2005年:つれづれ観察記
(1月)


1月31日、神奈川県秦野市金目川〜権現山

 30日の観察記で書いたように、1月の観察記は昨日で終了のはずであった。今日は観察記を書くこともないし、写真が撮れても撮れなくとも関係ないのだから、とっても気楽な気分で何処かへ行ってみようと決めていた。まだ、花も咲かないし虫も見られないしキノコも生えてないし、タゲリやトラツグミという珍鳥を撮っし、これから何処へ行って何を撮ろうかと悩んでいたら、BさんやMさんが「次はヤマセミですね」と言う。ヤマセミなんて10年早いと思っていたし、ヤマ(山)と付くのだから里の鳥では無く、里山の鳥を撮るんだという意にも反する。最も白樺林にしか生えないベニテングタケを撮りたくて遠征したのだから、例外中の例外として、まあ観察するだけでも良いからと、フィールドで度々出合ったIさんに教えていただいた、秦野市の金目川南平橋の老人ホーム下に行ってみた。南平橋は私が季節になると良く出かける平塚市土屋の土屋橋より一つ上流の橋である。ここはどう見ても山では無く里である。しかし、金目川は丹沢山塊から流れてくる川だけあって、河原は固い石ころで一杯の清流だ。多摩丘陵を源とする鶴見川とは大違いの山の川である。
 このところ遠征をしていないので高速道路を走るのは久しぶりだ。相変わらず愛車小野路号はすいすい走って目的地の南平橋が見えて来る。立派な建物の老人ホームも川の上に建っている。ヤマセミのポイントは何処だろう。まさか撮影に来るとは思っていなかったので、Iさんに詳しく聞いておかなかったのが悔やまれる。とりあえず老人ホームまで行って見ようと南平橋を渡り、老人ホームを過ぎ心細い道を下って行くと金目川の土手上に着いた。しかし、今日は土曜日だと言うのに同好者の車は一台も止っていない。おかしいなと思いつつも、ここから川に下りて老人ホーム下まで行って見ようと歩き始める。久しぶりに歩く石ころだらけの河原は非常に歩きにくい。やっとのことで老人ホーム下に辿り着いたが、川が蛇行していて、バカ長でも履いていない限り、それ以上上流まで遡れない。あたりを見回してもヤマセミらしき姿は見えず、Iさんに見せてもらった目に焼きついている写真にあった、ヤマセミが止る形の良い木や大きな石も無い。でもここは確かに老人ホーム下なのだがと思いつつ、ヤマセミは諦めて、河原にいるキセキレイ、ハクセキレイ、ジョウビタキと戯れた後、土屋橋下流に行ってみようと引き返す。
 下流を見ると土手から河原に降りたあたりに人影が見える。同好者かなと思ったがカメラも三脚も持っていない。どうも鯉を釣りに来たらしい。私が近づいて行くと「ヤマセミ?」と言う。「そうです。ここら辺りにいると聞いて来たんで」と答えると、「もっと早く来なけりゃ駄目だよ。それに、ここから川づたいに近づいたら逃げちゃうよ。川の左手の道路を挟んだ田んぼの中に車を止めて静かに行ってみな」と教えてくれた。いろいろ話を聞くと、東名高速が出来る前は、信じられない程のヤマセミがいて、数羽が空中停止飛行(ホバリング)をして、一斉に水面に飛び込む姿は実に見事だったと言う。また、繁殖期にはガァーガァー鳴いてうるさいくらいだったらしい。更に、数年前の鉄砲水で小魚が流されて餌が少なくなったから数が減って、「いるにはいるが、もっと朝早く来ないと撮れないよ」と言うきつい指導まで承ってしまった。「ところでヤマセミってどの位の大きさなんですか」と聞くと、「鳩くらいかな」と言う。「そんなに大きいんですか」とカワセミ位の大きさと思っていたので驚いてしまった。そんな訳で例え田んぼに車を移動してポイントに近づいても、ヤマセミを見ることは出来そうに無いので、よく知っている土屋橋下流に行ってみた。図鑑で見て是非会いたいと思っていた可愛らしいコチドリがいたので、かなり粘って追い掛け回していたら、あっと言う間に時間がたってしまった。
 午後は権現山の野鳥観察施設に行くつもりだったので、期待はしないが通り道だから、今後の参考のためにと教えていただいた田んぼ横の道に車を停めて撮影機材を持たずに河原に降りて見た。すると前方の左手梢に白い鳩位の大きさの鳥が2羽止っている。キジバトではないしドバトでもない。今まで見たことが無い白い鳥である。双眼鏡は持っていないし撮影機材も車に置いて来たので確認できない。すると1羽が飛び立ち、川の水面上空で停止飛行をして水面に突き刺さって行った。「これはヤマセミだ」と野鳥撮影初心者の私でもすぐ分かった。高鳴る胸の鼓動を感じながら、土手上の交通量の多い舗装道路を横切って車に戻り、祈るような面持ちで機材を持って河原に再び降り立った。超望遠ズームで覗くと確かに頭にヤマセミのヤマセミたる冠毛が生えている。「やったー、ヤマセミを見たぞ」と多分顔は喜びで歪んだいたことだろう。お次は証拠写真とばかりに、近寄ってはシャッターを切り、また近寄ってはシャッターを切ってと夢中になって近寄ったら、ブラインドが二つ張られているのに気づいた。朝早くから来て狭いブラインドの中で決定的瞬間を射止めようとしてしている方に、これ以上近づいてヤマセミを逃がしてしまったら大変とばかりに、泣く泣く後ずさりをすることとなってしまった。
 おそらく2000mm位のデジスコなら程良い大きさにヤマセミをキャッチ出来たと思うが、私の機材では無理である。また、じっくり腰を据えていればブラインドを張っている方の迷惑がかからない場所にもやって来てくれるかもしれないし、他の場所を探して見れば等ともと思ったが、憧れのヤマセミに会えた事だけで嬉しいし、何とか証拠写真も撮れたことだから、またいつか何処かで会えるだろうと、昼食をとった後、権現山の野鳥観察施設へと向かった。そこには飼い鳥にして籠の中で飼ってみたくなる程鮮やかで美しい色彩、可愛らしい顔つきのヤマガラがたくさんいて、さんざんシャッターを切って、とっても満足の早上がりの帰宅となった。

<金目川で今日観察出来たもの>鳥/ヤマセミ(写真上左)、コチドリ(写真下右)、ジョウビタキ(写真上右)、キセキレイ、ハクセキレイ、セグロセキレイ、アオサギ、コサギ、ゴイサギ、カワラヒワ、ムクドリ、ツグミ、ヒヨドリ等。
<権現山で今日観察出来たもの>鳥/ヤマガラ(写真下左)、シジュウカラ、メジロ、ルリビタキ、ヒヨドリ、キジバト、ジョウビタキ、モズ等。


1月30日、横浜市戸塚区舞岡公園

 1月は2日から例年に無くかなり多くの場所へ出かけた。観察記はこれで15回目となるが、おそらく20日位はフィールドへ出かけたことになるのだろう。デジタル一眼レフカメラによる野鳥撮影が面白くって仕方無かったのである。この面白さと多くの方々のお陰によって、目標としていた何とか使い物になる野鳥40種類の写真撮影が達成できた。ここ数年とりかかっていた写真点数700点以上にもなる「つれづれ里日記」はこれでやっと完成した。有名な写真家だってなかなか本にはしてもらえない出版状況だから、無名の者の作品が本として出版されることは無かろう。しかし、目標が達成できた満足感と、また、蝶と花と虫だけだった撮影対象が、里山を語るにあたって欠かせない風景やキノコや野鳥を撮って、何だか一回り大きなウィークエンド・ナチュラリストとして成長できたように感じるのだから嬉しくなる。先日、フィールドで友人と話していたら、淀みなく野鳥の名前やキノコの名前が出てくるのだから、我ながら笑ってしまった。そんなこともあって、今日は野鳥撮影に於いて大変お世話になり、今後とも多くの生き物たちとの触れ合いを約束してくれる舞岡公園にて、1月最後の観察記を納めようと出かけてみた。
 昨日、山口県小野田市に住むKさんのHPを見ていたら、美味しそうなエノキタケ、ヒラタケ、シイタケの写真がたくさん載っていた。首都圏の僅かに残された貴重なフィールドに於いては、これらのキノコの採集は昔から食料として活用して来た地元の農家の方以外は控えて貰いたいものだが、地方の自然度の高いたくさんある所なら、晩飯のおかずに採集して来てもなんら問題はないのだから羨ましくなる。きっと、キノコちゃん達も人間のお役に立てたと喜ぶことだろう。今年も行く予定でいるが、新潟県の方々は山菜取りがとても好きである。きっと秋にはキノコ狩りもするのだろうが、とにかく採っても採っても採り尽くせない里山が見渡す限り広がっている。また、山菜の中で一番美味しいタラノキの芽は、二番芽を採ると木が枯れてしまうから採らない等の自然に優しいルールで採集しているのだろう。こんな事をずっと続けていると食べられるものにたくさんお目にかかるが、モミジイチゴの実を摘んだり、天ぷら用にタンポポの花をほんの少し頂いてきたり、根を残してセリを摘む位で、もっぱらフィールドでの楽しみは道端自然観察と写真撮影と言う訳である。
 以上の理由から、今日は野鳥以外のものを撮影しながら、絵になる場所に野鳥がいればと思って、2本立てでフィールドを回ったものの、大寒のこの季節には花も咲いていず、先週、小さな顔を出していたエノキタケやニガクリタケも異常な乾燥も手伝ってか、見当たらなくなってしまった。こうなっては相変わらず“きざはしの池”周辺で、野鳥観察および野鳥撮影にたくさんの方が集まっているので、仲間入りをせずにはいられなくなった。「昨日は午後3時頃、ヤマシギが3羽も現われたんですが、4時頃来た人は4羽も見たと言うことですよ」と毎日野鳥観察にやって来ているというご婦人が教えてくれた。まさか私の機材で撮影できる距離まで近づいてくれないだろうし、先日タゲリやトラツグミを撮影して、更にヤマシギ等という珍鳥を撮ってしまったのでは、長年やっている方々に申し訳がないと思っていたら、案の定、ヤマシギは1羽現われたもののかなり遠い距離である。
 「あっ、アオゲラが2羽いる、雄と雌」と、左手の雑木林を双眼鏡で観察していた方が発見して指を差している。一同、信じられない位の速さで発見した方の傍らに集まり、指差す方向を見上げた。双眼鏡を持参していない私でもアオゲラを2羽確認できた。「頭の上が全部赤いのが雄、後ろ半分だけが赤いのが雌」と長年バードウォッチングを続けている方が初心者の方に教えている。私なんぞ少し大型で緑色のキツツキの仲間をアオゲラと思っているだけで、雌雄の違いなどに気を配る余裕などしばらく生まれそうもない。しかし、図鑑を見ると北海道にはヤマゲラという近似種もいるようで、本州以南には生息していないから誤認することはないと思うが、少しは図鑑を見て雌雄や近似種の違いなどは一読しておく必要がありそうである。ついでだが図鑑を調べてみたら、アオゲラは青森県から屋久島に生息する日本固有種とある。
 今日の舞岡公園は希少種はたくさん現われるのだが、距離が遠かったり写真になりそうも無い所にいたりして、なかなかシャッターを押す機会に恵まれない。しかし、シロハラが湿地奥にいるヤマシギに遠慮してか、かなり近くまで来てくれた。「いつもシロハラがいますね」と同好者に尋ねると、「ここが彼の縄張り、侵入して来たツグミやアカハラを凄い剣幕で追い払うのを何べんも見てます」と教えてくれた。シロハラは近縁のツグミやアカハラは追い払うけど、他の鳥には無頓着のようで、シメやジョウビタキも見られたが、何処吹く風で落ち葉をつついて餌を探していた。こう写真が撮れなくては1月最後の観察記も書けずじまいかなと思って、瓜久保の方に戻ると、途中、オニグルミの林に通ずる小道脇でたくさんのカワラヒワが枯れ草に残った実をつついている。近づくと敏感に察知されて一斉に飛び立ち付近のケヤキの梢に止った。そうしたら近づいても全然逃げずに、「あの人いやな人ね。早く何処かへ早く行ってくれないかしら。あそこに美味しいものがたくさんあるのに」等と、ぺちゃくちゃしゃべっているので、思う存分撮影することが出来た。

<今日観察出来たもの>花/ソシンロウバイ、ウメ、フクジュソウ等。鳥/ヤマシギ、アオゲラ、コゲラ、キジバト、モズ、メジロ、ウソ、ジョウビタキ、ツグミ、ムクドリ、ヒヨドリ、シメ、カワラヒワ(写真上)、マヒワ、アオジ、カシラダカ、ホオジロ、シロハラ(写真下)、アカハラ、シジュウカラ、コサギ、アオサギ、カワウ、カワセミ、キセキレイ等。


1月28日、神奈川県座間市座間新田〜道保川公園〜相模原貯水池

 今日はとっても満ち足りた気分である。初心者にはかなり難しいと思っていたタゲリとトラツグミに会え、しかも写真まで写すことが出来たからだ。これもみな薬師池公園でお会いしたBさんのお陰である。また、Bさんの情報を元に偵察に出かけてくれて、その結果を報告していただき、「もうすぐいなくなってしまうかもしれないから、撮っておいた方が良いですよ」と勧めてくれたMさんのお陰でもある。実のところ今日は、レンズのオーバーホールが終わったので、町田市にあるT社に寄ってから道保川公園のみへ行こうと思っていた。しかし、朝はなんだか渋滞しそうだし、先に道保川公園に行くにしても、座間大和線という道路は信じられない位に渋滞するのだ。そんな事を考えていたら、準高速道路並の国道246号線(大和厚木バイバス)で下今泉まで行って、相模川沿いに北上した方が回り道だがストレスを受けずにすむと思い、そうなれば座間新田は通り道だから寄るしかないと言う訳である。
 先日、タゲリがいる座間新田というフィールドはどんな所なのだろうかと覗いていたので、今回はスムーズに現地に到着することが出来た。おまけに運が良いことに車を停めると、犬の散歩に来ている熟年の男性に出会った。「ここに珍しい鳥が来ていると聞いて来たんですけど、どの辺なんですかね」と、タゲリとは言わずにいかにも初心者ぶって、サラリーマン時代に磨き上げた演技力で聞くと、「タゲリでしょ! 今朝はあのビニールハウスの横の田んぼに群れてましたよ」と教えてくれた。さっそくタバコを一服する時間も惜しんで撮影機材を車から出してセットし、その田んぼに行って見ると、タゲリが6羽ほどじっとして休んでいる。どの位の距離まで近づけるのかが分からないので、約5メートル位近づくごとにシャッターを切ったが、光線の具合で眼がきらりと光らない。そこで太陽光線にくっきりとタゲリが照らし出される場所に方向を転換する。
 「逃げないでねタゲリちゃん」と祈るような面持ちで右手に歩みを進めると、その動きを察して何羽かが飛び立ち万事休すかと思ったが、ほんの少し移動しただけで舞い降りてくれた。「もっと横を向いてね、そうしないと眼が光らないからね」等と胸の内でお願いしながら、何とか念願のタゲリをカメラの中に納めることが出来た。しかし、背景にやや伸びた稲の切り株が並んでいてとても明るい。これはプラス補正をしなくてはと、+2、+1と露光量を変えて写していたら、同好者がやって来て、車から降りて撮影機材をセットしたと同時に、タゲリは「ミュー」と鳴いて飛び立ってしまった。しかし、それ程遠い所へ飛んでいった訳では無く、朝来た時にトラクターが土起こししていた田んぼに降り立った。土が掘り起こされたのでミミズや昆虫等が出て来て、容易くたくさん食べられるのだろう。思わず「分かっているんだねタゲリ君」と呟いてしまった。
 ばっちり写真を撮ったから道保川公園へ行こうかなとも思ったが、撮れる時に徹底的に撮っておこうと行ってみると、町田市の鶴間から来たというご婦人連れのグループが、嬉しそうに盛んにシャッターを切っている。ご婦人は皆、今流行のキヤノンKissデジタルに手ぶれ防止付の300mmズームを付けての手持ち撮影である。「三脚は重たいし、小さくしか撮れないけどパソコンでトリミングして大きくするの」と言う。本当に撮影機材の進歩は野鳥撮影を手軽にし、女性層にも裾野を広げているのである。その後、同好者も増え、みんながタゲリの美しさに夢中になって撮影しているので邪魔になるのもなんだと、すでにばっちり撮影した者は消え去るのみと道保川公園へ向かった。
 道保川公園はやはり薬師池公園でお会いしたBさんに紹介されたフィールドである。初めて行く場所なので道を間違えてしまって、また途中、コンビニに寄り道したこともあってか45分以上も時間をロスしてしまった。しかし、それが幸いしたのか公園へ入ると座間新田でお会いした町田市の鶴間から来たというご婦人連れのグループがもう先に到着していて、ベンチにお弁当を広げている。ご婦人連れだと私のようなコンビニの菓子パンではなくて、本格的な手作りのお弁当でとても美味しそうだ。「トラツグミはいましたか?」と聞くと、「トラツグミはお出ましですよ。もうさんざん撮りました」と、わざわざ同行して場所を教えてくれた。トラツグミは公園入り口からすぐの右手の小川が流れている湿地にじっとしている。「あそこですよ。二つの杭の間」と教えて貰わなければ分からない程、落ち葉に同化した色合いである。
 「じっと待っていれば身体を揺すって餌を探し始めますよ」と教えてくれたので、機材をセットしてしばらく待つと、本当にお尻振り振りという表現がぴったりのように身体を揺すって、その振動に驚いて動くミミズ等を探している。コサギが足を震わせてエビや小魚を驚かして発見し啄ばむのと同じ方式である。「本当に綺麗だわ!」と一緒にトラツグミを観察していたご婦人が言う。トラツグミが果たして綺麗なのだろうか? まあ、鮮やかさは無いものの、しっとりとした美しさは確かにある。蝶で言ったらジャノメチョウ科の仲間のようだ。かなり暗い所にいるのでISO感度を上げてもシャッター速度は遅い。それにお尻振り振りを繰り返すから何回もシャッターを切った。「数打ちゃ当たる」という訳である。そんな訳で今日はタゲリとトラツグミで120回程シャッターを切ったが、デジタルだからなんとただ。これがフイルムなら現像代込みで5000円はかかることになる。本当に野鳥撮影にはデジタルは有りがたい。
 タゲリとトラツグミ三昧の一日となってしまったが、この観察記のために後何枚かの写真が欲しいと、ヨシガモ、オカヨシガモ、オシドリがいるという相模原貯水池に立ち寄って帰ることにした。相模原貯水池は相模原公園の駐車場から歩いてすぐの所にある。あいにくヨシガモ、オカヨシガモは見られなかったが、オシドリはたくさんいて、広大な透明度の高い貯水池は遠く旅してたどり着いた湖のようで、他のカモ類もたくさんいるから、がっしりした鉄の柵の隙間からの撮影となったがとても楽しかった。バードウォッチングをしている方に尋ねると、冬だけでなく必ず何かが見られると言う。相模原公園に行ったら必ず覗いて見る価値がありそうである。久しぶりに充実した一日で、タゲリとトラツグミを撮ったし、今度は何を撮りに行こうかととても贅沢な悩みが増えてしまった。

<座間新田で今日観察出来たもの>鳥/タゲリ(写真下左)、ハクセキレイ、ツグミ、ムクドリ、ヒヨドリ等。
<道保川公園で今日観察出来たもの>鳥/トラツグミ(写真下右)、ルリビタキ、キセキレイ、カルガモ、カワセミ、ヒヨドリ、キジバト、ジョウビタキ、アオジ等。
<相模原貯水池で今日観察出来たもの>鳥/カワウ、オシドリ(写真上左)、マガモ、コガモ、カルガモ(写真上右)、キンクロハジロ等。


1月26日、横浜市緑区四季の森公園〜鶴見区三ツ池公園

 各種の自然観察地のガイドブックに必ず紹介されていて、「四季の森」という何となくロマンチィックな響きを持つ公園なので、一度は訪れた方も多いのではなかろうか。私も数回行っているのだが、花を対象としても、蝶や昆虫を対象としても、いつもぱっとしない成果で帰って来る事が多い。どうも相性が悪いフィールドなのだ。しかし、鳥を対象とするなら広大な葦原や池や菖蒲田があるので水がたっぷりあって、野鳥たちにも好適な環境なのではないかと思って出かけてみた。今日は平日だから駐車場も無料で、まずはハス池目指して遊歩道を降りて行った。ここはカワセミ撮影のメッカで、去年、ハナショウブを撮影しに来た時には、十人近い方々が大砲のようなレンズを構えていた。もちろんここにも人工的に形の良い木が池に差し込まれていて、ここに止ったカワセミを狙うのである。しかし、今朝はとても冷え込んだようで、池のほとんどに氷が張ってカワセミ君はまだお出ましになってはおらず、カルガモやマガモが氷が溶けた部分に集まっていた。
 その他にはこれと言った野鳥は見られず、散歩の方々や幼稚園の児童等がやって来て騒がしくなリ、これでは野鳥が姿を現すはずも無く、ハス池や葦原から枝のように雑木林に伸びた小さな谷間をくまなく歩いて見たが、これと言った野鳥には出くわさない。「やっぱり四季の森公園は相性が悪いのだ」と思い、また、双眼鏡を持ったバードウォッチングの方もほとんどいないのだから、この公園は野鳥観察には不向きなのだろうとも思って、今日一日をじっくりと過ごすはずであったが、はやばや退散することにした。しかし、「ふるさとの森」はメインルートから外れていて、比較的閑散とし、田んぼもあるから何かいるのではないかと寄ってみると、初めて双眼鏡を持ったご婦人に遭遇した。「何か見られましたか」と聞くと、アオゲラ、コゲラ、ハクセキレイ、キセキレイ、アオジ、シジュウカラを見た言う。「前回、探鳥会で来た時にはルリビタキもいたんですがね」とおっしゃる。どうやらそのご婦人も、今日の四季の森公園の鳥の少なさにいささか不満のようであった。
 駐車場に戻って次は何処へ行こうかと思案したが、ここから近い「新治市民の森」や「三保市民の森」は自然度が高く、野鳥はとても多いと思われるのだが、野鳥撮影となるとかなり難しい。散策コースから順光線で撮影できる梢は少なく、逆光線になる場合が多いのだ。そこで県立公園は前回行った谷戸山公園、今回の四季の森公園と不振続きで、何となく遠慮したかったのだが、鶴見区にある「三ツ池公園」に行くことにした。三ツ池公園は、私がオギャーと生まれた時にはすでに開園していた公園だから、環境がとても落ち着いているに違いないと思ったのである。多くの方々に「末は博士か大臣か」と大いに期待されたご幼少の頃、自転車に乗ってよく遊びに来た公園である。この辺りには農業用の溜池がたくさんあって、三ツ池は溜池が三つあることから名づけられ、近くには二つある二ツ池がある。どちらも谷戸にある小さな溜池とは異なって、とんでもなく大きな池である。
 久しぶりに来た三ツ池公園はこんなにまで広かったのかと思わずにはいられない程で、散策する方も少なく、人口密度は四季の森公園に比べて5分の一以下になったように感じられた。公園の中心はその名のごとく、上之池、中之池、下之池の三つの池だが、自然度はかなり低いとは言え、雑木林に囲まれている。本によると、そこにはクサボケ、ニガナ、コマツナギ、アキノキリンソウ等が咲くと書いてあるので、季節には各種の花も楽しめるのかも知れない。池には一番好きな髪(正確には羽毛)を後ろになびかせたキンクロハジロがたくさんいる。それにホシハジロとカルガモが少し混じっている。こんなに大きな池が三つもあるのだから、他のカモがいてもおかしくないと思われるのだが不思議である。野鳥撮影を始めてからたくさんの池を見てきたが、池によってやって来るカモの種類が違うのはどういう訳なのだろう。おそらく三ツ池公園の池はとても水深があるので、潜水が得意なキンクロハジロ以外はなかなか餌にありつけないのが原因のように思われる。
 本日の三ツ池公園での特筆事項はカワウとゴイサギである。カワウはある程度の池なら何処にでも見られるのだが、雰囲気ある丸太の杭に休んでいる姿は情緒溢れて美しい。コサギにしろアオサギにしろ、サギ類ではないカワウにしろ、じっと水辺でたたずむ姿は水墨画の世界を思い起こして、とても好きなのである。次に夏にしか見られないと聞いていたゴイサギが桜の木の枝に止まっていたことである。頭から背中にかけて青黒い色をしているのだが、そこに細長い純白の冠毛をすっとたなびかせているのだから格好良い。夢中になって撮影していると、以前京都に住んでいたという鳥の大好きなご婦人が傍らにやって来て、「京都には加茂川にたくさんいますのよ。近づいてもぜんぜん逃げないんです」と言う。また、ゴイサギは夜行性の鳥で、昼間はあまり見ることが出来ないとも教えてくれた。三ツ池公園には幼鳥も含めて3羽いるらしい。
 「小枝が邪魔してすっきりとした写真が撮れなくて、移動するのをずっと待っているんです。石を投げる訳にもいかないですからね」とそのご婦人に笑って言うと、ありがたいことにゴイサギは飛び立った。しかし、今度はスダジイの枝に止まってしまって、「これではさっきより絵にならないな」とぶつぶつ言っていると、スダジイ茂みのさらに奥に入って完全に姿が見えなくなった。これでゴイサギは教えて頂いたように夜行性の鳥であることが分かった。たびたび鳥を見に来るというそのご婦人によると、珍しいものはいないけど普通に見られる鳥は生息していると言う。とっても広い公園で普通に見られる鳥だが、ああでもないこうでもないとのんびりと一日写真撮影に没頭できる、人口密度の低い落ち着いた三ツ池公園は、やはり近くに住む私にとって、貴重なフィールドであるとの認識に至って家路に着いた。

<四季の森公園で今日観察出来たもの>鳥/マガモ、カルガモ、ヒヨドリ、キジバト、モズ、シジュウカラ、キセキレイ、ハクセキレイ、アオジ、アオゲラ等。
<三ツ池公園で今日観察出来たもの>鳥/ユリカモメ、カワウ、キンクロハジロ、ホシハジロ、カルガモ、カワセミ、ヒヨドリ、キジバト、シジュウカラ、ジョウビタキ、アオジ、ゴイサギ、ハクセキレイ、コゲラ、メジロ等。


1月23日、神奈川県大和市泉の森公園

 相模原市在住のBさんが良く出かけると言う野鳥観察地訪問第2弾として、大和市にある泉の森公園へ行った。かつて昆虫や花を求めて行った事があるが、それ程の好印象を持つこと無くずっと通り過ぎていた場所である。しかし、今回、野鳥を求めて行って、自宅から近いことも相まって、これからも何べんともなく訪れたくなる公園であることが分かった。頂いて来たパンフレットをそのまま引用すると、「泉の森は、引地川の源である大和水源地を中心に広がる、大和市の自然の核として位置づけられている森です。かながわトラスト緑地に指定され、神奈川県・大和市・(財)かながわトラストみどり財団の三者で、豊かな自然の保全が図られています。樹林地と水辺空間が特色ある生態系を形づくり、約450種の植物や約50種の野鳥をはじめ、生き物たちが生息しやすい環境を育んでいます。四季折々、生き物の自然観察に最適な場所です」と書かれている。
 広大な手付かずの里山が残されている小野路町・図師町をメインフィールドとしている者にとって、また、かなり自然に配慮した考えられた作りの舞岡公園に比べると物足りなさが残るものの、樹林地オンリーのようにも感じられた前回行った県立谷戸山公園よりも、生物の多様性が感じられ親しめるフィールドであった。全ての地球上に暮らす生物の基本はやはり水。泉の森にはたっぷりと水があるのだから、後は食べ物さえあれば、野鳥をはじめとする多くの動物たちにも暮らしやすい場所に違いない。ただ難点を上げれば、東名高速道路と国道246号線に挟まれ、また、厚木基地に近いこともあってか、各種の飛行機の騒音が聞こえて来ることである。また、平日の北風吹くかなり寒い日でもあったにもかかわらず人出が多く、暖かいシーズンになったら、たくさんの人がやって来るのではないかと思われた点だ。
 まず最初に、泉の森の自然観察のメインステージとも思われる「しらかしの池」に行ってみた。池はかなり広くホシハジロがたくさん浮かび、コガモやカイツブリが見られた。しかし、一番驚いたのはいかついセグロカモメが一羽悠然と泳いでることであった。引地川は地図を見ると湘南の鵠沼海岸に流れ込む川だから、このセグロカモメはきっと湘南ボーイなのだろう。海に近い上野の不忍池にいたのは納得できるが、大和市は海岸からかなり内陸に入っているのだから理解しがたい。しかし、セグロカモメはとても大型だから、その気になれば一飛びなのかもしれない。お目当てのBさんから聞いていたヒドリガモはいないかと探して見ると、たくさんいるホシハジロの一団から遠く離れた場所で、仲良くつがいで餌を漁っている。頭部は赤褐色なのだが頭の天辺真ん中にクリーム色の帯があり、たしかモカヒン刈りという男性の髪型があったと思うが、それに極似している。また、池は浅いらしく、倒立して下半身を水面に出して餌を漁っている姿はとてもユーモラスであった。
 さて、ここがカメラを向けると「お金をちょうだい」と言う方がいると聞いていたカワセミ撮影のメッカなはずだが、辺りを見回してもそれらしき人はいない。付近にいた同好者に聞くと、その方は引地川の下流で今も健在であるとのことである。今日は下流まで行くつもりはないので、不快な思いをせずにすむなと思っていたら、池に人工的に差し込んだ形の良い木に止まっているカワセミを撮影していたら、「もっと自然らしい場所にも来るから、そっちの方を撮った方が良いですよ」と親切にアドバイスされてしまった。どこのフィールドにも必ずいるのだが、人工的に植栽された山野草や樹木の花、人的に設えた形の良い木等に止る鳥を撮った写真は、ネイチャーフォットーとして大幅に価値が下がるという考えの持ち主である。言わんとすることは十分に承知しているが、とにかく撮影して名を覚え、花や野鳥に親しみたいと思っている初心者にとっては、とんでもない大きなお世話なのだから、微笑んで優しく見守って欲しいものである。
 その後、ふれあいの森や水源地周辺まで散策してみたものの「しらかしの池」周辺が野鳥撮影には最も好適なことが分かり、午後からも「しらかしの池」周辺でじっくり腰を据えて眼を光らせていたら、まだ撮影できてないマヒワや何処へ行ってもお眼にかかれないダイサギもやって来て、今日一日でなんとか使える野鳥の写真が3種類も増えて、2月末までの3ケ月間で40種類を撮るという目標をクリアーすることが出来た。そんな訳で今日は格段と寒い日なのだが、身体はほかほかと暖かく意気揚揚と家路に着いた。泉の森公園はお世辞にも自然度が高く広大なフィールドとは言いがたいものの、こと水鳥も含めた野鳥観察には素晴らしい場所で、今日のような北風が吹く寒い日ではなく、暖かい日を選んでまた来たくなるとっても貴重なフィールドであった。

<今日観察出来たもの>鳥/セグロカモメ、カワウ、カイツブリ、キンクロハジロ、ホシハジロ、カルガモ、ヒドリガモ(写真上右)、コガモ、カワセミ(写真下右)、ヒヨドリ、キジバト、モズ、シロハラ、シジュウカラ、ルリビタキ、アオサギ、ダイサギ(写真上左)、コサギ、キセキレイ、ハクセキレイ、マヒワ(写真下左)等。


1月21日、横浜市戸塚区舞岡公園

 今日から大寒に入った。週間天気予報を見ると、今日は気温が高いが明日から物凄く寒くなるとある。もう5年程着続けている羽毛の作業着は汚れに汚れて、知っているご婦人がこのところの寒さからフィールドへあまりやって来ないから良いものの、こんなに汚い格好ではきっと嫌われてしまうに違いない。しかし、他にある防寒具に比べて格段に暖かいのだから仕方が無い。今年こそは暖かくなったら捨てようと思っているが、こんなに着古してあげれば、きっと防寒具冥利に尽きて、天国へ煙となって安らかに昇って行くに違いない。
 今日はそれほど早く来た訳ではないのに車が一台も止っていない。長いこと舞岡公園にお邪魔しているが、こんなことは珍しい。今日は曇り後晴れの予報だから、きっと始動が遅れているのだろう。今日は何処にも行かないで瓜久保の火の見櫓と河童池を往復して、やって来る野鳥たちを美しく撮影しようと考えていた。まずはミツマタ付近のアオジと思って期待したのだが姿が見えない。しかし、ミツマタの蕾(写真下左)が朝の光を受けて銀色に美しく輝いている。まだ、咲き出すのはずっと先で、黄色いまん丸な花は実に美しい。だから、ミツマタと言えば花なのだが、今朝の蕾の輝きは一際美しく、しかも風が無いから100mmマクロレンズでやんわりと撮影した。こんな前ボケや後ボケをたくさん入れた花の写真なんて、100mmマクロ絞り開放で撮影すれば誰でも撮れるのに、コンパクトデジタルカメラを使うとなると、かなり込み入ったテクニックが必要らしい。
 河童池へ行くと、暖かい朝であったためか氷は張っていないが、見回しても野鳥の姿は無い。そこでミツマタの蕾を撮ったから、この観察記が野鳥だらけになるのを避けようと、たくさんあるアオキの実が赤くなっていないかと探し回った。以前来た時にもっと色づいたら撮影しようと楽しみにしていた実は、ほとんど無くなっている。小鳥の仕業のだろうか、それとも人間の仕業なのだろうか、いづれにしても今年は艶やかに光るアオキの赤い実を撮影出来そうに無い。何処にでもたくさんあるアオキだが、その実を絵になるように美しく撮影するのはかなり至難の業で、「そんな事はないでしょう?」と思われた方は、ためしに一度挑戦してみて欲しい。河童池奥に咲く明るい色をした紅梅はかなり花をつけている。その奥にあったモミジはすっかりウソに食べられて、風通しの良い梢に変わっていて苦笑する。
 本当は徳川家康並に「来るまで待とう野鳥ちゃん」の筈なのに、豊臣秀吉的な「いないなら他を探そう野鳥ちゃん」と、今日は一日瓜久保の筈だったのに古民家の方へ歩き出しす短気な性格には我ながら笑ってしまう。今日は本当におかしい、必ず誰かが野鳥観察をしている筈のハンノキ林の湿地前にも誰も見えない。見回してみると野鳥は居ないが閑古鳥だけは確かに鳴いている。後ろを振り向くとTさんのサイクリング車が水車小屋横に置いてある。私もアマガエルのような色と奇抜な格好の車に乗っているのだから、こんなことは言えない筈だが、Tさんの自転車は熟年男性にしては少しカラフルだな等と思いながら、しばらく野鳥が現れるのを待っていると、キャリアーに撮影機材を乗せたSさんがやって来た。
 「今日は誰も居ませんね。自転車があるからTさんは来ているはずなのに、何処へ行ったんすかね」と尋ねると、「きっと古民家裏のウソを撮りに行っているのではないかな」と言う事になって、Sさんと行ってみると、Tさんが縁側に座ってウソを待っている。「水を飲みに来たところを撮ろうと狙っているんだ」と言う。ウソはすでにばっちり写真を撮っているから写欲は湧かないものの、ホオジロやジョウビタキがやって来るはずだからと、三人して穏やかな陽光差す縁側で親睦会となった。斜面を見ると早くも福寿草が笑っている。
 「昨日、谷戸山公園で江ノ島で撮ったハヤブサを見せて貰ったんですが、とっても格好が良いですね。戦闘機や夜行列車に“隼”と名づけたのが分かりますよ」と言うと、Sさんが江ノ島のハヤブサの居る場所を丁寧に教えてくれた。そこには釣り人の撒き餌を狙って、イソヒヨドリもたくさん見られると言う。どうもヨットハーバーの堤防の付け根から降りた磯で、かつて私がタモで大蛸を掬い上げた場所のようだ。「ハヤブサというのは海岸の鳥なんですか」と聞くと、Sさんの生まれ故郷の茨城にもくさん居て、その昔、鳩と間違えて空気銃で打ち落としてしまった思い出話をしてくれた。しかも、ハヤブサの骨格は他の鳥と異なって頑丈に出来ていて、肉が簡単には取れずに食用にはならないと言う。今ではすっかり「花鳥とおる」と温厚となったSさんにも、そんな若い頃の武勇伝があったのかと感心してしまった。歳月は人を変えるが、変わらないのは政治だけだなと改めて苦笑する。
 ウソを辛抱強く待つTさんSさんと別れて、谷戸奥に向かって歩いて行くと、図鑑によると昆虫類を主に食べるとあるエナガだが群がってハンノキの実をつついている。その動きはかなり速く、野鳥の中でも撮影が難しいと聞いていたがその通りである。そこで出来るだけシャッター速度が速くなるようにとISO感度や絞りを決めて、オートフォーカスでバシバシとシャッターを切ったら、なんとかものになる写真が数枚だが手にすることが出来た。私にも難しいはずのエナガが撮れてしまうのだから、撮影機材の進歩はやはり素晴らしい。エナガを撮影して意気揚揚と水車小屋に戻ってみると、来てるは来てる、Fさんやご婦人たちがアオゲラやヤマシギを待って楽しそうに話している。天気予報は外れて正午前後から陽が陰って曇り空となったものの、舞岡公園は野鳥好きで一杯となったのだから本当に楽しくなる。

<今日観察出来たもの>花/ソシンロウバイ、ウメ、フクジュソウ等。鳥/エナガ(写真上左)、ヤマシギ、キジ、キジバト、モズ、ウソ、ジョウビタキ、ツグミ、ムクドリ、ヒヨドリ、シメ、カワラヒワ、アオジ、カシラダカ、シロハラ、シジュウカラ、コサギ(写真上右)、アオサギ、カワセミ、キセキレイ、ハクセキレイ等。その他/エノキタケ、クジラタケ?(写真下右)等。


1月20日、神奈川県座間市県立谷戸山公園〜座間新田〜相模原公園

 今日は一度は行ってみようと思っていた座間市にある県立谷戸山公園へ行った。地図を見ると国道246号線を使えばかなり短時間で行ける事が分かった。しかし、初めての場所だし左前方に大型トラックがいたので、目指す西原交差点の標識が見えずに通り過ぎてしまった。こんな時はあまり交差点の無いバイパス道路はUターンして戻って来るのが大変である。そんな訳で少々時間を食ってしまったが、無事に公園無料駐車場に着くことが出来た。さて何処へ行ったら目的の鳥が撮影できるのかと案内板を見ると、野鳥観察小屋や水鳥の池と呼ばれる場所に行けば何とかなるのではと歩き始めた。遊歩道はかなり樹木の鬱蒼とした森の中を下って行くように作られている。各所に倒木があるから、ここはきっとキノコの季節にはとても良いだろうなと感じられた。途中、観察小屋があったので中に入ってみたのだが、本当に野鳥が観察できるのかな?と疑問符がつくような場所にあって、また、野鳥が好きになるように樹木が整理植栽されている訳でもなく、何だか「作れば良いのでしょ」と言ったお役所設備のようでがっかりした。
 ようやく樹木の間から池が見え、野鳥撮影の方々が集まっているのが見受けられた。まずはそこにお邪魔しなければ失礼とばかりに降りて行くと、どうやらそこが水鳥の池らしい。池にはマガモ、コガモが居たが、みんな翼に頭を差し込んで眠っている。かなり遠い池にかかる樹木の枝には、カワセミが食事にやって来ていた。「今日はどうなんですか?」と人の良さそうな方に聞くと、「あまり野鳥が現われない」と言う。そこで少しばかり探検とばかりに谷戸田の方に降りて行くと、途中、丁度良い高さにオニグルミの冬芽や葉痕が笑っていた。谷戸田にも鳥の姿は見えず、枯れたススキが広大に広がる丘の斜面に行ってみた。規模こそ野津田公園の茅場に比べると狭いものの、きっと夏にはナンバンギセルがたくさん見られるはずだと思われる様相をしていた。ここにはカシラダカがたくさんいたが、絵になる場所にはなかなか止ってくれない。
 そんな訳で水鳥の池へ引き返すが、野鳥撮影に手ごろな距離の場所には何もやって来ない。あたりを見回すと左手の坂の途中に何人かの野鳥撮影の方が固まっているのに気づいた。「何を狙っているんですかね?」と先程の方に聞くと、「相思鳥」との事であった。今日はどうやら谷戸山公園の野鳥たちは休日のようなので、まだ見た事の無い相思鳥を見てから駐車場に戻って、午後は何処か違う所に行ってみようと考え近づいてみると、背後から誰かが私の名を呼ぶ声がする。あれ誰だろう。谷戸山公園は初めてだし、知っている人はいないはずなのにと不思議に思って振り向くと、寺家ふるさと村で2回程出くわしたIさんであった。しかも、お仲間で舞岡公園や大原みねみち公園で出会ったHさんも笑っている。「どうしたんですかこんなに遠い所まで出張して」と言うと、「相思鳥を撮りに来たんだ」と言う。今朝一回現われたのだけどその後現われないらしい。
 「ところで相思鳥ってどな鳥なんですか?」と質問すると、Hさんがご自分で撮った写真のストックブックを取り出して見せてくれた。前に薬師池公園で撮ったものだと言う。とっても綺麗な鳥である。しかし、帰って図鑑を調べて見たが残念ながら相思鳥は載っていない。Iさん達が教えてくれたように、飼い鳥が野生化した鳥のようである。言うなれば伝書鳩が野生化して土鳩になったようなケースなのだが、土鳩君には失礼だが、相思鳥はとても綺麗で野鳥愛好家の間で人気者だ。「しかし、だんだん鳥にのめりこんで行動範囲が広くなって来たようだね」と笑いながらIさんが言う。「いやー、鳥の面白さが分かって来たようだけど、Iさんのようにはのめりこまないと思いますよ」と笑って言い返すと、「どうだかね」とそこにいた方々に相槌を求めるかのように言ったら、みんなもげらげら笑った。いづれにしても鳥を始めてたくさんの方と知り合って、今までのようにお忍びで行動しても、必ず知っている方に出会ってしまうというのも少し困りものである。なにしろお友達のハンドルネームでは無いが、一人静かに散策するのも好きなのである。
 結局、相思鳥は少し待ったが現われず。みんなが菓子パンやおにぎりを食べ始めたのを見て、おなかの虫が鳴き始め、駐車場に足早に戻った。午後からは何処へ行こう。泉の森公園、相模原公園、道保川公園と迷ったが、このHPの掲示板にたびたび投稿下さるBさんが撮影したタゲリの美しさが頭にちらついて、座間新田に寄ってから、Iさんの話ではイカルが見られると言う相模原公園経由で帰宅するコースをとった。残念なことにタゲリもイカルも現われなかったが、そんなお急ぎ掛け持ちコースで色々巡り歩いて見られる程、野鳥観察は簡単なものではなかろう。今日はすっかりフィールド偵察となってしまったが、それぞれが今度来る時にはじっくりと腰を構えて取り組むに値する魅力溢れるフィールドであった。

<今日観察出来たもの>花/ソシンロウバイ、ウメ等。鳥/マガモ、コガモ、キジバト(写真左)、モズ、ツグミ(写真右)、ムクドリ、ヒヨドリ、アオジ、シロハラ、シジュウカラ、アオゲラ、カワセミ、ハクセキレイ等。その他/オニグルミの冬芽と葉痕(写真下)等。


1月18日、町田市薬師池公園〜ぼたん園〜小野路町・図師町

 昨日雪が降った。とは言っても大雪ではなかったので、自宅周辺では積雪は見られなかったが、町田市に住むMさんによると町田市は薄っすらと積もっていると言う。関東地方の平野部で雪が積もるなんて年に一度か二度、まったく積もらない年もあるのだから、フィールドへ出かけて行って雪景色や様々な雪を被った物や雪の上に落ちた物を写せる稀有なるチャンスなのである。写真の腕も探す力も未熟だから、雪の積もったエノキタケやナメコ、雪の上で遊ぶ小鳥たちを写すなんて不可能だが、フィールドへ出向けば、何かしらの雪をテーマとした写真が撮れるのだから嬉しくなる。そんな期待を込めて車を走らせたのだが、町田市に近づいても積雪が見られない。最近、朝寝坊が得意となってしまったので、図師町の南側に向いた谷戸では雪がすっかり溶けてしまっているだろうと考え、昨日、買った超望遠ズームレンズを試写してみようと、まずは薬師池公園へ行った。
 薬師池公園の駐車場に車を停めて公園内を眺めて見ると、陽の当たらない場所に薄っすらと雪が積もっている。かなり重たくなるが、野鳥撮影用機材と一般撮影用機材の両方を持って行くことにした。雪の積もっている所は先客が歩いたらしい跡が残っているが、久しぶりに味わう雪上を歩く楽しさを味わいながら、何か被写体は無いかと探し回るが、昨日の雪は風も無く真綿が舞うような雪だったから、真っ白い雪の上に赤いカンツバキ、黄色いソシンロウバイ等の花は無理にしても、被写体となる楽しい物は落ちていない。
 こうなったら野鳥撮影だと萬葉草花苑裏に行って見ると、数人の野鳥撮影の方が機材を構えている。しかし、“やらせ”がお好きなグループがいて、杭や石や枯れた木の上に他所から集めてきた雪を乗せ、そこに来た野鳥を撮ろうとしているのである。確かに雪の上に野鳥が止ってくれたら、冬らしい写真が撮れるだろうが、“やらせ”で撮った写真は何処か不自然で、私なんぞ気が小さいから、後々までその写真を見ると嫌な思いに駆られてしまう。以前、蝶を仮死させて花の上に置いて撮っている方や、キノコを抜いて絵になる場所に移動させて撮影している方を見たが、野鳥の世界でも“やらせ”が好きな方がいるのには驚いた。これは餌付けして呼び寄せるのとは大違いなことだと思う。そんな訳で何だかその場にいるのが嫌になり、今日は野鳥もあまり出て来ないようなので、車に戻り野鳥撮影用機材を置いて、身軽になってぼたん園へ行った。途中、日陰の雪が積もった所で雪の上に落ちている実や葉(写真下)を撮り、早くも咲き始めた梅を撮ったりしながらの気ままな散策はとても楽しい。ぼたん園の寒牡丹は見頃を過ぎていたが、真っ白い絨毯の中に顔を出した水仙の芽(写真下左)を撮ったり、雪景色を背景としたカンツバキを撮ったりしていたら、あっという間に12時になった。
 午後は定番の小野路町万松寺谷戸へ行った。最近、薬師池公園近くのカツ丼屋「かつ屋」のメニューはほとんど食べ尽くしてしまったので、セブンイレブンでお弁当を買っていたら、なんと暫く会っていない図師・小野路歴史環境保全地域の立役者であるTさんに出会った。「野鳥撮影に嵌ってしまって、万松寺谷戸ばかりに行っています」等と新年の挨拶もせずに照れながら言うと、「また、ちょくちょく寄って行って下さい」と柔和な顔でおっしゃるので、「今年も宜しく」とやっと新年の挨拶をすることが出来た。
 万松寺谷戸の車の中で弁当をぱくついていると見慣れた車がやって来た。寺家ふるさと村で冬虫夏草に嵌っているN博士(もちろん会社員)と一番弟子のEさんだ。「どうしたの?」と尋ねると、「高尾山の帰りに、多分、いると思って寄って見たんだ」と言う。「また、蛇滝にヤンマタケを探しに行ったの?」と聞くと、そうだと言う。確か12日にもヤンマタケを探しに行ったはずで、その時、シュイロヤンマタケを一つ見つけたのだが、もっと見つけたいと思って再度の挑戦となったらしい。ここでシュイロヤンマタケの説明をすると、まず冬虫夏草とは昆虫やクモから生えるキノコのことで、シュイロヤンマタケとはトンボの王様であるヤンマから生えるやや朱色がかった冬虫夏草と言うことになる。
 大切そうにケイキの箱にシュイロヤンマタケを採集して収納し、家へ帰って飼育と言うか栽培と言うか、何と言ったら良いのかは分からぬが、育てるのだと言う。「ことによったらもっと成長して、先端に小さな玉が出来るシュイロタンポヤンマタケかも知れないから」と言う。どう見ても素人目にはカビの生えたミルンヤンマのミイラで、何だかムカデのようにも見えるのだが、彼にとってはとんでもなく大切なお宝なのだ。「ヤンマタケを見つけたんだから、今度はスズメバチに生える冬虫夏草」だねと言うと、「絶対、今年見つけてやる」と笑って言う。まったくたくさんの自然大好き人間を知っているものの、この冬虫夏草のN博士と五反田谷戸の山桜の古木の下で捕獲したマムシを飼っているYさんは、とっても普通の方なのだが、ずば抜けて変わった趣味の持主で、まるで冬虫夏草のような方である。
 その後、一番弟子のEさんが図師・小野路歴史環境保全地域は初めてだと言うので、写真撮影は切りやめにして“ネズミのモズの早にえ”をスタート地点として、一回り案内することとなってしまった。途中、日曜日だと言うのに誰にも会わなかったが、五反田谷戸でIさんが敷物を引いてバードウォッチングをしていた。今日の山桜の古木の上の芝地は風も無くとっても暖かい。まだ今日は現れていないと言う猛禽類もきっと現われて、Iさんは先週に続いて、またしてもとっても楽しかったと家路に着くに違いない。

<今日観察出来たもの>花/カンツバキ(写真上右)、カンボタン、ウメ(写真上左)等。鳥/モズ、ジョウビタキ、ルリビタキ、ツグミ、ムクドリ、ヒヨドリ、アオジ、シロハラ、アカハラ、メジロ、シジュウカラ、カワセミ、キセキレイ、ハクセキレイ等。その他/オオカマキリの卵のう、ネズミのモズの早にえ、ジャコウアゲハの蛹、ヒラタケ、エノキタケ、ウチワタケ、ヒイロタケ、スエヒロタケ、クモについた冬虫夏草等。


1月15日、横浜市戸塚区舞岡公園

 このところ関東地方は凄く寒い。冬なんだから寒くて当たり前、楽しんで身を寒さに震わせなければならないのだが、風邪だけは引きたくない。今は二十四節気でなんに当たるのだろうと暦を見ると、小寒で1月21日から大寒に入るとある。だからこんなに寒くて当たり前なのだ。立春までのあと3週間は、我慢我慢の連続と言う事になる。今日は大好きな冬芽や葉痕、各種の昆虫の越冬、小石川植物園のシナマンサク、神代植物公園のロウバイ等に、「おいでよ、おいでよ」と袖を引かれるのを振り切って、野鳥撮影のために舞岡公園へ行った。かつて小野路町で良く同行した老昆虫写真家のTさんが、「乗ってる時は我武者羅にやっておかないと駄目だよ」と言っていた。あの時は確か主に花を一年間追いかけていた時である。去年はキノコを主に追いかけて、なんとなんと道端自然写真館の「星のへや」に、180枚もの写真を貼り付けてしまった。野鳥はキノコと異なって、見つけたって飛んで逃げて行ってしまうから手ごわいが、それでも1年間やればかなり多くの写真が撮れそうに感ずる。
 さて舞岡公園に到着すると、いつものように瓜久保の河童池周辺を探索した。このHPの掲示板で論議盛んなアオジを、「これぞアオジ」と言える決定的で美しい写真を手にしたかったのだ。しかし、いつもミツマタ周辺で必ず見られるのに、今日は1羽もいない。まあ、また戻って来るのだからと雑木林を見上げると、カワラヒワが群れをなして止っている。とっても小さな鳥だが翼の黄色い斑紋がチャームポイントの美しい鳥である。私の機材ではだいぶ距離が遠いものの、2羽程入れて作画すると、なんとか見られそうなので慎重にシャッターを切った。もっと大きく写したいとポケットに忍び込ませたテレコンを探していると、何に驚いたのか飛び立ってしまった。しかし、その後にシメが1羽やって来た。シメも観察はしているものの、写真を撮っていない野鳥である。しめしめと言う訳である。シメは嘴が太いからすぐ分かる。このためシメはカワラヒワとは異なる科だろうと思って図鑑を開いて見たら、同じスズメ目アトリ科で、このところ舞岡公園で人気者のウソに近いことが分かった。
 今日は幸先が宜しいと河童池に行って見ると全面氷結(写真上右)している。諏訪湖などの大きな湖なら全面氷結したら新聞の記事にもなろうが、小さな溜池は冬なら全面氷結しない方がおかしい。もしもしなかったら大変な暖冬で、逆に天変地異が起こるかもしれないと気味が悪くなる。やれやれ舞岡公園にも本格的な冬がやって来た、と胸を撫で下ろして水車小屋の方へ行った。今日は水車小屋前のハンノキの湿地に何が見られるだろう、誰が来ているだろうと楽しみな場所なのである。人としては鳥の好きなTさん、Fさん、Sさんがいた。しかし、何だかTさん、Fさんが空々しくよそよそしい、しかもカメラも構えていない。良く見るとご婦人を交えた自然観察会らしく、私の駄洒落に付き合っている暇は無いと言うことらしい。まあ、私だって写真講習会の講師で舞岡公園へ行ったり、一人静さんたちのご婦人連れだとそうなるのだから仕方あるまい。
 さてと問題の鳥は何が来ているのかなと聞くと、ヤマシギとアオゲラらしい。このところ私が来ると必ずアオゲラが顔を出してくれるので、今日はプロの写真家も舞岡公園までわざわざやって来ると言うヤマシギに是非会いたいと思った。傷だらけの年季の入った大砲のようなレンズを構えている熟年の男性によると、「ヤマシギはそれほど珍しい鳥ではないが、主に夕方から夜間にかけて湿地に出て来てミミズ等の餌を探すので、昼間に見られる所は少ない」と言うことであった。なるほど舞岡公園は昼間も顔を出すのだから、とっても貴重な観察場所で、ヤマシギ会いたさ、撮影したさで野鳥愛好家が水車小屋前のハンノキの湿地に集まって来るのが、これでようやく分かった。しかも他のシギと異なって赤と黒のだんだら模様が後頭部にあるかなり大きなシギであると言う。
 しかし、残念な事に午前中は現われなかったが、午後になって再び行って見ると、アオゲラとヤマシギが同時刻に姿を現すという幸運に恵まれた。しかもヤマシギは2羽も現われた。どちらともかなり遠いので写真には撮れなかったが、かなり長い間観察出来た。隣にいるご夫婦は興奮してしまって、「ほらあそこよ、2羽いるでしょう、嘴が長いでしょ、あれがヤマシギ」と、奥さんがご亭主に大きな声で言うので、まるでNHKの実況放送を聞いているようで、野鳥初心者の私には非常に有りがたかった。やがてヤマシギは湿地奥の藪の中に消え、「あーあ」とそこに居合わせた全員から大きな溜息が漏れた。たかが野鳥、たかがヤマシギなのに、野鳥好きにはたまらない存在なようである。 しかし、今日は大物には巡りあったものの、あまり良い写真が撮影できなかったなと思いながら車に戻り、気を取り直して河童池をもう一度覗いてみようと行って見ると、雑木林に陽が落ちる寸前の斜光が黄緑色のアオジをくっきりと浮かび上がらせて、思わず美しいと呟きながら何枚もシャッターを切った。これだから舞岡公園通いは、当分の間、止められそうも無い。

<今日観察出来たもの>花/ソシンロウバイ、ウメ、フクジュソウ等。鳥/ヤマシギ、キジバト、モズ、ウソ、ジョウビタキ、ツグミ、ムクドリ(写真上左)、ヒヨドリ、シメ(写真下左)、カワラヒワ、アオジ(写真下右)、シロハラ、メジロ、シジュウカラ、アオゲラ、コサギ、カワセミ、キセキレイ、ハクセキレイ等。


1月12日、東京都町田市小山田緑地〜小野路町

 このところずっと公園巡りをしていたようで、どっぷりと自然の中に浸りたいという欲求がかなり強くこみ上げて来た。しかし、野鳥撮影の目標40種は超えて45種類位になったものの、種類数においても写真の出来栄えにおいても、もっと上を狙おうと思っているので、まだまだ気楽に里山にどっぷりと浸る訳には行かない。そんな事もあって今日は午前中は小山田緑地へ、午後は小野路町の万松寺谷戸へ行った。家を出ると青空が広がっているのに、目指す町田市方面は曇り空である。良くは分からぬものの、国道246号線を挟んで天候が異なることがある。また、八王子市の浅川あたりを境にして、また天候が異なるようである。今日は横浜市港北区、都筑区は晴れ、横浜市青葉区、町田市は曇り、八王子市は晴れと言った斑模様のようで、言わば多摩丘陵は晴れの区域に挟まれて曇りと言う事になる。
 小山田緑地に着いたが、空は雲に覆われ気温が低い。こんな日は野鳥もお出ましにならないようで、もちろん人もお出ましにならないから、しんと静まり返っている。もうすぐ午前10時だというのに、池と池の間を流れている小川はすっかり凍りついている。久しぶりに氷の造形(写真上左)を撮影しようと、あちこち絵になるものを探して歩くが、傾斜がある凍りついた小川はつるつる滑るので慎重に歩く。これはというものを見つけて三脚を立てるのだが、三脚も氷の上ではしっかりと固定出来ない。こんな少面積の小さな流れだってこうなのだから、山間の渓流に氷の造形を撮りに行ったら大変なことになるだろう。撮影者自身も三脚も鋭いアイゼンを付けなければにっちもさっちも行かないはずだ。
 この観察記に載せられるものが撮れたかどうかは定かで無いが、かなり苦労して撮影が終わり雑木林を見回してみたが、やはり鳥の姿は見えず、さえずりも聞こえない。こうなったら樹木の幹で越冬する昆虫でも撮影しようと、クヌギの幹を舐めるように調べて回ると、黒々としたヨコズナサシガメの5齢幼虫が集団で樹皮の割れ目で越冬していた。かなり昆虫好きな方でも、このヨコズナサシガメの幼虫の集団越冬には眉をしかめる。まずは黒光りするねばねばした身体が、ご婦人たちの大敵であるゴキブリを連想させ、それが多い時には数十匹もの集団となり、中にはじわりじわりと蠢いている個体もいるのだから尚更だ。去年の観察記で書いたと思うが、クリノオオアブラムシと同様に、ご婦人たちにはノーサンキューの昆虫なのである。その後、すこしづつ気温が上がり始め、シロハラ、ツグミ、ジョウビタキが現われ、高い樹木の小枝にはシメが止っている。しかし、かなり遠く、しかも最悪の曇り空に抜かなければならないのだから良い写真が撮れる訳が無いと諦める。
 午後からは久しぶりの小野路町、とは言っても3日に来たのだから9日ぶりなのだが、懐かしい心洗われる大気が漂っている。去年、大変お世話になったTさんにもまだ会ってないし、今日はいつもの午後のコースを歩くことに決めた。まずは“ネズミのモズの早にえ”はどうなったかと見に行くと、9日前とほとんど同じで変わりがない。どうしても見たいと言っていた“裏庭”さんも、きっと満足した事だろう。次にエノキタケは成長して撮影しごろになったかなと行って見ると、こちらは異常乾燥にあって、すっかりしからびてしまった。さてと今日はこれと言ったものを撮影していないから、野鳥撮影用機材とその他用の機材を担いで谷戸奥の栗林へ行った。万松寺谷戸も今日の天候のためか野鳥も人影もなく静まり返っている。元気なのは相変わらずカラスだけだ。
 いつもの場所に三脚を立て野鳥撮影用の機材をセットするが、何も現われない。それでは“花虫とおる”だから虫を撮ろうと付近を舐めるように探して見たが、いつもならいるはずの樹肌に擬態したキノカワガ、小枝にぴったりと身を寄せて小枝になり切ったコミミズクの幼虫、小さなお饅頭が並んだようなヤママユの卵等が見つからない。まあ、鳥が来ないから来るまでの間に見つけよう等と言う生半可な気持ちだから見つからないのかもしれない。やはり越冬する昆虫たちを見つけようと思ったら、それだけに焦点を合わせた目と熱い思いがなければ駄目なのだ。そんな事を思いながら立掛けた野鳥撮影用機材の所に戻ったが、野鳥は相変わらず空振りが続く。とてつもなく暇なので、友人に“小野路から愛を込めて”等とメールしていたら、若いご夫婦がやって来て、エノキの根際の落ち葉捲りを始めたので、この方々はお仲間だとすぐに分かった。「年初最大の小野路の話題は、ネズミのモズの早にえですよ」と言うと、特に、ご主人がどうしても見たいと言うので場所を教えてあげると、まずはそれを見てから散策と来た道を戻って行った。
 もう野鳥は駄目だなと思い車に戻って昆虫専用の機材だけにしてTさん宅あたりまで行って見ようと下って行くと、栗林で先程のご夫婦が一生懸命になってクリやウメの小枝を探している。「見つかった? ネズミのモズの早にえ」と聞くと、「ありました。これは本当に貴重ですね」と笑顔で言う。どうやらネズミのモズの早にえだけでなく、他の早にえも探しているようだ。そこでお仲間に入って私がオケラの早にえ、ご主人がムカデの早にえを探し出した。ムカデの早にえはネズミより気持ちが悪いのに、ご主人は一生懸命になってデジカメに納めている。「そんな変なものに興味を持ち始めると、将来は冬虫夏草かな? それに離婚されちゃうよ」等と冗談を言っていたら、クリの大枝にからんで気品溢れるクズの葉痕が微笑んでいる。これはこれは絵になると数多くシャッターを切ったらフイルムはちょうど終わって、こうなったらTさん宅へはこの次にしようと帰宅の準備をしていると、野鳥が大好きなIさんがやって来た。
 「良いもの見せてあげる」と、また、余計なお節介をしてから今日の観察結果を聞くと、五反田谷戸に一日中いて、ルリビタキやアカハラ等の鳥をたくさん見てとても幸福と言う事であった。話していたらIさんのお気に入りの場所と私のお気に入りの場所は同じで、万松寺谷戸の栗林と五反田谷戸の芝地だそうで、熟年男性ではなく歳若いご婦人と一緒なんて何だかとても嬉しくなった。どちらも自然観察だけでなく、傷ついた心を癒す絶好の場所なのである。今日はなんだか“ちんぷんかんぷんな道端自然観察”に終始してしまったが、やっぱり図師・小野路歴史環境保全地域は最高と、またしても認識する一日となった。

<今日観察出来たもの>昆虫/オオムラサキの幼虫、ジャコウアゲハの蛹、ヨコズナサシガメの幼虫(写真上右)等。鳥/ツグミ、シロハラ、ジョウビタキ、ヒヨドリ、モズ、ハシブトガラス等。その他/ネズミのモズの早にえ、オケラのモズの早にえ、ムカデのモズの早にえ、クズの葉痕(写真下左)、ウメノキゴケ(写真下右)等。


1月11日、横浜市都筑区茅ヶ崎公園〜大原みねみち公園

 新年明けてから色々なフィールドへ行ったが、たとえ県内でも、寒くて遠くへ行く元気が出ない。この季節ではなく、また、野鳥撮影が主でなければ何処へ行っても被写体が一杯だが、野鳥撮影となると考え込んでしまう。年末から野鳥を探して歩き回ったが、どうやら浅い溜池があったり、浅い小川が雑木林の近くを流れているような所に野鳥が多いようである。いくら餌があっても、人間同様に、からっからの天気が続くのだから、水を飲まなければ暮らして行けないのだろう。そんなこともあって今日は自宅から一番近い港北ニュータウンにある公園巡りとなった。
 まず出かけたのが御馴染みの茅ヶ崎公園である。生態園は10時位に開くはずだし、風が強くて樹木の枝が揺れるから、暫くは落ち葉捲りによる昆虫探しをしてみた。各種の落ち葉の葉裏で越冬する昆虫たちを探し出す秘訣は、確か去年のこの時期の観察記で書いたと思うが、陽があまり当たらず、風も避けられ、しかも湿っている場所の樹木の根際が最高なのである。このような場所となると、北斜面の窪地がぴったりと当てはまることになる。窪地に到着すると年末までいくらか枯れ葉が残っていた雑木林も、ヤマコウバシという樹木を除けば、みんな葉が落ち、クヌギやコナラの梢が銀色に輝いて青空に突き出ている。この光景は、いつ見ても目が覚めるほど新鮮である。暖冬暖冬と言われても、いつもと変わらない厳しい冬の雑木林が天空を覆っていた。
 まずは定番通りにエノキの根際の落ち葉を捲って見た。もちろん陽が差さない北側の落ち葉を重点的に捲るのだが、当然、エノキを食べるゴマダラチョウの幼虫がたくさん見つかった。ゴマダラチョウの成虫は、大好物である樹液が出るコナラやクヌギが少なくなって成虫(蝶)を観察することが少なくなったが、都市周辺のかなり自然度の落ちる雑木林でも必ず生息している。例えば綱島市民の森や慶応大学がある日吉の雑木林でも、落ち葉捲りによって容易く生息が確認できる。一生懸命、落ち葉を捲っているとシロハラがすぐ近くにやって来て地面をつついている。これは撮影のチャンスと思ったものの、野鳥撮影用の機材を持って来なかった。野鳥だけでなく様々な被写体が撮影対象であったとしても、こう言う時に限って機材を持参していない時が良くあるものである。だから、重たい思いをしても、あらゆるチャンスに対応できる機材を持って行きたくなるのだ。
 その後、落ち葉捲りで必ず見つかるワカバグモとエサキモンキツノカメムシを見つけたが、写真を撮ろうとすると北風が強く吹いて、落ち葉諸共飛んで行ってしまう。こんなに風が強くては色々な昆虫を見つけたとしても撮影できないと、早々落ち葉捲りはほんの一時で終了となった。今度は撮影機材を野鳥用に変えて茅ヶ崎公園生態園へ行って見ると、アオサギが陽が当たる木の手すりの上で日向ぼっこをしている。見ると北風に羽毛を毛羽立たせていてなんとなく貧相に見える。きっと、アオサギと言えども今朝の冷え込みと北風は身に堪えるのだろう。生態園には北風が舞っているだけで誰もいず、野鳥も少なかったので大原みねみち公園へ足を早めた。
 大原みねみち公園は浅い池があって小川も流れているから、野鳥には快適な場所のようである。また、日当たりが良いから暖かく、おまけに人が良く通るから野鳥たちも人慣れしていてとても有り難い。ここのスターは何と言ってもカワセミだが、今日は少なくとも2羽もいて、何だかライバル意識を燃やしているようで2羽とも落ち着かない。それでも水面高くホウバリングして餌を見つけ、水中にダイブするのを何べんも見ることが出来た。今度、高速シャッターにしてホウバリングしているところを撮影しよう。その他、ジョウビタキの綺麗な雄がいたが残念ながら撮影することは出来なかった。しかし、撮りたい撮りたいと思っていたオナガが水を飲みに来たので、ベストショットとは言えないもののなんとか撮影出来てラッキーだった。
 何処へ行っても今日は風が強いからと午後も港北ニュータウンの公園をうろついた後、知人であるHさんの写真展「野の花、野の寸景」を見に寺家ふるさと村の四季の家へと早上がりとなった。なお、写真展は今日が初日で、1月25日まで開催されている。

<今日観察出来たもの>昆虫/ゴマダラチョウの幼虫、エサキモンキツノカメムシ、ワカバグモ(写真下)等。鳥/アオサギ、コサギ、カルガモ、カワセミ(写真上左)、オナガ(写真上右)、シロハラ、シジュウカラ、ジョウビタキ、コゲラ、メジロ、ヒヨドリ、モズ、スズメ等。


1月10日、東京都町田市薬師池公園

 野鳥は撮りたいが同じ場所へ行ったら、この「つれづれ観察記」が面白くなくなってしまう。今日はどうしようかなと考えていたら薬師池公園を思い出した。フィールドで出合った複数の方が、「あそこはルリビタキが餌付けされていて、上手く撮れたとしても本当の自然の中での写真ではないのでね」等と言っていたので行くのを躊躇していたのだ。ウィークエンド・ナチュラリストと自称していて、ナチュラリストという言葉が入っているのだから、なるべく自然の中で撮影したいと思っているのだが、そう片意地張って、出かけて行っても何にも撮れないととてもつまらない。最近は足が遠のいているが「大海原に釣り糸を垂れているだけでも幸せ」等と釣り場で良く言う方がいるが、やはりり大漁とまでも行かないまでも、そこそこ釣れないとやはりつまらないものである。私は節操が無いのか、目的はてっとり早く完遂して、それからじっくりやれば良いと思っている輩でなのある。それに野鳥撮影は始めたばかり、明るい焦点距離の長いレンズを持っている訳でもないのだから、近くまで野鳥がたくさんやって来る場所がベストと言うことになる。
 さて、長々と屁理屈を並べてしまったが、今日行って、薬師池公園ならびにその周辺は、写真撮影には絶好の場所であると再認識するに至った。なにしろ広々としていてしっかりした駐車場が無料であること、各種の花の咲く樹木が植えられているし、ボタン園や雑木林や田畑も近いから、一旦、駐車場に車を停めてしまえば、一日中楽しめると言う訳である。今日は土曜日なのに、このところの寒さも手伝ってか、駐車場には車が少ない。萬葉草花苑裏の古民家周辺が、ルリビタキが餌付けされていると言われている場所である。餌付けと言っても正確には野鳥撮影が趣味の方が、餌を撒いてルリビタキ等の小鳥を呼び寄せているのだから、本当の意味での餌付けとは異なるのは言うまでも無い。車を停めるとその場所に直行しようかとも思ったが、この観察記が野鳥だらけになるのもつまらないから、銀鉛フイルム一眼レフカメラに105mmマクロレンズを付けて、蓮田の傍らに植えられている植物の冬芽を撮ろうと歩き始めた。まずは尖がり帽子を被ったリョウブの冬芽を探したが、北風に完全に吹き飛ばされてしまったようで、帽子を被っているものは一つも無かった。
 仕方無しにと言っては失礼だが、アジサイ園に寄り道すると、様々な顔をした冬芽や葉痕がこちらを向いてウインクしている。まだ、あまり陽がさし込んでいなかったし、早く野鳥を撮りたいこともあって、かなり安直に撮影してしまったが、じっくりと取り組めば作品にすることが可能と思われる程の数の多さである。また、前方を見ると、いかにもキノコが生えていそうな広葉樹の丸太が積んであった。もしかしたらエノキタケが生えているのではないかと探してみると、エノキタケは無かったものの、白い手の平の格好をしたスエヒロタケと鮮やかな朱色のヒイロタケが生えていた。ヒイロタケなら久しぶりの観察記登場となるので、構図に気を配って美しく撮影した。
 しばらくの時間寄り道してしまったので、太陽はだいぶ昇り気温も低めだがかなり上がって来た。そろそろ野鳥たちがたくさんお出ましになっているだろうと、梅林を抜けて萬葉草花苑裏へ向かった。途中、ソシンロウバイが植栽されている場所があるが、あまり陽が当たらない場所だから蕾がまんまるに膨らんで来たという状況で、開花にはまだ10日以上はかかりそうである。萬葉草花苑裏の古民家に到着すると、5、6人の方がカメラを構えている。餌を撒くので近づくとすぐに逃げてしまうシジュウカラがたくさんやって来て、様々な場所に止って実に美しい。しかし、シジュウカラはちょこちょこ顔を動かすから、たくさんいてもなかなか撮影は難しい。それでも、時折やって来るヤマガラやマヒワやエナガに比べれば圧倒的な数の多さだから、置きピンしてちょっとピントを合わし数多くシャッターを切れば、なんとかものに出来る。ここはシジュウカラを様々な絵柄で撮影するのには格好の場所で、ヤマザクラの幹に止る絵柄、石の上に止る絵柄、坊杭に止る絵柄、小枝に止る絵柄等、考えられるだけの様々なシジュウカラの写真を手にすることが出来そうである。
 さて、話題の餌付けされているルリビタキであるが、それはそれは人慣れしていて近くにやって来るし、しかも何羽もいるようで、入れ替わり立ち代り現われて様々な場所に止ってくれる。年末に寺家ふるさと村で撮影しているから他の野鳥の方が撮影したかったにも関わらず、もうルリビタキは撮りたくないと言う程何カットも撮ってしまった。しかも、近距離だからズームレンズの焦点距離は短めですみ、ばっちり鮮明に眼にピントが合ったものが撮影出来たのは言うまでも無い。また、ジョウビタキもとても人なれしていて、上を向いて夢見るような表情や、下を向いて何かを考えているような表情や、横を向いた凛々しい表情や、後ろを振り返って不安げな表情等を思う存分撮影出来た。最後に、冒頭に書いた「あそこは人工的だから」等と言う片意地など張らないで、是非とも一日じっくりと野鳥観察に行って欲しい、素晴らしい観察場所としてお勧めしたい。

<今日観察出来たもの>鳥/カワウ、カイツブリ、マガモ、キンクロハジロ、ホシハジロ、カルガモ、カワセミ、シメ、シロハラ、マヒワ、ヤマガラ、シジュウカラ、ルリビタキ(写真下左)、ジョウビタキ(写真下右)、コゲラ、メジロ、ヒヨドリ、スズメ等。その他/アジサイの冬芽(写真上左)、ヒイロタケ(写真上右)等。


1月5日、東京都練馬区都立石神井公園

 今日は仕事始めの日だが仕事納めの日と同様に、一人でやっている極々小さな会社だから、お客様の所へ行っても邪魔になるだけと考え、また、何か用事があって呼ばれたら、すぐにでも急行できる場所にいなくてはまずいとも考えて、都立石神井公園へ行った。年末にルリビタキを寺家ふるさと村で撮影している時に出会った方が「オシドリを撮るなら石神井公園が確実」と聞いていたので、井の頭公園にも行った事だし、石神井公園にもお邪魔しなければ片手落ちとも思っていた訳である。別段、里の野鳥の中に金綺羅金のオシドリはそぐわないかも知れないが、たまには寺家ふるさと村の池にもやって来るというし、ドングリが大好物と言うから、超美麗でもやはり里の野鳥なのである。
 最近、東急東横線の武蔵小杉駅から目黒線経由直通で南北線、都営三田線に乗り入れているから、何処へでも電車で行くのがとても便利になった。なにしろ初めて行く所だから、西部池袋線の石神井公園駅で下車すると、改札口の駅員に場所を聞くと親切にも地図をくれた。その地図に書いてある石神井公園の概要をそのままここに書き写すと“石神井公園は三宝寺池と石神井池の二つの池を中心に構成されており、豊かな自然と、石神井城跡などの史跡や伝説もある武蔵野のおもかげが多く残されている公園です。三宝寺池周辺は、国の天然記念物である沼沢植物群落を始めとして、自然がそのまま残されています。石神井池では水辺レジャーとしてのボート遊びが楽しめます。園内では、春は花見、夏はボート遊び、秋は紅葉などのほか、折々に季節の花や四季の景観を楽しむことが出来ます”と言うことになる。たいがいのパンフレットというものは、いくらか誇張して書かれてあるものだが、嘘偽りなどまるっきり無かった。
 石神井公園駅から徒歩で5分も歩かないうちに石神井池に到着した。別名、ボート池と呼称されているように自然度がとても低い所だが、井の頭公園では上手く撮影できなかったカイツブリがいて、また、クチバシと額の赤いバンが2羽泳いでいる。カイツブリはじっとしている事が少なく、キョロキョロするし、少し経てば水中に潜って何処に浮上するか分からない鳥だから、意外と撮影には手を焼くのだ。また、バンは近くを泳いでいるのだが、止る事無く餌を求めて泳ぎ続けるから、これまた撮影に厄介な鳥である。しかも、付近の建物やボートが池に写っているから、それを避けて撮ろうとすると尚更である。しかし、なんとか使える写真をものにして三宝寺池方面へ歩き出し、中の島を過ぎた辺りでお目当てのオシドリを発見する。浅瀬に足を置いて羽毛の手入れをしている最中だから、撮影はすこぶる楽である。しかし、たったの一羽のみで何となく色が薄い。
 近くで野鳥観察をしているご婦人に聞いて見ると、「今年はまだ一羽だけです。ずっとここにいるんですよ」と言う。「でも何だか色合いが薄いと言うか淡いと言うか、オシドリらしくないですね」と聞くと、「それでも雄ですよ。以前に比べると、とても鮮やかになりましたけどね」と言う。なんだ寺家ふるさと村で出会った方の話は“看板に偽り有り”じゃないのとも思ったが、一羽でも、いるといないとでは大違いとばかりにばしばしシャッターを切った。
 いよいよ井草通りを渡って自然度の高い三宝寺池へ入ると、まず池から流れてくる小川でたくさんの熟年男性が1mにも満たない竿で釣りをしている。「タナゴが釣れるんですか」と聞くと、「クチボソ」と答えが帰って来た。「この釣りって本当に面白いんですよね。昔、水郷へ行って良くやりましたよ」と感激して大きな声で言うと、「カメラだけでなく、この釣りの面白さが分かっているんだね」等と笑って言われた。僕もやりたいなという思いを断ち切って水辺観察園に向かうと、木道にたくさんの方がカメラを構えている。きっとカワセミ狙いだなと近寄って見ると、池に被さる枝にカワセミがいて、池の中には形の良い木が刺さっている。「もうすぐダイブするよ」と言うので見ていると、すかさずカワセミは池の中に設置してある生簀に向かって飛び込んだ。その瞬間、パチパチパチと言う物凄い連写のシャッター音が響いた。石神井公園では形の良い木に止る絵柄などは遠い昔で、餌を取りにダイブし餌を取って水面からの飛翔撮影のみカワセミの写真らしい。
 浮島沼沢植物群落が見える所まで来ると、ここが東京都と疑いたくなるような自然度豊かな、何処か遠い所に旅したような錯覚に捕らわれる不思議な景観が現出する。「やあ凄いや、井の頭公園とはぜんぜん違う」等と思いながら眼を向けると、数多くのカワウがのんびりと羽を休め、亀が甲羅干ししているのが微笑ましい。もちろん、たくさんのカモ類も見られ、やはりカモに餌を与える方が多いので、それを狙ってハシブトガラがやって来る。ここのハシブトガラスは上野不忍池や井の頭公園よりもずっと人に懐いている。三宝寺池の更に奥には野鳥誘致林があって、そこまで行けばかなりの小鳥が見られると教えてもらったが、何しろ電車で来たので軽さ優先の300mmのレンズでは写せそうに無い。しかも、クチボソ釣りやカワセミのダイブを見ていたりして、だいぶ時間も経ってしまったから引き返す事にした。なお、バンフレットによれば見られる主な植物として、モミジ、ハンノキ、サクラ、コナラ、クヌギ、ヤナギ、ケヤキ、スイレン、カキツバタ、コウホネ、ハンゲショウ、ミツガシワが書かれている。また、三宝寺池から少し登った広場には、早くも紅白の梅もたくさん咲いていた。

<今日観察出来たもの>鳥/カワウ(写真下右)、カイツブリ(写真下左)、バン、オシドリ(写真上左)、マガモ、キンクロハジロ、ホシハジロ(写真上右)、オナガガモ、カルガモ、ハシビロガモ、コガモ、カワセミ、カワラヒワ、ヒヨドリ、スズメ、ハシブトガラス等。


1月4日、横浜市戸塚区舞岡公園

 「なんて素晴らしい所なのだろう舞岡公園は!」と、今日またしても感じてしまった。野鳥撮影を開始して今日でほぼ1ケ月、他にたくさんのフィールドへ行った訳ではないが、こと里山の野鳥撮影には舞岡公園はずば抜けている。今日見た鳥の多さにはまことびっくりした。少し長くなるが列挙してみると、ハシブトガラス、オナガ、キジバト、モズ、ホオジロ、ジョウビタキ、ツグミ、ムクドリ、ヒヨドリ、シメ、カワラヒラ、アオジ、シロハラ、カシラダカ、メジロ、シジュウカラ、コゲラ、アオゲラ、コサギ、カワセミ、キセキレイ、ハクセキレイ、カルガモとなんと23種類である。また、バードウォッチングをしている方がミヤマホオジロ、アカハラを見ているというから、一日で25種類ぐらいは楽に見られる事になる。もっとも舞岡公園の主であるFさんによると、一回りしてくると40種類は見られるとの事である。双眼鏡やスポッティングスコープを持たない私だって、上記のような数を観察出来たのだから頷ける数字だ。もっとも見られるということと撮影できるという事は動物の場合は別問題で、それでも里山の野鳥撮影の目標である40種類を本日達成してしまったのだから嬉しい限りである。しかし、ほんの小さくしか撮影できてないものも約10種類位あるから道はまだ険しいが、舞岡公園のみ通っていればそれも楽勝のようである。しかし、それではこの「つれづれ観察記」が面白くなくなってしまうので、そうは行かないのが悩みの種となった。
 舞岡公園は自宅から距離的にはかなりあると思うが、第3京浜、横浜新道、環状2号と乗り繋ぐから、あっと言う間に着いてしまう。そんな訳で他所に行くより朝寝坊して出かけたが、いつも車を停める場所にはほとんど車が無い。しかし、Fさんの車が停まっているので嬉しくなる。私が舞岡公園へ通い始めてもうだいぶ経つが、Fさんに出会わなかったのは彼が病気の時ぐらいで、行けばかならずいるという本当に主的存在である。こんな事を言っては叱られてしまうかもしれないが、野鳥で言ったらヒヨちゃんのような存在だが、もちろんいれば騒がしい存在ではむろん無く、とっても頼もしい楽しくなる存在である。さあ、私もベニマシコを求めて水車小屋へと思ったが、先日記したように長津田町のソシンロウバイの植溜めがなくなってしまったので、河童池にあるソシンロウバイを写しに行った。かなり前から咲いていたのだが、まだ、咲いてる花の数が少ないので、新年明けるまで待っていたのである。今日も開いている花の数は少ないが、撮ろうと思えば“花虫とおる”だから、それなりに絵になるように撮影できた。お次はウソはいないかと河童池奥の広場に行って見ると、ピンクがかった紅梅がちらほら咲いている。梅はやはりお目出度い新年に相応しい花であると、これまた一応絵になるように撮影した。
 さてと、これで野鳥が1カットも撮れなくともこの「つれづれ観察記」を飾る写真は撮れたと、車に戻って野鳥撮影の機材に変えて、水車小屋目指して歩き始めた。途中、農家の方が耕している田んぼに、ツグミとキジバトがのどかに餌を食んでいる。かなり遠い距離なので撮影は断念して歩き始め、緩やかなカーブを過ぎると、なんと水車小屋前のハンノキ林がある湿地に大勢の方がカメラや双眼鏡やスポッティングスコープを構えている。「なんだなんだヤマシギかな? いづれにしても珍しい野鳥に違いない」と転ばぬ速さの早足で行って見ると、アオゲラである。「本当にアオゲラは美しいわね。来て良かった」等と、年若い女性がご亭主らしき方に話し掛けている。今日は前回現われた場所よりかなり奥にいる。一度撮影してしまっているから余裕の態度でカメラを構えるが、この距離では1000mm位必要である。「もっと近くに来てくれないかな」と祈るように呟く方がいるが、一度撮影している私は余裕しゃくしゃくと言う訳である。やがてアオゲラは飛び立って姿を消したので、あたりを見回すとFさんも当然のように大砲のようなレンズを向けていた。「今年も宜しく」と挨拶しあって、いろいろ話していると、私にとっては久しぶりのTさんが超熟年向きのカラフルなサイクリング車でやって来た。
 「EOS10Dにしたんですって、見て下さいよ、私もデジタル一眼レフです」等と昨年の12月に入ってから“にわか野鳥撮影カメラマン”に変身したと話すと、TさんはにこにこしながらEOS10Dと将来欲しいなと思っているシグマの50〜500mmのズームレンズを取り出した。「本当に野鳥撮影にはデジタルは楽く。それにお金がかからないから毎日撮りに来たくなる。このところ近くの写真屋に行かなくなっちまった」等と私が思っているのと同じ感慨を口に出した。その後、舞岡公園はおせち料理をたらふく食べた後の運動のために、多くの人ばかりか犬までやって来て、いつもよりかなり賑やかとなった。今日は、冬だってこんなに楽しい一時を過ごせるというのに、舞岡公園を愛するご婦人たちは一人も来ていないようである。きっとご亭主のお守りなのだろう。女性に生まれなくて本当に良かった。しかし、待てよ、明日から仕事始めだから、ご亭主を職場に放り出してしまえば天国になるのかもしれない。こんな事を書くと「年初から寝ぼけて、なにを言ってるの」等と言うメールが来るかもしれない。くわばらくわばら。

<今日観察出来たもの>花/ソシンロウバイ(写真上左)、ウメ(写真上右)等。鳥/ハシブトガラス、オナガ、キジバト、モズ、ホオジロ、ジョウビタキ、ツグミ、ムクドリ、ヒヨドリ、シメ、カワラヒラ、アオジ、シロハラ、カシラダカ、メジロ、シジュウカラ、コゲラ、アオゲラ、コサギ、カワセミ、キセキレイ、ハクセキレイ、カルガモ等。実/アオキの実等。その他/アオキの葉痕(写真下右)、サワグルミの冬芽(写真下左)等。


1月3日、東京都町田市小野路町

 ここに行かねば新年は迎えられないとばかりに、去年たいへんお世話になり、今年もまた大変お世話になるはずの小野路町のフィールドへ行った。年末に記したように、いくら自然度の高い小野路町のフィールドと言えども、この時期は撮影するものが限られる。おまけに暫くの間、それほどの変化が無く推移して行くから、一度観察し撮影してしまったら撮るものがなくなってしまうのである。とは言っても広大なフィールドだから、広範囲にわたってくまなく探せば、越冬する昆虫たちや野鳥や冬芽や葉痕等なら無尽蔵の宝のフィールドであることに変わりはない。今日はまず霜と氷の作り出す造形を銀鉛フイルムで撮影するつもりであったが、とっても暖かい日で北斜面の一部にしか霜は降りていなかった。
 そこで昨日寺家ふるさと村でNさんに教えてもらって撮影したエノキタケはないかと、じめじめしていて余り陽が差さない林縁の倒木を探し回った。図鑑によるとエノキタケはエノキとつくが、エノキ以外にもクワ、カキ、ヤナギ、ポプラ等の倒木にも生えるとあるので、なんとか見つけ出すことが出来るのではないかと思ったのだ。案の定、ここにはきっとあるに違いないと思った場所にたくさん生えていた。しかし、生えていた樹種はどう見ても山桜である。しかも、昨日、出会ったエノキタケに比べると傘の表面のぬめりが少なく乾いた感じだ。帰宅途中に寺家ふるさと村に寄ってNさんに聞いて見ると、少し陽が差す場所、やや乾燥した場所、充分に湿気ている場所などによって、エノキタケの表情は様々に変わると言う。しかし、厳冬期に里山に生える褐色の傘で倒木に生えるものはエノキタケだけだと言うので、なんだか変だなと思った胸のつかえはすっかり取れた。
 一応、小野路町にもエノキタケが生えていることを確認すると、久しぶりに牧場経由で大回りして万松寺谷戸へ下って行くコースを歩き始めた。小野神社から少し登った畑に、ぽつんと植えられているナツミカンが黄色く色づいてたわわに実っている。牧場下の良く陽が当たる畑には、もう咲いているのかと目を疑ってしまったナノハナがたくさん咲いている。蕾を“菜花”として出荷するために栽培されているのだ。良く利用する無人野菜販売所でもお目にかかるものである。それにしても花が咲くのが少し早過ぎるのではなかろうか。きっと今日の気温が象徴するように今年は暖冬なのだ。
 牧場まで登って行くと見慣れた車が停まっている。寺家ふるさと村で“マタギのおじさん”と呼ばれているIさんの車だ。今日も小野路町の雑木林まで出張して山芋堀りに精を出しているようである。牧場から坂を下ると小野路町の旧宿場へ通ずるが、ここもエノキタケが生えていそうな環境なので、少し探して見ると、やはり生えていたのだから嬉しくなった。また、坂を登り返して左手に入り、植木屋さんの広大な植溜めを経てクリ林へ向かった。初夏になるとトラフシジミやアカシジミ等の蝶が見られるポイントである。また、丹念に探すとクリの葉に、ゴマダラオトシブミと言う黄褐色の地に黒い小さな斑紋が多数散らばった小さなオトシブミを見つける事が出来る。また、ここはカラスウリがたくさんあって、今日も中身は鳥に食べられて空っぽだが、朱色の皮が冬の陽に眩しく輝いていた。植溜めを見るとクチナシの実がすっかり色づいてとても綺麗だ。そこでちょっと失礼させて頂いて撮影した。
 万松寺谷戸へ下る分岐までエノキタケやヒラタケはないかと目を光らせたが何も無く、万松寺谷戸に降りて行くと、昨日も寺家ふるさと村で出会ったMさんがいた。彼は私とは異なった視点で、より主観的な目を持って里山をカメラの中に切り取っている。なにやら落ち葉を一生懸命撮影していようである。「もうすぐお昼だから寺家に戻るんでしょう」と聞くと、そうだと言うので、「帰りがけにいいものを見せてあげるから声をかけて」とその場を離れて車で休んでいると、Mさんばかりでなく、小野路に親しむ会の野鳥撮影専門のKさん、山と渓谷社から昨年「里山生きもの博物記」を上梓されたSさんと大賑わいとなった。今日は3日だから、みんなうずうずして小野路町へやって来たと言う訳である。「いいものってなあに」とMさんが言うので、「年末にKさんに教えてもらったのだけど、ねずみのモズの早にえ」と言うと、みんな強烈に興味を誘われたらしく、「見たい見たい」と言う事になった。一見するとこれは珍しいと感嘆し、それぞれが車にカメラを取りに行って大撮影会となった。
 私はこのHPに載せたら心優しいご婦人複数が卒倒されて、中には天国へ行く方も出るかもしれないと撮影をためらっていたのだが、やはりこんな機会は二度とないかもしれないと、ばっちりカメラの中に納めてしまった。そんな訳で、このHPに写真は絶対に載せないと誓いますが、勇気ある方で、どうしても見たいという方があったら、添付ファイルとしてメールしますのでご連絡下さい。

<今日観察出来たもの>花/ナノハナ、オオイヌノフグリ(写真下右)等。虫/オオムラサキの幼虫(写真上右)、ゴマダラチョウの幼虫、ジャコウアゲハの蛹(写真上左)等。鳥/ハクセキレイ、モズ、ツグミ、ヒヨドリ、カシラダカ、ホウジロ等。キノコ/エノキタケ等。実/カラスウリの実、クチナシの実(写真下左)等。冬芽と葉痕/ニワトコ、カキ等。その他/モズの早にえ(ネズミ、カエル)等。


1月2日、横浜市都筑区大原みねみち公園〜緑区新治町〜青葉区寺家ふるさと村

 平成16年、2004年の最初の自然観察及び写真撮影に出かけた。知人のご婦人から「この歳になると新年を迎えるとぞっとする。また一つ歳をとるのかなと思うのよ」等と言う、新年らしくない意気消沈するようなメールを頂いたが、まだ四捨五入しても還暦にはならない私にはその実感は湧かない。フィールドは新年を迎えたって昨年の続きであるが、やはり「新春」と呼ばれるように、元旦からフィールドも新しい年を迎えたと言っても過言ではない。そもそも太陽の誕生日と西洋で呼ばれる日はほんの少し前の冬至だから、「太陽が生まれ変わって、陽が強く日が長くなりますよ」と言うような喜ばしい折り返し点は、人間社会と同様にフィールドも元旦からなのである。また冬至は「一陽来復」とも呼ばれ、前記したように季節の転換点であると同様に、「逆境や不運など良くないことが続いた後、ようやく幸運が向いてくる」という意味合いもあるのだから、前を向いて歩かなきゃだめよと言う訳である。
 そんな新春に相応しい被写体を今日は撮影しようと、年末に野鳥撮影に赴いた時に咲いていたニホンスイセンをまず撮ろうと、港北ニュータウンにある大原みねみち公園へ立ち寄った。冬は朝早くに花を撮影すると陰影が強く寒々しい感じになってしまうが、日陰に咲いているものなら大丈夫である。おまけに今日はいくらか柔らかい日差しだったのは有り難い。ほとんど風が無いと思ったのだが小道沿いだから風の通り道になっているようで、花の揺れはなかなか止らない。しばらく野鳥撮影に専念していたので花の撮影は久しぶりで、「花は風による揺れに悩まされるな」等と当たり前の事を思い出して苦笑する。それでもなんとかニホンスイセンをものにすると、トチノキの並木道に行って大好きな「トチ坊や(トチノキの冬芽と葉痕)」を青空に抜いて撮影した。他に撮影するものは無いかと見回して見ると、威勢の良いキリの幼木を見つけたので、おどけ顔のおじさんに挨拶してから大原みねみち公園を後にした。
 お次は長津田町のソシンロウバイだと車を走らせたが、何とこの時期長年にわたって楽しませてくれたソシンロウバイの植溜めは、すっかり赤土が盛られて跡形も無く消えていた。もちろん「あーあ」と溜息が出たが、仕方無しに新治町へ行って野鳥や越冬する昆虫たちを探すことにした。いつものように谷戸の左手にあるお墓近くのクリの畑へ行って見ると、小鳥につつかれたものもあったが、たくさんのハラビロカマキリとオオカマキリの卵のうが小枝についていた。ここは毎冬、クリの小枝に揺れる昆虫たちの変な物を観察するのに絶好の場所なのである。どうした訳か、今年はチョウセンカマキリのナメクジのような格好をした卵のうは一つも見られない。ラグビーボール(ハラビロカマキリの卵のう)とお麩(オオカマキリの卵のう)ばかりである。今まで何カットも撮影しているのだが、もちろん今日も美しい青空に抜いて撮影した。他に何かぶら下ってはいないかなと歩き回ったら、オオミノガの幼虫の巣があったが、大きなクリの葉一枚を身に纏ったものだったので、これでは写欲が湧かなかった。
 さて午後は寺家ふるさと村である。昨晩、携帯電話がクラッシック音楽を奏でるので、正月早々何だろうと思ったら、寺家ふるさと村に魅せられたNさんからである。なにしろ土曜、日曜、祝日、盆、暮、正月と休みなら必ず9時半から陽が落ちるまで、寺家ふるさと村の藪の中を徘徊しているという超自然好きの男で、冬虫夏草に凝りに凝っているのである。「ナナフシの幼虫のようなものから出ている冬虫夏草を見つけたので、どんな種類のナナフシなのか教えて下さい」とのことである。そんな訳で昆虫図鑑とナナフシの仲間がたくさん載っている図鑑の計2冊を持って出かけることになった。もっとも今日は年末に寺家ふるさと村で見かけた野鳥のアカハラとタヒバリを、もっと鮮明に写したかったので、ちょうど良かったと言う訳である。
 寺家ふるさと村の一番奥の大池の方へ歩いて行くと、Nさんのお友達のMさんが歩いて来る。「Nさんは何処?」と聞くと、大池の左から入った奥にいると言う。「ナナフシから出ている冬虫夏草を見つけたんだって」と聞くと、「どうも足の長いクモのようですね」と言う。「なーんだ」と気落ちしながらもNさんを探しに池の奥に入って行くと、照れくさそうにNさんが顔を出して、「昨晩はどうも、ナナフシのように見えたんですけど、どうもクモのようでした」と言う。案内してもらってよく見ると、確かに足の長いクモのようである。「残念でした。ナナフシから出ている冬虫夏草はまだ発見されていなかったんで、兎に角興奮しちゃって」と頭を掻く。まあ、人間のめり込んで興奮するとそんな簡単な間違いが良く起こるものである。出るぞ出るぞと不安がって、夜のお墓の前を通ると必ず出てくるお化けのようなものである。しかし、当たるぞ当たるぞと思って買った宝くじが当たった例は無いのだから困りものである。
 その後、目的のアカハラとタヒバリに会えず、Nさん教えてもらった場所に行ってエノキタケを撮影した。私たちが良く口にするエノキタケは壜による室内栽培で、いわばエノキタケの“もやし”だが、天然成長のエノキタケは柄も太く傘も立派な正真正銘のキノコらしいキノコである。もちろん、しゃきしゃきしてとても美味しい食べられるキノコであると言う。冬に生える食べられるキノコは少ないが、これから3月までヒラタケとともにエノキタケが見られるというから、とても楽しみである。Nさんの勘違いには大いに笑って“初笑い”となったし、こんな寒中にキノコも撮影できたし、まあまあ、2004年の初自然観察及び写真撮影は順調な滑り出しとなったようである。

<今日観察出来たもの>花/ニホンスイセン(写真上左)等。虫/オオカマキリの卵のう、ハラビロカマキリの卵のう、オオミノガの巣等。鳥/セグロセキレイ、ハクセキレイ、コサギ等。キノコ/エノキタケ(写真下左)、カワラタケ(写真下右)、アシナガグモの仲間に生えた冬虫夏草等。実/マサキの実(写真上右)等。冬芽/キリ、トチノキ、ウツギ、ニワトコ等。



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