2003年:つれづれ観察記
(4月)


4月29日、横浜市緑区新治市民の森〜横浜市都筑区茅ケ崎公園自然生態園

 前にも書いたと思うが、かつて横浜市緑区新治町は雑木林の丘陵と谷戸が入り組んだ素晴らしい自然観察地であった。しかし、減反政策によって谷戸田は埋め立てられ、その結果、雑木林は乾燥して生き物の賑わいはだいぶ減じてしまった。また、市民の森になって緑地自体は保全されて開発から免れたのだが、雑木林の伐採が行き過ぎた所もあって、生き物の賑わいはますます減じたように感じていた。しかし、雑木林の伐採跡地に、様々な広葉樹が植林されているので、多くの生き物の賑わいは帰って来るかもしれない。
 そんな訳であまり出かけなくなった、かつてのメインフィールドへ行ってみた。今日は午後から茅ケ崎公園自然生態園でのボランティア活動があるから、あまり遠くへ出かけられない。しかも、カワトンボの発生時期にあたっているので、新治市民の森へ行くのが最適だと判断したのである。カワトンボは何処にでも生息しているわけではなく、私が良く行く舞岡公園、寺家ふるさと村、小野路町、図師町等には生息していない。このカワトンボの分布の偏りについて研究してみるととても面白そうである。
 新治小学校からトイレや水飲み場がある広場に通じる道を入ると、早くも小川沿いのキショウブの花が咲き始めている。僅かに残った田んぼにはレンゲソウが咲いているが、美しさの盛期は既に過ぎ去ったようである。それに変わってハルジオンが何処を見回してもたくさん咲いている。ほんの少し歩くと、小川にたくさんのカワトンボが現われた。特に雄は身体が緑色の金属光沢に輝き、羽は赤褐色でとても奇麗なトンボである。雌は羽が透明で身体は幾分くすんだ緑色の金属光沢を持っている。しばらく観察や写真撮影を繰り返していると、雌雄の尾つながりが数組現われた。こんな尾つながりを見れば雌雄の差異は明確に分る。
 充分にカワトンボの写真を撮り終えたので、ハンノキ林まで行ってみようと更に進むと、畑にはオオムギの穂が出て風に波を作る様がとても美しく、農道に染み出る水には羽化したてのコチャバネセセリがたくさん吸水していた。もう、フィールドは初夏の賑わいで一杯である。
 午後からは横浜市都筑区茅ケ崎公園自然生態園におけるタケノコ掘りのボランティアである。冬に雑木林へ侵入したモウソウタケを切って片付けたのだが、そのままにしておくとタケノコが出て、また元の木阿弥になってしまうわけである。そこで「災いの目は小さいうちに刈り取れ」とばかりに、地面から顔を出したタケノコをスコップで掘り取ってしまおうと言うわけである。既に1m程に伸びたものもあったが、顔を出したばかりのものもあり、20本以上のタケノコを見つけて掘り取った。しかし、管理している方に言わせると「まだまだ出て来るよ、何たってモウソウタケだって生き延びるのに必至なんだから」と言うことである。いつもそうだが、清き労働の後のお茶はとても美味しく、生態園の今後の生き物の充実を期待して家路に着いた。

<今日観察出来たもの>花/ハルジオン、アマナ、キショウブ、レンゲソウ、カラスノエンドウ、オオムギ。昆虫/カワトンボ(写真左)、シモフリコメツキ、コチャバネセセリ、ツマキチョウ、ルリタテハ、キタテハ、キアゲハ、ミヤマセセリ。その他/アミスギタケ(写真右)。


4月27日、静岡県富士郡芝川町上稲子

 行こうと決めたら行って来ないと気がすまないたちなので、本来は4月10日前後に行くはずだったのだが、天候不順でここまで伸びてしまった芝川町上稲子へ行って来た。家を4時30分に出発したが、途中で食事、洗顔等を済ませたにもかかわらず8時30分に到着した。例年、車を停める稲子川の土手の桜は早くも小さな実をつけている。各所の雑木林の縁に群落をつくるニリンソウは、花をつけているものが見当たらない。多摩丘陵では今が盛りと言うのに、山間地に入っているとは言え、やはり静岡県なのである。また、さすが連休である。稲子川には渓流釣りの方々の姿が見られる。ここはヤマメではなくアマゴになるのだろうか。
 かつてギフチョウがたくさん乱舞していたことのある谷間の栗林に行って見ると、ふわりふわりとウスバシロチョウがたくさん飛んでいる。もうギフチョウの季節は完全に終わって初夏の蝶の季節となったのである。そこから少し渓流をつめるとスギタニルリシジミが見られたのだが、これもいない。また、谷間の栗林に戻って越冬明けのホソミオツネントンボを探したのだけどこれもいない。田んぼに行ってレンゲソウの蜜が大好きなトラフシジミを探したのだが見当たらず、ベニシジミ、キアゲハ、モンキチョウがたくさん飛んでいた。JR稲子駅からここまでの間、複数のギフチョウ保護の立て札が見られるのだからまだ生息しているはずだが、農家の方に聞いてみたらだいぶ少なくなっているとのことである。しかし、来年はギフチョウに会えなくとも、やはり桜の季節に来てみようと思った。
 こうなったら目的のものは諦めて、付近を散策して写真を撮ろうと決めるしかない。民家の庭先の藤が咲き始めていて、ちょうど撮影に手ごろな高さの場所にたくさんのクマバチが来ている。クマバチは身体こそ大きいが、虐めたら分らないが刺すようなことは無く、至って平和な甘党の昆虫である。何故だか知らないがクマバチは初夏には藤の花が大好きで、他の花に目もくれずに集まって来る。もうすこし早い時期だとオオアラセイトウ、秋になるとカクトラノオの花が大好きである。しかし、その吸蜜活動といったらせわしなく、飛んできたと思ったら花弁に止り、頭を花の中に入れて蜜を吸うと、すぐに飛び立ってしまう。しかも、この時期はいつも風が強い。私の昆虫写真ストックにクマバチの良い写真が無いのはこのためである。このような状況だから自然光ならフイルム2本位無駄にするつもりで無いと撮影できない。
 そこでやむを得ずストロボ撮影に切り替える。ストロボの閃光速度は1500分の1位だから、少しぐらいの風や昆虫が動いていても鮮明に止って撮れるのである。はるばる静岡までやって来て、何処でも普通に見られるクマバチと格闘するとは思わなかったが、撮れる時に撮れるものを徹底的に撮っておくというのが、自然相手、昆虫相手の撮影の秘訣なのである。 

<今日観察出来たもの>昆虫/ウスバシロチョウ(写真左)、ベニシジミ、ヤマトシジミ、キアゲハ、モンキチョウ、スジグロシロチョウ、モンシロチョウ、イタドリハムシ、カワトンボ、シオヤトンボ、クマバチ(写真右)。


4月26日、多摩丘陵

 多摩丘陵等と漠然とした名称で観察地名をお知らせしないのは、それなりの訳があるのである。なぜなら全国的に希少種となっているクマガイソウの群落がある場所の地主さんが、たとえNHKだろうと朝日新聞だろうと報道されるのを断わっているのである。少数の知っている花好きの方が、毎年見に来てくれればそれで良いと言う訳である。報道されてたくさんの方が見えても騒がしいだけで、ことによったら盗掘などという悲しむべき事態の発生も予想されるからだ。
 今日は朝から風も無く、しかも薄曇の絶好の花の撮影日和である。特にクマガイソウは独特な袋のような花と扇を二つ合わせたような葉が、風にとても弱いのである。少しでも風があると揺れてしまうし、もちろん「ここより近づいてはだめですよ」という竹の柵があるから、200mm前後の望遠レンズで撮影する。このため被写体の揺れは写真の鮮鋭度を非常に損なうのである。
 今日はお昼にクマガイソウの花の咲き具合を見て報告してくれたMさんが、お昼に差し入れをしてくれると言うので、少しはお洒落して出かけようと思ったのだが、いつもの灰色のトレパンと長靴姿である。さすが植物園へはこの格好で出かけることはなくなったが、長期撮影旅行のために買いだめしてあるので、少なくとも後2年はこの姿が続くようである。
 ちょうど12時になるまで撮影してMさんとお友達が現われてから、付近の平坦な場所にシートを敷いて、差し入れの何と美味しい「お寿司」を食べながら、山の話、花の話等をたくさんして「ホタルが飛ぶ頃に、また会いましょう」と言って分かれた。まこと人生で持つべきものは良き友である等と感謝しながら、その後、花の撮影会に来ている方々が撮影し終わったので、ニリンソウ、イチリンソウを撮影して早上がりしたが、一日中風も無く薄曇で花の撮影には絶好の日和であった。

<今日観察出来たもの>花/クマガイソウ(写真上)、イチリンソウ、ニリンソウ、ウワズミザクラ、リンゴ、スミレ、カントウタンポポ、ムラサキサギゴケ、ミツバツチグリ、ヘビイチゴ、レンゲソウ、カラスノエンドウ、ケキツネノボタン。


4月22日、東京都町田市小野路町・図師町

 今日起きてみると眩しい程に空が青く、太陽の光が強い。おまけに風が強く、撮影に行く元気がくじけてしまう。本当なら川崎市多摩区黒川に行ってリンゴの花を撮りたかったのだが、この風の強さでは断念せざるを得ない。今年から撮影のための時間がたくさんあると思っていたのだが、濃いピンクのカリンの花も今年は撮れそうもないし、今、盛りのハナミズキやツツジの花も今年は撮る時間がなさそうである。しかし、何とかして花弁の縁がほんのりとピンクに染まったリンゴだけは撮っておきたいと思ったのである。
 兎に角、車を多摩丘陵の方に進めるが一向に風が止む気配が無い。そこでアミガサタケの仲間が今が盛りと聞いていたし、昨日、写真の講師の仕事で舞岡公園へ行ったら、楕円形の見事なアミガサタケの仲間を3つも見つけたので、私のメインフィールドである小野路町にもあるのではないかと思い、今日の撮影目的は急遽、キノコとなった。キノコは少しぐらいの風には揺れないし、薄暗い所に生えているものの、ベルビアを使って絞りを絞って、電子レリーズで超スローシャッターを切れば何とかなるのである。キノコを専門に撮影している方には怒られてしまうかもしれないが、絵になるように生えていればこっちのもんなのである。
 車をいつもの所に停めて辺りを見回すと、なんとなんとアミガサタケの仲間が、3本も生えてるではないか。一本はとても新鮮であったために本当にラッキーである。すぐに撮影して「これはさい先が良いと」同じような環境をたくさん回ったのだが、アミガサタケの仲間は生えていない。黄色い面白いキノコ等数種類見つけたのだが、撮影意欲を沸き立たせるまでにはいかない。私はキノコ専門ではないのだから、絵になって面白い形で無いとシャッターを切らないのである。
 そんなこんなして、奇麗になった白山谷戸に降りて行くと、ヤブカンゾウの葉に大好きなシモフリコメツキが日向ぼっこをしている。風が強くなかなか葉の揺れが止らないが、根性でじっと我慢して撮影した。今日はこんな天気のためか、各谷戸に来ている方々がとても少ない。最後にイチリンソウを撮影して、もう一度地面に這いつくばって、朝見つけたアミガサタケの仲間を撮影していると、通りがかったご婦人が不思議に思って、足を止めて聞いて来た。「キノコを撮ってるんです」と言って見せたら、「そのキノコ、野津田公園に15本くらい群生していましたよ」と言うので、昼寝返上で行って見たが見つからなかった。

<今日観察出来たもの>花/イチリンソウ、ニリンソウ、ウワズミザクラ、スミレ、カントウタンポポ、ムラサキサギゴケ、ミツバツチグリ、ヘビイチゴ、レンゲソウ、カラスノエンドウ。昆虫/シモフリコメツキ(写真左)、ビロードツリアブ、ツマキチョウ、スジグロシロチョウ、ベニシジミ、ルリシジミ、トラフシジミ、ルリタテハ、キタテハ、テングチョウ、キアゲハ、ミヤマセセリ。その他/モウソウタケの竹の子、アミガサタケの仲間(写真右)、アメリカハナミズキ。


4月19日、神奈川県愛川町八菅山(はすげさん)

 「あーあ、やんなっちゃうな」とため息が出ますね。このところ、土日のどちらか一方が雨になる。やっとシーズン開幕、今年最初の泊りがけの自然観察を始めようと意気込んでいたのだけれど、こんな天候では行けません。このHPの花のNewAlbumは順調に写真の数を増していますが、虫のNewAlbumはまだ寂しい限りである。そこでかつてギフチョウを撮影に毎年行った静岡県芝川町稲子という、山間の村に行って、ギフチョウは無理でも、ホソミオツネントンボ、スギタニルリシジミ、トラフシジミ、各種の越冬タテハチョウ、ハンミョウ、ニワハンミョウ等を沢山写して来て、賑やかにしようと思っていたのである。それに山をバックにしたイチリンソウやニリンソウ、スミレやスモモ等も撮りたいし。そんな訳で泊りがけの遠征は今週も諦めることになってしまって、来週のゴールデンウィーク前半にまでづれ込んでしまった。もうウスバシロチョウの季節になってしまいますよね。
 そこで今日は神奈川県愛川町八菅山へ行って来た。八菅山は明治になるまで天台宗の修験道場で、山伏だけが住む里であった。また、芭蕉も安政7年(1860年)に訪れて句碑がある。ここは相模川の支流である中津川が流れていて、カシやシイ等の照葉樹林もあって、珍しい動植物が見られることでも有名である。とは言っても、私はきつい階段を上がって山へ登ることはほとんど無く、いつも山麓で自然観察及び写真撮影を楽しんでいる。八菅橋の袂にトイレと駐車場があって、ここから下流域は厚木市になり、田んぼや畑があって、各種の野の花や地元の方々が植えられた花壇の花がある。まず最初にシャッターを切ったのはカラタチの純白な花である。あれこれ構図を考えながら隣にある梅の木を見ると、早くも小さな実をつけているではないか。これもいただきとシャツターを切った。
 今日の目的はトラフシジミとツマキチョウ、田んぼのレンゲの花をしらみつぶしに探したがトラフシジミはいない。ツマキチョウは普通にいるのだが生憎の風の強さでとまることすらないのである。15年も蝶の写真を撮り続けているが、ツマキチョウの撮影は特に難しい。とにかくこの時期は風が強い日が多いのである。ここからもっと下流に行くと、中津川の河川敷に町民のためのスポーツ広場があって、秋のトノサマバッタの観察には最高である。
 一旦車に戻って喉を潤すと今度は上流へ、ここは休耕田を交えた田んぼが広がり、時期になるとハグロトンボが見られ、秋になると真っ赤に色づいたコノシメトンボが沢山いる。また、土手から河川敷のアシ原に降りる道がついていて、今日は風が強くて断念したが、もうじきギンイチモンジセセリやミヤマチャバネセセリが沢山見られることだろう。昼食を済ませると、中腹にある八菅山の鐘楼や宝物館のある駐車場に車を移し、林道を少し歩いて池や広場がある所まで行った。ここには沢山のハンミョウが見られ、追いかけごっこをしながら何とか数枚写真を撮らせてもらった。

<今日観察出来たもの>花/カラタチ(写真左)、ウメの実(写真右)、ヤマブキ、ニワトコ、ハナズオウ、イカリソウ、シバザクラ、パンジー、ニリンソウ、ムラサキサギゴケ、ミツバツチグリ、ヘビイチゴ、レンゲソウ、カラスノエンドウ。昆虫/ハンミョウ、クマバチ、ビロードツリアブ、ツマキチョウ、スジグロシロチョウ、ベニシジミ、ルリシジミ。


4月17日、町田市小野路町・図師町

 今日も13日と変わらず町田市小野路町・図師町へ行って来た。今日は抜けるような晴天で、気温も高く自然観察には絶好の日和である。それに、いつも車を停める場所からすぐ近くの自動車修理工場で、車を直してもらわなければならないので、他の場所へ行けなかったのである。今日のような日には青空へ抜いた花や若葉や梢や風景、それに田んぼの水面反射による玉ボケをたくさん入れた野の花の写真、午後になると日陰になるニリンソウの群落の写真と割り切って来たのだから、今日のコースは寝ぼけていても迷わぬ道となった。
 まずは朝早くの柔らかい日差しのもとで、春の田んぼの野の花の女王であるレンゲソウを、望遠レンズを使って春の空気の臭いを広い空間にたくさん込めて撮影した。ほんとうに柔らかく暖かく爽やかな空気である。次に、カントウタンポポが花の盛期を迎えているので、広角レンズによる花風景的な写真を数枚撮った。もちろん背景には若葉が目に染みる多摩丘陵の丘である。その後、切り株の周りでピンクの絨毯を作っているホトケノザを、やはり陽炎こそ立っていないものの、それに近い空気感を込めて撮影した。そんなこんなしていたら、万松寺谷戸でだいぶ時間を喰ってしまった。
 いつもの通り栗林から竹林へ登って行き、小野路城址周辺で雑木林の若葉や梢を撮影して、先日咲き残っていたクサボケはどうなっただろうか? アマドコロは咲いただろうか?等と思いながら美しい雑木林に差し掛かったのだが、クサボケは散り、アマドコロは小さな蕾を付けていた。五反田谷戸に降りて田んぼの水面反射による玉ボケを配した野の花を撮っていると、このあたり一帯で野の花を撮影しているとても仲の良い顔見知りのご夫婦に出会った。なにやら真剣に花を見ているので行ってみると、ヤブヘビイチゴであるという。このあたりにはヘビイチゴ、オヘビイチゴがあるのは知っていたのだが、私の持っている図鑑にはヤブヘビイチゴは載っていなかったので、ご夫婦の図鑑を見せてもらって納得する。
 「今日はニリンソウですか」と尋ねると、すでに川崎市黒川のイチリンソウを撮ってからやって来たのだという。イチリンソウはこの小野路町と隣の小山田緑地以外に知らなかったが、黒川にもあったのである。そのご夫婦によれば、黒川のイチリンソウの場所には東京で大きな写真展を2回も開き、写真集を2冊も出している花撮影専門のTさんもやって来ていたとのことである。私なんか昆虫撮影のついでに花の写真を撮っているわけであるが、T氏やご夫婦は、本当にこの辺りの野の花の咲く場所を知っているなと感心させられる。去年の晩秋、リンドウがたくさん咲いている場所を教えてもらったのも、実はこのご夫婦だったのである。最後にニリンソウの群落のある北側斜面の山すそに下ってみると、黒川同様にイチリンソウが咲き始めていた。

<今日観察出来たもの>花/イチリンソウ、ニリンソウ、ムラサキサギゴケ、ミツバツチグリ、ヘビイチゴ、レンゲソウ、ケキツネノボタン、タガラシ、カラスノエンドウ、フデリンドウ、カントウタンポポ(写真左)、ギシギシ(写真右)。昆虫/シオヤトンボ、ミヤマセセリ、ルリタテハ、ツマキチョウ、モンキチョウ、ビロードツリアブ、コガタルリハムシ。


4月13日、町田市小野路町・図師町

 私が知っているフィールドで、とても静かで心休まるとっておきの場所が町田市小野路町・図師町の雑木林や谷戸である。時には週に3回も行ってしまうことすらある。また、周辺の川崎市黒川、野津田公園、薬師池公園、小山田緑地、ちょっと離れるが相模原公園等へ行っても、午後には必ずこのフィールドへやって来る。火曜日に来るバイクのおばちゃんもそんなことを言っていたっけ。何処へ行こうかと迷ったら、兎に角この周辺に車を向ければ、野の花でも木の花でも花壇の花やキノコでも、各種の風景でも、蝶やトンボやその他の昆虫でも、野鳥等でも何とかなるのである。そこで私に会いたいと思ったら、一週間の内、雨の日を除いた日の午後に毎日やって来れば、スバルサンバー・クラッシックという黄緑色の変梃りんな軽のワンボックスカーが止っているはずだから、出会うこと間違い無しである。
 今日は昨日が雨であったし、五反田谷戸の山桜が満開であることもあって、沢山の方々がやって来ているはずである。それに新緑や芽吹き、若葉を撮影するのに好適な風のない静かな日である。まず、最初に出会ったのが、今春、山と渓谷社から「里山生きもの博物誌」という本を出されたSさんである。町田市に在住していて野鳥や昆虫はもちろんのこと、ムササビやノウサギ、カヤネズミ等の哺乳類まで撮影している方である。次に出会ったのが寺家ふるさと村をフィールドとしているMさんである。五反田谷戸の山桜を撮りに来たのだという。メールでアナグマに会いましたよと教えてくれたU氏の車が止めてあったので、出会うだろうと思っていたら、案の定、山桜を撮影していて話が弾んだ。文一総合出版から、このフィールドを撮影舞台とした「谷戸の四季」という本を出しておられる。 お昼になったので神明谷戸で菓子パンをぱくついていると、寺家ふるさと村が観光地化したのを嫌って、ここをメインのフィールドに変えた蝶の写真を撮ってらっしゃるKさんもやって来た。小山田緑地で嫌になる程にコツバメを撮影してからやって来たのだという。
 今日の観察で注目すべきものは、シオヤトンボが羽化したことと、ニリンソウが咲き出したことだろう。後一週間もすれば、イチリンソウやアマドコロ等も咲き、ますます多彩な蝶や昆虫たちが現われることだろう。そんな訳で、たくさんの方々に出会って情報交換を交わして、たくさんの被写体に巡り会えて、とても充実した一日であった。

<今日観察出来たもの>花/ムラサキサギゴケ、ミツバツチグリ、ヘビイチゴ、レンゲソウ、ケキツネノボタン、タガラシ、カラスノエンドウ、ニリンソウ、フデリンドウ、クサボケ。昆虫/ミヤマセセリ、ルリタテハ、ツマキチョウ、キアゲハ、ビロードツリアブ、シオヤトンボ、コガタルリハムシ。その他/雑木林の芽吹き(写真左)、タマノカンアオイの若葉(写真右)。


4月12日、横浜市港北区新吉田町倉部谷戸

 今日は天気予報では雨、そう思って日頃の寝不足を解消しようと、午前8時に起きて雨戸を開けると外は明るい。狐に化かされたような気がして食事を済ませると自宅から一番近いフィールド、新吉田町倉部谷戸へ出かけた。谷戸等と書くと相当の自然が残っているように感じるかもしれないが、第三京浜国道の都筑インターチェンジが出来て、その自然は壊滅的な打撃を受けてしまった。ここがかつてのように自然が残っていれば、遠くへ行かなくとも済むので大助かりなのだが仕方が無い。かつては国蝶オオムラサキだっていたし、私がここを調査した平成元年頃は、ゴマダラチョウやウラゴマダラシジミが多産していたのである。ちなみに平成元年から平成3年までの間に、40種類の蝶を確認している。幻の蝶となったツマグロキチョウだって、1989年10月10日に一頭見ているのである。昔を知っている故大野道胤氏によると、何と何とカタクリの群落さえもあったのだという。
 しかし、田んぼは埋め立てられてしまい雑木林も少なくなったとは言え、一回りしてくるとそれなりの自然観察は出来るし、それなりの写真だって撮れるのである。今日は生憎の風の強い日で思った程の撮影は出来なかったが、浜ナシとして有名なナシ園のナシの花が満開で、農家の生垣のツツジが早くも花を付け、庭先にあるシバザクラが真っ赤に燃え、紫のムスカリや純白のハナニラが色を添えていた。あちこちにある空き地にはオオアラセイトウの群落が広がり、植溜めではハナズオウ、ドウダンツツジ、カイドウ、ツバキ等が咲き乱れている。 知り合いが耕す日曜菜園ではブロッコリーやダイコンの花が咲き、サヤエンドウの赤紫の花もようやく開いた。畑の路肩にたくさんのタンポポがあり、ベニシジミやヤブキリの幼虫が食事に熱中しているのだが、風が強くて撮影を諦めた。ここのタンポポはみんなセイヨウタンポポである。また、ツマキチョウやモンシロチョウもいたのだが、風に乗ってすぐに何処かへ行ってしまった。
 雑木林の小道に入るとタチツボスミレ、スミレ、ヤマブキ、クサイチゴ、シャガが咲き、何とニリンソウが咲いている所まであるのである。大きな農家の門前の池に差し掛かると、今日もカワセミを狙ってカメラを構えている方がいる。しばらくカワセミを見ていると、池に飛び込んでクチボソらしき魚を咥えて木に戻り、頭を振って魚を飲み込んでいた。ヌルデの古木のある所に来ると、なにやらコンクリートの土留めの上で動いているものがある。何と大きなゾウムシではないか。初めオオゾウムシと思ったのだが、あの奇怪なマダラアシゾウムシ君が早々とお出ましになったのである。マダラアシゾウムシが多産する舞岡公園にそろそろお邪魔しなくてはならなくなった。

<今日観察出来たもの>花/タチツボスミレ、スミレ、ニリンソウ(写真右)、ヤマブキ、クサイチゴ、シャガ、オオアラセイトウ、セイヨウタンポポ、トウダイグサ。野菜の花/ダイコン、ブロッコリー、サヤエンドウ。花木・花壇の花/ナシ(写真左)、ハナズオウ、ドウダンツツジ、カイドウ、ツバキ、シバザクラ、ハナニラ、ムスカリ、ビオラ。昆虫/ツマキチョウ、モンシロチョウ、ルリシジミ、ベニシジミ、マダラアシゾウムシ、ヤブキリの幼虫。鳥/カワセミ。


4月10日、神奈川県藤野町石砂山

 実は一週間前の4月3日にも石砂山に行ったのだが、午後から薄日が差すのみといった天候でギフチョウは現れず、一週間後の再挑戦となった。石砂山のギフチョウ観察は、やはり東京のサクラが散り始めた頃からがベストのようである。先週は牧馬峠(まきめとうげ)下にある民家のサクラも咲いていなかったが、今日は満開である。少々風が強いが気温は低く、このような日はギフチョウの数こそ少な目だが、身体を温めるために羽を開いて日光浴を良くするから、写真撮影には好適なのである。逆に初夏を感じさせるような気温が高い日は、ギフチョウは仲間と遊んだりしていてなかなか止らず、止ったとしてもすぐに飛び立ってしまうのである。
 牧馬峠から少し入るとヒトリシズカが咲き出している。タチツボスミレ、テンナンショウ、シュンランの花も好期で、ヤブレガサが開きオケラの芽も伸び、センボンヤリが可愛い花をつけているのも見られた。先週はダンコウバイの花が見頃だったが、今日はやや色あせた感じで、変わってモミジイチゴの純白な花が咲き出している。石砂山の登山道を左に折れ、炭焼き小屋跡地を通るとギフチョウ撮影の方が一人おられた。ここはタチツボスミレがたくさん咲いていて、花を訪れるギフチョウを撮るには好適な場所である。しかし、まだギフチョウは現れないという。時計を見ると9時40分だから「これからですよ」と言って通り過ぎる。地元の人が名付けた「ギフチョウ銀座」と呼ばれる尾根に着くと、中年の男女が2人カメラを構えている。ギフチョウはちらりほらりと現れていると言う。「もう、ギフチョウは産卵してますよ」とご婦人が言うので、案内して貰うと、ようやく伸び始めたカントウカンアオイの若葉の裏に緑がかった産卵したての卵塊があり、春の陽に照らされて眩しく光っていた。
 午後10時を回るとたくさんのギフチョウがやって来て、日光浴をしたりタチツボスミレに吸蜜したりして、数枚カメラに納めた後、携帯電話の通じる石砂山山頂を目指して後にした。今日は平日、もしものお客様からの電話がかかって来るかもしれないからである。心臓が飛び出る程の荒れた山道を登って頂上に立つと、やはり山頂の爽快感は格別である。去年に比べてギフチョウの数は少ないものの、とっても新鮮で日光浴が大好きな個体を見つけてカメラに納める。蝶の写真を撮影する場合、新鮮で気の良い(良く止り、おっとりしている)個体を探して撮影すると効率的である。頂上には越冬明けのヒオドヒチョウが多数見られ、レンズから20cm位近づいても逃げないから、虫のNewAlbumに紹介しているような広角接写も可能である。このヒオドヒチョウを見に来るだけでも山頂は価値があるのだが、ミヤマセセリが各所で舞い、キアゲハの春型の雄がテリトリーを張って羽を一杯に開いているという幸運にも恵まれた。また、ルリタテハも少ないものの倒木に止ってテリトリーを張っていた。
 昼食の時間になるとたくさんの方がやって来た。ナチュラリストのAさんとその同行の自然大好きな女性、ご亭主が蝶大好きな熟年のご夫婦、中野から来たと言う野鳥が大好きなご婦人等。先週は北の丸公園にある科学技術館で自然観察会を指導するM氏と同行の2名のご婦人に会ったから、ギフチョウが舞う石砂山の山頂は、自然好き、蝶好き、昆虫好きが集まる場と化すのだからたまらない。一週間も通い詰めれば、首都圏の大方の自然好きに会えるといっても過言ではなかろう。足腰立つうちは、毎年、石砂山へ通わなければならない。先週のMさんも今日の方々も私も、ギフチョウが軽やかに舞うのを見て、その年の蝶の自然観察が始ったなぁと感ずる。ギフチョウは絶好の自然観察シーズン開幕を告げる春の女神なのである。

<今日観察出来たもの>蝶/ギフチョウ(写真左)、ギフチョウの卵(写真右)、ミヤマセセリ、ヒオドシチョウ、ルリタテハ、キアゲハ。花/タチツボスミレ、ノジスミレ、テンナンショウ、シュンラン、ヒトリシズカ、センボンヤリ、クサボケ、ダンコウバイ、モミジイチゴ。


4月9日、川崎市黒川〜町田市小野路町

 二日前の天気予報では今日は曇りのはずだった。そこで相模原公園へ行って、サクラやビオラ、プリムラ等の園芸品種の花を撮影しようと思っていたのだが、昨夜の天気予報では晴れで少し風があるという。これからの季節、水面反射の玉ボケを入れたり青空に抜いたりしない限り、花の撮影は曇り日の方がしっとりとした良い写真が撮れる。そこで、定期的な観察コースの一つと決めている川崎市黒川〜町田市小野路町へ出かけることにした。掃き清められた黒川の雑木林が気になっていたのである。きっと木々の芽吹きが始って、林床には様々なスプリング・エフェメラル(春植物)が咲いているに違いない。案の定、シュンランやクサボケは花期を過ぎたが、タチツボスミレ、ノジスミレ、ニオイタチツボスミレが咲き、早々とジュウニヒトエが咲き出し、アマドコロが伸び始めて、後10日もすれば咲くに違いない。
 春の奇麗に山掃除された雑木林は最高である。ヘビや蚊や蜂はいないし、春の暖かい陽光が眩しい程に入り、樹木の陰が林床で交差し、ミヤマセセリ、キチョウ、ビロードツリアブがやって来る。自動車の騒音は勿論無く、静まり返っているはずなのだが、明るく軽やかな調べが流れて実に楽しい。時折、雑木林の梢を風が舐めて、風と梢のささやきがかすかに聞こえるのだが、楽しい調べが変調を来たすことはない。しばらく行っていないが三浦半島の磯場で、潮騒と磯の香りに包まれた春の一日と通じ合うものがある。イラク戦争が行われているというのに「雑木林で安穏とした幸せを満喫するなんて」等という考えなども、瞬時たりとも入り込んでこない。春のフィールドは海も雑木林も最高である。
 こんな平和で楽しい雑木林に一日中いたいものだが、貧乏性の性格も手伝って谷戸に降りて行くと、川崎市の公害局のお役人が、小川の水質調査ならびに生物を調べにやって来ていた。ホトケドジョウやカワニナがたくさんいて、このHPを見ていただいているMさんから聞いて知っていたが、ゲンジボタル、ヘイケボタルが時期になると見られ、また、カワトンボ、ハイイロゲンゴロウ、タイコウチ、イモリも生息している。昼飯は定番の黒川の谷戸の入り口にある、蕎麦所「駕籠屋」さんでざるソバを食べる。冬はカレー南蛮や肉南蛮、けんちんウドンだったが、これからはざるソバオンリーで安上がりでとても助かる。
 昼飯を食べると小野路町へ車を向ける。例によって万松寺谷戸からの定期観察コースに入ると、セリ摘みの方がたくさん来ていた。私が写真を撮っていると昆虫が大好きなご婦人が現れ、毎度の事で、ジャコウアゲハの蛹とヤママユの卵を見せ、先だってゴマダラチョウの幼虫がエノキの木を登って行ったから、ゴマダラチョウやオオムラサキの幼虫はご覧にいれることは出来なかった。ミヤマセセリを狙って雑木林をうろちょろしていると、Tさんの家族が五反田谷戸から登って来た。山桜が満開であるという。今年は例年よりだいぶ早いようだ。

<今日観察出来たもの>花/タチツボスミレ、ノジスミレ、ニオイタチツボスミレ(写真右)、ジュウニヒトエ、キランソウ、コブシ、ムラサキハナナ、タネツケバナ、コオニタビラコ、キジムシロ、カントウタンポポ、コマツナの花、レンゲ、ムラサキサギゴケ、ヘビイチゴ、ケキツネノボタン、カキドオシ、アオキ、モミジイチゴ、ヤマザクラ。昆虫/ツマキチョウ、モンシロチョウ、モンキチョウ、アカタテハ、ミヤマセセリ、ルリシジミ、ベニシジミ、コガタルリハムシ、ビロードツリアブ。その他/山掃除された雑木林(写真左)。


4月6日、町田市小山田緑地

 昨日は雨、その後の今日は移動性の低気圧が三陸沖で発達して風が強くなるはずである。花の撮影には最悪の天候となるだろう。今年も桜やコブシをじっくり撮影できなかったなと思いながら、車を小山田緑地に向かって走らせる。町田市にある都立小山田緑地は、トイレや水道もあり、整備されているとはいえ、かなりの動植物が見られる自然観察には好適なフィールドである。一口に小山田緑地と言っても、本園、アサザ池のある梅木窪分園、トンボ池のある大久保分園、小田急多摩線唐木田駅に近い山中分園と分散していて、すべてを歩くとかなりの距離になる。しかも、小山田の谷に隣接する東口駐車場から小野路城址に通ずる谷戸も見逃せないポイントで、一日を費やしても回りきれない広さである。
 駐車場が開く9時15分に現地に到着する。心配していた風は余り強くない。春に一回だけ現れるコツバメを探して小山田の谷を上って行くと、顔なじみの警備の若者に出会う、彼も昆虫や野鳥が大好きで、正確な情報を教えてくれるので有り難い。彼の話によると、小山田緑地のコツバメは植栽されているツツジに産卵していたという。コツバメの幼虫はツツジ等の花や蕾を食べて成長するのである。去年と同じヤブカンゾウの生えている所に来ると、陽気に飛び跳ねるコツバメに出会えた。しかし、風が強くないとは言え、なかなか揺れが止らないヤブカンゾウの葉にテリトリーを張るコツバメを撮影するのは大変である。今日はトレビ100Cを詰めているので、シャッター速度は絞りf4で500分の1と速いが、被写体の揺れが止ってくれた方が鮮明な写真になるのに決まっている。かすかな揺れなら250分1以上のシャッター速度で撮れば、2LLサイズ位に伸ばすのならば問題ないのだが、大伸ばしすると鮮明さに欠け、完全に被写体が止った時に写したものの方が良いに決まっている。私のような時たまお金を頂いて、本に写真を使ってもらうことのある人間にとって、妥協はクライアントと、その本を買って見る読者に対する裏切りとなるわけである。そんな訳で三脚を構えて不動の姿勢でじっと待ち、何とかコツバメをカメラの中に納めることが出来た。
 コツバメを狙っていると、瑠璃色のルリシジミ、食草を探すアカタテハ、テングチョウ、ミヤマセセリが現れ、早くも1頭、雄のツマキチョウもやって来て、タチツボスミレに吸蜜していた。小山田緑地は、コツバメの他に季節になれば、国蝶オオムラサキ、ジャノメチョウ等が本園で見られ、梅木窪分園や大久保分園で各種のトンボが見られるから、一度は訪れて欲しいフィールドである。交通は町田駅からと多摩センター駅からバスとなり、前述した唐木田駅からは徒歩で入れる。詳しくは042(797)8968の小山田緑地管理事務所まで。

<今日観察出来たもの>昆虫/コツバメ(写真右)、ツマキチョウ、アカタテハ、テングチョウ(写真左)、ミヤマセセリ、ルリシジミ、、ビロードツリアブ。花/シュンラン、クサボケ、タチツボスミレ、コブシ、カントウタンポポ、ヘビイチゴ、ケキツネノボタン、カキドオシ。鳥/カケス、カワセミ。


4月1日、町田市小野路町、図師町

 桜も五分咲き以上となり、待ちに待った春がやって来た。しかし、天候は安定せず曇りや雨の日も多い。ヤフーの天気予報を何回も見ながら撮影の日取りを考える毎日である。今日は晴れと言うことで、私のメインフィールドである町田市の小野路町、図師町へ行って来た。これからは朝早く起きてフィールドへ出向くことの多いシーズンとなり、8時30分に現地に到着した。まさかこんなに早くセリ摘みの方が見えているとは思っていなかったのだが、万松寺谷戸には子供連れのご婦人がやって来ていた。もう、かなり前からたくさんの方々がセリを摘んでいるので、絶えてしまうのではないかと思われるが、さすがに広大フィールドである、摘んでも摘んでも湧くように生えてくる。草原にはホトケノザの薄紅色の絨毯が引かれ、斜面にはカントウタンポポが咲き、谷戸奥にあるコブシが満開となり、雑木林の芽も膨らみ始めて騒がしくなった。
 一昨日、黒川でクサボケ、寺家町でシュンランを観察しているので、まずはのお目当てはこの二種である。シュンランはピーカンの日では陰影が強くなって写真にならないし、花が下を向いているものが多く、水平にこちらを向いているものが少ない。しかも、地面すれすれに咲いているだから撮影が大変難しい花である。雑木林の小道を少し入るとかなりのシュンランを見ることが出来たが、あり難い事に絵になるものが一つ見つかって、おまけに、撮影しようとした時に太陽が雲に隠れて、ほど良い陰影をもった写真を撮ることが出来た。
 ルリタテハや各種の越冬明けのタテハチョウとイボタガ、ミヤマセセリ、コツバメを探して神明谷戸に降りて行くと、溜池にたくさんのヒキガエルの卵が産み付けられていた。いつもならもっと早い時期に見られるのだが、今年はずいぶん遅いようである。目的の中でイボタガとコツバメは見られなかったが、各種のタテハチョウとミヤマセセリが飛び、春にだけ現れるずんぐりむっくりの縫いぐるみのようなビロードツリアブが、タチツボスミレの蜜を求めてたくさん飛び回っていた。早くもレンゲ、ムラサキサギゴケ、ヘビイチゴ、ケキツネノボタン、カキドオシの花が咲き始め、もう少ししたらたくさんの野の花が撮影できるだろう。
 五反田谷戸にも同目的で行ってみると、早くも耕運機の音が聞こえて田越しが始っていた。先だって農家の人に聞いてみたのだが、谷戸田の稲の収穫は平地の半分くらいなのだが、水と土壌の良さで、その美味しさといったらたまらないと言っていた。美味しいから作るという単純で素晴らしい答えに大納得した次第である。良い写真が撮れると嬉しいから、15年間も身近なフィールドへ出向いているという私の謎が解けたようである。こんな方々が健在であるうちは、この地域の谷戸田はしばらくは残るであろう。

<今日観察出来たもの>花/シュンラン(写真右)、クサボケ、タチツボスミレ、コブシ、ツクシ、ムラサキハナナ、ホトケノザ(写真左)、オオイヌノフグリ、ヒメオドリコソウ、ナズナ、タネツケバナ、キジムシロ、カントウタンポポ、コマツナの花、レンゲ、ムラサキサギゴケ、ヘビイチゴ、ケキツネノボタン、カキドオシ、アオキ。昆虫/モンシロチョウ、モンキチョウ、キタテハ、ルリタテハ、ヒオドシチョウ、アカタテハ、ミヤマセセリ、ルリシジミ、ベニシジミ、コガタルリハムシ、ビロードツリアブ。キノコ/ヒトクチタケ、ウチワタケ。


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