2005年:つれづれ観察記
(9月)


9月29日、東京都町田市小山田緑地〜図師町

 大リーグ、マリナーズのイチロー選手は、ジョージ・シスラーが残した年間最多安打257本に向けて着々と安打を重ねている。今日は2安打を放ったから、あと残り5試合で3本打てば並ぶことになる。もうほとんど射程圏内に入って達成は間違いないだろう。そんなイチロー選手に刺激されたのか、こちらは自己記録だが、1ヶ月に20日間の道端自然観察及び写真撮影の新記録に挑戦している。8月に連続10日間と言う、破られることのない輝かしい記録を打ち立てたので、今月は月間最多記録に挑戦と言う訳なのである。しかし、イチロー選手だって連続敬遠を続けられたら達成出来ないように、こちらの記録も雨が降っては達成出来ないのである。今日、台風21号が九州に上陸した。明日は関東地方は大荒れだから、今日、出かけないと新記録は達成できないのである。しかし、天気予報によると夕方まで曇り日との事で、幸運にも出かける事が出来た。なんでこんな子供じみた事を書くのかと言うと、昨日、舞岡公園で舞岡コウチュウさんに、「もうこんな事を16年も続けていて、今月なんか月の三分の二も出かけてるんですけど、一向に飽きないんです。毎日、とても楽しいですよ」と言ったら、「自然は変化に富んでいるから飽きないですよね」と同意しておっしゃる。私なんかなんでも屋だから、今日は蝶、明日は花、その次の日は昆虫、またその次の日はキノコ、そして時々、風景や野鳥まで挑戦していて、しかもフィールドも様々に変わるのだから、これで飽きろって言われても無理なのである。また、自然観察だけでなくカメラと言う表現手段も手にしているのだから尚更である。
 今日は鎌倉のNさんがどうしても図師町の五反田谷戸に行きたいと言うので、小山田緑地の駐車場で待ち合わせをした。交通渋滞等で待ち合わせの時間に遅れる事もあろうから、先に着いてしばし小山田緑地を散策した。このところやっと雨が降ったので、キノコが発生しているかなと小山田の谷へ行ってみたが皆無であった。それでは田んぼ周辺に面白いものはないかなと散策すると、ツリフネソウが一面に咲いている休耕田を見つけた。今度の土曜日にツリフネソウを撮影したいと平塚市土屋へ行こうと考えていたが、行かなくてすんでしまった。やはり身近な多摩丘陵で見る自然植生のツリフネソウは格別である。夏休みに各所の高原巡りをした時に咲いていたが、図鑑を開くと秋の花に分類されている。その花は独特の格好をしているが、花壇に植栽されるホウセンカと同じ仲間である。ホウセンカは果実に触ると果皮が破れて、種子を勢い良く飛ばす種子散布方式を採用している植物として著名だが、このツリフネソウもそうであるとある。身近なフィールドにツリフネソウを探していなかったので、まだ果実を見たことが無かったが、こんなに小山田緑地にある事が分かったので、今度実験してみる楽しみが増えた。また、田んぼのの畦にたくさん差してある竹の棒の先には、前日の舞岡公園と比べてナツアカネの姿が多く見受けられる。やはり舞岡公園と多摩丘陵ではだいぶ環境が異なるようである。ナツアカネはアキアカネと違って、日本の耐えられないほど暑い夏を雑木林の中や縁で過ごすので、その生息には立派な自然度の深い雑木林が不可欠なのだろう。
 首を鶴のように長くして待っていた鎌倉のNさんがやって来たので、五反田谷戸目指して歩き始めた。一人で夏場等に小山田緑地の駐車場から歩いて行くとへとへとになるのだが、今日は曇り日で涼しいし、なにより趣味の合った方としゃべりながらだったからあっと言う間に着いた。途中、歩道の割れ目から目の覚めるようなレモンイエローのキノコが束生していた。本当に美しいキノコである。しかし、いかんせん生えてる場所が悪い。周りに生えている雑草を抜いて地面を清めればなんとかなるが、車の往来が激しいし、雨も心配されるから目的地に急いだ。今日の五反田谷戸はしっとりと濡れてとても風情がある。こんな日だから誰も来ていないと思ったら、東京大学のYさんがもくもくと植生調査をしている。小高くなった芝地に荷物をおろすと、「わぁー久しぶりだわ、やっぱりここは良いな、本当に東京都なのかしら」と鎌倉のNさんが感極まって独り言を言う。「本当にね。こんな感じの谷戸は茨城県の田舎なんかに行かなくてはないですからね」と同意して言う。ここを訪れた方々は皆、まるで遠い過去にタイムスリップしたような感覚を感じるようである。田舎なんて縁の無いずっと都会で生活をして来た方々も、ここに来るととても懐かしさを感ずるらしい。きっと人間の身体の中のDNAに、遠い遠い過去の風景がしっかりと刻み込まれ記憶されているに違いない。この記憶ゆえに誰もが五反田谷戸を快く感じるのだろう。
 今日の五反田谷戸周辺は珍しい花はないものの、ノハラアザミが日向に咲きキバナアキギリが日陰に咲いて、尾根に上がるとカシワバハグマがそよ風に揺れていた。このキバナアキギリと言う名の響きはとても感じが良い。黄色い秋に咲く桐のような花と言うことから命名されたのだろうが、こんなに美しい響きを持つ花の名も珍しい。そこで鎌倉のNさんに極秘のキバナアキギリの大群落地を案内してあげると、夢心地のようにしばし放心していた。カシワバハグマと言う名前も舌を噛み切ってしまいそうな名前だが、覚えてしまうとなかなか風情溢れた響きを持つ、カシワの葉に似た葉を持つハグマと言うことなのだが、ハグマとは一体なんだろう。図鑑を開いてみても書いてない。そこで国語辞典を開いてみると、漢字で書くと白熊でハグマとある。中国から渡来したヤクの尾の白い毛と言う意味らしい。ヤクとはヤギに似た哺乳動物だから、その尾の白い毛に似ている花と言うことになるのだろうか。これでなんとなく分かったような気になったが、今度はそのヤクの尾を調べて見なくてはならなくなった。この谷戸には、この他、キッコウハグマがそのうちに咲くことだろう。今日の鎌倉のNさんにはもう一つ見たいものがあった。それはユキダルマタケである。あれほど我がHPの掲示板に華々しく登場してしまったので、誰の脳裏からもなかなか消え去らないようである。そこで掲示板にご投稿下さった方々が観察した場所に行って見ると、まるでソフトクリームが溶けたような格好となって地面に張り付いていた。
 しかし、何と言っても一番の収穫はメスグロヒョウモンの雌であろう。今にも雨が降り出しそうな気温の低い日や雨上がりの一時など、蝶はおとなしく羽を開いてじっとしている事がある。そんな場面に遭遇したと言う訳で、しかもなかなか撮影できないメスグロヒョウモンの雌のご開帳である。メスグロヒョウモンは雌雄がまるっきり別種ではないかと思われる色彩と斑紋の差異がある蝶として図鑑には必ず紹介されている。雄は普通のヒョウモンチョウの仲間と同じで褐色の豹柄だが、雌はイチモンジチョウを大型にしたような黒地に白いストライプが入っている。なんとなくメスグロヒョウモンと言う名の響きは、たちの悪い腹黒い女性を連想して良い響きではないが、雄は褐色、雌は黒だから、これ以上に端的な名はないのだろう。メスグロヒョウモンの生息していない鎌倉や舞岡公園しか知らない鎌倉のNさんには初めての蝶である。しかも、雌でほとんど羽は痛んではなく、思う存分撮らせてくれたのだから感極まった事だろう。こんな事を書いている私だって、メスグロヒョウモンをこんなにばっちり写せたのは、それこそ10年振りではなかろうか。やがてメスグロヒョウモンは、独特のたおやかな羽ばたきで、ゆっくりと谷戸の実った田んぼの上を飛んで雑木林の寝ぐらに帰って行った。と同時に大粒の雨が降って来て、今日の道端自然観察は終了した。時計を見るとはや午後1時、食事も摂らずに夢中になった証拠である。以上、これで自己新記録の月間20日間の道端自然観察及び写真撮影の記録は達成されたが、10月に入ったらかなり減速して、やって来た秋を心行くのまで楽しもうと帰宅の途に着いた。

<今日観察出来たもの>花/ツリフネソウ(写真下右)、キバナアキギリ、カシワバハグマ、ノハラアザミ、ヤマハッカ、コナギ、イボクサ、ヨメナ、ノコンギク、ユウガギク、アキノノゲシ、キツネノマゴ、タカサブロウ、ゲンノショウコ、ヤマハギ、ワレモコウ、ミゾソバ、ミズヒキ、ヤマホトトギス、ナンテンハギ等。蝶/キチョウ、メスグロヒョウモン(写真上左)、サトキマダラヒカゲ、ヒメウラナミジャノメ、ツバメシジミ、ヤマトシジミ、ベニシジミ、チャバネセセリ、イチモンジセセリ等。昆虫/オオアオイトトンボ、ナツアカネ(写真上右)、アキアカネ、マユタテアカネ、ノシメトンボ、ハンミョウ、クルマバッタ(写真下左)、オンブバツタ、ハネナガイナゴ、エンマコオロギ、ベッコウハゴロモ、アオバハゴロモ、ホタルガ等。キノコ/シロテングタケ、ドクツルタケ、ヒイロタケ、キクラゲ等。その他/トウキョウダルマガエル、サワガニ等。


9月28日、横浜市戸塚区舞岡公園

 このところ雨が続いたので、曇り日だと言うのにお仲間にたくさん会った。ちょっとどんな方に出会ったかを以下に列挙してみると、舞岡コウチュウさん、舞岡のファーブルさん、舞岡のKさん、病気の治った舞岡のSさん、鎌倉のNさん、新百合ヶ丘のAさん、そして顔見知った野鳥観察グループの方が3人と、これでもかこれでもかとお出ましになった。まるでやって来た本格的な秋を祝う歓迎会のようである。逆に道端自然観察及び写真撮影に興味の無い一般の方々の来園は少なく、とても静かで充実した一日となった。今日はまずクヌギ休憩所下の草原へ行った。例のシロオビトリノフンダマシやその仲間の蜘蛛が舞岡公園にもいないかなと思ったのである。多種多様な環境がたくさんある舞岡公園といえども、そこが一番広い草地で、ススキ、クズ、メリケンカルガヤ、セイタカアワダチソウ等が生えている。急な坂を登って行くと、顔見知った舞岡コウチュウさんが早くも三脚にカメラをセットして熱心に何かを撮影している。「バッタの顔が可愛いので撮っているんですよ。特にツチイナゴの幼虫はとても可愛いですね」と微笑んで言う。「そうですね。それに比べてクルマバッタモドキの顔はいかついですよね」等と話をしながら、私もバッタの顔の撮影を優先した。今日は曇り日でまだ気温が低いから各種のバッタはクズの葉上に鎮座していて、近づいても逃げないのである。昆虫の写真撮影は、その種類数の多さはもちろんのこと、変化に富んだ形態、生態も驚くべきものがあるから、情緒的作品に振っても良し、不思議極まる生態に振っても良しと、何でもありのとても面白い世界なのだが、顔のアップもすこぶる面白いと言う訳である。
 一通りバッタの顔の写真を撮り終えて、目的のシロオビトリノフンダマシやその仲間の蜘蛛を探したが見当たらなかった。しかし、雑木林の下草でオオホシカメムシを見つけた。逆さまから見るとモアイ像のような顔に見えるのでとても楽しくなる。舞岡公園では秋に必ず観察出来るのだが、多摩丘陵ではお目にかかっていない。そこで図鑑を開いてみると海岸線に沿って分布し、内陸にはすまないとある。道理で多摩丘陵には見られない筈である。寄生する植物はアカメガシワとあり、その花穂に群生するとある。ここまで読んでくると、クヌギ休憩所下の雑木林縁の下草に多いことが納得出来た。なぜならアカメガシワと言う樹木も、開けた場所に面した雑木林の縁に、好んで生育しているからである。この道端は舞岡公園でも各種の昆虫が多い所で、今日は他にクサギカメムシが特に多く見られた。また、昆虫だけでなくマント植物も豊富だから、青黒く色づいたアオツヅラフジの実が垂れ下がっていたので素直に切り取った。その後、バッタの顔を心行くまで撮影し終わった舞岡コウチュウさんと瓜久保の河童池へ行った。「キノコには興味が無かったんですが、掲示板に載っていたユキダルマタケ(シロオニタケの幼菌の愛称)なんて面白いですね」とおっしゃる。そこで瓜久保のいつもキノコが見られる日陰でじめじめした所へ行ってみたが、今日はほとんどなにも生えていなかった。「雨が降ったから、あと数日経つとたくさん顔を出すかもしれませんね」と言っていたら、オオアオイトトンボが現れた。オオアオイトトンボは、後述するアジアイトトンボに比べるとかなり大型だから、向こうから視覚に入って来るのである。
 今日一番びっくりしたと言うか、見たくないものを見てしまったと言うか、なんとカマキリ夫婦の共食いを見たのである。巷にひそかに語られているカマキリの雌は雄を食べてしまうと言う事は本当だったのだ。しかも、交尾中に雌が雄の首辺りをもぐもぐ美味しそうに食べているである。その間も交尾はなされたままだから、これはいったい何と言ったらよいのだろう、形容詞が見つからない。どうもこう言った光景にはカメラを向けたくないのだ。このような決定的な瞬間の生態写真を出版社さんが欲しがっていることは知っているのだが、どうしても撮影する気が起きないのである。なにしろ白樺派の武者小路実篤の小説や太宰治の走れメロスや愛と死をみつめてを読んで、涙をるいるいと流した世代なのである。「花虫さん、そんな甘っちょろい事を言っていると、生きてはいけませんわね」等としたり顔で言われても、「そうですね」なんて簡単に同意出来ないのである。さすが歳を重ねて去年大流行の冬のソナタを読んでみることは無かったものの、ご婦人たちは信じられないほど夢中だったと言うから、まさか人間の女性はカマキリのような真似はしないとは思うのだが、昔から幽霊はほとんど女性だから、くわばらくわばらである。カマキリの雌も雄も子孫繁栄のために、栄養をつけて立派な卵を産み子孫を残したいという願望のなせる業なのである。とは知っていても、もう一度同じ場面を見たくないと思うのだ。前述したように余り見たくないものも見てしまったが、これとは逆に、とても華やかな場面にも遭遇して夢心地にもなった。それは咲き誇っているコスモスに、各種の蝶が吸蜜に集まっていたのだ。集まって来た蝶を、そこで粘りに粘った新百合ヶ丘のAさんの観察も含めて列挙すると、ナガサキアゲハ、アオスジアゲハ、アゲハ、キアゲハ、ヒメアカタテハ、ツマグロヒョウモン、チャバネセセリ、イチモンジセセリと言った具合である。この光景を見ながら「コスモスには一番ヒメアカタテハが似あいますね」等と一生懸命に撮影している方々を前に、したり顔で一講釈を垂れてしまった。なぜならコスモスは秋だけの花だし、ヒメアカタテハは秋になるとその数が急激に増えるからである。また、以前、カメラ雑誌のコンテストで、背景が霧で霞みピンクと白のコスモス畑にヒメアカタテハが羽を開いて止まっている写真や、コスモスに細かい水滴が着いていて、そこにヒメアカタテハが羽を閉じて止まっている写真を見ているからかもしれない。ともにその二つの作品は入賞していたのは勿論だが、コスモスだけとかヒメアカタテハだけでは、もちろん入選することは無かったであろう。
 お昼になって瓜久保の家で弁当を食べていると、お仲間がぞくぞく集まって来て大円談となった。こんなに自然好き写真好きがいるのだから、決してここに集まった方々は変人奇人ではないぞよと納得して、午後の散策に入った。午後も様々なものに出会ったが、特筆するものを列挙すると、まず最初に古民家裏の満開のツリフネソウだろう、そしてウシガエルの赤ちゃんである。舞岡のKさんや鎌倉のNさんが「近づくと鳴いて逃げるカエルは何ガエル」と聞くので、ツリフネソウの向こうの浅い池に行ってみると、ヤマアカガエル程の大きさのカエルがたくさんいた。しかし、どうみてもヤマアカガエル、トウキョウダルマガエルではない。そこで帰り際に管理事務所の方に聞いてみると、ウシガエルの赤ちゃんである事が分かった。大きなオタマジャクシの尾が取れて、やっと子ガエルになったのだ。次は宮田池のアジアイトトンボだろう。このHPの掲示板に度々ご投稿下さる一人静さんや鎌倉のMちゃんが行った時にはもういなかったと言うし、舞岡のKさんや鎌倉のNさん、それに病気が治った舞岡のSさんも探したけど見当たらなかったと言う。そこで自称「昆虫探し名人」ならびに「コイン探し名人」の私が行って見ると、数は少なくなったものの、しっかりアジアイトトンボは飛んでいた。「いるじゃないの」と指差すと、もちろん「さすが」という声が帰って来た。本当にアジアイトトンボはオオアオイトトンボとは異なって、こちらからしっかりと目を見開いて探さないと見つからないイトトンボなのである。以上、今日は書けば山となる程の出会いがあったが、また、来週のお楽しみにとって置こうと、この辺でキーボードをたたくことはジエンドとした。

<今日観察出来たもの>花/クコ(写真上左)、ツリフネソウ、ヨメナ、ヒヨドリバナ、タイアザミ、タムラソウ、ノハラアザミ、ゲンノショウコ、ヤマハギ、キンミズヒキ、ミズヒキ、ミゾソバ、アキノウナギヅカミ、ホトトギス、コスモス等。蝶/ナガサキアゲハ、モンキアゲハ、アオスジアゲハ、アゲハ、キアゲハ、キチョウ、アカボシゴマダラ、ヒメアカタテハ、キタテハ、ツマグロヒョウモン、ウラギンシジミ、ベニシジミ、ヤマトシジミ、ツバメシジミ、ウラナミシジミ、チャバネセセリ、イチモンジセセリ等。昆虫/オオスカシバ、ホシホウジャク、アジアイトトンボ(写真下右)、ウスバキトンボ、アキアカネ、オオアオイトトンボ、オンブバツタ、ツチイナゴ(写真上右)、クルマバッタモドキ、コバネイナゴ、ヤマトフキバッタ、イタドリハムシ、キボシカミキリ、オジロアシナガゾウムシ、オオホシカメムシ、クヌギカメムシ、エサキモンキツノカメムシ、オオカマキリ等。その他/アオツヅラフジの実(写真下左)、チュウガタコガネグモ、ナガコガネグモ等。


9月26日、東京都町田市野津田公園〜川崎市麻生区黒川

 昨日南下して来た秋雨前線が本州の南岸沿いに停滞して、今日は霧雨降る一日となった。天気予報によると雨が一時止むことがあると言うので、それを期待して出かけてみた。この前線が長く停滞すると梅雨のような天候となって、秋霖と呼ばれている。しかし、倉嶋厚氏によると、長雨を意味するこの霖と言う字が当用漢字に無いために、最近では秋の長雨とか秋雨とか呼ばれるようになったとある。しかし、季節感を重んずる者にとっては、この秋霖と言う言葉の響きに限りなく愛着を持つのである。梅雨はじとじとと湿気を伴って比較的気温が高いイメージだが、秋の長雨はひんやりとして静に降り続く。いずれにしてもこの秋雨前線が太平洋上に去ると、晴天続きの本格的な秋がやって来るのだ。今日はまず最初に野津田公園へ行った。前回、来た時に歩いた草原には霧雨が舞い降りて来たのだから、細かい水滴が一杯である。特にチカラシバ、エノコログサの穂やクズの葉上等は見事である。今日はお昼に近かった為に気温が高く、昆虫達はじっとしていなかったが、朝早かったり気温が低ければ、水滴が着いたエノコログサ等に昆虫達がじっと止まっているから、とても情緒溢れる作品が撮れるのである。そんな草原を自宅近くに見出している方はとても幸せであると思う。嘘だとは思わずに私の言うことを信じて早起きし、そんな草原に足を運んでも貰いたいものである。
 野津田公園の草原で、まず最初に探したのは前回大人気だったシロオビトリノフンダマシである。このHPの掲示板に度々ご投稿下さるご婦人は、子河童に顔が似ていると言うが、まことに感性鋭いご指摘だなと感心した。そこでもう一度そのご尊顔を拝して、しっかりと撮りたかったのである。そんな気持ちが通じたのか、今日もシロオビトリノフンダマシはメリケンカルガヤの茎に静止していた。前回観察したものと同じかどうかは定かではないが、同じ個体としたら、静止している場所が異なるので移動した事になる。以前、シロオビトリノフンダマシのお仲間であるオオトリノフンダマシを黒川の水田の稲の葉で、やはり静止しているのを観察しているので、コガネグモ科トリノフンダマシ属の面々は、イネ科植物が好きなのかなと思って図鑑を開くと、山麓から山の中腹にかけての広葉樹やススキの間に多いと書いてある。なんとなく理解しがたい説明だが、平地ではなく丘陵地や低山地のイネ科植物に多いとも解釈できる。前回はただ顔に似た腹部表面の紋様を不思議に思ったが、よくよく見ているとカマキリの顔に擬態しているのではないかなと思えて来た。なぜならカマキリの顔に擬態していたら、天敵たちもおいそれとは近寄って来れないからである。今日はその他に同草原で、ヒメアカタテハ、キチョウ、ウラナミシジミ、オオアオイトトンボ等を観察した。
 雨だから野津田公園に着いたのも遅かったが、小1時間観察するとまた空が暗くなって雨が降って来た。午後からどうしようかなと思いあぐねて、国道246号線より海側はもう少し天気が良いかもしれないと自宅に電話をしてみると、同じような天気らしい。そこで今日はもう駄目だなと車に乗り帰宅の道を走って行くと、なんとなく黒川の上空が明るい。黒川なら平坦だし雨が降って来てもすぐに車に逃げ込めるからと寄り道してみた。谷戸入口の神社は祭礼のためかなりの人出があり、祭囃子も聞こえて来る。去年は冷夏のために黒川の田んぼにも病気が発生して見るも無残な田んぼもあったが、今年は何処を見ても豊作だから、お祭りも盛り上がっていることだろう。まだ、雨が止まないので黒川の谷戸の様子を探っておこうと低速で車を転がしていると、リンゴが真っ赤に色づいていた。夏休みに信州に行った時にリンゴが色づき始めていたのだから、それに比べると約1ヵ月遅い事になる。以前にも書いたと思うが、私がお邪魔している近場のフィールドで、リンゴ栽培をしているのはここだけである。これは撮影しなければと車を停めて、カメラにタオルをかけて外へ出たら雨が止んで来た。リンゴ畑へ入らして貰えれば素晴らしい写真をものに出来たかもしれないが、外からではなかなか難しい。それでもなんとかこの観察記に載せられる写真が撮れて嬉しくなった。
 黒川の小川沿いにはしっかりしたフェンスが張り巡らされている。このため蔓性植物の観察には好適で、今日観察したものを列挙すると、ノササゲ、トキリマメ、ヤブマメ、ツルマメ、カラスウリ、スズメウリ、アオツヅラフジ、イシミカワ、アレチウリ、クズ、センニンソウと言った具合である。その中で今日はセンニンソウの種を撮った。センニンソウは夏の終わりに純白の花がこぼれんばかりに咲いて美しいのだが、純白と言うこともあって、この花を美しく撮影するのはなかなか難しい。結局、今年は気にかけていたのだが撮影しそこなってしまった。しかし、今日センニンソウを観察してみると、独特の種がたくさんついているではないか。果実の先端に長い羽毛状の毛が曲がりくねって生えていてとっても面白い。この毛は風に飛ばされて運ばれるためについているのだとある。上の写真はたった1個残ったものを撮影しているが、図鑑によると6個の種が花柱につくようである。常々センニンソウとは変梃りんな名前だなと思っていたが、この長い羽毛状の毛が仙人の髭に見えるのでそう命名されたとある。しかし、見ようによってはロシア皇帝の中にもこのような髭を持った方がいたように思えるし、日本の喜劇役者の中にもこんな髭を持った方がいたようである。私は決して生やす事はなかろうが、こんな形の髭を伸ばしていたら、仙人ではなくて変人と呼ばれてしまいそうである。
 そんな小川沿いのフェンスに沿って注意深く観察しながら歩いて行くと、クズの葉にシロコブゾウムシとオジロアシナガゾウムシを見つけた。盛夏にはなりを潜めていたのだが、やっと涼しくなって活動を開始したと言う訳である。数日前もイネ科植物の細長い葉に軽業師のように止まっていて、これは絵になるわいと苦笑いしながら近づいたら、ポトリと地面に落ちてしまった。シロコブゾウムシは言わずと知れた死んだまねしか敵と戦う武器が無いのだから仕方が無い。しかし、今日はクズの葉にしがみついていて、そんな戦略はすっかり忘れてしまったかのようである。付近にいたオジロアシナガゾウムシもクズの茎にしっかりとつかまってお昼寝中だったから、シロコブゾウムシもきっとお昼寝中で、人の接近を感知する感覚器官は休止しているのだろう。黒川の谷戸では早くも稲刈りが始まって、休耕田のセイタカアワダチソウの花穂も色づき始めた。秋雨前線はしばらく南岸沿いに停滞するようだが、もうすぐ抜けるような秋の青空が広がって、今年の後半の自然観察及び写真撮影の好適期が近づいている。きっと、クズの葉上のシロコブゾウムシ君とオジロアシナガゾウムシ君も、そんな上天気の秋がすぐそこまでやって来ているのを知っているから、こんな日は昼寝に限るとエネルギーを使わずにじっとしているのだろう。また、霧雨が降って来た。私も早上がりして、じっくり休息をとろうと黒川を後にした。

<今日観察出来たもの>花/ヨメナ、ユウガギク、アキノノゲシ、シラヤマギク、キクイモ、ノハラアザミ、ゲンノショウコ、ヤマハギ、ミズヒキ、コスモス、キバナコスモス等。蝶/キチョウ、ヒメアカタテハ、キタテハ、ツマグロヒョウモン、ヒメジャノメ、ヤマトシジミ、ツバメシジミ、ウラナミシジミ、ダイミョウセセリ、チャバネセセリ、イチモンジセセリ等。昆虫/ナツアカネ、アキアカネ、オオアオイトトンボ、オンブバツタ、ツチイナゴ、クルマバッタモドキ、トノサマバッタ、ハネナガイナゴ、オジロアシナガゾウムシ、シロコブゾウムシ(写真下右)、クサギカメムシ等。その他/リンゴの実(写真上左)、センニンソウの種(写真上右)、ウスカワマイマイ(写真下左)、シロオビトリノフンダマシ、ナガコガネグモ等。


9月25日、神奈川県愛甲郡愛川町八菅山

 久しぶりの八菅山である。相模川の支流である中津川に面した八菅山は、照葉樹林的要素と山地的要素とが入り混じっていて、とても特異な植生と言われている。しかし、山へ登っても、キノコ好きな方なら見るもの撮るものが一杯なのだろうが、こと昆虫や野の花に関しては、それ程の期待は持てない。しかし、山麓は低湿地を思わせる水清らかな田んぼがあり、農家などが立ち並ぶ周辺は各種の野の花は勿論のこと、住人達が手塩にかけた園芸品種の花々が咲き乱れている。それに中津川の河川敷もまたとても魅力的なのである。今日は降ったり止んだりの天気と予報されていたが、現地に到着すると案の定雨が降って来た。こんな時は愛車小野路号に万年床の布団が敷いてあるから昼寝に限る。果報は寝て待てではないが、天気は寝て待てと言う訳で、1時間程の昼寝の後に雨は止んだ。さっそく散策を開始すると、地元の老人会の方々が丹精込めて育てたコスモスが至る所に咲き乱れている。所々にキバナコスモスもあって、その対比にまた一際コスモスが美しく見える。コスモスで有名な場所は全国各地にたくさんあるが、澄んだ青空の下、頬に気持ち良いそよ風を受けながら、白やピンクや赤等の各種の色の花がそよぐ光景は日本の秋に無くてはならない一齣となった。しかし、図鑑を開いてみると原産地はメキシコとある。いつごろ我が国に入って来たかは書いてないが、コスモスが入る前の日本の秋はとても寂しいものであったのではなかろうか。風情は確かにあるものの、ススキでは代用は無理であろう。ちなみにコスモスの属名はギリシャ語のkosmosで、飾りとか美しいと言う意味の言葉であるとある。
 コスモスを撮影すると、山裾にある梅林で鈴なりの橙色に色づいたカラスウリを撮った。カラスウリも無くてはならぬ秋の風物詩だが、散策するご婦人にとても人気があるから、都市近郊の雑木林ではすぐになくなってしまう。舞岡公園等の人気の緑地では散策者が多いから、色づく前に家庭に持ち去られてしまうようだ。だから、たかがカラスウリだが風情溢れて撮影するのは意外と難しいのである。どんになに写真の腕を磨いても、たくさんある所へ行った方が有利に決まっている。こんな事を書くと昨日のこのつれづれ観察記で、身近なフィールドでの道端自然観察及び写真撮影をお勧めしたのが台無しになってしまうかのように思えるかもしれないが、植物やキノコに関しては採られてしまうとお手上げな事は確かだが、珍しいもの人気があるものを追い求める等と言うマニア的な嗜好を捨てさえすれば、やはり身近なフィールドでの道端自然観察及び写真撮影は捨てたものではない。また、身近なフィールドでの道端自然観察及び写真撮影の極意は、生命あるもののささやきを心から観賞して感動し、カメラの中にそれを美しく切り取ることにあるのだから、別段、珍奇種である必要もないと言う訳である。以前、寺家ふるさと村の仲間が、「寺家で撮ったから価値があるんで、たくさんある所で撮ったのなんて価値はないよ」と言っていたが、これは決して負け惜しみでもなんでもなく、自分が一番身近に感じるフィールドに生きづいているものこそが何よりもの宝物であり親友なのである。いつでも容易く行ける場所に、心から遊んでくれる友達がとても多かったら、こんなに幸せな事は無いだろう。 昨日に次いでまたしても長い説教坊主となってしまった。ことによったら思索の秋だから、そのようにお脳の回路がスイッチオンされたのかもしれない。あるいはちょと頑張りすぎて身体が疲れているのかもしれない。
 この時期に八菅山に来るとどうしても撮りたくなるものが三つある。コノシメトンボ、マルバルコウソウ、トノサマバッタである。これらのものは他のフィールドでも見られるが、とにかく八菅山麓にはすこぶる多いのである。まずはコノシメトンボだが、一見すると胸まで真っ赤だからナツアカネに見えるかもしれないが、4枚の羽の先端が茶褐色だから違うことに気づくだろう。羽の先端が茶褐色のアカトンボは他にもノシメトンボ、リスアカネがいるが、真横から見た胸の黒条の紋様が異なるし、雄の場合は尾端が上に反り返っているから区別がつく。このコノシメトンボだが、多摩丘陵の図師町で見たことがあるが、普通、首都圏平地には少ないトンボである。しかし、八菅山麓には他のアカネ類に比べて抜きんじて多いのである。コノシメトンボがたくさん見られる所は数多くあるのだろうが、私は長野県茅野市の入笠山山麓や小諸市の浅間山麓の水田地帯でたくさん見ている。と言うことは、コノシメトンボは山地性とまでゆかないものの丘陵地帯より低山地の水田地帯に多いのではなかろうか。いづれにしても真っ赤な身体、先端が茶褐色の羽で、とても粋なトンボだと思うのである。次にマルバルコウソウだが、丸い葉のルコウソウという意味で、ルコウソウは葉が羽状に細かく分かれているのだ。ルコウソウもマルバルコウソウも帰化植物だが、首都圏ではマルバルコウソウのみ観察している。また、この両者を交配して作出したモミジのような葉のモミジルコウソウは、最近、民家の庭に植栽されているのを見かけるようになった。なぜかこのマルバルコウソウが好きなのである。アサガオやヒルガオと同じヒルガオ科の植物で、小振りな朱色のラッバ状の花は独特である。熱帯アメリカが原産とあり、我が国では中部地方以南には普通に見られるとあるが、私が良く行くフィールドでは余り見られない。唯一、小野路町のTさん宅からの尾根道を野津田高校方面に歩いた左側の畑のフェンスに絡まっているのを見ただけである。
 最後にトノサマバッタであるが、中国大陸で時折大発生して「飛蝗」と呼ばれ、農作物に大打撃を与えるバッタは、トノサマバッタと同じ仲間の群生相であると言われている。大発生して密度が高くなると羽が長くなって長距離飛行が可能な体形となる。それを群生相と呼ぶのだが、我が国のトノサマバッタはそのようになる事はないとある。各種の動物でも、ある一定面積での生息密度が高くなると、体形的には変化が無くとも、行動に異常をきたしてくる例が数多く報告されている。ネズミの仲間には大挙して一定方向に旅を続け、やがて海が現れてもそのまま行進し、入水して絶滅してしまうものもあると言う。我々人間だって群集心理等と言う物騒な心的状況がかもし出される事があるらしいので、充分な注意が必要である。そんなトノサマバッタは、多摩丘陵にももちろん生息しているのだが、河川敷や土手の草原に行くと圧倒的に多く見られる。しかし、写真を撮ろうと近づくと接近を敏感に察知して、時には数10メートルも先に飛んでいってしまう。今日も中津川の河川敷でそんな追いかけごっこを繰り返して、結局撮影出来ずに終わってしまった。やはりトノサマバッタは交尾中のものや産卵中のものでないと近付けないようである。今日は交尾個体を見ていないので、10月に入ってからがトノサマバッタの恋の季節となるようだ。トノサマバッタには見事に振られてしまったが、久しぶりの八菅山、多摩丘陵では味わえない低山地の山麓と河川敷での道端自然観察を久しぶりに堪能して、短時間だが充実した一日となった事は言うまでもない。

<今日観察出来たもの>花/マルバルコウソウ(写真上右)、マルバアサガオ、ワルナスビ、アメリカイヌホウズキ、コセンダングサ、ノハラアザミ、アキノノゲシ、キクイモ、ゲンノショウコ、ヤマハギ、ヤブマメ、イヌタデ、オオケタデ、ママコノシリヌグイ、ミズヒキ、キンミズヒキ、ホトトギス、ポーチュラカ、クジャクアスター、コスモス(写真上左)等。蝶/キアゲハ、アゲハ、キチョウ、モンキチョウ、キタテハ、ヒメアカタテハ、クロコノマチョウ、ツバメシジミ、ヤマトシジミ、ウラギンシジミ、イチモンジセセリ等。昆虫/コノシメトンボ(写真下左)、ナツアカネ、アキアカネ、トノサマバッタ、クルマバッタモドキ、オンブバツタ、ツチイナゴ、ハネナガイナゴ、オジロアシナガゾウムシ等。その他/カリンの実、ジュズダマの実(写真下右)等。


9月24日、横浜市港北区新吉田町

 今日は事務所のお仲間が警察に呼び出されて一日中留守だから、机を借りている私も臨時定休日となってしまった。警察と言っても交通違反で講習に呼び出されたのだから、無事に戻って来るとは思うが、交通違反は重大な法律違反だからじゅうじゅう頭を冷やして貰いたいものである。そんな訳で今日は一日中自宅にて仕事と考えていたのだが、EOS7のフイルムが後8枚残っているので、ちょいと外出して撮り切ってしまいたかったのだ。フイルムカメラはとても美しい描写をしてくれるのだが、撮り切らないと現像に出せないのが玉に傷である。デジタルカメラなら例え1枚しか撮らなくとも、その日に見られるのだから素晴らしい。また、HP開設2周年を迎えて数々の励ましを頂き、同時に半ばやもうえずこの「つれづれ観察記」を続けて行かなければならないらしいので、今日もほんの僅か2時間程の散策だったが報告する事にした。このHPの掲示板に度々ご投稿下さる五箇山男さんこと鶴見のKさんは、例え出張の時でもデジタルカメラを手放さず、空港でもホテルでも旅先でも、瞬時の暇に写真を撮って氏のHPの「Diary モド記」を続けておられるのには頭が下がる。そんなKさんの瞬時の暇に比べれば、2時間もの新吉田町倉部谷戸の散策は充分過ぎる程に被写体が一杯で贅沢に違いない。ちなみに今日撮影したものを列挙すると、オジロアシナガゾウムシ、クサギカメムシ、チャバネセセリ、ウラナミシジミ、アゲハの終齢幼虫、ツチイナゴの幼虫、ホトトギス、ポーチュラカ、カリンの実と9被写体にもなった。この他、撮ろうとすればまだまだ増えただろうが、一応絵になるものだけに限ったにしてはかなりの枚数だと思う。
 先日、小野路町にてこのHPの掲示板に度々ご投稿下さる方に、「身近な緑地でのデジタルカメラを持っての自然散策は、お金もかからないし、ちょっと知的で健康的な趣味でもあるし、誰にでもお勧めできますね」等と偉そうな事を言って、私のHPのタイトルたる道端自然観察及び自分の趣味趣向を肯定した訳だが、今日の散策なんかまったくその典型的なものであったと思う。舞岡公園にも舞岡のファーブルさんこと野庭のTさんが、天気が良ければお歳に似合わないサイケデリックな塗装のスポーツタイプの自転車でやって来る。午前中写真を撮ると家へ帰ってシャワーを浴び、ビールを飲みながら食事をして昼寝をするという、このうえなく健康的な生活を送っているのである。私ももう少し歳をとったら小野路町でも居を構えて、そのような健康的な老後を送りたいと切に願っているのだ。写真のジャンルには様々なものがあるが、風景写真や人物写真であったら、瞬時の暇に撮影等と言うことは不可能だが、花や虫なら可能で、私のHPの掲示板にご投稿下さる面々は、例え先祖の供養のお墓参りの時にでもデジタルカメラを同伴させると言うが、まったく、いつ何処で何が現れるかを予測出来ないのだから、常にデジタルカメラを同伴させると言うスタンスには納得が行く。以上、とんでもなく長く説教坊主のような講釈となってしまったが、今日のたったの2時間の散策が素晴らしかったので、こうなったと御高配願いたい。
 今日の観察で特記するものは、なんと言ってもウラナミシジミだろう。去年は今年と異なって異常に夏が低温だったために、一頭だに見ることが出来なかったが、今年は8月に入ってからあちこちで見かけるようになった。ウラナミシジミはさ迷えるオランダ人と言ったら良いのか、ギリシャ神話のシューシユポスと言ったら良いのか、特異な生態の持ち主の蝶である。関東地方に秋に現れるウラナミシジミは、無霜地帯である房総半島南部で冬を越して、気温の上昇とともに世代交代を繰り返しながら北上する。関東地方に現れるものは、早春に房総半島南部で羽化したものから数えて3ないし4世代目と言われ、普通の年だと9月のニラの花が咲く頃に首都圏に現れる。そう言った生態からすると、今年の登場はすこぶる早かったようだ。その後、もちろん首都圏でも産卵し世代を繰り返すのだが、霜が降りると卵、幼虫、蛹、成虫と全てが死滅してしまう運命となる。なんでそんな無駄で無謀な事を繰り返すのかと思いがちだが、それこそが隙あらば勢力を拡大しようとする昆虫ならではの逞しさなのだ。地球温暖化が叫ばれている現在、もう少し経ったら首都圏も無霜地帯となって、ウラナナミシジミは越冬出来るかもかもしれない。と言うことは、もし首都圏で越冬出来るようになったら、更なる北上を目指すのだろうか? そんな事を考えると、失敗しても失敗してもまたトライアルを繰り返すギリシャ神話のシューシユポスの様である。恐らくあらゆる生命の根本的な源とも言えるDNAは、そのような限りない挑戦と増殖を常に強いる特性を持っているのかもしれない。ひょっとしたら飽きもせず繰り返す道端自然観察及び写真撮影なんかも同様のDNAの企みで、そう言った意味では私なんかは典型的なDNA人間なのかもしれない。
 その他、蝶ではチャバネセセリがいつになく沢山見られた。9月に入って茶色いセセリチョウと言うとイチモンジセセリが圧倒的に多く、チャバネセセリは片隅の空間でひっそりと暮らしていたのだが、ここに来てイチモンジセセリが減じたためか、チャバネセセリが表舞台に出て来たようだ。また、日曜菜園にあるサンショウの木が丸坊主になっていたのでくまなく調べてみると、アゲハの幼虫がたくさんいた。しかし、もう食べるものがなくなったから空腹に耐えているようでとても可哀想である。その中でも写真のように終齢になったものは良いものの、まだ、若齢幼虫のものまでいるのだから哀れだ。きっと若齢幼虫はこのままでは死滅するに違いない。母蝶もどうやらうっかりミスを犯して産卵し過ぎた様である。今日は9月24日だから、この終齢のアゲハも蛹となってやがて羽化して飛び立つのだろうが、次に産卵されるものは越冬蛹になるに違いない。昆虫観察でかかせない大きな緑のクズの葉上には、琵琶のような形のホシハラビロヘリカメムシの幼虫とその成虫、コフキゾウムシやオジロアシナガゾウムシ等の甲虫も見られ、ツチイナゴの幼虫がむさぼるように葉を食んでいた。農家の庭先には赤や白のクジャクアスターが乱れんばかりに咲き、薄紫のシオンも満開である。本格的な秋の代表的な花であるコスモスやホトトギスも咲き始めたから、いよいよ秋本番である。残念なのは9月半ばに爆生したキノコの姿が跡形も無く消えていた事だが、キノコだってこのまま冬を迎えたくは無かろうから、雨が続けば、また二度目の爆生があるかもしれない。いよいよ何処を見渡しても本格的な秋で、芸術の秋とも言われるように写欲を誘うものが一杯だから、傑作写真を撮りたいと右手の人差し指がむずむずと騒ぎ始めている。

<今日観察出来たもの>花/アキノノゲシ、シラヤマギク、キクイモ、ゲンノショウコ、ヤマハギ、ヌスビトハギ、アレチヌスビトハギ、クズ、ミズヒキ、キンミズヒキ、マルバアサガオ、クコ、ホトトギス(写真上右)、ポーチュラカ、クジャクアスター、コスモス等。蝶/クロアゲハ、アオスジアゲハ、ヒメアカタテハ、ツバメシジミ、ウラナミシジミ(写真下左)、チャバネセセリ、イチモンジセセリ等。昆虫/アキアカネ、オンブバツタ、ツチイナゴの幼虫、オジロアシナガゾウムシ、クヌギカメムシ、アゲハの幼虫(写真下右)等。その他/カリンの実(写真上左)、ボケの実等。


9月23日、埼玉県比企郡滑川町国営武蔵丘陵森林公園

 お陰さまで3連休は天気であったし、順調に多摩丘陵や近場のフィールドパトロールをこなしてしまったから、今日は埼玉県の国営武蔵丘陵森林公園まで行って来た。大方の方は3連休にお金を費やしてしまったようで、今日の環八も関越自動車道も比較的行きも帰りも空いていた。それでも開園時間の午前9時30分に間に合わせるためにはかなり朝早く起きた。しかし、心配していた渋滞が無かったから森林公園中央口の民間の駐車場に、きっかり9時に着く事が出来た。公園の駐車場は完全舗装だが料金が高いので、いつも停める未舗装の農家の駐車場に停めた。未舗装の駐車場では換えたばかりの新品でピカピカ光っているタイヤが汚れてしまうなとも思ったが、お金にはかえられない。しかし、思ったより汚れなかったから嬉しい限りである。いずれ汚れてしまうに決まっているのに、しばしの間、新品を楽しもう等と言う感情は余りにも子供っぽいと思われるかもしれないが、多分、どんな方だってそのような感覚を有しているに違いない。駐車場のおばちゃんによると、昨晩は雷を伴った今まで経験した事が無い程の豪雨だったと言う。「きっと、公園内もだいぶ荒れているかもしれないわよ」等と聞きたくもない情報を与えてくれたので、はやる心が少しだけだがしぼんでしまった。
 中央口には早くも開園を待つ人盛りが出来ていたが、毎度のように時間にならなくとも早めに入園させてくれるのはとても有り難い。普通、郵便局やお役所等は杓子定規で困りものの人間が多いものだが、国営であっても森林公園の職員はとても親切このうえない。入園してすぐの広場に去年はコスモスが咲いていたが、今年は夏の花であるニチニチソウばかりで情緒が出ない。しかも、ニチニチソウには蝶を始めとする昆虫達があまりやって来ないのである。また、例え昆虫がやって来たとしても、ニチニチソウでは美しい写真にはなりにくい。やはり秋だからコスモス、そして吸蜜に訪れたヒメアカタテハと行きたいものである。そんな訳で水辺の植物が植栽されている池へ直行した。去年はもっと遅く来たので、ガガブタがほんの少し咲き残っていただけだったが、今日はカガブタはたくさん咲き、ミズアオイの花も見られた。カガブタとは、瘡蓋を思い起こすまことに変梃りんな名前である。そこでその名の謂れを調べようと図鑑を開いたが書いてない。しかし、このガガブタやアサザがなんとリンドウ科の植物である事が分かった。花こそ異なるが葉はヒツジグサに似ている。だから、ヒツジグサと同じ仲間かなと思っていたのだが、ヒツジグサはスイレン科とあり、分類的には遠いようである。
 それではミズアオイは?と調べてみると、前に登場したコナギと同じミズアオイ科である。これは葉や花を見れば同じ仲間であることが誰でもすぐに分かる。図鑑の解説文を読むと、ミズアオイは戦前には普通に見かけた植物で、葉をおひたし等に使うために栽培さえされていたのだとある。それが戦後、池や沼が各所で埋め立てられたばかりでなく、有機物や農薬が流れ込んで激減してしまったと書いてある。おそらくガガブタもアサザも、夏に長野市の溜池で観察したヒシも、みんな身近な人里の池や沼に見られた植物なのだろう。そんな事を考えていると、何処か遠くへ行って、これらの水生植物が自然状態で生えている光景を見たくなった。また、そのような場所へ行けば、もちろん沢山のトンボに出会えるだろうし、子供の頃、普通に見られたゲンゴロウ、ガムシ、タガメ等の水生昆虫にも会えるかもしれない。果たしてそんな所がこの日本にまだ残されているのだろうか。しかし、きっと何処かにあると信じて、インターネット等で調べてみよう。男女の仲ではないが、失って初めてその大切さが分かる等と言う事は、こと自然に関してはもうこりごりで、二度とそのような後悔があってはならないと思うのである。
 池の植物をばっちりカメラに納めると、昨年、良い写真となったクサギの実を撮りに行った。今年も去年ほどではないが、なかなか絵になるように実をつけている。しかも、風が無いのだから大助かりである。一生懸命、ああでもないこうでもないと作画していると、「何を撮っているんですか」との声がする。「クサギの実です」と言うと、「この花はとても良い香りがするんですよね」とおっしゃる。臭いからクサギと思っていたのだが、良い香りがすると言うので、なんだか不思議に思った。そこで家に帰って調べてみると、花は芳香を放つとあり、名前の由来は、茎を折ったり葉を揉んだりすると臭いから、その名がついたとある。なる程、私の思っていた事と、その方がおっしゃった事とはともに正解だった訳である。それにしてもクサギの花の香りを嗅いだ事も無いし、葉を揉んでその匂いを嗅いだ事も無い。これはこれはウィークエンド・ナチュラリストとしてはしまったと言う事になるのだから、今度、何処かですぐに確かめてみよう。
 今日はずっと曇りと言う事で期待していたのだが、雨こそ降らないもののしだいに雲が厚くなった。この為、蝶に関しては観察出来たものが少なく、僅かにメスグロヒョウモンの雌がムラサキバレンギクに吸蜜に訪れていた。絵になる位置にあるムラサキバレンギクの花はやや生気を失っていて、そこに来たらシャッターを切ろうと頑張ったのだが、いくら待ってもメスグロヒョウモンは良く蜜が出る新鮮な花から離れようとしない。そんな訳でメスグロヒョウモンは断念して、ヤマボウシの実に吸汁するアカスジキンカメムシの幼虫を撮った。このHPの掲示板に度々ご投稿下さる舞岡コウチュウさんこと日限山のMさんが、アカスジキンカメムシの幼虫たちはヤマボウシの実が好きだと報告を頂いたので、彼らを探し出すのがいたって楽となった。舞岡公園に植栽されているヤマボウシの実は高い所についているので、なかなか吸汁している姿を鮮明に写せなかったが、今日の森林公園では手が届く低い位置にもなっていて、念願の写真を容易く撮影することが出来た。その後、かなりしつこく足が棒になるまで園内を散策したのだが、期待していたキノコはこのところの晴天続きですっかり姿を消し、ゴンズイやアオハダの実を撮ったり、ナガコガネグモを撮ったりと言った具合で、もう少し明るければと惜しまれる一日となった。しかし、さすが森林公園と思わせるものも多く、野鳥撮影等で来た折に、併せて冬芽と葉痕を狙ってみようと感じた。やはりその名の如く、様々な樹木が植栽されている森林公園であった。

<今日観察出来たもの>花/ガガブタ、ミズアオイ(写真上左)、ナンバンギセル、アキノノゲシ、オトコエシ、ヒヨドリバナ、シラヤマギク、キクイモ、ゲンノショウコ、ヤマハギ、ヌスビトハギ、クズ、ワレモコウ、ホトトギス等。蝶/メスグロヒョウモン、ヤマトシジミ、ベニシジミ、イチモンジセセリ等。昆虫/アキアカネ、ナツアカネ、オンブバツタ、クルマバッタモドキ、ツチイナゴ、セスジツユムシ、アカスジキンカメムシの幼虫(写真下左)、ホウズキカメムシ等。キノコ/タマゴタケ、シロオニタケ等。その他/ナガコガネグモ(写真下右)、ヤマガラ、ゴンズイの実(写真上右)、クサギの実、アオハダの実等


9月20日、東京都町田市野津田公園〜小野路町

 いよいよ3連休の最後の日となった。今日は小雨が降っているものの昼前から晴れると言うことを信じて、野津田公園から小野路町へ行った。途中、鶴川駅でご婦人を一人拾ったのは良かったものの、途中で左側後部のタイヤがごろごろと言い出した。おかしいなと思ってドアミラーで確認してみると、なんとタイヤがぺっちゃんこになっている。いわゆるパンクで、これは本当に困ったと言う事になった。何しろ20年近く車を運転しているが、路上でタイヤ交換などしたことがないのだ。そこで車の取り扱いマニュアルを開いて慣れない作業を始めたところ、運良く新百合ヶ丘のAさんがやって来てくれたので、途中で拾って同乗していたご婦人を野津田公園へ先に連れてってもらった。こんな時はあまり走っていない特徴ある形と色の車を運転していて大助かりである。もし白いたくさん走っている車なら、新百合ヶ丘のAさんも気づいて止まってくれることも無かっただろう。マニュアルと睨めっこをしながら始めてのタイヤ交換だったが、軽自動車だから車体も軽くタイヤも軽く、ほほいのほいと作業は終了した。以前、乗っていた4WDの大型車だったら、タイヤだけでも相当の重量になるから、かなりの重労働となったに違いない。いずれにしても約5万キロも走ってくれたタイヤだから、今日の観察が終わったら新品と交換しようと30分遅れで再出発した。
 野津田公園に着くと、お仲間は上の原広場のススキ草原でお待ちかねであった。もちろんナンバンギセルの観察及び撮影中である。ススキの原には人が通れる位の幅で、縦横無尽にススキが刈ってある。この中に入るとまるで迷路の中に入ったようで、這いつくばってナンバンギセルを撮影しているから何処にいるのか分からなくなる。8月下旬に来た時に比べるとやや数が少なくなったものの、それでも見事に咲いている。図鑑を開いてみるとカーボナイトのような褐色の柄は花茎で、本物の茎は地中の中にあってとっても短いとある。もちろん、寄生植物だから根は無いのだろう。遠来からのご婦人は、まるで渋谷駅前のハチ公にでもなったつもりで、四つんばいになって微動だにしない。コンパクトデジタルカメラに花一輪をアップして狙っているのである。「花の中の黄色い柱頭も入れて撮りたいのよ」と言う事である。確かに紅紫の花冠と黄色く大きな柱頭の対比は実に美しいのだ。気が済むまで撮影し終わった面々が、ヤマグリの大きな木が数本植えてある草地に戻って来て、「芝栗はとても美味しいのよ」と拾い始めた。実は丹波栗に比べれば半分にも満たない大きさだが、茹でると真っ黄色でとても甘く美味しいのである。皮を剥くのはとても大変だが、それだけの価値ある初秋の雑木林ならではのお土産である。
 ナンバンギセルを撮影し終わると、キリギリスを探しに言った。しかし、Aさんの言うが如く、キリギリスはほんの少し前に姿を消したようである。直翅目のバッタ、キリギリス、コオロギの仲間は秋こそ出番の筈であるが、どうやらキリギリスだけは夏の虫のようである。それではと管理事務所に紹介されていた秋に野津田公園で見られる昆虫達の中に、都市近郊では見られなくなったクツワムシがあったので探して見たのだけれど、夕方にならなければ鳴かないから無理のようである。クツワムシは大型で、その鳴き声も「ガシャガシャガシャ」と鳴くから生息しているかいないかはすぐにでも分かる。しかし、鳴いているから見つけるのは簡単だろうと、以前、懐中電灯を持参して探し回ったが、これが本当に難しいのである。音波を発している元を突き止める探知機でも手に入れたくなった程だ。そんな訳で野津田公園の草原では、ショウリョウバッタ、オンブバッタ、クルマバッタモドキ、ツチイナゴはいたものの、これと言ったものは見られなかった。しかし、私が禾本科植物に静止するとても珍しい蜘蛛を発見した。まるでアヒルの雛のような顔を背中に持つシロオビトリノフンダマシである。遠来からのご婦人は奇妙な生き物が大好きだからもちろんのこと、つくし野のTさんを始め夢中になってカメラの中に納めたのは言うまでもない。なんてことはない草原だってじっくり歩けば大きな感動が待っているのだから、近場での自然観察は止められない止まらないと言う訳なのだ。
 午後からはもちろん小野路町へ行った。しかし、14日に来た時に比べると、もちろん左程の変化は無かった。キノコの爆生は止んではいたものの、タマゴタケやシロオニタケはあちらこちらで見かけられた。横浜キノコの森や小山田緑地に比べて、この地域の自然度の深さを改めて感じた。また、今日は祝日だというのに行き交う人もなく、また、「図師、小野路歴史環境保全地域」に指定されているから、キノコを蹴散らす人たちもやって来ないようだ。しんと静まり返った雑木林で生きづくキノコ達は実に美しい。今日はタイヤのパンクと言うとんでもないトラブルに見舞われ、まったく慣れないタイヤ交換に体力を使い果たしてしまったので、これと言ったものはシロオビトリノフンダマシ以外に撮っていなかった。タマゴタケもシロオニタケも前回紹介しているので、ここでまた登場するのも失礼かと思うが、何と言っても身近な雑木林のキノコの赤組白組のそれぞれのスターだから、卵から顔を出した姿とユキダルマから少し成長したものを載せることとした。今日は前記した理由とむしむしする暑さでへたばって、万松寺谷戸にすぐに引き返して来たが、地元農家のKさん宅の前に立てかけてあるゴマをご婦人連に説明していると、おばちゃんが「栗が茹っているから食べていきなよ」と勧めてくれた。なにしろこのおばちゃんは私の祖母と同じ町田市の忠生の出身だから、何かと気が合うのである。
 Kさん宅は米も小麦も芋も小豆も胡麻も、それこそ何でも作っていて、自給自足のかつての農家の姿がそこにある。今日も自宅庭にはゴマ、小豆、シソが筵の上に干してあった。おばちゃんが茹でた栗は、あのジャコウアゲハが舞う栗林のもので、それはそれはスーパーて買ったものなんかとは比べ物にならない程の美味である。猫ちゃんが寝そべるのんびりと初秋の午後の陽の中で話しをしていたが、ふと頭を上げると禅寺丸が色づいて美味しそうだ。「あの禅寺丸はおばちゃんところのもの」と聞くと「そうだよ」と言う。禅寺丸とは川崎市麻生区の王禅寺の和尚さんが、その昔見つけ出した小振りだがとっても甘い柿である。おばちゃんが「取って食べても良いよ」と言うので、さっそく賞味してみた。昔懐かしい味が口中に広がった事は言うまでも無い。私の子供の頃の甘柿と言ったら、この禅寺丸だけだったのである。生まれ育った家の庭にもやはり大木があって、コンビニなんて無かったから、秋はこの禅寺丸が一番のおやつと言う事になっていたのだ。今日のお仲間の婦人連はみな都会育ちだから、この小さな柿を見るのは初めてのようである。みんな「ここに住めたら長生きが出来るわね」と言う。おばちゃんの耳を見ると、なんとヤンキースの松井秀喜選手も真っ青の福耳であった事をお伝えしておこう。今日はパンクと言うとんでもない事があったが、終わり良ければ全て良しの充実した一日となった事は言うまでもない。

<今日観察出来たもの>花/ナンバンギセル、ヨメナ、アキノノゲシ、オトコエシ、ヒヨドリバナ、キクイモ、キツネノマゴ、タカサブロウ、ゲンノショウコ、ヤマハギ、ノササゲ、ヤブマメ(写真上左)、ツルマメ、ヌスビトハギ、クズ、ワレモコウ、オオケタデ、ミゾソバ、ミズヒキ、オモダカ、コナギ、イボクサ、ヤブラン、ヤマホトトギス等。蝶/アゲハ、キアゲハ、クロアゲハ、キチョウ、キタテハ、ヒメアカタテハ、ツマグロヒョウモン、メスグロヒョウモン、ツバメシジミ、ヤマトシジミ、ベニシジミ、ウラギンシジミ、イチモンジセセリ等。昆虫/オオアオイトトンボ、シオカラトンボ、アキアカネ、マユタテアカネ、オンブバツタ、ショウリョウバッタ、クルマバッタモドキ、ハネナガイナゴ、ツチイナゴ、セスジツユムシ、ベッコウハゴロモ、スケバハゴロモ、アオバハゴロモ、ホタルガ等。キノコ/タマゴタケ(写真下右)、シロオニタケ(写真下左)、シロテングタケ、ナカグロモリノカサ、コテングタケモドキ、カワリハツ、ニガグリタケ、イグチの仲間等。その他/シュレーゲルアオガエル、トウキョウダルマガエル、シロオビトリノフンダマシ(写真上右)等。


9月19日、神奈川県川崎市麻生区黒川〜都立小山田緑地

 朝起きると風がびゅんびゅん吹いている。そしておまけに青空である。これは困ったなと思ったが、そんな事で予定を取り止める人間では無い。今日は川崎市麻生区黒川へ行って、田んぼの雑草の花を撮る予定で出発した。いったい田んぼには何種類くらいの雑草があるのだろう。園芸農学部を卒業した筈なのに、こんな初歩的疑問に答えてくれる本を持っていない。そこでインターネットで調べてみると、財団法人日本植物調節剤研究協会さんのHPに、あるわあるわ大変多くの種類の植物が雑草として紹介されていた。以下に列挙すると、一年生雑草としては、タイヌビエ、イヌビエ、タマガヤツリ、コナギ、ミズアオイ、アゼナ、アメリカアゼナ、アゼトウガラシ、ミゾハコベ、キカシグサ、ヒメミソハギ、タウコギ、タカサブロウ、アメリカセンダングサ、クサネム、イボクサ等。多年生雑草としては、イヌホタルイ、マツバイ、ウリカワ、ミズガヤツリ、ヘラオモダカ、クログワイ、オモダカ、シズイ、コウキヤガラ、セリ、ヒルムシロ、キシュウスズメノヒエ、エゾノサヤヌカグサ等とある。いやはやこの中で名前を知っているものがどの位あるかと数えてみたが、なんと四分の一程しか無かった。こんな事ではウィークエンド・ナチュラリストの旗を降ろしたくなるが、まあ、それだからこそウィークエンド・ナチュラリストなのだと開き直ろう。
 そんな訳で今日は前回来た時にコナギを撮影しているので、オモダカとイボクサを撮った。舞岡公園集うお仲間達がコナギやオモダカが撮影できなくて困っていたが、徹底した田の草取りが行われる舞岡公園の田んぼと異なって、適度の管理の黒川の田んぼにはいくらでも生えている。田んぼの雑草をそのまま生やしておけば、土の中の養分を奪っしまうから、当然の事として収穫量が減る訳である。だが農家の方たちは、この程度に草取りをしておけば大丈夫と言った、長年の経験による物差しを持っているのだろう。純白のオモダカの花はとても美しい。これが嫌われ者の雑草とは思えない。図鑑を開いて見ると、お正月のおせち料理に登場するクワイは、このオモダカを品種改良して球茎の玉を大きくしたもで、オモダカにももちろん小さい球茎の玉が出来て食べられとある。今度、どのような玉が出来るのかと掘ってみたいものだが、他人様の水田ではお叱りをこうむる事になるだろう。オモダカを漢字で書くと「面高」で、その葉が人間の顔に似ているから名づけられたとあるが、とっても細長い三日月お月様のような顔と言うことなら納得が行く。オモダカの花期は8月から10月で、稲刈りが終わった後でも咲いているから、そんな時がコナギやイボクサも含めて撮影のチャンスかも知れない。
 次にイボクサだが、これはちょっと見では手ごわい雑草に思える。しかし、近づいて見るとなかなか可愛らしい花である事に気づくはずだ。それもその筈でイボクサは、夏の間ずっと咲き続けていた濃い水色のツユクサと同じツユクサ科の植物なのである。ついでに、このつれづれ観察記でも良く登場する、林間の日陰に生育するヤブミョウガもツユクサ科の植物であるとあった。ところで、どうして「疣草」等と言う可憐な花には似つかわしくない名前を頂いたのかと図鑑を開いてみると、草の汁を絞って疣とりに使ったことから、そう名が付けられたとある。現在、お陰様で私には疣が無いので試せないが、本当に取れるのだろうかと興味深々の植物である。田んぼの周りの日陰になった地面に突き刺した棒の先にはアカネ類の姿がたくさん見られる。全てが山地や高原から戻って来たわけではなかろうが、アキアカネの姿もだいぶ多くなった。また、数年前までは、ほんの僅かしか見られなかったネキトンボもかなりいる。今日は晴天でまだまだ日差しが厳しいのか、特にナツアカネは、雑木林の縁の涼しい木陰の枯れ枝等の突出物にテリトリーを張って止まっている。日向にはネキトンボやノシメトンボ、勇気ある一部のアキアカネが止まっているが、写真のように倒立して暑さをしのいでいる。以前に書いたと思うが、太陽光線の当たる面積をなるべく少なくするために倒立し、尾端のほんの一部に当たるようにしていると言う生活の知恵なのだ。
 午後からは町田市の都立小山田緑地へ行った。連休で晴天だから駐車場は満車状態で、しばらく空くのを待ってやっと駐車出来た。小山田緑地は以前にも書いたと思うが、地形的なものなのかキノコの発生がすこぶる良い。しかし、このところの晴天続きで干からびているものが多く、昨日の横浜キノコの森と同様であった。しかし、尾根筋にはシロテングタケがたくさん生え、シロオニタケもだいぶ見られた。このため白いキノコばっかりと言う印象である。他の場所でもそうだが、たくさんの方が散策する小道に生えているものは無残にも倒されているものが多い。小山田緑地の石畳の道も、倒されて砕けたたくさんのシロテングタケの無残な姿が見られた。きっと子供達のいたずらなのだろう。確かにキノコは猛毒なものが多く、また、小枝で軽く触れただけで倒れてしまうから面白半分に倒したのだろう。しかし、キノコだって胞子を沢山飛ばして子孫繁栄を願っているのだから、そのような弱い者いじめのような行為は、親御さんが厳重に注意し諭して貰いたいものである。その証拠に人が余り通らない小道へ入ると、キノコ達は何にも言わずに風景に溶け込んで生きづいていた。今日はコテングタケモドキが再び勢いを増してる以外は、これと言った大発生のキノコは無かった。今日は午後になって風はいくらか弱まったが、連休最後の明日は、より風が弱くなると予報されているので、身体に疲れを残さないようにと早上がりの帰宅とした。

<今日観察出来たもの>花/キバナアキギリ、ユウガギク、ヨメナ、アキノノゲシ、ヒヨドリバナ、キクイモ、キツネノマゴ、タカサブロウ、ゲンノショウコ、ヤマハギ、トキリマメ、ヤブマメ、ヌスビトハギ、クズ、ワレモコウ、オオケタデ、ミゾソバ、ミズヒキ、オモダカ(写真下左)、コナギ、イボクサ(写真下右)、ヤブラン、ヤマホトトギス等。蝶/アゲハ、キアゲハ、スジグロシロチョウ、キチョウ、ヒメアカタテハ、ツマグロヒョウモン、メスグロヒョウモン、コミスジ、イチモンジチョウ、ウラギンシジミ、ムラサキシジミ、ダイミョウセセリ、イチモンジセセリ等。昆虫/オニヤンマ、ギンヤンマ、シオカラトンボ、ネキトンボ、ナツアカネ、アキアカネ(写真上右)、ノシメトンボ、オンブバツタ、ショウリョウバッタ、トノサマバッタ、コバネイナゴ、ヤマトフキバッタ、ヤブキリ等。キノコ/タマゴタケ、チチタケ、シロオニタケ、シロテングタケ、ナカグロモリノカサ、コテングタケモドキ(写真上左)、カワリハツ、ニガグリタケ、ツルタケ等。


9月18日、横浜市緑区新治市民の森〜旭区横浜キノコの森

 今日から3連休に入った。予報を見ると、どうにか3日間は天気が持ちそうである。毎日が連休のような生活を送っているように見えるかもしれないが、一切仕事関係の電話が入って来ないから、のんびりゆったりと自然観察及び写真撮影が出来て嬉しくなる。この3連休を使って何処か甲信越方面に出かけることも考えたが、渋滞で大変な事になると思ってオール近場と言う事にした。連休初日の今日は新治市民の森から横浜キノコの森へ出かけた。新治市民の森に行く途中、フヨウがこぼれんばかりに咲いている団地を通ったので、思わず車を停めて撮影した。バラ色の頬なんて形容があったかと思うが、バラよりフヨウのピンクの方が透き通っていて美しい。フヨウは、タチアオイ、ゼニアオイ、ムクゲ等と同じアオイ科の木本植物だが、一番しんがりに咲いて、初秋には無くてはならぬ花である。このフヨウの花には各種の昆虫がやって来て、蜜を吸ったり花粉や花弁を食べたりする。ピンクの大型の花の花芯で蜜を吸っているイチモンジセセリやチャバネセセリは、まことに絵になる題材だ。。また、花弁を食べにやって来るマメコガネも、花の中や蕾の先端で鎮座している事がある。このようにどちらかと言うと地味な昆虫でも、フヨウの華やか花の中に納めると、とっても美しいのである。
 新治市民の森に着くと、まず最初に注目したのは、紅紫色のゲンノショウコである。図鑑を見れば必ず書いてあると思うが、白色の花は東日本に多く、紅紫色のものは西日本に多いとある。今まで多摩丘陵等の近場では全てのものが白い花で、紅紫色のものなど一度も見た事が無かったが、新治町にはかなりあった。これが果たして西日本にあるものが人為的なもの一切無しに北上して定着したものか、あるいは紅紫色のものはとても美しいので、人為的に栽培されたものから逸出したのかは定かでは無い。また、客土や植木にくっついて来たのかもしれない。いづれにしても、私のような軟弱なウィークエンド・ナチュラリストには、紅紫色のゲンノショウコは大歓迎である。ゲンノショウコを撮影すると栗林に行った。もうほとんどのものが毬が破れて実がのぞいている。また、枯れてしまった栗の小枝にはウスバキトンボが羽を休めている。道端に咲いているヒガンバナには入れ替わり立ち代りキアゲハがやって来る。どうにかして初秋のこの一齣をカメラに納めたいと思ったが、今日は少し風が強いこともあって試みてはみたものの、ピンボケばかりで断念に至った。それではと枯れた棒に止まっているオニヤンマを見つけたので近づいたのだが、気づかれて飛んで行ってしまった。
 そんな訳で今日は新治市民の森の鎌立谷戸だけのつもりだったのが、これと言ったものに巡り会えずに時間が余って、尾根を越えて隣の旭谷戸まで足を伸ばした。すると前方からつくし野のTさんがやって来た。「さっき、つきみ野のTさんに会って、ゴイシジミとクロコノマチョウに会えました。それから大豆畑にウラナミシジミがたくさんいましたよ」とニコニコして言う。「ゴイシシジミに会いたい会いたいと言っていたので心配していたんですが、それは本当に良かったですね」と、私も嬉しくなった。蝶が大好きなご婦人が会いたいものに会えたとは、こんな目出度い話はないと言う訳である。Tさんとしばらく散策すると、雑木林の斜面に白いキノコが生えている。近づいて見るとシロオニタケである。「これが掲示板に投稿があったユキダルマタケですね。少し伸びてしまっていますけど、この方が感じが良いですね」と嬉しそうだ。これでTさんもゴイシシジミもユキダルマタケも観察出来て大満足だろう。「それでは今度はアカボシゴマダラですね。新百合ヶ丘のAさんは、何べんも舞岡公園へ通って良い写真を撮っていますよ」と、またまたTさんに課題を与えてしまった。Tさんと話しているとつきみ野のTさんがやって来た。「今日は何種類観察しました」と聞くと、もう22種類の蝶を観察したと言う。さすがTさんである。しばらく3人で蝶の楽しい話をした後、「これから横浜キノコの森へ行きます」と別れた。
 今日は前述したように風が強いこともあってか、新治市民の森ではこれと言ったものが撮影できなかったが、キノコは風に強いから大丈夫とばかりに、午後からは横浜キノコの森へ行った。途中、美味しそうなザクロの実がなっていたので車を停めて撮影した。しかし、風の為に待てども待てども実の揺れが止まらなかったが、かなり粘って撮影することが出来て嬉しくなった。たかがザクロだが、美しく構図がとれるとなると、なかなか探し出すのが難しいのである。果物大好きな人間ではあるが、ブドウの果肉は蒟蒻的だし、ザクロは余りにも酸っぱく果肉が少ないのでそれ程好きではないが、山登りにこれを持って行くと、疲労回復には一番である。横浜キノコの森に入って行くと、キノコでは無くゴマダラチョウを見つけた。低いエノキの葉裏に卵を産みに来たようである。じっと観察していると尾端を曲げて葉裏に産卵した。裏返して見ると直径1o程の水色の卵がついている。こんなに小さいものを撮影するのは大変だが、等倍マクロレンズに1.5倍のテレコンを付け、これでデジタル一眼レフに装着すると、1.5×1.6=2.4倍となるから、なんとか卵を写真のような大きさに写せるのである。もちろんストロボを使用して日中シンクロで撮影した。こんな特殊撮影には、その場で瞬時に撮影結果が分かるデジタル一眼レフカメラはとても便利である。
 ファインダーを覗きながら、ゴマダラチョウの卵の美しさにうっとりしたことは勿論だが、どうして鶏の卵のような格好の、白いつるつるした卵を産まないのかと不思議に思った。昆虫達の多くは卵の色もその表面に刻み込まれた紋様もかなり凝ったものが多い。卵の色に関しては保護色と考えれば納得は行くのだが、微細な彫刻のような突起や紋様はどうして必要なのだろうかと考えると分からなくなる。昆虫の不思議と言ったら数え切れない程あるが、いつも一番不思議に思っているのは変態である。このゴマダラチョウの卵もやがて孵化してナメクジ形の幼虫になり、脱皮を重ねながら幼虫はしだいに大きくなって行く。ここまでは他の小鳥や哺乳動物となんら変わりは無いのだが、次に蛹となって蝶となるのである。すなわち全く別物の生き物に変身するのである。ここがいつも不思議で、どうしてそのような変身術を身に付けたのだろうかと考えると、とんでもなく長い生命の歴史と進化に身震いするほどの感動を覚えるのだ。話はとんでもなく異なった方向に逸れたが、横浜キノコの森は、このところの晴天続きで目ぼしいキノコも生えてなく、また、その数に於いても寂しいものがあった。多摩丘陵に於けるキノコの爆生のピークは、やはり先週末にあった様である。もう一度、長雨がやって来ないとキノコ達は元気を取り戻す事はなさそうだ。そんな訳で連休初日は、今日の天気のように曇り時々晴れの観察結果となった。

<今日観察出来たもの>花/ゲンノショウコ(写真下右)、アキノノゲシ、シラヤマギク、ミズヒキ、ヒガンバナ、ヤマハギ、メドハギ、ヌスビトハギ、ナンテンハギ、ツルマメ、ヤブマメ、ワレモコウ、キツネノマゴ、ヤブラン、キクイモ、ヘクソカズラ等。蝶/アゲハ、キアゲハ、モンキチョウ、キチョウ、ゴマダラチョウ、ルリタテハ、ヒメアカタテハ、キタテハ、メスグロヒョウモン、ツマグロヒョウモン、ヒメウラナミジャノメ、ヒカゲチョウ、クロヒカゲ、クロコノマチョウ、ツバメシジミ、ウラナミシジミ、ウラギンシジミ、ダイミョウセセリ、イチモンジセセリ等。昆虫/ヒメスズメバチ、アオバハゴロモ、オニヤンマ、ナツアカネ、ネキトンボ、トノサマバッタ、、クルマバッタモドキ等。キノコ/テングタケ、テングタケダマシ、ドクツルタケ、シロオニタケ、ツルタケ、ノウタケ、ザラエノハラタケ(写真上右)、カワリハツ、ニオイコベニタケ、マンネンタケ、ツチヒラタケ等。その他/ザクロの実(写真上左)、ゴマダラチョウの卵(写真下左)等。


9月16日、横浜市戸塚区舞岡公園

 今日は爽やかな秋晴れである。もうすぐ暑さ寒さも彼岸までの秋分だから当然な事ではあるが、今年の異常な夏の高温を思い起こすと、“もう涼しくなったの”と言う感慨と“やっと涼しくなったな”と言う感慨とが交錯する。いずれにしてもようやく平年通りの気候となった訳で、キノコの大発生からも分かるように、自然の隅々にまで安堵の思いが漂っているようである。これからは充分に秋を満喫しながら、道端自然観察にも大いにいそしみ、併せて傑作写真をものにしたいものである。そう感じさせる天候となったものの、まだ初秋だから、今日のような抜けるような青空のピーカンは撮影には頂けない。いくら動植物の豊富な舞岡公園と言えども期待薄だなと言う予感を感じながらも散策を開始した。まず最初にいつものように瓜久保の河童池に向かった。前回来た時にキノコが大発生していた雑木林の北斜面のじめじめした裾には、これと言ったキノコは見当たらない。またしても晴天続きとなってキノコの発生の勢いが失われたようである。広々とした草原にはウスバキトンボが旋回し、オニヤンマもどうどうと飛び回っている。今年はオニヤンマの良い写真を手にしていないので、何処かに止まって羽を休めてくれないかとしばらくの間観察していると、柿の木の葉が少なくなった小枝に止まった。かなり高い所だから90oマクロレンズでは撮影は無理だが、清々しい青空と色づいて来た柿の葉との間に止まったオニヤンマの姿は美しい。このオニヤンマとウスバキトンボが止まってくれるようにと、付近にある小枝を地面に差し込んでから先を急いだ。
 もちろんいつものようにキバラヘリカメムシはいないかとニシキギの葉を調べ、また、前回、アカボシゴマダラの止まっていたヤマグワの葉を調べたものの、両方とも期待が外れてしまった。特にキバラヘリカメムシは去年気持ちが悪い位に大発生していたのが嘘のように、時期だと言うのに一匹だにいない。天敵である小鳥などの動物が全てを平らげたとは思えないので、やはり大発生につきものの病気が蔓延したとしか考えられない。かつて昆虫個体群生態学と言うものを学んだが、昆虫の個体数の消長は複雑に絡み合った要因で調整され、異常な発生もすぐに平常な状態に戻される。このような事は昆虫に限った事ではなく、バブルに踊った経済がぺしゃんこになったように、人間社会にも通用する法則なのだ。すなわち、驕る平家は久しからずやというように、大発生のキバラヘリカメムシは自然の力によって久しからずやであった訳である。しかし、それにしても実に見事にまことに短時間で調節されてしまった。今日は河童池からいつもの散策コースはとらずに尾根道の方へ上って行った。その目的は一つにはゴイシシジミで、もう一つはタマゴタケである。ゴイシシジミはもう少し時期が遅いかなと思ったが、クヌギ休憩所からすぐの尾根道にまだいるのではと考えたのだ。また、キノコに関してはそれほど適した公園とは言いがたいが、多摩丘陵であんなに一杯タマゴタケが生えていたのだから、少し位は発生しているのではなかろうかと思った訳である。しかし、結論から言うとそのどちらも見事に期待を裏切られる事となった。
 そこでアカボシゴマダラがたくさん見られたと言うきざはしの池前の水車小屋へ行った。情報通りにアカボシゴマダラが飛んでいて柿の葉に止まった。これもまたかなり高い所だから、90oマクロレンズでは撮影は無理である。しかし、去年も今年も良い写真を撮っているから、どうしてもと言う熱意は生じない。もっとも、まだ本として刊行はされてはいないが「つれづれ里日記」と「つれづれ虫日記」を完成させて以来、どうしても撮りたいと言うものは無くなって、じっくりと道端自然観察にいそしみ、そのおすそ分けとして良い写真が撮れればと考えているから余裕綽々と言う訳である。しかし、このHP用に4枚の写真はどうしても確保したいので、決して美しいとは言えないが大発生していたヒカゲチョウを素直に切り取った。次にタマゴタケがどうしても見つからなかったので、古谷戸の里へ行って管理事務所のK女史に、「舞岡公園では何処に一番キノコが発生してますか?」と教えを乞うた。すると親切にも自分で撮影した各種のキノコの写真をパソコン画面に映し出して、あまり人には教えたくないと言う秘密の場所を教えてくれた。こんなに長く舞岡公園へ通っていても、その場所に足を踏み入れた事は無ったのである。しかし、時計を見るともうすぐ正午である。午後から気の合った仲間が集まって散策することになっていたので、瓜久保の家に引き返した。すると、月一回木曜日に定期的に自然観察会を開いている野鳥を中心としたグループも集まっていた。
 食事が済むと野鳥観察グループの幾人かの方々も交えて、また河童池に行った。梢の中で動くものがいたら即座に気づいて、スポッティングスコープに鮮明な画像を浮かび上がらせる事が出来ると言う特技の持ち主である上永谷の方が、すぐに柿の熟果に吸汁するゴマダラチョウを映し出してくれた。私のお仲間達も含めて6人程の自然好きが覗かせてもらって、次々に感嘆の声を上げる。全員がゴマダラチョウを見終わると、次にはやはり柿の熟果に急汁するアカボシゴマダラに焦点を合わせてくれた。これもまた素晴らしい光景で、またしても全員が覗かせてもらって感嘆の声を上げる。またその次にはルリタテハ、ヒカゲチョウと、柿の熟果に集まる蝶の全てをスポッティングスコープによって鮮明な画像として観察させて頂いた。「奥に行くと蜘蛛の巣に引っかかったアカボシゴマダラがいるよ」と言うので行ってみると、ジョロウグモの網にアカボシゴマダラが引っかかって息絶えていた。「蜘蛛の巣に引っかかる位だから、アカボシゴマダラは完全定着ですね」と鎌倉のNさんが言う。「この間、柿の落果に吸汁する写真も撮っていたし、これで蜘蛛の巣にて落命したものも撮れたから、アカボシゴマダラの全ステージを撮らなければなりませんね」と、新百合ヶ丘のAさんに冗談交じりで言うと、まんざらでもないように微笑んだ。午前中に地面に差し込んで来た小枝を見に行ったが、「そう簡単には問屋は卸しませんよね、花虫さん」と言われてしまった如くに、何も止まっていなかった。
 野鳥観察グループと分かれると、管理事務所のK女史に教えて頂いたキノコの穴場へ行った。そこは狭くはあるが小野路町の美しい雑木林を髣髴させるようなクヌギとコナラの雑木林であった。「こんな所があったんですね」と舞岡在住のKさんに言うと、「知っていたけど、こんなに美しく手入れされているとは思わなかったわ」と言う。「ここは冬の銀色に光る梢、春の芽出し、新緑、夏の樹液に集まる昆虫観察と、キノコだけではなく四季を問わずに大いに楽しめますね」と私が言うと、みんな同じ思いを感じたのか頷いている。目指すキノコだが、食べられるキノコとして著名な傘が紅色のタマゴタケは無かったものの、傘がレモンイエローのタマゴタケモドキがたくさん生えていた。傘の色以外は良く似ているのだが、タマゴタケモドキは死亡例もある猛毒のキノコであるから要注意である。「今日は良い写真がなかなか撮れないから、何か探して」と愚痴りながらみんなに頼んだが、たしか前々回にお惚け昆虫であるテングスケバを撮影した辺りで、今度はコナラシギゾウムシを発見した。口吻が針のように長く、それを錐のように使って実にを穴を開けて産卵するゾウムシである。写真のように嘴の長い野鳥のシギに似ているからそう名が付けられた。しかし、実に穴を開けている最中にぽきりと口吻が折れて絶命することもあるのだと言う。まったく命がけの作業と言う訳なのである。今日は決して自慢できる程の自然観察及び写真撮影では無かったのものの、最後の最後になって、いつも期待を裏切らない舞岡公園であったし、新百合ヶ丘のAさんが「舞岡公園は蝶が多いね」と言うように、各種の蝶に出会うことが出来た。

<今日観察出来たもの>花/ヒヨドリバナ、ヨメナ、シラヤマギク、アキノノゲシ、ノハラアザミ、タイアザミ、オミナエシ、キキョウ、ノダケ、ゲンノショウコ、ヤマハギ、フジカンゾウ、クズ、ノアズキ、ヤブマメ、ワレモコウ、キンミズヒキ、ミズヒキ、アキカラマツ、イヌタデ、サクラタデ、ヒガンバナ、ツユクサ、ツルマメ、トキリマメ、ナンバンギセル、ツリガネニンジン、クサギ、キツネノマゴ、ヌスビトハギ等。蝶/ナガサキアゲハ、モンキアゲハ、カラスアゲハ、アゲハ、アオスジアゲハ、ルリタテハ、キタテハ、アカボシゴマダラ、ゴマダラチョウ、ツマグロヒョウモン、イチモンジチョウ、コミスジ、ヒカゲチョウ(写真下左)、サトキマダラヒカゲ、ヒメジャノメ、ウラギンシジミ、ルリシジミ、ヤマトシジミ、ムラサキシジミ、イチモンジセセリ、コチャバネセセリ等。昆虫/コナラシギゾウムシ(写真上右)、トホシテントウ、オニヤンマ、オオシオカラトンボ、シオカラトンボ、アジアイトトンボ、ウスバキトンボ、アカスジキンカメムシ、アブラゼミ、オオクモヘリカメムシ、エサキモンキツノカメムシ、イナゴ、トノサマバッタ、ショウリョウバッタ等。キノコ/タマゴタケモドキ(写真下右)、イグチの仲間、ショウロの仲間等。その他/ジョロウグモ(写真上左)、カワセミ等。


9月15日、神奈川県秦野市権現山

 このHPのタイトルは道端自然観察館と言うのだから、道端から観察できるものはなんでも載せなければならない。しかし、野鳥は撮影機材が特殊となるために、花や昆虫を撮る機材では撮る事が出来ない。このため撮影対象の少ない、また、木の葉が落ちて野鳥が観察しやすい冬場には登場するものの、他のシーズンには野鳥はゼロと言うのも寂しい限りだ。そこで今週は秦野市の権現山の野鳥施設へ行くつもりでいたのだが、超刺激的なご投稿があったために、昨日、予定していなかった小野路町へ行った。明日は前々からの約束の舞岡公園だし、金曜日は絶対に外せない仕事が入っているために、なんとか時間を捻出して、午後だけ権現山へ行くことにした。10年も前に比べれば、携帯電話、パソコン、FAX等があるから、お客様の所へ出向かなくてもかなりの仕事がこなせてしまう。また、最近では時間が確実にとられてしまう出向いての商談より、また、確実に証拠が残って言った言わない等のトラブルも発生しない、メールを中心としたやり取りを好む顧客が増えて来ているのでとても有り難い。
 そんな訳で身体を休めるべきなのに、思い立ったら吉日の性格は直しようも無く、大急ぎだが慎重に仕事を片付けると東名高速道路に乗った。今日の権現山の野鳥観察施設は大賑わいである。水曜日が定休日の職業の方と言ったら不動産関連の業種を思い浮かべるが、そうでなくとも週のちょうどど真ん中の水曜日は、有給休暇を取るのにもちょうど良いのかもしれない。そんな訳でいつものお気に入りの観察窓ではなくて他の場所となったが、覗いて見るとなかなか素晴らしい構図が取れる枝が張り出している。ここにもしキビタキやオオルリ等の美しい野鳥が止まってくれたら、今までに無い素晴らしい写真が撮れるのではないかと期待して機材をセットして待った。先にやって来た方々に聞くと、キビタキの雄もやって来たと言う。その他、エゾビタキ、コサメビタキ、センダイムシクイも現れたと言うから、後は待つだけと言うことになる。今日、ここにやって来た方々の目的はもちろん美しいキビタキであるが、キビタキは既に撮影しているので、エゾビタキ、コサメビタキ、センダイムシクイが撮影出来たら良いのになと余裕綽々と言う訳である。
 野鳥に関してはキノコと同様に超初心者で、分類何んて言うしち面倒臭いものは恐らく手をつけないと思うが、ヒタキ類と言う言葉を良く耳にする。そこでヒタキ類とは何ぞやと図鑑で調べてみると、スズメ目ヒタキ科の野鳥の事を指している。私の持っているA図鑑には26種類紹介されていて、○○ビタキと呼ばれるもの以外を列挙すると、サンコウチョウ、オオルリ、セッカ、キクイタダキ、ヤブサメ、メボソムシクイ、センダイムシクイ、オオヨシキリ、コヨシキリ、ウグイス、ツグミ、シロハラ、アカハラ、トラツグミ、クロツグミ、マミジロ、イソヒヨドリ、コルリ、ノゴマ、コマドリとなっている。しかし、別のB図鑑を開いてみると、ヒタキ科はコサメビタキ、サメビタキ、エゾビタキ、キビタキ、オオルリだけで、ビタキとつくルリビタキとジョウビタキはツグミ科となっているのである。科と言う分類の単位を広くとらえるか細分化してとらえるかの違いだろうが、こんなに違うと素人はまったく混乱してしまう。俗に言うヒタキ類とはどちらを指すのだろう。まあ、そんな事はどうでも良いのだが、細分化したB図鑑のヒタキ科は夏鳥として我が国にやって来るもので括られていて、そのほとんどが夏から秋の権現山で見られるのだから、私には感覚的にとてもすっきりする。しかし、そのような細分化した分類をとるとなると、ルリビタキはルリツグミ、ジョウビタキはジョウツグミと改名せねばならない訳だから、この面では賛成しかねてしまう。こんな事は本当にどうでも良いことなのだが、「しっかりしてよ野鳥の専門家さん」と言いたくなってしまう。
 今日の目的はもちろんまだ出会っていないオオルリだが、そんな事を言っては笑われそうなので、エゾビタキ、コサメビタキ、センダイムシクイと言うことにした。これらの鳥はみんなお腹が白ないし明るい灰色なので、視神経をそのような色に素早く反応出来るように調節して待った。すると期待した色の鳥がやって来たが、何となく図鑑で見知ったエゾビタキ、コサメビタキ、センダイムシクイ等とは違う。近くにいたご婦人が、「キビちゃんの雌ね」と言う。どうも野鳥好きの方は愛情のこもった独特な言い回しで種名を言うので一瞬戸惑うことが良くあるが、キビちゃんとはキビタキの事であろう。こう言っては女性陣からの激しいブーイングが起こりそうだが、野鳥に関しては雄の方が断然綺麗である。野鳥撮影を専門になさっている方には雄雌ともに同等の被写体だろうが、ミーハー野鳥ファンにとっては、美しい雄に軍配を上げるのは致し方無い事だろう。それでもキビタキの雌を連写すると、今日のターゲットとしているエゾビタキとコサメビタキが少しの時間を違えてやって来た。見るとキビタキやオオルリ等の美鳥とは異なった地味な小鳥だが、飽きの来ない配色でなかなか可愛らしい。色白でおしとやかな日本美人のようである。図鑑を開いて見るとエゾビタキはアジアの北東部で繁殖し、南東部で越冬する渡り鳥で、秋に日本に立ち寄るだけと書かれているが、コサメビタキは日本で夏に繁殖のために定住する夏鳥であると書かれている。道理でコサメビタキはエゾビタキより小柄で色白の日本的な小鳥と見えるのは私だけの感覚であろうか。その他、今日の権現山の野鳥観察施設は野鳥ファンも多かったが、飛来する常連さんの小鳥達も賑やかで、無理して時間を作って午後だけの観察となったが、それでも充分の満足感を持っての帰宅となった事は言うまでもない。

<今日観察出来たもの>鳥/キビタキ、エゾビタキ(写真上右)、コサメビタキ(写真上左)、メジロ(写真下左)、エナガ(写真下右)、ヒヨドリ、シジュウカラ、ヤマガラ、他の方が目撃したものとしてセンダイムシクイ、メボソムシクイ等。蝶/モンキアゲハ、アゲハ、アカタテハ等。キノコ/タマゴタケ、ドクツルタケ等。


9月14日、東京都町田市小野路町・図師町

 今年に入って初めての信じられない位の仕事が入って、ここは慎重にこなして、たっぷりと儲けさせて貰って、ペンタックスから10万円以下のデジタル一眼レフカメラが出ると言うので買おうかなと思っていたら、昨日の掲示板に思わず“なぬ”と叫びたくなる投稿があった。みなさんも良く知っている方々が小野路、図師町へ行って、これでもかとキノコを見つけたらしい。昨年は雨が降らずにキノコの大不作の秋であったから、期待していたシロオニタケやタマゴタケを見ずじまいに終わったが、そのシロオニタケやタマゴタケがぼこぼこ生えていたと言う報告を受けたのだから、これは仕事をさぼるしかないと一大決心をして小野路、図師町へ行った。この結果、儲かるはずのものが儲からなかったら誰の責任なのだろう。まあ、欲望を押さえつけられない自分の責任で、決してその方々のせいではあるまい。しかし、忙しい時は“いゃー、凄かったですよ”等と言われると、まことに精神衛生上良くない。
 そんな訳で今日は途中何があっても目もくれずにキノコ尾根から五反田谷戸へ直行と思ったのだが、途中からキノコがぼこぼこ出ていてなかなか先に進めない。「もうたくさんあって予定をすべてこなす事が出来なかったわ」と言うご投稿通り、前に進みたくともキノコちゃん達が、「私も撮って、僕も撮って」と微笑みかけるのだからたまらない。前回来た9日はそれ程多くのキノコは生えていなかったのに、ほんのちょっとの間に大発生したようである。花の命は短いけれどと良く言われるが、キノコもほんの短時間で成長するのである。Tさん宅の敷地斜面には眩しいくらいに真っ赤にヒガンバナが咲いているが、そんなものにかまっていたら時間がいくらあっても足りないと先に進む。しかし、またまた様々なキノコが「私も撮って、僕も撮って」と微笑みかけるのだから、写真として絵にならないものは当然パスをした。こんなにたくさん様々なキノコが生えていると、種名判別の為にじっくりと観察しよう等と言う気等起こりっこない。
 そんな訳で万松寺谷戸に車を停めたのが午前9時30分なのに、五反田谷戸の溜池到着は、何と正午となってしまった。急いで来れば30分とはかからない道のりなのに、その5倍以上の時間がかかったのだから、いまだかつて無い珍記録を作ってしまった。キノコは風にも揺れないし撮影は短時間で済む筈だが、こう多いとこんなに時間がかかってしまう訳なのである。デジタルカメラのコンパクトフラッシュは512メガと大容量なはずなのに、三分の二も撮ってしまったのには驚いた。そんな訳で五反田谷戸に着くと慎重に被写体を狙った事は言うまでも無く、ツルボのピンクの絨毯は色褪せていたが、それ程多くは無いがヒガンバナが美しい。谷戸の風景を入れて撮影するのにはちょうど手ごろで、芝地に寝たり起きたりと頑張ったら、汗が滝のように流れて来た。今日はここ数日の涼しさが嘘のように蒸し暑い。溜池でポチャリと音がするので、トウキョウダルマガエルが飛び込んだのかなと思って目を向けると、なんとヤマカガシガが泳いでいる。きっとこの暑さに堪りかねたのだなと苦笑する。
 この地域は東京都の「図師、小野路歴史環境保全地域」に指定されていて、古くからこの地に住んでいる農業の方たち等なら、キノコ狩りもヤマイモ堀りも山菜採りも許されるだろうが、その他の方々はそれらも含めて一切採集禁止の場所である。それでも年間、様々なものが盗掘されてなくなって行くとこの地域を管理している方々が言われていた。もちろん、タマゴタケもその一つで、心無い方々によって胃袋の中に放り込まれる。しかし、この地域を管理なさっている方々のご努力によって、見かねるような採集は他所より少ないことは確かだ。それでも真っ赤な目立つ傘のタマゴタケは有名だし、胞子で増えるのだから関係ないだろうと思わず採集されてしまうようだ。そこで地元の人以外誰一人として足を踏み入れる事がなさそうな極秘中の極秘の場所に行って見ると、多摩丘陵にこんなにタマゴタケがあるの?と目を疑うくらいの数が生えていた。一箇所など5本も群生しているのだから素晴らしい。「やっぱり凄いや」と呟きながら、「だからしっかりと保全しなくてはね」と感じ入った。こんな事を言う私だが、一度だけ寺家ふるさと村にて大発生した時にタマゴタケを食した事があるが、そんなに騒ぐ程美味しいとは思わなかった。やっぱり、マツタケが一番、あーあ、炭火で焼いて熱い内に醤油を垂らして食べたいな。上記したように、もしもばっちり稼げたら、産直で一籠買うとしょう。
 以上、今日は思わぬキノコ巡りとなってしまったが、本当に今年はキノコの当たり年のようで何処へ行っても凄い。もうすぐ連休になるから横浜キノコの森にも行って見よう。図師、小野路とは異なったものが観察出来るだろうと思うととても楽しみである。そんな訳で今日はキノコ以外にはあまり目を向けなかったが、これではつまらないとホタルガの第2化目のものを撮影した。もちろんホタルガの幼虫の食樹はヒサカキだから、写真のようにその葉に止まっているものを撮影した。途中、新百合ヶ丘のAさんと出会ったが、Aさんにも超有名なタマゴタケとシロオニタケをご覧に入れると、やっぱりシロオニタケは「雪達磨みたい」との感想が帰って来た。以前、蝶や昆虫、花や風景等を写していた頃は、目にすら留まらなかったシロオニタケだが、キノコの中ではとてもユニークで愛らしい存在である。Aさんが帰り道、ヒガンバナに飛来するキアゲハを撮影するんだと言って頑張っていたが、わたしはもうへとへとで木陰に腰を降ろしてしまった。一息ついて辺りを見回すと、オオアオイトトンボが美しく午後の日に輝いていた。そこでこれは頂きとカメラを向けるがシャッターが下りない。何と512メガのコンパクトフラッシュを全て撮り切っていたのだ。これはこれは見るもの撮るものが多かった証明である。そんな訳でオオアオイトトンボを撮る事は出来なかったが大満足して帰宅し、仕事に向かったのは言うまでも無い。

<今日観察出来たもの>花/ゲンノショウコ、ヒガンバナ(写真上左)、ツルボ、クズ、ヤマハギ、ヌスビトハギ、トキリマメ、ツルマメ、キクイモ、ヤブラン、ヤマホトトギス等。蝶/アゲハ、キアゲハ、ジャコウアゲハ、ミスジチョウ、コミスジ、ヒカゲチョウ、ムラサキシジミ、イチモンジセセリ等。昆虫/ホタルガ(写真下左)、シオカラトンボ、マユタテアカネ、ヒメアカネ、オオアオイトトンボ等。キノコ/タマゴタケ(写真上右)、チャタマゴタケ、タマゴテングタケモドキ、ドクツルタケ、シロテングタケ、テングタケダマシ、タマゴタケモドキ、コテングタケモドキ、シロオニタケ(写真下右)、カバイロツルタケ、コムラサキシメジ、ハリガネオチバタケ、ヒメカバイロタケ、ベニヒダタケ、ヒイロベニヒダタケ、ニガクリタケ、オオキヌハダトヤマタケ、アワタケ、ヤマドリタケモドキ、イロガワリ、シロハツ、カワリハツ、ニオイコベニタケ、ドクベニタケ、ザラエノハラタケ、その他不明種多数等。その他/トウキョウダルマガエル、ヤマカガシ等。


9月12日、横浜市都筑区港北ニュータウン公園巡り

 9月に入って今日で8回目の道端自然観察となる。と言う事は僅か4日しか仕事をしなかったように思えるかもしれないが、一日は24時間だから、会社勤めの方に比べれば少ないことは確かだが、これでちゃんと仕事もこなしているのである。今日だって帰宅してから掃除と草むしりをこなしているのだ。そうは言っても雑木林にキノコが爆生しているように、爆発的な勢いである事は確かである。しかし、来週からはたっぷりと仕事が入っているから、急ブレーキとはならないものの普通通りのペースに戻る事だろう。そんな訳で行く所もなくなり、遠出する気力も体力も無くなって、今日は車で10分とかからない港北ニュータウンの公園巡りに出掛けた。まず、最初に行ったのは大原みねみち公園である。先日、野鳥が大好きで、このHPの掲示板に度々ご投稿下さるぶんちゃんこと相模原のKさんがカワセミの写真を送って来てくれたので、密かに期待していたのだが、大原みねみち公園には今日もカワセミはいなかった。港北区や都筑区で定期的に野鳥観察を繰り返している方に聞いたところによると、このあたりのカワセミは早淵川で営巣するらしく、港北ニュータウンに点在する池にはハンティングにのみやって来ると言う事なので、大原みねみち公園のカワセミ君も、早淵川で子育てに忙しいのだろう。そんな訳で車に積んで来た超望遠レンズの出番は無かった。そればかりでなくコブシの実を撮った位で、これと言ったものに出会えなかった。先日、舞岡公園で鎌倉のNさんが、鎌倉中央公園で見つけたと言うササクレヒトヨタケの写真を見せてくれたので、また、草原に生えていたと言うので、昨日も今日も草原を巡り歩いたのだが、ボヘミアンの尖がり帽子には出会えなかった。
 次に訪れたのは茅ヶ崎公園である。車を停めて美しいモウソウタケの竹林に行って見ようと遊歩道を歩いて行くと、なんと遊歩道と道路との間の植え込みにテングタケの群生を発見した。赤ちゃん、子供、青年、中年、熟年と全ての発育ステージが揃って見事である。いつもこの植え込みには様々なキノコが見られるので、テングタケ以外に何か生えていないかと探してみると、なんと黄色いテングタケの仲間が生えているではないか。図鑑を見て一度は出会いたいと思っていたキタマゴタケのようだ。キタマゴタケはチャタマゴタケと同様に真っ赤なタマゴタケの亜種である。だからタマゴタケと同様に食べられるキノコなのである。どうしてこんな人通りの多い道端に生えているのかと目を疑ったが、マッシュルームハンターさん達は、みんな富士山等の有名な場所へ行ってしまうので、ことによったら緑多き公園が一番安全なのかもしれない。もちろんテングタケもキタマゴタケも後で見つけたニオイワチチタケも撮影したが、今日は昆虫デーにしたかったから、同所でたくさん見られたキノコは絵にならないものはパスした。昨日、ようやく修理が終わって帰ってきた超広角レンズ24oを使いたかったので、美しいモウソウタケの竹林に期待したのだが、キノコではなくてアカスジキンカメムシの幼虫がちょうと良い高さに止まっていた。竹はつるつるして滑り落ちてしまいそうだが、時折、昆虫達が鎮座している事がある。竹林と言う独特の環境を超広角レンズ24oで広く取り入れた写真も、なかなか見ごたえがある里山ならではのものだと思う。ことに港北ニュータウン内の竹林は、大規模マンションの敷地内にあって、管理組合の方々が手入れをしているので実に清々しくて明るいのだ。
 今日は昆虫デーにするつもりなのだが、なかなか昆虫が現れない。このつれづれ観察記も9月入った途端に昆虫の写真が少なくなった。昆虫は確かに夏が盛期であると思うが、秋はバッタ、キリギリス、コオロギ等の直翅目の天国だし、アカトンボの仲間も多彩となるのだが、まだまだ登場は先にしようと思っているから花やキノコばかりと言う訳である。しかし、今日は何とか登場させたいとアカスジキンカメムシの幼虫は撮影したものの、他には何かいないかと探し回った。すると頭上で「オーシンツクツク、オーシンツクツク、夏は終わったよ、涼しいよ、涼しいよ、ジージュクジュク」とツクツクボウシが鳴いている。ツクツクボウシは今年はかなり早く現れて撮影済みであったが、このつれづれ観察記に登場さていないので、ツクツクボウシを撮ろうと思った。しかし、いざ撮ろうとするとなかなかお目にかかれない。どうにか一匹見つけたが大きな桜の幹に止まっている。撮影は簡単だったが樹肌に溶け込んで姿がはっきりと浮き出て来ない。これは困ったなと思い。こうなったらツクツクボウシが多産する鴨池公園へと車を走らした。とは言ってもほんの少しの距離なのだが、鴨池と言う大きな池があるためか、他の公園に比べてツクツクボウシが何故か多い。しかも、ツクツクボウシのお気に入りのエゴノキがたくさん生えている。エゴノキは地面近くで株立ちした細い幹が何本も直立し、しかも幹の色はやや暗目から、ツクツクボウシが止まっていても目立つと言う訳なのである。鴨池公園に足を踏み入れるや否や、やっぱりエゴノキの幹にとまっているものを発見した。最盛期に比べれば数は少ないものの、合計4匹も発見したのだから嬉しくなった。
 前述したように今日は仕事があるので早く帰らなければならないと思ったが、野の花が無いと彩が寂しいと、またまたよからぬ願望が目覚め始めた。公園近くにある荒地に行くとアキノノゲシが咲いていたが、ピーカンでは情緒が出ない。すると日陰にコヒルガオが絵になるように咲いているのを発見した。「こんな日陰の淡い色の花はデジカメは苦手なんだよな。ベルビアにすれば美しく撮れるのになぁ」等とぶつぶつ言いながらも撮影した。今年はなんだかヒルガオとコヒルガオに縁が無い年で、一番たくさん見られる梅雨時にたくさん見ているのだが、絵になるようなものはまったく無かった。蔓性の植物は他のものに絡み付いている為にすっきりとした構図にしにくいのである。そんな事もあってか夏の風物詩であるアサガオの良い写真をまだ撮影していない。なお、コヒルガオとヒルガオの違いは、花の大きさや色合いももちろん違うが、葉の柄に近い左右に広がった部分がコヒルガオでは切れ込んでいて、ヒルガオは切れ込んでいないので区別がつく。以上、今日は短時間で早上がりのつもりであったものの、そうは問屋が卸さない道端自然観察及び写真撮影と言うわけで、定刻まで頑張ってしまったが、すぐに帰宅できる近場だったのが功を奏して、帰宅してからびっしりと汗をかく掃除と草取りに取り組んだ。夏草や兵どもの夢の跡ではないが、雑草の逞しい生命力には脱帽するしかない、かなり厳しい仕事となった。

<今日観察出来たもの>花/ヒガンバナ、クズ、ヤマハギ、ヌスビトハギ、ツルマメ、アキノノゲシ、キクイモ、タカサブロウ、ツユクサ、ヘクソカズラ、ヤブラン、ヤマホトトギス、コヒルガオ(写真上左)等。蝶/アゲハ、アオスジアゲハ、コミスジ、ヒカゲチョウ、ムラサキシジミ、イチモンジセセリ等。昆虫/アオドウガネ、アカスジキンカメムシの幼虫(写真下左)、アブラゼミ、ミンミンゼミ、、ツクツクボウシ(写真下右)、ウスバキトンボ、ショウジョウトンボ、シオカラトンボ、ナツアカネ等。キノコ/テングタケ、キタマゴタケ(写真上右)、ニオイワチチタケ、ツルタケ等。


9月11日、東京都大田区東京港野鳥公園〜せせらぎの森

 今日は東京港野鳥公園に野鳥以外のものを観察し撮影に行った。こんな事を書くと野鳥好きな方、野鳥撮影に精を出している方からブーイングが来そうだが、あれもこれもと欲張りたいが、そんな事をしたら野鳥公園は一日では消化できない。東京湾の埋立地にあるにも関わらず、大小様々な池はもちろんの事、田んぼ、雑木林と何でもありの公園なのだ。首都圏の野菜、果物、花卉等を一手にさばく大田市場の横に駐車場があるが、隣接する倉庫には富良野の玉ネギと書かれたダンボールが積んである。もちろん北海道の富良野の事で、風景写真が大好きな方なら一度は訪れてみたい憧れの地だ。入口から入園券を発売している管理事務所までのほんの少しの距離で、各種の実の撮影で早くも足止めをくってしまった。今日、野鳥公園全体で観察出来た主な実は、ツルウメモドキ、ウメモドキ、アセビ、モッコク、シャリンバイ、マルバシャリンバイ、ウバメガシ、ヘクソカズラ等多数で、初秋の実ウォッチングだけでも相当の時間が取られてしまうことだろう。いつでも何処でも撮れるのにツルウメモドキ、ウメモドキ、アセビ、ヘクソカズラの実を撮って、更にツルウメモドキの葉上にキバラヘリカメムシはいないかと探索してから入園券を購入すると、いつものように自然生態園の方へ行った。するとマテバシイやシラカシ等を主体とした林の中に大きなキノコが生えている。近づいてみるとテングタケである。更に目が慣れて来ると可愛らしい幼菌もたくさんあって、埋立地に造成した人工的緑地である事を忘れてしまった。
 今日の目的は池のトンボである筈だったが、ギンヤンマ、シオカラトンボが飛んでいる位で目ぼしい物はいない。かつて各種のイトトンボが見られた池はだいぶ様変わりをしている。しかし、先日、野の花が大好きでこのHPの掲示板に度々ご投稿下さる一人静さんこと鎌倉のOさんが、アレチヌスビトハギの写真をご投稿下さったので、すぐにたくさん咲いている淡紅色のマメ科植物がアレチヌスビトハギであることが分かった。持つべき者は良き友、こんなに為になるのだから、このHPの掲示板に何でもばんばん写真をご投稿してもらいたい。そんな訳で初めて出会った筈なのに古くからの友達のように観察すると、花には黄色い二つの斑紋があって、それが目で、また、マメ科独特の花の造りから下方の花弁が鼻に見え、しかもそれがとても長いのである。鎌倉のOさんが外国人の顔に似ているとおっしゃったが、まさに鼻の高いおどけた顔を連想させる。これから秋は野の花が一杯、木の実草の実も一杯だが、このアレチヌスビトハギの様に、丁寧に愛情込めて観察すると、可愛らしいもの面白いもの不思議なものが見えて来るだ。もちろん昆虫だって負けてはいないが、今日は真正面から見るとゴールデンリトリバーの鼻面に似ていて、思わず撫でてあげたくなるイチモンジセセリを真正面から撮影した。イチモンジセセリは夏の終わりごろから急速に個体数を増すセセリチョウ科の地味な蝶だが、銀座や新宿のプランターの花にも飛来する最も普通種だから、真正面から真面目にご対面して欲しいものである。
 今日は自然生態園の周りはキクイモで一杯である。図鑑を開くと、北アメリカ原産のキクイモはイヌリンを含む食べられる芋(根茎)が出来、おまけにヒマワリを小さくしたような美しい花だから、世界各地で一挙両得とばかりに盛んに植えられたとある。我が国には幕末頃に輸入され、飼料用に栽培されたらしい。更に図鑑では、芋が小さいイヌキクイモが別種あるいは変種として紹介されていると思うが、どうやら最近、この両者は同一種とされたらしい。先だって、ボランティアをしている茅ヶ崎公園生態園で会合があったが、植物に詳しいKさんが、「これで掘って芋を確認しなくてすんむから大助かりだよ」と言っていたが、このように両者を識別するのは大変な事であったらしい。専門家の方々は動植物キノコを細かく分けるのが好きだが、これからも今まで別種とされていたものが同一種とされるものが増えそうである。最終的には動植物キノコの分類はDNA鑑定をせねばならない訳で、外観からの形態の差異による種の判別は、決め手となる差異に相当な違いが認められない限り鵜呑みには出来ないようである。また、種の判別にはもっと時間的空間的な生態的差異をも取り入れれば、より納得できる確かな種の同定となるだろう。例えば今日観察したアレチヌスビトハギだが、ヌスビトハギとの外形的な差異は明確だが、生態的にも前者は日が当たる所に、後者は半日陰の所にと好みが異なるようである。逆にテングタケは傘が茶褐色で大型のものから、淡い褐色の小型のものまであって、これらがみんなテングタケなのかとなんとなく納得が行かない。まだまだ新種発見がぞくぞく続くキノコの世界も、そのうちもっと生態的な側面からも研究されるに違いない。
 以上、野鳥公園ではあっと言う間に正午となって、午後からはほんの少し離れた大田スタジアム横にある“せせらぎの森”に行った。道一つ隔てた公園が“大井埠頭中央海浜公園”で、今日はハゼ釣りで賑わっていて、駐車場に車を停めるまで相当待たされてしまった。愛車小野路号には渓流から海まであらゆる場所で釣りが出来るように各種のアイテムが積んあるのだが、今年は秋になったと言うのにその出番が無い。今頃連れるハゼは程好い大きさだから、天ぷら、から揚げ、正月用の甘露煮、少し大きめのものは刺身と何でも御座れである。そんな事を思いながらも“せせらぎの森”へ行った訳だが、ここにはいつもアメリカザリガニ釣りで賑わう大小の浅い池があって、アオモンイトトンボが生息し、ススキの原にはギンイチモンジセセリが見られる事になっている。しかし、今日見られたのは腹部の第9節目が青いアジアイトトンボばかりで、第8節が青いアオモンイトトンボは見られなかった。ちなみに胸についている部分が第1節で、アジアイトトンボは尾端が青いと言っても間違いでは無いであろう。せせらぎの森に見られる生き物と言う案内板に、アオモンイトトンボが写真入りで紹介されていたが、どう見てもアジアイトトンボに見える。どうやらアオモンイトトンボが生息しいると言う話も偽りではなかろうか。かつて“丹沢に見られる生き物たち”と言うパンフにも、カワトンボとミヤマカワトンボが混同されていた。それを指摘したにも関わらず直さずにずっと配られていたのには情けなくなった。いずれにしても種名判別の難しいものだが、私のHPならいざ知らず公共のものなのだからもう少し慎重に検討して貰いたいものである。今日は最後に愚痴となってしまったが、東京のこんな近くにも素晴らしい道端自然観察地がありましたと言うことで幕を引くこととしよう。

<今日観察出来たもの>花/ヒガンバナ、アレチヌスビトハギ(写真上右)、ツルマメ、ヤハズソウ、コナギ、キクイモ(写真上左)、タカサブロウ、ヘクソカズラ等。蝶/アゲハ、アオスジアゲハ、ベニシジミ、ツバメシジミ、イチモンジセセリ(写真下左)、チャバネセセリ等。昆虫/ナナホシテントウ、ツクツクボウシ、ウスバキトンボ、ギンヤンマ、シオカラトンボ、アジアイトトンボ(写真下右)等。キノコ/テングタケ、ザラエノハラタケ、ツルタケ等。実/ツルウメモドキ、ウメモドキ、アセビ、モッコク、シャリンバイ、マルバシャリンバイ、ウバメガシ、ヘクソカズラ等。鳥/アオアシシギ、コサギ、アオサギ、カルガモ、カワウ等。


9月9日、東京都町田市小野路町・図師町

 今日は台風18号の風もすっかり止んで気温も低く、自然観察には絶好の日和となった。秋になると様々な花が野を埋めるが、マメ科のものもたくさん見られようになる。しかし、クズ以外の花はそれ程目立たず、風にも揺れやすいのであまり撮影してこなかった。そこで風もほとんど無いことだし、小野路町の万松寺谷戸から牧場の間で、頑張って探してみることにした。ところで首都圏平地には秋にどのようなマメ科の花が見られるのだろうと、自宅に戻るとさっそく秋の花の図鑑を開いてみた。私がこれまで見た事があるものだけを拾って列挙すると、ヤマハギ、メドハギ、ヌスビトハギ、ナンテンハギ、トキリマメ、ノアズキ、ヤブマメ、ツルマメ、ヤハズソウ等である。今日はノアズキ、ヤブマメを除けば全てあった。車を停めて歩き出すとマメ科植物探索のはずだったが、民家の入口にミツバアケビの実が垂れ下がっている。まだ、ぱっくりと割れて中の果肉が見えるわけではないが、撮れる時に撮っておかないといつ収穫されるか分からないので慎重に撮影した。たかがミツバアケビだが、この甘酸っぱい果肉が好きな方がいて、なかなか絵になる写真を撮るのが難しいのである。ミツバアケビはその名の通り葉が3小葉で、アケビは5小葉だからすぐ見分けがつく。また、関東以西には小葉が5〜7で掌形になるムベがある。
 ミツバアケビを無事に撮影するとヌスビトハギ、ナンテンハギを見つけたが絵にならない。次にツルマメをたくさん見つけたが、これは以前にこのつれづれ観察記で紹介済である。ツルマメは図鑑では夏の花に分類されていて、今が最盛期なのだろう。万松寺に差し掛かるとヒガンバナが咲き出して見事である。しかし、小野路町では数が少なく、田んぼの畦に咲く美しい姿を撮影するのは難しい。そんな事を呟きながら坂道を上がって行くと竹林に差し掛かり、ヒガンバナが竹林内に咲いている。これなら何とか絵にする事が出来るぞと、ああでもないこうでもないと呟きながら作画してシャッターを切った。竹林とヒガンバナも絵になる題材で、薬師池公園の古民家の裏が絶好で、今週末から来週にかけて多くのカメラマンでごったがえす事だろう。更に上って行くと今日の午前中はキノコはパスの筈だったが、テングタケが崖地から生えていた。養分が不足しているためか小型である。しかし、崖地だから傘の裏側をなんなくとらえられて、今までとは異なった写真が撮れるぞと頑張った。やっと小道から牧場へ通ずる広い道に出ると、お目当てのトキリマメとヌスビトハギを撮影する事が出来た。ことにヌスビトハギは実が緑色の眼鏡の形をしていてとても面白い。しかし、図鑑によるとこの形が盗人の足跡に見えるらしい。また、知らず内に衣服にくっつくので、ヌスビトハギと名づけられたとある。いずれにしてもまだ緑色だから衣服にくっつくのはまだ当分先の事となろう。
 以上のように途中で様々なものに出会ったために、丘の上の牧場に着いたらもう正午となってしまった。これでは今日の午前中の予定の行程の半分にしかならない。大急ぎでヤマハギを撮って引き返したが、途中にとてつもなく大きなイグチの仲間が生えていたが、絵にならないので車に戻った。昼食を済ませると、もちろんキノコ山へ向かった。万松寺谷戸のハス池にはもう花はなくて、みんな実になっていた。このHPの掲示板に度々ご投稿下さる方によると、ハスの実は美味しいと言うので、またしても食べ頃と思われるものを撮影した。更に進むと農道に大きなヤマグリの木が覆いかぶさっている。台風18号による大風で傾いたようである。見ると毬が割れて褐色の実が見える。この美味しそうに顔を出した栗を撮影するのも意外と難しいもので、倒れているために目線の高さで見られるのだから撮影にはぴったりである。美しい栗林に入るとウマノスズクサがまた生え出していたが、栗を拾うためにまた綺麗に刈られる筈だから、ジャコウアゲハの幼虫たちは大変である。しかし、このように定期的に草刈が行われるからウマノスズクサが毎年耐えずに生育出来るのであって、ジャコウアゲハもまた行き続けられるのである。期待したキノコ山へ行ったが、ノウタケ、ホコリタケ、ニガクリタケが見られる位で、これと言った大物のキノコは見当たらなかった。昨日、横浜キノコの森でキノコの爆生を見ているから寂しい限りだ。
 これでは仕方が無いとTさん宅の前を通ってキノコ尾根へ行った。Tさん宅の敷地の斜面にはヒガンバナが赤く燃えるように見事に咲いている。日陰にある蕾にはナツアカネが止まって、とても絵になる光景である。キノコ尾根に差し掛かる手前には、今年もギンリョウソウモドキが顔を出している。去年は秋の長雨が無かったから貧弱なものを見たに過ぎなかったが、今年は本数も多い。もう少し伸びたらばっちりと撮影したい。期待したキノコ尾根を下ったが可愛らしいシロオニタケが2本生えているのみであった。こうなったら予定に無かった五反田谷戸へ降りて見ることにした。五反田谷戸は芝地一面にツルボのピンクの絨毯が敷き詰められてとても綺麗である。しかし、晴れの日の午後では情緒が出ない。朝早くか霧雨が降ったすぐ後に行けば、この上もなく美しい写真が手に出来ることだろう。また、数は少ないがヒガンバナも咲き始めているから、来週、半ばになれば手前にヒガンバナを入れ、背景に谷戸の風景を取り込んだ初秋の印画を一枚手にすることが出来るだろう。こんな訳でまた引き返して美しい雑木林経由で車に戻ったが、クヌギの樹液はすっかり涸れて、ほんの少し出ている場所にはヒメスズメバチのみ吸汁に群がっていた。何処を見回してももう夏は無く、初秋の動植物キノコに彩られた多摩丘陵があった。今年の夏の炎熱地獄は遠い過去のものとなり、見るもの撮るもの一杯の秋となった訳である。

<今日観察出来たもの>花/ギンリョウソウモドキ、ヒガンバナ、ヤマホトトギス、ウド、ヤマハギ(写真下左)、メドハギ、ヌスビトハギ(写真下右)、ナンテンハギ、トキリマメ(写真上右)、ツルマメ、ヤハズソウ、ツリガネニンジン、ワレモコウ、ツルボ、キツネノマゴ、ヤブミョウガ、ヤブラン、キクイモ、クサギ、ヘクソカズラ、シュウカイドウ等。蝶/アゲハ、カラスアゲハ、クロアゲハ、キタテハ、ヒメウラナミジャノメ、ムラサキシジミ、ウラギンシジミ、ヤマトシジミ、キマダラセセリ、ダイミョウセセリ、イチモンジセセリ、チャバネセセリ等。昆虫/ヒメスズメバチ、スケバハゴロモ、ベッコウハゴロモ、アオバハゴロモ、アブラゼミ、ツクツクボウシ、オオシオカラトンボ、ナツアカネ、マユタテアカネ、ハンミョウ、イナゴ、ヤマトフキバッタ等。キノコ/テングタケ、ドクツルタケ、シロオニタケ、カバイロツルタケ、ヒイロベニヒダタケ、ノウタケ、ホコリタケ、ヒメカバイロタケ、ザラエノハラタケ、マントカラカサタケ、カワリハツ、イグチの仲間数種、ベニタケの仲間数種等。
その他/ミツバアケビの実(写真上左)等。


9月8日、横浜市旭区横浜キノコの森

 毎日のように道端自然観察に出かけるので、仕事をしてないのではと、昨日、某ご婦人に心配されてしまった。若干54歳で隠居と思われるのも寂しいものである。そこで今日は早く起きて自宅にて仕事に精を出した。台風18号は夜には日本海に進み、このためかなりの強風が吹き荒れ、気象庁がある大手町では最大瞬間風速33.5bを記録した。しかし、広島市の60.2bに比べれば大した事は無い。昨晩のテレビではトラックが2台横倒しになった光景が放映されていたが、愛車小野路号は軽のワンボックスカーだから、広島並みの強風に見舞われたら吹っ飛んでしまう事だろう。朝食を済ませると、たまりにたまった帳簿づけに精を出した。領収書を整理してまとめ、月単位での売り上げ、経費、利益を電卓と睨めっこで纏め上げると、今度はパソコンに向かって整理をしたのだ。こうしておけば青色申告時に税務署へ行っても、なんにも言われずに済むと言う訳である。私の人生及び道端自然観察並びに写真撮影と同様に、嘘偽りのない清廉潔白な帳簿は、見ていて我ながらほれぼれとする。
 そんな訳で一心不乱になって仕事に精を出したために、午前中で完璧に帳簿の整理がついた。昼食を済ませて外の気配を伺うとまだ風が相当強い。しかし、一日中家に閉じこもり、机に向かう等と言うことはとても苦痛だ。こんな風が強い日だって、キノコなら微動だにしないから写真撮影はいたって簡単である。それにここしばらく雨も続いて気温も下がり、多くのキノコが発生しているのではないかと思って、とても気がかりであった横浜キノコの森へ行った。第1キノコの森に入ると、クヌギの樹液に小型のカブトムシの雄を見つけた。小型ではあっても角がしっかりした形で、なかなか均整のとれたイケメン個体である。今日は9月8日だから、今年のカブトムシの撮り納めとばかりにシャッターを切った。今度、再開するのは来年の6月下旬頃となるであろう。たかが昆虫のカブトムシであるが、もしも我が国にカブトムシが生息していなかったら、子供達ばかりでなく私のような自然大好き人間とっては、とても寂しい思いがする事だろう。まさにカブトムシは里山の雑木林の夏の王者なのである。
 第1キノコの森の入口付近にはキノコが左程生えていなかったが、森の中に入り暗さに慣れるに従って、多くのキノコが目につくようになった。横浜キノコの森と名づけただけあって、大きなキノコがぽこぽこ出ている。一番目についたのはザラエノハラタケである。8月の夏休みに群馬県長野原町北軽井沢の浅間大滝の林道で見かけたキノコである。今年は梅雨がほとんど無かったように去年は秋の長雨がほとんど無かったために、例え横浜キノコの森とは言え、秋は見応えのあるキノコが生えなかったので、このザラエノハラタケにもお目にかかっていなかったと言う訳なのだ。大きな傘にチョコレート色の絵柄が美しいキノコで、浅間大滝で見たように傘の裏側もチョコレート色なのかなと腰を低くして覗いて見ると、懐かしい色合いを確認することが出来た。キノコの専門家ならば学術のためにキノコを抜いて傘裏側の具合を見ることが許されるだろうが、私のような本当に適当な興味本位のウィークエンド・ナチュラリストには許されない。キノコの種名判別は、キノコを抜いて様々な特徴を確認しないとなかなか難しいのたが、こんな適当な私だって、やっているうちに幾種類かのキノコを判別できるようになったのは嬉しい限りである。第1キノコの森には、この他、キチチタケと思われるベニタケやカワリハツがたくさん生えていて、薮蚊さえ襲って来なければとても面白いキノコ散策が出来る。
 第2キノコの森に行くと、前回来た時にたくさん生えていたナカグロモリノカサは消滅し、ツチヒラタケもほとんど姿を消していた。一番多く見られたのはテングタケダマシである。このキノコはテングタケに極似しているからそう名づけられたのだが、傘の上のピーナッツの破片のような粒々が、テングタケダマシは尖っているから見分けがつく。ことに幼菌は毬栗坊やのように見えて、とても親しみの持てるキノコである。次に多く見られたのはカワリハツの緑色型である。カワリハツは傘の色の変異が大きいからそう名づけられたもので、この他、紫色型、淡紅型、青色型、オリーブ色型があるらしい。このカワリハツは食べられるし、何処へ行ってもたくさんあるから一度は試食してみたいと思っているのだが、まだまだキノコの同定については未熟者だから止しておこう。キノコ中毒で病院に運ばれる方の年齢層は圧倒的に中年から熟年にかけてが多いらしい。キノコの姿形、風味等を味わえるようになるには、やはりかなりの年月を経る事が必要のようである。更に第2キノコの森には、大好きなノウタケ、ホコリタケ、ダイダイガサも見られ、また、第1キノコの森に比べて薮蚊も少なく、雑木林と風が奏でる交響曲を聴きながらのキノコ探しは格別であった。その後、第3キノコの森にも行ったが、見られるものは殆んど同じで、帰り道を尾根沿いにとって歩いて見たが、黄色が鮮やかで美しいウコンハツ、大きく傘を広げたコテングタケモドキ、真っ白の雪だるまのようだが棘々がたくさん生えたシロオニタケ等を見ることが出来た。その他、卵からちょいと顔を出したものも多く、ここしばらくは毎週のように横浜キノコの森に来なければならないなと感じた。また、明日行く予定の小野路町のキノコ山が今からとても楽しみとなった。

<今日観察出来たもの>蝶/アゲハ、ヒカゲチョウ等。昆虫/カブトムシ等。キノコ/コムラサキシメジ、ツチヒラタケ、ダイダイガサ、テングタケダマシ(写真下右)、コテングタケモドキ、ドクツルタケ、シロオニタケ、ザラエノハラタケ(写真下左)、ヒトヨタケ、イロガワリ、カワリハツ(写真上右)、ウコンハツ、キチチタケ(?)、ニオイコベニタケ、ノウタケ、ホコリタケ、マンネンタケ、カオリツムタケ?(写真上左)、その他不明種数種等。


9月7日、横浜市戸塚区舞岡公園

 今日のお天気は風がとても強く、晴れ時々曇り、時々雨と言う何でもありと予想されていた。これは午前中に台風18号が九州に上陸し、その影響でこのような何でもありの天気となる訳で、それにしても今年は台風の当たり年で、今回の台風の上陸で観測史上最多の7回目となった。そんな天気が予想されていたにもかかわらず、このつれづれ観察記の間隔が空いてしまうのが惜しまれ、4枚位の写真ならなんとか撮れるのではないかと舞岡公園へ向かった。やり始めたこのつれづれ観察記は、少なくとも今年一杯は何があっても完結しようと考えているのである。家を出るとすぐに車のフロントガラスに雨が落ちて来た。それでも何とかなるのではないかと車を走らせた。舞岡公園に到着すると、雨が小雨になって止みそうである。しかし、空を見ると天気予報の通りに何でもありの天気が予想された。そこで雨が降って来てもすぐに屋根の下に避難できる瓜久保で、今日一日を過ごそうと撮影機材を整えて歩いて行った。すると瓜久保の家のすぐ傍のコナラの大木の途中から大きなキノコ(写真上左)が生えている。富士山麓や奥秩父等へ行けば数多く見られるのだろうが、里山では生木から生えるものは稀なである。生憎、超広角レンズを修理に出していて、梢まで取り入れた迫力ある写真は無理とはなったが、標準レンズで素直に撮影した。
 河童池に行ってみると、いつもキノコが生えている薄暗い場所には、カレバキツネタケとシロソウメンタケが一杯だ。また、舞岡公園で初めて見る傘の赤いイグチの仲間や冬虫夏草のツクツクボウシタケ、ナガイモのむかごのような格好のショウロの仲間も見られた。何だか今日はキノコの観察及び写真ばかりになってしまいそうな嫌な予感がする。これは困ったな、これからは何処へ行ってもキノコがたくさん見られるようになるから、今後もこのつれづれ観察記に度々登場することだろう。やはり舞岡公園では他のものを撮影したいと、青紫に色づいたコムラサキの実にカメラを向けるのだが、デジタル一眼レフでは、美しい輝くような青紫色が出ない。前回も小山田緑地で硫黄色のニガグリタケを撮影したが、硫黄色が黄土色となってしまって、不本意な結果となってしまった。行きつけの写真店の奥さんが「フィルムは長い年月を経て完成されたものだから、良い色合いが出るに決まっているのよ」とおっしゃったが、その通りである。また、「いちばん高いデジタル一眼レフで、RAWで記録して加工すれば何とかなりますよ」と言うのだが、それはそれは大変な金食い虫の設備と熟練した画像処理技術が必要との事である。あーあ、これは今日はあぶれかなと思っていたら、瓜久保の家の方から鎌倉のNさんと舞岡のKさんがやって来た。
 そこでまたUターンをして河童池に戻ると、鎌倉のNさんが「あっ、いた」と言って目を輝かせる。「何がいたの?」と聞くと、「ほらほら、あそこ」と指を指す。どうやらとても会いたかったものに遭遇出来たために、興奮して種名が出て来ないようである。指差したヤマグワの葉の上に美しい蝶が止まっている。アカボシゴマダラである。去年もこの観察記に書いた筈だが、日本では奄美大島にしか生息しないアカボシゴマダラが、藤沢市に住む蝶愛好家の手によって中国大陸産のものが何かの具合で野に放たれ、舞岡公園に居ついてしまったのである。図鑑を開いて見ると、アカボシゴマダラは日本では奄美大島、国外では済州島、朝鮮半島、南満州、中国全土、台湾に産し、幼虫の食樹はリュウキュウエノキであると書かれている。リュウキュウエノキをこれまた図鑑を開いて調べて見ると、別名をクワノハエノキと呼び、葉がクワやヒメコウゾに似ている。舞岡公園のアカボシゴマダラはたいがいヤマグワ、クワ、ヒメコウゾの葉に静止してテリトリーを張ってる事が多いのを不思議に思っていたが、どうやら幼虫の食樹はエノキである筈だが、これらの葉の形が懐かしく、また葉の表面に微毛が生えていて止まりやすいからなのだろう。なにやら遠い異郷の地においても故郷が忘れないようで、ぐっと胸に迫るものを感じた。
 今日のアカボシゴマダラはとても落ち着いていて、後からやって来た洋光台のAさんも入れて合計4の人間がわいわいがやがやとやっていても、逃げようともしない。しかも、最初は葉に隠れていて複眼や触覚が見えなかったが次第に向きを変え、写真のような端正なポーズをとってくれた。しかし、カメラに着けている90mmのマクロレンズでは大きく撮れない。そこで思う存分撮り終わったかは定かでないが、ことによったら無理やり舞岡のKさんに300mmまであるズームレンズを貸して頂いて、大きく撮影することが出来た。最初に見つけた1頭のアカボシゴマダラにばかりに注意が集中していて気づかなかったが、やや日陰の葉の上にも少々破損しているが、もう1頭アカボシゴマダラが止まっている。こんなに美しい2頭をそれこそ至近距離で観察し撮影出来たのだから、先日、アカボシゴマダラに会いに来たが会えなかった新百合ヶ丘のA さんに電話をした。この落ち着き払った状態を見ると、Aさんが来るまでずっとその場にいてくれてるように感じたからだ。また、洋光台のAさんによると他所でももう1頭見ていると言うので、今日はアカボシゴマダラ発生の盛期とも思われたのだ。しかし、撮影が無事終了すると、まるでバケツの水を引っくり返したような雨が降って来て、瓜久保の家に逃げ込んだ。ちょうど昼食の時間となったが、車の中に置いて来た弁当を雨が止むまで取りに行けない。しかし、楽しい雑談をしばししているとやがて雨は止んだ。そこで弁当を車に取りに行ったが、途中、コナラの大木に生えていた大きなキノコを目を向けると跡形も無く地面に落ちているではないか。それ程までについさっきまでの雨は凄まじかったのだ。
 食事が終わる頃、新百合ヶ丘のA さんがやって来た。町田市の野津田公園でキリギリスとご対面中の所に電話したのだから、想像していた以上に早く着いたのには驚いた。きっと、アカボシゴマダラに会いたい一心で飛ばして来たのだろう。早速、案内すると幸いな事にアカボシゴマダラはまだいてくれたが、さっきの豪雨の為に静止している場所が変わっていた。一応、証拠写真は撮れたと思うが、ヒカゲチョウがやって来て追い払ってしまったと言う事だから充分に満足行く写真は撮れていないと思われる。そこでみんなして古谷戸の里に向かって、「アカボシゴマダラやーい」と目を光らせながら歩いて行った。もちろんアカボシゴマダラを見つける事は出来たのだが、落ち着きの無い個体で、ムクゲの花に止まって羽を広げたのものの、すぐに飛んで行ってしまった。その飛び方はアサギマダラのようにあまり羽ばたかずに滑空すると言う優雅なもので、うっとりと見入ってしまった。結局、また瓜久保に戻ったのだが、アカボシゴマダラはいなかった。時計を見るともう帰る時間である。Aさんはまた引き返して探索すると言う。
 以上、今日はアカボシゴマダラ一辺倒の観察及び写真撮影となってしまったが、冒頭に記した天候でもアカボシゴマダラという美蝶に出会えて、とても満足した一日となった。これだから「止められない止まらないカッパエビセンではなくて、止められない止まらない道端自然観察」と言う訳なのである。

<今日観察出来たもの>花/ツルマメ、ナンバンギセル、ツリガネニンジン、ガガイモ、クサギ、キツネノマゴ、ヌスビトハギ等。蝶/アサギマダラ、ナガサキアゲハ、モンキアゲハ、カラスアゲハ、アゲハ、アオスジアゲハ、キタテハ、アカボシゴマダラ(写真下左)、ルリタテハ、ツマグロヒョウモン、イチモンジチョウ、クロコノマチョウ、ヒカゲチョウ、サトキマダラヒカゲ、ヒメウラナミジャノメ、ウラギンシジミ、キマダラセセリ、イチモンジセセリ、チャバネセセリ、ダイミョウセセリ等。昆虫/オニヤンマ、ギンヤンマ、コシアキトンボ、ショウジョウトンボ、オオシオカラトンボ、シオカラトンボ、アジアイトトンボ、トラフカミキリ、オジロアシナガゾウムシ、アカスジキンカメムシ、チャバネアオカメムシ、イナゴ、クルマバッタモドキ等。キノコ/カワラタケ(写真上右)、ツノマタタケ、カレバキツネタケ、シロソウメンタケ、ツクツクボウシタケ、ベニタケの仲間、イグチの仲間、ショウロの仲間等。その他/ミスジマイマイ(写真下右)、コナミギセル、カワセミ等。


9月4日、神奈川県川崎市麻生区黒川〜都立小山田緑地

 今日は雨の予報だったが、一日曇り日となった。先週末の天気予報では土曜、日曜は雨とあったが、もしそうなったら2週連続となって、土曜、日曜にしか休めない方は天を見上げて神様を恨んだ事だろう。しかし、その予報は見事に外れて、今日は風もほとんど無く散策および写真撮影には絶好の日和となった。しかも、ようやくフィールドも初秋の様相を呈して来たから、見るもの撮るものが一杯で、久しぶりに数え切れない程のシャッターを切った。今日は田んぼに咲く花を撮ろうと午前中は黒川へ行った。オモダカ、コナギ、出来ればミズオオバコもと期待した訳である。これらの田んぼの花は、ミズオオバコを除いて何処にもたくさんあるのだが、いざ撮影するとなると絵になるものを探し出すのが大変なのだ。例えば、舞岡公園等の市民ボランティアの耕す田んぼは、田の草取りが徹底していて、オモダカ、コナギ等はきれいさっぱり刈り取られ、おまけにスズメ除けのネットが張られているから、あったとしても撮影が出来ない。こう言った意味では適度の管理がなされている農家の田んぼが一番だ。とは言っても稲はまだ刈り取られていないから、畦の付近に咲いているものしか撮影出来ない。そんな訳で黒川を選んだのは、去年放棄された休耕田にたくさんのオモダカやコナギが咲いているから、長靴ならかなり自由に中に入って行けるのである。コナギはミズアオイ科の植物で、お仲間にはミズアオイ、ホテイアオイが有名で、コナギは葉柄が膨らんで空気を溜めて水面に浮かんでいるホテイアオイのこの浮袋が無くなって、この為、水面に浮かべずに泥に根を下ろしたものだと想像すれば、すぐにイメージが湧いて来る事だろう。
 コナギを無事撮影すると次はオモダカとなる筈だったが、雑木林に沿った小道の下草や雑木林の中がとっても面白いものばかりだったので忘れてしまった。雑木林に沿った小道には、花ではヒヨドリバナ、キクイモ、ユウガギク、ノハラアザミ、ツリガネニンジン、キツネノマゴ、タカサブロウ、ゲンノショウコ、ヤマハギ、ヌスビトハギ、クズ、ワレモコウ、キンミズヒキ、センニンソウ、ミゾソバ、ミズヒキ等が撮って下さいとばかりに美しく咲き、昆虫ではルリタテハ、ヤマトシジミ、イチモンジセセリ、ヤマトフキバッタ、ハネナガイナゴ、マユタテアカネ、オジロアシナガゾウムシ、エサキモンキツノカメムシ等がポーズをとり、雑木林の中に入るとマントカラカサタケ、ニガグリタケ等が生えていると言った状況であるのだ。また、各種の花木が植えられている畑のムクゲの花を見ると、花芯にアマガエルが鎮座していた。以前、真田町でやはり田んぼの脇のムクゲの花に鎮座しいるものを観察しているが、どのようにしてアマガエルがムクゲの花の中心にまで辿り着くのだろうかと考えると不思議である。幹を登り小枝を伝わり葉っぱまでは行けるだろうが、咲いている花の中にどのようにして入り込むのだろう。まさか薄い花弁を這ってとは考えにくく、花の中目指して飛び込むと言うのも合点が行かない。それともう一つ不思議なのは花の中で何をするつもりなのだろうか。蜜を吸いに来たのだろうか、花粉を食べに来たのだろうか、それとも花にやって来る昆虫を待っているのだろうかと不思議でならない。
 午後からは前回横浜キノコの森に行った時も、今日、黒川の雑木林に入ってもたくさんのキノコが見られたので、小山田緑地のキノコ巡りに決めた。いつもたくさん生えている小山田の谷には、それ程多くのキノコは無かったが、緑色のベニタケの仲間を発見した。これは何だ、アイタケかな?と思ったが、傘の上に大小の皮の破片が残っていない。これは初めて見るキノコかな!と頑張って撮ったが、家に帰って図鑑を見ると、どうもカワリハツの緑色型のようでがっかりした。そう言えば付近に赤褐色のものが生えていたなと思い出す。池の反対側のじめじめした日陰の場所に行ってみると、地面から白い珊瑚のような形の小さなキノコが生えている。寺家ふるさと村の冬虫夏草博士のNさんが言っていたツクツクボウシタケかもしれないとカメラの中に納めたが、これはずばり正解だったようである。主にツクツクボウシの幼虫に寄生する冬虫夏草で、生きてる幼虫に取り付いて、その栄養分を吸収して成長すると言う訳である。まさか私が地味な冬虫夏草を撮影するとは今まで金輪際思わなかったのだが、変梃りんなお友達を持った為に、これでオサムシタケ、カメムシタケに次いで3種類目となってしまった。こうなったら合計10種類位は見つけてやろうと心に決めた。小山田緑地のもう一つのキノコがたくさん生えるシラカシの林へ行ってみると、ゲンコツパンがたくさん転がっているようにノウタケが生えていた。以前撮影して皆に好評の人間のお尻に見えるものはないかと探してみたが、今日は丸っこいものばかりであった。その他、数種類のキノコが生えていたが、まさか浅間山が噴火したから硫黄色のニガグリタケが生えた訳ではなかろうが、切り株の周りにびしっと生えていて、遠くからでもすぐ分かる黄色の塊となっていた。
 久しぶりに管理事務所へ行ってみようと、オオムラサキの森を過ぎ、クワの古木にもういないだろうと思っていたトラフカミキリが静止していたのには驚いた。また、エコパッチと称して円形に刈り残されたススキの根元にナンバンギセルが生えていたので嬉しくなった。管理事務所に行くとガードマンで自然が大好きなKさんはいないかと訪ねて行くと退職したという。小山田緑地へ来る楽しみが一つ減ってしまった。また、7月にタマムシとルリボシカミキリがたくさん見られた丸太置き場への入口にゲートが作られたので、管理事務所のおばちゃんに聞くと、「若者が材木屋さんの敷地に入って来て、火事でも起こされたら大変だからとゲートを造ったと言う事よ」と話してくれた。まさか私を含めた昆虫大好き人間が、たくさんつめかけてウロウロしたから、それに見かねて造ったのではないかなと思っていたので、そうでは無い事を知ってほっとした。いづれにしてももう丸太置き場へは入れない訳だから、「何処かに丸太を積んでね」と冗談交じりでおばちゃんに要望したが、まあその要望が叶えられる事は無いであろう。管理事務所からの帰り道、石畳みの道から小山田の谷近くに、ゴイシジミが飛んでいた。今日は黒川でも見ているし、前回の平塚市土屋でも見ているので、今はゴイシシジミの発生期のようである。是非見たいと言っていたつくし野のTさんも何処かできっと見られる事だろう。駐車場に着くと雲が厚くなって雨が降りそうになって来た。今日は雨の降り出しが遅れたようで、本当に楽しい初秋の道端自然観察が思う存分に楽しめて、とてもラッキーな一日であった。

<今日観察出来たもの>花/ヒヨドリバナ、キクイモ、ユウガギク、ノハラアザミ、ツリガネニンジン、キツネノマゴ、タカサブロウ、ゲンノショウコ、ヤマハギ、ヌスビトハギ、クズ(写真上左)、ワレモコウ、キンミズヒキ、センニンソウ、ミゾソバ、ミズヒキ、オモダカ、コナギ(写真下右)、ツルボ、タマアジサイ、ヤブラン、ヘクソカズラ、クマヤナギ、等。蝶/アゲハ、ルリタテハ、ゴイシジミ、ヤマトシジミ、ウラギンシジミ、ムラサキシジミ、キマダラセセリ、ダイミョウセセリ、イチモンジセセリ等。昆虫/ベッコウハゴロモ、オニヤンマ、ギンヤンマ、シオカラトンボ、マユタテアカネ、オジロアシナガゾウムシ、キマワリ、クロウリハムシ、オンブバツタ、ショウリョウバッタ、ハネナガイナゴ、ヤマトフキバッタ、エサキモンキツノカメムシ等。キノコ/ノウタケ、カワリハツ、マントカラカサタケ、ニガグリタケ(写真下左)、ツクツクボウシタケ等。その他/アマガエル(写真上右)等。


9月2日、神奈川県平塚市土屋〜秦野市権現山

 昨晩、浅間山が噴火した。夏休みの10日間を嬬恋村で過ごしたのだから心配である。今のところお借りした親戚の山の家には被害は無いと言うことだが、嬬恋村のキャベツ畑にも火山灰が落ちて来て、もうキャベツは出荷出来ないと農家の方々が途方にくれていた。今月末にベニテングタケを探しに、もう一度、嬬恋村に行こうと考えていたが、週末未亡人が反対しているので中止となろう。週末未亡人が本物の未亡人となるのは、まだちと早すぎるのである。今日は久しぶりに野鳥を撮りたくなった。前回、秦野市の権現山の野鳥観察施設に行った時に、8月下旬になると幼鳥だがオオルリが見られると聞いていたので、是非とも観察し、出来れば撮影したいと思っていたのである。しかし、このつれづれ観察記を彩る写真4枚すべてを野鳥でとなると自信が無いので、午前中はこれまた久しぶりになる平塚市土屋へ行った。それに去年の今頃、ツルニンジンとアゲハモドキを撮影していたので、今年もまたと考えた訳である。ツルニンジンは多摩丘陵でも見られるのだが、いざ美しく撮影するとなるととても難しい蔓性の野の花なのである。久しぶりだがあの道この道何処へ通ずる道と慣れ親しんだ平塚市土屋だから、午前中の短時間だからと日陰になる道端を選んで散策した。まずは去年ツルニンジンを撮影した場所へと、以前、迷蝶のアオタテハモドキに遭遇した農道を通って行ったが、残念ながらツルニンジンの姿は無かった。
 そこで県道を渡って芳盛寺横の谷戸へ行った。途中、座禅川を渡るが、橋の上から川底を覗いて見ると、亀が甲羅干しをし、小魚が気持ちよく泳いでいる。芳盛寺境内には様々な石仏があったが、どれが年代的に古いものかも分からず撮影はしなかった。境内の庭横にはヒャクニチソウがたくさん咲いていて、秋の蝶であるイチモンジセセリが一杯だった。昨日、小野路町でつくし野のTさんがツタを熱心に撮影していたので、大きなケヤキの幹に絡まるツタに目が行った。すると緑の葉に絵描き虫の仕業である奇妙な絵が沢山描かれている。絵描き虫とはハムグリバエないしハムグリガの幼虫の事で、葉肉と表皮の間に入り込んで、その肉を食べるので、その結果、ナメクジが這い回ったような跡が出来るのである。その幼虫も成虫もまだ見た事が無いが、とても面白い習性の持ち主である。まさに、生存出来る所なら何処へでも進出した昆虫ならではの素晴らしさだ。多摩丘陵などでは主にナワシロイチゴの葉にその絵をよく見るのだが、ツタにもあったので思わず撮影してしまった。
 境内を下って裏手の日陰の道をどん詰まりまで歩いて行くと、期待していたアゲハモドキが下草に止まっていた。絵としては邪魔なアズマネザサの枯れたものがあったが、それをどけようとしたらアゲハモドキは逃げてしまう恐れがあるので、素直に切り取って撮影し、次にその邪魔物を取除こうとしたら、案の定、飛び立って梢の高みに飛んで行ってしまった。アゲハモドキは有毒物質を体内に取り込んだジャコウアゲハの雄に擬態していて、小鳥も敬遠するからいつもべたーっと羽を広げて優雅に止まっている。しかし、驚かしたら飛んで逃げて行くのは当たり前の事なのである。次に出くわしたのはゴイシシジミだ。これも昨日のつくし野のTさんが、会ってみたいとその居場所を尋ねられた蝶である。ゴイシシジミはオオムラサキと対極にあるような極小の弱々しいシジミチョウで、しかし、その幼虫は主にアズマネザサ等の葉裏につくタケノアブラムシやササコナフキツノアブラムシの幼虫を食べる肉食性で、成虫はその分泌物を食べると言う変わり者である。今年は舞岡公園で一度出会っているだけで、他では出くわしていない。たくさんアズマネザサが生えている所はあるものの、このアブラムシがついていなければ生息出来ないと言う訳である。この為、葉裏が真っ白になったアブラムシのコロニーを探しておくのが先決と言う事になる。この他、クロコノマチョウがたくさんいたが、絵になる場所にはなかなか止まらず、この次の撮影課題とした。
 午後からは秦野市の権現山へ行った。なんだか前述したように無性に野鳥を撮影したくなったのである。野鳥撮影は植物やキノコ、じっとしている昆虫等の撮影とは異なって、一種独特の緊張感溢れる瞬時の対応が求められる。それは一度経験したらまた味わいたくなるしろものなのである。野鳥が来るまでじっと待ち、来たらレンズをすぐその方向に向け、構図を整え、ピントを合わせて撮影する。しかも、野鳥達はきょろきょろと様々な方向に顔を向けるので、一番風情溢れる瞬間が撮影出来た時は、実に爽快なのである。今日は野鳥観察施設に到着するとかなりの方が来ていたが、観察窓は開いていて、重たい三脚に撮影機材を載せて用意が整うと、先客の方に、「オオルリが8月下旬頃から見られると聞いたんですが来ましたか」と質問した。すると「雌は今日来たけど、雄はこのところ来てないと言う事ですよ」と言う。「しかし、キビタキやセンダイムシクイがやって来たから、とても楽しいですよ」と笑顔で教えてくれた。しかし、待てども待てどもメジロ君ばかりがやって来る。しばらくすると可愛らしいヤマガラ、今年生まれたものだろうと思われる身体が貧弱なヒヨドリ、色合いが劣るやはり今年生まれのシジュウカラばかりだ。先客は「お先に」と言って帰って行く。なんとなく今日はあぶれ、観察記に載せる写真はメジロ君だなぁーと思っていると、ようやく目が覚めるような橙色の胸元のキビタキがやって来た。少し遠い所に止まったが、ズームレンズを最長にすると何とか様になる。しかもかなり長時間、枝に留まってくれたので、ベストショットとは行かないものの、何回もシャッターを切る事が出来た。その後、雲りとなってシャッター速度が極端に遅くなり、やむなく早上がりとなったものの、久しぶりの野鳥撮影は実に楽しかった。今後、秋が深まるにつれヒタキ類がたくさんやって来ると言うので、権現山へは定期的に通って、野鳥撮影の醍醐味を大いに味わおうと帰路に着いた。

<今日観察出来たもの>花/タマアジサイ、ツルボ、アキノタムラソウ、ウド、ヌスビトハギ、オモダカ、ツリガネニンジン、ワレモコウ、キツネノマゴ、ヤブミョウガ、ヤブラン、キクイモ、ヘクソカズラ等。蝶/ナガサキアゲハ、ジャコウアゲハ、アゲハ、アカタテハ、ツマグロヒョウモン、クロコノマチョウ、ヒメウラナミジャノメ、ゴイシシジミ(写真下右)、ムラサキシジミ、ダイミョウセセリ、イチモンジセセリ等。昆虫/アゲハモドキ(写真上右)、オオシオカラトンボ、トノサマバッタ、オンブバツタ、ショウリョウバッタ、イナゴ、ヤマトフキバッタ等。鳥/キビタキ(写真下左)、シジュウカラ、ヤマガラ、メジロ、ヒヨドリ、メボソムシクイ、オオルリの雌(午前中から来ていた人が観察)、センダイムシクイ(午前中から来ていた人が観察)等。その他/ツタの絵描き虫の痕跡(写真上左)、オニグモ、ナガコガネグモ等。


9月1日、東京都町田市小野路町・図師町

 いよいよ9月、道端自然観察及び写真撮影も秋のシーズンに入った訳で、様々な動植物キノコが顔を出す。澄んだ青空を渡る様々な形の雲を眺め、生命の鼓動や風のささやきに耳を傾けながら散策するのはとても楽しい。そんな小さな秋を見つけるのには、小野路町・図師町の里山を一人さ迷い歩くのが一番である。特に秋は、何か目的のものを探し出しに行くのでは無く、里山に流れる交響曲に静に耳を傾けて欲しいと思う。そのついでに様々な動植物キノコに巡り会えたら儲けものと考えたい。そんな面持ちで9月に入っての初回の散策となったものの、台風16号の置き土産、台風一過の晴天で、しかも湿度も異常に高い天候となってしまった。いつも車を停める道端には、相変わらずオオブタクサの茎にベッコウハゴロモ、スケバハゴロモが吸汁している。花ではキクイモがたくさん咲き、ヌスビトハギ等のハギ類、トキリマメ等のマメ類、ミズヒキ等のタデ類も咲いている。日向ではもう咲き終わっているはずのウドも、日陰だから蕾が伸びて来ている状況で、この花穂を天ぷらにしたら美味しいんだよな等と呟きながら撮影していると、植物通の多摩市のYさんがやって来た。 「オオヒナノウスツボが咲いてますよ」と言う。そう言われても何処かはるか遠くの外国語を聞いているみたいで解読不能、イメージすら湧いて来ない。とにかく私など足元にもおよばない植物通のYさんの頭脳の中には、私が知っている種名の数倍の植物名が詰まっているのである。言うなれば歩く植物図鑑と言う訳で、見るのが一番と案内して貰った。すると人間の背丈程の高さの天辺に複数の花が咲く花穂があって、チョコレート色の小さな花が咲いていた。こんな花には16年間にも及ぶ道端自然観察をしているはずなのだが遭遇していない。それほど珍しいものではないらしいが、今まで気づかなかったと言う訳である。
 ハンドル名を“花虫とおる”と名のっているが、この小野路町、図師町に出没している町田市のOさんは、私など一種類として名を知らない日本の昆虫界でも約1500種類の大所帯である甲虫の仲間であるハネカクシ類の多くを知っている。そんな訳で“花虫とおる”の虫もなにやらとても怪しいのだ。だから、“ミーハー花虫とおる”とでも改名しなくてはならないのだが、いつかはクラウンではないが、いつかは“花虫とおる”と言う事でこの場は逃げておこう。そんな訳で植物通の多摩市のYさんの博学には頭が下がったものの、いつかは“花虫とおる”としょげていた心を立て直すと、五反田谷戸目指して雑木林の小道に入った。するとたくさんのヤマホトトギスが咲いている。花期が早く、花弁は白色の地に濃い紫の油滴状の斑点があり、しかも反り返っているからすぐ分かる。多摩丘陵には、遅れて咲くホトトギスがもう一つあるだけだから間違えっこない。6月、7月に行った山梨県北巨摩郡白州町中山峠にはヤマジノホトトギスがたくさんある。図鑑を見るとヤマジノホトトギスは山地性と書かれている。また、図鑑にはホトトギスの仲間として他に一種、タマガワホトトギスが紹介されていて計4種類になるのだが、タマガワホトトギスは今夏に甘利山で観察し撮影しているから、ひょっとしたらホトトギスの仲間は全種制覇したのかもしれない。こう言った目だった花ならかなり知っているのだから、“ミーハー花虫とおる”と言うハンドルネームはずばり的を突いているようである。しかも、蛇と蒟蒻を抜かして何でも屋さんでもあるのだから、“コンビニエンスストアー里山とおる”が最適な訳である。コンビにって日頃必要なものは何でも置いてあるんですよね。
 さてと冗談はさておき、雑木林の小道を上がって行き、Tさん宅の前を通ると、斜面ににょきにょきとヒガンバナの花穂が伸びている。毎年、Tさん宅が一番早くヒガンバナが咲く。五反田谷戸に下って行く小道は、子供が遊び散らかしたかのように台風による大風で、小枝や葉が散乱している。以前にもっと凄い惨状を目にしているので、それ程の風は吹かなかったようである。このところ雨が続いたので横浜キノコの森と同様に、キノコを期待してキノコ尾根を降りて行ったがキノコはほとんど発生していなかった。しかし、キノコのように微動だにせず真剣に枯れ木に這うキヅタを撮影しているご婦人に出会った。見るとつくし野のTさんである。5月30日にサクラの老木下で全員集合して以来の久しぶりである。その間、オオムラサキに会いたくて、極暑の中を死ぬ思いをして小山田緑地に3回も通ったり、遠く山梨県長坂町のオオムラサキ自然公園まで遠征したのだと言う。「会えたんですか?」と聞くと、「オオムラサキ自然公園でたくさん会えました。オオムラサキは蝶の中でも別格で、蝶と言うより別な生き物って感じがしますね。羽ばたくとバタバタと羽音がし、滑空も見事ですね」と、ずばりオオムラサキの雄大さ力強さの核心を突いて言う。「蝶と言うと繊細と言うイメージがありますけど、オオムラサキは別物ですね」と言う訳である。
 そんなTさんが是非ミズオオバコを見たいと言うので、五反田谷戸へ降りて行った。谷戸田の稲は台風の影響をほとんど受けていず、そろそろ実り始めて頭を垂らしている。もう咲いているだろうと思っていた芝地の斜面のツルボは咲き始めたばかりで、見頃は今週日曜日以降となりそうだ。びっしりと敷き詰められたようにピンク一色に咲くツルボの群落は、棚田の緑を背景にしてとても美しく一見の価値がある。きっと来週は、多くの花好きのご婦人が夢心地でさ迷い歩くに違いない。出来れば舞岡公園に集うご婦人達を案内してあげたいものだが、みんな忙しくってそれどころではなかろう。いくらか水温が下がったのか溜池にはトウキヨウダルマガエルが顔を出し、休耕田には相変わらずハンミョウがたくさんいて、あぜ道を歩くとハネナガイナゴ、クルマバツタ、ショウリョウバッタが飛び出して来る。果たしてまだ咲いているだろうかと心配したが、ミズオオバコは小振りながら咲いていた。ただ、棚田の水落しが始まっているのか、花が水面上に顔を出していなかったのが残念であった。 用事があるTさんを見送ってからしばらく各所を歩いてみたものの、今日はとても暑く湿気もあって、少し歩くと草臥れて来て水を飲むと言った按配で、自然観察及び写真撮影のやる気が失せてしまった。やはり9月に入ったとは言え季節の端境期で、車に戻ると日陰の道端をひとしきり観察しての早上がりとなってしまった。

<今日観察出来たもの>花/オオヒナノウスツボ、ヤマホトトギス(写真下左)、ウド、トキリマメ、ヌスビトハギ、ミズオオバコ、オモダカ、ツリガネニンジン、ワレモコウ、ツルボ、キツネノマゴ、タマアジサイ、ヤブミョウガ、ヤブラン、キクイモ、クサギ、ヘクソカズラ、クマヤナギ、シュウカイドウ(写真上左)等。蝶/ヒメウラナミジャノメ、ムラサキシジミ、キマダラセセリ、ダイミョウセセリ、イチモンジセセリ等。昆虫/ヒメスズメバチ、スケバハゴロモ、ベッコウハゴロモ、アブラゼミ、ツクツクボウシ、オニヤンマ、ギンヤンマ、オオシオカラトンボ、シオカラトンボ、マユタテアカネ、ハンミョウ、オジロアシナガゾウムシ、クルマバッタ、オンブバツタ、ショウリョウバッタ、イナゴ、ヤマトフキバッタ等。キノコ/シロテングタケ、ドクツルタケ、ヒイロベニヒダタケ、ナラタケモドキ、コムラサキシメジ、キツネノハナガサ等。その他/ウドの蕾(写真下右)、サンショウの実(写真上右)等。



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