2003年:つれづれ観察記
(5月)


5月29日、神奈川県秦野市弘法山

 多摩丘陵でぼちぼちだがアカシジミが発生しているし、イボタの花も咲き出しているので、平地産のゼフィルスのウラゴマダラシジミとアカシジミにお目にかかって、5月の観察記の幕を閉じようと弘法山へ出かけた。しかし、クリの花の蕾はまだ固く、ゼフィルスにはお目にかかれなかった。今年は例年に比べて、長いはしり梅雨のような天気も続いたためか、発生が遅れているようである。秦野市弘法山は、かつてはミドリシジミを除いた平地産ゼフィルスが多産していた所で、特に青緑色にピカピカ光る羽を持つオオミドリシジミは多産していて、雑木林の小道の空けた場所で雄同士がもつれ合って飛ぶ「卍飛行」が各所で見られた。しかし、里山管理が徹底したためか、あるいは市民のお花見の為に一部の雑木林を伐採して桜の木を植樹したからだろうか、あるいは他の要因なのかオオミドリシジミは特に激減し、もちろんアカシジミ、ウラナミアカシジミ、ウラゴマダラシジミもだいぶ減っている。健在なのはミズイロオナガシジミだけという状況となった。
 いつも各種のゼフィルスが見られる雑木林の開けた場所に行くと、褐色の奇妙な植物が何本もコナラの切り株から立ち上がっている。これはオニノヤガラという寄生植物で、自分では葉緑素を持たずにきのこのナラタケと共生していて、その菌糸を通して養分を取り入れていると言われる植物である。普通、腐食した落葉のある日陰の所に生えているものと思っていたが、陽がかんかんとあたる場所に生えていたのでびっくりした。一番期待していた場所でゼフィルスに会えなかったが、オニノヤガラという奇妙な植物をばっちり撮影して、まあいいかなと、今度はやや黄色がかった緑色に光るマスダクロホシタマムシを見つけようと、ヒノキが切り出してある場所に行って見たが、これも発生していなかった。
 弘法山はなぜかカラムシが群落をつくっている場所が多く、美麗なラミーカミキリがたくさんいるのだが、これも僅かばかりの発生で、カノコガ、トンボエダシャク等の蛾をはじめ、なんだか梅雨時の昆虫はこれからと言った状況であるようだ。いつもなら散っているはずのミカンの白い花も残り、ビワも黄色く色づいているのだがまだ青い。やはり気象庁が本格的な梅雨入り宣言を出してクリの花が咲き出さないと、ゼフィルスをはじめとした各種の昆虫の発生には至らないようである。花ではナワシロイチゴが咲き出しているものの、シモツケ、ホタルブクロ等はまだまだ先のようである。

<今日観察出来たもの>花/スイカズラ、ノイバラ、クサノオウ、ミカン、オニノヤガラ(写真左)、タツナミソウ、オカタツナミソウ、フタリシズカ、イモカタバミ、ノアザミ等。蝶/モンキアゲハ、アオスジアゲハ、ジャコウアゲハ、アゲハ、イチモンジチョウ、コミスジ、コジャノメ、クロヒカゲ、ヒカゲチョウ、サトキマダラヒカゲ、ダイミョウセセリ。昆虫/オオヒラタシデムシ、クロハナムグリ、ヒシモンナガタマムシ、キスジトラカミキリ、ゴマフカミキリ、カオジロヒゲナガゾウムシ、トビサルハムシ、サビキコリ、ベニカミキリ、ジョウカイボン、オオイシアブ、マガリケムシヒキ、オオメナガカメムシ(写真右)、マドガ、キスジホソマダラ、ヤマトシリアゲ等。

5月25日、山梨県北巨摩郡明野村 


 昨日は何と日没間近の午後の6時まで夢中になって昆虫を撮影し、大月の銭湯に入って、中央高速の双葉サービスエリアに車中泊となった。参考のために大月の銭湯は、甲府に向かって右側のダイエーの小道を入って、すぐの小道を左に入った所にある。月曜日定休でなんと入浴料金は350円とお安い。車は東京から大月の商店街に入るとすぐ左にあるNTTの公衆電話横に止めることをお勧めする。この銭湯は扇山や権現山などへハイキングに出かけた方も利用すると良いだろう。大月の駅からも近い。
 今日はキバネツノトンボ一本の観察及び撮影である。ずっとこの時期になると栃木県藤原町中三依へキバネツノトンボの撮影も兼ねて出かけていたのだが、ヒメシジミ、ギンイチモンジセセリ、ミスジチョウ、ハルゼミ、エゾハルゼミ、各種カミキリムシ、ゾウムシ等は出会えるのだが、キバネツノトンボは毎年空振りが続いていた。そこで甲州昆虫同好会「すばらしき山梨の虫たち」山梨新聞社刊を見て、明野村に行ってみることにした。私の知っている昆虫写真家のT氏は小淵沢に行くし、Y氏は日野春へ行くから、このあたりはキバネツノトンボがたくさんいるのだろう。明野村は日照率日本一を誇る雨の降らない所で、甲府市内や諏訪湖が雨でも、ここだけはなんとか曇りで撮影が出来るという日が多い。それに山梨県のフラワーセンターや有名なヒマワリ畑もあり、雑木林には国蝶のオオムラサキもたくさんいる。そんな訳で明野村に勉強部屋程の別宅を持ちたいと兼ねてから夢を抱いている。
 そんな気持ちを持っているのは私だけではなく、キバネツノトンボを探して林道を登って行ったら小奇麗な別荘に行き着いた。そこの建物の前の広い庭で感じの良いご夫婦がハーブとバラを栽培していた。「ここにはオオムラサキも飛んで来ますよ」とおっしゃる。また、熊は出ないもののイノシシがやって来るという。そこで私が「犬を飼ったらどうですか。この建物でしたらゴールデン・レトリバーが似合いますよ」と言ったら、「そう思うでしょう」と奥様がご主人を見ながらおっしゃった。きっと奥様の方が犬好きなのだろう 
 最後に肝心のキバネツノトンボだが、それはそれはたくさんいて、気温が上がらず曇りがちな午前中はおとなしくしてポーズをとってくれたが、午後になって陽が差して気温が上がると飛び始めた。その飛翔は実に素晴らしく、ウスバシロチョウより早くアゲハチョウより遅く、ギフチョウくらいの速さで意外と高く飛ぶのである。ウスバカゲロウと同じ脈翅目の昆虫だが、こんなに美しいのだからキバネツノトンボは別格である。かつては多摩丘陵にも生息していたのだから懐かしい。なお、フラワーセンターにはルピナス(写真左)やアイリス、付近にはヒナゲシとハナビシソウの広大なお花畑があった。

<今日観察出来たもの>昆虫/キバネツノトンボ(写真右)、ウスバシロチョウ等。


5月24日、城山町葉山島〜城山町穴川〜相模湖町美女谷鉱泉 

 はじめ先週雨でお流れになってしまった丹沢の早戸川の奥野林道へ行こうと計画していたが、今年は昆虫の写真集を出したいと思っているので、色とりどりにバラエティーに富む昆虫写真が撮影したくなった。城山町穴川で緑のアジサイの葉上の昆虫はたくさん撮ったから、今度は花に来ている昆虫というものが撮りたくなったのだ。そんな訳で城山町葉山島に行くことにした。ここは別段どうってことは無いのだが、住んでる人たちが花好きで、各種の園芸品種の花がたくさん植えられている。それにお寺の前に茶畑があって、そこに車を停めて昼寝をしていると最高に気持ちが良い。眼下に相模川(写真左)が流れ、相模原台地はえぐりとられて垂直の段丘面が水平に続いている。今日はオオキンケイギク、ヒナゲシ、カンパヌラ・グロメラタ、ガーベラ等が咲いていた。今日は行かなかったが、この観察記を読んだ方は、昆虫の一級観察地である奥野林道を頭に入れておいて欲しい。今の時期ならクモガタヒョウモン、ウスバシロチョウが見られ、各種のゾウムシやオトシブミ等もいて、各種の木の花も咲いているはずである。それに時期になると、神奈川県下では珍しいクジャクチョウにも会える。
 昼食に札幌ラーメンを食べたかったので、相模川を北上し小倉橋を渡って「どさん娘」に寄り、城山町穴川へ向かった。また小道脇のアジサイの葉を往復して観察したかったのである。ようやくアカスジキンカメムシが成虫になっていて、奇麗に撮って下さいとばかりにたくさんいた。それに何だか知らないが、奇怪でオトボケのマダラアシゾウムシ君がずっと居着いていて、眠そうな目をこちらに向けるので正面からばっちりと撮影した。民家や田んぼの脇に生えているカラムシには、美しいラミーカミキリがたくさん発生していた。
 少々疲れたので昼寝をして目覚めると、まだ3時、これから穴川でストロボ撮影をして、お決まりの八王子の「桐の湯」というのもつまらないと思い、ポパイのような力瘤を持つルイスアシナガオトシブミを撮ろうと、相模湖町美女谷鉱泉に向かった。ここは小仏峠からの下山路になっていて、美女谷鉱泉に入ると女性は若返って美しくなるのだと言う。私の知っている山好きなご婦人は歳には見えなから本当なのだろう。もう一つ女性が美しくなる温泉を紹介しよう。奥多摩の日の出町の肌がつるつるになる「つるつる温泉」で、この周辺も自然観察の敵地である。
 この美女谷鉱泉の周辺の林道を一回りすると、たくさんの蝶や昆虫に出会えるのである。特にケヤキの葉を巻くルイスアシナガオトシブミは面白く、この他、ヒメコブオトシブミ、ウスアカオトシブミ、ヒメクロオトシブミ等のオトシブミがたくさんいて、水溜りがあると憧れのミヤマカラスアゲハが吸水している。しかし、なんと言っても生まれて初めてのシギゾウムシの大物「ツバキシギゾウムシ」に巡り会えたことが嬉しかった。こんな虫がいるから昆虫観察は止らない止められない。目的のルイスアシナガオトシブミは動き回って写真は撮れなかったが、予期せぬ大物に出会えて最高だった。

<今日観察出来たもの>城山町葉山島で見た昆虫/トラフシジミ、ミヤマカワトンボ、カワトンボ等。城山町穴川で見た昆虫/ダビドサナエ、アカスジキンカメムシ、ラミーカミキリ、マダラアシゾウムシ等。相模湖町底沢で見た昆虫/ツバキシギゾウムシ(写真右)、ヒメクロオトシブミ、ウスアカオトシブミ、ルイスアシナガオトシブミ、ヒメコブオトシブミ、カツオゾウムシ等。


5月22日、東京都町田市小野路町・図師町

 今日はこれと言って撮影したいものもないし、気ままに4つの谷戸を巡り歩いてみようと出かけた。先週、万松寺谷戸は里山管理の一環として草刈がなされていたので、撮影対象となるべきものはないだろうと覗いて見ると、すっかり丸坊主に奇麗さっぱりの状況であった。そこでまず最初に白山谷戸に入ってみた。以前は荒れ放題だったが、奇麗に草刈がなされて本来のあるべき姿に戻りつつある。谷戸の奥にとても雄大な樹形のエノキの巨木があって、これを見るだけでも価値がある。今日はやけにサビキコリというコメツキムシが目に付く。蝶ではイチモンジチョウが新鮮で、花ではオカタツナミソウやフタリシズカが日陰に美しく、谷戸の小道にはノアザミが目に染みる。
 花の谷戸である五反田谷戸に行くと、中年の紳士が図書館でU氏の本「谷戸の四季」を見て、田植えの風景を撮りたいとやって来ていた。しかし、まだ田植えは始っていない。田んぼの畦は奇麗に塗られ、こうなったら畦に入るのは厳禁である。それでも咲き残ったケキツネノボタン、ムラサキサギゴケ、タガラシ等に加えてシロツメクサやニワゼキショウが奇麗である。ヘビイチゴの実が真っ赤に実り、水面反射の玉ボケを入れて美しく撮影できた。雑木林と谷戸田が接するあたりにはノアザミが見頃で、芝地には相変わらずミヤコグサが黄色の群落をつくっている。溜池にはカルガモが一羽いて、以前は近づくとすぐに逃げたのだが、今日は何だがおっとりしている。今度来た時は美しく撮影してあげるからねと声をかけて神明谷戸に向かった。
 神明谷戸に着くと溜池にクロスジギンヤンマが悠然と飛んでいる。こいつを撮影するのは至難の業で300mmは欲しくなる。飛んでる所を撮ろうとしたらフイルム1本無くすつもりでないと無理。こんな時はデジタルカメラが良いなと感ずる。しかし、時には飛び疲れたのかアシなどに止ってじっとしている時がたまにある。そんな時が撮影のチャンスである。谷戸奥からご婦人が帽子を被り顔を布で覆ってやって来た。良く見ると一度会ったことのある方だ。紫外線が強い時には湿疹が出来るので目だけを出してという周到さだ。そんなにまでして、一人で小山田から自転車で神明谷戸や五反田谷戸にやって来るのである。この近辺の風景から花、最近では昆虫も撮っていると言う。「別にそんなに珍しいものでなくて良いのですよ」と、ネガカラーフィルムで谷戸の四季を熱心に撮っているのである。こんなご婦人もいるのである。
 最後に万松寺谷戸に下ってから昼食を摂り、カメラを昆虫専用のストロボ付きカメラに変えて美しい雑木林に行って見ると、何とアカシジミが一頭羽化したばかりでアズマネザサの葉に止っている。いよいよゼフィルスの季節がやって来たのである。今日の特質すべき事として、キノコがやたらに目に付いた。そんなに珍しいものではなかろうが、長く続いた曇りや雨によって、キノコも元気一杯となったようである。

<今日観察出来たもの>花/コゴメウツギ、スイカズラ、ノイバラ、ハルジオン、ケキツネノボタン、ムラサキサギゴケ、タガラシ、シロツメクサ、タツナミソウ、オカタツナミソウ、フタリシズカ、ニワゼキショウ、ミヤコグサ、イモカタバミ、ノアザミ等。蝶/アカシジミ、イチモンジチョウ、コミスジ、コジャノメ、クロヒカゲ、ヒメキマダラセセリ、サトキマダラヒカゲ、ヒメウラナミジャノメ、コチャバネセセリ。昆虫/クロスジギンヤンマ、ヤマサナエ、シオヤトンボ、コフキゾウムシ、サビキコリ、ベニカミキリ、ヒメクロオトシブミ、ジョウカイボン、ヒゲナガハナノミ、オオイシアブ、マガリケムシヒキ等。その他/ヘビイチゴの実(写真左)、ヒイロタケ(写真右)、キノコを数種。


5月21日、横浜市戸塚区舞岡公園

 久しぶりに太陽の光が戻って来た。しかし、雨の後は風が強い日が多い。こんな日は自然観察、写真撮影には不適なのだが、各種の木の花と蝶を撮影しに舞岡公園へお邪魔した。いつもなら必ず顔見知りのお友達に出会うのだが、今日は誰も来てない。風が強いからかなと思ったが、久しぶりの天気だから心がうずいて出て来るはずである。しかし、午後になっても顔見知りには誰も会わない。長い間、里山の自然観察をしていると、給料日前後の10日間というのは、花や蝶や昆虫の賑わいが寂しくなるのだ。たいがい月の初めから中頃がベストの期間となる。そんな訳で舞岡公園の顔見知りの人たちは、風が強いことと撮影対象が一服ということから来てないのだろう。ことによったら寒暖の差が激しいから、風邪でも引いたのだろうか。
 午前中は自然光による花の撮影。まず、今日一番の撮影対象はハコネウツギである。咲き始めは白い花だが日がたつにつれてピンクから紅色まで色取り取りに咲き誇るので、今日あたりが撮影にはベストなのだ。舞岡公園には自然のものか植栽されたものかは不明だが、ハコネウツギがたくさんある。ハコネウツギを写そうと谷戸見の丘を登り切ると、タツナミソウに似ている花が咲いている。たしかオカタツナミソウという名だと思う。タツナミソウは赤紫の花色だがこちらは青紫の花色なのだ。ハコネウツギは期待していた以上に今が盛りで美しく、無事に撮影し終わると、来る途中で小川のほとりの各所に咲いていたノイバラを撮影に谷戸に降りた。
 今日は小道にたくさんの花弁が落ちている。昨日の強い雨で落ちたのだろう。一番目立つのは薄紫のキリの花、次に純白のエゴノキの花、そしてハコネウツギやタニウツギの花だ。前回、確認をしそこなったヤマボウシの白い花も満開である。これは植栽されたものだろう。同じ仲間のアメリカハナミズキにだいぶ遅れて花を開くのだなということが分った。舞岡公園の一番美しい季節、卯の花(ウツギ)が真っ白に咲くのは、今日の蕾の具合からして約10日位先だろう。こんなにたくさんのウツギの花が咲き乱れる場所は他には知らない。鬱陶しい梅雨空でも、純白の花をこぼれんばかりに枝一杯につけて咲くウツギの花は眩しい程に美しい。
 舞岡公園きっての昆虫観察場所である瓜久保の火の見櫓周辺では、羽化したてのイチモンジチョウが美しく、モンキアゲハ、ダイミョウセセリ、コチャバネセセリ、ヒメウラナミジャノメ、サトキマダラセセリが各所で舞っていた。アジサイの葉上では、早くも特筆すべき昆虫で、一度は見てもらいたい緑色の金属光沢に赤い筋のあるアカスジキンカメムシがようやく成虫になって葉上に鎮座していた。この他、キスジホソマダラ、ヒゲナガハナノミ、マガリケムシヒキ等が見られたが、お目当てのアズマネザザを食するゴイシシジミはまだ発生していなかった。

<今日観察出来たもの>花/ハコネウツギ(写真右)、タニウツギ、スイカズラ、ノイバラ、ヤマボウシ、エゴノキ、キリ、ハルジオン、アカツメクサ、シロツメクサ、オカタツナミソウ(写真左)、ニワゼキショウ、イモカタバミ、キショウブ、キツネアザミ、ノアザミ、ジヒバリ等。蝶/モンキアゲハ、イチモンジチョウ、サトキマダラヒカゲ、ヒメウラナミジャノメ、ダイミョウセセリ、コチャバネセセリ。昆虫/アカスジキンカメムシ、クサギカメムシ、エサキモンキツノカメムシ、コフキゾウムシ、ヒメクロオトシブミ、キスジホソマダラ、ジョウカイボン、ヒゲナガハナノミ、シオカラトンボ、マガリケムシヒキ等。その他/キノコを数種。


5月18日、町田市図師町〜神奈川県城山町穴川

 最近「とても自然が好きですね」と良く言われるが、これに関しては同意しかねている。一般の方は動植物の名前を良く知っていたり、珍しいものをたくさん見ていたりすると、とても自然好きな方と思うらしい。しかし、「そうではないのでは?」といつも思っているから、同意しかねるのである。動植物の名前を知らない方でも、珍しいものに無関心な方でも、とっても自然が好きな方がいると思っているのである。例えば、俳句や短歌を作る方、釣りをする方、山歩きをする方、農家の方等の中に、私なんか足元にも及ばない方がたくさんいるはずである。坂口安吾は新潟の海を毎日見詰めていても飽きなかったと言うが、私には無理であると感ずる。しかし、午前中に訪れた谷戸なら小高くなった芝地に腰を下ろして、半日くらいはいられるだろう。そんな私が15年間も身近な野山に毎週出かけるのは、きっと、写真撮影の楽しさがあるからだと思う。ファィンダーで作画していて、頬づりしたくなるような絵が浮かび上がると、本当に嬉しくなる。そんなにしょっちゅう味わえるわけでは無いが、今日は3回も味わったのだから幸福である。今日のような天候は撮影にはベストなのだ。
 昨日、寺家ふるさと村でタツナミソウを見たので、丹沢の早戸川に行くのをやめて、町田市図師町の五反田谷戸に直行した。久しぶりにハッセルブラッドのMさんに出会った。「最近、去年何べんも顔を合わせている方に会わなくなりました」と言う。「こんなに心が癒される場所なのに、私なかん1日いても飽きませんよ」と言う。本当にMさんはこの場所、自然、写真が好きなのである。お目当てのタツナミソウ、フタリシズカ、ミヤコグサ、ニガナ、ノアザミをバッチリ撮って、「今日はこれから城山町穴川に行くんです」と言って、ゆっくり話もせずに撮影ばかりしていたので「すまないな」と思ったが、また、ゆっくり来て色々な話をしようと車に戻った。
 今日は昨日雨で撮影を諦めた神奈川県城山町穴川に午後に再挑戦した。ありがたいことに薄曇が続いている。こんな日は午後の3時頃まで自然光で良い写真が撮れるのである。城山町穴川の渓流沿いに植栽されている、とっても長く続くアジサイの植え込みの葉上を、舗装された小道を歩きながら注視していれば、本当にたくさんの昆虫に出会えるのである。恐らくこのような昆虫観察、昆虫撮影に適した場所は、他にはないのではなかろうか。ここでも「はっとして胸がときめく絵」がファインダーに現われて幸せ一杯になった。今年は花の写真集「光溢れるフィールドで」と虫の写真集「そよ風の中の昆虫たち」を出そうと頑張っているのだが、花は何とかなっても、じっとしていてくれない昆虫は大変である。昆虫で「はっとして胸がときめく絵」がファインダーに現われたのだから最高である。いよいよ昆虫写真の稼ぎ時となった。農家の人にホタルの事を聞くと、6月に入ってからぼちぼち現われ、20日頃が最盛期だと言う。漆黒の闇に舞うゲンジボタルは幽玄の世界に導き、何度味わっても身震いするような感動を覚える。しかし、今年は山好きなMさんお勧めの川崎市麻生区黒川に行ってみる事にしょう。

<今日観察出来たもの>町田市図師町で見た花/タツナミソウ、フタリシズカ、ミヤコグサ、ニガナ、ノアザミ、シロツメクサ、ジシバリ等。城山町穴川で見た昆虫/ヤマサナエ、ダビドサナエ、カワトンボ、ベニシジミ、コミスジ、コジャノメ、シロコブゾウムシ、マダラアシゾウムシ、アカスジキンカメムシの幼虫、クサギカメムシ、エサキモンキツノカメムシ、ヘビトンボ、ヤマトシリアゲ、ジョウカイボン、アオジョウカイ、セボシジョウカイ等。その他/蜘蛛の巣の上の水滴(写真右)、ジャガイモの花(写真左)


5月17日、町田市小野路町〜横浜市青葉区寺家ふるさと村

 今日は一泊どまりの遠出のつもりでいたのだが、横浜市内は雨が降っていなかったにもかかわらず町田街道を北上すると雨脚が強くなった。それでも天気予報では曇りと言うので、城山町穴川で車を停めて一時間程寝ていたのだが、いっこうに雨は止みそうも無い。こうなったら降っていなかった町田市小野路町まで戻って来週また挑戦しようと決めた。今日のような曇り日で風も無く寒い日は、発色の鮮やかなベルビアを使うとしっとりとした写真が撮れる。おまけに昆虫もじっとしているし花も風で揺れないからあり難い。車を走らせていたら目が眩むような黄色のオオキンケイギクが町田街道沿いに咲いていた。もうそんな季節になったのかと思い、途中、オオキンケイギクが咲いているはずの野津田公園に寄って見た。案の定、かつてに比べると数は少なくなったもののアカツメクサを交えて咲いていた。湿生植物園にも寄ってみると、ハコネウツギが色とりどりに満開で、盛期は過ぎたもののキショウブ、カキツバタが咲いていた。ここには夏になると多摩丘陵では珍しいハグロトンボが見られる。
 小野路町の万松寺谷戸で小一時間ほど写真を撮っていると、またしても大粒の雨が降って来た。ちょうど良いことに寺家ふるさと村の仲間から電話が入り、寺家は雨が降っていないというのでふるさと村に向かった。寺家に着いてみると久しぶりに会うお仲間がたくさん出迎えてくれた。「野花−寺家ふるさと村」という本を出しているY氏、キノコが大好きなNさん、最近同行することの多いMさんFさん等、みんなこんな天気だと言うのに写真撮影に精を出していた。水車小屋横の谷戸の小道を入ってゆくと、マドガ、キスジホソマダラ、ヒメウラナミジャノメ、ヤマトシジミ、ヒゲナガハナノミ等がおとなしく各種の植物に止り、カモジグサの穂に足場を決めたヤブキリの脱皮が見られた。野花ではタツナミソウが紅色に咲き、そろそろイボタの花も白く色づいて来た。もうすぐ今日この頃の天候を思わせる梅雨は間近だ。
 午前中に触覚が長く櫛のように分かれているコメツキを見つけたというので、それは私もまだ撮影していない「ヒゲコメツキ」と思い案内して貰った。ありがたいことに今日は寒いこともあってじっとしていてくれたらしく、長年の念願だったヒゲコメツキをばっちり撮影できた。その後、キノコの大好きなNさんがいるからか、大きな複数のスジオチバタケを見つけたりと久しぶりの寺家ふるさと村を堪能した。やはりキノコの季節ばかりでなく、ちょくちょく寺家ふるさと村にもお邪魔しなくてはならなくなった。

<今日観察出来たもの>寺家ふるさと村で見た昆虫/マドガ、キスジホソマダラ、ヒメウラナミジャノメ、ヤマトシジミ、ヒゲナガハナノミ、ヒゲコメツキ(写真左)、アカガネサルハムシ、トビサルハムシ、アオカメノコハムシ、ヒメカメノコハムシ(写真右)、ジョウカイボン、セボシジョウカイ、ヤブキリの脱皮。


5月13日、大原みねみち公園〜相模原公園〜小野路町

 街路樹のベニバナトチノキの花が咲いている。今日は絶好の花曇である。こんな時は花を撮るのも良し、虫を撮るのも良しと迷ってしまうが、午前中は花の方に振ってみようと家を出た。最近、牛丼屋の「280円の朝定食」も飽きてきたので、今日はプラス100円の「トン汁定食」を食べ、水飲み場の水道が凍りつく初冬まで、歯磨、洗顔、トイレを利用させて頂いている港北ニュータウンの大原みねみち公園へ到着すると、エゴノキの花が撮り頃となっていた。エゴノキの花がとっても好きである。どうしてあんなに多数の花が付くのかといつも不思議に思う。見上げるとまるで純白の笠をつけた豆電球のようで、行儀良く垂れ下がってそよ風に揺れている。しかも、新緑は心地よい緑色だし、葉の間から青空が見え隠れし、大陽の光が葉に反射するのか時折キラキラとした光が漏れて来る。こんな光景は35mm一眼レフカメラでは捉えきれないが、中判カメラ以上を持っている方なら、構図をしっかり決めて、忠実に再現することが出来るだろう。このようなエゴノキ咲く光景が自宅の寝室の天井にあたら、さぞかし良い夢を見ることが出来るに違いない。
 エゴノキの花の撮影に梃子摺ったが、相模原公園には10時少し前に着いた。今日は平日だから駐車場は無料、入場料なんてないから各種の花を撮影するには最高の場所である。門を入るとすぐにヒナゲシとヤグルマギクとハナビシソウの花園がお出迎えしてくれた。赤、桃、白、青、橙と色取り取りなのだから美しいことこのうえない。今日は白花も見られるシランが盛りで、こんなにたくさん密集して植えられているのを見るのは初めてである。今日のお目当ては相模原公園の目玉と言える宿根ルピナスとクレマチスであるが、ルピナスは今年は植栽されていないようで、去年の残りが数株咲いているだけであった。ルピナスは本当に変わった花であると思う。まさに「上り藤」である。写真で見たことがある北海道の上富良野町のルピナス畑に一度は行ってみたいものである。もう一つの目玉、クレマチスは沢山咲いているのだが、こちらはフェンスに絡ませて咲かせてあるので、なかなか良い写真を撮るのは難しい。しかも、風が非常に強い場所であったために撮影泣かせで時間がかかった。
 ハナショウブ園へ言ってみるとキショウブが咲いているだけで、これからだが、正門近くにある人工的な小川のほとりにカキツバタとアヤメが咲いていた。ご婦人が数人、植物画を水彩で描いていて、アヤメとカキツバタの見分け方を教えてあげたら尊敬された。写真も良いが水彩絵具で描く淡彩の花の絵も素適である。ちょっと失礼してスケッチブックを覗かせて貰うと、カキツバタが風情溢れて書かれていた。「カキツバタの葉は描き易いけど、アヤメは難しい」と言う。それはそうだろう。カキツバタの葉はシャガの葉のように広くて色の変化があるが、アヤメの葉ときたらガマの葉みたいに細くて濃い緑一色だから、風情ある淡彩の色付けにはちょっと難しい。絵には素人の私でさえそう思って、ご婦人に同意した。

<今日観察出来たもの>相模原公園で見た花/ヒナゲシ(写真左)、ヤグルマギク、ハナビシソウ、シラン、ルピナス、クレマチス(写真右)、アイリス、キショウブ、アヤメ、カキツバタ、ニワゼキショウ、デージー、パンジー、ビオラ、ストック、ムラサキカタバミ、マーガレット、マリーゴールド、バーベナ、ラベンダー、カルミア、マルバシャリンバイ、ムラサキツユクサ、ノウゼンハレン、ネモフィラ、バラ、シャクヤク、ボリジ等。


5月10日、東京都町田市小山田緑地〜小野路町

 連休前に蝶の撮影をしているK氏からメールで、小山田緑地のアサザ池周辺でカワトンボを見ましたと、雌の写真を添付して貰ったので久しぶりに行って見ることにした。それに今は大型のトンボであるヤマサナエの発生時期である。裏口の広い駐車場に車を停めて、歩き始めると栗畑でなにやら飛ぶ蝶がいる。サトキマダラヒカゲである。きっと栗の樹液を吸いに来ているなと思い、栗の幹を見回ると、案の定、枝を切り落とした所から樹液が出ていて、アオハナムグリが一匹頭を突っ込んでお食事中である。こんな樹液が出ている所を知っておくと、これから沢山の昆虫に巡り会えのである。トイレの近くのクヌギ林には、黒装束の蝶がたくさんお出ましで、近寄るとコジャノメとクロヒカゲであることが分った。
 キノコの出そうな谷間のじめじめした場所に行って見ようと池の傍らを通ると、カワセミが飛んで行った。今日もカワセミ狙いの方がいて、ニコンのデジタル一眼レフカメラに400mmのレンズを付けているので、銀鉛フィルムカメラなら600mmと言う事になって、まずまずのカワセミの写真が撮れる事だろう。いつも小山田緑地に来るとクヌギと柿の木が立っている芝地の丘に寄ってみる。もう何べんも四季折々に撮影しているのだが、この「つれづれ観察記」では紹介して無いので撮る事にした。撮影が終わって芝地に目をやると、タンボボは綿毛となっているが、ニワゼキショウ、シロツメクサ、ミヤコグサが咲いている。紫、白、黄の花と言う事になる。
 正門を出てアサザ池の方に歩いて行くと、民家の垣根の下にムラサキカタバミが咲いて眩しいほどである。最近、イモカタバミも交えて野の花になったかのように各所に咲いている。なお、カタバミが大好きなヤマトシジミは、この外来種は食べないと言う。アサザ池の途中にハギが背を伸ばしているので目を凝らすと、シロコブゾウムシが一匹、泥を背につけ静止している。土の中から出て来たばかりなのだろうか。近寄って手を触れるとポロリと地面に落ちて、死んだまねをする。ほんとうに憎めない昆虫である。アサザ池に着いて周囲を見回すが、目的のカワトンボやヤマサナエはいない。池にはアサザの葉が広がり、キショウブやカキツバタが咲いていた。
 昼食を済ませると小野路町の万松寺谷戸へ行く。まずお目にかかったのはヤマサナエである。大型のトンボでオニヤンマをやや小型にしたように感ずるので、一般の方はオニヤンマと間違えるかもしれないが、胸部は黄色っぽく、飛んでもすぐに近くに止るからすぐ分る。道の脇にあるキブシの葉に沢山の揺籃を見つけたので、探してみるとウスモンオトシブミがいた。ヒメクロオトシブミと良く似た揺籃を作るのが分ったが、作業中の個体に巡り会えなかったのが残念である。谷戸の奥に向かうと湿地の葦にヒゲナガハナノミが早くも発生し、奥にある栗林では相変わらずジャコウアゲハの雄が飛んでいた。雑木林にはまだ、ギンラン、キンランが咲き、アマドコロも純白な釣鐘を下げている。ホウノキの花は終期となったが、木の下にはキクラゲを髣髴させる蕾の鞘が沢山落ちていた。

<今日観察出来たもの>花/ホウノキ、キリ、ハルジオン、アカツメクサ、シロツメクサ(写真右)、ミヤコグサ、ニワゼキショウ、ムラサキカタバミ、キショウブ、カキツバタ、キンラン、ギンラン、アマドコロ、キツネアザミ等。蝶/ジャコウアゲハ、アオスジアゲハ、コミスジ、サトキマダラヒカゲ、ヒメウラナミジャノメ、コジャノメ、クロヒカゲ、ダイミョウセセリ、コチャバネセセリ。昆虫/ジョウカイボン、シロコブゾウムシ、ヒゲナガハナノミ、ヤマサナエ、シオヤトンボ、ウスモンオトシブミ。その他/丘の上のクヌギの木(写真左)


5月9日、横浜市戸塚区舞岡公園

 木の花が美しい舞岡公園は、これから梅雨明けまで最高の季節を迎える。今日はミズキをまず第一に写そうと思って来たのだが、もう終期を迎えていて生気が無い。しかし、キリの花が薄紫に咲いてちょうど見頃である。いつも、キリの花やホウノキの花を今年こそはしっかり美しく撮影しようとするのだが、なにしろ高い所に咲いていて果たせずにいるが、今日も毎年の例にたがわず写せなかった。弘法山へ行けば手ごろな高さにキリが咲いているし、城山町穴川の奥のほうには道路から見下ろすようにホウノキが咲いている所があるが、そこまで行く気がいつも起きない。図鑑などで紹介されているこれらの花はどのようにして撮ったのだろう。
 しかし、同行のご婦人がちょっとキノコをかじった方であったためか、河童池の傍の平坦な雑木林に変わったキノコを見つけた。小さいのと大きいのと二つならんでその横に小さな切り株がある。こんなに写真を撮って下さいとばかりに生えているのだから、広角レンズを出して這いつくばって環境を入れて撮ったり、キノコの傘の割れ具合が面白かったので、45度斜め上方より撮ったりととても楽しい撮影が出来た。去年の秋から目に付くキノコで絵になるように生えていると、カメラを向けるようになった。しかし、今日のキノコも山と渓谷社の通称「ドカベン」と呼ばれるキノコ図鑑の絵合わせでも分らない。まあ、時間が出来たらゆっくり調べてみよう。
 小谷戸の里までの道にはハルジオンが咲いて、コチャバネセセリが凄く多い。それにダイミョウセセリやヒメウラナミジャノメ、ベニシジミが加わって、ハルジオンは蝶や各種のレストランと化している。もうエゴノキやウツギが咲いているかなと思っていたのだが、まだ蕾は固い。今日の撮影の目的の一つであるハコネウツギはやっと白い蕾を覗かせた状態である。しかし、谷戸見の丘の入り口に咲いているウツギは、たぶんタニウツギかその仲間だと思うが、こちらは満開である。先日、旅して来た新潟にはタニウツギがとっても多い。あと一つ見たかった植栽されているヤマボウシだが、その咲き具合は、キノコちゃんに時間をとられてうっかりしてしまった。
 昼食に火の見櫓のある瓜久保に戻ると、いるはいるはお友達がたくさん来ている。舞岡公園の主とも言えるF氏とT氏は見えないものの、何でも写すが腕の良いA氏、昆虫や野花が好きなNさん、蝶を飼育したり自然のものなら何でも好きなKさん、本当に舞岡公園は自然好き写真好きが多く集まる。NさんKさん、そして私が集まったので蝶も歓迎してか、クロアゲハ、モンキアゲハ、カラスアゲハ、アゲハ、アオスジアゲハが話していると盛んに飛んで来る。「今、ウスバシロチョウの季節ですよ」と言うと「会いたいな」と言う。研究者でもナチュラリストでも写真家でもなく、また、お勉強会のような同好会や自然観察会でもない。「あれ見たいな」と言ったら「行こう行こう」という会を作りたいな。

<今日観察出来たもの>花/キリ、ハルジオン、アカツメクサ、シロツメクサ、ジシバリ、ギンラン、タニウツギ等。蝶/モンキアゲハ、クロアゲハ、カラスアゲハ、キアゲハ、アゲハ、アオスジアゲハ、ルリタテハ、ツマグロヒョウモン、コミスジ、イチモンジチョウ、サトキマダラヒカゲ、ヒメウラナミジャノメ、コジャノメ、ダイミョウセセリ、コチャバネセセリ、ベニシジミ、ツバメシジミ、ヤマトシジミ、ルリシジミ。昆虫/コフキゾウムシ、ヒメシロコブゾウムシ、ヒメジョウカイ、アカスジキンカメムシの幼虫、ヒメクロオトシブミの揺籃。その他/種名不明のキノコ(写真上/アセタケ属の仲間?)。


5月6日、埼玉県大里郡寄居町〜小川町

 高い交通費をかけて行ったのだから、一日でも多く新潟にいた方が良いのではと誰しもが考えるかもしれないが、例年、埼玉県大里郡寄居町周辺に立ち寄る。小高い丘陵が延々と続き何処に車を停めても雑木林と谷戸田が広がり、自然観察に事欠かない比企丘陵は、私の大好きなフィールドの一つである。少し奥に入ればウスバシロチョウやアオバセセリが飛ぶ奥武蔵の低山帯に入れるし、また、荒川沿いの河川敷も魅力が一杯である。花園インター周辺は小麦畑が広がり、ヒバリが鳴いて、とっても気持ちが良い所なのである。また、美里町は花の町で、ビオラ、アイスランドポピー、ハナビシソウ、アイリス、ヤグルマギク等、何でもござれと咲いている。
 今日は六日町からの帰りなので、午前中は花園インターからすぐの花園橋下の河川敷と麦畑に行った。広々と広がる小麦畑を写すことが第一の目的である。また、天高くヒバリが鳴いて薫風に吹かれながら付近を散策するのがとっても好きなのである。日頃歩いている雑木林や谷戸には無い魅力が溢れているのだから当然のことである。また、この時期、荒川の河川敷はニセアカシアやキツネアザミ、ハルジオンが見事で、葦原に降りて行けばギンイチモンジセセリが弱々しく飛んでいるし、砂地にはここでしかまだ見たことの無いニワハンミョウを小さくしたようなコニワハンミョウが沢山いる。
 午後からは小川町の谷戸と雑木林を散策した。多摩丘陵と異なって雑木林はやや乾燥し、アカマツも随所に見られる。もうじきハルゼミが「ムゼー、ムゼー」と鳴きはじめる事だろう。ここには大きな溜池があって、例年、オツネントンボが池に生える芽生えたばかりの葦の葉に止っている。また、雑木林に入るとヤマツツジが咲き、柔らかいコナラの若葉をヒメクロオトシブミが一生懸命に巻いて、子供達の揺りかごを作っている。もちろん各種の蝶も豊富で、ヤマツツジにはアゲハチョウが、ハルジオンにはアオスジアゲハやベニシジミ、ダイミョウセセリ、コミスジ、ヒメウラナミジャノメが吸蜜に訪れていた。
 後数枚シャッターを切ればフイルムが終わるので、何かいないかと探し回ったのだが、こんな時はいつも撮影対象が見つからないものである。しかし、ヌルデの古木があったので、もしやと近づいて探すと、とっても奇怪なマダラアシゾウムシが居て、あらゆる方向から撮影してフィルムは終わり、東松山インターから関越に乗って家路に着いた。

<今日観察出来たもの>
花/ニセアカシア、キツネアザミ、ハルジオン、レンゲソウ、ネギボウズ、小麦畑。昆虫/アオスジアゲハ、アゲハ、ヒメウラナミジャノメ、ダイミョウセセリ、ギンイチモンジセセリ、コミスジ、ベニシジミ、オツネントンボ、シオヤトンボ、コニワハンミョウ(写真右)、ジョウカイボン、ヒメクロオトシブミ、マダラアシゾウムシ。その他/河川敷(写真左)。


5月5日、新潟県南魚沼郡堀之内町〜銀山平〜奥只見湖

 昨日の六日町の各所を回って「これは期待できないな。もっと高い所へ行かなければ駄目だな」と思ったが、上越線小出駅からすぐの堀之内町のポイントへ行って見た。途中、魚野川に沿って国道は走るが、雪解け水を満々とたたえて流れる様は実に見事である。かつて三川村の方へ行ったことがあるが、水量が物凄く多くとうとうと流れる阿賀野川を見た時には感激した。「これこそ川だ」と思ったのである。私たちが日頃接する多摩川とか相模川とかは、上流で取水されているために水量は極端に少なくちょろちょろと流れているが、原始の川は魚野川や阿賀野川のように水を満々とたたえて流れ、多くの魚等の生き物を養っていたのだろう。
 堀之内町のポイントに着くと用水路沿いのイタドリがかなり延びている。首都圏で見かけるイタドリと違って物凄く太く大きい。これが北国や多雪地帯に見られるオオイタドリというやつなのだろう。時期が良いとカタクリ、キクザキイチゲ、エンレイソウ、ミヤマカタバミ、ショウジョウバカマ等が見られる所へ行ってみるが、ギフチョウが日向ぼこをしているだけでこれと言った撮影対象は無い。ただ、白やピンクや赤と様々な彩りのイカリソウの最盛期である。こうなったら少し高い所にあるミズバショウの群生地へと車を走らせるが、緑の楕円の団扇のような葉がぼうぼうと伸びていると言った按配である。
 こうなったらユースの方が言っていた奥只見湖まで、野の花や昆虫といった自然観察は諦めて観光してこようと湯之谷村へ車を走らせる。途中から奥只見シルバーラインとなり、ことによったら快適な有料道路と思ったら大間違いで、天井から清水が滴り落ち路面は濡れ、時々水溜りもある。また、両側は岩石が剥き出しの所もあるトンネルが延々と続く。まずはこのトンネルに感激した。私が子供だった頃に、多くの日本人の血と汗によって、現在のような扇風機のお化けのようなトンネル掘削機ではなく、手で持つ削岩機によって掘られたトンネルなのである。そんなことを考えると「凄い偉い。かつての日本人は」等と思い、こんな素晴らしい開発魂があったら「今の不況など軽くクリアー出来る」等とも考えた。
 しばらく行くと何とトンネルの途中にT字路の交差点があった。右折すると銀山平、桧枝岐と書いてある。すこし行ってみょうとハンドルを切って外に出ると、そこには信じられない光景が広がっていた。なんと凄い残雪の量であろう、まだ、私の腰のあたりまで雪が残っている。しかも回りは雄大な雪の山に囲まれていて、山好きのご婦人Mさんが見たらきっと感激するだろう。しかし、ブナや川岸のヤナギの仲間は芽吹き始め、雪が溶けた草原ではモンキチョウが飛び、残雪の壁に沿ってキベリタテハが飛んで来る。春と冬が同居しているのである。ユースの方が言われたようにスキーをしている若者もたくさん見られた。
 さて次は憧れの奥只見湖へと、また、長いトンネルをひたすら走った。しかし、期待していたものとは異なって観光地化した場所となっていたが、日本一の重力式ダムと言われるだけあって下を覗くと目がくらむ。ダムサイトから湖面の奥を眺めると、多分、尾瀬の山々なのだろう残雪をたっぷり被った山々が延々と続いている。北アルプスや南アルプスは学生時代に数多く登ったが、ここから見える山々は本当に奥深くブナが原生するとてつもなく豊かな山々に思えた。また「本当に凄い」等と感激して、今日の自然観察は日頃と大幅に異なったが、また、にわか風景写真家となってしまったが、大変満足して六日町国際ユースホステルに帰った。
 今日は泊り客は私一人で、昨日はベットの相部屋だったが、今日は去年の最後の日と同じ和室の個室である。おまけに夕食は各種の山菜が出て、特にノカンゾウの酢味噌和えと、採ったばかりのウドをそのまま味噌で食べさせてもらってとても美味しかった。なお、1500円出すと特別山菜料理を追加できるので、このHPをご覧になって来春こそと思ったら、是非行って貰いたいユースホステルである。

<今日観察出来たもの>銀山平の残雪(写真左)、ブナ、雪の山々、モンキチョウ、キベリタテハ、カラス、長いトンネル、奥只見湖(写真右)。


5月4日、新潟県南魚沼郡六日町

 昨日の夜の8時30分に関越自動車道の川越インターに到着。毎年のことだが思惑通り関越自動車道は空きに空いていて、軽ワンボックスカー「小野路号」は平均時速110km、何とタコメーターを見ると6000回転という無謀な運転ですいすい走る。遅いベンツやボルボ、ベーエム等の外車を追い越したのだから素晴らしい。長い関越トンネルを抜けると太平洋側とは異なったフィールドが広がる「わくわく自然観察ランドの新潟県」に入る。車中泊地である塩沢石打インターに夜の10時30分に到着した。途中、無粋な事に顧客から電話が入って、寄居パーキングエリアで商談をした割には早い到着である。
 朝起きると塩沢石打インターに植えてあるソメイヨシノと八重桜を見る。この両種の桜の咲き具合で、これから行く六日町の野の花や昆虫の発生状況が分るのである。八重桜は少し花が残っているもののソメイヨシノは完全の葉桜である。これを見た瞬間「あーあ、だめだ」とため息が漏れた。今年の新潟の春の訪れが早く、カタクリ、キクザキイチゲ、ショウジョウバカマ、エンレイソウ、ミヤマカタバミ、ミズバショウと言った山野草の花は、もうすでに終わっているはずである。そうは分っているもののここまで来たのだからと、例年立ち寄る六日町のフィールドへ向かう。「もしかして」等という期待が胸を掠めるが、国道17号沿いの田んぼのあぜ道には沢山のスギナが、タンポポやスミレの花を隠す勢いで伸びている。
 もう何年も通っているフィールドに到着すると、カタクリは咲き残っているものの撮影する気分になれない状況である。もちろんギフチョウもかなり飛んでいて、カタクリの花に止って盛んに吸蜜を繰り返すのだが、カタクリが生き生きとしていないので写す気にならない。もちろん、ギフチョウは落ち葉の上に止って羽を開き日光浴もするのだが、こんなのは石砂山でたくさん撮ったからとシャッターを押す気にならないのである。せめて黄色い花のオオバキスミレだけでも写そうとスキー場へ繋がる山道を登って行くと、とてつもなく懐深く感ずる雪を被った八海山が美しい。右手には遠く巻機山もかすんで見える。新潟ではコブシではなくて近縁のタムシバの花がいくらか残り、オオバキスミレは暖かい陽の光を受けて眩しく群落をつくって咲いていた。
 昼食を済ませると、こうなったら各種の甲虫を撮影しようとマクロストロボをレンズに付けて徘徊する。ここにはハンミョウはほとんど見られないのだがニワハンミョウがやたらと多く、古代人の装身具として有名な勾玉の紋を持つマガタマハンミョウも沢山いるのである。ニワハンミョウは近づくとすぐに飛び立つのだが、マガタマハンミョウは逃げるだけなのである。それもそのはずで後翅が退化していて飛べないのである。一通り春の昆虫を写し終えると、今日の宿泊地である「六日町国際ユースホステル」に向かう。駐車場に車を停めると近くの林道に散策に出かける。林道の山側には延々とユキツバキが見事に咲いて、生気は失われているがキクザキイチゲも花をつけている。そしてヒメクロオトシブミよりやや大きく二つの赤い紋が背にあるムツモンオトシブミを見つけたので、ここでしか見たことがないからと徹底的に撮影した。

<今日観察出来たもの>花/カタクリ、キクザキイチゲ、スミレ、オオバキスミレ(写真右)、スミレサイシン、ツボスミレ、タムシバ、ユキツバキ。昆虫/ギフチョウ(写真左)、コツバメ、ミヤマセセリ、ニワハンミョウ、マガタマハンミョウ、ムツモンオトシブミ、イタドリハムシ、シオヤトンボ。


5月3日、東京都町田市小野路町・図師町〜神奈川県城山町穴川

 待ちに待った連休である。最近、本業は儲かっているのだが暇であると言う何とも結構なことで、毎日が連休のようなものである。しかし、いつ顧客から携帯電話に仕事の話があるかも知れないと思うと、なかなか遠出出来ないでいる。それに私の携帯電話であるJフォンは、山間へ行くと圏外になってしまうことが多いのである。さあ連休だと喜び勇んでいるものの、関越高速は関越低速となっていることは分っているし、毎年のお決まりのパターンである近場で撮影し、八王子の銭湯「桐の湯」に入ってから、夜に関越高速に乗ることにした。もちろん、今夜のみは軽ワンボックスカーである「小野路号」での、塩沢石打パーキングエリア車中泊となる。
 今日も生憎のピーカンで、こんな時は蝶やその他の昆虫は、お友達と遊び歩いていてじっとしていてはくれない。手持ちによる蝶の撮影という手はあるものの風も少し強いし、体力的にも歳をとってしまったし、我武者羅に蝶を追いかようという熱意も減退している。とにかく写真は体力と熱意から来る頑張り以外にないのである。そんな訳で午前中のみ自然光による花の撮影と考え、まずは小野路町・図師町でキンラン、ギンランを撮影してから昆虫の宝庫である城山町穴川へ向かった。
 城山町穴川はアジサイとゲンジボタルの里である。しかし、それ以外にもトンボが多く生息し、ヤブヤンマ、モノサシトンボ、ハグロトンボ、コオニヤンマ、ダビトサナエ等が見られる。去年もトンボの採集家に会っているし、ずっと前はトンボに魅せられた青年にも会っている。また、去年はちょうどこの時期に昆虫写真家である山口茂氏に会い、太陽が完全に沈んで真っ暗になるまで、写真や昆虫の話をしたことを思い出す。もちろん、ホタルの頃はたくさんの見物客が訪れて、交通規制が敷かれる程である。ここにはゲンジボタルだけでなくヘイケボタルも見られるが、なにしろ夜の8時からがホタルの最出没期なので、帰宅は相当遅くなってしまうのが難点である。
 それにアジサイの瑞々しい若葉にたくさんの昆虫たちが休みに来ているのである。今日はオジロアシナガゾウムシ、マダラアシゾウムシ、モンカゲロウ、ヨツメトビゲラ、ヤマサナエ、クサギカメムシ、ヤマトシリアゲ、アカスジキンカメムシの幼虫等の昆虫や、コアシナガバチの巣作りが見られた。私が熱心に昆虫の撮影をしているとイギリス人とイギリス人を案内をする女性の方がマウンテンバイクで現われ、女性が私の趣味をイギリス人に説明すると、イギリス人は「エントモロジー」という懐かしい昆虫学の英名を口から発して嬉しくなった。ゾウムシを紹介するに当たって、女性がたしか「エレファントインセクト」とか言ったので笑ってしまった。また、ヤマトシリアゲを見つけたので「スコーピオンフライ」と、私は指差して格好良く説明出来たのは、日頃の勉強の甲斐があったと言う訳である。

<今日観察出来たもの>城山町穴川で見た昆虫/オジロアシナガゾウムシ、マダラアシゾウムシ、モンカゲロウ(写真左)、ヨツメトビケゲラ、ヤマサナエ、クサギカメムシ、ヤマトシリアゲ、アカスジキンカメムシの幼虫、コアシナガバチの巣作り(写真右)等。


5月1日、東京都町田市小野路町・図師町

 いよいよ5月に入った。5月の最初の自然観察を私のメイン・フィールドでと言うわけではないが、手帳を見ると何と約9日ぶりの小野路町・図師町である。こんなに長い間空けたことが無かったので、その間のフィールドの変化は驚くばかりである。美しい新緑を青空に抜いて撮ろうとしても、雑木林の樹冠は緑の色を濃くした葉によって塞がれている。強さを増した太陽光線を葉緑素で固定して生命の勢いを養い、やがて時期をみて良き結実をし、子孫繁栄を願うという生物界の意思が、こんなにまで強烈なのかと思うほどの葉の伸展ぶりである。もう既に生産と活気の季節がやって来ているのである。木々の各種の花も咲き始め、フジの薄紫とガマズミやミズキの白い花が目につく。ミズキやウツギの奇麗な舞岡公園にも来週お邪魔しなければならなくなった。
 毎年、このゴールデンウィークの頃は遠出してばかりいたので、多摩丘陵とは疎遠になっていたのだが、キンラン、ギンラン等が咲き、T氏の庭にお邪魔するとクマガイソウやエビネも咲いていて、今は野性蘭の最盛期であることが分った。「キンラン、ギンランを盗掘している所を見たら、厳重に注意して下さい」と再三頼まれた。ユリ科のチゴユリやホウチャクソウも花を開き、そろそろアマドコロも蕾が膨らみていて、ユリ科の小さな白い釣鐘が揺れる季節でもあるようだ。タチツボスミレ、ニオイタチツボスミレ、イチリンソウ、ニリンソウ等のスプリングエフェメラルの花々たちはもちろんのこと、草原を彩ったオオイヌノフグリ、ヒメオドリコソウ、ホトケノザ等の路傍の花も、花を咲かせ終わったようである。
 谷戸に降りてみると田お越しがほとんど終わって、畦も泥で塗られている。小高くなった芝地に腰を下ろして昼食を摂っていると「ケロ、ケロ、ケロ」とカエルの合唱が聞こえて来る。農道脇や空き地のカントウタンポポは他の草の勢いに埋もれてしまって、綿毛だけがすっと背伸びをして垣間見られる状況である。薫風は鯉のぼりの鯉を勢い良く泳がせるだけではなく、タンポポの綿毛も遠くまで運んで行くのである。地面にへばりつくように咲いていたムラサキサギゴケは、茎を垂直に伸ばして立ち始めている。いよいよ早春から目を楽しませてくれた野の花たちは、初夏の花にバトンタッチをしようとしているようだ。
 T氏の家に昆虫が大好きなご婦人が2人来ていて、とても奇怪で卒倒しそうになるイボタガの幼虫を見に行くのだと言っていた。石砂山で出会ったM氏が4月13日に石砂山で成虫を見ているというから、この多摩丘陵ではほど良く成長したイボタガの幼虫が見られることだろう。見られる蝶の種類もだいぶ変わって羽の表面が緑色に光り輝くカラスアゲハや、ウマノスズクサのある栗林では、数匹のジャコウアゲハの雄がたおやかに風に乗ってひらひらと舞い、そこかしこにあるハルジオンに吸蜜していた。

<今日観察出来たもの>花/キンラン、ギンラン、エビネ、クマガイソウ、ウラシマソウ、ハルジオン、レンゲソウ、コムギ。昆虫/ジャコウアゲハ、カラスアゲハ、ツマキチョウ、キアゲハ、ミヤマセセリ、シモフリコメツキ、オジロアシナガゾウムシ。キノコ/ヒトクチタケ(写真右)、トガリアミガサタケ。その他/ツタ(写真左)



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