2003年:つれづれ観察記
(2月)


2月27日、栃木県大田原市北金丸

 良く遠くまで日帰りで行きますねと言われそうなほど、本当に遠い所まで行って来た。家を5時に出て上野発6時51分の快速ラビット号黒磯行きに乗り、目的地の大田原市指定天然記念物「ザゼン草群生地」に着いたのは何と10時である。もちろん乗り継ぎがすんなり行けば4時間なのだが、それでも遠い。雪を被った日光連山が見える宇都宮から更に遠く、那須の山々が見える西那須野駅で下車してバスに揺られて目的地へ行く。ザゼン草群生地と言っても、幼稚園の運動場位の広さで、高原の湿原や北海道にあるような広大な群生地を頭に描いたら失望するだろう。
 今日は風が強く那須連山から吹き降ろす風が、小川の縁の湿原に咲くザゼン草群生地を直撃するので、寒いこと寒いこと。しかし、キノコと同じで、少しぐらいの風にはびくともしない花だからあり難い。ザゼンソウはこんなに早く咲くというのに、よりによってこんなに寒い場所に咲くのかと思うと、さすが座禅を組んで修行する僧のように見えて脱帽する。
 狭いと言っても案内書によれば約2万株が自生し、毎年その内の1000株が開花するそうで、このような群生地は珍しいとのことである。去年は3月1日に行ったが暖冬で、農家のウメの咲き具合から見て、今年は1週間程遅いようである。しかし、何とか1カットはものになる写真が撮れたのだから良しとするべきであろう。前述したように毎年咲く花が変わるようで、絵になる写真を撮るには毎年通い続けなければならないようだ。確かに去年絵になるように咲いていた場所に、同じように咲いていないのである。しかも、仏炎苞に包まれた花があっちを向いたりこっちを向いたりして咲いているのだから大変である。もちろん木道の上からの撮影となるので思うようには撮れない。しかし、まだ三脚を立てることは許されているので、もしどうしてもザゼンソウを撮りたいと思う方は、3月中旬までの平日に行かれたら良いだろう。
 最後に、上野発6時51分の快速ラビット号黒磯行きに乗れば、ミズナラの林に乱れ飛ぶアイノミドリやジョウザンミドリを見に、また、ガンコウランの実を口に含みに那須に行くのも可能だと分ったので、夏になったら行って、また、このつれづれ観察記で報告できるようにしたいものである。

<今日観察出来たもの>花/ザゼンソウ(写真)、フクジュソウ。


2月26日、神奈川県相模原市相模原公園

 月曜日の日はみぞれ混じりの寒い日であったが、昨日、今日と暖かい風が無い日が続いている。今日は相模原台地が相模川と接する辺りにある相模原公園へ、クロッカスの写真を撮りに行って来た。このところ花の写真三昧の日々が続く。こう暖かいと越冬していた各種の蝶、ルリタテハやキタテハ、アカタテハ等が雑木林に囲まれた原っぱで日向ぼっこをしているはずだが、本格的な昆虫シーズンまでには後2、3週間はかかるだろう。相模原公園は小田急相模原駅からバスに乗って総合体育館前で降りればすぐなのだが、かなり時間がかかって行き易い所とは言えない。しかし、花が好きな方なら一度は訪ねてみる価値がある公園で、力を入れているのはクロッカス、ルピナス、クレマチス、アジサイ、ハナショウブで、その他、各種のワイルドフラワーや花壇の花が咲き乱れ、入場料無料の公園とは思えないほどである。しかも有料であるが大温室まである。また、駐車場は平日なら無料なのもあり難い。
 駐車場から目的の雑木林に咲くクロッカスが咲き乱れる場所に行く途中、平日だと言うのに20名は下らない数の超望遠レンズを構えている方々がいる。ヤツガシラという鳥を撮るのだと言う。そのうち私も鳥の写真を撮ろうと思っているのだが、いつ出て来るのか分らない鳥の観察は遠慮して、クロッカスの撮影に専念していると、「あれー、この花フクジュソウだっけ?」という声が聞こえて来た。地面を割って黄色い花が咲いているのだから、フクジュソウと思っても仕方が無い。それにヨーロッパでは雪解けの後にまず最初に咲くのがスノードロップやクロッカスで、日本のフクジュソウと同じく春を告げる花なのである。
 相模原公園のクロッカスはまだ咲き始めといった状況で、黄色いお馴染みの「マンモス・イエロー」はかなり開花しているが、紫色の「リメンブランス」はこれからで、今年はクロッカスに関しては開花時期がかなり遅れているようである。また、各種の花壇の花も期待して行った割には美しく咲いておらず、やはり霜が降りなくなってから少し立たなければ本格的な開花は期待できないようである。

<今日観察出来たもの>花/クロッカス(写真)、ノースポール、プリムラポリアンサ、パンジー、ビオラ、菜の花、シナマンサク、ウメ。


2月25日、東京都町田市薬師池公園〜町田ぼたん園

 東京都町田市は南北に細長い市域をもっているが、多摩丘陵の西半分を占めているといっても過言ではない緑豊かな地域である。一番北は南高尾山稜に接する大地沢で、ここまで来ると山里の雰囲気が味わえ、数多くの山野草や山里に見られる昆虫たちに出会える。そして南に下って小山田緑地、図師小野路歴史環境保全区域、野津田公園、薬師池公園、カタクリで有名な町田かたかごの森と自然観察の敵地がひしめいている。その中でも薬師池公園周辺は誰でも気軽に散策できる場所として町田市民の憩いの場となっている。薬師池公園を中心として町田えびね園、町田ダリア園、町田ぼたん園、そして子供たちに大人気の町田リス園までもある。しかも、丘陵地帯を散策すれば雑木林が各所にあり、七国山自然苑まで行けば鎌倉古道を歩くことも出来る。また、時間さえあれば野津田公園から図師小野路歴史環境保全区域を経て小山田緑地まで延々と繋がっているから、かなり長いウォーキングが楽しめる。
 今日は薬師池公園の梅林で梅の花を撮影しようと思って出かけた。薬師池公園の梅は谷戸地形の一番奥まった所にあるので、都内の梅の名所が盛りを過ぎる頃になると咲き出すのである。今日はまだ4分咲き位だから、これからしばらく楽しめそうである。薬師池公園で一番有名な花は何と言っても大賀ハスで、続いてハナショウブ、アジサイと続くが、春になると萬葉草花園も開園し、70種の万葉植物、260種の山野草が見られる。梅林から薬師堂に上がって道に出て左に行くと町田ダリア園だが、こちらは7月から10月一杯が開園となっている。しかし、同園で栽培されている各種の花壇の花の鉢物が、お安い価格で一年中売られている。
 薬師堂から道に出て右に行くと長閑な雑木林や畑を通って町田ぼたん園に行くことが出来る。途中にあるファーマーズセンター周辺では、春は菜の花、夏はヒマワリ、秋にはソバの花が一面に咲く。そこからぼたん園はすぐで、ボタンの見頃は4月下旬から5月上旬だが、ボタン園は一年中入ることが出来るから、四季折々に咲く花を見に行くのは好適である。今日はアセビ、サンシュユ、オウバイ、ウメ等が咲いていた。

<今日観察出来たもの>花/ヤブツバキ、ウメ(写真左)、シナマンサク、サンシュユ(写真右)、アセビ、オウバイ、フクジュソウ、オオイヌノブグリ、ホトケノザ、ヒメオドリコソウ、ナズナ、カントウタンポポ、フキノトウ。


2月21日、東京都文京区小石川植物園

 このところ天気が日替わりメニューで変わる。移動性の低気圧が定期的に通るからである。これも本格的な春になるための例年のパターンなのだけど、週末、特に日曜日が雨となるのだから困ってしまう。今日は午後から少し仕事があるだけ、こんな時は小石川植物園に行くことに決めている。今日は梅の撮影からと正門を入って左に折れると、ヤブツバキが咲き始めていた。そこからすぐのハンノキの大木がある池に、前回、風のために独特な格好の花や実を撮れなかったからと立ち寄ると、ゲロゲロとヒキガエルが鳴いている。浅い池を覗いてみると、寒天質に包まれた紐状の卵が産み付けられている。文京区がそんなに暖かい場所とは思わないが、何もかも小石川植物園はずいぶんと早い。
 梅園はほぼ8分咲きで、私の大好きな濃い紅色の「鹿児島紅」も咲いている。梅の品種は沢山あって、各種の品種を追って写真を撮っても面白いのだけど、紅梅と白梅の2種類が美しく撮れれば満足である。それより今日の目的はカンザクラである。毎年、この時期に来ているのだけれど、風が強くてよい写真が撮れていない花である。また、カンザクラは小石川植物園でしか見たことが無く、大船植物園にあるやはり早咲きの玉縄桜に似ている。また、神代植物公園にはヒカンザクラ(カンヒザクラ)という紅色の垂れ下がって咲く早咲きの桜もあるが、桜らしいといえばカンザクラや玉縄桜に軍配が上がる。
 今日も生憎風が強いが、今日の風には強弱の息があって、待つこと10分の末、風はぴたりと止んで何とか写真を撮ることが出来た。少しぐらい揺れていても90mmマクロレンズで、シャッター速度が250分の1秒位で切れれば止って見えるのだけど、大伸ばしにするとぴたりと止んだ時に写したものの方が断然良いのに決まっている。私のようなたまに写真でお金が入る時があるプロモドキは、お金を貰う以上、ぴしっと撮れてなければ支払う方にも、それを見て頂く方にも「すまない」という気持ちになるので、我慢我慢で風が止むまで粘るのである。こうしてカンザクラは上手く撮れたのだけれど、別の場所にある咲き始めたネコヤナギは、待てども待てども揺れが止らず、さすがヤナギだけあるなと変な感心をして小石川植物園を後にした。

<今日観察出来たもの>花/ヤブツバキ、ウメ、カンザクラ(写真左)、カンボケ、ネコヤナギ、シナマンサク、アテツマンサク、ハンノキの花と実(写真右)、フクジュソウ、オオイヌノブグリ、ホトケノザ、ヒメオドリコソウ、ナズナ、カントウタンポポ。その他/ヒキガエルの卵、ジョウビタキ。


2月17日、神奈川県平塚市土屋

 
愛車を小野路号と名付けるくらいに、今年は多摩丘陵をメインに道端自然観察をしようと思っていたのだが、リンクしている「ドキッときのこ」の竹さんに平塚市土屋を紹介したら、早速出かけられて感謝のメールを頂き、また、楽しい報文(詳細はリンクから入って下さい)を氏のHPで読んだら急に行きたくなった。平塚市土屋は私が知ってる限り、神奈川県で最もローカル色豊かな田園地帯である。しかし、土屋はとても歴史のある場所で、桓武天皇の流れをくむ鎌倉幕府の御家人で重臣の土屋三郎宗達が開いた郷である。土屋城跡や土屋一族の墓や土屋氏の菩提寺がある。アララギ派の土屋文明もこの土屋一族の流れをくむということである。
 こんな鎌倉時代の歴史を紐解いて散策するのも良かろうが、何と言ってもこの土屋の里は群を抜く広大な道端自然観察地なのである。竹さんのHPに写真がある滝を源とした小川沿いの谷戸を登って行くと平坦な台地に出る。右手にピラミダルな大山、正面に塔ノ岳等の丹沢の主峰、その横に雪を頂く富士山、左手には箱根の明星ケ岳、明神ケ岳、金時山等の大パノラマが眼前に現れるのだか素晴らしい。今日は気温も高くて、もうヒバリがようやく成長を始めた小麦畑や菜花として出荷されるアブラナ畑の上でピーチクパーチクと囀っている。もちろん、路傍の野の花はいくらでも咲いていて、オオイヌノフグリ、ホトケノザ、ヒメオドリコソウ、ナズナ、タネツケバナ、カントウタンポポ等はもちろんのこと、フキノトウやなんとなんと早くもツクシが顔を出し、雑木林の日溜りではキジムシロやタチツボスミレまでも咲いていた。また、近くの土屋霊園でお墓に捧げられる花の栽培も盛んで、もうキンセンカがオレンジ色の花をつけていた。
 この土屋の里は、国蝶のオオムラサキを始めたくさんの昆虫が生息し、かなり珍しい野の花も沢山あるし、そのうち竹さんが沢山のきのこを見つけてくれるだろうし、そして前記したような雄大な眺望にも恵まれているというのに、自然観察に訪れる方にほとんど出会ったことが無いと言う摩訶不思議な場所である。電車で行く場合は、小田急線秦野駅下車で神奈川大学前行きのバスに乗り、遠藤原というバス停で下車して、あっちの小道こっちの小道を歩くだけでとても幸福な気分に浸れる。詳細な地図をご必要ならメールして頂ければお送りします。

<今日観察出来たもの>
昆虫/モンキチョウ、ナナホシテントウ。花/ウメ、オオイヌノブグリ、ホトケノザ、ヒメオドリコソウ、ナズナ、タネツケバナ、カントウタンポポ、タチツボスミレ、フキノトウ、キジムシロ。鳥/ヒバリ。*写真は以前に写したものです。安寧を願う碑(写真左)、七国峠付近の梅畑(写真右)。


2月15日、埼玉県滑川町国営武蔵丘陵森林公園

 
私が知っている有料の公園で、道端自然観察に最も素晴らしい所といえば、東武東上線森林公園駅下車の国営の武蔵丘陵森林公園が抜きん出ている。その面積たるや2泊3日もかけねば歩き尽くせないし、近頃盗掘で多摩丘陵ではお目にかかれなくなったキンラン、ギンラン、ササバギンラン、クマガイソウ、エビネ、シュンラン等の野生ランは勿論のこと、カタクリやコスミレ等の12種類の野生のスミレ、ホトトギス等の山野草、120種600本の梅、サクラ、サンシュユ、シナマンサク、レンギョウ、ユキヤナギ等の木の花、スイセン、クロッカス、チューリップ、コスモス等の花壇の花、カントウタンポポ等の道端に普通の野の花、そしてなんとなんと立派なハーブ園までもある。昆虫は各種の蝶やトンボは勿論のこと、ムゼームゼーと初夏の頃アカマツ林で鳴くハルゼミや各種の甲虫の宝庫である。秋になれば各種のキノコが顔を出し、野鳥観察場所としても素晴らしい公園である。もちろん、トイレ、水飲み場、売店は各所にあり、園内に幌馬車のような電気バスも走っている。
 こんなに素晴らしい所なのだが、私の住んでる横浜市から行くとなると気の遠くなる程の時間がかかる。朝の5時30分に起床して、洗面、食事、着替えを済ませて家を後にすると、ちょうど開園の9時30分に着く。最も電車で行く場合は、すごく軽くて扱い易い一眼レフカメラ(ペンタックスMZ3)に交換レンズ2本(90mmマクロ、28〜200mmズーム)と最低限のアクセサリーをザックに放り込んで、カーボン三脚(カメラ一台分の値段より高い)を持って、電車の中を寝床として行くのだから、遠いいけれどもとっても気が楽でもある。横浜在住の私でさえ行くのだから、東京都在住の方は、池袋から急行で60分のバス10分なのだから、是非ともたびたび訪れて欲しい場所である。
 今日の撮影目的は、梅林下に咲くフクジュソウである。もちろん植栽されたものだと思うが、その数はパンフレットによると1万株と書いてある。調布市の神代植物公園のフクジュソウ園も見事だが、その数倍も植栽されているのである。また、神代植物公園は山野に自生しているフクジュソウだけでなく、私にとってはあり方迷惑なのだが、花弁が赤味がかったもの等の園芸品種のフクジュソウまで植えられている。その点、森林公園はほとんどが日本に自生しているフクジュソウである。また、途方もなく広い公園だから、たくさんの方々がやって来ても人口密度が低く感じられるし、神代植物公園のような高級カメラの展示会、花の写真撮影の修羅場道場のような感じは全く無く、皆さんが好き勝手な機材で撮影しているのだから楽しくなる。
 
<今日観察出来たもの>花/フクジュソウ(適期)、ウメ(3分咲きでこれから)、サンシュユ(咲き始め)、シナマンサク、クロッカス、ミニスイセン


2月9日、川崎市麻生区黒川


 横浜市青葉区寺家町を中心として写真活動を繰り広げているグループ綵の、昆虫を中心として撮影している方の2週間開催される写真展初日(寺家ふるさと村の四季の家にて)である。私は今年で15年にも渡って、飽きずに昆虫の写真を多摩丘陵を中心として撮影しているのだが、昆虫の写真が大好きという方にそう多くお目にかかっていない。しかも、写真展を開くという方となると皆無である。今年から何年かかるか分らない多摩丘陵の昆虫たちというものをまとめようと考えているのだが、私がいくら努力しても相手は神出鬼没の昆虫たちだから、どうしても撮影できない昆虫が出るはずである。例えば、5月に現れる薄緑色のオオミズアオとか、7月初旬に現れる国蝶のオオムラサキとか、9月初旬に現れる雄大なヤママユとか、どうしても多摩丘陵の昆虫たちを語るにあたって取り上げずには片手落ちの大物の昆虫たちだ。そこで写真展を開いている2人の方と名刺交換をして、もし撮影できない種類が出た時に写真をお借り出来る様にお願いしてきた訳である。もちろん作品の素晴らしさも特筆もので、時間があったら是非見に行って欲しいものである。交通は東急田園都市線青葉台下車、鴨志田団地行き終点下車。
 同じ撮影対象を持つ方との語らいは楽しく、会場に長い間いたために、川崎市麻生区黒川に着いたのは11時になっていた。先日、曇り日に黒川の雑木林に踏込んだら、下草が奇麗に刈られて、とても美しいたたずまいとなったのを見ていたので、晴れたら撮影に来ようと思っていたのである。黒川は川崎市に残る唯一の雑木林に囲まれた谷戸である。田んぼの縁の農道を歩いているだけで、オモダカやコナギ、イボクサ等の田んぼの花、各種の路傍の野の花から山野草の花、梅や梨は言うに及ばず、何と何とリンゴの花まで見ることが出来るのである。また、昆虫はクズ等が繁茂するやや日陰の道端が延々と続いて、道端のひょうきんもののオジロアシナガゾウムシを始め、各種のチョッキリやオトシブミの宝庫で、もちろん蝶もたくさんご休憩にやって来る。私のメインフィールドは前述したお隣の町田市小野路町だが、そこでは見られない昆虫たちを、容易くカメラに納めることの出来る準メインフィールドとなっている。また、知人によるとホタルも見られるというから、季節になったら是非訪れてみよう。交通は小田急線黒川駅下車、鶴川街道に出て左に行くとお蕎麦屋があるので、その先を右に入って行く。
 黒川での雑木林の撮影が終わると、昼食を済ませ小野路町へ行って見た。今日は風のない春を思わせるような気温の高い日で、今年初めてモンシロチョウを見ることが出来た。毎年のことだが、こんなに早く羽化して大丈夫なのかと心配になる。風が遮られる日溜りには、オオイヌノフグリのコバルトブルーの絨毯が広がっている。オオイヌノフグリは何処にでも咲いているのだが、この花を美しく撮るのはとても難しい。なにしろ地面すれすれから狙わなくてはならないし、風が吹いていると可憐な花の揺れはなかなか止まらない。フィールドにはいつもより多くの人がみられ、いくらか成長し緑を増したセリを摘んでいる。立春を過ぎて光は春、そしてフィールドも、いよいよ賑わいが増してきたように感じられた。

<今日観察出来たもの>花/オオイヌノフグリ、ホトケノザ、ヒメオドリコソウ、ナズナ。昆虫/モンシロチョウ、キタテハ、キノカワガ、クロテンフユシャク、ナナホシテントウ。その他/山掃除された雑木林(写真左)、コナラの実の芽生え(写真右)。


2月6日、横浜市港北区鶴見川

 
今日は地元の鶴見川の河川敷で、青空に浮かぶオオカマキリの卵のうをどうしても撮りたくなった。年末からだいぶオオカマキリの卵のうは撮っているのだが、なんと言ったってアシの細長い茎に付いたものが一番である。場所は港北区新羽町の亀甲橋である。去年、サッカーのワールドカップ決勝が行われた横浜国際競技場が目の前に大きく見える。その周辺も公園化の工事が進んでいて、昔の水田が一面に広がる景色は遠い昔の事となった。亀甲橋周辺の鶴見川は多摩丘陵の一端が迫って来ているので、川底は硬い岩で流れが速い瀬となっている。もう数え切れない程、遠い昔のこととなってしまったが、亡き父と魚とりに良くやって来た場所である。父の趣味は夏場は投網で魚とり、冬は鉄砲担いで鳥打であるから、私とはだいぶ異なるがウィークエンド・ナチュラリストであった訳である。この亀甲橋周辺の流れの速い瀬には、信じられないかもしれないが、体長20cmを超える丸々と太った鮎がいたのである。その他にも、ヤマベ、ハヤ等は普通で、父の熟練した投網にたくさん入って、私はバケツを持って父の後を追いかけたという訳である。今は雑木林や谷戸へ行くことがほとんどだが、電車に乗って遠くに出かけた折に見る、昔ながらの細い川を見ると、心が懐かしさで一杯になる。思わず、兎追いし彼の山、小鮒釣し彼の川と歌い出したくなってしまう。
 ところで、ギンイチモンジセセリという蝶を知っているだろうか? セセリチョウの仲間で後翅裏面に銀色の筋を持つ可憐な蝶で、平地では4月下旬から5月初旬の初夏と夏に現れる。幼虫はススキが大好きで、河川敷はススキが一杯だから、ギンイチモンジセセリの天国なのだ。鶴見川だとこの亀甲橋辺りから中山辺りまで生息し、多摩川だったら登戸から福生くらいまで生息している。もっともススキが大好きといっても、雑木林のススキの原は気に入らないらしくて生息していないが、高原のススキの原は大好きなようで各所に見られる。もし6月中旬頃、高原へ行くことがあったら注意して欲しい蝶である。
 さて、周辺の開発によってオオカマキリの卵のうは、ぐっと少なくなったようだが、無事に青空に抜いて撮影できた。さて、この日の観察記に写真を2枚入れなくてはと思い、何か撮影するものが無いかと散策すると、中流域だというの大きなオニグルミの木が生えていた。近寄って葉痕を観察すると、あちこちにヤギ君の顔があるのだからとっても楽しい。オニグルミというと鶴見川なら上流部、また、山里の渓流沿いが故郷かと思っていたのだが、流れ着いて発芽し成長したものであろうか? ここより下流の鶴見川のどの辺までオニグルミが見られるのだろう? それを調べる程の暇はないが、是非とも知りたいことの一つとなった。

<今日観察出来たもの>
オオカマキリの卵のう(写真左)、オニグルミの冬芽(写真右)。


2月2日、横浜市都筑区茅ケ崎公園

 今日は待ちに待ったモウソウチクの竹きりの日である。去年の年末に同じボランティア活動があったのだが、始めて直ぐに雨が降ってきてしまったので、今日が再戦となった訳である。前回は太いモウソウチクを2本片付けただけで終わったので、何となく消化不良で、今回は少なくとも3本は片付けたいと思って出かけたのである。一般の方はモウソウチクの竹林は美しく、竹の子も取れるし、何で目の敵のようにモウソウチクをやっつけに行くの?と疑問に思うかもしれない。しかし、モウソウチクの猛威をそのままにしておくと、クヌギやコナラ等の美しい雑木林が疲弊して枯れ、全山がモウソウチクの山となってしまうのである。
 分類学が活躍する動植物の分布調査や植生調査はフィールドの現状を把握する基本中の基本だが、そこに時間的な動的見方や土壌や気候等も加えた生態系としての解釈、すなわち過去はこうこうで、現在はこういう理由でこうなっていて、未来はこういう理由でこうなるだろう。ということを考えるのが生態学である。田端英男編著−里山の自然−保育社刊は、ページ数の問題があって総網羅的ではあるが、里山の自然を生態学的視点で捉えるのに好適な本である。その本によると、関西ではモウソウチクが雑木林ばかりでなく、スギの植林地にも侵入して、物凄い勢いで拡大しているとある。モウソウチク林の中には、かろうじてアラカシ、ナワシログミ、ヤマウルシが余命を繋いでいるといった感じで、ほぼ、モウソウチクの単純な植生なのだと言う。また、モウソウチクは何十年間に1回開花して枯れるのだが、そこに他の木の稚樹がないから、また、モウソウチクの林になってしまうらしい。しかも、竹の葉は保水力がないから治水の面からもとても杞憂すべき問題だと書かれている。
 モウソウチクは17世紀から18世紀に中国から移入されたもので、以前は適度な管理がなされていたために、これほどまでの猛威は振るっておらず、雑木林の管理放棄による疲弊は、アズマネザサが一番の問題だったはずである。去年、寺家ふるさと村へたびたび出かけたが、アズマネザサとモウソウチクの猛威の為に、雑木林は危機に瀕していることを思い知った。すなわち雑木林は病んで涙を流しているのである。いずれ全山モウソウチクの山と化すのも時間の問題のようである。そんなこんなで狭いながらも茅ケ崎公園生態園では、アズマネザザの刈り取りとモウソウチクの竹きりを定期的に行い、美しい雑木林を残そうと頑張っているのである。
 関東地方の雑木林は、農業が始る前まではシラカシやアラカシを中心とした照葉樹林であったと言われ、人間が住み着き農業が始ると、里山と人との相互の関係が生じて、雑木林が二次林として成立したと言われている。それなら放っておいて、原始の時代の照葉樹林に帰せば良いのではないかという見解もあるものの、人と里山が優しく結ばれる、また、多様な動植物が存続可能な雑木林の保全管理が、大多数の望む方向であると各所で確認されている。かつては農家の方々がやっていたことを、ボランティアの方々や地方自治体がしなければならなくなった訳である。
 日頃、偉そうな事を言っていても、また、写真撮影で大変お世話になっているのに、自らの汗を流して里山管理に何にもしないのでは方手落ちと始めたボランティア活動だが、実際、モウソウチクを鋸で切り倒すことは簡単だが、枝払いして後片付けまでというと一本でも本当に大変なことで、今日のこの寒さの中でも汗が滲み出るほどの労働であった。また、女子高校生も参加して里山保全の意識が広がっていることを実感し、日本の若者もそう捨てたものではないなと感じた次第である。いい汗を流して一杯と行きたい所だが、焚き火で焼いたサツマイモとお茶ということになった。
 
<今日観察出来たもの>各種の雑木林を構成する樹木。そんな訳で、ここに紹介する写真は前回は撮影を遠慮したが、どうしても撮りたくなって、数日前に撮りに行った東京都町田市小野路町のシラホシコヤガの空巣(写真左)と幼虫(写真右)ということになった。



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