2003年:つれづれ観察記
(12月)


12月30日、横浜市青葉区寺家ふるさと村

 今年もいよいよ明日の大晦日を残すのみとなった。いくら自分勝手し放題の生活を続けていたって、明日は大掃除を手伝わなければならないし、明けて元旦は人並みに親戚まわりをし、子供たちにお年玉を用意して、とっても良いおじさんを演じなければならない。この「2003年、つれづれ観察記」は、もちろん今日が最後となる。この一年どうにかこうにか書き続けてこられて、本当にほっとしている。かなり自分自身に鞭打って書き続けて来たので、「おもしろ昆虫記」と「おもしろ花日記」は未完成のまま中断するに至ってしまった。そして来年も「つれづれ観察記」を引き続き書き続けるつもりでいる。しかし、再来年はどうなるかは今のところ未定である。はたしてこの「つれづれ観察記」が皆様のお役に立ったのかなと考えると、それははなはだ疑問である。ホームページを開いて約1年3ケ月になるが、所期の目的は写真の仕事のため、次にアクセスしてくれる方のため、そして最後には自分のためと変化して行ったが、人様の為等と言う奇麗事だけでは、ホームページを随時更新し続けることなど出来やしない。炬燵に入ってテレビを見ていた方がはるかに楽だからだ。何事も自分の為、自分が面白いからやって行ける。そんな訳で、年毎に激しくなる健忘症も、日記にして書き記して残しておけばいつでも思い起こせるし、また、いつかこの「つれづれ観察記」を土台にして、「道端自然観察館」なる本をまとめてみようとも考えるようになったのである。
 ずいぶんと前書きが長くなってしまったが、寺家ふるさと村で鳥の写真を長年撮り続けていらっしゃるOさんからの情報で、今日はあこがれのルリビタキを撮りに行った。12月に入って以来、何とか40種類の鳥を撮影したいと頑張っているが、ルリビタキは何としても撮影したい野鳥の一つである。かなり歳をとってしまったが「浅丘ルリ子」という美しい女優さんがいるが、頭に「ルリ」と付くと会いたい見たいという願望がこみ上げて来る。「ルリ」とは「瑠璃」で、鮮やかな明るい紺色の宝石のことである。すなわち頭に「ルリ」とついた動植物、キノコは、瑠璃色をしているという訳である。代表的なものを上げれば、蝶ではルリタテハ、ルリシジミ、昆虫ではルリクワガタ、ルリハムシ、ルリボシカミキリ、野草ではルリハコベ、キノコではルリハツタケと言った具合になる。
 教えて頂いた場所に行くと、早くも3人の顔見知りの方がカメラを構えている。その中にはHさんもいて、以前から色々とお世話になっているので胸を撫で下ろした。「いやー、鳥の撮影を始めてみて、珍しい鳥、美しい鳥を見に行きたいという皆さんの気持ちが分かりましたよ」とHさんに言うと、「そうなんだよな。知らない人からすれば、重たい機材を運んで一日中一箇所で頑張っているのを見ると、不思議を通り越して馬鹿ではないのと思うだろうけどね」と笑って言う。今年はキノコに熱中したし、冬になって野鳥撮影も開始した。何事もやって見なければその楽しさ面白さは分からないものなのだなとつくづく実感した一年であった。しかし、いろいろな被写体を追ってみて、やはり私には、ハンドルネームの「花虫とおる」の花と虫、特に昆虫の撮影が一番フィットしていると感じたのも確かである。
 その後、集まった皆さんと色々為になる野鳥の話を聞いていると、「チッチッ」と言う鳴き声が聞こえて来た。お仲間の一人のKさんは、首にぶら下げた大型の双眼鏡を躊躇無くすばやく構える。私は双眼鏡等というような邪魔臭いものは持たないつもりでいるが、横から見ていると、Kさんの双眼鏡を覗いている姿は実に絵になっていて、これど本物のバードウォッチャーという思いを強く感じた。とにかく格好が良いのである。さぞかしバードウォッチングの経歴が長いのだろう。「来ましたよ」とKさんが言うや否や、お話はぴたりと止んでみんな必死にカメラを構える。ルリビタキは私の機材でも充分な距離まで飛んで来て小枝に止った。「これが噂のルリビタキなのか、本当に羽が瑠璃色をしている」等と感動しながら、シャッターを何回も切った。その後、話を聞くところによると、ルリビタキは決して珍しい鳥ではないが、個体によって色合いが異なり、暗い場所に現われるので、なかなか良い写真が撮れないらしい。Oさんに教えてもらったこの場所は雑木林の中だかとっても明るく、縄張りを張っているルリビタキの雄の羽の色もとても美しいという事だ。これはこれは本当にラッキーなことであったわけである。
 まだ野鳥撮影を開始して1ケ月しかたっていないが、何でバードウォッチャーは寄り集まって話をしているのだろう? やることがなくて暇で寂しいから群れをつくっているのかな等と不遜な考えを持っていたが、得がたい情報を交換し合っていたのだということが分かった。その後、アカハラとタヒバリもカメラに納めたから、何と一ヶ月で36種類の野鳥の写真が撮影出来た。後4種類で目標の40種類に到達する。これも私が生き物を呼び寄せる超能力の持ち主ではむろん無く、皆様の親切な情報があってこその事なのだ。新年を迎えたらより一層恵比須顔になって、心も仏様のようになって、たくさんの方々から色々な情報を頂ける様にならねばなるまい。道端自然観察は一人でも可能でとても楽しいが、より充実したものとするためには、お仲間との節度ある暖かい交流が必要なのである。今年一年、最後の最後になって楽しい道端自然観察の極意、悟りが開けて、どうやらとっても良い年を迎えられそうである、合掌!

<今日観察出来たもの>鳥/カワウ、マガモ、カルガモ、ヒヨドリ、ツグミ、ルリビタキ(写真左)、タヒバリ(写真下)、アカハラ(写真右)、スズメ、ハシブトガラス等。


12月29日、東京都三鷹市井の頭公園

 先日行った明治神宮と上野不忍池で、都内の野鳥観察に好適な場所巡りは終わるつもりであったが、どうしてもオシドリを美しく撮影したいと思い、井の頭公園へ電車で行った。手に入れたキヤノンKissデジタルに、廉価版で軽量の75〜300mmのズームレンズを装着した機材だけだから、飛び上がらんばかりに軽い。もちろんカーボンの三脚を持って行ったから、これだけはちょいと邪魔臭いのが頭痛の種である。いづれ手ブレ防止付きの300mmまであるズームレンズを買えば、三脚無しでも野鳥撮影が可能かもしれない。軽量のデジタル一眼レフカメラが登場して、特殊撮影の分野とも言えた野鳥撮影が、私にも楽しめるようになったのだから、キヤノンさんにお礼を言わなければならないだろう。以前だったら重い機材を持って電車で出かけることを考えただけで、溜息が出て取り止めてしまったことだろう。
 井の頭公園は吉祥寺駅からが一番近いが、人込みの中を瞬時でも歩くことを嫌って、渋谷から井の頭線の各駅停車に乗って井の頭公園駅で降りた。今日はさすが電車は空いていて、寝ていれば目的地に着いてしまうのだからとても気が楽である。私が持っている野鳥観察地を紹介している本によると、井の頭公園にはカワラヒラ、カイツブリ、ヒドリガモ、オシドリ、ジョウビタキ、シロハラ、アカハラ、アオジ、カシラダカ、アオゲラ等がいると紹介されている。池と川と雑木林があるのだから、各種の野鳥が生息していてもおかしく無い。しかし、今日は期待していたオシドリが見られず、所期の目的は達成できなかったのだが、それでもまだ撮影していないハシビロガモとカイツブリがいたし、ヒヨドリが人に慣れているから絵になる写真が撮れたのだから良しとせねばなるまい。
 ハシビロガモはその名のごとくに嘴の先が平らになっていて、水面上に扁平な嘴をつけ、上下の嘴を絶えず動かしながら水面上を泳ぎ回って餌を漁るという習性のカモのようである。このため一時でもじっとしていない。じっとしている時は嘴を羽の下に持って行って絵にならない昼寝をしている時だけで、比較的泳ぐ速度が鈍った時に高速のシャッターを切るしかない。しかし、七井橋周辺ではたくさんの人たちがカモに餌をやっているので、まるで渋谷駅前の交差点のような込み具合だから、他のカモを入れずに1匹だけ撮影するとなるとかなり難しい。橋の上の通行の邪魔にならない所に三脚を立て、自由雲台をフリーにして高速シャッターを切ったら、嬉しいことにしっかり止ってくれた。
 七井橋では絶えずカモに餌が撒かれているから、おこぼれ頂戴とヒヨドリとハシブトガラスが付近の樹木の枝に止まって隙を狙っている。自然度の高いフィールドでは、ヒヨドリやカラスだって近づくのはなかなか難しいから、絶好のチャンスと言うことになった。しばらく撮影のチャンスを狙っていると、空中高く餌を撒く方が現われた。ヒヨドリも慣れたもので空中高く撒かれた餌を上手に嘴でキャッチする。そんな光景を見ていたら、江ノ島の最後の海に面した茶店の方が、トビに餌をやっている時の光景を思い出した。その後に現われた中年男性は、なんとパチンコを持参している。パチンコでヒヨドリを狙うのかなと思ったら、餌をヒヨドリ目がけて打っている。餌はバン屑やポップコーンだから、いくら強力なゴムの力を借りてもヒヨドリが止っている所までは届かない。しかし、手で空中高く投げるよりはかなり効果的で、百発百中、ヒヨドリは餌をキャッチする。先日、舞岡公園で出会った横須賀のバードウォッチーが、少々見下した意味を込めてヒヨドリのことを「ヒヨちゃん」と呼んでいると言っていたが、今日のこの光景やボサボサ頭の愛嬌のある顔を見ると、親しみを込めて私は「ヒヨちゃん」と呼んでやろうと思った。
 ハシビロガモやヒヨドリ等を確かな手ごたえで撮影出来たので、今度はカイツブリに挑戦した。しかし、カイツブリは潜水ガモだから、水面に現われたと思ったらすぐに水中にもぐってしまう。秒針のついた時計を持参していなかったから計れなかったが、かなり長い時間である。身体を水面上に現している時間より長い位だ。しかも潜ったら何処に再び顔を出すの分からないし、身体の大きさもカルガモの半分くらいしかないから、距離が遠いと今日の機材では撮影が難しい。そんな訳でかなり頑張ったが、ベストショットは撮れずじまいとなってしまった。今日の井の頭公園は、それなりに人出があったが、すぐ近くが吉祥寺の繁華街とは感じさせず、野鳥観察には絶好の場所であることを改めて感じさせてくれた。

<今日観察出来たもの>鳥/カワウ、カイツブリ、キンクロハジロ(写真右)、ホシハジロ、オナガガモ、カルガモ、ハシビロガモ(写真下)、カワセミ、ヒヨドリ(写真左)、スズメ、ハシブトガラス等。


12月28日、東京都町田市小野路町、図師町

 どうせ気取ったって冬のフィールドでは仕方が無いので、風邪でも引いたら大変と厚着して出かけた。昨日の朝に横浜市でも雪が舞ったから、町田市はさぞたくさん積もっているに違いないと期待したが、到着してみると雪の欠片も無い。しかし、霜も氷も一杯で、今朝は相当冷え込んだことが分かる。いつもの場所に車を停めると、前方にUさんの三菱トッポが止っている。さすがUさんだ。こんなに寒いのに早くから来ていると感心する。きっと霜や氷の造形を写しに来たのだろう。こうなっては野鳥撮影の前に、ほんの少し霜や氷の造形を撮影しておこうと歩き回ったが、余りにも冷え込んだためか霜の造形は今一で、田んぼの所々にある水溜まりの氷の造形が美しかった。万松寺谷戸の陽が差していない北斜面は、真っ白に堅く閉ざされた厳寒の風景が広がっている。学生時代に信州の松本市に下宿していたが、これを見て、凍てつく冬の松本の情景を思い出した。こんな状況では野鳥はまだ目覚めていないようで、元気なのはカラスだけである。
 気温が上昇して野鳥たちが現われるまで、万松寺谷戸でこのままじっと我慢しているのもつまらないと、五反田谷戸に向かった。「年末年始はずっと谷戸に出勤していますよ」と五反田谷戸の主的存在であるMさんが言っていたので、年末の挨拶をしてこなければならないと思ったのだ。しかし、五反田谷戸の小高くなった芝地に到着してあたりを見回したが、人っ子一人いない。昨日の寒さと木枯らしにやられてMさんは体調を壊したのかもしれない等と考えながら、眼前にある溜め池を見ると堅く凍りついていて、その周りの草地も霜で真っ白である。しかし、五反田谷戸は南に面しているから、日が当たっている所はようやく凍った土も溶け始めようとしていた。約2週間ぶりの五反田谷戸だから風景をカメラに納めておこうと歩き回っていたら、尾根からUさんが降りて来た。「こんにちわ、今日三度目の五反田谷戸です」とニコニコしながら言う。「何時に来たんですか」と聞くと、「7時半、もう36枚取りのフイルムを2本撮り切った」と言う。7時半と言ったら、私が寝床で目覚し時計のベルを聞いた時刻である。さすがUさんである。氏の写真集「谷戸の四季」に、素晴らしい霜と氷の写真が入っていたのも頷ける。
 しばらくUさんと陽に当たりながらおしゃべりをした後、万松寺谷戸に行くと言うUさんと途中で分かれて神明谷戸に行った。しかし、神明谷戸もジョウピタキ、ホオジロ、シジュウカラ等が見られるくらいで、これと言った胸を高ぶらせる被写体に出会えない。前回あったヒラタケはどうなったかとアカメヤナギの幹を調べてみると、残念ながら収穫されたようで、ほんの小さな幼菌が出ているだけであった。時計を見ると12時である。神明谷戸での昼食もさえないので、再び五反田谷戸の小高くなった芝地に戻って菓子パンをパクついていると、田んぼにキセキレイがやって来た。盛んに田んぼの稲の切り株あたりを突ついている。望遠レンズで覗いて見ると、ミミズのようなものを嘴で捕らえたようである。帰宅して図鑑を調べて見ると、主に水辺に生息する昆虫類の成虫、幼虫を食べるとある。とても可愛らしい格好からしてまさかと思ったが、キセキレイは小動物専門の肉食性の鳥だったのだ。
 今日の小野路町、図師町は収穫無しだなと気落ちしながら、最後の塞ともなった午後の万松寺谷戸に降りて行った。モズもジョウビタキもここでとても良い写真を撮影しているので、なんとかカケスを美しく撮りたいと思ったのだ。栗林の中に三脚を立てて、ここが最後の撮影場所と頑張っていたら、なにやら女性の話し声が背後から聞こえる。こんな年末押迫った頃にやって来るご婦人なんていないはずと思って振り向いて見ると、Kさんがお友達とやって来た。こんな事を言っては失礼だが、アウトドア専用の長靴姿がとても似合うご婦人で、町田市の自然観察の活動をなさっている。「今日はあぶれですよ」と言うと、「それなら良いものを見せてあげるわ」と言うのでついて行くと、「ここよ」と梅の木を指差す。「分かった、イラガの繭、オビカレハの卵、それともハラビロカマキリの卵のうかな」と尋ねると、みんな違うとにこにこしながら首を振る。一緒に近づいて見ると、なんと小さなネズミのモズの早にえではないか。モズの早にえコレクターでもあると自認する私でさえも初めて見る哺乳類の早にえだ。今日は何にも得るものが無かったなと嘆いていたが、最後になって、Kさんのお陰でとてつもない大物が観察出来て、「まあ、いいや」と、今年最後の小野路町を後にした。

<今日観察出来たもの>鳥/コゲラ、ホオジロ、シジュウカラ、ヒヨドリ、キセキレイ、ハクセキレイ、ツグミ、モズ、ジョウビタキ、スズメ、ハシブトガラス、猛禽類一種等。花/フユノハナワラビ等。その他/モズの早にえ(ネズミ、カエル)等。


12月26日、横浜市戸塚区舞岡公園

 今日は12月最後の金曜日、ほとんどの会社が仕事納めの日で、明日から年末年始の休暇となる筈である。一応小さくとも会社として仕事をしているのだから、お世話になったお客さんや関係会社に年末の挨拶に行かねばならない。しかし、もっと大切で緊密な会社のお偉いさんらが先方に挨拶に来るはずだから、お邪魔になっては失礼と割愛させて頂き、変わって舞岡公園にお邪魔した。きっと、休みになるとたくさんの方がやって来るはずだし、ウソと言う美しく珍しい野鳥が居着いているから尚更である。前回、12月19日に来た時に、バードウォッチングのグループに教えて頂いて、カメラにその姿を納める事が出来たのだが、ほんの記録写真のようで、ウソの姿は小さく構図も悪く満足出来る写真ではなかった。これが「花虫とおる」の写真?等と思われたくないから、どうしても撮り直しておきたかったのだ。また、いろいろの野鳥の先輩方に伺うと、そう容易く見られる鳥ではないという事だから尚更である。
 火の見櫓のある瓜久保に到着して、河童池の方を覗いて見ると三脚の脚が見える。これはきっとまだウソが居着いていて、写真を撮りに来ているのだなと考え、胸を撫で下ろして撮影機材を車から取り出すと、転ばぬ程度の早足で河童池の方へ向かった。見ると舞岡公園の主的存在で野鳥撮影の第一人者であるFさんと初めて出会った方が、河童池奥のモミジに向かって歩いて行く。どうやら前回たくさん見られたモミジの木の種子は食べ尽くされてしまったらしい。三人して、まだ紅葉が残るモミジの木の前でカメラを構えるが、ウソはなかなか現れない。まあ、昼近くになったら現れるだろうと、これまた前回不満足だった冬芽と葉痕を写し直して来ようとその場を離れた。しかし、少々風が強くて完全に葉を落としたサワグルミの葉痕を撮っただけで、アオキとウツギの葉痕は、風の無い日にまた来た時にと割愛した。
 小谷戸の里の広場には籾が乾されていて、スズメがたくさん集まって食べている。これはスズメを撮影する絶好のチャンスとばかりに近寄るが、すぐ飛び立って逃げて行く。何処でもたくさんいるのに、スズメは本当に手ごわい野鳥である。付近で里山の手入れをなさっていたご婦人に「スズメが籾を食べてますね」と言うと、「分かっているんだけれど追い払う暇が無い」と笑って言う。まあ、スズメも大切な舞岡公園の自然の一部なのだから、餌を少しあげていると考えれば腹も立つまい。そんなことでスズメに夢中になっていたら、広場のケヤキの立ち木にコゲラが集団でやって来て餌探しに忙しい。何と言っても広場だから足場は良く、これは絶好のコゲラの撮影のチャンスとばかりに、数多くシャッターを切ったら、二枚程なんとか見られる写真が手に出来てラッキーであった。
 さて本命のウソを撮影しようと瓜久保に戻って見ると、もう撮り飽きたのかFさんの姿は見えないが、モミジの木の下で盛んにシャッターを切っている方が二人いる。一人は朝いた方だから、もう一人加わった訳である。モミジの木を見上げると、どうやら雄が2匹、雌が2匹の計4匹がモミジの種子をついばんでいる。しかし、紅葉している葉がたくさん残っているから、なかなか絵になるようには撮れない。じっと我慢して観察していると、梅の木に移って小枝の冬芽をついばみ始めた。また、喉が渇いたのか浅い水場で水を飲み始めた。こうして様々なウソの写真を撮ることが出来て満足していると、横須賀からインターネットの情報を見て、ウソに会いにやって来た家族連れに出会った。色々話しをしていると本当に野鳥が好きで詳しい方々である。
 時計を見るとちょうど12時、車に戻って昼食を済ませて、さあ、もう一頑張りと準備をしていると、舞岡のKさんが車でやって来た。約束していたわけではないが、きっと類は友を超能力で呼ぶようである。「ベニマシコが出ているというので、ちょっと覗きに来たんです」と言う。「午前中に出会った方も水車小屋あたりで盛んに探していましたよ」と、即席自然観察会となって水車小屋へ行くと、横須賀から来た家族連れもベニマシコを探している。「この葦原の環境はベニマシコが現われるのにはぴったりなんですがね」と言うので、お仲間に入って葦原を見詰めていたら、「あっ、アオゲラよ」と奥さんが、湿地のハンノキの根元を指差す。前回、鎌倉のNさんが「この辺りでアオゲラが見られたのだけれど、近頃見られなくなった」と嘆いていたアオゲラである。アオゲラはかなり長い間、盛んにハンノキの根元あたりをつついていたが、ようやく幹を登り始めた。「幹を登っているところがアオゲラらしいんですよ」と横須賀の方がおっしゃるので、なかなかピント合わせが難しいが盛んにシャッターを切った。これまたいくらかピントは甘いものの、なんとか使える写真を手に出来て本当にラッキーだった。このHPをご覧下さっている方が「花虫さんは、動植物を呼び寄せる超能力の持ち主なのでわ」とおっしゃっていたが、今日のような様々なラッキーな写真が撮れてしまうと、本当に超能力者なのかもしれないと思ってしまう。いづれにしてもこの真偽は、来年フィールドで実証される事だろう。

<今日観察出来たもの>鳥/アオゲラ(写真左)、コゲラ(写真下)、ウソ(写真右)、カシダカラ、アオジ、メジロ、ヒヨドリ、ハシブトガラス、スズメ、カワセミ、シジュウカラ、ジョウビタキ、モズ、キジバト、カルガモ等。


12月24日、東京都渋谷区明治神宮〜上野不忍池

 今日はクリスマスイブで、今年も残すところ僅かとなった。年末年始の休暇を使って都内の野鳥観察に好適な場所巡りをしようと思っていたが、今日は午後に1件のみの簡単な仕事があるだけだったので、明治神宮と不忍池に行った。新しい年を迎えたら何日までかは分からぬものの、明治神宮は人人人でごったがえす筈である。しかし、今日なら正月に向けた準備もまだ始まっていないだろうと思ったのだが、やはり参道には初詣の準備が各所で始まっていた。明治神宮の森は高木が多く鬱蒼としていて、各地にある鎮守の森を思い起こすが、本によると約80年前の大正9年に農耕地や草原に全国からの献木等を植栽して造営されたと書かれてある。何だか信じられない話で、クスやシイの大木、クヌギやミズキ等だってかなりの太さのものが見られる。どう見たって鎮守の森の様相だ。今日は野鳥撮影が目的だから、じっくり観察はしなかったが、かなりの樹種が見られ、冬芽と葉痕はもちろん、夏には各種の昆虫、梅雨時や秋ならキノコだって面白いなと感じられた。しかし、鬱蒼とした森だから“にわか野鳥カメラマン”には鳥の撮影はかなり難しく、宝物殿前の池でオシドリを撮影したのみで、JR代々木駅から上野に向かった。本によると明治神宮ではルリビタキ、モズ、カイツブリ、ダイサギ、コゲラ、ジョウビタキ等が見られるとある。
 上野の不忍池はカモの種類も個体数も何と多いことだろう。それに加えてカワウ、ユリカモメ、セグロカモメが加わり、もちろんハシブトガラス、スズメ、ヒヨドリもいて、更にハトが集まっているから野鳥の楽園を髣髴させるに充分な公園である。池のほとりでカモの餌が売られているが、それこそほんの1時間半の間だったが、約10人位の方がカモに自前の食パン等の餌を持って来て与えていた。オナガガモは完全に人になついていて、歩道の上をヨチヨチ歩いているのだから不思議である。私の自宅近くを流れる鶴見川にもオナガガモがいるが、近づくとすぐに逃げてしまう。これが本来の野生の姿で、人間に餌をもらうために押し合いへしあい奪い合ってパン切れを食べている姿は、なんとなく侘しい思いが込み上げてくる。高崎山等で餌付けされているニホンザルの群れも、このような状況であった。「武士は食わねど高楊枝」ではないが、私たちも人間は一人一人がそれぞれかけがえの無い個性の持ち主なのだから、誇りを持って胸を張って生きて行きたいものである。
 不忍池は半分は枯れてはいるがハスの葉が生い茂り、動物園に近い池の方がハスも無く撮影には好適である。そこで、こちらの池を一周してみると、多数のユリカモメに混じって大型のカモメが見られた。上野と言えばすぐ隣が浅草で、隅田川はすぐ東京湾にそそぐのだから、大型のカモメがやって来ても不思議ではない。家に帰って図鑑で調べて見ると、どうやらセグロカモメのようである。じっとカメラを向けてシャッターチャンスを待っていると、何に驚いたのかセグロカモメが飛び立った。まだ始めたばかりだから多くの野鳥の飛行を見ているわけではないが、セグロカモメの雄大な飛行には感動した。確か今は無き大歌手である「美空ひばり」の歌にたびたび登場して来るカモメは、このような大きなカモメであったに違いない。また、「小柳るみ子の瀬戸の花嫁」に登場する“キューンキューン”と言う鳴き声はウミネコなのだろうか。そんなことを考えていたら、トンビがくるりと輪を書いたのトビも写したくなった。私に撮れそうな唯一の猛禽類であるから江ノ島でも行ってみようか等と頭を掠めたが、里山の野鳥を撮影するのが目的だから、やはり海岸へ行くのは考えものである。それに今日一日都会の中の公園を歩いてみて、やっぱり人が来ない小野路のようなフィールドの方が精紳安定には効果的だ。そこで冒頭に書いた“年末年始の休暇を使って都内の野鳥観察に好適な場所巡り”はこれで終わりにしようと決めた。やはり都会は金をかせぎ使う場所なのである。

<今日観察出来たもの>鳥/マガモ、オシドリ、オナガガモ、キンクロハジロ、ホシハジロ、カワウ、メジロ、ヒヨドリ、ハシブトガラス、スズメ、ユリカモメ(写真左)、セグロカモメ(写真右)等。


12月21日、川崎市麻生区黒川〜町田市小野路町

 昨日は土曜日で、もちろん休日だったが、楽しみにしている茅ヶ崎公園生態園のボランティアの日であった。前回に引き続いてヒサカキの伐採である。ヒサカキが成長し過ぎると、小さな常緑の葉だが分厚く密に重なり合うから、林床に陽が射さなくなり、山野草の生育が妨げられる、と以前に書いたと思う。このヒサカキを片っぱしからノコギリとナタでやっつける労働はかなりきついが、身体を動かすから冬の寒さを吹っ飛ばしてくれて丁度良い。おまけに綺麗になって太陽の光が降り注ぐ林床を眺めていると、何だかとっても楽しくなる。一体、春になったらどんな山野草が生えて来るのだろうか?と想像を逞しくする。
 ボランティアは午前中で終わったが、風がとても強く、冬芽や葉痕はもちろんのこと、野鳥の撮影にも良い条件とは言えず、しかも、すぐに夕方になってしまうから、土曜日は一回もシャッターを切ることが無かった。そこで今日は久しぶりに黒川へ行ってみた。もちろん野鳥撮影が目的である。黒川は小川と田んぼと畑と雑木林はあるが溜池が無いから、鳥には不向きかなとも思ったが、その思いはどうやら正解のようで、これと言った野鳥にはお目にかかれなかった。しかし、農作業小屋に身を隠して、ハクモクレンの梢に何かがやって来るだろうと思って粘ってみたら、シジュウカラとツグミとヒヨドリがやって来た。シジュウカラはたえずちょこまか動くから撮影が難しいのでわ?とずっと思っていたが、何しろデジタル一眼レフカメラだからばんばんシャッターを切ってもただである。しかも、ISO感度を400にしてあるから絞りを少し絞っても、かなり早い速度でシャッターが切れる。そんな訳で上記のような動きのある写真を得ることが出来てとても嬉しかった。
 野鳥はあまり見られないが一応一回りした後、町田市小野路町の万松寺谷戸へ急いだ。そうしたら丁度良いことに、野鳥が大好きなIさんが栗林の陽が当たる場所に敷物を引いて、一人で座ってスポッティングスコープを覗いている。「これはしめたぞ!」等と、これを読んだらIさんに叱られそうだが、なにしろ野鳥撮影初心者には、良く知った方に話を乞うのがとても参考になるのである。この旨味を知ってしまったのだから、これからかなり野鳥に詳しくなっても、「何しろ初心者ですから教えて下さい」と言う姿勢を崩さないようにして行こうかな等と思ってしまう。 「お久しぶり、Tさんの講演会以来ですね。にわか野鳥カメラマンに変身しましたので宜しく。ところで今日はどんな野鳥を見ました」と聞くと、指をさして「オギの草むらの脇に格好良く立っている竹の棒があるでしょう。あそこにジョウビタキとモズが来て止りましたよ」と言う。「そうですか、とっても絵になる場所ですね。ご一緒してカメラを構えても良いですか」と了承を得てから、ほんの少し離れたクリの木の傍らに三脚を立てた。
 しかし、待てどもなかなか鳥がやって来ない。年若い女性にいい歳こいたむさ苦しい格好のおじさんが話し掛けるのも迷惑かと思ったが、とうとう退屈して、「一昨日、バードウオッチングしている方が教えてくれたんですけど、ウソというとても綺麗な鳥が舞岡公園にいましたよ」と話し掛けると、「とっても綺麗な鳥だったでしょう。ウソを見られたのならそれだけで一日幸せですよ」と言う。「そうなんですか。なにしろどの鳥が珍しいのかなんて何にも分からないもんですから」等と、その後いろいろな話をしていると、「あっ、あそこにカケスが来てますよ」という。谷戸奥の樹木の垂れ下がった小枝に、何やら野鳥がいることだけは確認出来た。双眼鏡等は持っていないので、カメラを向けると確かに中型の鳥がいる。「でも羽が瑠璃色に見えませんが」と聞くと、「こちらからは羽の色が見えますよ。頭が胡麻塩頭でしょう?」と教えてくれたので、良く見ると確かにそうだ。やがてカケスは向きを変えて瑠璃色の美しい羽まで確認で来た。「昔、おやじが鉄砲で捕って来たカケスを良く食べたんですよ」と言うと、年若い野鳥好きで心優しい女性のIさんには、どうやら眉をしかめる発言だったらしく、白け鳥が長い間飛び回ってしまった。
 Iさんは用事があるとからと12時を回ると帰って行った。「さぁ、撮るぞ」と昼食用にコンビニで買って来た菓子パンを車に取りに行って引き返す途中、ジョウビタキが田んぼに刺してある竹の棒の先に止った。運良く長い間止っていてくれたので、今まで念願だった写真を撮影することが出来た。「さあ、お次はモズちゃんだ」と栗林に戻って、1時間待てども何も竹の棒の先に止まりに来てくれない。太陽は早、夕方間近の光に完全になってしまったので、帰る途中に寺家ふるさと村の四季の家に立ち寄って、友人であるNさんのキノコの写真展初日の様子を見てから帰ろうと、少し早かったがたっぷりと無人野菜販売所で野菜を買って、小野路町を後にした。

<今日観察出来たもの>鳥/シジュウカラ(写真上左)、ジョウビタキ(写真上右)、ツグミ(写真下左)、モズ(写真下右)、カケス、ヒヨドリ、シメ、ハシブトガラス、スズメ等。


12月19日、横浜市戸塚区舞岡公園

 前回、12月5日に行った時は、生憎すぐに雨が降って来てしまって、ほとんどとんぼ返りであったが、今日は昼近くから風が強くなったものの終日散策を楽しめた。午後からご一緒した舞岡公園を愛する仲間達が、「来年からは2週間に一遍は来なくては」と言っていたが、二十四節気という季節を的確に捉えた暦があるように、動植物ならびに空や大気を含めた自然は、確かに2週間ごとに変化して行くようである。このため月に一度では少なく、二週間に一度、同じフィールドに通えば、そこのフィールドで咲く花、飛ぶ蝶、様々な昆虫、飛来する野鳥たちを見逃すことなく観察できる可能性がある。また、その位の間隔が「また行きたいな」という思いを我慢させる限界で、しかも、いつもとっても新鮮な思いで散策出来る間隔と言う事にもなるようだ。そんな訳で、来年から月に2回、金曜日に火の見櫓に集まろうという機運が盛り上がりつつある。
 今年も師走に入ると時計の針の動きが活発になったかのように、もう12月半ばを過ぎた。このため舞岡公園も朝の内は見かける方も少なく、多摩丘陵に比べれば温暖なはずなのに、日陰にはかなり霜が降りている。今日の観察及び写真撮影の目的は、前回の県立自然保護センターに引き続いて樹木の冬芽と葉痕である。舞岡公園には元々自生していた樹木以外にも様々な樹木が植栽されているから、樹の花、樹の実、冬芽と葉痕の観察には絶好のフィールドである。まず第一に「さくらなみ池」のほとりにあるサワグルミを見に行った。サワグルミを図鑑で調べて見ると、分布は日本全国で、名前のごとく山地の渓流沿いの砂礫地に見られるとあるから、舞岡公園にあるものは人工的に植栽されたものかもしれない。私が今まで首都圏平地で観察したサワグルミは、幹が病害虫に侵されて衰弱しているように感じられるものばかりだ。図鑑によると樹皮は長く裂け老木になるとはがれ材は柔らかいとあるから、各種の病害虫には格好のターゲットなのかもしれない。しかし、図鑑にある山地のサワグルミはとても大きくて立派である。
 サワグルミの丸みのあるおどけ顔を撮影すると、水車小屋へ行った。ここは何故だか知らないが、蝶でも昆虫でも鳥でも花でも実でも、期待を裏切ることなく被写体が待っていてくれる場所である。何か面白い葉痕はないかと目を光らせると、猿顔がたくさんついている小枝を見つけた。午後になってお仲間に聞くと、ねんねんネムノキであると言う。舞岡公園はネムノキがとっても多いのだ。ネムノキの花は盛夏だが、初夏にこぼれんばかりに各所で咲くウツギはどうなのかなと葉痕を調べてみると、吊り上った細い長方形のサングラスをかけたような顔がついている。ハコネウツギと同じような葉痕である。両方ともウツギとつくし葉痕も似ているから親戚同志と思われかもしれないが、ウツギはユキノシタ科、ハコネウツギはスイカズラ科である。ちなみに舞岡公園の代表的な蝶であるイチモンジチョウは、スイカズラ、ハコネウツギが幼虫の食樹で、蝶の図鑑を紐解いてみるとウツギは食樹の中に入っていない。この事からもウツギとハコネウツギはやはり遠縁であることが分かる。
 いつものように水車小屋から小谷戸の里へ行くと、無粋にも携帯電話が続けて入った。こんな時って意外と撮影のチャンスが巡って来るものである。今日も会話中に、ジョウビタキやスズメが絵になる場所に止ってポーズを決めている。「あーあ」と溜息が出るが勝手に電話を切るわけには行かない。そんな訳で得がたいチャンスをふいにし、アオキの葉痕やヤツデの実を撮って、火の見櫓のある瓜久保に戻った。後数枚フィルムが残っていたので、ゴマダラチョウの幼虫を撮影しにマクロストロボを付け、エノキの根元にある葉を捲ってみると、去年より少ないが葉裏にしがみついて越冬していた。小枝で葉を食べていたのだから、かなりの長距離をえっちらおっちら降りて来て、また、春になるとえっちらおっちら小枝まで登って行くのだから大変である。人間で言ったら東京駅と横浜駅の距離位あるのではなかろうか。
 さあそろそろ食事と引き返す途中、バードウオッチングのグループがしきりに小枝を見上げている。頬が赤い雌と褐色の雄のウソがモミジの小枝に止っている。鳥の撮影を始めたばかりだから見る鳥はみんな新鮮で美しいが、ウソの配色の美しさの妙には感動する。舞岡公園には野鳥を撮影する人やバードウオッチングを楽しむ人を多く見かけるが、なる程、素晴らしい観察地であるなと実感する。正月休みに入ったら、毎日、野鳥の撮影に来てみようか等との考えが頭の中をよぎる程である。また、河童池にはアオサギがいて、聞くところによると、お気に入りの場所らしく毎日定位置にいると言う。昼食を舞岡公園を愛する仲間達と一緒にとって、午後も一回りするが、「来年からは二週間に一遍は来なくては」とみんなが言うように、開けたとは言え、まだまだ自然観察に絶好の素晴らしいフィールドである。

<今日観察出来たもの>花/ソシンロウバイ、シナマンサクの蕾綻ぶ、紅梅が一輪等。冬芽と葉痕/サワグルミ(写真右)、ネムノキ、ウツギ、アオキ等。実/アオツヅラフジの実、シロヤマブキの実、アオキの実、ヤツデの実(写真左)等。昆虫/ウラギンシジミ、ゴマダラチョウの幼虫(写真下)、イラガの繭、オオカマキリの卵のう、カマキリの卵のう等。鳥/アオザギ、コサギ、カワセミ、ジョウビタキ、ウソ、スズメ等。


12月17日、神奈川県厚木市七沢神奈川県立自然保護センター

 借りて来たデジタル一眼レフカメラが壊れて鳥の撮影は一時中断となっていることもあって、また、冬芽と葉痕が40種類にあと3種足りないこともあって、今日は樹木がたくさん植栽されている神奈川県立自然保護センターへ行った。神奈川県立自然保護センターは、平成12年4月1日から箱根自然公園管理事務所、丹沢大山自然公園管理事務所、森林研究所、県有林事務所の4事務所をも含む神奈川県自然環境保全センターの一部門として統合された。それにともなって神奈川県立自然保護センターについての問い合わせは、神奈川県自然環境保全センター(046−248−0323)になるから注意しよう。上記した部門のうちの森林研究所、県有林事務所は、以前は神奈川県林業試験場という名称で自然保護センターに隣接していたから、神奈川県自然環境保全センター敷地内に植栽されている樹木の種類の多さは、神奈川県では群を抜いているものと思われる。樹木に関して興味のある方は、ぜひ一度は訪ねて欲しい場所である。
 樹木以外にも敷地内には各種の野外施設があり、ことに広大な谷間の湿地は自然観察に絶好の場所で、カワセミはたくさんいるし、梅雨時にはハンノキが自生しているのでミドリシジミが見られ、オオアオイトトンボの多さにもびっくりするだろう。また、ここを拠点として各種の自然観察コースがあるので、事務所でバンフレットをもらって散策すると良い。今日の目的は冬芽と葉痕だが、以前撮っているゴシュユやトチノキ等の大物は素通りして、撮影していないものを探し回った。撮影手帳を紐解くとブナ、コブシ、ヒメシャラ、オオバアサガラ、ハリギリ、カラタチ、エノキ、フヨウ、サンショウ、不明2種の11種となった。もちろん、その他数多くの樹木が植栽されているが、馴染みの深いもの面白いもの見栄えのするものが中心となった事は言うまでもない。今日とても勉強になったのは、近縁種が隣り合わせで植栽されていることによって、その微妙な差異が比較できたことである。例えばブナとイヌブナやヒメシャラ、トウゴクヒメシャラ、ナツツパキと言ったように。
 夢中になって冬芽と葉痕を探し回って撮影し、遅い昼食をとると午後1時半になってしまった。もうすぐ冬至の太陽光線は赤茶けて、自然光による撮影は不向きとなる。もちろんフォトショップ等で加工すれば良いのだろうが、そんなことはしたくないので、マクロストロボを取り出して越冬する昆虫たちを撮影することにした。越冬する昆虫たちは敷地内より周辺のフィールドの方が多彩である。まず、最初に見つけたのは、越冬する昆虫ではなくてクリの枝に刺さるモズの早にえである。獲物はトビナナフシで、今までお目にかかったことがないものだ。何故か今年はトビナナフシに縁がなく、ことによったら異常気象のために発生が少なかったのかなと思っていたが、早にえとしての登場に苦笑した。
 早にえを撮影すると、今まで何べんも撮影しているからパスしようと思ったが、せっかく自然保護センターまで来たのだから、1カットは撮影しようと敷地内にある緑化見本園へタテジマカミキリを探しに戻った。タテジマカミキリはヤマウコギ、ヤツデ、カクレミノ、ハリギリ等のウコギ科樹木の害虫で、小枝になりすまして成虫で越冬する。しかし、今年は撮影しようとする真剣なまなざしが無いためか、いつもいるカクレミノで探し出すことが出来なかった。そこで車で少し離れた場所へ移動し、いつもアゲハの蛹がついている民家の塀を見に行くと、今年もちゃんと一匹だがついててくれたので美しく撮影した。その後、モンシロチョウ、スジグロシロチョウ、キアゲハ等の蛹を探し回ったもののモンシロチョウの蛹のみ、数枚残ったフィルムは明日以降かなと思っていると、畑のコンクリートの土留めでナナホシテントウが羽化したばかりでじっとしている。本家本元のテントウムシ(ナミテントウ)は深い眠りに入っているのに、本当にナナホシテントウは寒さに強い昆虫である。

<今日観察出来たもの>冬芽と葉痕/ブナ(写真上左)、コブシ、ヒメシャラ、オオバアサガラ、ハリギリ、カラタチ、エノキ、フヨウ、サンショウ等。その他/アゲハの蛹(写真下右)、モンシロチョウの蛹、ナナホシテントウ(写真下左)、コカマキリの卵のう等。その他/モズ、トビナナフシのモズの早にえ(写真上右)等。


12月14日、東京都町田市小野路町、図師町

 今朝、午前7時半に起きて港北ニュータウンで朝食をとり、鴨池公園で歯磨き、洗面等を済ませた時はさほど寒く無かったが、小野路町の万松寺谷戸に着くと辺りは霜で真っ白になっている。こうも横浜市と町田市の気温の格差は激しいのかと驚いてしまった。土の柔らかい畑は霜柱が勢い良く盛り上がり、裸地に落ちている黄変した葉は、白い霜の結晶で縁取りされてとても綺麗だ。畑に植えられているキャベツの葉は、まるで雪が降ったかのように真っ白である。咲き残っていたヒメジオンの花(写真上左)は、氷のようにぱりぱりに凍っている。いやはや今年は暖かいと思っていたのだが、辺り一面厳冬のように閉ざされている。いよいよ今年も本格的な冬がやって来たのだ。こんな凍りついたフィールドを前にすると、多少寒くとも霜の織り成す美しい造形を撮影せねばと、長靴の底から冷たさが伝わって来て堪え切れなくなるまで歩き回った。
 前回来た時はまだ晩秋の気配だったが、やっと本格的な冬が到来したので、以前から見つけておいたが撮影しなかったオオミノガの巣やイラガの繭を撮影した。子供の頃は、この両方とも何処へ行ってもたくさん見られたのだが、現在では探し出すのに相当苦労する冬の風物詩である。特にイラガの繭は一つとして同じ紋様が無いという代物で、見つけたら撮影して比べて見て欲しいものである。先日、法事に出席したら寒川町に住んでいる親戚のYさんが来ていて、寒川町では真冬でも細(田んぼにある小川)でマブナが釣れると言う。「マタナゴ等のタナゴ類は釣れないのですか?」と聞くと、寒川町の細では釣れないと言う。いくら片田舎と言っても神奈川県なのだから、やはり無理なりのだろう。千葉県の佐倉等に、このイラガの繭の中に越冬する幼虫を餌として釣具店で買い求め、枯れた葦の合間の日溜りでマタナゴやコブナを釣った日々が懐かしい。
 今日はキノコ山へは寄らずに一目散に神明谷戸に降りて行った。溜池に近づくとカワセミが枝に止っている。最近、カワセミは各所で観察し撮影しているからもういいやと思ったが、自然度の高いフィールドで暮らすカワセミは何故か水色の羽が鮮やかだ。そこで今日はカメラザックに仕舞ってあるデジタル一眼レフカメラを取り出し撮影しようとすると、カワセミは遠くに飛んでいってしまった。蝶や鳥等の羽を持っている動物たちは、この一瞬の躊躇いが撮影チャンスをふいにする。「あーあ」等と溜息をついていると、コゲラ、シジュウカラ、ホオジロ等の小鳥が、溜池横のヤマザクラやコナラやアカメヤナギ等の木にたくさんやって来た。しかし、なかなか手ごわい連中でホオジロをカメラに納め、もっと近づいてみようと池のほとりへ降りて行ったら、みんな何処かへ飛んで行ってしまい、少し待ったが戻ってこなかった。
 そこで渋柿はどうなっただろうと谷戸奥へ行ってみると、天辺に僅かに残っているだけでみんな落ちてしまったか、鳥に食べられてしまったようだ。また、溜池にもどってみたが、鳥たちは帰ってはいない。そこで地を這うようにして生育する大きなアカメヤナギの幹に、キノコが生えていないかと探してみると、なんと幹の下側にヒラタケが生えている。まだ、生えたばかりで青灰色をしていて美しい。これはとても美味しいキノコと言われている。下側に生えているから端正な白い襞が良く見えるのだが陰っている。不自然になるから絶対レフ板や鏡等は使わないぞと決めているのだが、ほんの少し光を当てたい。付近を見回しても白い板状のものは落ちていない。そこで持参していた名刺を取り出し、裏にして光を反射させたら良い具合に襞が幾分白くなった。これからは白い画用紙でも折りたたんで持って来ようと思った。
 ヒラタケを撮影していると蝶を中心とした昆虫を撮ってらっしゃる方がやって来た。以前はコンパクトデジタルカメラを使用していたが、立派なぴっかぴかのデジタル一眼レフカメラに中望遠マクロレンズをつけている。それにカーボンの三脚も小脇に抱えているではないか。本格的な撮影スタイルである。あまり親しい方ではないので挨拶だけで話しはしなかったが、きっと、ボーナスが出たのだろう。独立して仕事をしているとボーナスなんてないから忘れかけていたが、12月はボーナスシーズンだったのである。私もボーナスこそないものの、お客様が11月にうんと仕事をくれたので、大晦日の年越し蕎麦とお正月のお雑煮の餅、子供や親類の少年少女たちへのお年玉資金はなんとか確保出来た。
 案内板に隠れて小鳥たちを待てどもまったく姿が見えないので、神明谷戸を後にして五反田谷戸へ行った。花の谷戸である五反田谷戸も、ほんの少し咲き残ったノハラアザミとフユノハナワラビがある位で撮影するものがまったく無い。風景も季節が中途半端なためかシャッターを押す気になれない。それでも定番な写真を一枚撮影し終わると、今日は奥さんを連れてAさんがやって来た。時計を見るとちょうど12時である。いつものように小高くなった芝地でAさんご夫婦と昼食をとっていると、雑木林の梢から舞い上がった枯れ葉が、昼の上昇気流に乗って青空高く舞ってとても美しい。数え切れない程の枯葉の舞を見上げていたら、猛禽類が上空を旋回したり青空を横切って行く。棚田にはアオサギが餌を狙って端正なポーズでじっとしている。たとえ撮影するものが何も無くとも、風が無く青空一杯だったから、やっぱり心休まる静かな小野路町、図師町の谷戸であった。

<今日観察出来たもの>鳥/カワセミ、コゲラ、ホオジロ(写真下右)、アオサギ(写真下左)、ヒヨドリ、キセキレイ、スズメ等。花/ノハラアザミ、フユノハナワラビ等。その他/オオミノガの巣(写真上右)、イラガの繭、ウスタビガの空繭、ヤマトシジミ、ヒラタケ等。


12月13日、横浜市中区三渓園

 今日は昨日と異なって雲一つ無い晴天である。しかし、気温はだいぶ低くなって、やっと初冬らしくなって来た。昨日の東京港野鳥公園での貧果を晴らすべく、横浜市中区本牧にある三渓園へ行った。まだ野鳥撮影は初心者だから、人がしょっちゅう来るために人を警戒しなくなった鳥たちがいる場所が有り難いのだ。自然度の高い町田市小野路町、図師町では、人影を見ると鳥たちは遠くに飛んで行ってしまう。例えば、五反田谷戸の溜池に来るカワセミだったら、1000mmクラスの超望遠レンズでなければ撮影が難しいが、三渓園だったら500mmクラスの超望遠レンズでも撮れると言うわけである。まずこの観察記に初登場の場所だから、三渓園について簡単に記しておこう。三渓園は生糸貿易で財をなした横浜の実業家、原三渓(本名:富太郎)の元邸宅で、ここに京都や鎌倉から歴史的に価値ある建造物を移築し、明治39年(1906年)に一般公開するに至った庭園である。園内には10棟の重要文化財を含む17棟もの古い建築物があり、四季折々に各種の花が咲き、小高い樹木茂る丘に囲まれ大小様々な池もあるので、各種の野鳥が生息し、蝶などもモンキアゲハ等の南方系のものを見ることが出来る。また、隣接する本牧市民公園にはトンボ池もあって、こちらも散策には好適な場所となっている。
 このようなハイヒールでも散策出来る上品な庭園だが、車の中からスニーカーを出すのは面倒だし、長靴の方が暖かいからといつもの上州屋のもっともお安い谷戸の泥がこびりついた長靴で正門をくぐると、蓮池に待ってましたとばかりにコサギとアオサギがいる。ほんの10m程の至近距離から観察及び撮影が出来るのだから素晴らしい。お隣の睡蓮池にはカワセミが形の良い木の枝に止まっている。見ると口に大きな獲物を咥えている。もうグロッキーなはずの魚を枝に何べんも打ちつけている。あんなに大きいと少しでも生きていたら、きっと飲み込んだ後に胃袋の中で動いて気持ち悪くなるのだろう。「獲物が大きすぎて、もう5分以上も飲み込むのに苦労しているですよ」とカメラを構えた初老の紳士が言う。見ると今はやりのキヤノンKISSデジタルに、28〜300mmの高倍率ズームをつけている。「本当ですね。とっても大きいや! あれ一匹で満腹になってしまいますね」と、私も三脚を立てて仲間に入れてもらう。それからまた5分位が経過して、やっとカワセミは魚を飲み込んだが、それでも胃の中での納まりが悪いのか盛んに身体を伸び縮みさせ、案の定、今日はこれで満腹とばかりに遠くに飛んで行ってしまった。
 反対側の三渓園で一番大きな大池には、大好きなキンクロハジロとコガモが泳いでいる。長年続けていらっしゃるバードウォッチャーや熟達した野鳥撮影の方々には、ガンカモ科の仲間は人気が無いようだが、身近に見られ大型な鳥でもあることもあって、ガンカモ科の仲間達はとても好きである。その中でもキンクロハジロが一番で、黒と白のツートンカラーが粋だし、なんたって黒髪(冠毛)をたなびかせているのが格好良いし、そして潜水も上手なのである。ゆっくり泳いでいて一時もじっとしないキンクロハジロをなんとか撮影しようと頑張っていると、みんな一斉に茶店前に向かって泳いで行く。茶店に鴨の餌が税込み60円で売っていて、子供ばかりでなくいい歳をしたご婦人にも大人気なのである。こうなっては阪神タイガーズ優勝大バーゲンの特設会場のような混雑となって、撮影はお手上げとなり苦虫をつぶす。しかし、これが幸いして、おこぼれ頂戴とハシブトガラスやハクセキレイもやって来るから、やっと念願のカラス君をカメラに納めることが出来た。
 ひとしきり三渓園内で撮影した後、本牧市民公園へ行った。南門の職員に入場券を見せて出してもらい、また戻って来ることが出来るのである。本牧市民公園の上海横浜友好園前の大きな池には園内より多くの鴨が集まって来るのである。今日はオナガガモ、カルガモ、キンクロハジロ、ホシハジロ、コガモがいたが、暖かいこともあってか睡蓮の葉が枯れずに水面に浮かび、これでは絵になる写真が撮れないと園内に引き返した。途中、ニホンスイセンが早くも咲き、イソギクの独特な花も見られたが、今日は目覚し時計をかけ忘れてとんでもなく寝坊してしまったので、鳥の撮影のみと銀鉛フィルムカメラとマクロレンズを持参して来なかったのが悔やまれる。昨日、今日と人工的な臭いがするフィールドだったので、そろそろ谷戸の土が呼んでいるようである。もし、明日が晴天だったら、心休まる小野路町、図師町へ行こうと三渓園を後にした。

<今日観察出来たもの>鳥/カワセミ、カワウ、キンクロハジロ(写真下右)、ホシハジロ、オナガガモ、カルガモ、コガモ(写真下左)、アオサギ、コサギ(写真上左)、ハクセキレイ、オナガ、ヒヨドリ、ハシブトガラス(写真上右)、スズメ等。花/ニホンスイセン、イソギク、カンツバキ等。


12月12日、東京都大田区東京港野鳥公園

 土曜日曜だとたくさん人が来ると思って、今日、大田区にある東京港野鳥公園に出かけたが、どの道この道、みんな交通渋滞で到着するまでだいぶ時間がかかってしまった。ことによったら金曜日だから尚更なのかも知れない。東京方面へ行く場合は、営業車が少ない土曜日曜に行くべきだとあらためて感じた。トヨタ自動車のある愛知県を除いて、日本国内はまだ不況の真っ最中であるはずだが、とんでもない渋滞を見ると、経済は確かに力強く動いているようである。今日は昼前から晴れて来るはずであったが、いつまでたってもどんよりとした曇り空である。少し野鳥を撮影してみて、曇り日では野鳥の色彩が鮮明に出ないこと、青空でなく乳白色の空に野鳥を抜いてもつまらない絵にしかならない事が分かった。
 野鳥公園に着くといつものように自然生態園の方に行った。今年の冬は野鳥を撮るんだと意気込んでいるものの、このHPや「つれづれ観察記」が野鳥だらけとなってはつまらないと思っている。フィールドにあるもの全てが面白い事を、今年、キノコに熱中してみて分かった。人間でも様々な個性があるから面白いように、様々な生き物がいるから面白いという訳である。何事もやってみなければ、その魅力が分からない。しかし、いづれ誰もやりそうに無いから、季節感や空気感を感じさせる蝶や虫の写真を昆虫写真家の海野和男氏のような広角接写ではなく、マクロレンズ一本で撮りたいとも思っているし、多摩丘陵の昆虫たちも誰もやりそうにないからやらねばなるまい。
 そんな訳で自然生態園でウロウロしていたら、昨日、このHPの掲示板で話題のチャンチンの木を見つけた。チャンチンとは変な名前である。三波春夫のチャンチキオケサではもちろん無い。そこであらためて図鑑を開いてみると、中国原産のセンダン科の植物で、材は箱根細工に使われるとある。どうりで名が中国語の発音の様であった訳だ。しかし、センダンの葉痕はお猿さんだが、チャンチンは学童帽子を被った可愛い美少年のような顔をしているのはどうしてなのだろう。また、ウルシ科にチャンチンモドキという九州地方の山地に自生する木があると言うので、図鑑で調べてみると、葉痕や樹肌がだいぶ違うようである。
 さて野鳥以外もチャンチンの冬芽と葉痕を撮ったからと、西淡水池にある3号観察小屋と4号観察小屋から覗いてみたが、野鳥はいない。やはり野鳥は、ネイチャーセンターの方かなと思って引き返すと、ボランティアのご婦人が「コゲラがいましたよ」と言う。もちろんコゲラは撮りたいものの、この天気と野鳥撮影を始めたばかりの腕では難しい。途中、芝生広場にツグミとセグロセキレイが食事をしていたが、ポーズをとってくれないし、近づくとすぐに逃げて距離をどうしても縮められない。やはり、潮入り池にある1号観察小屋と2号観察小屋だと歩き始めると、いそしぎ橋に園芸品種の小ぶりなクチナシの実とトベラの実が美しい。これも野鳥が撮れなかった場合の保険として、撮影したことは言うまでも無い。
 ネイチャーセンター入り口に野鳥撮影に熟達した風貌の方が立っている。「今日はどうですか?」と尋ねると首を振って、「カワウ位しかいないよ」と寂しい事を言う。オオタカが居着いてしまったから鴨が寄り付かないようなのだ。「中に入って見ればがっかりするよ」と言うので、身体もだいぶ冷えたし昼飯時なので、一緒にネイチャーセンターの中に入ると、「今日はオオタカ狙いなんだけど、キビタキを見た位かな」と言う。野鳥に関してはど素人の私には、キビタキなる野鳥がどんな鳥なのかイメージ出来ない。しかし、ビタキとつくのだからジョウビタキやルリビタキの仲間で、黄色い色をしているのだろうと解釈して頷く。しばらくその熟年男性が色々と鳥の話をしてくれるので、ちんぷんかんぷんながら頷いていると、宮城県の伊佐沼で撮った写真をカメラザックから出して見せてくれた。その中で、定番写真かもしれないが、早朝の朝焼けの赤味がかった霧の中のハクチョウの群れが一番印象に残った。こういう写真はやはり銀鉛フィルムで撮りたいものである。
 さて野鳥公園に来て野鳥を撮らずでは寂しいので、棒杭にとまるカワウを撮り、ホシハジロがいたのでじっと待ったものの、近づいてはくれずに断念した。これで帰るのもとても寂しいから大井埠頭中央海浜公園に寄ってみたものの、カワウ、ホシハジロ、オナガガモ、カルガモ、アオサギ、ユリカモメがいる位で、距離も遠く今にも雨が降りそうな天候となって、今日は無念の早上がりとなってしまった。

<今日観察出来たもの>鳥/カワウ(写真下)、ホシハジロ、オナガガモ、カルガモ、アオサギ、ユリカモメ、キビタキ、ツグミ、セグロセキレイ、コゲラ、オナガ、ヒヨドリ、ハシブトガラス、キジバト、スズメ等。花/カンツバキ、ツワブキ等。昆虫/ハラビロカマキリの卵のう等。その他/チャンチンの冬芽と葉痕(写真上右)、クチナシの実(写真上左)、トベラの実等。


12月9日、横浜市都筑区港北ニュータウン

 先日、今年初めての鳥の撮影に挑戦したが、見事に振られてしまったと書いたと思う。今日は借りて来たデジタル一眼レフカメラによる鳥の撮影初日である。一人で仕事をしているからそんなにお客さんがあるわけでは無いが、超望遠ズームレンズ、高倍率双眼鏡、スポッティングスコープ、お通じに良い健康食品、深い眠りを約束する健康食品、血の巡りをスムーズにする健康食品、男性機能を促す健康食品等を発売しているお客さんから、EOS-D60というデジタル一眼レフカメラとCANONズームレンズ、EF75〜300mmを借りて来たのだ。カメラは相当高いものだが、レンズは廉価版のものである。しかし、デジタル一眼レフだから焦点距離は1.6倍となって、なんと480mmの超望遠レンズとなるのである。ずっとずっと前だが、冬には鳥を撮っていたことがあって、500mm位あれば何とか撮影できると分かっていたので期待して出かけた。
 このHPをご覧になっている方の中にはかなり鳥に詳しい方もいるので、出来れば鴨ちゃんだけでなくカワセミも撮影したいと考え、12月6日に寺家ふるさと村でお会いした、Iさんお勧めのカワセミ撮影ポイントのある港北ニュータウンの公園巡りをすることとなった。駐車違反が心配だから茅ヶ崎中学校付近に車を停めて歩き出した。もちろん鳥以外に撮影したいものがあった時のために、カメラザックには105mmのマクロレンズと28mm、ニコンの銀鉛フィルム用一眼レフカメラF100と、昆虫撮影用にマクロストロボも入れてある。もし今日の機材でウォーキングしながら鳥も花も虫も風景も楽しく撮れたら、春まではこのスタイルで各フィールドへ行ってみようと考えているのだ。もちろん三脚は軽くて使い慣れたベルボンのカーボン三脚とカーボン自由雲台である。
 今日は晴れだと言うのに自宅から至近距離のフィールドだから早く着いてしまってかなり寒いが、まず最初に茅ヶ崎公園の池に行って見た。するとカルガモが寒いのに日陰にいる。これでは感度を400にしたが、シャター速度はかなり遅くなるからブレるかなと思って、絞り開放(f5.6)にしてレリーズでシャッターを切ったが、なんとなんと目にピントがしっかり合っているように見える。これは行けそうだなと目指す公園とは逆方向のせせらぎ公園へ歩いて行ったが、池の改悛工事のために鳥は見えず、ただ、途中、シジュウカラや仲町台の商店街近くにハシブトガラスやスズメがいたので頑張ってみたものの、かなり手ごわい連中である。これではだめだと茅ヶ崎公園へ戻り、今日は平日だから生態園には入れないので、大原みねみち公園、葛が谷公園、鴨池公園、都筑中央公園のコースを往復することにした。
 茅ヶ崎公園から大原みねみち公園の間で、とても絵になる美しいモミジの紅葉に出会った。こちらは銀鉛フィルムでとザックからカメラを取り出して撮影した。また、いつも冬になると必ず撮影する大原みねみち公園入り口のトチノキの冬芽と葉痕を見ると、まるで「抱っこちゃん」が、抱きついているように小さな冬芽と葉痕がある。これもまた銀鉛フィルムでとザックからカメラを取り出し撮影した。このHPをご覧下さる方の中に、もしや若い人がいるといけないので説明するが、「抱っこちゃん」とは、私が洟垂れ坊やだった時に流行った腕などに抱きつかせる空気を吹き込んで膨らませる黒い人形である。何しろすごいブームとなって、この「抱っこちゃん」と後に流行った「フラフープ」は、玩具屋に出来た長蛇の列に並んでも買えなかった程なのである。なお「フラフープ」についても説明しなければならないが、長くなってしまうので、お父さんお母さんに聞いて欲しい。
 話はだいぶ横道にそれてしまったが、大原みねみち公園にはIさんの言う様にカワセミがいて、今日は付近で工事をしている関係上か2カット撮影したら、餌を上手に捕まえると何処かへ行ってしまった。同じ目的でカメラを構えている初老の男性が、「待っていればまた来ますよ。それにあそこにジョウビタキやルリビタキも来ますよ」と言うので待とうかなとも思ったが、付近の学校の12時を知らせるチャイムが聞こえたら急に空腹感に襲われたので、「帰りに寄ってみます」と牛丼のすき屋さん目指して、公園を結ぶ緑道から激しく車の行き交うメインロードに歩いて行った。前にも書いたかも知れないが、この港北ニュータウの公園巡りはとても楽しく、しかも各所にトイレや水飲み場、お腹が減ったら至近距離にコンビニや牛丼屋やハンバーガーショップ等があるから最高なのである。
 昼食を済ませると鴨池公園へ行った。鴨池というぐらいだからもちろん鴨がいて、今日はマガモ、カルガモが見られた。他に鳥はいないかなと思って探すと、立ち入り禁止の保全池の畦に、まるで哲学者のようにじっとしているアオサギがいる。これはしめたと撮影したことは言うまでも無いが、首を伸ばしたところをとかなり待ったが、顔を動かすのみであった。鴨池公園を後にすると、港北ニュータウの公園巡りの最後となる一番大きな都筑中央公園へ行った。ここには各種の野草も豊富で、茅ヶ崎生態園のボランティア仲間のKさんがツリフネソウを見つけている。なお、ここは横浜市営地下鉄センター南駅からも至近だから、一度は訪ねて欲しい場所である。都筑中央公園へ行くまでの間、オナガ、シジュウカラ、メジロ、ヒヨドリを観察したが、今一絵になる場所には止ってくれず、しぶしぶ大きな池である宮田池へ行くとカルガモがたくさんいた。なんだカルガモだけかとも思ったが、「どうせフイルム代はかからないのだから練習、練習」とばかりに撮影していたら、ハクセキレイがやって来た。
 今日は何だかとても楽しく、すぐに帰る時間となってしまった。他の被写体なら這い蹲ったり窮屈な姿勢をとったり、冬芽や葉痕や越冬する昆虫等は人の目を気にしたりするが、鳥はそんなことも無い。何だか王侯貴族の趣味を味わっているように感じるのだから尚更だ。後は上手く撮れているかだと帰ってわくわくしながらバソコンを開いてみると、「予想以上に撮れてました」ということになった。こうなったらフイルム、現像代がかからないのだから、お小遣いもほとんど減らない。そうだ、明日はトキナーの80〜400mmを買いに行こう。以上のように今日は確かな手ごたえを得て、今年の冬はとっても楽しい道端自然観察が出来ると、しばらく続いた鬱気分が何処かへ霧散し去った。

<今日観察出来たもの>鳥/マガモ、カルガモ(写真下左)、アオサギ、カワセミ(写真下右)、ハクセキレイ、オナガ、シジュウカラ、メジロ、ヒヨドリ、ハシブトガラス、キジバト、スズメ等。花/キクイモ、ツワブキ等。昆虫/ツユムシ等。その他/モミジの紅葉(写真上左)、トチノキの冬芽と葉痕(写真上右)等。


12月8日、横浜市緑区三保市民の森〜寺家ふるさと村〜小野路町

 去年の観察ノートを見ると、12月10日に大雪が降って雪景色を撮影に行ったと記してある。しかし、今年は暖かいからまたまだと思って、今日は三保市民の森にウラギンシジミとムラサキシジミの日向ぼっこを撮影しようと出かけた。しかし、結果は朝のうち曇っていたことが影響したかもしれないが、どちらも日向ぼっこに現れなかった。そこで過去の観察ノートを開いて見ると、去年は同目的で11月30日に、一昨年は11月23日に行っている。という事はやはり時期的に少し遅かったのかも知れない。今年は暖かいと思われるのだが、ウラギンシジミとムラサキシジミにとってはやはり初冬で、越冬の眠りに入ってしまったようである。特にウラギンシジミは眠りが深く、常緑広葉樹の葉裏にここぞと越冬場所を決めると、そう簡単には目覚めない。このウラギンシジミの越冬に関しては、川崎市の王禅寺に住んでいる主婦高柳芳恵さんが、偕成社から1999年に出版した「葉の裏で冬を生きぬくチョウ」に詳しく書かれている。もう書店で手に入れることは出来ないかも知れないが、図書館の児童書コーナーに置いてあると思うので一読をお勧めしたい。私たちは動植物の研究は身近なフィールドでは不可能、あるいは専門家でなくては無理と思いがちだが、この本を読めば、その気になって根気良く続ければ、一般の自然好きにも立派な成果をあげられるということが分かるに違いない。
 三保市民の森の駐車場は土曜、日曜日にしか利用できないから、今日も昨日と同じ遊水池付近に車を停めて歩いていった。昨日とは反対側に歩いて行った事になる。目的地である三保市民の森まではかなりあるが、その間、あの道この道と寄り道して行けば、それなりに楽しいものに出会う道でもある。今日、まず最初に見つけたのは、食用グルミの冬芽と葉痕である。多分、テウチグルミないしカシグルミと呼ばれている栽培品種である。野生のオニグルミと同じとぼけた羊顔の葉痕たが、これがとっても大きいのである。なぜならオニグルミの枝は固く締まっている感じだが、食用グルミの枝は柔らかくてふくよかだから、必然的にそこにある葉痕もふくよかになるのだろう。きっと葉柄や葉もオニグルミよりたいそう立派に違いない。たくさんついている葉痕の中で一番端正な顔立ちのものを選んで撮影したが、このHPの掲示板にたびたび投稿下さる一人静さんのように、デジカメならたくさん撮って、微妙に変化した顔立ちを比べて楽しめるに違いない。最近、ゴールデンリトリバーという犬が好きになって、すれ違うとお顔拝見を続けているが、一匹だって同じ顔だったためしは無い。例えば中型の柴犬は同じような顔立ちのものにたくさん出会うが、大型犬であるゴールデンリトリバーにはそのようなことが無いのだ。ゴールデンリトリバーを飼っている方に聞いてみたが、「大きい顔だから目や口や鼻の位置をたくさん選べるからでしょう」と言う。何だか分かったような分からないような答えだが、顔の作りの自由度を可能とするに足る大きな顔ということなのだろう。
 食用グルミの葉痕をばっちりカメラに納めると、前にも書き記したことのあるツルウメモドキの雄株の大木を見に行った。もうほとんど葉がなくなったから実がこぼれんばかりに見える。「どうしてこんなにまで頑丈で立派な棚まで作って、何年にも渡ってツルウメモドキを大切に育てているの?」と疑問符を前に投げかけたはずだが、葉が完全に落ちた後の鈴なりの実の美しさは素晴らしい。3つに割れて開いた黄色い仮種皮の中に真っ赤な種子が鮮やかだ。もし黄色い仮種皮がなくて赤一色の種子だけだったら、このような鮮やかさには見えないだろう。これを専門的には二色効果と呼ぶのに違いない。野にある種子ではゴンズイやクサギの実がそうである。ちょっと話は反れるが、「どうしたら風情ある写真が撮れますか?」と質問された時、「必ず脇役を入れなさい」と答えている。昨日が最終回であったNHK大河ドラマ“宮本武蔵”だって、武蔵とお通だけではつまらない。又八やお杉ばあやお甲や朱実等の脇役が光ってこそ、主役がより光ると言うわけである。そんな事を偉そうに言ってはいるが、実は私もまだ脇役を一つか二つ入れるのが精一杯で、吉川栄治やスタンダールの小説のように、脇役をたくさん入れてもなお更に主役が光輝く写真を撮ってみたいものである。
 午後は陽が短く赤味を帯びた写真となってしまう初冬の光だから、寺家へ行って露出補正を間違えたと思われるフジの冬芽と葉痕を撮り直し、なんとなく行きたくなった小野路へ行って、絞り値を間違えて全体にピンが来ていなかったジャコウアゲハの蛹を撮り直したらフィルムが丁度終わった。こうなったらと空身になって午後のコースを一回りしたら、お孫さんと自宅のミカンを収穫しているTさんに出会った。「今日はカメラわ?」と言うので、「たまには空身でお散歩です」と笑って答えた。Tさんはスーパーで買った1900円の防寒具のポケットに詰め込めるだけミカンを持っていきなさいと勧める。そこでお言葉に甘えて、両方のポケットを膨らませた変な格好での散策を続けるはめとなってしまった。「やはり小野路は良い。静かで空気が澄んでいる」等と、昨日、横浜駅西口のヨドバシカメラまで買い物へ行った人込みを思い起こして呟いた。

<今日観察出来たもの>花/ノハラアザミ、イヌタデ、フユノハナワラビ等。昆虫/クロスジフユエダシャク、アキアカネ、ヒメアカネ、カマキリ、ジャコウアゲハの蛹等。その他/ツルウメモドキの実(写真左)、食用グルミの冬芽と葉痕(写真下)、フジの冬芽と葉痕、ナツツバキの実(写真右)、モズ等。


12月6日、横浜市緑区新治市民の森〜寺家ふるさと村

 晩秋のような気温が高い日が続いているが、12月に入ると何だか気ぜわしくなる。今年は喪中につき、早々と喪中の旨のハガキを出してしまったから、年賀状を書く忙しさはないものの、何だか心が落ち着かない。最近、このHPのアクセス数がぐんと減ったようだが、いつも同じパターンだから飽きられてしまったと解釈するか、それとも師走に入って、みんな忙しくなったと解釈するかは、新年を迎えて数週間過ぎれば分かることだろう。一昨日は仕事仲間に誘われて忘年会があった。一次会の後に怪しげなカラオケBOXに行って、女性は中国服などのコスチュームに着替え、男性も気に入ったお面などを被って歌えるという店である。まあ、足繁く通う所が里山で、道端自然観察や写真撮影を続けて久しいから、歌える歌といったら若かった時のものばかりで、最近の曲などちんぷんかんぷんなのだから寂しい限りだ。久しぶりに終電間近の電車で帰宅し、昨日は遅く起きて舞岡公園へ行ったのだが、小雨降る中での傘をさしての短時間の散策で無念の帰宅となってしまった。
 そんな訳で今日は曇り日だというのに張り切ってフィールドへ出向いた。午前中に行ったのは新治市民の森で、各種の樹木の紅葉黄葉を撮影することと、出来るだけ多くの実を撮影すること、それとオオアオイトトンボとクロスジフユエダシャクの交尾を前回に引き続いて探すことを主眼とした訳である。例によって遊水池付近に車を停めて、まず丘の上の畑に行った。雑木林と畑が接する辺りは栗林になっていて、栗の葉は黄褐色から褐色に変化して、小枝に残っている葉もだいぶ少なくなった。今年も小枝に何か着いていないかと探してみると、ハラビロカマキリ、カマキリ、オオカマキリの卵のう、イラガの繭、オオミノガの巣が着いている。これらのものはみんな冬をイメージするものと頭の中に定着しているので、栗の葉が全て落ちた冬晴れの日まで撮影は見合わせた。
 また、若い栗の木の幹には、まるでコールタールを塗ったかのようにクリオオアブラムシが集団で固まっている。集団でいると互いの体温でだいぶ過ごしやすくなるのだろう。図鑑によると、集まっているのはみんな雌で、集まった場所に全てがまとまって産卵するとある。しかし、名にオオとついていてもかなり小さい昆虫だから、その卵と言ったら高倍率のルーペが必要な程小さいことだろう。かつて自然好きの友人が「虫は大好きだけれど、クリオオアブラムシだけは気味が悪い」と言っていた。だが、一匹一匹を観察すると、腹部の左右から二本の角が生えている、とても可愛らしい昆虫なのだ。もしかしたら昆虫に馴染みの薄い女性等は「アブラムシって昆虫?」等と言う初歩的疑問を持つかもしれないが、アブラムシの仲間はセミと同じ半翅目の昆虫なのである。しかも種類によってつく植物がたいがい決まっていて、キョウチクトウにつくものはキョウチクトウアブラムシ、ヘクソカズラにつくものはヘクソカズラヒゲナガアブラムシ等と植物名を頭に冠している。来年季節になったら、例えばゴボウやアザミにつくゴボウクギケアブラムシ等を見つけて、ルーペで覗いて見て欲しい。とっても可愛らしい姿が目に入って来るに違いない。
 丘の上の栗林の観察が終わるとハンノキ林の方へ行ったが、オオアオイトトンボやクロスジフユエダシャクの姿は見えず、崖地にツチグリがまだ見られ、雑木林に放置したシイタケのほだ木に、とっても大きく成長したおいしそうなシイタケが生えていた。「あーあ、またしても撮るものが無いな」等と愚痴りながら、雑木林の小道を登って行くと、アオマツムシの雌が陽が出ていないのに日向ぼっこをしていたり、ジョロウグモがまだ網を張っていて、その中心でしぶとく獲物を待っている位であった。
 昼食を済ませて午後は寺家ふるさと村へ行った。ここでも同じようなものを探して撮影するつもりであったが、まず最初にコンクリートの杭に生みたてのカマキリの卵のうを発見した。よくよく辺りを見回すと多分この卵のうを産みつけたと思われるカマキリが休んでいる。お腹はぺちゃんこでは無いので、もう一つ位は卵のうを何処かに生みつけるに違いない。その後、雑木林に入ってクロスジフユエダシャクの交尾個体やまだ生き残っているかもしれないトゲナナフシを探したが見つからず、去年風情溢れる冬芽や葉痕の写真が撮れた谷戸奥に行って見ると、埴輪顔のニワトコやまん丸顔のフジの葉痕が笑顔で迎えてくれた。何処へ行っても晩秋と初冬の端境期、後、ウラギンシジミとムラサキシジミの日向ぼっこを撮影したら、道端自然観察や写真撮影は、完全に冬モードに入ることだろう。

<今日観察出来たもの>花/ノハラアザミ、リュウノウギク、シロヨメナ、イヌタデ、フユノハナワラビ等。昆虫/クロスジフユエダシャク、コバネイナゴ、アキアカネ、アオマツムシ(写真下)、カマキリ、クリオオアブラムシ、ハラビロカマキリの卵のう、カマキリの卵のう、オオカマキリの卵のう、イラガの繭、オオミノガの巣等。その他/トウカエデの紅葉(写真右)、ニワトコの冬芽と葉痕(写真左)、フジの冬芽と葉痕、ニガクリタケ、ツチグリ等。


12月3日、東京都町田市野津田公園〜小山田緑地

 ここにきて天気予報が当たらなくなった。今日は晴れのはずだったのが曇りである。しかし、気温は高めで昼近くから晴れると言う。気温が高いから出かけるのが苦にならないものの、これから春まで、寒い曇り日だったらフィールド行きはパスしたくなる。今までたくさん撮影しているものの、季節季節に咲く花や現れる昆虫を、その年に1カットは撮りたいと思うものである。撮影しないと何だか忘れ物をしたみたいで、心に季節感喪失の隙間風が吹くように感ずるのだ。出来ることなら以前に撮ったものより優れたものを、と望むのも当然のことである。しかし、多摩丘陵の里山といったって、動植物は数え切れない程、自生し生息するのだから、毎日フィールドへ出かけたって、撮り残しがたくさん生ずるのは当然だ。今年もそんな忘れ物をたくさんフィールドに残して暮れようとしているが、まだ間に合うと晩秋の代表的な昆虫であるオオアオイトトンボを探しに行った。
 オオアオイトトンボは里山では最も普通に見られる大型のイトトンボである。池や沼があって周りが雑木林に囲まれていれば、何処でも見られるはずである。開発が進んだ港北ニュータウンの公園でも見られる位だから、その気になりさえすれば、こんな所にといった公園でも生息していることだろう。しかし、いくら大型と言ってもイトトンボの仲間であるから、ただ、普通に歩いているだけでは発見は難しい。しかも、オオアオイトトンボは羽化すると、幼虫の暮らしていた池や沼からかなり離れた雑木林の中で夏の暑い時期を過ごすから、道端へは秋から晩秋にかけてのみ出没するようになる。今まで一番多く観察したのは、厚木市七沢にある自然保護センターで、ついで新治市民の森のハンノキ林周辺であるが、以前、夏に雑木林の中で多数の個体を観察している野津田公園の湿性植物園へ行って見た。しかし、今日のような曇り日では藪の中隠れていて、道端に日向ぼっこに来ないのか、あるいはもう時期が過ぎているのか、一頭だにお目にかかれなかった。
 しかし、この野津田公園は歩き回れば何かに出くわす公園である。しかも、小野路町や図師町と異なってアップダウンが余り無いから気楽なものだ。早くも陸上競技場周辺にはハボタンの寄せ上が並べられ、すっかり葉を落としたアメリカハナミズキが、真っ赤な実を地面にたくさん撒き散らしていた。28日にも短時間だが立ち寄ってサザンカやサンシュの実を撮ったのだが、まだまだ、ウメモドキ、アオキ、ヒサカキ等のたくさんの実が観察出来た。各種の広葉樹は落葉し始めていたものの、モミジはちょうど撮り頃の色具合となっていた。また、小野路屋敷横のバラ園を覗いてみたら、まだかなりの花が残っていたが、12月にバラの花の登場では季節感から言っておかしいと素通りして雑木林に入って行くと、まだ産卵されて間もないハラビロカマキリのラグビーボールのような卵のうが山桜の幹にしっかり着いていた。
 本意とはいえないもののかなりの枚数を撮影し、ちょうど昼食の時間になったが、まだ数枚フィルムが残っている。そこでまたウロウロすると、すぐにハンカチノキが植えられているのが目に入った。ハンカチノキは初夏に白いハンカチのような花を咲かせるのでその名がついたが、東京都文京区にある小石川植物園に行かなければ見られないと思っていた。なんで野津田公園にあるの?と思ったのだが、5月の連休の頃、この樹の花を見たいが為に遠方から小石川植物園にやって来る方がたくさんいるというから、町田市もこの人気者を植栽したのだろう。もちろん小石川植物園にある大木からみれば、ほんの赤ん坊だが、背が低い事が幸いして、冬芽や葉痕が撮って下さいとばかりの位置にたくさんあった。どんな顔立ちの葉痕?と近づいてじっくり探すと、それはそれは楽しい顔立ちばかりで笑ってしまった。
 昼食を済ませると鳥の撮影初日とばかりに、小山田緑地へ行った。初日だから飛ぶ宝石と呼ばれるカワセミ狙いとなった訳だが、いつもいる池にその姿は見られない。重たい三脚に重いレンズを駐車場から運んで来たのだから、他の鳥はいないかと探して見たものの、鳴き声ばかりで姿が見えず。こうなったら昨日行った万松寺谷戸でアオサギを撮ろうと戻りかけたら、桜のひこばえにクロスジフユエダシャクが撮影して下さいとばかりに羽を広げて静止している。何だかおかしいなと近づいてみると、なんと交尾しているではないか。これはこれは今まで撮影したいとずっと思って来た場面である。転ばぬ位に急いで息せき切って車に戻り、レンズと三脚を変えて戻ってみるとまだ交尾中である。三脚を立て絞り値を決め、いざ撮影と思ったらシャッター速度がかなり遅い。これではレリーズを使わなければとポケットに手を突っ込んで取り出し、再び目を向けると目の前のクロスジフユエダシャクが羽の無い雌もろとも忽然と消えた。「嘘だろー、あんなひ弱な羽と羽ばたきでで重たい雌を運べるはずは無い」と、地面に落ちたのではないかと一生懸命にそれこそ血眼で捜したのだが見つからない。交尾中だから逃げるはずは無いと思って目を離してしまったのが悔やまれる。まだ、何処かで交尾個体が見られるはずと、鳥の撮影初日は急遽クロスジフユエダシャクモードになって探し回ったが、結局見つけることは出来ずに後悔の帰宅となってしまった。

<今日観察出来たもの>昆虫/クロスジフユエダシャク、ハネナガイナゴ、アキアカネ、セアカツノカメムシ、ハラビロカマキリの卵のう等。その他/アオキの実、ウメモドキの実(写真右)、サカキの実、ハンカチノキの冬芽と葉痕(写真下)、ニガクリタケ等。


12月2日、東京都町田市小野路町・図師町

 12月に入ったというのに、何でこんなに暖かいのだろう。スーパーで買った薄手の格安の防寒具を身に付けて来たのだが、汗がじわじわと滲んで来る。いよいよ初冬だと張り切っていたのに、こんに暖かいとなんだか拍子抜けしてしまう。ここ数日雨が続いたが、これも季節外れの台風の影響であるらしい。何だか今年一年は、個人的に喪中であったためか、前半は中途半端な自然観察および写真撮影となってしまった。梅雨時の重い鬱状態をくぐりぬけ、夏に入ってやっと調子が出て来たと思ったら、異常気象となったのだからお手上げである。そして今日のこの陽気、もういい加減に例年通りの気候となって欲しいものである。今日は12月に入ったとは言え、まだまだ多摩丘陵は月の半ばまでは晩秋である。各種の昆虫の越冬や冬芽や葉痕を撮影するにはまだ早い。今年の冬は鳥の撮影をするんだと、すっかり準備は整っているものの、通常の自然観察および写真撮影も定期的に続けて行くつもりである。何しろ鳥の撮影となると機材が重くて、ハイキング気分で野山を歩けるものではないし、ここに載せるための写真が最低2枚撮れるかというと鳥の場合は難しい。だから、ここに載せるにまあまあ足る鳥の写真が撮れた時のみ、このつれづれ観察記に書こうと思っている。
 そんな訳で、撮り忘れていた雑木林の紅葉を撮影しようと、最初は川崎市麻生区黒川の美しい雑木林に行った。20mmの超広角レンズを付けて梢を見上げるが、何だか何処かで見たような絵にしかならない。超広角レンズで梢を見上げれば、誰もがあっと言うような迫力ある写真が撮れるものの、風情溢れる美しい写真となると難しい。さんざん首が痛くなる程、上を向いて歩いたが、気に入った絵がファィンダーに入って来ない。そこでこうなったら小野路・図師へ行こうと早々と黒川を後にした。万松寺谷戸には28日に行ったから、それ程の変化がある訳では無い。しかし、今日は28日と異なって雲一つ無い晴天で、風も無く暖かく穏やかである。ことによったら12月に入ったとは言え、ウスタビガの羽化がまだ見られるかもしれないと期待して、アメリカハナミズキの小枝を見上げてみたのだが、もう羽化は全て終了しているようである。長いこと道端自然観察を続けているが、ウスタビガの羽化及び交尾の現場に遭遇するのは、かなり難しいことのようである。
 万松寺谷戸、栗林、キノコ山と回ったが、これと言った撮るべきものも無く、クロスジフユエダシャクが舞う雑木林の小道を、わざわざ積もった枯葉を蹴散らかして音をたてながら28日に行かなかった五反田谷戸へ行った。そうしたら驚くべきことにバードウォッチングに来ているご婦人のグループで賑やかである。最近、この五反田谷戸にもバードウォッチングにやって来るグループが増えたようだ。バードウォッチイング自体に異議を唱えるつもりは毛頭無いものの、団体で一箇所に固まってぺちゃくちゃしゃべりながらの観察には閉口する。自然観察及び写真撮影は、一人か少人数で静かに楽しむものと思っているからだ。これでは団体さんが退散するまで落ち着いて写真を撮れないなと思っていたら、Aさんがやって来た。ちょうど時計を見ると12時である。一緒に小高くなった芝地で弁当を食べ、団体さんが帰ったので、さあこれからと思ったのだが、写欲を誘う被写体にも風景にも出くわさない。団体さんを見て作画する気が萎えてしまったのかもしれない。その後、Aさんと各所を楽しい話をしながら歩き回ったのだが、これと言ったものに出会えない。Aさんが用事があるからと先に帰った後も、頑張って探し回ったのだが、やはりだめであった。
 「あーあ、写すものが無いな」と嘆きながら車の方へ戻ろうとしたら、見覚えのあるご婦人がセリを摘んでいる。「あれー、火曜日に来るバイクのおばちゃんかな」と近づいて見るとそうである。「生きていたんですか。毒キノコを食べて死んでしまったかなと思っていましたよ。一年ぶりですね」と冷やかして言うと、「来たいんだけれど、仕事が忙しくて来られなかった」と言う。本当に元気が良い明るい方である。見ると懐かしい釣具の上州屋の長靴を履いている。「まだ、その長靴履いているんですか。もう、その型はとっくになくなりましたよ」と言うと、「来られないから長靴も痛まないのよ」と笑って言う。「その後、キノコ食べました。確か37種類食べたんでしたね」と尋ねると、「違うわよ、忙しかったから去年のまんまの27種類。もうしばらくキノコから遠のいているから、28種類目はしばらく無いと思うわ」と言う。前にも書いたかもしれないが、このご婦人は万松寺谷戸周辺に生えるキノコを試食しているという怪しいおばちゃんでもあるのだ。「もう止めたほうが良いですよ。その28種類目であの世へ行くかも知れませんからね」と言うと、「そうね。またキノコも一から出直しだから、面倒くさくなってしまった」と元気なおばちゃんらしからぬ事を言う。
 その後、色々な話しをしていたら、パソコンを買ったというので、「掲示板にセリの美味しい料理法を投稿して下さい」と言ったら、薮蛇だったようで「じゃ、教えるから、今日の観察記で紹介しておいて」ということになってしまった。そこで火曜日に来るバイクのおばちゃんのお勧めセリ料理の一番手は、セリピラフである。セリを3cm位に刻んでご飯とともにサラダオイルで炒め、荒引き黒コショウと塩で味付けし、好みによってはこれにウエイパーを入れると良いとのこと。「ところでウエイパーって何?」と質問すると、中華の味が出る調味料であると教えてくれた。火曜日に来るバイクのおばちゃんのお勧めセリ料理のニ番手は、セリの細巻き、簡単に言えば寿司のカッパ巻きのキュウリをセリに変えたものである。以上、なんだか唾液が湧いて来そうな美味しそうなセリ料理だが、最後に「スーパーで売っているセリではだめよ」と言う事であった。今日は自然観察も写真撮影もこれと言ったものには遭遇しなかったが、久しぶりに元万松寺谷戸の主的なおばちゃんに出会って楽しい会話をしたのだから、まあ良しとして車へ戻ったら、黒いヘルメットを被ったおばちゃんが、颯爽とバイクで風を切って帰って行った。

<今日観察出来たもの>花/ノハラアザミ、アキノキリンソウ、リュウノウギク、フユノハナワラビ等。蝶/ルリタテハ、キタテハ、ヒメアカタテハ、ベニシジミ、ヤマトシジミ等。昆虫/クロスジフユエダシャク、ハネナガイナゴ、マユタテアカネ、オオアオイトトンボ、テントウムシ等。その他/雑木林の紅葉(写真左)、ツタの紅葉(写真右)、ジャコウアゲハの蛹(写真下)、アオサギ等。



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