってみると、イナゴはもちろんのこと、今回はクモやイラガの幼虫も見られた。どうも今年のモズは、こちらの方がお気に入りのようである。しかし、イラガの幼虫とは驚いた。人間ならちょっと触れただけで飛び上がる程の痛みを感ずるのに、モズは嘴や足に触れても何でも無いのだろう。以前、テレビで鳥は恐竜から進化したと言っていたが、逞しい野生をモズに感じた。今日は曇り日で夕焼けは期待できないので、七国峠には行かずに早々と帰宅の途に着いた。
<今日観察出来たもの>花/ギンリョウソウモドキ、リンドウ(写真左)、タイアザミ、アキノノゲシ、コウヤボウキ、シロヨメナ、シラヤマギク、リュウノウギク(写真右)、ヤクシソウ(写真下)等。蝶/ヒメアカタテハ、ベニシジミ等。昆虫/コバネイナゴ、ツチイナゴ、ヤマトフキバッタ、トノサマバッタ、オナガササキリ等。その他/モズの早にえ(イナゴ、クモ、イラガの幼虫)等。
11月9日、東京都町田市小野路町・図師町
11月2日に行ったのだから1週間ぶりの小野路である。しかし、何だかしばらく行かなかったようで心がうきうきする。顔なじみのMさんも「しばらく来ないと精神状態が落ち着かない」と言っていた。それほどまでに自然好きには魅力溢れるフィールドなのだ。「どうして?」と質問されても答えようが無い。まずは広い事、様々な環境がたくさん散りばめられている事、人工的な公園臭さはどこにも見当たらないいにもかかわらず、とても美しく里山管理がなされている事、自然好きな方以外は来ないし、そして何より来る人の絶対数が少ない事等が挙げられよう。もちろんここには貴重な動植物も見られるのだが、それらのものが全て見られなくなっても、フィールドさえ今のままで残っていたら定期的に通うことだろう。
今日は曇り日、しかし、この時期の曇り日はどんよりとして寒々しい。もう少し光があったほうが写真撮影には適しているのだが、風が無いから発色の鮮やかなフィルムでスローシャッターを切れば何とかなる。夏の間は車内が高温になるのを防ぐために日陰に停めいた愛車「小野路号」だが、これからは陽が当る場所に停めてあげないと可哀想である。車を降りて歩き始めてすぐの所にアメリカハナミズキが植えられている。先週はまだ葉がたくさん残っていたが、もうかなり散って、この木が大好きなウスタビガの緑色の繭が目立つようになった。今年もたくさん付いている。このウスタビガの繭はカラスウリと同様に、室内に飾りたいものとして、ご婦人に非常に人気がある。しかし、もう少し待って欲しい。ウスタビガは11月下旬に羽化するから、羽化が終わった12月の中旬頃まで持ち帰るのは止めよう。
秋に入ってすぐに綺麗さっぱり刈り取られた谷戸の下草も、また勢いを盛り返して来て、ホトケノザやオオイヌノフグリ等の季節外れの春の花も咲いているが、ノハラアザミが曇天にも関わらずきらきら輝いて目が覚めるように美しい。草刈があったから、みんな背丈が低く、しかも同じ高さに花をつけているから、なおさら絵になって有り難い。下草に注意して歩いているとヤマトシジミが水色の、ベニシジミが紅色の羽の表を開いて止っている。かなり絵になる所に止っているものも見られるのだが、足場が悪くて逃げられてしまう。この他、ヒトヨタケ科のキノコやヒカゲシビレタケ等も見られ、いくらか多摩丘陵のキノコ発生状況も好転かと期待してキノコ山に急いだ。キノコ山にはコキララタケが朽木に、地面には中小型の数種のキノコが生えていた。ことによったら来週辺り一山あるかもしれないと期待するに充分であった。
今日はMさんが回りを片付けてくれた渋柿の大木を写しに、神明谷戸に下って行った。写真撮影が大好きなMさんだけあって、本当に絵になるように柿の木に竹竿が立掛けられ、目障りな枯れた紫蘇も片付いていた。願わくば晴天で良い雲が出ていたら最高だったが、「Mさん、有難う」と、曇り空でもしっとりとした情緒溢れるものが撮れるかもしれないとカメラを向けると、大きなホウノキの落ち葉が散らかっていて目障りだ。そこで目障りになっている数枚の落ち葉を片付けようと拾いに行って見ると、なんと葉の上に鮮やかな緑色のウマオイがいるではないか。 これはこれは「落ち葉を拾いに行って、思わぬ拾いもの」と何枚もシャッターを切った事は言うまでも無い。
今日は家を早く出てきたのでまだ12時である。キノコも撮ったし、風景も撮ったし、昆虫も撮ったから後は実と花を撮ろうと、五反田谷戸へ行った。何と言っても、お弁当を食べるには五反田谷戸の桜の古木の芝地が一番である。今日はこんな天気だから誰も来てはいないだろうと思ったら、小高くなった芝地に何処かで会った懐かしいご婦人とご亭主が座っている。物忘れがひどくなったが「あ、そうだ寺家に良く来ていたKさんだ」と思い出す。「お久しぶりです。わざわざ今日はどうしたんですか?」と聞いて見ると、「この時期には必ずここに来るんですよ。寺家ではもうほとんど見られなくなった花が咲いていますもの」とのことである。Kさんは写真を撮る訳では無く、野の花を愛でる趣味の持ち主だっのだ。またしても超お節介の悪癖が出て、Kさんご夫婦に各種の花を指差しながら案内したのは言うまでも無い。
<今日観察出来たもの>花/ノハラアザミ(写真左)、アキノキリンソウ、アキノノゲシ、イヌタデ、コウヤボウキ、シロヨメナ、ヨメナ、ノコンギク、リュウノウギク、ヤクシソウ等。蝶/ヤマトシジミ、ベニシジミ等。昆虫/ウマオイ(写真下)、ウスタビガの繭等。その他/、スズメウリの実、イボタの実、ホコリタケの仲間、コキララタケ(写真右)、ヒカゲシビレタケ、ヒトヨタケの仲間等。
11月6日、横浜市戸塚区舞岡公園
昨晩の夕食にブナシメジが出た。鱈や牡蠣や鶏肉に小野路で買ってきた様々な野菜やスーパーで仕入れたブナシメジも入れて、これらを一緒くたに似た寄せ鍋である。もちろん小野路で買って来た柚子を絞って醤油とともに食べたわけだが、ブナシメジはぷちぷちしてはいるが、期待していた程美味しくなかった。これと言った味が無いのである。そこで図鑑を調べて見ると、「独特の甘い香りが強いので、ゆでてから料理する。肉は歯ごたえがあり、著しく吸水性があるので、煮込み料理などが良い」と、成美堂出版刊“日本のきのこ”に書いてある。何か違った料理方法にした方が良いのだろう。先日、森林公園からの帰りに三芳パーキングエリアで休憩したが、生シイタケを竹串に刺して炭火で焼き、醤油をつけたものを売っていた。これを見てしまうと唾液が口内に溢れて来て、我慢できなくなってしまうのだ。どうも竹串に刺して炭火で焼き醤油をつけた食べ物に目がないようである。江ノ島等で売っている焼きイカ、夏の高原へ行くと売っているトウモロコシ等、見かけると必ず車を停めて買ってしまうのだ。
今年からキノコを始めて、これだったら間違いなく食べられるキノコだと分かるものが数種ある。その中の一つに、枯れ木や朽木や切り株に生えるアラゲキクラゲがある。今日行った舞岡公園には、アラゲキクラゲが好きなクワの木が多いからたくさん生えていた。夏の暑い時期はしなびていたのだが、このところの雨でぷちぷちとまことに美味しそうである。永岡書店刊“きのこガイドブック”によれば、「独特の歯切れと優れたうまみを持ち、キクラゲとともに中華料理に広く使われる」と書いてあるから、今度、見つけたら試食しなければならなくなった。もっとも、写真を撮ったり様々な生き物を観察しているだけで満足で、採集する時間も無いし、アラゲキクラゲから始まって他のキノコも試食してみようなどと発展したら、「花虫とおる、キノコを食して死す」等という赤っ恥をかくかもしれない。まぁ、こつこつお金を溜めてテレビで先日見た、様々な山採りのキノコを食べさせてくれる宿(一泊、15,000円)にでも泊まりに行こう。
午前中雨だったこともあって、今日の舞岡公園は静かであった。午後からちらりと太陽が顔をのぞかせることもあったが、蝶や昆虫はほとんどお休みだが、風も無い薄曇で様々な木の実を撮影するにはもってこいの日和であった。舞岡公園は様々な樹木の実を観察するには好適な場所で、至る所にあるニシキギの実はもちろんのこと、水車小屋周辺にはアオキ、コムラサキ、マユミ、スズメウリ、ウツギ、ノイバラ、アオツヅラフジ等の実が見られ、古谷戸の里ではヒヨドリジョウゴ、ウメモドキ、シロヤマブキ、クコ、さくらなみ池まで行けば見事なカマツカの木も生えている。これらの実だけではなく、オニドコロやヤマノイモの実も風情があって面白い。今日一番撮影したかったのはカマツカの実で、何処にでもある木なのだろうがなかなか出会いが少なく、実が手が届く所にあるとなると難しい。先日、お仲間と散策した折に見つけたもので、今度行った時には必ず撮って来ようと狙っていたのだ。果柄が長くてなかなか風情溢れる赤い実である。花は4月下旬に咲くとあるから、来年必ず撮りに行かねばなるまい。尚、名前の由来は、漢字で書くと「鎌柄」と書くが如くに材は固くて折れづらく、鎌の柄に用いたからそう名がついたとある。
最後に数枚残ったフィルムで、緑色の小さな独楽のようなウツギの実を撮った。決して美しい実とは言いがたいものの、たくさんこぼれるように実がついているので、可愛らしい形を美しい背景にうまく納めれば、ウツギの実もなかなか捨てがたいものがある。これから冬になると各種の樹木の冬芽と葉痕はもちろんのこと、芽吹き、花、実、樹肌と色々楽しめるから、樹木も深みに嵌ったら抜け出せなくなる「興味深深の世界」なのだ。
<今日観察出来たもの>花/ツリフネソウ、タイアザミ、アキノノゲシ、ワレモコウ、ミゾソバ、イヌタデ、ミズヒキ、キンミズヒキ、キツネノマゴ、ハキダメギク、シロヨメナ、ヨメナ、ノコンギク、リュウノウギク、ヤクシソウ等。蝶/モンキチョウ、ヤマトシジミ、ベニシジミ等。昆虫/セスジツユムシ、アオマツムシ、キバラヘリカメムシ等。実/アオキ、コムラサキ、ニシキギ、マユミ、スズメウリ、カラスウリ、ウツギ(写真下)、ノイバラ、ヒヨドリジョウゴ、アオツヅラフジ、ウメモドキ、シロヤマブキ、クコ、クサギ、カマツカ(写真右)、ウツギ、オニドコロ、ヤマノイモ等。その他/アラゲキクラゲ(写真左)、カワセミ等。
11月4日、埼玉県滑川町国営武蔵丘陵森林公園
前回行ったのが10月12日だから、約3週間間隔が空いたことになる。花や虫を求めて同じ場所に通っていると、約2週間毎に様変わりして行く。こういった動植物の変化からも中国発祥の季節をあらわす「二十四節気」は的を得たもので、一ヶ月に一度お邪魔しますでは、フィールドでの微妙な変化を見逃してしまう。こんなこともあって、中央口入り口すぐに咲いていたコスモスはすべて刈り取られ、小形の洋種キンセンカ(カレンデュラ)に植え替えられていた。また、枯れ草火災が心配なためか小道沿いの下草も刈り取られ、春のカントウタンポポやタチツボスミレが咲き出すまで、見るもの写すものがない寂しい状態が続くことだろう。前回行った時に咲いていた浅い池のガガブタの花は完全に終わり、ヒツジグサの丸い葉が色づいて浮かんでいるだけである。池の水もだいぶ澄んで、もう少し経ったら固い氷に閉ざされてしまうことだろう。
今日は別にこれと言った目的は無かったものの、行けば必ず何かがある武蔵丘陵森林公園へ行って見たかったのだ。しかし、昨日の雨の後の晴天だから風がすごく強い。雑木林は時折ゴーゴーと音をたて、北風では無いからそれ程寒く無いものの、木枯らしのように各種の樹木の葉を青空に舞い上げる。こうなったら花や実等の撮影はお手上げで、なるべく動かないものを見つけて撮影するしか無い。こんな時はキノコだと、前回モミタケが見られたヒマラヤスギの林に行ったのだが、少量の残骸があるのみで何も見当たらない。すぐ横にある竹林を覗いて見てもキノコは皆無である。そんな訳で風が比較的当らない芝地で飛んできた蔦や桜の紅葉黄葉(写真右)を撮影した。ここだけが各種の昆虫の溜まり場のようで、ヤマトシジミ、キタテハ、アキアカネ等が、芝生の上に散らばる黄色く色づく桜の葉に止って日向ぼっこをしている。秋の斜光は撮影する者の影を黒く長く伸ばす。また、気温がそれ程低く無いから、昆虫たちも人の接近を敏感に察知する。こんな時は、200mmマクロレンズでも持ってこないと撮影は難しい。
中央口の花情報によるとリンドウとセンブリが見頃とあった。多摩丘陵でも両者を数箇所で確認しているのだが、盗掘が心配で紹介出来ないでいる。しかし、森林公園なら盗掘も無かろうと、今日の撮影目的と決めた。リンドウはカエデ見本園に咲いていると書いてあったので行って見ると、それはそれはたくさん咲いていたのだが、人工的に植栽されたものだから風情もへったくれも無い。秋の終わりに咲くリンドウは、美しい未亡人のように、野に寂しげに咲いてこそ風情がある。しかし、各種のカエデ(写真左)やモミジは色づいていて、風の為に枝に残っているものは撮れないものの、こんもりと刈り込められたツゲの植え込みに落ちた葉がステンドグラスの様に輝いていた。また、ツゲの葉は光を反射して、マクロレンズを通して見ると無数の水滴のようで美しい。もちろん絞りを開けて、カエデの葉の回りを無数の玉ボケで飾ったことは言うまでもない。
さて、お次は前回テングタケがたくさん生えていた野草コースへ行ったのだが、テングタケは忽然と消えたがごとくに跡形も無く、他のキノコも生えていなかった。こうなったら腰と足の痛みはなくなったからと南口まで行って、センブリにあってこようと歩調を早めた。南口では菊花展が開催されていて、それはそれは見事な作品がたくさんあった。各種の色合い、花形の懸崖作りをマクロレンズで切り取ると、何枚もの素晴らしい小菊のポストカードになると思ったのだが、午後のピーカンの光ではしっとりとした写真は無理だ。そこで菊花展の会場を素通りしてセンブリが咲いているという梅園へ急いだのだが、センブリは全く見当たらない。ここまで足を伸ばして帰るのも無念である。そこで携帯電話で「横浜から来たので是非見て帰りたい」と咲いてる場所を聞いてみると、担当者が今日は休みだという。しかし、わざわざ休みの担当者に電話連絡までしてくれて場所を確認し、更に場所が分かりづらい所だからとバイクに乗って飛んで来てくれた。こんなことまでしてくれる公園って、他にもあるのだろうか。
センブリはほんの狭い場所だったが群生していて、三脚や足の置き場に注意しないと踏み潰す位あった。先日、薬科大で教鞭をとっていたAさんが、「昔は何処にでもたくさんあった」とおっしゃっていたが、今日の群落を見る限り「そうだったに違いない」と頷けた。どうもセンブリは下草刈りが定期的に行われる日当たりの良い草地が好きな様である。今度、出かけた先で、そのような場所があったら丹念に探してみよう。今日はピーカンで風が強く、キノコもほとんど無く、不満足な一日で終わるのかなと思ったら、森林公園職員の有り難い気配りで、センブリの群落を見ることが出来たのだから、感謝、感激の一日であったとしても良さそうである。
<今日観察出来たもの>花/リンドウ、センブリ(写真下)、ノハラアザミ、コウヤボウキ、シロヨメナ、リュウノウギク、ヤクシソウ等。蝶/アカタテハ、キタテハ、キチョウ、ヤマトシジミ等。昆虫/クルマバッタ、コバネイナゴ、オオアオイトトンボ、アキアカネ等。その他/アオツヅラフジの実、スズメウリの実、ゴンズイの実等。
11月3日、横浜市都筑区茅ヶ崎公園
10月中旬にツマグロキチョウを見に行って、例年通り今年の遠征は終わりのはずだったのだが、どうしてもベニテングタケを見たくなって、翌週、乙女高原へ遠征してしまった。もう今年はこれで遠征は充分な筈なのに、いつのまにか放浪癖がついてしまって、今日は国営武蔵丘陵森林公園へ行き、今市市にある「グリーンロード日光杉並木ユースホステル」に泊まって、今まで何となくずっと気になっていた栃木県の佐貫大仏まで偵察に行こうと思っていた。しかし、天気予報は今日は雨と言うことで、この計画は中止となった。これから来年の春にカタクリとギフチョウを見に新潟へ行くまで、泊りがけの遠征はしないはずである。今年も本当に色々な場所に行ったが、一番記憶に残っている場所は、夏休みに行った新潟県新井市の高床山森林公園である。なにしろイトトンボの仲間が沢山いたし、緑色のハツタケであるアイタケも見たし、ブナの大木に圧倒されたりと思い出に残ることばかりであった。
やっと腰や肩のだるさが癒えたと思ったら、今度は右足の膝が痛くなった。どこかを庇っているとその影響で他の部位に影響が出てくるのだろう。そんな訳で今日は完全休養の一日とするはずだったが、プリンターのインクが切れ、昼飯を食べるついでに港北ニュータウンまで出かけて行ったら、無常にも雨が止んでしまった。撮影機材は積んであったので、しばらく行かなかったキノコの森へ行ってみたくなった。しかし、いつ雨になるかもしれないし、そこで10月25日に稲刈りのボランティアに行った時に、立派なカラカサタケが生えていた茅ヶ崎公園に寄ってみることにした。、今日は祝日だから生態園も開いているはずだし、ことによったら、Kさん、Yさん、Fさん等のスタッフも来ているかもしれないと思ったのだ。車を停めて公園脇の道を歩き始めると、ケヤキ並木の地面に苔が生えていて、そこに待ってましたとばかりに2種類のキノコが生えていた。多摩丘陵で熱心に探してもなかなかキノコらしいキノコにお目にかかれないのだから、本当に幸先よい。やはり茅ヶ崎公園は自然度が高いのだ。
こんなに容易く見つかるのなら、マンション下の美しい竹林に、もしかしたらキノコの女王「キヌガサタケ」は無理にしても、何か生えているのではと寄ってみたが、ここは期待はずれであった。生態園に行くまでの路傍にもキノコが生えていて、ムラサキシメジより美味しいと言われるコムラサキシメジ(?)も生えていた。生態園に着くと小学校管理の田んぼの稲刈りもすっかり終わって、子供たちが作った案山子が雨に濡れそぼって風情溢れて立っている。今日はスタッフも来園者も誰も見えない。まずはカラカサタケがあった場所に行って見ると、もう2週間も前のことだから、いくら長持ちのカラカサタケとは言っても、跡形もなく消えていた。しかし、朽木に様々なキノコが生えていて、ああでもないこうでもないと窮屈な姿勢をとり、今日は暖かいから薮蚊の攻撃も受け難渋して撮影したら、雑木林に設えてある階段を登る時に腰も膝もとっても痛くなってしまった。
普通ならそれでもう止して帰ればよいものの、フィルムが残っていると言い訳して、そこでもう一踏ん張りとキララタケやエリマキツチグリを撮り、隣接する大原みねみち公園へ寄って可愛らしいヒトヨタケの幼菌やヒカゲシビレタケ等を撮った。ほんの短時間だったがすっかり満足して帰宅しようとしたら、どうした訳か膝の痛みはすっかり取れて足取りが軽い。どうやら明日は日帰りで国営武蔵丘陵森林公園まで行けそうにまで回復したようだ。
<今日観察出来たもの>キノコ/*多分半分くらい種名は違うと思いますが、スエヒロタケ、ヒナノヒガサ、コムラサキシメジ、ムレオオイチョウタケ、エリマキツチグリ、ホコリタケ、ハイイロシメジ、ヒトヨタケ、キララタケ、コツブヒメヒガサヒトヨタケ(写真右)、オオキツネタケ(写真下)、ヒカゲシビレタケ、ヤワラタケ、アラゲキクラゲ、カワラタケ等。その他/案山子(写真左)等。
11月2日、東京都町田市小野路町・図師町
今日で3日連続の小野路町・図師町行きとなった。この3日間毎日、里山管理をなさっている地元のTさんに出会ったのだから、Tさんも本当にこのフィールドが好きな奴と思ってくれたか、それともとんでもなく暇な奴あるいは頭がおかしい奴と思ったかは定かではないが、自然好きと熱心さだけは認めてくれたことだろう。昨日、午後にちょとだけお邪魔したら、万松寺谷戸に小さな藁塚(写真左)がたくさん立っていた。しかし、天候は曇りだから撮影しなかった。露が降りた早朝か、形の良い雲が現れた午前中か、夕日が沈む頃が情緒溢れてぴったりと判断したのだ。そこで今日は形の良い雲が青空に現れるかもしれない午前中と夕方を狙って出かけた訳である。他のフィールドでは藁の一束を開いて立てかけているのをよく見かけるが、ここでは二段重ねでより情緒が溢れている。正式な名前が分からないので、ここでは小さな藁塚と呼んでおいたが、正確には藁塚は「藁にお」とも呼ばれ、藁を重ねて高く積み上げたサイロのような格好のものを指す。だから、地面に開いて立てかけて藁を乾す小さな藁塚は、きっと別の名があるに違いない。地元の農家の老御夫婦と仲の良いMさんに、聞いてきてもらわねばなるまい。いづれにしても晩秋を情緒たっぷりと演出する谷戸の風物詩である。
かつては藁は草履や縄や筵、家畜の餌や敷き藁として利用したから、こんな風景は何処へ行ってもごく普通だった。しかし、稲刈りと同時に脱穀、籾摺り、藁は粉々に粉砕される機械が登場して、藁塚を見かけることは少なくなった。谷戸田は大型の機械が入れないから稲を干す風景までは見られるものの、藁を利用する事が少なくなったから大きくても小さくても藁塚は超貴重品だ。夏に地元の農家の方に聞いた話だが、刈り取った稲を逆さまにして竹ざおに掛けて天日乾しにすると、茎に残っていた栄養分が稲の一粒一粒に降りて来て美味しい米になるのだと言っていた。舞岡公園の農産物販売センターでも天日乾しの「舞岡米」を販売していたので買って来て試食したが、こたえられない美味さであった。ついでに、これを酒として醸造した「舞岡錦」も飲んでみたが、これもまた夢を誘う酔い心地となったのは言うまでも無い。いつ死んでもおかしくない歳となったのだから、少々高くついても化学肥料や農薬を使わず、天日乾しの美味しい米を食べたいと女房にリクエストしているのは言うまでもないのだが、長年続く貧乏生活にすっかり慣れ親しんでしまって、いつもスーパーの標準米と、その夢を遠いものとしている。
藁塚を撮影すると今年は不作と分かっているキノコ探しをしながら、五反田谷戸へ降りて行った。途中、ほんの僅かのホコリタケや虫食われの傘をつけたカラカサタケを見つけた。キノコを食べる昆虫たちも今年のキノコの不作には相当参ったようで、あれば総出でやって来るから、せっかく顔を出したキノコもすぐ穴だらけとなってしまう。五反田谷戸に降りて行くと、31日と変わらずに各種の野の花が咲いていた。しかし、日曜日で花の撮影には好適な午前中だというのに人陰が見られない。もっとも今日はピーカンだから、午前中といえども花の撮影には不向きであることも確かだ。そこで今年撮影していなかったノハラアザミを、ピーカンにおける花撮影の奥義の一つとも言うべき水面反射の玉ボケの中にまとめて切り取った。休耕田に行って見ると、最近姿を見せないからもう冬眠してしまったのかと思っていたハンミョウが、一匹だが元気良く活動していた。口になにやら獲物を咥えているので、餌がまったくなくなった訳でもなさそうだ。9月初旬にあんなにたくさんいたのだから、ことによったら天敵によって食べられてしまったのかもしれない。いくら鋭い牙を持っていても、鳥にとっては何ていうことはないのだろう。五反田谷戸の中程の田んぼでは脱穀のための機械がうなりを上げていた。後10日程先に、また静かさを取り戻した藁塚立つ谷戸が現れる事だろう。
<今日観察出来たもの>花/ノハラアザミ(写真下)、ワレモコウ、ツリガネニンジン、オケラ、コウヤボウキ、ミゾソバ、イヌタデ、シロヨメナ、ヨメナ、ノコンギク、リュウノウギク、ヤクシソウ、ヤマハッカ、セイタカアワダチソウ、ゲンノショウコ等。蝶/キアゲハ、ヒメアカタテハ、キタテハ、スジグロシロチョウ、モンキチョウ、キチョウ、ウラギンシジミ、ヤマトシジミ、ベニシジミ等。昆虫/ハンミョウ、オオアオイトトンボ(写真右)、アキアカネ、ヒメアカネ、ハネナガイナゴ等。その他/ホコリタケ、カラカサタケ、イタチタケ等。
11月1日、神奈川県川崎市麻生区黒川〜小野路町
どうも腰のだるさと肩のコリが少しだが残っている。これは熱こそ出ないものの一種の風邪で、「自然観察及び写真撮影はお休みにして、少しゆっくりしなさい」という身体からの黄色信号なのだ。しかし、起きてみると久しぶりの曇り日である。そこでアップダウンのほとんどない黒川なら身体にも良いと言い訳して出かけてしまった。いよいよ今日から11月である。秋も深まり咲く花も舞う蝶も鳴く虫も少なくなって行くものの、フィールドきってのお邪魔虫である薮蚊も消えて、じっくりと秋に取り組むのにはとても良い季節である。いつもの場所に車を停めて歩き出すと、まず最初に目に入って来たのはクコの花だ。以前、舞岡公園で撮影し紹介したからパスしようかなと思ったのだが、紫色の花弁と白い花芯や雄しべ、雌しべとの対比が実に美しくとってもシンプルな花である。しかも、若葉は食用に、果実は果実酒に、乾燥した果実は強壮、解熱の薬となるのだから、クコはとっても有り難い植物なのだ。ことによったらもう作出されているのかもしれないが、もっと大型の花に品種改良されたら抜群の人気が出るに違いない。
クコの花をしっかりとカメラに納め、小川沿いのフェンスに沿って更に歩くと、色とりどりに色づいたノブドウが今朝の雨に濡れて、実だけでなく葉もしっとりと美しく輝いていた。果実の色はどんな色があるのかと注意して見ると、緑、白、赤紫、青、紫と虹の七色まではいかないものの豪華絢爛たる彩りだ。しかし、こんなに美しいから「美しいものには毒がある」の例え通りに有毒であるらしい。食べられるのはエビズルやヤマブドウで、こちらの方は黒一色で面白みが無い。いつもノブドウを見ると感じるのだが、食べられないのだから誤解を招く葡萄とは付けずに、「五色豆蔓」等という名にしたら良かったのにと思うのだがいかかだろうか。このように黒川の小川に沿った道のフェンスは、蔓性の植物を観察するのには絶好の場所で、写真だって上手くフェンスを取り入れたら絵になるのだから良しとせねばなるまい。今日もアオツヅラフジという黒色の実がなる多摩丘陵ではあまりお目にかかれない蔓植物も見られたし、他にはカラスウリ、スズメウリ、オニドコロ、ヘクソカズラ、センニンソウ、ツルマメ、ヤブマメ等が絡み付いているから楽しくなる。
幸先良くクコとノブドウを撮ったから、後一枚は昆虫で行こうと考えて注意して歩いたのだが、11月に入っての曇り日は昆虫にはさすが歓迎されない日和で、シソの枯れた花穂にセスジツユムシの雌がじっとしてしていて、これは素晴らしい写真になるとわくわくして近づいたのだが、片方の触覚が切れて短くなっていた。そこで農家の庭先にこぼれんばかりに咲いている園芸品種の小菊を撮った。黒川のフィールドにはノコンギク、シロヨメナ、ヨメナ、ユウガギク、シラヤマギク、リュウノウギク、ヤクシソウと野生の小菊が咲き乱れているのだから、庭の園芸品種の小菊もそれに負けてはならじと咲き競っているのは当然である。いよいよ万花のうちで年の最後に咲く花として、中国では窮極という意味の「鞠」とも呼ばれるキクの季節となり、谷戸田縁にはリンドウも咲いて、秋も大洲目を迎えつつある。
さて、写真はこれで三枚撮ったし、午後から雑木林の中を散策してみたもののキノコ等のめぼしい被写体も無かったので、今日は早上がりと決めたのだが、小野路町の野菜無人販売所で葉のついた人参でも買って帰ろうと万松寺谷戸に寄った。そうしたら「ちょっとだけよ」とまた散策したくなってしまったのだから病気である。Tさんが言っていた昔はマムシの昼寝の場所(谷戸中央の案内板の付近)に、看護婦さんか保母さんにしたらとっても似合いそうなIさんと梟姫が座ってバードウォッチングをしていた。「Iちゃん久しぶりだね」と言うと、「これから葉が落ちるからたびたび来ますよ。今日はノスリを見ました」と言う。今は鳥音痴の私だが、ノスリとはワシタカ科でサシバが帰った後に山地から戻ってくる鳥だということ位は知っている。「その他には?」と聞くと、今日はそれほど芳しくないと言う。でもIさんは笑って、「何にも出なくたって、ここにどっぷりと浸かっているだけで満足」と言う。まさに名言である。ここのフィールドは鳥でも花でも昆虫でも、なぜかご婦人の方が多くやって来る。かつて「女性は実利的で現実的」と習った筈だが、こと小野路・図師に関しては、女性のほうがロマンティストのようである。「12月に入ったら鳥を撮り始めるから宜しくね」とIさんと梟姫に別れを告げて、ほんのちょっとだが散策をして帰宅した。
<今日観察出来たもの>花/クコ(写真右)、ワレモコウ、ツリガネニンジン、オケラ、コウヤボウキ、ミゾソバ、イヌタデ、シロヨメナ、ヨメナ、ノコンギク、ユウガギク、リュウノウギク、ヤクシソウ、リンドウ、ヤマハッカ、セイタカアワダチソウ、アキノノゲシ、ゲンノショウコ、キク(写真左)、コスモス等。蝶/スジグロシロチョウ等。昆虫/セスジツユムシ、アキアカネ等。その他/ノブドウの実(写真下)、アオツヅラフジの実等。