10月31日、東京都町田市野津田公園〜小野路町
朝から雨が上がると思って、いつもの時間に起きて雨戸を開けてみたら雨が降っている。そこでビデオの巻き戻しのように、雨戸を閉めて布団に入ってまた眠った。そして2時間程たって目が覚めたので、また雨戸を開けてみると雨は止んだ。今度はビデオの早送りのように支度して車に乗った。だから野津田公園の駐車場に着いたのは午前11時となってしまった。今日の第一の撮影目的は道端自然観察館にはまったくそぐわないバラ園のバラだ。しかし、本来なら今が見ごろの秋バラもちらりほらりと咲いているだけであった。このバラ園を管理する方によると、秋に花を咲かせるためには夏の終わりに剪定して、二番芽を伸びさせなければならないと言う。しかし、その時は雨が降らずに晴天続き、そして蕾がつく時期が雨ばかりだったので、今年の秋のバラは芳しくないのだと言う。まあ、ここで改めて書くことも無いだろうが、9月に入ってからの天候は少しおかしかった。「地球が狂っているのよ」と不気味な事を言う方も多いが、そう思わずにはいられない。宇宙船地球号は我々人間の唯一の生活の場であるし、同船する全ての生き物も同様である。そんな事は地球上の全ての方が分かっていて、地球環境保全のために京都議定書が採択された筈だが、超大国のアメリカが乗り気ではないらしい。その理由等についてしっかり分かっている訳ではないのだが、なんとなく経済一辺倒の考え方が臭
って来る。今年の秋の異常気象と秋バラの不調が、宇宙船地球号の環境悪化に帰すとは言えないものの、なんとなく「そうなんじゃないの」と思えて来るのは私だけでは無いと思う。
そんな訳で今日第一の目的が即座に頓挫してしまったので拍子抜けしてしまったが、薄赤い棒状のキツネノタイマツが出ていたので撮影した。これまたバラ園を管理する方の話だが、樹木の枯れ枝を細かくして土に混ぜているからキノコがたくさん出ると言っていたが、バラ園でキノコと言うのも不思議な気がするが、いつ行ってもなにかしらのキノコが生えている。バラ園は諦めて隣接する雑木林の裾の小道に歩みを進めると、クサギの葉痕が薄日に輝いている。葉が落ちたばかりなのだろう、葉痕はとても新鮮な艶と色づきをしている。10月に葉痕の撮影など考えものだが、とても美しかったので撮影した。陸上競技場周りに行って見ると、ケヤキが色づいて美しい。モミジもほんのり色づいて来たようで、晩秋と言う言葉がしっくり来る景観であった。「今日は撮るものがないな、プランターに植えられているサルビアやマリーゴールドを撮影しても仕方が無いしなあ」等と愚痴っていたら、黄色い小菊に褐色のコカマキリが静止していた。いちおう素直に撮影したが、それではつまらないと菊の花をぼかして入れ、コカマキリの顔をアップで捉えようと考えたら、片方の触覚が途中で切れていた。晩秋に入ると傷ついた昆虫が多くなるから要注意である。それでは赤いサンシュユの実を撮ろうと行って見ると、今年は実のつきが極度に悪い。まさかサンシュユ酒をつくる為に収穫されてしまった訳でもなかろう。しかもサンシュユの葉はまだ緑でしっかりと小枝にたくさん残っている。こうなったら雑木林の中なら何かあるに違いないと散策路を歩いてみたももの、これと言った被写体には出会えなかった。
遅い昼食をすませると、今日は野津田公園で一日中散策と予定していたが、撮るものが無くて困った時には小野路町へと万松寺谷戸へ行った。このHPに定期的にアクセスしてくれるご婦人たちが、こぞってコウヤボウキが可愛いと言うので、キノコ尾根から五反田谷戸へ行こうかなと思ったが、少し前にちょっとしたトラブルがあったから行く気が起きない。そこで久しぶりに牧場の方へ行く事にした。その前にいつものように不思議な道端を見回ったが、これと行った被写体は無かった。「今日は駄目だな」とまた愚痴が出る。こうなったら何でも撮ってやるぞと、畑のニラの実をマクロレンズで覗くと、黒々とした種子が行儀良く並んでとても面白い。まるで黒い葉の四葉のクローバーの葉のようである。これで一丁上がりと久しぶりに極秘のキノコの穴場へ行くと、ぬめぬめしたキノコが生えている。雨上がりだからぬめぬめしているのかなと思ったが、それにしてもぬめりがすごく強い。小さな幼菌を見ると傘になる部分が分厚くぬめりで覆われている。ことによったらこのキノコはナメコではなかろうか。ナメコはブナ帯のキノコで多摩丘陵には無い筈だが、マイタケだって多摩丘陵で見つかっているのだから、あっても不思議ではない。それに分厚いぬめりに覆われた幼菌のようなものをナメコとして味わった事がある。家でももちろんだが、銀座に勤めていた時によく鳥銀の釜飯を食べたが、必ず赤だしの味噌汁を注文すると、この厚いぬめりに覆われたナメコが入っていた。何べんも書いてるようにキノコに関しては超初心者マークだが、これは絶対にナメコと信じて撮影したことは言うまでも無い。
牧場に通ずる農道を上がって行くと、咲き残ったヒメジオンやコセンダングサにヤマトシジミ、ベニシジミ、ウラナミシジミが吸蜜している。竹林隣の畑の茶は純白の花が満開だ。竹林脇の草原には、これまた野津田公園のバラ園と同じく、キツネノタイマツが生えている。こちらの方はとても太くて見事である。いつものように各種の庭木が植えられている畑に行くと、老人が畑になにやら同じくらいの長さに切った樹木の小枝を刺している。「ハナモモですか」と聞くと、「ユキヤナギ」との答えが返って来た。畑に刺すだけで根が出るのだそうである。そんな話をしながらふと傍らのクワの古木を見上げるとキノコが生えている。「これはヒラタケですよね」と老人に尋ねると、「なんだか違うような気がするな、キノコは本当に知ったものでないと怖いし、場所によって食べられるキノコも毒と言うこともあるしな」と言う。「同じキノコが生えてる所によって食べられたり、中毒したりするんですか」と不思議に思って聞くと、「そうだよ、イッポンシメジなんか浅間神社や電源開発あたりのものは毒なんだ」と言うのだ。同じ種類のものが場所によって異なると言う老人の言葉には疑問符を持ったが、スギヒラタケの例もあるからまるっきり違うとも言えないし、長年、この小野路町に暮らして来た老人の話なのだから嘘は無いだろう。いづれにしても今のところ野生のキノコを食する勇気も知識も暇もないから、老人に断って咲き始めたサザンカとモッコクの実を撮影した。いよいよ明日から11月、「サザンカ、サザンカ咲いた道、焚き火だ焚き火だ、落ち葉焚き」の季節に入る。
<今日観察出来たもの>花/リュウノウギク、センダングサ、タイアザミ、ノハラアザミ、ミズヒキ、サザンカ(写真上右)等。蝶/キチョウ、モンシロチョウ、ヒメアカタテハ、メスグロヒョウモン、ベニシジミ、ヤマトシジミ、ウラナミシジミ等。昆虫/コカマキリ、ツマグロオオヨコバイ等。キノコ/キツネノタイマツ、ナメコ?(写真下左)等。その他/モッコクの実、ニラの種子(写真下右)、サルトリイバラの実等。
10月28日、横浜市緑区三保町
今日の朝はだいぶ冷え込んだ。天気予報で良く使われる放射冷却と言うことなのだろうか。そんな事もあってか、朝起きると、抜けるような青空が広がっていた。11月近くになるとコントラストの強い写真になるから曇り日の方が良い等との愚痴は出なくなる。やはりこれからはぽかぽかとした陽気が最高である。いつもドングリが落ちる頃から完全に葉が落ちるまで、散策しながらまるでベートーベンかトルストイのように物思いにふける事が多くなる。記憶を辿ってみると物心ついた頃からそうであったように思われるのだ。失恋の悩み(もちろんありましたよ)等なら格好が良いのだが、自分自身の人生はもとより、対人関係、仕事の悩みとなんとなくこの季節に集中するように感ずるのだ。昨日、一緒に午前中だけご一緒した蝶が大好きなAさんが、「やはりオオムラサキが飛ぶ頃が一番だね」と言っていたが、わたしはその思いに同感で、ジンガサハムシが現れる5月初旬から、ゼフィルスの飛ぶ6月を経て、オオムラサキに至る7月初旬までが大好きである。なんと言ったら適切なのかは分からないが、ぐんぐん何かが生産されて行くと言うエネルギーの強さ、生命力の強さを感ずるのである。だからこの頃に思い悩んだ等と言う記憶は皆無である。しかし、秋になって陽が低くなり、ドングリがポトリポトリと落ち始めると、その夏のエネルギーが衰退して行く様をまざまざと感ずると言う訳なのだろうか、そ
んな季節になると、いつも何らかの心的悩みが現れるのだから不思議である。
私の仕事仲間が「趣味は昼寝、昼寝が一番好き」と言うので、「なんだよ、まだ若いのに」と反論したくなるのだが、彼に言わせると「昼寝をしていれば、まずはお金がかからない。体力も消耗しない。しかも対人関係なんてないから悩みも起こらない。こんな良い趣味は他にないでしょう」と言うのだ。まさか彼がまじで言っているわけではないものの、人生の金科玉条たる「果報は寝て待て」に通ずるものがあるように感ずる。そんな昼寝を趣味とする訳にはいかないものの、これから初冬までは、ぽかぽか陽気に一人物思いに耽りながら散策するのにはもってこいの季節なのだ。
と言う訳ではないが、今日はローテーション的にアップダウンの無い三保町へ行った。これまたAさんが昨日、「花虫さんのつれづれ観察記を読んでいると、次に何処へ行くかがだいたい分かる」と言われたので、「それなら明日は何処へ行きますかね」と質問すると、「弘法山あたりかな」と言われたので外れであった。まあ、三保町はその昔、毎週通った所だが、最近ではイレギュラーに行く所だから、Aさんが外れたのも無理はない。今日の第一の目的は、ツルウメモドキに発生しているキバラヘリカメムシだ。前回行った時にももちろん出合って撮影しているのだが、このキバラヘリカメムシは今の時期が旬と考えているのである。前にも書いたと思うが、キバラヘリカメムシの大好きな樹木は、ニシキギ、マユミ、ツルウメモドキである。これらの樹木の一番美しい時は、実がはじけて中の種子が現れる時だと思っているので、それらの樹木の汁を吸っているキバラヘリカメムシも同時に旬となると言うわけなのだ。途中、遊水地に面した草むらにたくさんのオオアオイトトンボが見られた。今年は台風が多くて、あわや鶴見川が氾濫かと危惧したが、鶴見川の流域では雑木林が開発されると必ず遊水地が作られる。もちろん洪水対策で、降った雨を一時的に保水してくれる森が無くなったかわりに遊水地がその役目をすると言う訳なのである。そんな人工的な河川氾濫対策には眉をしかめていたものの、その遊水地が格好のトンボ池に変化しているのだから、昆虫好きには有り難いとも言えるのかもしれない。オオアオイトトンボは本当に寒さに強いトンボで、これからかなり寒くなるまで見られる。そこで北方系のトンボかなと図鑑を開いてみると、北海道と琉球列島には見られず、国外ではウスリーに見られるとあるから、周日本海地域が大好きなトンボのようだ。
目指す棚作りのツルウメモドキの畑に到着すると、やっと実が弾けて中のオレンジ色の種子が見え始めていた。この種子の色と実の皮の部分の黄色とがとても目立つコントラストを醸し出すのだ。このところなんやかんやと言っても被写体がだいぶ少なくなっているので、まずばっちり弾けた実を写し、その後、キバラヘリカメムシはいないかと探すと、成虫ばかりでなく幼虫も発見した。去年は異常発生で今年はほとんど見られないキバラヘリカメムシだが、ここのツルウメモドキは毎年安定して見られるのだから有り難い。今日は本当に一年ぶりに出会う、黒い二つボタンの洒落た衣装の幼虫の方を、先に撮影したことは言うまでもない。キバラヘリカメムシの特徴の一つは黒い腿まであるソックスなのだが、成虫とはだいぶ風体の異なる幼虫だが、この特徴だけは同じなので笑ってしまった。もうすぐ冬がやって来るのにまだ幼虫がいると言う事は、成虫で越冬するのかなと思って図鑑を開いてみたが書いてない。無事にキバラヘリカメムシを撮影したので、日向ぼっこをしているだろうウラギンシジミとムラサキシジミに出会おうと、三保市民の森を目指して歩いて行った。途中、かつて良く歩いた左手にある小さな谷戸へ行って見ると、手前の民家の庭にリンドウが美しく咲いていた。この民家は各種の園芸植物の花はもちろんのこと、山野草も好きなようで各種植えられている。今日はサラシナショウマとホトトギスが咲いていた。リンドウはもちろん多摩丘陵にも自生しているのだが、このつれづれ観察記に書くと盗掘の恐れがあるので、平塚市土屋へ行った時に紹介しようと思っていたのだが、良い按配に民家に咲いていたので助かった。
三保市民の森に着くと目指す日向ぼっこをしているウラギンシジミとムラサキシジミはいなかった。もう少したってから来てねと言うことなのだろう。前述したようにまだ昼寝三昧には季節が早いと言う訳なのだ。そこで車に戻り、コンビニより格段と美味しいスーパーの弁当を買い求めて食べ終わると、気がかりだった横浜キノコの森へ行った。しかし期待していたキノコの発生はそれ程でもなくがっかりしてしまったのだが、途中、セイタカアワダチソウに各種の蝶が集まって、今年最後のご馳走をたらふく食べていた。セイタカアワダチソウが咲き終わると、花といったら民家の庭に咲くキク、雑木林ならリュウノウギクと咲き残った僅かばかりのノハラアザミくらいになるので、今年最後の晩餐会と表現しても大げさではない。今日見られた蝶は、キタテハ、ツマグロヒョウモン、ベニシジミ、ヤマトシジミ、チャバネセセリ、イチモンジセセリである。かつてあまり訪花例のないムラサキシジミやテングチョウにも出会っているので、これから越冬する蝶たちには、寒い冬を乗り越えるためのエネルギー蓄積に大切な花なのである。しかし、不思議に思ったのはツマグロヒョウモンが全てが雄であった事だ。普通、昆虫の世界では雄が雌より先に出現するのが普通である。と言う事はこれからツマグロヒョウモンの雌が発生するのかと言うと毎年発生は見られない。それなら今日の多数のツマグロヒョウモンの雄をどのように説明したら良いのか分からなくなるのだ。まあこの問題はさておき、やはり撮るものが少なくなって困ったので、以前登場したキタテハやツマグロヒョウモンに再登場を願おうかと思ったのだが、日陰のヤブランの実にエサキモンキツノカメムシが食事していたので慎重に撮影した。時計を見るとはや午後3時、陽の光も赤茶けはじめ、また、物思いに耽るのには余りにも寂しいからと早々と引き返したが、晴れの日の散策は何よりもの収穫とばかりに、心満たしての帰宅となった。
<今日観察出来たもの>花/コシロノセンダングサ、ノハラアザミ、ミズヒキ、ミゾソバ、オオケタデ、リンドウ(写真上左)、オシロイバナ、コスモス、トリトマ、メキシコヒマワリ等。蝶/アオスジアゲハ、キチョウ、モンシロチョウ、アカタテハ、キタテハ、ツマグロヒョウモン、ウラギンシジミ、ムラサキシジミ、ベニシジミ、ヤマトシジミ、チャバネセセリ、イチモンジセセリ等。昆虫/センチコガネ、コノシメトンボ、トノサマバッタ、ツチイナゴ、クルマバッタモドキ、クサギカメムシ、エサキモンキツノカメムシ(写真下右)、キバラヘリカメムシ、キバラヘリカメムシの幼虫(写真下左)等。キノコ/オオキヌハダトマヤタケ、ホコリタケ、ノウタケ、フクロツチガキ等。その他/ピラカンサの実、ツルウメモドキの実(写真上右)、ウメモドキの実等。
10月27日、神奈川県川崎市麻生区黒川〜小山田緑地
最近、本当に良く雨が降る。秋と言えば真っ青で爽やかな空を思い起こすが、今年はそのような青空は稀のようである。昨日もしとしとと雨が降り、今日ようやく道端自然観察に出かけられたものの、空はどんよりとして北風が強く寒い。12月なら木枯らし第1号と名づけられるのだが、まだ落葉には間があるから何と言う名前を付けたら良いのだろう。夏服を完全にしまいこんで冬服に入れ替える、決してもう暖かい日は戻っては来ませんよと告げる北風のようだ。しかし、首都圏平地では11月下旬までは、風が無く晴れていさえすればかなり暖かい。先日、舞岡公園で同好の方と歩いている時もジョウビタキの雌が現れたし、舞岡公園の野鳥観察の主とも呼べる方が、ジョウビタキやルリビタキも観察出来たとおっしゃっていたから、鳥の世界も完全に夏鳥から冬鳥に入れ替わっているのかもしれない。そんな北風が強い日にフィールドへ出かけても、これと言った被写体に出会える訳ではないし、また、出会ったとしても風に揺れて良い写真が撮影出来る訳でもない。しかし、これと言ったやることもないので里山をうろつきに出かけた。車をいつもの農道脇に停めると、まず、クズの葉に休むアマガエルを発見した。しかし、夏に見るアマガエルと異なって体色がなんとなく黄色い。アマガエルが周りの環境に同化して体色を変化させる能力を持っているのかは定かではないが、やや黄ばみ始めたクズ
の葉に似ているように感じられる。なんだ毎度御馴染みのアマガエルかとも思ったが、こんな日には貴重な被写体なので、素直に切り取った。
よく手入れされた雑木林に入って行くと北風はだいぶ和らいだが、前回、満開だったオケラの花は生気を失って枯れたかのように変化していた。去年は花をつけていて前回は発見できなかったオヤマボクチは、今日、地面にへばりつくような大きな葉は確認出来たのだが、花は咲いてはいなかった。誰かが株ごと持ち去ったのではなかったのだと分かってほっとしたものの、何故、今年は花をつけなかったのだろうかと考え込んでしまった。いつもならこの雑木林の中に何らかのキノコが見られる筈なのに、残念ながら皆無であった。雑木林を出て農道を丘の上の畑に向かって歩いて行くと、木陰になった片隅に切り出された各種の樹木が積んである場所に至った。ここにもキノコが生えていておかしくないなと思ったら、なんとシラカバから美味しそうなヒラタケが出ていた。傘の表面がやや黒っぽいので間違いなくヒラタケだろう。ヒラタケは「寒茸」とも呼ばれ、晩秋に生える美味しいキノコとして著名で、図鑑によるとスーパー等で「シメジ」との名で販売されているとある。これは絶対に食べられるとは思ったものの、キノコに関しては初心者マークで、しかも最近紙上で、昔から食べられていたスギヒラタケを食べてかなり多くの方が死亡したと報告されているのだから、私などの未熟者のが手をだせるものではない。しかし、重なって生えている様は実に綺麗だ。足場が悪く下の方に生えていたので、見上げるようにしてその重なり具合や襞を鮮明に写す事が出来ない。こんな時にバリアングル液晶モニター付のコンパクトデジタルカメラを持っていたら、素晴らしい写真が撮れただろうと悔やまれた。
農道を谷戸奥まで歩いて行ったり、尾根を越えて他の谷戸へ行ってみたりしたものの、これと言った被写体には巡り遇えない。「これは参ったな、やはり被写体となるものが少なくなったな」と一人ごちると、なんとか格好のつくものを撮影しようと心決めて散策を再開した。まずは実だとばかりに雑木林の裾に生えるイヌザンショウを撮影した。サンショウに比べるとなんとなく弱々しく、雑木林の日陰になる所に生えているから位にしか区別方法を知らなかったが、同行のAさんがサンショウの棘は対生、イヌザンショウの棘は互生と教えてくれた。また、イヌザンショウは蝶ではカラスアゲハが大好きであるらしい。これで実は何とか確保したから今度は花、しかも彩りの華やかなものが良いな等と考えていたら、農道脇に花びらがやや赤いキクが咲いているので嬉しくなった。キクの花を撮影しながら、もうこんな寒い季節になったのかという思いに捉われた。今年は爆走する花虫とおるが如くに道端自然観察に精を出して、このままで行くと年間200日に迫ろうかと言う日数になる。と言う事はこのつれづれ観察記に800枚程の写真を貼り付ける事になるのだが、それ程の傑作写真がないなと嘆きたくなった。24日に五反田谷戸にて多くの方々の写真を見せて貰ったが、素晴らしいものがたくさんあった。すなわち写真は数多くフィールドへ足を運べば良いのではなく、日数的には少なくとも、気力が充実していないと駄目であると言う証明である。もちろん、素晴らしい作品になるものに気づく目、する腕が大切なのは言うまでもないが、ネイチャーフォットーは偶然なる出会いがなによりも大切だから、神様のご機嫌次第とも言えるのではなかろうか。
午後から用事のあるAさんと別れて食事をとると小山田緑地へ行った。今日は寒いから御蕎麦屋さんで一番身体の温まるカレー南蛮を注文した。夏はいつも笊蕎麦だったのだから、季節は確実に寒くなった訳である。小山田緑地を選んだのはもちろんキノコであったが、ドクツルタケやムラサキシメジ等がほんの少しあっただけで、これと言ったものには出会えなかった。やはり寒茸とも呼ばれるヒラタケが生えていた位だから、今年のキノコのシーズンはほぼ終了したのかもしれない。また、シラカシの幹に、虫カビに侵されたゴマダラカミキリがへばりついているのを発見した。カビに取り付かれて弱りながらも幹を登って来て絶命したのだろう。やはり甲虫の世界でも今年は幕が閉じられようとしている。まだ、冬芽や葉痕の登場には季節は早いし、冬鳥の撮影も時期尚早である。そんな訳で11月に入ると被写体が少なくなって、この観察記に四枚の写真を載せる事がおぼつかなくなるかもしれない。しかし、何でも屋の花虫とおる、そんな事は決して無かろうと楽観して、ますます気温が下がったので、車のヒーターを効かせながらの早や上がりとなった。しかし、黒川に生えていたヒラタケをもう一度撮り直したくなって寄り道してみたが、なんとヒラタケはその生える木ごと持ち去られていた。やっぱりヒラタケだったんだ、食べられるんだと思ったが後の祭りと言う事になった。
<今日観察出来たもの>花/セイタカアワダチソウ、ヤクシソウ、シロヨメナ、ノコンギク、ノハラアザミ、ミズヒキ、キク(写真上左)等。蝶/キチョウ、モンシロチョウ、ヒメアカタテハ、ベニシジミ等。昆虫/アキアカネ、クモヘリカメムシ、虫カビに侵されたゴマダラカミキリ(写真下左)等。キノコ/ドクツルタケ、ヒラタケ(写真上右)、ムラサキシメジ等。その他/イヌザンショウの実(写真下右)等。
10月24日、東京都町田市小野路町・図師町
昨晩起こった新潟県中越地方を襲った地震は、夜が明けて明るくなるに従って、その被害状況の全貌が明らかになりつつある。昨晩想像していたのとは異なって、深い悲しみを伴った甚大で深刻な被害のようである。ただただ手を合わせ頭を垂れ、そして一刻も早く立ち直って欲しいと願うばかりである。助かった方々もとんでもなく恐ろしい思いをしたことだろう。毎年、ゴールデンウィークに中越地方を訪れ、今年は、堀之内町の里山や長岡市の雪国植物園等にも行っているから、お世話になった方々、楽しい思いをさせてくれた野山の今の状況がとても気になる。そんな思いが胸裏に渦巻いているから、今日の道端自然観察及び写真撮影は、様々なものを観察し撮影したにもかかわらず、とっても充実して楽しかった等とは書けそうにない。また、このつれづれ観察記もいつものようにすらすらと書けそうもないようなのである。そんな事をあらかじめお断りして以下に報告する事とした。
今日は年末の写真展の打ち合わせで五反田谷戸に参加者が集まる事になっていたので、いつもの場所に車を停めると、まず、万松寺谷戸経由でキノコ山
へ行った。途中、谷戸入口の草原ではヒメアカタテハやキタテハが羽を広げている。今日は曇り日でようやくかすかな陽が射して来たので、活動の為に身体を暖めているのだ。キノコ山は、あんなに雨が降ったから大いに期待していたと言うのに、キノコの発生は皆無であった。やはり晩秋とも呼べるような気温の低下がこのところ感じられるので、秋のキノコの発生はもう終わったのかもしれない。今年も去年と同じくキノコの不作の年となってしまったように感ずる。それとも多摩丘陵のキノコ暦は、そんなものなのかもしれないが、永年の観察記録がないから分からない。しかし、キノコと言えば秋が通り相場だと思っていたのだが、断然、梅雨時の方が発生が多く賑やかであることは確かなようである。
今日は時間が無いので神明谷戸へは降りずに尾根伝いにTさん宅まで行って、キノコ尾根を通って五反田谷戸へ降りて行った。途中、ヤクシソウが雑木林の傍らに生えている。このヤクシソウはどう撮っても絵にならないとっても撮影泣かせの花である。写真を見れば分かるように、レモンイエローの可愛らしい小菊であるにもかかわらず、葉も茎も生え方も他の野菊と異なって何となく猥雑なのである。また、ちょと失礼とばかりに邪魔になる小枝に鋏を入れようものなら、タンポポ等と同様に乳白色の汁が多量に滲み出て来るから、可哀想になってそんな事も出来ない。だから、思い切って開放絞りで前ボケを多用して撮影しなければならないようだが、今日は形良く咲くものを秋らしく落ち葉をバックにして切り取った。キノコ尾根はキノコ山とは異なって、ちらりほらりとキノコが生えていた。特にタマゴテングタケモドキ、ドクツルタケ、コテングタケモドキと大型のキノコが見られた。また、地面に赤い丸い落し物があるようにベニタケの仲間が生えている。ドクベニタケのように見えるが、シュイロハツないしチシオハツなのかもしれない。五反田谷戸に下って行く途中、つくし野のTさんが小道脇でコウヤボウキを熱心に撮影していた。「この花ってとっても可愛いわね」とおっしゃる。多くの同好のご婦人たちも同様な事を言っていたが、ご婦人達には大人気な花である。私には可愛いと言えば可愛くも見えると言った程度で、なんとなく納得が行かないので、今度遇った時に「どうして」と聞いてみよう。もっともそんな事は聞くだけ野暮なのかもしれないし、女性の心理は男性には永遠に謎なのだから。
五反田谷戸は今年最後の野趣を盛り上げようと、様々な晩秋の花が咲き始めていた。年末の写真展参加の方々も集まりだし、小高くなった芝地で楽しい会話をしていると、谷戸田の向こうの杉の朽ちた切り株になにやら褐色のキノコが生えている。これはサルノコシカケ科のキノコではなく柔らかそうなものだと確認しに行くと、後で森のきのこさんこと多摩市のKさんに教えてもらったのだが、ミドリスギタケが生えていた。とってもキノコらしい形をしている。最近、南大沢のSさんもキノコに興味を持ったらしく、カメラにその姿を納めている。今まで何回も書いているが、種名判別が難しいからキノコはパスでは、永遠にキノコとお友達にはなれないだろう。やっていればやらないより少しは多く種名判別可能のキノコの数も多くなって行くに違いない。Sさんのカメラを見るとバリアングル液晶モニター付のコンパクトデジタルカメラだ。しかも、後で知ったのだが被写体への接近可能な20oのワイドコンバーターも持っていると言うのだから、キノコを風景的に撮るには最適な道具立てだ。私は慣れ親しんだ一眼レフカメラで行くつもりであるが、性能の良いコンパクトデジタルカメラに、ワイドコンバーター、テレコンバーター、デジスコと揃えれば、ネイチャーフォットー何でも御座れとなることが分かった。
年末の写真展についてのおおよその事柄が話し終わり、しっかりとした合意の後、参加した方々が持参した写真を見せ合っている。拝見させて頂くと、みんなとんでもなく素晴らしい写真ばかりだ。私はここ数年、どちらかと言うと図鑑に使えるような無難な写真、ポストカード等に使えるこざっぱりとした写真、つれづれ観察記用の解説的な写真しか撮って来なかったが、皆さんはちゃんとカメラでアートしていたのである。また、それよりなにより浜田山のIさんが「みんな写真がとっても好きなんだ」とおっしゃったように、自然をモチーフとして様々な写真を撮影するのがとっても好きな方々なのである。写真なんだから少なくともブレがなくピントがしっかり合い、露出が適正でなくては困るものの、その作品の良し悪しは神のみぞ知ると言う事になる。私も来年からは、花虫さんと出会うとつれづれ観察記に書かれてしまうから一緒に歩きたくないという噂も飛び始めた事だし、このつれづれ観察記もなんと2年間も続けたのだから無事終了とし、地道に作品作りに入ることとしよう。今日は新潟中越地震の惨状を知り、また、みなさんの素晴らしい作品を見て、いつも元気な私もすっかり沈思黙考してしまったが、最後に、もう一度頭を垂れ手を合わせて、一刻も早い立ち直りを祈って、今日の報告を終了としよう。
<今日観察出来たもの>花/コウヤボウキ、キバナアキギリ、ツリガネニンジン、ワレモコウ、セイタカアワダチソウ、アキノキリンソウ、ヤクシソウ(写真上右)、シラヤマギク、ヨメナ、ノコンギク、ノハラアザミ、ミズヒキ、ミゾソバ、ヤマハッカ等。蝶/キタテハ、ヒメアカタテハ、ベニシジミ、ヤマトシジミ、チャバネセセリ等。昆虫/アキアカネ、マユタテアカネ、オオアオイトトンボ、アミガサハゴロモ等。キノコ/ミドリスギタケ(写真下左)、タマゴテングタケモドキ、ヒメカバイロタケ、コテングタケモドキ、ドクツルタケ、ニセコナカブリ?(写真上左)等。その他/サルトリイバラの実、ウドの実(写真下右)等。
10月23日、茨城県那珂郡那珂町
先週の土曜日に八ヶ岳高原まで遠征して来たので、困ったことに遠征癖がついてしまって、今週も何処かへ行きたくなった。それに今回の遠征が今年最後で、しかも半年先までもう遠征をしないのだからと言い聞かせて、茨城県
那珂郡那珂町へ行った。ここは1997年にツマグロキチョウを多数観察した場所なのだが、一昨年行った時には1頭も観察できなかった。本来なら昨年行った栃木県の鬼怒川河川敷へ行けば観察できるだろうとは思ったものの、相次ぐ台風によって河川敷は水に浸って、ツマグロキチョウの観察どころではないだろうと思ったのだ。しかも、奥日光は紅葉が始まっているから、東北自動車道は気が進まない。また、河川敷より雑木林に囲まれた谷戸の方が、何かと他のものも観察できると言う訳である。そんな思惑で今日は午前5時に起きて日帰りで行って来た。現地には9時とすこぶる快調に到着した。谷戸の農道にはまだ陽が刺してなく、ノハラアザミにセスジツユムシが、エノコログサにはヤマシトシジミが、凍えるかのように止まって露に濡れていた。最近、歳をとったこともあってか、早起きしてフィールドへは行かなくなったが、この季節、露に濡れる花や昆虫を撮影するのには絶好の季節でもあるのだ。陽が射して来るまではピーカンでも野の花や各種の実をしっとりと撮影できる。さすが茨城県まで来ると、多摩丘陵ではほんの少ししか見られないものも、こんなにも
あるのかと感激する程にあるのだから嬉しくなる。野の花で今日一番多く見られたのはノハラアザミとヨメナで、キバナアキギリやツリフネソウはもう時期が遅かった、実ではこんなにもあるのと驚く程にスズメウリやアオツヅラフジやノブドウが至る所から垂れ下がり、ガマズミ、ノイバラの赤い実も一杯であった。更に自生するウメモドキを発見した。
ようやく陽が射して来て気温が上がったので、ツマグロキチョウの見られた場所に行って見ると、山裾の農道は荒れに荒れていてキチョウが少数見られただけで、一昨年と同様に発見できなかった。そればかりではなくズボンに様々な植物の実がくっついてひどい目にあった。ちなみにどんな植物の実かと言うと、チカラシバ、キンミズヒキ、イノコズチ、コセンダングサと言った具合である。多摩丘陵でもフィールドのお邪魔虫たる薮蚊がいなくなってほっとしたのも束の間、これらの植物の種が何食わぬ顔でお邪魔虫となって衣服にくっつくのだから困ってしまう。もう荒れ放題の農道は懲り懲りだと、その後、お邪魔虫を避けて付近を散策したもののツマグロキチョウは発見出来なかった。それでもしつこくお邪魔虫にはたかられた。しかし、昆虫も植物同様にその数はもの凄く多く、特にナツアカネ、アキアカネ、ノシメトンボ等のアカネ類は、濃紺の山肌をバックに秋の陽に輝いて無数に飛んでいる。また、咲き残ったセイタカアワダチソウにはキタテハを筆頭に、キチョウ、モンシロチョウ、メスグロヒョウモン、テングチョウ、ウラナミシジミ、イチモンジセセリ、チャバネセセリ等が吸蜜に訪れていた。普通種はこんなにも多いのに、ツマグロキチョウがいなくなったのはどうしてだろうと考えたが、やはり荒れるにまかせた里山放棄がその原因の一番手ではなかろうか。谷戸奥には休耕田が多く、山に入ってみようとしても道は踏み跡すら無くなり、山自体もアズマネザサが繁茂し放題なのである。多摩丘陵の図師・小野路歴史環境保全地域のように美しく手入れされていたら、きっとツマグロキチョウも生息し続けたに違いない。一見とても自然度が高いとも見受けられるが、その質はとんでもなく悪いのである。ツマグロキチョウと同様にリンドウも見られなかった。
またしてもコンビニで購入した冷たい弁当を食べ終わると、ツマグロキチョウはやはり河川敷とばかりに、付近を流れる那珂川へ行った。しかし、河川敷は水こそ退いているものの、増水した爪跡が各所に見られた。これでは河川敷に降りて行く気にもなれない。午前中に散策した谷戸も大雨の傷痕が各所に残り、用水路から水が溢れて農道もかなりやられていた。これを元通りに戻すのには、かなりの労力が必要な事だろう。今年、何べんも襲って来た台風の被害は甚大で、しいて慰めを見つけ出そうとすれば、稲の収穫作業が過ぎてからだったのが幸いだった。そんな訳で何処か午後の道端自然観察に好適な場所はないかなと車を走らせていると、比較的管理された雑木林に囲まれた谷戸があった。車を停めて歩き出すと、以前にも散策したことのある場所である事を思い出した。確かここにもツマグロキチョウは生息していなかったものの、様々な被写体に巡り合えた記憶が蘇った。まず最初に現れたのはオオアオイトトンボである。しかもその数の多さには驚いた。多摩丘陵でも舞岡公園でもオオアオイトトンボは生息しているのだが、その数はそれ程多くない。谷戸に沿った雑木林の裾の農道を僅か100m程散策するだけで、約10匹以上はお出ましになった。ここの谷戸は比較的雨や風による被害が少なかったようで、セイタカアワダチソウが美しく咲いている。天気は次第に雲が厚くなって来た為に蝶こそ飛んではいなかったが、シロオビアワフキがその茎で交尾しているのを発見した。また、谷戸田にそこだけ突出するかのようにクヌギがたくさん生えている場所があって、夏ならば様々な昆虫に出会えそうな樹液が滲み出ただろうと思われる木がたくさんあった。林内を散策してみるとまだ樹液が滲み出ているのだろうか、コガタスズメバチとぽろぽろのヒカゲチョウが吸汁していた。
以上、今日はこんなに遠くまで来たのに、ツマグロキチョウはおろかそれ程の成果があった訳ではなかったが、茨城県のフィールドを散策する楽しさだけは充分に味わえた。そこで早起きした疲れを癒し、長い帰路の運転を考えて車の中で一眠りをした後、常磐道に乗った。終点の三郷まで渋滞無しだったが、箱崎の手前の駒形あたりから激しい渋滞となった。まあ、のんびり帰ろうやと気楽な思いでいたのだが、突然車が左右に揺れる。反対車線に大型車が通ったから揺れるのかなと思っていたのだが、その揺れは尋常ではない。道路中央に立つ街路灯も激しく揺れている。これは地震だ、かなり大きいと思い、恐怖心が襲って来た。しばらく経つとおさまったのでNHKラジオをつけると、やはり地震であることが判明した。震源地は新潟県中越地方である。NHKラジオを聞きながらのろのろと走っていると、新潟放送局のアナウンサーがまた地震ですと声をあげた。しかし、車は揺れてはいない。しかし、数秒後にまた恐ろしい地震の揺れが車を襲った。前方のトラックの荷台が激しく左右に揺れている。このまま阪神大震災のように高速道路が壊れてしまうのではないかとの恐怖心に襲われる。しかし、幸いな事に揺れは収まった。この経験からラジオの電波よりもかなり遅れて、地震波がやって来る事が分かった。その後、もう一度地震が襲って来たが、その後は平穏になり、渋滞も抜けて自宅に辿り着いた。テレビをつけると、とんでもなく大きな地震が新潟県中越地方を襲った事が分かった。
<今日観察出来たもの>花/ヤマラッキョウ、キバナアキギリ、ツリガネニンジン、ワレモコウ、セイタカアワダチソウ、アキノキリンソウ、ヤクシソウ、シラヤマギク、ノダケ、ツリフネソウ、ヨメナ(写真上左)、ノコンギク、ノハラアザミ、ミズヒキ、ミゾソバ等。蝶/キチョウ、モンシロチョウ、キタテハ、ルリタテハ、メスグロヒョウモン、テングチョウ、ヒカゲチョウ、ウラナミシジミ、ベニシジミ、ヤマトシジミ、イチモンジセセリ、チャバネセセリ等。昆虫/ナツアカネ、アキアカネ、ノシメトンボ、オオアオイトトンボ(写真下右)、セスジツユムシ(写真下左)、トノサマバッタ、ツチイナゴ、コバネイナゴ、オオカマキリ、コカマキリ等。その他/ガマズミの実、ノイバラの実(写真上右)、ノブドウの実、スズメウリの実、ウメモドキの実等。
10月22日、神奈川県平塚市土屋
今日は台風一過の抜けるような青空となった。しかし、西日本を中心として多くの人命が失われ、命は助かったものの家屋がめちゃめちゃになった方々もあると思うと、素直に晴天を喜べない複雑な心境だ。NHKラジオで、茨城県産のレタスが通常の8倍もの値段で取引されていると放送されていた。日本列島の隅々から、もう台風はごめんだとの声が聞こえて来る。ずっと行きたかったが、雨で延ばし延ばしとなっていた平塚市土屋へやっと行って来た。この時期、様々な野の花と昆虫達が観察出来るし、何より広い青空を仰ぎたかったのである。いつものように土屋霊園の駐車場に車を停めると、まず最初に目に入って来たのはトキリマメの赤い鞘と鞘が弾けて現れた仁丹粒程の黒い種子である。どちらも秋の清々しい光に輝いていた。駐車場の周りにはスダジイが植えられているので、台風による大風でたくさんの実が地面に落ちていた。かつては良く拾って炒って食べたものだが、最近では自然観察と写真撮影が中心となって、里山の幸を味わう余裕がなくなったのは寂しい限りだ。一年間を通して食べるものと言ったら、初夏のモミジイチゴの実位となってしまった。その気になればかなり食べられるものを知っているのだから、なんとなくおしい気がするし、たくさん採ることはもちろん賛成出来ないが、ほんの少し味わってみるのも重要な自然観察の一部とも言えるだろう。すなわち、五
感を総動員て里山と仲良しになると言う訳である。
雑木林の中に入ってゆくと、オケラ、コウヤボウキ、リンドウ、アキノキリンソウ、ヤクシソウ、シラヤマギク、ホトトギスと、秋の野の花がみんな揃って歓迎してくれたのだからたまらない。もっとも、リンドウは咲き始めたばかりだから撮影の好期は11月に入ってからだろう。また、日当たりの良い場所には、一年間の野の花の最後を締めくくるリュウノウギクも成長し始めていた。もちろん、様々なキノコも生えているが、野の花同様に、木漏れ日が地面に斑模様を作っていて、カメラザックから雨傘を出してまで撮影する気にはなれない。今日は久しぶりの晴天だから、素直に陽の光と戯れて撮影しようと思ったのだ。雑木林の縁の農道を歩いていると、傍らが崖になっていて、そこから滲み出る水を舐めにキチョウとキタテハがやって来ていた。きっと滲み出る水に何らかのミネラル成分が含まれているのだろう。また、路傍に生えるイラクサにアカタテハが盛んに産卵している。久しぶりに蝶の卵を撮影しようとイラクサの葉裏をめくっていたら、その名の通り棘に触れて痛くなった。一回りして雑木林の中の農道を下って来ると頬杖をついた石仏が立っていて、長閑な秋の日を象徴するかのような姿にじっと見入った。この一帯は各種の石碑や石仏が多く、特に馬頭観音と道祖神が目につく。馬頭観音は家畜の神様、道祖神は道の神様だから、遠い昔からの日本人の素朴な信仰が、このあたり一帯にみなぎっているようである。
午後からは平塚市立琵琶青少年の家側の谷戸へ行った。権現山の野鳥観察施設へ行こうかなとも思ったが、ツツドリが現れてから超満員で観察窓確保もままならないと聞いていたので止めにした。それに今年はウスバキトンボを撮影していなかったし、モズの早やにえが鉄条網についているかなと気になったのである。ウスバキトンボはウラナミシジミと同様に片道切符で北上し、寒さの訪れとともに死滅する南方からの夏だけの使者である。いつも梅の木の小枝に飛び疲れて静止しているのだが、今日は丹念に探したのだけれど一匹もいなかった。もうだいぶ寒くなったから死滅してしまったのだろうかとも思ったが、ナツアカネ、アキアカネ、ノシメトンボ、マユタテアカネ等のアカネ類は相変わらず元気なのだから不思議だ。それとも台風が度々やって来たからかなと思ったが、過去のフィールドノートを開いてみると、10月中旬以降に観察記録が無い。と言う事は今年ももう死滅してしまったようである。それではモズの早やにえはどうかなと行って見ると、アマガエルらいしカエルが干からびて刺してあったのみであった。図鑑によるとモズは繁殖後里山から一旦姿を消し、初秋に戻って来るとある。この早やにえがたった一つをどう解釈するかだが、まだモズは本格的に里に戻って来て無い、まだ食べるものがたくさんあるから早やにえを作らない、縄張りを張っていないから早やにえを作らない等の理由が挙げられそうである。いずれにしても今度土屋に来る時には、たくさんの早やにえが見られる事だろう。そんな訳で早やにえはカエルのミイラ一つだったのだが、カエルの早やにえは比較的珍しいので撮影した。しかし、このつれづれ観察記は、ご婦人方が気持ち悪るがるものは載せないと言う掟があるので、ヘビ、ナメクジ、ゴキブリ、毛虫等と同様に割愛した。
土屋では牧畜が盛んだから牛に食べさせるためのヒエが広大に植えられていて、独特の穂が出て青空に浮かび、秋風にそよぐ様は風情がある。また、稲は脱穀がすんだらしく、藁は水を抜いてからからの田んぼに束ねられて逆さまに立てかけられ、幾何学模様を見るようでこれまた風情がある。そんな秋の風情を写し終えて、目線を遠くに向けると、カキのたくさん植えられている畑が目に入った。こんなに度々台風の大風が吹いたというのに、カキの実はたわわに実ってオレンジ色に輝いている。近くまで行って見ると、私が大好きな富有柿である。写真を写そうと畑の中に入ると、キタテハがたくさん舞上がった。熟して落果してぐちゃぐちゃになったカキの汁を吸っていたのだ。また、枝に残っている熟柿にもキタテハがたくさん吸汁している。この熟柿の好きな蝶はたくさんいて、クロコノマチョウ、ヒメジャノメ、ルリタテハ、アカタテハ、キタテハ、ウラギンシジミがあげられる。9月下旬の舞岡公園では、これらに加えてゴマダラチョウ、アカボシゴマダラも吸汁にやって来ていたのだから、カキにお世話になっている蝶は非常に多いのである。ずっとウラギンシジミが小枝に残った熟柿に吸汁する姿を写したいと思っていたので、くまなく探してみたのだがキタテハのみであった。ウラギンシジミならば、その角ばった銀色の羽裏と丸いオレンジ色の柿の実とのコントラストがとても美しいのだ。やはりウラギンシジミと熟柿を撮るなら、雑木林の中や縁にある柿に注意しなければ出会う事が出来ないようである。そんな訳で琵琶側の谷戸では目指すものは撮れなかったが、広大な青空一杯で、丹沢方面を見上げてみると大山や塔ノ岳がくっきりと見えた。まだ少し時間が余っていたので、午後の陽に輝くキンエノコログサやツリフネソウやヒヨドリジョウゴの実を撮ろうと、国道を挟んで反対側の谷戸へ行ってみたのだが、やはり台風の影響で見るも無残に荒れていた。明日は遠出をしようと考えているし、ピーカンの秋の午後の陽は赤いので、リンドウが満開の時にまた来ようと、早や上がりの帰宅となった。
<今日観察出来たもの>花/オケラ、コウヤボウキ、リンドウ、アキノキリンソウ、ヤクシソウ、シラヤマギク、ホトトギス、ノダケ、ツリフネソウ、ヨメナ、ノコンギク、トネアザミ、ノハラアザミ、ミズヒキ、ミゾソバ等。蝶/アサギマダラ、モンシロチョウ、キチョウ、アカタテハ、ルリタテハ、ツマグロヒョウモン、キタテハ(写真下左)、ウラギンシジミ、ベニシジミ、ヤマトシジミ、ウラナミシジミ、チャバネセセリ等。昆虫/ナツアカネ、アキアカネ、ノシメトンボ、マユタテアカネ、オオシオカラトンボ、トノサマバッタ、ツチイナゴ、コバネイナゴ、オオカマキリ、コカマキリ等。その他/トキリマメの実、シイの実(写真下右)、カキの実(写真上右)等。
10月21日、横浜市戸塚区舞岡公園
いやはやこの二日間は実に良く雨が降った。それだけ今度の台風23号が大型であったという訳である。関東地方は進路からはずれ、また、上陸すると急速に勢力が衰えたからたいした事は無かったものの、いきなり海から上陸した四国地方の惨状にはただ頭を垂れるのみである。続いて台風24号が日本列島に近づいているらしいが、山手線ではないのだから、もういい加減にして欲しいものである。そんな訳で、このつれづれ観察記もだいぶ日幅が空いてしまった。そこで今日は吹き返しの風が強い事を承知の上で、まるで砂漠で喉の渇きを潤すためにオアシスを求めるかのように舞岡公園へ出かけた。途中、土砂が流出した所が各所で見られ、舞岡公園までの道が心配されたが、無事に到着出来た。車をいつもの所に停めて歩き出すと、見知った方に早くも二人出会った。「被害状況確認の為にやって来たんですよ」等とおっしゃるが、道端自然観察へ出たくて出たくて仕方がなかったと顔に書いてある。今回の台風ではそれ程の被害は無かったが、前回の台風22号で土砂崩れが各所で起きた言う。古谷戸の里にある管理事務所の裏も土砂崩れがあり、もう少し大規模だったらK女史の机も椅子もパソコンも土砂で押しつぶされていたことだろう。瓜久保奥の河童池左側のキノコが良く発生する場所も、土砂崩れで立ち入り禁止となっていた。「こう何回も台風が来ると蝶や昆虫
達も大打撃でしょうね」と聞かれたが、確かに命を落とした昆虫達は多いはずだが、さすが野生動物たる昆虫達だから、かなりしぶとく生き抜いている事も確かであろう。
今日最初に観察した昆虫はハサミツノカメムシの雄である。ミズキが大好きだから舞岡公園にはかなり見られる。身体は緑色なのだが前胸背の左右の突起が赤く、雄では尾端に赤い鋏のような並行する2本の突出物があるのですぐ分かる。その次に見つけたのがオオトビサシガメで、今日はこの他、エサキモンキツノカメムシ、アカスジキンカメムシの幼虫、クサギカメムシ、ホシハラビロヘリカメムシ等のカメムシの仲間が非常に多く見られた。きっと長雨で濡れた身体を乾かしに、風通しの良い場所に現れたのだろう。図鑑によるとこのオオトビサシガメは山間部に多いとあるので、舞岡公園での遭遇には驚いた。普通、杉や檜等の樹皮の下で越冬するのだが、山小屋等に大量に侵入して刺される事もあるとある。刺されると非常に痛いとあるので、注意が必要な昆虫だ。こんな訳で台風通過後でも昆虫達は元気であった。そこで前田の丘の草原に各種のバッタを求めて上がって行くと、マユミの実が薄赤く色づいてとても綺麗である。目指すバッタは、ツチイナゴがいたくらいであったが、これまた濡れた身体を乾かそうとしているのか、ケヤキの幹にヒシバッタがよじ登っていた。ヒシバッタはひな祭りの菱餅に手足が出たと思えば想像がつくと思う。もちろん体色は褐色で、その紋様は様々で、今森光彦著「昆虫記」福音館書店刊に各種のものが載っている。
今日は朝は雨が降っていて出かけるのが遅かったから、すぐに昼食時間となってしまった。瓜久保の家でいつものように一人寂しく冷えた弁当をぱくついていると、鎌倉のNさんや新百合ヶ丘のAさんがやって来た。みんな家の中でじっと我慢の子をし通しだったから、私と同じようにストレスが溜まりに溜まっていたようである。昼食を済ませると、皆んなして古谷戸の里方面へ散策を開始した。途中、タイアザミでもないしノハラアザミでもないアザミを発見する。舞岡公園には疑問符がつくこのアザミがたくさんある。ことによったら外来種かもしれない。そんな事を話しながら、まず、ガガイモの実がはじけたかしらと行って見ると、まだ青々としてニガウリのようであった。こんなに雨が続くと、はじけたっくってもはじけられないのかもしれない。近くにはツルウメモドキやアケビの実が色づいていた。今までツルウメモドキは園芸種かなと思っていたから、自生しているのを見て驚いた。古谷戸の里の管理事務所前のヒヨドリジョウゴやユズの実が色づき始め、ガマズミやウメモドキの実は真っ赤である。また、台風の大風でカラスウリの実が手の届く場所までたくさん垂れ下がっていた。しかし、今日の古谷戸の里での特筆すべきものはカニノツメだろう。先日、寺家ふるさと村で探しても見つからなかったものが、まさか古民家裏で出会うとは有り難い事である。写真を見ていただければ分かるように、その色合いと言い、その質感と言い、カニノツメそのものである。このカニノツメがなにやら黒褐色のねばねばした土のようなものを挟んでいるが、この部分はグレバと呼ばれ、胞子生産工場と言われている。匂いを嗅いではみなかったが悪臭を放つと書かれている。また、写真のカニノツメの前にある球形の白い石ころのようなものがカニノツメの卵で、これを破って爪が伸びて来るのである。付近にはたくさん卵が見られたから、きっと数日後には「蟹道楽」のような蟹料理屋さんが開店するに違いない。
今日、皆んなを楽しませてくれたのは、なんと言っても炭焼き小屋近くでのアゲハの終齢幼虫だろう。最初、見た時に身体のストライプが黒かったのでクロアゲハかな思ったのだが、家へ帰って図鑑を開くとアゲハであった。だいぶ気温が低くなったので、ストライプの色が黒々として来たようである。もっともクロアゲハの幼虫はとても少ないし、しかもアゲハと異なって日が当たらない場所の柑橘類に多いのだ。それはさて置き、カラタチの葉も少なくなり、また枯れ始めたので、アゲハの幼虫は蛹化する場所を探してモウソウチクで作った柵の上を歩いていたのだ。初めはそのまま撮影したのだが、それでは唯の芋虫毛虫である。そこで幼虫を突付いて怒らせようとした訳である。アゲハ類の幼虫は怒るとオレンジ色の肉牙を伸ばして、それと同時に何とも言えない匂いを発散して敵を驚かせ退散させるのである。動いていた幼虫が止まったので三脚を立て、ピント合わせをオートフォーカスにして、幼虫の背中の辺りを指で触れると、止してよと言わんばかりに肉牙を伸ばして反り返る。暖かい季節ならかなり長時間肉牙を伸ばしているのだが、今日はすぐに引っ込めてしまう。そんな訳で何べんも繰り返し、オートフォーカスで素早く撮影した。きっと、頭の辺りを突付けば反り返ることは無かったのだろうが、一人ではなかなか難しい。そこで鎌倉のNさんや新百合ヶ丘のAさんに援軍を頼もうと思ったら、他所で私と同じ事をアゲハの幼虫にしているではないか。どうやら今日はアゲハの幼虫の受難の日のようである。皆んなしてそんな意地悪遊びをしたが、鎌倉のNさんは女性らしく「もう嫌だと言ってるようよ」と言うので止めにした。その後、色づいたカマツカの実や北上して来て土着したムラサキツバメ等、様々なものを観察して瓜久保の家に戻ると、舞岡のFさんに久しぶりに出会った。最近、野鳥の飛んでいる写真にチャレンジしているのだと言う。Fさんによるとルリビタキもジョウビタキもアオジも見られるようになったと言うので、そろそろ野鳥撮影のシーズンが迫っているのを感じた。もうすぐ11月、撮れるものさえ撮れなくなってしまうので、台風さんにはこれでジエンドとお願いして、舞岡公園を後にした。
<今日観察出来たもの>花/ノダケ、ツリフネソウ、ヨメナ、ノコンギク、ヒヨドリバナ、トネアザミ、ノハラアザミ、ミズヒキ、ミゾソバ、アキノウナギヅカミ、ホトトギス、ヒイラギ等。蝶/ナガサキアゲハ、モンシロチョウ、キチョウ、キタテハ、ムラサキツバメ、ウラギンシジミ、ベニシジミ、ウラナミシジミ、ヤマトシジミ、アゲハの幼虫(写真上左)等。昆虫/アキアカネ、コノシメトンボ、オオアオイトトンボ、ハサミツノカメムシ、オオトビサシガメ(写真上右)、クサギカメムシ、エサキモンキツノカメムシ、ホシハラビロヘリカメムシ、アカスジキンカメムシの幼虫、オンブバツタ、ツチイナゴ、コバネイナゴ、トビナナフシ、ハラビロカマキリ、オオカマキリ等。キノコ/カニノツメ(写真下左)、ツノマタタケ、アラゲキクラゲ等。鳥/カワセミ、コサギ、ヒヨドリ、ヤマガラ、シジュウカラ、ジョウビタキ等。その他/アオツヅラフジの実、カマツカの実、ジョロウグモ(写真下右)等。
10月17日、東京都町田市図師町〜小山田緑地
今日は昨日の曇り日と異なって、雲一つ無い晴天である。昨日、気温が5度前後の紅葉が始まった八ヶ岳高原にいたから、太陽の暖かさが身に染みる。山や高原はそろそろ冬支度であるが、多摩丘陵はまだまだ晴れていさえすれば暖かい。今日は昨日の疲れも考え、また抜けるような青空だから、図師町の三つの谷戸を巡り歩き、日向ぼっこをしている昆虫達を探して撮影し、おまけに自分までもが日向ぼっこをしようと考えて出かけた。また、帰り際にはキノコの観察に小山田緑地を散策してみようと車は小山田緑地の駐車場に停めた。現地到着は午前9時半だから、それ程遅いわけではないのだが、小山田緑地の駐車場は満杯である。久しぶりの晴天の日曜日なのだから、家族連れがたくさんやって来ているのだ。小山田緑地の駐車場に車を停めて図師町に向かうと言うのもなんだが、尾根越えより平坦だから楽である。神明谷戸に入るとほとんどの田んぼは稲が刈られ、谷戸奥の田んぼで稲刈りの作業が行われていた。雑木林に沿った農道を歩いて行くとニシキギの実が目に入った。今年は公園等に植栽されているものは、ほとんど実がついていないので貴重な被写体である。ニシギギと言うと植栽されたものばかりを見て来たように感じるが、雑木林の低木として自生しているものである事をあらためて認識した。しかし、植栽されているものは幹がかなり立派だから、野山に自
生していたものを品種改良したものかもしれない。溜池が見えるとアカメヤナギの老木の下で、紺の作業服の一団がお茶を飲んでいる。この地域の里山を管理するTさん達のグループである。私と異なって朝早くから作業していたから、ちょうど10時の中休みと言う訳である。「こんにちわ」と挨拶すると、「お茶でも飲んでいきなよ、柿もあるよ」とTさんがすすめてくれた。「それでは大好きな柿をいただきますか」と言うと、「次郎がいい、富有がいい」と言うので、もちろん富有柿をいただいた。富有柿の方が次郎柿より甘味が強いのである。
しばし、Tさん達と談笑した後、尾根を越えて五反田谷戸へ行った。神明谷戸は農作業の真っ最中で邪魔になってはいけないし、谷戸奥はまだ三分の一しか日が射していないのだ。夏に比べるとだいぶ陽が低くなった証拠である。これでは各種昆虫達の日向ぼっこを観察するには不向きである。五反田谷戸へ行くと、こちらはほとんどの田んぼに日が射していた。今日は前述したように珍しいものを探そうなんて魂胆は端から無いから、休耕田に刺してある竹の棒や稲乾しの支柱等に目を配って昆虫達を探した。秋が本格化してから晩秋まで各種の昆虫達は、陽にいち早く暖められた竹の棒で日向ぼっこをするのだ。例えば、アキアカネ、ナツアカネは気温が上がるまでは棒の天辺には止まらないで、やや斜めになったこれらの棒の中程で暖をとる。また、初秋まで雑木林の日陰で生活していたマユタテアカネも、日向に出て同じように暖をとる。また、稲刈りが済んで田んぼの中が居心地悪くなったハネナガイナゴやコバネイナゴ、各種の蜘蛛等も暖をとっている。まだ晩秋に比べれば気温が高いから、近づくと何べんも逃げられながらも無事に日向ぼっこの昆虫達を撮影した。五反田谷戸にはノハラアザミが咲き、フユノハナワラビが掌を広げている。少し尾根に上がってみるとコウヤボウキも花をつけ始めていた。10月初旬が最盛期であったキバナアキギリやカシワバハグマはまだ咲いているが生気を失っている。いよいよ早春から各種の野の花が咲き乱れて楽しませてくれた谷戸の花も、最後の大物であるリンドウにバトンタッチをして、今年を終了しようとしているようである。桜の老木の下で食事をしていると、カワセミが飛んで来て溜池の杭に止まった。また、何気なく老木から生えるサルノコシカケ科のキノコを見上げると、なんとヨコヅナサシガメの幼虫がキノコに口吻を差し込んで食事をしていた。サシガメは昆虫達の体液がメニューの筈だが、寒くなって毛虫等がいなくなったからキノコもメニューにしたようである。
食事が済んでキノコ尾根を越えて白山谷戸へ久しぶりに降りて行った。キノコ尾根にはタマゴテングタケモドキやドクツルタケの大物がぽつりぽつりと生えていたが、写欲をそそる場所には生えていなかった。ただアカマツの立ち枯れにヒメカバイロタケがびっしり生えていたので、広角レンズを取り出して梢を入れ、見上げるようにして撮影した。白山谷戸は人が余り来ないからノハラアザミが美しく咲いている。農道脇にはヨメナやノコンギクが美しい。このところ薄紫が良く出ないデジタルカメラを主に使用しているから野菊をあまり撮らなかったが、今撮らなければ後悔するとばかりにノコンギクを撮影した。多摩丘陵には野菊と称しても良いものとして、ノコンギク、ユウガギク、ヨメナ、リュウノウギクの4種類が見られ、少し趣が異なるがシロヨメナ、シラヤマギク、ヤクシソウ等がこれに加わる。これらの見分け方はいつも頭痛の種で、今では花を手に取って冠毛の有無を調べなくともなんとなく分かるようになったが、だからと言って確実に同定しているのかと言うととても危なっかしい。写真のノコンギクは何となく葉が厚ぼったいからと言った具合なのだから間違えているかもしれない。ノコンギクは昨日の八ヶ岳高原にも咲き残っていて、多摩丘陵と異なって花色はみんな薄紫であった。きっと葉が厚ぼったいから寒さにも強いのだろう。
小山田緑地の駐車場に戻ると、カメラザックを車に置いて身軽になって歩き始めた。いつもキノコが見られる池の周辺にはなんにも生えてない。あんなに雨が降ったのに、気温が低くかったからか、キノコの発生はそれ程ではないようである。なんだか今日は駄目みたいと思いつつも奥の池に歩みを進め、なんとはなしに古い苔むした杭を見ると、ゴイシシジミが苔の上にとまって吸水している。こんな場面に出遭うのは、長いこと蝶の観察をしているが始めてである。また、気温がだいぶ低くなった10月半ばにゴイシシジミを見るのも初めてだ。そんな事を思いつつも池の水面をバックにして、絶好の美しい写真が撮れるぞと喜び勇んだ。ゴイシシジミは吸水に夢中でかなり近づいても微動だにしない。もちろんばしばしシャッターを切ったが、出来うるものなら水面に太陽光線が煌いていれば玉ボケが入って、より素晴らしい写真が撮れたのにと悔やまれた。その後、小山田緑地におけるキノコのもう一つの穴場に行ってみたがこれまた皆無であった。
今日はキノコはどうもだめそうだなと思って石畳の道を経由して降りて来ると、道端に形の良いカラカサタケのツバより上の傘の部分のみが落ちている。きっと道端に生えていたものを誰かがいたずらしたのだろう。と言う事は何処かにまだ生えているかもしれないと探してみると、なんとか一本見つける事が出来た。カラカサタケは背が高いから縦構図なら上手く絵になるものの横構図だと難しい。最近、横構図のものばかり撮っていて縦構図はしばし遠ざかっている。これには理由があって、写真展や写真集のためならいざ知らず、図鑑等では圧倒的に横構図が普遍的なのである。また、横構図をトリミングして縦構図にするのは簡単だが、縦構図のものを横構図にトリミングするのはほとんど無理なのである。こんな理由から縦構図にはずっと遠ざかっていたのである。そこで背の高いカラカサタケを根元は入らなくとも良いからと、思いっきりローアングルで撮影した。こんな時にはあらゆる角度から見られるバリアングル液晶モニターのついたコンパクトデジタルカメラならば簡単なのだが、一眼レフでは上記の写真程度が限界であった。このようなキノコ写真のためにバリアングル液晶モニター付のコンパクトデジタルカメラを買おうかなと考えた事もあったが、私には慣れ親しんだ一眼レフタイプが一番である。以上、今日は日向ぼっこのつもりで来たのだが、かなりの収穫溢れる日となった。やはり目的を持たずに散策するのが、道端自然観察および写真撮影の極意のようである。
<今日観察出来たもの>花/コウヤボウキ、キバナアキギリ、カシワバハグマ、セイタカアワダチソウ、アキノキリンソウ、ノハラアザミ、ヤマハッカ、ユウガギク、ノコンギク(写真上左)、ヨメナ、ヤクシソウ、ゲンノショウコ、ワレモコウ、ミゾソバ、ミズヒキ、ナンテンハギ等。蝶/メスグロヒョウモン、ルリタテハ、アカタテハ、ウラギンシジミ、ゴイシジミ等。昆虫/オニヤンマ、ナツアカネ、アキアカネ、マユタテアカネ、コノシメトンボ、ハンミョウ、クルマバッタ、オンブバツタ、ハネナガイナゴ、コバネイナゴ(写真上右)、アオバハゴロモ、ヨコヅナサシガメの幼虫等。キノコ/ヒメカバイロタケ、カラカサタケ(写真下左)、ドクツルタケ等。その他/ニシキギの実(写真下右)、ヤマカガシ、カワセミ等。
10月16日、長野県南佐久郡南牧村八ヶ岳高原
14日は少し風邪気味であったが、ぐっすりと熟睡して、しかも昨日は抜けるような気持ちの良い秋晴れであったこともあってか、身体の具合は急回復した。そこで、昨日、仕事を大急ぎで片付けると、午後4時に自宅を出発して清里ユースホステルに向かった。もちろん翌日に八ヶ岳高原へ行くためである。清里ユースホステルに着くと、マネージャーのWさんが出迎えてくれた。今年はこれで3度目となる。「急に今朝から寒くなりましたよ、朝の気温は4度でした」と言う。そう言えば去年来た時も寒くて、主だった山々が初冠雪した日であった事を思い出す。去年は秋のキノコの大不作の年で、張り切ってやって来たのだが、お目当てのベニテングタケには出会えなかった。そこで後日に乙女高原へ行ってやっと出会うことが出来た。今年は秋のキノコは大豊作のようだから、八ヶ岳高原にもきっと生えているものと思ったのだ。それに台風22号で大雨が降り、乙女高原までの林道が通れるかどうかも定かでは無く、また、ツキノワグマも出没しそうだから八ヶ岳高原の方が安全確実だと思ったのである。里山をメインテーマとしている私には、高原にだけ生えるベニテングタケはお呼びではないのだが、最も有名なキノコだから是非お目にかかり、しかも写真を撮っておきたいとかねがね思っていたのだ。今でこそ野生キノコの名前をだいぶ覚えたものの、かつてはマツタケ、シイタケ、ナメコ等のス
ーパーで売っていて食卓に並ぶものしか知らなかったが、唯一、このベニテングタケだけは知っていた。一度その道に身を染めたら、一番有名なものには会っておきたいと思うもので、例えば蝶ならクジャクチョウ、野鳥ならヤマセミ、花ならミズバショウと言った具合である。山登りが大好きな方が、一度は槍ヶ岳へ登りたいと思う心理に良く似ている。
しかし、ベニテングタケに一度会って写真を撮ればそれで良いと言う訳ではなく、私なりのベニテングタケの写真のイメージがあるのである。それは白色のつぼの名残りを綺麗に傘に着けた背の高さが異なる幼菌が二本左下にあって、背景に美しいシラカバ林が広がっているといったものなのだ。出来ればシラカバの葉が紅葉していたら最高である。こんな写真が撮れてしまえばベニテングタケは卒業出来るのだが、動かない被写体と言えども、そうたやすく撮らせてくれないのがネイチャーフォットーの難しいところである。そう言ったイメージの写真を撮るのであれば、クマザサが広がる乙女高原よりも、別荘地として管理されている八ヶ岳高原の方が撮りやすい筈である。しかも、去年も書いたと思うが、我が女房さんと義姉が八ヶ岳高原の音楽堂のあたりで、かなり素晴らしいベニテングタケの写真をかつて撮っているのである。少なくとも我が女房や義姉より写真の腕は上だと思っているし、これでもかと機材を買い込み、また、各種被写体で16年間も撮影し続けているのであるから、同じ場所に同じように生えていれば、もっと素晴らしい写真になる筈なのだ。そんな不遜な思いで去年出かけたのだが見事に振られてしまった。そこで今年こそものにするぞと意気込んでいた訳である。別荘住人ではないし、八ヶ岳高原ロッジに泊まった訳でも食事に来た訳てもないのに、専用の駐車場に車を何食わぬ顔をして駐車した。駐車場を囲うようにしてカラマツが生えていて、その下は綺麗に管理された芝地となっている。その芝地にもホコリタケをはじめ数種類のキノコが生えていた。もしシラカバが植えられている同じような場所にベニテングタケが生えていたら、それこそごっつあんと超広角レンズを取り出して、前述したイメージの写真が撮れるのになぁと早くも胸が高ぶった。
そこで足早に音楽堂に向かった。この音楽堂は音楽好きには著名で、かつてピアニストのスヴャトスラフ・リヒテルやスメタナ弦楽四重奏団もやって来たのである。途中、ベニテングタケを幸先良く一本見つけた。綺麗につぼの名残りを残しているものの、傘が水平にすっかり開ききったものである。「ちょっと傘が開き過ぎだな、それに背景も余り良くないし」等と呟いて音楽堂へ足を早めた。一本生えていると言うことは音楽堂周辺にもあるはずだとふんだのである。しかし、音楽堂周辺をくまなく探してもベニテングタケは無かった。そこで仕方無しにさっき見つけものを撮影して、美鈴池への散策路へ行ってみた。途中、この施設で草刈等で働くお爺ちゃんがいたので、「すいません、赤いキノコで、ベニテングタケは生えていませんか」と尋ねると、「そうよな、10日ばかり前に高原ロッジと音楽堂の間に生えていたけど、草刈で一緒に刈っちゃったものな」と言うので、「あそこへ行ってみたんですが一本生えてました」とカメラの液晶デイスプレイでお爺ちゃんに見せる。「そうよな、今年は種類は少ないがキノコがえらく生えて、ここから上は駄目だろうが、今は下の方が良いと思うよ」と教えてもらった。「そうですか、せっかく来たのだから美鈴池へ行ってから下の方へ行ってみます」とお爺さんに頭を下げた。美鈴池手前で木の幹から生えているヌメリスギタケモドキを撮影していると、感じの良いご婦人が降りて来た。「何を撮ってるんですか」と聞かれたので、またまたカメラの液晶デイスプレイでヌメリスギタケモドキを見せてあげると、「へぇー、キノコも絵になるんですね」とおっしゃってくれた。そのご婦人によるとベニテングタケが見られたのはやはり10月初旬で、期待していたリンドウ、マムシグサの実、ウメバチソウ等も、もう終わってしまったと言う。
そこで曇天で気温の低い中、コンビニで買って来た冷えた和風幕の内御膳と言う弁当を、これまた冷たいお茶を飲みながらぱくつくと、お爺ちゃんの言うとおりに下へ下がってベニテングタケを探す事にした。少し降りると美しいシラカバ林があったので、車を停めて歩き出した。しかし、そのシラカバ林には目的のベニテングタケは無く、それに続くミズナラ林で目が覚めるようなベニテングタケの一団を発見した。とは言っても合計5本である。その中には黄色っぽい色をしたもの、白色のつぼの名残りをほとんどつけていないもの、すっかり傘が開いているものと、お目当てのものはたった一本のみであったが、綺麗に白色のつぼの名残りをつけている真っ赤な幼菌である。しかし、すこし形がお結び形なのが気になった。やはりベニテングタケは西武の松坂大輔投手のような真ん丸顔でなくてはならないのである。もちろんお結び形だが今日出会った中では一番のもので、角度を様々に変えて何回もシャッターを切った。これならこの林を探せば他にもあるぞよとばかりに、絶対に見逃さないぞとの固い決意で探し回ると数本見つける事が出来た。しかし、みんな単独で生えていて、黄色いものや白い名残りをつけてないものが多く、やっとの事で写真の幼菌を見つける事が出来た。背景は期待していたシラカバ林ではなくて、ミズナラの黒っぽい幹で、もちろん一本単独で生えているものだ。それでも今まで見たものの中では最高のもので、これまた飽きれる程シャッターを切った。思う存分撮り終わって時計を見ると早や午後4時、帰る時間である。空はますます曇って気温もだいぶ低くなった。ベニテングタケのずっと頭の中にあるイメージ通りのものは撮れなかったが、少し時期が遅かったとはいえ、今年もとにかく出会えたのだから大満足と、車のヒーターを最強にして家路を急いだ事は言うまでもない。
<今日観察出来たもの>花/リンドウ、ノコンギク、マツムシソウ等。キノコ/ベニテングタケ(写真上右)、カラカサタケ、ヌメリスギタケモドキ(写真下左)、ホコリタケ等。その他/マムシグサの実、メギの実、コナシの実、オオカメノキの実等。その他/噴煙上げる浅間山(写真上左)、ハウチワカエデの紅葉(写真下右)等。
10月14日、横浜市青葉区寺家ふるさと村〜小野路町
今日は結論から言うと道端自然観察へは行ったのだが、この観察記は書くのはよそうと思っていた。観察したものはたくさんあったにもかかわらず、お見せするような良い写真が撮れなかったからだ。このところやや体調がすぐれない。肩が張ったり膝が痛くなったりして何となく体がだるい。こんな憂鬱な天気が続いているし、今朝はとっても冷え込んだから軽い風邪症状なのだろう。これは神様が休みなさいよと言っている証拠だから休めば良いのだが、生まれつきの貧乏性が災いして雨さえ降っていなければ出かけてしまう。そんな訳で遠出する気にはなれないので、またしてもご近所さんの寺家ふるさと村へ行った。自分にとっての相性の良いフィールドと言うものが何故だか知らないがあるのだが、この寺家ふるさと村はどちらかと言うと相性の悪いフィールドである。しかし、田んぼが広く残され溜池も各所にあって、東に開いた谷戸だから湿潤でキノコに関しては素晴らしい環境である。また、お隣が子供の国だから、緑地としてのスケールも大きく、蝶も種類が豊富で国蝶オオムラサキも生息している。その他、例えばヒゲコメツキとかトゲナナフシとか他所で見られない昆虫も生息しているのである。今日の目的は、栗の毬が綺麗に開いたような格好のフクロツチガキやエリマキツチグリ、竹林に生える赤いローソクのようなキツネノエフデや蟹の爪に似ているからずばりのカニノツメであった。しかし、
結論から言うとカニノツメ以外はあったにはあったが、萎れていたり絵になる場所に生えていなかったりと撮影することが出来なかった。
やっぱり舞岡公園へ行けば良かったかなと悔やんだが後の祭りである。そこで午後からはいつも期待を裏切らない小野路町へ行った。万松寺谷戸は人の多い寺家ふるさと村と異なって、深としてとても静である。どちらかと言うと体調のすぐれない時に出没する塞ぎの虫も見え隠れしているから、小野路町の静寂はとても心地よい。尊敬する見山敏氏の言葉が部屋に張ってあるが、観察記にふさわしくないが以下に紹介してみる事にした。「慌てている時、結果を焦り過ぎる時、心配事がある時、体の調子が悪い時、そんなときは無理をしないで心をゆっくり休ませてあげよう。英気を養い、心の底からやる気が湧くまでじっくりと待とう、人生は競争ではない、慌てることなど一つもないのである」と言う言葉である。小野路町・図師町のフィールドは自然観察地としても一級だが、この「人生は競争ではない、慌てることなど一つもない」との言葉をじっくりと噛み砕きながら歩くのにも最高のフィールドである。きっと人間社会の時計とは異なった時計が時を刻んでいるのだろう。堕落論で有名な坂口安吾は新潟の海を一日中見ていても飽きなかったと言う。私なんかそんな事をしていたら発狂してしまうだろうが、人生も自然観察も写真撮影も、時には腹を空かしたハイエナのような日々をぷっつりと断ち切って、ストップをかけてみるのも良いのかもしれない。英気を養い心の底からやる気が湧くまでじっくりと待ってこそ、本物が見えて来るのだろう。しかし、世知辛い現代社会はどうもそれを許してはくれない。
いつもの道端に車を停めて歩き出すと、身体がふわふわとする。鼻汁も多いし目もしょぼしょぼする。春先の花粉がたくさん舞う頃によくこんな症状になる事がある。しかし、決して花粉症だとは思っていない。いつも様々な昆虫達が羽を休める道端もすっかり店終いをしてしまって、ハエが時たま止まっている程度である。いつものパターンの通りにニリンソウの谷戸へ曲がると、この奥で田畑を耕しているお爺ちゃんが自転車に乗ってやって来た。見ると前の籠には自然薯と枯れた小枝と杉の葉が、後ろの籠には薪が入っている。「おじいちゃん、これどうするの」と聞いたら、「風呂を沸かすんだ」と言う。きっと最初に新聞紙を丸めたものに火を点け、その上に杉の葉、またその上に細い枯れ枝、そして最後に薪を放り込んで風呂を焚くのだろう。その昔、私がご幼少の頃、風呂は五右衛門風呂で、お爺ちゃんと同じ手法で風呂を沸かしたものである。これに加えて、マダケを切って節の部分に錐で小さな穴を開けたものと大きな団扇が必需品であった。祖母は慣れた手つきで簡単に薪まで火を点かせるのだが、これがなかなか子供には難しい作業であった。きっと、お爺ちゃんも無き祖母と同じように手際よく風呂を沸かすのだろう。前述したように小野路町は、我が国の首都である東京都にありながらも、時を刻む時計が大いに異なっているのである。きっとお爺ちゃんの家には大きなのっぽの古時計がかかっていて、時を告げる鐘がなるのだろう。
今日はキノコ山へ一直線とばかりに万松寺谷戸の農道に足を踏み入れたら、キリギリスの仲間が羽を休めている。クビキリギリスかなと思って近づいて見るとクサキリであった。この両者を比較する為に今日撮影したものではないが、先日10月11日に野津田公園で撮影したクビキリギリスの写真を貼り付けたので比べて欲しい。まことに良く似ているのだが複眼から先の頭部が異なっていることに気づく筈である。クビキリギリスは天狗の鼻のように尖がって長いが、クサキリはそれ程でも無いことが分かる事だろう。なんでクサキリと言うのだろう、ましてやクビキリギリスとはどうしてその名がついたのだろう。図鑑を開いてもなんにも書いてない。ただ、キリギリスの仲間にはササキリ、ヤブキリ、カヤキリ等と名が付けられているものがいるのだから、クサキリはその範疇なのだろう。すなわち多く見られる場所をとったと言う事で、笹キリギリス、薮キリギリス、茅キリギリス、草キリギリスと言う訳である。その点、クビキリギリスの名前だけは合点が行かない。天狗キリギリスが一番お似合いだから、テングキリないしテンキリなんて言う名がふさわしいのではあるまいか。
万松寺谷戸のミゾソバの群落には、ヒメアカタテハ、ウラナミシジミ、ベニシジミ、ヤマトシジミが吸蜜に訪れていて絶好の被写体であったが、それを撮る元気がないのだから仕方が無い。蝶を撮るには動かない被写体とは異なって、体調良好と気合が必要なのである。なんとなく後ろ髪を引かれたが谷戸を詰めてキノコ山に向かった。途中、ムラサキシメジが生えていたが、どうやっても絵にならないからパスをした。横浜キノコの森、寺家ふるさと村とキノコがたくさんあったら、今日こそキノコ山にもキノコ尾根にもキノコが一杯と思っていたのだが、それ程多くは生えてなく、また絵になるようには生えていなかった。恐らく食べられそうなシメジの仲間と思われるものがたくさん生えていたが、“匂いマツタケ味シメジ”と野生キノコを食べるのが大好きな方なら、飛んで喜ぶシメジの仲間である筈だが、いざ写真の被写体となると、とっても地味で味が無くちっとも面白く無いのだ。そこでTさん宅の裏山にシイタケがたくさん出ていたので撮影してお茶を濁す事となった。以上、そんな訳で今日は体調がすぐれず、ここまで他愛の無い事を書き綴っただけでも褒めて頂きたく、そろそろお許しを願って、バソコンの電源をOFFとしょう。
<今日観察出来たもの>花/ノハラアザミ、トネアザミ、ワレモコウ、ヤクシソウ、アキノキリンソウ、シラヤマギク、ヨメナ、ノコンギク、ヒヨドリバナ、セイタカアワダチソウ、アキノノゲシ、ツリガネニンジン、ミズヒキ等。蝶/ヒメアカタテハ、キタテハ、ウラナミシジミ、ベニシジミ、ヤマトシジミ等。昆虫/アキアカネ、クサキリ(写真上右)、トノサマバッタ、エンマコオロギ、センチコガネ等。キノコ/ムラサキシメジ、ドクツルタケ、カラカサタケ、ダイダイガサ、ホコリタケ、ノウタケ、フクロツチガキ、エリマキツチグリ、キツネノエフデ、モリノカレバタケ、イタチタケ?(写真下左)、ヒメカバイロタケ、ヒイロベニヒダタケ、ドクベニタケ、ハリガネオチバタケ、ハナオチバタケ、栽培シイタケ(写真上左)等。参考/10月11日に野津田公園で撮影したクビキリギリス(写真下右)。
10月13日、横浜市緑区長津田町〜横浜キノコの森
こう雨が続くと「雨は降る降る城ヶ島の磯に」とやけくそなのか、はたまた秋霖の情景にひたっているのか思わず口ずさみたくなる。我が郷土の神奈川県にはとても良い歌がある。「箱根の山は天下の嶮」とか「七里ガ浜の磯づたい、稲村ガ崎名勝の」と言った具合である。横浜に限ったらなんと言っても美空ひばりの歌の数々だろう。また、横浜市歌である「されば港の数多かれど、この横浜に勝るあらねど」等も忘れ得ぬ歌だろう。そんな哀愁を帯びた歌を歌いたくなる天気が続いている。台風で海は大荒れに荒れたし、しかも今日のような日は城ヶ島の磯でのカイズ釣りには絶好である。このつれづれ観察記に今まで海が登場した事は無いが、自然と言ったら里山だけでなく海も忘れえぬ存在だ。花、虫、鳥、茸等にカメラを向けているが、海岸にも様々な生き物が生息している事をしばし忘れている。道端自然観察館と銘打っている割には可笑しい事になっている。そんな訳で今日は久しぶりに三浦半島の磯に行こうかなと思っていたが、生憎の雨で、仕事をてきぱきと片付ける事にした。一段落ついて昼食でもとってこようとドアを開けると、なんと雨が止んでいるではないか。この調子で雨が降り続いたら、10月の観察記は10回以下かなと思っていたのだから、すぐさま撮影機材を車に乗せて出発した。9月の月間最多観察日数記録20回にはどうやっても近づけないものの、せめて10回以
上はフィールドに出かけたいと思っていたのである。そんな訳で午後の短時間となったので、有料道路を使って海に行くのもなんだからと、この観察記を読んでいらっしゃる方々にはもう飽き飽きの事かと思うが、またしてもご近所さんにお邪魔した。
何処へ行こうかと色々考えたが、緑区長津田町の国道246号線の森へ行った。別段そんな名称の森は無いのだが、長津田町には飛び飛びに雑木林が残っているので、そう仮に名前をつけているだけの事である。細い丘の上に登るための道が土砂崩れで行けないと困るなと思っていたのだが、そのような事は無かったので胸をなで降ろした。これから様々な場所へ遠征しようと予定していたのだが、浅間山の噴火や台風22号がやって来た事や熊の出没で変更を強いられている。例えばツマグロキチョウを観察に鬼怒川へと思っていたのだが、生息する河川敷は水浸しにあった事だろうし、ベニテングタケを探しに甲府市の乙女高原へ行こうと思っていたのだが、果たして林道が通れるかどうか心配である。また、ブナ林のキノコを観察に新潟へとも思ったが、こちらはツキノワグマ君の出没で恐ろしくなった。富山市では里山の民家の中にもツキノワグマが入り込むと言うのだから、私のような趣味を持っている地元の方々には頭が痛い事だろう。すなわち道端自然観察の奥義は安全第一なのだから、熊に殴られたり噛みつかれたりしたら本末転倒と言う事になる。そう言った意味では横浜市内の雑木林はいたって安全この上ないが、それだけ自然度が低いと言うことにもなってしまう訳である。国道246号線の森に着くと、またまた雨が降って来ると困るので、何とか写真4枚を心がけて散策を開始した。まず最初に目に入って来たのはナス科のキダチチョウセンアサガオの葉痕である。大きい花はもう全て終わっているが、葉痕は口をU字のごとくにして笑っているので、今日のようなぐずついた天気に笑みをもたらすものとして歓迎して撮影した。
老夫婦が耕す雑木林に囲まれた南に傾斜した畑へ行ってみると、荒れに荒れていて見るも無残な光景だった。ここは風当たりが相当に強いのだろう。ただ、ランタナが美しく咲き残っていて、南国育ちだからこの観察記には不釣合いかもしれないが、もしも何も撮れない時の為に切り取った。神社を通って更に進むと枯れた松の大木が行く手を塞いでいる。短足だけが唯一の取り得であるので、それを乗り越えるのはかなり難儀であったが、どうにか超えて先に進んだが、その先はブッシュがひどく、おまけに雨に濡れているのでやむなく畑地に下りた。途中、シロダモの実が真っ赤に熟していた。シロダモは葉の裏側が白くてウラジロと呼ばれている位だからすぐそれと分かったが、その実がこんなに大きくて赤いとは知らなかった。図鑑によるとその種子から、その昔、ロウソクの原料を絞ったとある。畑に下りて来るとユリの実になにやら止まっている。良く見るとクロオオアリである。今日も昆虫の写真は一つは欲しいなと思ったし、アリはこの観察記に登場してないし、また、アリがじっとしている時は少ないので、驚かさぬように慎重に撮影した。民家の垣根に目を凝らすとウメモドキの実が真っ赤で美しい。前回の観察記に水滴が垂れ下がるアマチャヅルの実を撮影したので、水滴シリーズの第2弾として、今日はウメモドキの実に的を絞った。更に歩いて行くと、畑にピーマンの白い花がこちらを向いて咲いている。これも前回の観察記のナスの続きとばかりにナス科作物第2弾とばかりに頑張った。このように短時間であったが、長津田町の国道246号線の森はその気になりさえすれば、かなりのものを観察し撮影することが出来る。
国道246号線の森はまだまだその気になればかなり広いのだが、前回行った時には見るもの撮るものがほとんどなかった横浜キノコの森が、こんなに雨が降り続いているので非常に気になった。横浜キノコの森はそんな思いに応えてくれるが如くに、今日は各種のキノコが発生していた。もっとも、テングタケの仲間のような大型のキノコは見られなかったものの、ダイダイガサ、ホコリタケ、ノウタケ、フクロツチガキ、ムジナタケ、ツチヒラタケ等が一杯だった。特に今日は第2キノコの森が多彩で、地面が真っ白に見えるので何かなと行って見ると、ホコリタケの大群落であった。今までホコリタケと言うと、多くとも二つか三つでポツリポツリと発生するものと思っていた。それが畳み一畳程の広さに足の踏み場も無い程にびっしり生えていたのである。また、地面が赤黒く見えるのでこれまた行って見ると、ノウタケが雨に濡れてびっしりと生え、またまた他の場所の地面が赤黒く見えるのでこれまた行って見ると、ムジナタケがびっしりと生えていると言った具合である。そんな訳で今日はすぐにでも雨が降って来るかもしれないと急いで観察し、写真も少数でも良いからと思っていたのだが、横浜キノコの森にての激写によって、この観察記に載せられない程の写真の数となった。またしてもキダチチョウセンアサガオの葉痕のように、にんまりとした顔となって、午後の短時間の道端自然観察は幕となった。
<今日観察出来たもの>花/イヌホウズキ、ミズヒキ、ハキダメギク、ピーマン、ランタナ等。蝶/モンシロチョウ、ウラナミシジミ、ヤマトシジミ等。昆虫/アキアカネ、クロオオアリ(写真下右)等。キノコ/ダイダイガサ、ホコリタケ(写真下左)、ノウタケ、フクロツチガキ、ムジナタケ、ツチヒラタケ、テングタケダマシ、スエシロタケ、モリノカレバタケ、シロホウライタケ、キチチタケ等。その他/ウメモドキの実(写真上右)、シロダモの実、キダチチョウセンアサガオの葉痕(写真上左)等。
10月11日、神奈川県川崎市麻生区黒川〜多摩丘陵巡り
一体どうしたのよと愚痴をこぼしたくなるような曇天模様である。あんなに台風で雨がたくさん降ったのだから、いい加減に晴れてよと言いたくなる。自宅を出発する時は雨は降っていなかったが、またまた国道246号線を越えると雨が降って来た。しかし、ラジオの天気予報によると、朝は雨が残るものの次第に晴れて来るとあるので、今日はUターンすること無しに黒川へ行った。黒川の道端に車を停めると、予報通りに雨は止んだ。しかし、またいつ降って来るかもしれないので真剣に被写体を探し回った。雨が続いているからアマガエルもカタツムリもとても元気である。しかし、これらは何べんもこのつれづれ観察記に登場しているのでパスをした。すると畑のナスの花が目に止まった。「秋茄子は嫁に食わすな」と昔から言われているように秋の茄子は美味しいのだろうが、なんだか我が家の食卓には近頃登場しない。そんなナスの花を今年もずっと撮りたい撮りたいと思っていたのだが、花虫とおるさんのようにナスの花はとっても内気だから、いつも下を向いて花開いている。しかし、今日はこちらを向いて咲いているではないか。これはいただきと頬が緩んだ。今年もそうだったが道端自然観察をしているとナス科の花に良く出会う。みんな大きくて美しいからシャッターを切る。思いつくまま列挙してみると、ジャガイモ、ワルナスビ、ヒヨドリジョウゴ、クコ、イヌホウズキと盛んに撮った。この他、ナス科
の植物は何があるかなと思って図鑑を開いてみると、チョウセンアサガオ、トマト、ピーマン、トウガラシ、ホウズキ、ハシリドコロ等がある。と言う事は今年もかなりナス科の花にお世話になった訳だが、肝心要のナスを撮っていなかったのだから、笑止なと言われても返す言葉もない。しかし、今日遅ればせながら間に合ったと言う訳である。
次に注目したのはアマチャヅルの実である。しかも水滴を垂らしていてとても風情溢れるものである。アマチャヅルの花がとても素敵な花であることを、このHPの掲示板に度々ご投稿下さるご婦人に教えて貰ったが、花はもう間に合わないから来年の課題として、水滴が落ちないように実を慎重に撮影した。今日の目的はオケラであるが、台風によって見るも無残になぎ倒されているかもしれないと心配して雑木林に入って行ったが、なんともありませんでしたよと言わんばかりにしゃんと立って咲いている。それもその筈でオケラの茎はまるでピアノ線のように張りがあるのだ。しかし、オケラとはまことに変梃りんな名前である。オケラと聞くと、地中で活動する昆虫の名前や無一文になった時の事を思い浮かべる。この変な名前がどうしてついたのかと図鑑を開いてみても書いてない。そこで日本の植物学の恩人である偉大な牧野富太郎博士の本を紐解いてみると、「オケラは古くはウケラと言われていたが、それがなまってオケラになったのだが、そのウケラと言う言葉の意味は分からない」と書いてある。そこでウケラを国語辞典で調べてみたが載っていない。花の格好やそのつき方から「受ける」と言う言葉に何らかの関連があるのではないかと想像して、これ以上の追及は止めにした。どなたかオケラの名前の由来が分かったら教えて欲しい。とは言うものの昆虫のオケラも無一文のオケラも、これまた意味不明な言葉であるなと感じ入った。そんな事を思いながらオケラを撮影したが、去年、オケラの近くにオヤマボクチがあったのだが、こちらの方は一生懸命探したのだが残念ながら見当たらなかった。なお、オケラはその若葉が天ぷらやゴマあえ等に、地下茎は芳香があって、お正月のお屠蘇に使われ、また健胃剤として重要な植物だとある。そんな素晴らしいオケラだが、多摩丘陵ではとても少なくなったのは残念である。
これでこのつれづれ観察記に載せるための写真が3枚も撮れ、天気もどうも降りそうも無いので、るんるん気分になって隣の谷戸へ行った。まずは植木屋さんの植溜を覗くと、10月半ばに入ったと言うのにムクゲが咲いているのには驚いた。とても長いこと花を咲かせる樹木である。その隣にはアメリカハナミズキが植えられていて、こちらの方は実が真っ赤に熟し葉も色づき始めている。農道を左に折れて歩いて行くと、キウイの果実が大きくなってとても美味しそうである。まだ、少し早いと思ったが葉痕を探して見ると、お亀顔が笑っている。今日は何だか知らないが、草むらにはクモヘリカメムシ、ホソヘリカメムシ、ヒョウタンナガカメムシ等のお世辞にも美しいとは言いがたい細長いカメムシがやけに目につく。なにか他にはいませんかねと歩いていると、フキヒョウタンゾウムシに出会った。この時期になると甲虫類を目にする機会が減って来るので嬉しくなった。今日の黒川の田んぼは農家の方々で一杯で、台風で倒れた稲を刈る人、乾してあった稲が倒れたので直している人、畑から流失した土を除けている人と、どう見ても天候と同じで鼻歌が出るような作業では無い。こんな事もあってか、勿論天気が悪いから、アキアカネ、ナツアカネ、マユタテアカネ等のアカネ類やハネナガイナゴ等のバッタ類もとても少なかった。
午後からは多摩丘陵の各所を巡った。順番に野津田公園、小山田緑地、小野路町である。まず野津田公園はオオアオイトトンボを撮りに行ったのだ。オオアオイトトンボはいたにはいたが、絵になる場所になかなか止まってくれないし、今日は何だか落ち着きが無く元気一杯だ。「何か見つけた」と聞き覚えのある女性の声がするので振り返ると、奈良北団地のKさんとそのお仲間だ。「ううん、オオアオイトトンボ位かな。トリノフンダマシがいるんだけど。トリノフンダマシって知ってる」と聞くと、Kさんは馬鹿にしないでようとばかりに「蜘蛛でしょう、シロオビトリノフンダマシとかオオトリノフンダマシとかでしょう」と言う。むむむ、侮るなかれKさんと言う訳である。Kさんたちはこれから小野路屋敷に行くと言うので、「今度、弁当ね」と言って分かれた。弁当とは、だいぶ前、雨が降って来た時にアッシー君になって、ご自宅まで送ってあげたそのお礼が弁当と言う訳である。その後、クビキリギリスを撮影すると、今度はキノコとばかりに小山田緑地へ行った。歩いていると向こうから熟年グループがやって来る。通りすがりに「花虫とおるさんですか」と聞かれた。「そうです」と答えると、「長靴を履いていたのでそうではないかなと思ったんです」と言われる。お連れのご婦人が「つれづれ観察記を隅々まで読んでいますよ」と言う。こうなっては内気な性格が災いして、しどろもどろの失礼な返答となってしまったのは仕方が無い。小山田緑地でズキンタケを撮影すると、今度は小野路町の万松寺谷戸へ行った。ここではなんと森のきのこさんこと多摩市のKさんに出合った。と言う訳で午後からは花や昆虫や茸巡りではなくて、お友達巡りの様相を呈してしまった。しかし、午前中の黒川での撮影が功を奏して、充実した一日となった事は言うまでも無い。
<今日観察出来たもの>花/オケラ(写真上左)、ノハラアザミ、トネアザミ、ワレモコウ、ゲンノショウコ、セイタカアワダチソウ、ノコンギク、ヨメナ、アキノノゲシ、ミズヒキ、キツネノマゴ、ナス(写真下左)等。蝶/モンシロチョウ、キチョウ、キタテハ、ウラナミシジミ、ヤマトシジミ、イチモンジセセリ等。昆虫/オオアオイトトンボ、アキアカネ、オンブバツタ、ツチイナゴ、クルマバッタモドキ、トノサマバッタ、ササキリ、フキヒョウタンゾウムシ、オジロアシナガゾウムシ、クモヘリカメムシ、ホソヘリカメムシ、ヒョウタンナガカメムシ等。キノコ/ズキンタケ(写真下右)、イヌセンボンタケ、モリノカレバタケ、ハリガネオチバタケ等。その他/カラスウリの実、アマチャヅルの実(写真上右)、アメリカハナミズキの実等。
10月10日、横浜市港北区新吉田町
東海地方から関東地方を足早に抜けて行った台風22号は、ここ10年の間で東日本に上陸した台風の中では最大級と言われた割りには、左程の被害をもたらすことなく通り過ぎた。とは言っても尊い人命は失われ、各所で土砂崩れ等の被害が起きたことは報道されている通りである。台風にしろ、つい先日あった地震にしろ、そのエネルギーは莫大なもので、科学技術の発達した現在においても人類は無力である。今回の台風報道をテレビで見ていて、立ち往生した新幹線の車中で熟年の男性が「台風なんだから仕方が無いわな。人間がどう立ち向かったってかなう相手ではないもの。あっはっは」と笑って話していたのが印象的だった。まさに天災は人知を超えたもので、防備を万全にして天に運命を任すしかないわけである。そんな台風一過の今日は、本来なら晴天であったはずなのに、朝起きてみるとどんよりと曇っている。今朝のNHKラジオの坪郷佳代子アナウンサーが「起きる時間を間違えてしまったんじゃないかと思いましたよ」と言ったら、鎌田正行アナウンサーも「いったいどうなってんでしょうね」と同感して言っていたが、誰しもが台風が過ぎ去った後は晴天と思っていたのだ。それに今日は10月10日、あの東京オリンピックが開催された晴天の特異日の筈である。そんな訳で拍子抜けしたがピーカンよりはましだと車に乗って自宅を出発した。しかし、また
しても国道246号線を越えると雨が降って来た。今日予定していた麻生区黒川の方面をみると雲が黒々としている。そんな訳でUターンして新吉田町へ戻った。
いつものように市民菜園から散策を開始したが、入口にスコップで畑から流出した土砂を片付けている農家の方々が見える。また、市民菜園と雑木林の間の小道は、まるで小川のように勢い良く水が流れて来る。これを見て今回の台風の雨は計り知れないものであった事が分かった。市民菜園には、私が道端自然観察を開始した16年前から菜園を耕しているご婦人がみえていた。「下の方の畑は大変な事になってるけど、それに比べれば、おばちゃんの畑は被害が少ない方ですね」と言うと、「私等なんか趣味でやっているのだから良いものの、農家の方は大変な事だと思うよ」と言う。たしかに今回の台風による豪雨で、農家の方々は、多大な労力のかかる後片付けと農作物の被害をこうむったことになる。前回来たときに美しく咲いていたコスモスは無残にも散り果てていて、これでは昆虫達も姿を現さないかなと思ったら、何とか無事に残ったケイトウの花の上にウラナミシジミが羽を休めていた。また、センニチコウがたくさん植えてある辺りでは、イチモンジセセリ、チャバネセセリ、モンシロチョウ、ヤマトシジミの姿が見える。ずっとお腹を空かしていたので、こんなどんよりとした天候でも吸蜜に訪れたようである。昨日の暴風雨をどのようにしてしのいだのかと思うと頭が下がるが、きっと各種の植物の根際付近で、必死にしがみついて台風が去るのをひたすら我慢していたのだろう。いつも道端自然観察をしていて思うことは、生きると言う事だけで素晴らしい、小さな命の逞しい生命力なのだ。
ほんの少し残った雑木林の小道を登って行くと、風によって倒れたミズキ等の大木が行く手を塞いでいる。それを避けて更に登って行くと、色づいたカラスウリがたくさん垂れ下がっていた。今日の観察で思った事だが、カラスウリやクズ等の蔓植物は強風にとても強い。クズなんて「何かありましたかね」と言ったすました顔で繁茂している。これらの蔓植物は植生学ではマント植物と言い、森林が傷つくとすぐに繁茂してまるで瘡蓋のように森林を蓋って、森林の傷が深まるのを防ぐ役目をしていると言われている。今日の台風一過の惨状を見て、なるほど蔓植物は強烈な日光ばかりでなく強烈な風雨にも強いことが分かった。雑木林を抜けて畑地に差し掛かる辺りで、エサキモンキツノカメムシが枯れた草の茎の天辺で羽を乾かしている。先日の舞岡公園のツチイナゴのように、雨上がりには各種の昆虫達はやはり羽を乾かすために棒等の先によじ登るようである。一旦、住宅街に出ると民家のキンモクセイの花はほとんど散っていて、道路を一面オレンジ色に染めている。前述したのと同じ今朝のNHKのラジオ放送で、同じ事を坪郷佳代子アナウンサーが言っていたが、それを聞いた鎌田正行アナウンサーが「やはり散ったキンモクセイは匂わないのですね」と残念そうに言葉を返していたが、数日前の甘い香りは全くない。丘の上の畑へ通ずる道に歩みを進めると、畑に沿って植えられているチャの葉裏に、ウラギンシジミがしがみついていた。ウラギンシジミは同じような格好で越冬し、木枯らしも降雪もなんのそのと乗り越えるとあるから、きっと暴風雨の最中もチャの葉裏にしっかりとしがみついていたのに違いない。
丘の上の植木屋さんの畑の小道に目を転ずると、なにやら奇妙な格好のキノコがたくさん生えている。図鑑で見知っていたが出会うのは初めのハタケチャダイゴケである。成長するとお猪口のような格好の中に黒い碁石のような小塊粒がたくさん見られるようになる。この黒い碁石のようなものは植物で言ったら種子のようなものなのかは、手持ちの図鑑には書いて無い。図鑑で見たものにはもっとこの黒い碁石のようなものがたくさんあったはずだがなぁと不思議に思って、自宅に帰って図鑑を開いてみるとやはりそうであった。と言う事は昨日の豪雨で黒い碁石のようなものは、だいぶ弾き飛ばされた事になる。更にもう一つ不思議に思ったのは、お猪口のようなものの中に水が溜まっていないことである。多分、みんな吸い取って地面に染みてしまったのだろう。丘の上の小道を更に進むと竹林に入るが、さすが竹林、一本も倒れているものは無いなぁと感心して進んで行くと、やはり竹林出口辺りに倒れたものが数本あった。また、竹の葉や小枝は風には強いはずと思ったが、やはり竹林内部の地面には雑木林程ではないものの、葉や小枝が散乱していた。竹林を抜けると草原が広がり、セイタカアワダチソウが一杯である。こちらは外来種の強靭な草だから、みんなまっすぐ立っている。しかし、花は雨にべっとりと濡れてセイタカアワダチソウの美しい花とは様相が異なるが、モンシロチョウがやって来て盛んに吸蜜していた。今日は午後も新吉田町でと思って食事をして帰って来たら、小雨が降りて来た。今日は台風一過の晴天ならぬ雨天となって、不満足な散策となったものの、「散策出来ただけでも儲けもの」と慰めての早々とした帰宅となった事は言うまでもない。
<今日観察出来たもの>花/セイタカアワダチソウ、アキノノゲシ、オトコエシ、ミズヒキ、マルバアサガオ等。蝶/モンシロチョウ(写真下右)、キチョウ、キタテハ、ウラナミシジミ(写真上左)、ヤマトシジミ、ウラギンシジミ、チャバネセセリ、イチモンジセセリ等。昆虫/アキアカネ、エサキモンキツノカメムシ、ウズラカメムシ、チャバネアオカメムシ、クダマキモドキ、オンブバツタ、ツチイナゴの幼虫等。キノコ/ハタケチャダイゴケ(写真下左)、ノウタケ、ハリガネオチバタケ等。その他/カラスウリの実(写真上右)、ボケの実等。
10月7日、東京都町田市小野路町・図師町
昨夜は驚く程の揺れを伴った地震が関東地方を襲って、我が港北区は久しぶりに震度4を記録した。余震が心配されたが、ぐっすりと眠れたところをみると、身体に感じられるものは無かったようである。それはさておき、9日から始まる3連休は、またしても天気が崩れると予想されている。そんな訳で、今日、小野路町・図師町に行っておかなければ、とんでもなくつれづれ観察記が間遠うになると、まるで脅迫されたかのように仕事を顧みずに出かけてしまった。昨日は久しぶりの晴天であったが、風は少し強めで、雲も大きな厚い一団となって流れて行ったが、今日は薄い鱗雲たなびく本格的な秋らしい穏やかな晴天となった。今日、小野路町・図師町に行っておかなければと言う理由は他にもあって、それはキパナアキギリとカシワバハグマをしっかり撮っておきたかったのである。前回の9月29日は午後になるとすぐに雨が降って来たので、思う存分撮影することが出来なかったのだ。殊にカシワバハグマはとても花穂が細くて、少しの風にも揺れて撮影できないと言う厄介な花なのである。また、雑木林の中に咲くので晴れていると木漏れ日がうるさく、出来れば薄曇の方が良いのだが、そんな事を言ってられないのは前述した理由からだ。いつもの時間に家を出た筈だが、今日は道路が非常に混んでいて、現地到着が10時となってしまった。5日でも10日でもないのに何だか変である。無
理に理由をこじつけるとしたら、久しぶりの秋の穏やかな陽気だから、みんないざ行こうフィールドへ日帰り観光地へと言うことなのだろうか。
いつもの場所に車を停めて歩き始めると、雑木林の縁の下草の葉がうっすらと濡れている。いよいよ秋も本番に入って、朝夕の気温がだいぶ低くなったから露も本格化して来たと言う訳である。竹林脇にあるクサギの実を見ると、今日は撮って下さいとばかりに形良く自己主張しているではないか。クサギの実も前回のこの観察記に書いたようにゴンズイと同じで、赤いがくの中央に濃紺の種子が鎮座していて、二色効果で小鳥達を呼んでいるのだ。ゴンズイの実は垂れ下がるようにだらりと着くが、クサギはそのような事は無く、まるで星のように5裂したがくはぴんと張って勢いが感じられる。ちなみにクサギはムラサキシキブが属しているクマツヅラ科で、ゴンズイはミツバウツギ科の樹木である。今日は出足からとても好調で、次にヤブミョウガの実を撮った。ヤブミョウガの実も、最初は青いが次第に真っ黒となって秋の日に輝いてとても美しいのである。ヤブミョウガの花は純白で、今まで何べんも挑戦したが良い写真が得られずに苦労しいるが、実は簡単に撮影出来てとても美しいから大助かりである。今日は昆虫一杯の不思議な道端には露が降りた事もあってか、あるいは朝の気温が相当低かったこともあってか、昆虫はほとんど現れていなかったが、花や実はたくさんあって、ヤクシソウがもう花開いているのには驚いた。カラスの罠小屋前のミゾソバの群落には朝露が一杯で、午前中の清々しい斜光に照らされて輝いている様は、実感としての秋そのものだった。ミゾソバの花は小さいが、マクロレンズで拡大して見るととても可愛らしく、なんとなくピンクの金平糖を連想してしまう。
今日はキノコ尾根を目指して息せき切ってまっすぐ進んだ。途中、これと言ったものには出会えず、去年キノコが沢山見られた栗畑の下にもなにもない。キノコ尾根もそう名づけたのが不思議なくらいに、キノコは一本だに生えていない。タマゴタケ、シロオニタケ、シロテングタケが至る所に見られた9月中旬が嘘のようである。しかし、目的としていたカシワバハグマは今日が見頃で、揺れ防止の為につっかい棒をたくさん立てて、腰を降ろして何枚もシャッターを切った。こんな時はデジタル一眼レフカメラは何枚撮ってもただだから嬉しくなる。長い間いればべつだろうが、カシワバハグマを撮影する十数分の間くらい、雑木林の中はまったく変わらないかのように見えだろうが、これがこれが瞬時の如くにカシワバハグマを照らす太陽の光は変化するのである。流れ行く雲が太陽を隠す事によって生ずるのは言うまでもないが、梢が風に揺れて太陽光線を遮るのである。また、意外と太陽の進む速さは早いことも、雑木林の中で撮影していると実感として感ずる筈である。今日もそんな訳で太陽と遊びながらカシワバハグマを撮ったのだが、写真のようにやはり柔らかい陽が当たっているものが白い花弁ゆえに色が飛んでいるのは致し方ないとしても、秋の暖かい日差しが感じられて一番良いものとなった。
お次はキバナアキギリだと五反田谷戸へ下って行くと、途中、開けた場所から顔馴染みの面々が一生懸命カメラを覗いているのが見えた。早期退職して主夫業に専念している緑山のKさん、皮工芸の座り仕事による運動不足を解消する為にやって来る忠生のKさんは当然としても、なんと出張の筈の快速五反田号さんこと町田のMさんがいるので、狐につままれたような思いがしてびっくりした。みんな先週末からの長雨で来たくとも来る事が出来ず、そしてこれからやって来るぐずついた天候を思うと、今日しかないと言う事になったようである。そんな感情は自然好きの人間様だけではなくて、今日の五反田谷戸は生き物が一杯で、ナツアカネ、アキアカネ、マユタテアカネ、ハネナガイナゴ、ハンミョウ等の常連さんは勿論のこと、オニヤンマがことのほか多く集まっていて、竹の棒に一休みを繰り返すから、今年初めてのオニヤンマを遅らばせながらカメラに納めることが出来た。快速五反田号さんは運が悪いのか幸運なのか、シマヘビに2匹も出会ったと言う。これから田んぼの稲刈りがすむと、田んぼの中には食べ物がなくなるので、ヤマカガシやシマヘビに農道や畦で出会うことが多くなるが、マムシ君でなければ谷戸の住人として微笑んで挨拶できるようになったのだから、私も大いに成長したものである。それにしてもオニヤンマの長生きには脱帽する。全てが夏の初めに羽化したのではなかろうが、3ヵ月以上もエメラルドグリーンの大きな複眼を光らせながら、谷戸を行ったり来たりしているのだから頭が下がる。どんなにか好きな五反田谷戸とは言っても、毎日行ったり来たりしていたら、私だったらすぐに飽きてしまうことだろう。
そんな訳で今日は花虫撮るは何でも御座れであったが、唯一、キノコが無いのが画竜点晴を欠くとばかりにキノコの最後の砦たるキノコ山へ行ったが、洒落ではないが、変わり果てたカワリハツがあった位で皆無であった。しかし、帰り道を美しい雑木林へととったら、やっとのことでナカグロヒメカラカサタケに出会うことが出来た。この時期の図師・小野路は雨さえ降らなければ、花虫撮る者のためにあるように多彩で、散策する老若男女全てがカメラを持ちさえすれば、私のペンネームたる「花虫とおる」になる事は請け合いである。この辺で駄洒落も相当多くなったので、今日のつれづれ観察記は早々と終了としよう。
<今日観察出来たもの>花/キバナアキギリ(写真下右)、カシワバハグマ(写真上右)、セイタカアワダチソウ、アキノキリンソウ、ノハラアザミ、ヤマハッカ、ユウガギク、ノコンギク、ヨメナ、ヤクシソウ、ゲンノショウコ、ワレモコウ、ミゾソバ、ミズヒキ、ナンテンハギ等。蝶/メスグロヒョウモン、キタテハ等。昆虫/オニヤンマ(写真下左)、ナツアカネ、アキアカネ、マユタテアカネ、ハンミョウ、クルマバッタ、オンブバツタ、ハネナガイナゴ、ベッコウハゴロモ等。キノコ/ナカグロヒメカラカサタケ、カワリハツ等。その他/クサギの実(写真上左)、シマヘビ、カワセミ等。
10月6日、横浜市戸塚区舞岡公園
さあ暑くも無く寒くも無く快適な道端自然観察及び写真撮影が出来る10月に入ったと張り切っていたら、なんと3日連続の雨となった。しかも、小雨ではなくて本降りの雨で、気温も低くなって炬燵でも出したくなるような日もあった。また、やって来る3連休の天候も思わしくないとあるから、両手を広げて何とかしてよと愚痴りたくなる。まあ、そんな雨の日は溜まりに溜まった事をじっくりと家の中で片付けるチャンスなのだが、3日も続くとふて寝するしか無くなる。そんな訳で、このHPをご覧下さっている方々もやることが無くなって、暇をもてあましてアクセスしてくれた方も多いらしく、3日で合計500近いアクセスがあったようである。昨日は天気が良ければ、ご婦人達と舞岡公園写真道場と銘打っての楽しい散策の筈だったが、きっぱりと諦めがつく低温と本降りの一日となった。そんな訳で今日は舞岡公園へ行った。昨日のために予定を調整して頂いた方々も今日は用事があると言うことで、久しぶりの舞岡公園単身散策となった。それでも久しぶりの晴れと言うことで、舞岡公園には見知った方々が大勢集まって来た。今日はまず最初にクヌギ休憩所下の前田の丘の草原に行った。お目当てはトリノフンダマシと各種バッタ類の顔を撮るためである。今日もまたトリノフンダマシの仲間には会えなかったが、特にツチイナゴはたくさんいて、伸び始めたススキの穂に登
っている個体にたくさん出会った。大雨で地面が濡れているから地面近くは居心地が悪いのか、また、ずぶ濡れの身体を乾かしに穂に登って来たようである。しかし、花を食べているものもいるから、ただ大雨の後だからと、その習性を言い切る事は出来ないようだ。
そんな訳で今日はクズの葉に休んでいる個体はほとんど無く、また、前回来た時にたくさんいたクルマバッタ、クルマバッタモドキも見られなかった。このため今日はバッタ類の顔をアップで撮ることは出来なかった。蚊取り線香が燃え尽きていなかったので、もう一度帰りがけに寄ってみたが、オンブバッタが見られるくらいで、相変わらずツチイナゴはススキの穂に登っていた。やはり、3日続いた雨の直後だからか何となくバッタ類のお出ましが悪いようである。それでは雑木林の下草の上はどうかなとかなり真剣に目を向けたのだが、これと言った昆虫はいなかった。しかし、相変わらずアオツヅラフジの実が垂れ下がり、マユミの実も色づき始めていたが、今日はゴンズイの実を撮った。ゴンズイは海に生息するゴンズイのように何にも役にたたないから、あるいは樹肌がゴンズイに似て白い線が入っているからそう名づけられたとあるが、どうしてどうして実はなかなか美しい。以前にも書いたと思うが、ゴンズイの実の皮は薄い赤で、それがぱっくり割れて黒い種子が現れる。この赤と黒の二色の対比はとても目立ち、そのため小鳥達もすぐに発見して食べてくれ、遠くに飛んでいって糞として地面に落としてくれる。実に効率良い種子散布と言う訳である。このように二色でより目立つ事を二色効果と言うらしい。確かに危険を表わす黄色と黒のように、一色より二色の方がより目立つ事は確かである。私のような何にも無いような身近な緑地の道端に現れる人間も、みんながみんなそうなっては目立たない訳で、どうして面白いのと疑問の目を向ける方が多いからこそ貴重なのだ。昔から言われるように、馬鹿がいるから利口が目立つのである。
前田の丘では余り期待したものには出会えなかったので、雨もあんなに降った事だし、河童池横にキノコが生えているかも知れないと期待して行ってみたのだが、これまた皆無であった。キノコ趣味の方がキノコは雨が降らないと発生しないと言っていたが、雨上がり直後だからまだ顔を出していないのだろう。また、ここ2年くらいキノコに関心を持ってフィールドを歩いているのだが、キノコの発生には雨はもちろん必要だが、ある程度の気温の高さも必要なようである。また、9月初旬から中旬に爆生してしまったから、何となく今年のキノコの大発生はそれで終わりと言う感じも受ける。そんな訳でキノコの大発生の旬の時期は、意外と一年間の内でも短期間である事が分かって来た。そんな訳で河童池の周りの木の柵に生えていた、ツノマタタケを撮影した。傘も柄も無いがキクラゲの仲間のキノコなのである。今日の河童池周辺は昆虫達も少なく、尾端に二本の赤いハサミが鮮やかなハサミツノカメムシの雄がいたが、なんとなくせわしげで写真を撮らせてくれなかった。それでも散策路にはタイアザミが満開で、3日続いた雨で垂れて咲く花がより垂れて、とても風情一杯であった。図鑑を開いてみると、関東地方で秋に見られ多くの頭花がうつむいて咲き、総包片が長くて反り返るものに出会ったら、まず本種と見てよいとあるから、写真のアザミはトネアザミで間違いないだろう。しかし、同じようアザミでも奥羽地方ではナンブアザミ、九州ではツクシアザミと種類が異なると書いてある。と言う事はトネアザミのトネは利根川の利根かしらと思われるのだが書いてない。誰かこのトネの謂れをご存知の方がいらっしゃったら教えてほしい。また、別名をタイアザミとも呼ばれている。
以上、ここまでの散策で貼り付ける写真を4枚撮影してしまった訳であるが、なんとなく面白くない。大物とか稀なものとか色鮮やかなものに出会えないからだ。そう思いながら小谷戸の里の方に向かった。途中、前回美しく咲いていたコスモスは、さすがの雨で痛んでしまってとてもみすぼらしい。野の花の今年最後を締めくくるかのように大群落で華やかに咲くセイタカアワダチソウも、雨のために花期が遅れているようだ。それでもちらりほらりと咲き出していて、ツマグロヒョウモンやキタテハが吸蜜に訪れていた。小谷戸の里入口まで来ると、向こうから自然観察会の面々が今日は何と10人以上でやって来る。「なにか見られましたか」と顔見知りの方に聞くと、「アカボシゴマダラが見られて喜んでいましたよ」と言う。少し横道にそれるが、その方が「いつも長靴姿で蚊取り線香を腰にぶら下げているけど、長靴だと疲れないの」と聞く。「もう慣れちゃったから疲れたりする事はないですよ。ブッシュに踏み込んだり、ぬかるみもなんのそのです」と笑顔で答えると、「蚊取り線香は効果があるの」とまた聞かれた。「ありますよ。それに9時半に点けて、燃え尽きるのが3時半位なんで、それで一日の観察は終了って事にもなるんです」と答えると、「なる程、時計代わりにもなっているんだね」と変に感心されてしまった。しかし、そう言ってみて改めて感じたのだが、町田市図師町の五反田谷戸が気に入っている面々、快速五反田号さん、五箇山男さん、谷戸ん坊さん等もいつの間にか長靴姿で、快速五反田号さんにいたっては、蚊取り線香を腰にぶら下げるようにまでなった。また、一巻きの蚊取り線香がすべて灰になるまで、なんと6時間近くもかかるのも驚きである。先日、鎌倉のNさんと一緒に五反田谷戸へ行ったが、彼女もそのうち花虫とおるスタイルになるに違いない。論より経験、一度試したら止められなくなる事請け合いである。
その後、これと言ったものにはお目にかかれなかったが、3日連続の雨の後の青空の下を歩くのは実に爽快で、今日はそれだけで満足、大満足の一日となった。もっとも、こんな事を書くと、溜まりに溜まった洗濯物を洗濯せねばならない宿命下にある主婦業の鎌倉宇宙人集団の方々をはじめ多くの主婦の方々に、うらめしやと化けて出られそうである。そう言えば今日の舞岡公園は、いつも見られる主婦業のご婦人連の姿がめっきり少なかった事を報告して、今日の観察記はこれで終了としよう。
<今日観察出来たもの>花/ノダケ、クコ、ツリフネソウ、オトコエシ、ヨメナ、ノコンギク、ヒヨドリバナ、トネアザミ(写真上左)、ノハラアザミ、ゲンノショウコ、ヤマハギ、キンミズヒキ、ミズヒキ、ミゾソバ、アキノウナギヅカミ、キツネノマゴ、ホトトギス、コスモス、キンモクセイ等。蝶/ナガサキアゲハ、モンシロチョウ、キチョウ、アカボシゴマダラ、キタテハ、ルリタテハ、ツマグロヒョウモン、ウラギンシジミ、ベニシジミ、ヤマトシジミ、ツバメシジミ等。昆虫/ウスバキトンボ、アキアカネ、コノシメトンボ、オオアオイトトンボ、ハサミツノカメムシ、オンブバツタ、ツチイナゴ(写真下右)、コバネイナゴ、トホシテントウ、オジロアシナガゾウムシ、オオカマキリ等。キノコ/ツノマタタケ(写真上右)、アラゲキクラゲ等。その他/アオツヅラフジの実、ゴンズイの実(写真上左)、クサギの実、ジョロウグモ、ナガコガネグモ、カワセミ、ゴイサギ(ホシゴイ)等。
10月2日、横浜市緑区三保町
いよいよ10月に入った。暑さ寒さも彼岸までの言葉通りに、だいぶ涼しくなった。昨日、今日と抜けるような青空の穏やかな秋の日となり、キンモクセイの香りが漂って来る。アメリカのシアトルがどのような天気であったかは定かでは無いが、今日、大リーグ、マリナーズのイチロー選手は、ジョージ・シスラーが残した年間最多安打257本を抜いて、259本の新記録を樹立した。84年ぶりの快挙と言うことだから、素晴らしいことに尽きる。異国の地においても平常心を貫いて、もくもくと精進する姿にはただただ脱帽する。そんなイチロー選手には遠く及ばないが、平常心でもくもくと道端自然観察及び写真撮影に、今日は緑区三保町へ行って来た。前にも記したと思うが、かつて5年間も続けて毎週通い、蝶の分布調査を行った懐かしいフィールドである。別段、これと言ったコースがある訳では無く、なんとなく歩きたい道をさ迷い歩いたと言うだけの事だったが、一応、新治小学校から梅田川沿いに三保市民の森まで往復した事になる。車を迷惑のかからない場所に停めて歩き出すと、オシロイバナがとても美しい。しかも、まだ僅かに露の水滴を花びらに着けていて、朝の斜光に照らされて燃えている。オシロイバナは夏に入るとすぐに咲き始めるのだが、英名ではfour-o'clockと言うように、また、俳句では「夕化粧」と言うように、夕方から咲き始める。しかし、秋になるとかなり早くから咲き、朝もかなり
遅くまで咲き残っている。そんな訳で夏の花なのだが、撮影には秋が適している。オシロイバナを撮影すると、ちょっと広くなった場所にピラカンサの実が色づき始めて輝いている。もう少し赤くなったら撮影しようかなと思ったが、風が無く良い枝振りのものを見つけたので素直に切り取った。
梅田川を渡って右手に行くと、10数年前と同じくトリトマが垂直に伸びて咲いている。かつてこの花の天辺にアキアカネが止まっていて、ニコンのMF200oマクロレンズで撮影した思い出が蘇る。しばらく歩くと左手にコスモスがたくさん植えられている畑を通る。ここでも数多くのコスモス並びにコスモスにやって来た昆虫達を撮影している。そんな訳でこの辺りは遠い昔と左程変わりが無い。広いバス通りを横切って、山裾の農道へ入る。目的はキバラヘリカメムシである。去年の大発生を知る者にとっては普通の昆虫かもしれないが、かつてはそれ程多い昆虫では無く、いつもこの農道際にあるツルウメモドキで撮影していた。どなたの畑かは分からないが、立派な棚を作ってツルウメモドキを栽培しているのである。このツルウメモドキも10数年前と同じ状態で、それ程大きくなったとも思えないが、いつも見事な実を一杯につける。ここならキバラヘリカメムシは必ずいるだろうと思って探しみると、やはり去年に比べて数は少ないものの、容易く見つけ出すことが出来た。舞岡公園や野津田公園等ではほとんど見られなくなってしまったのにも関わらず、ここでは健在だったので、ほっと胸をなぜおろした。キバラヘリカメムシを無事に撮影すると、植えられているコスモスにツマグロヒョウモンの雌がやって来て無心に吸蜜を始めた。前回、図師町でメスグロヒョウモンの雌を撮影しているので、今日はツマグロヒョウモンの雌とばかりに頑張った。両ヒョウモンチョウとも雌の方が美しい。ほとんどの昆虫達は雄が美しいのに異例な存在だ。
私がこの辺りの蝶の分布調査をしていた頃は、ツマグロヒョウモンはいなかった。ツマグロヒョウモンが見たいと、たまたま大阪へ行った時に、里山まで出向いて出会い感激した事を思い出す。しかし、今日は各所で合計10頭以上は目撃している。ツマグロヒョウモンが箱根の山を越えて関東地方に進出して、まだ、10年は経っていないと思うが、凄まじい速度で個体数密度は上がっている。舞岡のKさん宅のスミレにも産卵にやって来ると言うから、市街地でも旺盛に繁殖できる逞しさがあるのだろう。ツマグロヒョウモンの雌は、カバマダラ類に斑紋が似ていて擬態していると言われている。カバマダラ類もアサギマダラと同じようにガガイモ科の有毒植物の毒を体内に蓄積して、小鳥等が食べると吐き気を催し、以後、小鳥達は学習して食べなくなると言われている。カバマダラ類の分布は琉球列島南部より南に、今でこそ関東地方にも普通に見られるツマグロヒョウモンも、かつては本州西南部より南に分布していたのだから、両者が共に産する地域はかなり広い。そのような所では擬態は効果的に思えるのだが、カバマダラのいない地域では果たして効果があるのだろうかと疑いたくなる。しかし、この凄まじいまでの繁殖力を見ると、カバマダラが産しない地域でも、充分にその効果を発揮しているように思えてならない。
今日も様々な驚きを伴った観察をしたが、特に民家の柿の落果にクダマキモドキが頭を突っ込んで食事をしているのには驚いた。クダマキモドキとは、これも舌を噛み切りそうな名前である。モドキとあるからクダマキと言う昆虫がいるのかと思って図鑑を開いてみたが見当たらない。いったいクダマキとは何だろう。そこで国語辞典を開いてみると、クダでは「管」があり、糸車の「つむ」にさして糸を巻く細長い筒とある。また、「管を巻く」とは、その管を回すとぶんぶん音を立てることから、酒に酔ってくどくど繰り返してくだらない事を言うこととある。これらの事を総合して考えると、クダマキモドキはグルルというような声で鳴くと言うし、扁平だがなんとなく筒のようにも見える身体をしているので、そう名が付けられたのかもしれない。どなたかクダマキモドキの名の謂れをご存知の方がいらっしゃったら教えて欲しい。そのクダマキモドキだが、普通は樹木の高い所に住んでいて葉を食べている筈なのだが、柿の落果に夢中になって喰らいついているのは、これまた推測なのだが、秋になって食べ頃の柔らかい葉が少なくなって来たので、柿を食べに木から降りて来たのかもしれない。今日は午後から横浜キノコの森にも寄ってみたが、雨がこのところ降り続いたからキノコがまた発生しているかもしれないと思ったのに、ほぼ皆無であった。年間を通してキノコの観察をし始めて日が浅いから分からないものの、少なくとも秋のピークは過ぎたように感じられる。今日はクダマキモドキ(管巻き人間モドキ)と言われないように、この辺ですっきりとこのつれづれ観察記を終了としょう。
*後日、クダマキとはクツワムシの別名で、クツワムシに似ていることからこの名前がついたと教えて頂きました。
<今日観察出来たもの>花/コセンダングサ、コシロノセンダングサ、イヌコウジュ、アキノノゲシ(写真上左)、ユウガギク、ノダケ、ヒヨドリバナ、ノハラアザミ、ゲンノショウコ、ヤマハギ、ミズヒキ、ミゾソバ、オオケタデ、ヌスビトハギ、ツルマメ、オシロイバナ、コスモス、トリトマ、メキシコヒマワリ、ポーチュラカ等。蝶/クロアゲハ、アオスジアゲハ、ヒメアカタテハ、キタテハ、ルリタテハ、ツマグロヒョウモン(写真下左)、クロコノマチョウ、ベニシジミ、ウラナミシジミ等。昆虫/アキアカネ、コノシメトンボ、ノシメトンボ、ヒメアカネ、トノサマバッタ、オンブバツタ、ツチイナゴ、クルマバッタモドキ、クダマキモドキ(写真下右)、クサギカメムシ、キバラヘリカメムシ、コカマキリ等。キノコ/ツチヒラタケ、マゴジャクシ、マンネンタケ等。その他/ピラカンサの実(写真上右)、ノブドウの実、スズメウリの実、カラスウリの実等。