2005年:つれづれ観察記
(4月)


4月29日、東京都町田市小野路町・図師町

 今日から人によっては連休に入ったのかもしれないが、私は暦通りに5月1日から休みに入る。ずっと多摩丘陵巡りで連休を費やした方が得るものが多いと思われるが、あいも変わらず新潟県へ行こうと思っている。そうなると多摩丘陵とは約1週間のお別れだ。毎年この時期は遠出してばかりいるので、すっぽりと多摩丘陵での自然観察及び写真撮影が抜けてしまうのは残念だが、仕事を持っていると連休は遠出の数少ないチャンスなのである。そんな訳で、この時期ならではの見逃せないもののみを撮影しようと家を出た。まず最初に梅林に生えると言うハルシメジを見つけに行った。私はキノコ屋さんではないし、また、キノコを食べる訳ではないが、まだ発生の少ないこの時期の見逃せないキノコとしてハルシメジは有名なので、一応観察しておこうと思ったのである。目指す梅林へ行くと、こんなにたくさん生えているのかと驚く程多く見られた。全部収穫したらバケツに2杯分位になるだろう。とは言っても梅林の梅の木のすべての下に生えているのではなく、隣接する2本の木の下に密生して生えていた。どうやらハルシメジの好きな微細な環境があるようだ。
 予期していたように梅の木の下は下草がたくさん伸びている。この状態でそのまま撮影したら図鑑的な写真としては良いのかもしれないが、私としてはあまり写欲を誘うものにならない。しかし、あちこち探してみると下草がほとんどなく、ほんの少し下草を除くとすっきりする場所に生えているものを見つけた。それもラッキーな事に、さまざまに傘の形が変形したハルシメジの中でもとても形が良い。カメラを向けると今日もまたピーカンだから、地面は太陽光線と梢が作る斑模様で一杯だ。そこで秘密兵器としてユニクロで買った安価な折りたたみ傘を取り出した。この傘を開いて太陽光線を遮ると、まるで曇り空の下に生えているハルシメジのように変身する。傘の色はねずみ色であるが、いったいどの様な色の傘がもっとも自然な感じに被写体が写るのかは試験中である。以前は乳白色の傘を使っていたが、私のイメージ通りの写真が撮れなかった。被写体に傘の色が投影してしまっては困るので、赤や青等の派手な色ではなく、おそらく白から黒までの間の中間の色が一番無難だと思っているのだがどうなのだろう。
 ハルシメジを撮影するとギンランにまた再挑戦した。出来ればササバギンランをもと欲張ったのだが、こちらは少し花期が遅く、白い蕾が膨らんで来たばかりという状況であった。遠征から帰って来た時にはもう咲き終わっているかもしれない。今日は正午に五反田谷戸のヤマザクラの古木の下で、お仲間が何人か集まって弁当を食べることになっていたので、後、チゴユリを撮りたいと群生地を回ったが、こちらの方はすっかり花を散らしていた。五反田谷戸は24日に来た時とさほど変化は無いものの、ヤマザクラの下のフタリシズカは成長し、ニワゼキショウは花を増やし、タツナミソウが咲き始めていた。たくさん咲いていたムラサキサギゴケ、レンゲソウ、コケリンドウ等は盛期が過ぎたようである。すでに谷戸田は水が張られている所もあって、カエルの大合唱が聞こえて来て、その場にいるだけでもとても幸福な気分になれる。蛇だけはごめんこうむりたいが、野の花以外にも谷戸の生物は多様で、細い小川を見るとホトケドジョウが砂煙を上げて逃げ、休耕田にはハンミョウはもちろんのこと、ヒシバッタやハネナガヒシバッタがいて、美しいルリタテハやキアゲハが飛んで来いた。
 今日はいつもとは異なって中古で買ったシグマの24mm広角レンズを使って、背景を広く取り入れた描写となる広角接写を試みた。なにしろこのレンズは18cmまで近づけると言うすぐれもののレンズなのだ。このレンズで緑したたる新緑の雑木林、抜けるような青空をバックにして野の花をとらえると、いつものワンパターンの中望遠マクロレンズとは趣の異なった写真が撮れる。今日は蕾、花、綿毛と3点揃ったカントウタンポポや、あぜ道に咲くジシバリを撮影した。正午になると私も入れて6人ものお仲間が集まった。当初の予定ではヤマザクラ横の小高くなった芝地で食事を摂るつもりでいたが、太陽光線があまりにも強いために日陰を選んだ。どんなことを話し合ったかは忘れてしまったが、今後ともまた季節を追って集まりましょうという事になったような気がする。カエルの大合唱が聞こえ、野の花が咲き乱れる棚田を見下ろし、目の前の雑木林に早くも開いたホウノキの花を見やりながらの食事は、おそらく何物にも代えがたい、谷戸の命と一体化したような、安らかで楽しい一時となったのだから。

<今日観察出来たもの>花/ホウノキ、キリ、フジ、ヤマツヅジ、ミズキ、タツナミソウ、ニワゼキショウ、ニリンソウ、ツボスミレ、スミレ、ハルジオン、カラスノエンドウ、スイバ、キツネアザミ、ノアザミ、レンゲソウ、ケキツネノボタン、ジシバリ(写真上右)、カントウタンポポ(写真上左)、ムラサキザゴケ、トキワハゼ、ヘビイチゴ、オヘビイチゴ、スズメノテッポウ、キンラン、ギンラン(写真下左)、ササバギンラン、ホウチャクソウ、アマドコロ、ヒメハギ、コケリンドウ等。蝶/キアゲハ、カラスアゲハ、ルリタテハ、コミスジ、コジャノメ、ヒメウラナミジャノメ、ベニシジミ、ヤマトシジミ、モンキチョウ、キチョウ、ダイミョウセセリ、コチャバネセセリ等。昆虫/シオヤトンボ、ハンミョウ、クロボシツツハムシ、ヒシバッタ、ハネナガヒシバツタ、ツノアリ等。キノコ/ハルシメジ(写真下右)等。


4月26日、横浜市戸塚区舞岡公園

 今年はテーマ等は一切無いフーテンのウィークエンド・ナチュラリストとして過ごすはずだったが、最近自分本来のライフワークに目覚めつつあるようである。それは動植物、キノコ、風景等、どんな分野でも専門家にはならないが、多摩丘陵に生息するものならかなり知っていて美しい写真も撮っている。出来うるならその内、“多摩丘陵道端自然観察観”なるものを始めて見ようと思い始めているのだ。今まで県外の多くの場所に行ったし、また、学生時代は信州に住んでいたが、やはり自分が生まれ育った所に比べると心がしっくりとは行かない。例えば夕暮れ時なんか、山里ではとても心寂しく感ずるのだが、多摩丘陵ではそうは感じないのである。おそらく空気までをも含めて、多摩丘陵には人の匂いが濃密に漂っているからだろう。
 先日、そんなライフワークを図師町の五反田谷戸で、相互リンクをしている“南大沢の自然”のSさんにちらりと話したら、それは良いことですねとの賛同を頂いた。私が描く多摩丘陵とは、境川と浅川と多摩川に囲まれて、せいぜい南下しても東海道新幹線が走っている辺りまでである。もっと端的に言うならば、鶴見川の中流より上流までの地域となる。そうなると舞岡公園は多摩丘陵ではなくなってしまうので、そう頻繁に通う必要は無くなってしまうのだが、平塚市土屋、弘法山等と同じように、それでも定期的に通うに値する魅力溢れるフィールドなのだ。
 今日は何と言っても木の花を撮影したかった。昨晩、このHPの掲示板でもお馴染みの森のきのこさんことKさんが、キリの花の美麗な写真を掲示板にご投稿下さったが、このキリとこれから咲くホウノキの花はなかなか撮影の難しい花なのである。なぜならとんでもなく高い所に咲くから、高くなった道路上や橋の上等から水平に撮影できる場所を見つけないと美しく撮れないのだ。しかし、舞岡公園には比較的低木のキリがあるから何とか撮影できると狙っていた。またミズキの花だが、ミズキは雑木林の主要樹種だから何処にでもあるのだが、均斉の取れた構図で格調高く撮影しようとなるとなかなか難しい花なのだ。次にカマツカの花だが、ご婦人達が大好きな可憐な白い花だが、これまた多摩丘陵で撮影するとなるとなかなか手ごわいのである。こんな木の花がたやすく撮影できる場所としても、舞岡公園は本当に貴重な場所である。
 前回行ったのが16日だから約10日間程間隔があいたわけだが、超スピードで変化する春の変貌は凄まじい程の勢いだ。雑木林はすっかり濃緑となり、河童池奥やオニグルミの林の奥等で各種の蝶が舞っている。モンキアゲハ、キアゲハ、アゲハ、アオスジアゲハ、ツマグロヒョウモン、コミスジ、スジグロシロチョウ、ツマキチョウ、キチョウ等の大物に加えて、ベニシジミ、ヤマトシジミがちらちら飛び、今が盛りのハルジオンには早くもダイミョウセセリ、ヒメウラナミジャノメが吸蜜に訪れていた。いづれまた蝶を本格的に撮るつもりでいるのだが、蝶の撮影は生半可な気持ちではなかなかうまく撮影できない。身軽な機材で“えいやぁー”と身体に活を入れ、もの凄い集中力と機敏さで対処しなければならないからだ。その点、動かない植物やキノコや風景等とはかなり異なる。蝶の撮影には若々しく健康な身体と充分な睡眠、どうしても撮りたいという蝶への愛情が必要なのである。
 蝶以外にも各種の昆虫が現れていて、火の見櫓脇にあるアジサイの植え込みに割り込んで生育するミズキの葉には、独特な格好の葉を巻いて作ったオトシブミの仲間の葉らん(子供たちの揺り籠兼食堂)がぶら下がっていた。これを作ったオトシブミはどんな種類だろうと成虫を探してみたのだが、残念ながら発見できなかったが、葉らんの形から、ヒメクロオトシブミではないかと想像される。また、ヌルデの古木の幹を丹念に調べてみると、なんとあの奇怪な格好のマダラアシゾウムシが、一本の木で3匹も見つかった。また、その隣のネムノキの立ち枯れの幹には、ホタルのような色合いから名づけられたホタルカミキリがたくさん発生していた。昨日、小野路町で出会った舞岡のKさんが、舞岡公園でシオヤトンボを見たことが無いと言っていたが、このHPの掲示板でもお馴染みの一人静さんこと鎌倉のOさんが、鎌倉中央公園で撮影したものをご投稿下さったので、舞岡公園にもいるはずだと探して見ると、個体数こそ少ないもの生息を確認した。
 目的のキリ、ミズキ、カマツカの花は撮影できたし、クサギカメムシ、マダラアシゾウムシ、ホタルカミキリ等の昆虫も撮ったし、お次はキノコとばかりに前回来た時に生えていたアミガサタケはどうなったかと見に行くと跡形も無く消え、桜の広場に行ってもみたものの、何一つキノコは生えていなかった。やはりアミガサタケは桜が散った頃が旬のようだ。
 そこで再び谷戸に下りて来ると、舞岡のファーブルこと一緒に石砂山へも行ったTさんに出会った。Tさんは私に出会うのが待ち遠しかったかのように、ギフチョウをはじめ先日行った西表島での蝶の写真をザックから取り出した。私は空振りに終わったギフチョウも新鮮な個体をしっかりと写していて、後ろ羽の尾状突起の根元付近にある赤、青、橙色の斑紋が非常に鮮やかで、これなら石砂山山頂直下の階段で汗をかいたはずなのに私と異なって風邪は引かなかったし、Tさんにとっては最高の石砂山であったに違いない。また、西表島では、シロオビアゲハ、イシガケチョウ、アオタテハモドキ、タイワンシロチョウ等を撮り、しかも複眼にばっちりピントが合い素晴らしい写真の数々であった。
 「こうなったら蝶の写真は止められませんね」と言うと、その通りというような笑みを浮かべて目を輝かしていた。「次はウスバシロチョウ、オオムラサキ、クジャクチョウ、キベリタテハに会いたい」と言う。私より一回り近く年齢が上だと思うが、こんな様々な蝶に会いたいという夢を持ち続ける限り、確実に健康で長生きすることだろう。たかが蝶、されど蝶、蝶に魅せられたTさん本当に万歳と、心の中で大声で賛意を送った。

<今日観察出来たもの>花/カマツカ、キリ(写真上右)、ミズキ(写真上左)、ヤマブキ、シロヤマブキ、シラン、ニワゼキショウ、アカツメクサ、レンゲソウ、ハルジオン、カラスノエンドウ、キツネアザミ、ケキツネノボタン、タガラシ、トキワハゼ、ホタルカズラ等。蝶/モンキアゲハ、キアゲハ、アゲハ、アオスジアゲハ、ツマグロヒョウモン、コミスジ、スジグロシロチョウ、ツマキチョウ、キチョウ、ヒメウラナミジャノメ、ベニシジミ、ヤマトシジミ、ダイミョウセセリ等。昆虫/シオヤトンボ、マダラアシゾウムシ(写真下左)、ホタルカミキリ(写真下右)、クサギカメムシ、チャバネアオカメムシ等。


4月25日、東京都町田市小野路町

 今日は残念ながら午前中家の用事があって、午後からの散策となってしまった。週末未亡人からエブリディ未亡人化する女房殿に、ダイコクコガネのような角が生えてしまったら大変である。この歳になって離婚でもされたら、目もあてられない男やもめの惨状が待っている。まあ、そんな理由からではなく、出来るだけ夫婦力合わせて、残りの人生を楽しく充実させて歩んで行こうと思っているのである。それでもこんなことになるのなら、昨日の観察記で、“明日は多摩丘陵にどっぷり浸かる第2日目として、美しい雑木林とキノコ尾根を中心に歩いてみよう”等と書かなければ良かったと後悔したが、約束は必ず守ると言う亡き母や祖母に何べんとも言われ続けて来た人間の掟をしっかり守って、小野路町へ行った。
 今日は午後から風が強くなると予報されていたがその通りで、しかも、昨日見つけておいたギンランが盗掘によって姿を消していた。ギンランが生えていた場所には、生々しい移植ゴテで掘った穴が開いている。どうやら10株程、午前中に盗掘にあったようである。ほぼ10cm位の高さしかない可愛らしいギンランを盗掘して心が痛まないのだろうか?等と、頭に血が上って怒りに身体が震えたが後の祭りである。おまけにギンランの傍らに生えていた形の良いホウチャクソウまで盗掘されていた。これではもう今日は駄目だなとすっかり観念してしまった。今日撮影してこの観察記に載せようと考えていたのは、キンラン、ギンラン、ホウチャクソウ、チゴユリである。その撮影しようと思っていたギンラン、ホウチャクソウが撮影できず、またこの風ではキノコ尾根のチゴユリも撮影できないだろうと思ったからだ。
 それなら風でも微動だにしないキノコでも撮影しようと思ったが、今出ているキノコは梅林のハルシメジ位である。野生キノコを採集して食べる趣味の方には大変食指の沸くキノコらしいが、形に特徴が無く、しかも梅林の下草の中に生えているから今一絵にならない。もうこうなったら新しいギンランの生えている場所を探そうと、あちこちに点在する下草管理がなされている雑木林をくまなく探してみたが、キンランはあるもののギンランにはお目にかかれない。しかし、雑木林に隣接する農家の庭に美しいエビネが花盛りである。見ると農家の方もいて作業服に書かれている文字を見ると、大変お世話になっているTさんたちのお仲間だ。そこで断ってエビネを撮らせてもらった。多摩丘陵の各所でも道無き藪を掻き分けて探せばエビネはあるらしいが、なにしろ道端自然観察しか脳の無い私には、エビネは遭遇しない高嶺の花なのである。
 農家の庭に咲き競うエビネは、黄、白、ビンク、黄褐色等様々の花色で花の形も微妙に異なる。そこでこれらのエビネは園芸品種ではないのと思って撮影していたのだが、後で野生のランに詳しい寺家ふるさと村のNさんに聞いて分かったのだが、エビネは個体によって花の形や色が様々に異なるらしい。そこで図鑑を開いてみると、花被片が紫褐色で唇弁がピンクのものはアカエビネ、花被片が黄褐色で唇弁が白色のものはダイダイエビネと言うように、各種の変種があると書かれている。私はなるべく野生種に近いと思われる地味な色合いのものしか撮って来なかったのだが、この記述を読んでなんだかすっかり損をしてしまったように感じた。でも言いや、また来年のこの時期にすっかり仲良くなった農家の方に撮らせて貰えば良いのだから。それより今まで間近に観察できなかったエビネが、こんなにも色とりどり形さまざまな美しい花である事が分かって、すっかりエビネファンになってしまった。園芸家の間でエビネがもてはやされている訳が、この歳になって初めて分かった。
 さてエビネという大物を撮影できたから後3枚何かを撮りたいと、その後も雑木林をうろうろするのだが、撮影するものはたくさんあっても風でシャッターを押せない。それならやはり梅林へ行ってハルシメジを探そうかなと車を停めた場所に降りて行くと、何処かで見た横浜ナンバーのカローラが停まっている。もしや舞岡のKさんではと、今日も来ているはずの快速五反田号さんことMさんに携帯電話をかけて見ると、「吉田さんを知っていて、つくし野のTさんを知っているご夫婦が先程五反田谷戸に来ましたよ」と言う。これは間違いなく舞岡のKさん夫妻だ。そこで失礼ながらも舞岡のKさんに携帯電話をかけて見ると、今、小野路城址にいると言う。「イチリンソウ、ニリンソウ、ギンラン、エビネは見ましたか」と聞くと、「キンランと農家の方にクマガイソウを見せてもらいましたが、まだ見ていません」と言う。そこで夫妻と合流して、またまた即席春の野の花観察会となってしまった。
 3人の目が加わるとこれは強力で、見つからなかったギンランもたやすく発見し、さらにキンラン、アマドコロを撮影して、なんとかエピネも加えて念願の写真4枚をゲットした。もちろんブレも無く美しく撮れていたかは定かではないが、もしそうなら、昨日撮った写真と今度来た時の写真とを合わせて4枚にしようと思った。なにしろ29日に快速五反田号さんことMさんも舞岡のKさんもつくし野のTさんも桜の古木の下にお昼に集まるということになったから、何かとお忙しい鎌倉宇宙人集団の面々や鎌倉のNさんは無理かもしれないが、仮称“五反田谷戸の桜の古木の下で弁当を食べる会”がとても楽しみとなった。どうかそれまでギンラン、キンラン、アマドコロ、ホウチャクソウ、チゴユリ等が無事に咲き続けて欲しいと祈って、小野路町を後にした。

<今日観察出来たもの>花/エビネ(写真上)、アマドコロ、ホウチャクソウ、イチリンソウ、ニリンソウ、ツボスミレ、マルバスミレ、スミレ、ハルジオン、ムラサキザゴケ、ケキツネノボタン(写真下左)、キンラン、ギンラン、ホウチャクソウ、ミズキ、コバノガマズミ(写真下右)等。


4月24日、東京都町田市図師町

 今頃、高尾山や奥多摩、東丹沢等へ行けばウスバシロチョウやミヤマカラスアゲハ、アオバセセリやクモガタヒョウモン等が飛んでいるし、下草や低木の葉上を丹念に探せば各種のハムシやオトシブミが観察できるのだが、今年はどうも遠出する気がしない。まだ石砂山山頂直下の急階段による風邪が治り切っていないのか、はたまた自然観察欲並びに写真撮影欲が減退しているのか、あるいは歳をとった事による体力の低下なのかは定かでないが、今週末の土曜、日曜は多摩丘陵にどっぷり浸かることにした。その第一日目は、しばらくじっくりと過ごすことのなかった図師町の谷戸に行くことにした。先日、舞岡公園で鎌倉のNさんが、「吉田さんは玉ボケを入れた花の写真が好きだものね」等と核心を突くことをおっしゃったが、今年は本格的に水面反射による玉ボケを入れた写真を撮っていなかったのだ。コンパクトデジタルカメラは使った事が無いから分からないが、中望遠マクロレンズを絞り開放にして、水際の田んぼの畦や農道で水面から反射して来る光を取り入れると、真ん丸の美しい玉ボケが発生する。それなら何処のどの様な水際でも良いのかと言うとそうではない。水深のある池では光が反射して来ないし、流れの速い小川だと落ち着いた玉ボケが発生しない。また、当然のこととして太陽の方向に向かってカメラを構えるから、南側に面した田んぼの脇に、ごく浅い水が溜まっているような場所が絶好となる。こんな場所はあるようでいて都市近郊ではなかなか見つからないし、肝心の美しい花が咲いていなければお手上げである。
 今日は図師町の谷戸に行くのだというのに、いつものように律儀に小野路町に車を停める。朝起きた時はかなり寒く、冷房にしていた車のエアコンレバーを暖房に変えてヒーターを効かせて来たが、太陽が差し込むと気温はじょじょに上がって、デニムの長袖シャツにカメラマンベストでしのげそうだ。もうすぐゴールデンウィークだというのに、何故こんなに気温が低いのかと思って帰宅してから天気図を見ると、西高東低の冬型で前線が太平洋岸に接近してあり、大陸の冷たい高気圧に覆われているためだと分かった。と言う事は中国大陸の北部、モンゴル、朝鮮半島、シベリア等は春まだ遠からじの寒い季節が続いていると言うことになる。万松寺谷戸は今日は足早に素通りして、まずは神明谷戸へ行った。万松寺谷戸はハルジオンが一杯で美しく、もし風が弱ければ今日のような気温が低い日はベニシジミ、ツバメシジミ、各種の昆虫がじっとしていて絶好の撮影日和のはずだが、ハルジオンが風にたなびいているのだからお手上げである。しかし、谷戸奥の雑木林の上の青空は、これ以上に無いという青さである。時折、白い雲が千切れて飛んで来るから風景写真には絶好の日和とも言えよう。過去の経験から玉ボケを入れた花の写真なら、まずは神明谷戸が一番である。今までこの時期に神明谷戸で、レンゲソウ、ムラサキサギゴケ、ハルジオン、ニガナ、ケキツネノボタン、タガラシ、ジシバリ、ヘビイチゴ、スズメノテッポウ、スズメノヤリ等を美しい玉ボケの中に収めているので期待していたのだが、田んぼにはほとんど水がなく、それらの花がすべて美しく咲いていても、平凡なる図鑑的な写真以外は撮れそうもない。なにしろ今日は抜けるような青空のピーカンだから、なお更と言う事になる。
 そこで短時間で神明谷戸を切り上げて、お隣の五反田谷戸に行った。こちらは山際から滲み出る清水が田んぼの縁にいくらか溜まっているので、胸を撫で下ろす。中望遠マクロレンズをつけて玉ボケの中に美しく野の花を収めようと作画する一時は、これもまた万華鏡を覗いているみたいで、まるで忘我の異次元の世界だ。多くの花の写真を撮っている方にお会いして来たが、この玉ボケを積極的に取り入れて作画する方にあまりお目にかかったことが無い。撮影機材が異なっていたり、玉ボケがたくさん発生する場所があるフィールドに行かないためかもしれない。はたまた鎌倉のNさんが言うように、私は異常に玉ボケを入れた花の写真が好きなのかもしれない。もちろんこの玉ボケは肉眼の世界では無く、写真ならではのものなのだが、レフ板やストロボを使った不自然な写真のようには決してならないのだから不思議である。ひとしきり撮影に熱中して目を上げると、緑したたる葉に覆われたヤマザクラの古木の傍らを、白い心温まる雲が流れて行く。またしてもいつもの定番アングルながら広角レンズに変えてシャッターを切った。
 今日は徹底的に玉ボケに酔って、それ以外は撮影しないぞと思って来たはずなのに、本命場所なる神明谷戸で振られたために、かなりフィルムが残っている。そこで冬眠から目覚めた休耕田のハンミョウを追い掛け回した。低山地の林道へ行けばハンミョウは普通で、その他、ニワハンミョウ等も観察できるのだが、多摩丘陵でハンミョウが見られる場所はここ以外には知らない。他の場所には、とっても小さなトウキョウヒメハンミョウが夏に見られる位だ。前にも書いたと思うがハンミョウは漢字で書くと“斑猫”で、赤、緑、青、黄と色とりどりの色彩が混ざる金属光沢を持った美しい甲虫だ。すなわち斑模様で猫のように音も立てずに獲物に近づき、またまた猫のような鋭い牙で獲物を捕らえるからそう名づけられた訳である。誰が名づけたかは知らないが、その生態と形態を熟知している方が名づけたのだろう。たかが動植物の種名と言っても、“うんこれは納得”と微笑が浮かび上がる名前をつけてもらいたいものである。今日は最近このHPの掲示板にご投稿はないが五箇山男さんことKさん、このHPで相互リンクをしている“南大沢の自然”のSさん、またこのフィールドに長い間通って来ている植物通のご婦人も来られ、ヒメハギと言う美しい可憐な花を教えてもらった。また、先日、新百合ヶ丘のAさんが見つけたスミレは葉柄に翼があるので、スミレであるとも教えてもらった。スミレはすべて紫色と思っていたが、個体によって異なるのだと言う。帰り道にチゴユリ、ホウチャクソウ、キンラン、ギンランを見たから、明日は多摩丘陵にどっぷり浸かる第2日目として、美しい雑木林とキノコ尾根を中心に歩いてみよう。

<今日観察出来たもの>花/イチリンソウ、ニリンソウ、ツボスミレ、マルバスミレ、スミレ、ハルジオン、カラスノエンドウ、スイバ、キツネアザミ、レンゲソウ、ケキツネノボタン、タガラシ、ムラサキザゴケ(写真上右)、トキワハゼ、コオニタビラコ、ヘビイチゴ、スズメノテッポウ、キンラン、ギンラン、ホウチャクソウ、チゴユリ、ヒメハギ(写真下左)、コケリンドウ、ガマズミ等。蝶/ヒメウラナミジャノメ、ベニシジミ、ヤマトシジミ、モンキチョウ等。昆虫/シオヤトンボ、ハンミョウ(写真下右)、クロボシツツハムシ等。


4月22日、神奈川県川崎市麻生区黒川〜小野路町

 前回、黒川に行ったのは13日で、その時、後10日程したらクマガイソウが咲き出すだろうと書いたが、今日までの間とても暑い日が続いたので、きっと咲いているに違いないと思って出かけた。今までさんざんクマガイソウを撮っているはずなのに、これがベストと誇れるようなものは撮れていない。なにしろ太いモウソウタケの柵で仕切りがしてあって、もちろんその中には入れないから、邪魔物があったって取除く事が出来ないし、背景だっていつも同じなのだから撮り方は限られてくる。また、クマガイソウの花はみんな南の方を向いて咲くから、撮影ポジションも限られて来るのだ。だから、その年のクマガイソウの咲き方と、下草の繁茂具合が作品を左右すると言うことになる。まあこんな贅沢な事を言えるのも、地主さんの老夫婦が大切に守り育ててくれていて、しかも一般公開なされているためで、クマガイソウが身近で撮影できる幸せを噛み締めなければならないのだろう。今日は午後からは風が強くなったが、現地に到着した時は風が弱かった。クマガイソウは葉が扇のような格好をしているし、花だって独特の袋状のものなのだから風にはすこぶる弱い。これだけでもラッキーなのに、私以外に誰もいないから、ああでもないこうでもないと撮影ポジションを自由自在に変えて作画に専念することが出来た。それでも気に入ったものは、なんと僅かの2カットであった。もちろん露出を変え、ブレが心配だからフィルムを20駒位は消費した。
 クマガイソウの花は首都圏の雑木林では、まず絶対お目にかかれることは無いと思う。多分、地方に行っても無理なのではなかろうか。地元の古老の話を聞くと、昔は多摩丘陵でも竹林等にたくさん見られたいと言う。クマガイソウが見られなくなった原因は春の女神ギフチョウと同じで、里山の管理放棄と激しい盗掘である。かつてはたくさんあったと言う証拠に、新治市民の森や寺家ふるさと村に、現在ほんの僅かだが自生している。もっとも人が入らぬ藪を掻き分けて血眼になって探して、やっと見つかるのは花を咲かしえない独特の扇状の葉のみと言うことらしい。菅原久夫著「フィールド・ガイド4、日本の野草(春)」小学館刊に、「野生ランは花が美しいこともあって、盗掘が続き、近年急激に減少してしまった。園芸店やデパートでしか出会えないというのも悲しい話である。野の植物は自然の中にあってこそ美しいものである。クマガイソウが生きるために必要なのは雑木林や竹林であり、ここにすむすべての植物、動物、無機的環境が一体となった生命共同体である。クマガイソウは雑木林という生命体の一部である。緑豊かで多くの生物が生きられる多様な自然こそ、大切に残しておきたい」と書いてあるが、まったく同感である。黒川のクマガイソウは年によって小幅ながらの株の数の変動があるようだが、地下茎で繁殖するのだから、願わくば毎年増え続けてくれることを祈ってやまない。
 ベストショットとは言えないもののまずは無難なクマガイソウを撮影すると、久しぶりに各種の野の花が咲く谷戸田の中に入ってみた。田起こしが終わって畦塗りが始まるまでは、地主さんも見て見ぬふりの出入り自由の草原が出現する。今日も複数のご婦人がセリを摘んでいた。一番目立って美しく咲いているのは黄色のジシバリだ。タンポポが厚化粧の西洋美人なら、ジシバリは薄化粧の日本美人だ。花弁も少なくおまけに隙間が空いているから、これなら爽やかな薫風もたやすく通り抜けることが出来る。続いて各所にハルジオン、カラスノエンドウ、スイバ、ギシギシ、キツネアザミ、レンゲソウ、ケキツネノボタン、タガラシが咲き、もちろん地面を這うようにムラサキザゴケ、トキワハゼ、コオニタビラコ、ヘビイチゴ等が咲き、そうそう忘れてはならないのは、子供の頃、草笛を作って遊んだスズメノテッポウが無数に生えている。何処に消えたのか早春を彩っていたオオイヌノフグリ、ホトケノザ、ヒメオドリコソウは見えなくなったが、そのゴージャスな花園は早春以上であることは言うまでも無い。田んぼには野の花ばかりでは無い。様々な昆虫も活動を開始している。蝶ではなんと言ってもベニシジミ、時折、モンシロチョウ、ツバメシジミが飛んで来る。甲虫ではナナホシテントウがいたって元気で、各種の植物に寄生するアブラムシを食べている。しかし、この時期の必見の甲虫はシモフリコメツキだ。どういう訳かは分からないが、スイバの穂、葦の葉、葦やセイタカアワダチソウの枯れた茎に止まって、触角を薫風になびかせているのだ。
 午後からは小野路町へ行った。撮り残していたシオヤトンボを撮影するためである。先日は風が強くてつるつるする竹の棒は滑ってしまうので、風情の無い棒杭ばかりに止まっていたが、今日はやや傾いだ竹の棒にも止まっている。先日来た時に背景の良い場所に竹の棒をやや斜めに差して来た。もちろんそこにシオヤトンボが止まってくれれば美しく撮影出来ると言う訳である。そんな私の気持ちをシオヤトンボも分かってくれたらしく、成熟して青白色になった個体が止まっていた。こんな時は逃がしてしまっては元も子もないので、200mmマクロレンズを取り付けて慎重に撮影した。一般の方はこのシオヤトンボを見ると、シオカラトンボと言うのが普通である。なんと言っても池のトンボで一番個体数の多いのがシオカラトンボであるから無理も無いが、シオカラトンボのお出ましはもう少し立ってからだ。今いるのは麦わら色と青白色のものだが、青白色のものは雄だが、麦わら色のものは雌と未成熟の雄である。まあ、こんな事を頭に入れ込んで春一番のシオヤトンボに出会って欲しい。
 シオヤトンボを撮り終わると、そろそろキノコでも出ていないかとキノコ山へ行ったが皆無である。本当にキノコだけを追求している方にとっては、梅雨近くまで長い長いオフシーズンが続く。尾根道にもシオヤトンボが初夏の陽の光を反射して羽を美しく輝かせている姿が数多く見られる。尾根の上にいるのはみんな未成熟個体のようである。去年はたくさん見られたキンラン、ギンランが見られない。まだ、花が開いていないのかなと思われるが、なんとはなしに盗掘という不吉な言葉が頭をよぎる。「よして下さいよ。Tさん達が大切に守り育てている里山なんですから」と心の中で声を大にする。あと数枚残ったフイルムで何を撮ろうかと思案するが、タマノカンアオイの花にした。しかし、タマノカンアオイの花は濃い褐色で地面にへばりついて咲いているから、なかなか絵になるものお目にかかれないが、前から開花したら撮ろうと思っていた株を見に行ったらちょうど良い具合に咲いていた。もちろん日陰に咲いているからシャッター速度は極度に遅くなるが、キノコ撮影で低速シャッターは慣れっこだから、三脚をしっかりと固定してレリーズで慎重にシャッターを切った。いよいよ魔の給料日前後の季節の狭間となったが、今月は大丈夫だと胸をおろしての帰宅となった。

<今日観察出来たもの>花/クマガイソウ(写真上左)、タマノカンアオイ(写真上右)、タチツボスミレ、ツボスミレ、ハルジオン、ジシバリ(写真下左)、カラスノエンドウ、スイバ、ギシギシ、キツネアザミ、レンゲソウ、ケキツネノボタン、タガラシ、ムラサキザゴケ、トキワハゼ、コオニタビラコ、ヘビイチゴ、スズメノテッポウ等。蝶/ヒメウラナミジャノメ、キタテハ、ベニシジミ、ツバメシジミ、モンシロチョウ、モンキチョウ、ミヤマセセリ等。昆虫/シオヤトンボ(写真下右)、ナナホシテントウ、シモフリコメツキ、イタドリハムシ等。鳥/キジ、ツグミ等。


4月21日、神奈川県平塚市土屋〜秦野市権現山

 二日間ばっちり仕事をしたら疲れが出たのか、大好きなはずの自然観察及び写真撮影に気が乗らない。お金を稼ぐって本当に大変な事だ。また、お客様から依頼されれば、昔とった杵ずかで、誠心誠意に頑張ってしまうのだから、まだ腕は錆付いていないようだ。しかし、現金なものでフィールドに着いてカメラを構えた瞬間から、やる気がもりもり湧き上がって来るのだから大したものだ。まあ言うなれば“パブロフの犬”と同じ条件反射の現象なのかもしれない。今日は久しぶりに平塚市土屋へ行った。到着してからお昼まで2時間半位しかないので、土屋霊園側を手短に歩こうと予定していた。雑木林の小道に入って行くと新緑が美しい。多摩丘陵に比べて温暖なのか、すっかり葉が開いている。雑木林が伐採されて開けた場所に出ると、フデリンドウが可愛らしく咲いている。本当に今年はフデリンドウを良く見る年である。ことによったら冬の異常な乾燥が影響しているのかもしれない。もう何べんも撮影しているはずだが、脇役として芽生えたばかりのミツバアケビの葉が入ると、褐色の土、緑色の葉、薄紫の花と色とりどりになって美しい。
 フデリンドウを無事撮影してふと目を上げると、木漏れ日の中に真黄色の花が光っている。キンランかなと思って近づくと、まさしく盗掘によって数を減らしているキンランである。しかも、二つ並んで咲いている。最初、105mmのマクロレンズを向けたのだが平凡な絵にしかならない。それでもキンランは初夏の野の花の女王だから三脚を立てて作画するが、風が強くてシャッターが押せない。昨日はとんでもなく暑い日であったが風は無かった。今日は心地よい暑さなのだが風が強い。天気図を見ると、一昨日雨をもたらした低気圧は千島列島辺りで異常に発達していた。いわば西高東低の気圧配置となって、気温は低めで風が強くなったのだ。きっと鯉のぼりには素晴らしい天候なのだろう。それでも被写体ブレ覚悟で数枚シャッターを切った。今度は24mm広角レンズに付け替えると、黒々とした切り株、向こうの丘の新緑、抜けるような青空と、今まで出会った事がない素晴らしい絵が浮かんで来た。これはいくら時間がかかっても、風の揺れが止まるまで待つしかない。さらにキンランの撮影に梃子摺るのは木漏れ日だ。ついさっきまでキンランを美しく照らし出していた太陽も、瞬時に梢に隠れてキンランが陰ってしまう。このような悪戦苦闘の末、おそらく30分位もかかってキンランを撮影した。
 一旦丘に登って谷戸に降りて来ると、カワトンボが飛んでいる。ベニシジミに至っては物凄い数で、タンポポの花で無心に蜜を吸っている。この谷戸の農道の傍らにはスイバやギシギシがたくさん生えている。葉が食い荒らされて葉脈しか残っていないギシギシもある。これはコガタルリハムシの幼虫の仕業だ。コガタルリハムシは成虫は濃い瑠璃色で美しいのだが、幼虫は黒々としたやや扁平の蛆虫で、集団でいる所を見たら目を背けたくなるだろう。スイバの花穂はだいぶ伸びて、その茎にテントウムシに擬態したイタドリハムシが止まっている。その名にイタドリとつくようにイタドリに目が無いハムシなのだが、スイバの葉も食べるようである。谷戸の田んぼにはレンゲソウが各所で群落を作って美しい。本当はマクロレンズで前ボケをたくさん入れて撮影したいのだが、今日のこの強い風ではお手上げで、形の良い一叢をシャッター速度を上げて切り取った。谷戸から畑がある開けた場所まで降りて来ると、大好きな葱坊主が薄皮を破って花盛りである。きっと、奥多摩等の山里では、葱坊主の蜜が大好きなウスバシロチョウが飛んでいることだろう。
 午後からは秦野市の権現山へ行った。このHPの掲示板でもお馴染みのぶんちゃんこと相模原のKさんが、先だっての18日の日曜日に出かけて、新緑の中のヤマガラを撮影し、このHPの掲示板に投稿して来てくれた。その写真が実に美しいので、僕も撮りたいということになったのだ。本来なら野鳥撮影は冬だけと思っていたのだが、冬木立の中の野鳥だけしか撮らないなんて片手落ちだし、しばらくお休みにしようとすると、お仲間が止めてはだめだよとばかりに情緒溢れる写真を送って来るから止められない。やはり野鳥は存在感溢れる被写体なのだ。権現山から弘法山にかけての尾根道は桜の名所だから、ことによったらアミガサタケが生えているかもしれないと思って目を光らせたのだが見つからない。野鳥観察施設に着くと、先客が一人パイプ椅子に座ってカメラを構えている。見るとヨドバシカメラだって、100万円近くはする600mmの最新大口径ニコン純正超望遠レンズで、立派な三脚も雲台も高価な外国製だ。まるで私の簡易なセットが玩具のように見える。その方が「今日は特筆すべき鳥はまだ現れていませんよ」と、笑いながら言う。「どんな鳥だって良いのですよ。新緑の中の鳥が撮りたくて来たんです」と答えると、午前10時からヤマガラ、シジュウカラ、エナガ、メジロ、ヒヨドリ、ガビチョウが現れたと言う。その方の狙いはキビタキとオオルリだとの事である。
 しばらく待つと順次各種の鳥が現れた。先日、冬の間、各種の鳥がたくさんいた町田市の薬師池公園へ行ったが、シジュウカラさえにも振られてしまった。しかし、ここには冬と変わらずに各種の鳥が多数現れる。みんな水が湧き出るコンクリートで出来た大きな水盤に、水を飲んだり水浴びにやって来るのだ。この水盤上に止まった鳥を撮っては権現山で撮影したという事が分かってしまうし、自然らしさが無いので、付近の小枝に止まった時が撮影のチャンスなのだ。しかし、そう思うようには行かないから難しい。それでも各種の鳥がやって来るから、見ているだけでとても楽しいく、無中になって観察していると、背後でとても高らかに囀る鳥の声がする。この声は生田緑地で聞いたことがあるガビチョウだ。尾根近くにある水盤に水浴びに来ているのだ。こちらの水盤は水が湧き出ていないのだが、一昨日の雨で水が溜まっていたようである。その水盤の端に陣取って嘴を大きく開いて鳴いているので、水盤上だが、もちろんシャッターを切った。
 権現山の山頂付近には鳥ばかりでなく各種の蝶がやって来る。クロアゲハ、モンキアゲハ、カラスアゲハ、ミヤマカラスアゲハ、アゲハ、キアゲハ等である。今日は野鳥撮影が狙いだからカメラを向けなかったが、美しいアカタテハが撮ってくださいとばかりに羽を開いて日光浴をしているので、野鳥撮影の機材で遠くから撮影した。こと静止している蝶の撮影には近づかなくて済むこの撮影法はかなり有効で、28〜300mm位のズームレンズが欲しくなった。今日は大物に出会えなかったし、目的の相模原のKさんが撮ったような新緑の中のヤマガラは撮れなかったものの、各種の野鳥に出会えて大変満足の権現山で、これからも度々、平塚市土屋や秦野市弘法山等へ花や蝶や虫や茸を撮りに来るので、その時は必ず午後の半日をこの権現山の野鳥施設で過ごそうと心に決めて、フィールドを後にした。

<今日観察出来たもの>花/キンラン(写真上右)、フデリンドウ、タチツボスミレ、ハルジオン、カントウタンポポ、レンゲソウ、葱坊主(写真上左)、クサイチゴ等。蝶/クロアゲハ、モンキアゲハ、カラスアゲハ、ミヤマカラスアゲハ、アゲハ、キアゲハ、アカタテハ(写真下右)、キタテハ、ルリタテハ、ベニシジミ、ミヤマセセリ等。昆虫/カワトンボ、イタドリハムシ等。鳥/ヤマガラ、シジュウカラ、エナガ、メジロ、ヒヨドリ、ガビチョウ(写真下左)等。


4月18日、横浜市緑区新治市民の森〜多摩市T公園〜小野路町

 今日出かけると連続4日間となって、かなり行き過ぎになる。しかし、天気予報によると月曜・火曜は雨だから、その2日間にじっくりと仕事をし、のんびりと休養を取れば良いのだから“行っちまえ”とばかりに車に乗った。今日は休日だから家族を起こさないように静かにドアを閉め、食べ続けて飽きて来た牛丼屋すき家の朝定食はパスして、牛丼屋松屋のハムエッグ定食を食べた。歯磨き、洗面、トイレは、このところ不届き者によって使用停止が多い大原みねみち公園を敬遠して、鴨池公園に行った。鴨池公園入り口にはたくさんの色とりどりのツツジが咲いて美しい。桜が散ったと思ったらヤエザクラ、ツツジ、アメリカハナミズキと休む暇なく様々な花が咲き続けるのだから、本当に日本の春はゴージャスだ。こんなに眩いばかりに咲いているとツツジを撮りたくなる。今日は200mmマクロレンズを持って来たから、早速カメラに装着して、前ボケ、後ボケをふんだんに取り入れて華やかに切り取った。
 かなり多くのフィールドを知っていると自認しているが、さすが4日連続となると、何処へ行こうかと悩んでしまう。一週間前に小山田緑地へ行った時にカワトンボが発生していたから、花花の連続では飽きてしまうので、今日は虫の日と決めて新治市民の森へカワトンボを撮りに行った。多分、シオヤトンボもいるだろうし、ことによったらヤマサナエも発生しているかもしれない。この春のトンボ3種を完璧に撮りたいと思ったのだ。だから、今日は近づくと逃げてしまうトンボ用にと、200mmマクロレンズを持って来たのだ。
 新治市民の森に生息するカワトンボは、正式にはヒガシカワトンボと呼ばねばならないようである。なぜなら箱根の山を越えると別種のニシカワトンボになるからである。古い図鑑にはニシもヒガシもつかないカワトンボと書かれているはずだが、いつの間にかニシとヒガシがついて、別種として取り扱われるようになった。昆虫屋さんは植物屋さんと異なって、種を細分化したり、亜種や変種に名前をつけたりしなかったはずなのだが、最近では今まで一種であった筈のものが、細分化されて多種に分類されている昆虫が多い。私はへそ曲りだから、形態的差異で細分化されて別種とされても、遺伝的、生態的にも確かにそうだと納得がいかないと、例えその道の権威の方がそうおっしゃっても認めようとしないのだ。それではこのヒガシカワトンボとニシカワトンボについてはどう考えるかだが、今のところ私は両者を分けずにカワトンボと呼んで行こうと思っている。
 谷戸の田んぼが埋め立てられて畑となり、市民の森となってだいぶ手が入った新治市民の森は、以前に比べて単調な環境となりだいぶ魅力を減じているものの、歩き始めるとなんと広大な図師・小野路歴史環境保全地域でも見つけていないヒトリシズカがたくさん咲いていた。先日行ったこれまた観光地化して魅力の減じた寺家ふるさと村でナガバノスミレノサイシンをたくさん見つけたように、やはり所変われば動植物相も変わるのである。いくら広大な図師・小野路歴史環境保全地域と言えども、多摩丘陵のすべての自然環境を含有している訳ではないのだから当たり前の事だ。今日の主要撮影目的であるカワトンボも、寺家ふるさと村や図師・小野路には生息していないのである。その目的のカワトンボではあるが、羽の色が褐色の雌も発生しているから時期的にそう早いとは言えないものの、例年に比べて発生数が少ない。この為もあって良い写真が撮れず、また、時期が早かったのかも知れないので、再度挑戦せねばならなくなった。
 久しぶりに使用する重たい200mmマクロレンズはまことに驚きのレンズである。前ボケ、後ボケが大きくなるから、まるで万華鏡を覗いているようである。しかもニコン自慢のEDレンズを使用しているから、ピントが合わせたい所にぴちりと決まる。かつてニコンの銀座サービスステーションで、「EDレンズは“いいで、ええで”をもじって付けたんでしょう」と冗談を言ったことがあるが、開放絞り値f4にしては本当にピント合わせがし易いレンズだ。ハルジオンが咲きスギナが緑に伸びたあぜ道の傍らにカントウタンポポが一叢咲いていたので、それを200mmマクロレンズで覗いてみると、信じられないような美しさだ。背景には田起こしされた濃褐色の土に細かい稲藁が点在して適度にボケた微妙なバック紙を作っている。まるで陽春の一齣が眼前に浮かび上がったようでとても幸福な気分となった。また、畑の傍らにある白いビオラやピンクのシバザクラの上に、可憐なベニシジミが盛んにテリトリーを張っている。それを200mmマクロレンズで覗いて見ると、これまた実に美しい。これからは風邪を完全に治して、重たいが200mmマクロレンズを常用しようと思った。
 午後からは、このHPの掲示板でもお馴染みの森のきのこさんことKさんが昨晩貼り付けてくれたアミガサタケが余りにも美しいので、なんとかそれに負けない写真が撮りたくなった。先日、舞岡公園で見つけたものは日陰にあったものや、木漏れ日がうるさくて、わざわざ鎌倉のMさんに人影を作ってもらって、その中に入れて撮影したものである。しかし、Kさんのアミガサタケは燦燦と春の陽が降り注ぐアミガサタケで、やっはりアミガサタケは日向で撮らなければと思ったからだ。Kさんは多摩市在住だから、以前KさんがアミガサタケならT公園と紹介して頂いたので、またしてもT公園へ再度の挑戦と、新治町からはかなりあるが行ってみた。そうしたら運良くアミガサタケを3本見つけることが出来た。もっともKさんの写真のように形の良いものが二本並んではいなかったし、なんとか背景を広く取り入れた広角接写でと思ったが背景が美しくなく断念したものの、日向に生えるアミガサタケをばっちり撮影出来た。ここのアミガサタケもやはり桜の木下で、“アミガサタケは桜の木の下”と言うKさんの説は実証されたように思われる。
 どうもアミガサタケはその一箇所のようだったので、時間が少しあったので再び小野路町へ行った。新治市民の森では観察できなかったシオヤトンボと、アネモネタマチャワンタケのようなチャワンタケの仲間のキノコをもう一度しっかり撮り直すためである。いつもの場所に車を止めると、前方にこのHPの掲示板でもお馴染みの谷戸ん坊さんことUさんの車が見える。まだ、この時間でも撮影に勤しんでいるのだなと感心する。きっと今日も撮りたいものがたくさんあり過ぎるのだろう。しばらくすると昨日も来た新百合ヶ丘のAさんが奥様を連れてやって来た。本当に自然好きにはこの上無い天気が続く。来週初めに一雨降って、T公園にはキンランが咲き始めていたから、いよいよ季節は陽春から初夏へと変わるようだ。

<今日観察出来たもの>花/キンラン、チゴユリ、イチリンソウ、ニリンソウ、ムラサキケマン、スミレ、マルバスミレ、タチツボスミレ、ツボスミレ、パピリオナケア、ハルジオン、カントウタンポポ(写真上右)、ツツジ(写真上左)、アメリカハナミズキ、シバザクラ、チューリップ、ビオラ等。蝶/ツマキチョウ、キチョウ、モンキチョウ、キタテハ、ルリタテハ、キアゲハ、ベニシジミ(写真下右)、ルリシジミ、ミヤマセセリ等。昆虫/カワトンボ(写真下左)、シオヤトンボ等。キノコ/アミガサタケ、アネモネタマチャワンタケのようなチャワンタケ等。


4月17日、東京都町田市小野路町・図師町

 今の季節は何処へ行っても被写体が一杯だ。こんなかなり時間が自由になる身分となったって、そのすべてを追いかけられないのだから、たかだか僅かに残された首都圏の自然とは言っても、私のような人間から見たら宝の山だ。今日は本当に何を狙おう、まずすぐに頭に浮かんだのは、このHPの掲示板でもお馴染みの谷戸ん坊さんことUさんが見つけて教えてくれたコケリンドウの群落だ。次に頭に浮かんだのは、前回時間をかけて撮影できなかったイチリンソウとニリンソウである。しかし、今が新緑撮影の最盛期で、来週になるとなかり葉が伸張して梢から青空が見えなくなりそうなので、まずは雑木林の新緑(写真上左)を狙った。もうかなり長い間、多摩丘陵を中心として写真撮影に専念しているはずなのだが、新緑を美しく捉えた写真は極少である。それだけ木々の芽生えから葉の伸張はすさまじい速さなのである。だから狙い時はほんの1週間の間で、勤めに出ている方なら正味で4日間、それらのすべての日が天気が上々とは言えまいから真剣勝負はほんの僅かだ。先週の日曜日にUさんはなんと午前7時30分にこのフィールドに立ったと言っていたが、午前中の優しい光こそ柔らかな若葉を写すのには好適なのである。今まで数多くの方の写真を拝見して来たが、寝坊助さんが多いようで、午後の赤茶けた光で撮影された写真も多くて本当に残念であった。昆虫写真家の大御所である栗林慧さんが何処かの本で書いていたが、朝早く起きて写真をたくさん撮った後に、飽きるほど眠れば良いのだと言っていたが、こと写真撮影に関しては名言である。
 今日の雑木林の新緑は本当に美しい。なんと言っても雑木林の主人公とも言えるコナラやクヌギがだいぶ葉を広げているから、今日、明日で新緑の写真撮影の好機は終わることだろう。最近、最低でもこのつれづれ観察記用に4枚写真が撮れれば良いかな等と気楽に構えているのだが、中野のフジヤカメラで8000円の中古で買ったシグマ24mmをカメラに着けて雑木林の梢を覗くと、みんな美しく見えてばんばんシャッターを切った。今日は終わってみると36枚撮りのフイルムを3本も使ったのだから、なんと108カットも撮ったことになる。もっとも段階露出やブレが心配だから何枚か切っているので、狙った被写体は30位だろうが、それにしても久しぶりの激写である。先週、Uさんが120カットを撮ったと聞いた時には、気が狂ったのではないの?と思ったが、確かに今の季節は、Uさんの言うように写真の稼ぎ時なのである。
 今日は途中でこのHPの掲示板でもお馴染みの快速五反田号さんことMさんと合流して、このフィールドの主的存在になりつつあるのにニリンソウ、イチリンソウの咲く谷を知らないと言うので案内した。今日は先週来た時よりも見事に花開いて、谷の斜面は真っ白で、紫色のムラサキケマンやオオアラセイトウが点在して彩を添えている。こんなに見事に咲いていると何処を切り取っても額に入れて飾りたくなる写真が撮れるのだが、そのような写真はハッセルを持っているMさんに任して、私はイチリンソウ、ニリンソウで贅沢なアートを試みる。二つ並んだ花は当たり前で、何と四っつの見事な花が重なり合ったイチリンソウさえもあった。ひとしきり撮影に専念した後、ふと近くに植えられたカラタチの木を見ると、何やら白い昆虫が枝にしがみついている。なんだろうと近寄ってみると、この時期に観察することが多いハイイロヤハズカミキリだ。図鑑によると幼虫は枯れた竹を食するとある。しかし、いつもこの眠そうなハイイロヤハズカミキリを見つけると、春の眠気を誘ううららかな陽気とベストマッチだと本当に楽しくなる。前回、撮影した古畳に発生したオオチャワンタケ?の幼菌は立派に成長したかなと楽しみに近づいて見ると跡形も無く消失している。そこで図鑑によるとイチリンソウ、ニリンソウの根元近くに発生するとあるアネモネタマチャワンタケを探してみると、根元では無く少し離れた場所だったが、面白いようにたくさんの褐色の小さな茶碗が並んでいた。図鑑を見るとアネモネタマチャワンタケより小さいから違う種類のようだ。主に植物を餌とするものが多いから、植物を知らないと多くの昆虫に出会えない。だから昆虫をやると当然のこととして植物の知識が増えて行くのだが、キノコも漫然と薄暗い林の中を歩いて見つけるのではなく、植物を知っていると、より効率的に目的とするキノコに出会えそうである。
 Mさんが「この場所は人に教えたらすぐに荒らされてしまいますね」と言っていたが、この谷はヒカゲスミレ等、他所では見られない植物もあるように、広大な図師・小野路歴史環境保全地域でも貴重な場所である。いつまでもイチリンソウ、ニリンソウと戯れていたそうなMさんを急き立てて、五反田谷戸へ一緒に行った。途中、Tさん宅から続く雑木林の小道も新緑が美しく、何べんも立ち止まってはカメラを向け、シャッターを押した。ここも何時間でも、ああでもないこうでもないと新緑を作画するには最高な場所である。ひとしきり撮影に専念した後、Mさんが「昼食は何処で食べる」と聞くので、「もちろん五反田谷戸の芝地の上」と言って小道を下っていった。五反田谷戸ではカエルが鳴き、ウグイスが囀っているものの、何だかとても蒸し暑い。ぐんぐん気温が上がっているようだ。それでも小高くなった芝地は、コンビニで購入した菓子パンをぱくつくには最高だ。眼下の棚田を見下ろすとムラサキサギゴケがとても美しい。時折、白花の群落もあり、黄色い花のタガラシやケキツネノボタンが彩りを添えている。食事とは言えない食事が終わると、Uさんが見つけたコケリンドウの群落を見に行った。以前、黒川の芝地にぽつりぽつりと咲いていたのを見ていたので、同じような環境を探してみると、驚く程多数のコケリンドウが咲いていた。まさにコケリンドウとはこのように咲いているんですよ!と教えられたような見事さだ。
 そのコケリンドウや休耕田に咲いているトキワハゼ、今が盛りのムラサキサギゴケを撮影して、小高くなった芝地に目を向けると、こちらに向かって手を振っている方がいる。車が停めてあったから新百合ヶ丘のAさんだろうと手を振る。今日はとても暑い日だが、自然好きには家の中に閉じこもってられない天気とも言えよう。そのAさんが今まで出会ったことの無い上品なスミレを見つけた。スミレの種名判定の区別点をしっかり頭に叩き込んで来たつもりだが、帰宅して図鑑を開いてみても該当するスミレが見当たらない。やはり現地に図鑑を持参しなければ、その種名判定は難しいようだ。また、フイルムで撮ったから現像が上がって来るまで時間がかかる。こう言った場合、デジタルカメラならとても有難いと実感する。いずれにしても最近見えなかったものが見え初めて、本当に種の多様性に富んだ多摩丘陵だと再認識するに至っている。何処か遠くに行かなくとも多摩丘陵だけで、満ち足りた自然観察と写真撮影が可能である。生まれ育った場所は多摩丘陵の南端で鶴見川の下流域だが、やはり幼い頃から慣れ親しんだ自然が何処よりもしっくり来ると感じ始めている。きっと、私も歳をとったのだろう。

<今日観察出来たもの>花/チゴユリ、イチリンソウ(写真上右)、ニリンソウ、ムラサキケマン、センボンヤリ、コケリンドウ(写真下左)、フデリンドウ、クサボケ、マルバスミレ、ヒカゲスミレ、オトメスミレ、タチツボスミレ、ツボスミレ、パピリオナケア、カキドオシ、ムラサキサギゴケ、トキワハゼ、タガラシ、ハルジオン、ケキツネノボタン、ヘビイチゴ、クサイチゴ、ニガイチゴ、オオアラセイトウ、ハナミズザクラ、アメリカハナミズキ、カイドウ等。蝶/キタテハ、ルリタテハ、キアゲハ等。昆虫/ハイイロヤハズカミキリ、シオヤトンボ等。鳥/キジ、ウグイス等。キノコ/アネモネタマチャワンタケの仲間(写真下右)等。


4月16日、横浜市戸塚区舞岡公園

 前にも何処かで書いたが、舞岡公園には先週も来ているのだが、ある団体からの依頼による自然観察及び写真撮影会の講師だったから、気軽に自分だけの目的による散策及び写真撮影が出来なかった。そこで今日はいつもより少し早く起きて舞岡公園へ行った。瓜久保の火の見櫓前のカラタチが純白に美しく咲いている。5枚の花弁は細長くしかも間隔があいてついているので、まるで極小の風車のように見える。かつてはブロック塀等がなかったから多くの家で生垣としてカラタチを植えていたが、最近ではカラタチを見ることが少なくなり、その結果、花の写真を撮るのが難しいものとなっている。そこで何としても美しいカラタチの花の写真を得ようと、ああでもないこうでもないと作画していると、どうしても手前の小枝が邪魔になる。そこで他の枝に絡みつかせようと考えた。カラタチの小枝は固いので、ぽきんと折れてしまうのではないかと思ったが、なんとアルミ線を曲げるがごとくにやんわりと曲がった。春たけなわだからカラタチの小枝には水分が一杯で、冬期と異なって、とても柔らかくなっているのだろう。そんなことを思いながら遠くからカラタチを見ると、新しい小枝が伸び瑞々しい若葉で一杯だ。冬の濃緑の鉄条網のような姿からはまったく想像がつきにくい姿だ。こんなに美味しそうに見えるのだから、アゲハ、クロアゲハ等が卵を産み付け、羽化した幼虫がすばやく成長するのも納得できる。
 カラタチの花を撮っていたら名前は分からぬものの、冬の間毎日バードウォッチングにやって来ていた熟年の男性が双眼鏡をぶら下げてやって来た。「こんにちは、お久しぶりです。鳥はいますか」と尋ねると、「ずいぶん減ったね。バードウォッチングがバタフライウォッチングになってしまったよ」と笑いながら言う。多分、舞岡公園の野鳥観察及び写真撮影の主的存在であるFさんもそうだからか、舞岡公園の鳥好きな方は、冬鳥が去ると蝶に転向する方が多い。もっとも写真撮影はせずに双眼鏡で鳥見専門の方は、同じ道具で蝶も見られるのだから好都合なのだろう。「ツマキチョウが飛んでいたよ。羽の先端にあるオレンジ色が美しいね」と言い終わるや否や、そのツマキチョウの雄がやって来てセイヨウタンポポに止まった。朝のすがすがしい陽光に照らし出されたツマキチョウは、本当に美しい。今年は別段取り立てて撮りたいという対象物が無いというフーテンのウィークエンド・ナチュラリストとなってしまったが、可憐で美しいツマキチョウを見ると、むくむくと蝶をまた撮りたいなぁーという気が起こって来た。しかし、まずはカラタチの花が先と撮影に専念した後、再びタンポポに目を向けると、美しいツマキチョウは軽やかな春風とともに何処かへ消えうせてしまった。
 これで花を撮ったから今度は実だと、早くも大きくなった梅の実を撮った。次は昆虫だと河童池奥の広場に咲いているタンポポホの花を訪ね歩くと、可愛い緑色のヤブキリの幼虫が花に鎮座している。ヤブキリの幼虫は春ならではのトップモデルで、タンポポ以外にもハルジオン、クローバー、ヤマブキ等の野生種はもとより、ラッパスイセン、ネモフィラ、ポピー等の栽培種の花にも鎮座しているから、美しく撮影できたら各種の写真雑誌の佳作位にはきっと入選することだろう。これで花、実、虫と撮ったから、今度は何と言ってもキノコちゃんと言うことになった。そこで、去年アミガサタケが生えていた場所に行ってみると、やはり2本だけだが、これまた可愛らしく生えていた。やはりアミガサタケは桜が完全に散った頃が旬のようだ。このHPの掲示板でもお馴染みの森のきのこさんことKさんが、「アミガサタケは桜の木の下」と言っていたのは正解で、午後に鎌倉宇宙人集団のご婦人たちと合流して散策したのだが、丘の上の駐車場付近にもやはり桜の木の下に生えていた。アミガサタケは黒川の農道でも見ているので、必ずしも「アミガサタケは桜の木の下」は定説とは言えないかも知れないが、こと舞岡公園に於いては当たっていると思った。
 これで花、虫、実、茸と撮った事だし、ちょうどフイルムも撮り終わったので、午後からは「瓜久保で弁当を食べる会」の方々と一緒に、デジタルカメラで気楽に散策しようと瓜久保に戻ると、何やら草むらで蠢いているご婦人がいる。よく見ると舞岡のKさんだ。「何を撮っているんですかと聞く」と草むらに向かって指を指す。見ると2本のまん丸なタンポポの綿毛が交差していてとても美しい。続いて鎌倉のNさんもやって来た。「見て欲しいものがある」と言うのでついて行くと、路傍にスミレが咲いている。「これはなんのスミレ」と言うことになったので、今日も持参して来た「日本のスミレ」を早速開いてみる。まずは地上茎の無いスミレで葉がハート型ということで、「ノジスミレではないからコスミレではないの」と言ったら、Nさんが「コスミレの側弁基部には毛が無いのに、このスミレには毛がありますよ」と言うので、うつむいた花を指で上向きにして覗いてみると、確かに側弁基部に毛がある。またしても図鑑と照らし合わせて見ると、アカネスミレであることが分かった。「それにしても花期が遅いし、なんだか薄汚れているな」と言うと、「日陰だし道端だからね」と言う事になって、そのスミレの種名はアカネスミレと確定した。
 瓜久保で弁当を食べ終わると、午後からは皆して散策を開始した。今日もたくさんの見るものがあったが、一番印象に残ったのはオニグルミの芽吹きである。それも枝の基部近くの側芽から伸びた芽吹きがとても面白く、まるで緑の大きな羽のついた帽子をかぶったヤギがいるようである。何処かの国の古代の壁画に、このような異常に角が発達した羊が描かれていたような気がする。冬芽大好きな鎌倉宇宙人集団の中でも最も宇宙人的なMさんは、目を細めて楽しそうに撮っている。「とっても面白いわ、この芽吹きだけで半日遊べるわね」等と感想を述べるが、皆、異口同音で納得する。もちろん私も撮影したが、逆光で葉痕が暗くなっていて大幅にプラス補正をするのだが芳しくない、明暗差が激しすぎるのだ。こんな時には不自然になるから絶対に使いたくないと思っているレフ板が欲しくなる。それでもカメラによっては美しく撮れるものもあって、きっと誰かがベストショットを撮っているに違いない。鎌倉のOさんが「冬芽は芽吹きまで撮影して完成」と言っていたが、まことにそれは真実だと納得させられる見事な葉痕付きのオニグルミの芽吹きであった。今日もあっと言う間の舞岡公園での自然観察であったが、この次はもっと蝶や昆虫が多彩となるから、瞬時に楽しく過ぎる自然観察及び写真撮影になるに違いないと、次回も大いに期待しての散会となった。

<今日観察出来たもの>蝶/アゲハ、ツマキチョウ、スジグロシロチョウ、キタテハ、キチョウ、ベニシジミ、ルリシジミ等。虫/ヤブキリの幼虫(写真下左)、アカスジキンカメムシの幼虫、イタドリハムシ、オオアカマルノミハムシ、モモブトカミキリモドキ、クロボシツツハムシ、ビロードツリアブ等。花/レンゲソウ、フデリンドウ、クサボケ、タチツボスミレ、ツボスミレ、パピリオナケア、アカネスミレ、オオアマナ、ホタルカズラ、ナシ、カラタチ(写真上左)等。キノコ/アミガサタケ(写真下右)等。その他/オニグルミの花、ウメの実(写真上右)等。


4月15日、東京都多摩市多摩川〜町田市薬師池公園〜大原みねみち公園

 このつれづれ観察記を見ると、野鳥だけを専門に狙って撮影に出かけたのは3月10日の生田緑地が最後となるから、なんと1ヶ月以上も野鳥撮影から遠ざかっていたことになる。その間、まだ蝶も飛ばず昆虫も現れずであったから、もっぱら花や植物を追いかけていたことになる。冬に比べてうんと回数は減るだろうが、他の撮影対象物には目もくれずに、野鳥だけの日を設けようと考えていたのだが、今日はその第1回目となった。多くの知人の話を聞くと、どうも多摩川が面白そうだ。多摩川と言っても下流域から上流域までとても長いのだが、その中でも野鳥観察及び野鳥撮影のメッカとも言える多摩市の関戸橋下へ行ってみた。ここは車も気軽に止められるし、探鳥地案内の本によると、多摩川でも一番野鳥が見られると書いてあったので大いに期待して出かけたのだ。また、かつてここにヤマセミがいて大フィーバーを起こしたことや必ずオオタカが見られると聞いていたから尚更だ。
 風邪による体調が回復しないので、早起きはせずに出かけたから現地到着は午前10時となった。普通ならたくさんの同好の方々が見えているはずなのに誰もいない。しかし、探鳥地案内の本に書いてあった野鳥観察小屋が建っているから場所を間違えたわけではなさそうだ。河原に下りて行けばシギ、チドリの仲間やセキレイの仲間などがたくさん出迎えてくれるだろうと、河原に入り歩を進めるのだが、一向に野鳥は現れない。まだ、やっと芽が伸びたばかりの葦原は冬と同じ褐色の世界で、そこから野鳥のさえずりが聞こえるのだが、目を凝らせども姿は見えない。更に歩き回るのだが川原が続くだけだ。「なんだこれは失敗かな、他の場所へ行けば良かった」と踵を返すことにした。川原には丘陵地帯では見られない野花も咲き、草地にはヒメウラナミジャノメ、ツマキチョウ、ベニシジ等が飛んでいる。多分、葦原に入ればギンイチモンジセセリも発生しているに違いない。また、多摩川をホームグラウンドにするKさんによれば、大きな水溜りにオツネントンボがたくさんいたと報告があった。
 「やはり野鳥撮影はこの時期は無理なのかな、他のものを撮った方が良いのかな」等と疑問が湧き上るが、なにしろ去年の12月から野鳥撮影を始めたばかりだから皆目見当がつかない。そんな落胆した面持ちで歩いていると、やっとモズが細い枝に止まっている。冬場に多摩丘陵で見たモズより体色が淡く痩せている。「これでやっとシャッター音が聞ける」とカメラを構えたが、さすが遮るものが無い河原である、風が強くて超望遠レンズを通して見るモズが微妙に揺れている。それでもシャッター速度が早いから何枚もシャッターを切ったが、帰ってパソコンで拡大してみると、私らしくないブレ写真のオンパレードであった。出発地点の観察小屋へ戻ると数人の同好者が集まっていたので、しぼんだ期待感はいくらか膨らんで、今度は上流の方を探索してみた。すると河原にはハクセキレイとダイサギがいて、もちろんこんな場合にはハクセキレイには失礼だが、ダイサギにカメラを向けて撮影した。大小の小石が一杯の川原、清らかな水の流れ、背景には草が緑に燃え、風さえなければベストショット間違い無しの風情である。
 しかし、さすが多摩市の多摩川と言えども大自然、もっと大きく撮影しようと近づくと、ダイサギは優雅に空に舞った。しばらくじっと他の野鳥が現れるのを待ったが、しびれを切らして踵を返すと、枝が良く茂ったヒメコウゾになにやら盛んに囀る小鳥が止まっている。なんだろう?ことによったら河原だけに見られる小鳥かなと思って近づいてみると、なんと丘陵地帯でもお馴染みのホオジロてあったが、残念ながら逆光のために良い写真は撮れなかった。これでは枚数不足で今日の観察記は書けないから、はやばや場所変えが得策と土手に上がって行くと、同好者が二人、カメラを構えている。近づいてみるとキジである。「キジを撮るなら多摩川が良いよ」と聞いていたが、そのキジが目の前で餌を探している。しかも、美麗なオスである。以前にも書いたと思うが、里山の野鳥を40種類撮りたいと撮影を始めたのだが、なんと言っても里山の鳥の代表はキジである。しかし、そのキジは声を聞けども姿すら見ることが出来ないでいたのだ。短期間に64種類の野鳥を撮影したが、いくら他の鳥を美しく撮影できたとしても、キジがいなければ、まさに里山の野鳥の画竜点睛を欠くということになる。そのキジが緑の草地にナノハナの近くで餌をついばんでいるのだ。
 しかし、土手の上は更に風が強い。ナノハナ咲く傍らに佇むキジ、これはまさに夢にまで見た最高のシチュエーションなのである。まったくこれ程までに吹く風を憎らしく感じたことが今まであったことだろうか。それでも万が一を期待して、びしびしシャッターを切った。キジはその後背丈の高い草原に身を隠したりするのだが、独特のケーンケーンという泣き声で、何処にいるかが分かってしまう。私でさえも分かるのだから「雉も鳴かずば撃たれまい」と言う格言は誠に名言である。職場でリストラに遭わないためにはおとなしくしているのが一番で、私のように生意気でしかも声が大きく、なんとか業績を上げようと頑張ると失敗も多くなり、人事担当者や経営者の銃口が向いて来るという訳である。すなわち「サラリーマンも鳴かずばリストラされずまい」と言うことになる訳で、できるだけ上司、社長にゴマをすって、後はおとなしくしていることが肝要である。
 風の為にとっても満足という訳には行かなかったがキジが葦原に隠れてしまったので、観察小屋へ戻ると、集まった同好諸氏がカワセミの話で盛り上がっていた。聞き耳を立てると、ここのカワセミの好きな場所はどうも背景の汚い場所であるらしい。しかし、そんな話を聞いていたら無性にカワセミに会いたくなった。それに、このHPにたびたびご投稿下さる相模原のBさんも、3日程前にカワセミの写真を貼り付けてくれた。そんな訳で午後からはカワセミだと、まずは町田市の薬師池公園へ行った。しかし、カワセミはおろかあんなにたくさんいたシジュウカラも見えず、ヒヨドリだけがわが世の春を謳歌していた。こうなったら港北ニュータウンにある大原みねみち公園だと行ってみると、ここにもカワセミは見当たらず、ムクドリとドバトが見られただけだった。きっと、カワセミは巣作りに忙しく餌を採りに来る時間も無いのだろう。もう少ししたら子供が生まれて、たくさんの餌が必要となるから、頻繁に大原みねみち公園の池にも現れることだろう。それにしてもたったの1ヶ月の間に、各種のカモ、ジョウビタキ、ルリビタキ、ツグミ等の冬鳥たちは去って、何処のフィールドでも野鳥が少ない季節となったようだ。舞岡公園でも双眼鏡を掛けて来る方が激減し、毎日、野鳥を撮影していたFさんTさんも、マクロレンズに変えて蝶や昆虫の撮影に専念している。こんな状態じゃ、次は干潟へ行くしかあるまいと感じた一日となった。

<今日観察出来たもの>鳥/キジ(写真上右)、ダイサギ(写真上左)、ハクセキレイ、モズ(写真下左)、ウグイス、ホオジロ、カルガモ、ヒヨドリ、ムクドリ(写真下右)、スズメ、ハシブトガラス等。蝶/ヒメウラナミジャノメ、ツマキチョウ、モンシロチョウ、ベニシジ、キタテハ、ルリタテハ等。


4月13日、川崎市麻生区黒川〜東京都町田市小野路町

 今日の寒さはなんだ。昨日の暑さはなんだ。こんなに気温の格差が激しいと風邪が治らないから困るのだが、桜が散った後にこんな低温の日が訪れるのも例年の事だと思うと怒る気にもなれない。今日は午前中は黒川の美しい雑木林を中心として歩こうと、曇り日ながらもかなり楽しみにして出かけた。黒川に着くとますます気温が低く感じられて、防寒ズボン、正ちゃん帽(スキー帽)、ジャンパーを羽織ることになるとは何だか滑稽だが、寒さによって風邪がぶり返すよりはましだと、ご婦人にはお見せ出来ない格好で車を後にした。いくら花の写真撮影には曇り日は大歓迎と言っても、やはり春は暖かい晴れの日が良いな等と一人ごちながら雑木林の中に入った。雑木林の中には期待していた以上に、多数のシソ科のジュウニヒトエが咲いている。もちろん漢字で書くと「十二単」で、その昔の貴族の女性たちの美しい正装に模して名がついたわけで、その名前から誰しもが是非会いたい野草の一つとなっているのだが、私にはそれ程美しいとは思えない。とんでもなくゴージャス過ぎるのである。そんなジュウニヒトエだが、里山管理が放棄されて荒れ放題の雑木林が多い多摩丘陵では、探すのに苦労するものとなっているが、こと黒川の美しい雑木林では普通種である。
 目的のジュウニヒトエをカメラの中に収めたが、この雑木林も南に面していて日当たりが良く、アカネスミレ、ニオイタチツボスミレ等の花期はとっくに過ぎてしまって、目だった花は見られない。しかし、早いもので純白の可愛らしいチゴユリが咲き始めていた。これはラツキーとカメラを向けるのだが、チゴユリの茎は非常に細く、その割には面積の広い葉がたくさんついている。しかも先端に花が咲くから、いくら待てども風による揺れが止まらない。なにしろ曇天であるためにシャッター速度は10分の1秒しかないのだ。根性は根性ドラマも真っ青のつもりだが、待つ気はすっかり消えうせてしまった。その後、雑木林の中を徘徊すると、ゴールデンウィークには満開となるはずのヤマツツジの新緑が見事で、秋になると必ずここに撮影に来るオケラやオヤマボクチもすくすく成長しているようで胸を撫で下ろす。さほど広くは無い雑木林なのだが、他の場所ではなかなかお目にかかれない野草があるので定期便となっている。今度来る時は、おそらくキンラン、ギンランの季節になろう。
 美しい雑木林を後にするとクマガイソウの成長具合が気になった。このHPをご覧になっているかなりの方がその群落地を知っていると思うが、フデリンドウ等の野草の宝庫でもあるのだ。クマガイソウはおそらくまだ芽生えたばかりか独特の葉を広げたばかりだろうと思って覗いてみると、なんと早いもので先端にぷっくりと膨らんだ蕾を持つ花穂が伸び始めているではないか。この分で行くと後10日位経つと咲き始めるに違いない。黒川に来る途中の各所にあったナシ畑は満開だったので、もしやナシに比べていくらか花期が遅くなるリンゴが咲いているかも知れないと期待して行って見ると、淡いピンクがかった花が咲き始めていた。リンゴと言えば信州や東北地方へ行かないとお目にかかれないと思っている方も多いと思うが、なんとこの黒川にはリンゴ畑があるのである。真っ赤に色づいた秋のリンゴ畑も美しいが、何回と無く散布された農薬が葉や実に白く残っていて、美しい写真をなかなか撮ることが出来ない。しかし、花の時期にはそのような事がないから、ストレートにその美しさを満喫できる。そんな小面積だが美しいリンゴ畑を見ていると、いつの日か雪を頂く山をバックにした写真を撮影しに遠く旅に出たいという気分になる。抜けるような青空の下での幸福感は、それこそいくらお金があっても得られない、純真無垢の子供のような喜びであるに違いない。
 午後からは毎度おなじみの小野路町へ行った。こんなに寒いとコンビニの弁当など食べる気が起こらず、身体が芯から暖まるカレー南蛮を昼食に摂ったのは言うまでも無い。11日にニリンソウ、イチリンソウが咲く谷で、時間が無かったからぱっと見で、白い花のスミレはナガバノスミレサイシンであると結論付けたら、それを間近で撮影なさった谷戸ん坊さんことUさんから、ヒカゲスミレではないかとのメールが届いた。そこでこんな事は金輪際無いと思うが、いがりまさし著「山渓ハンディ図鑑6、増補改訂日本のスミレ」山と渓谷社刊をカメラザックに忍ばせて来たのである。私は学生時代に昆虫の分類に手を染めたから、植物やキノコだってやれば出来るという自信はあるのだが、手に取ってルーペ等で詳細に調べるのが嫌いなのである。やはり野にあるものは野にあってこそ美しいし、微細な差をああでもないこうでもないと調べる研究肌の人間では無く、フィールドに息づいている動植物、キノコを出来るだけ美しく撮りたいという情緒派なのだ。それに絵合わせで確実に種名が分かるものだけでも多摩丘陵には限りなくあり、それを美しく撮りさえすれば里山を十分表しえるとも思っているのだ。先だって山口県下関市に引っ越したご婦人に電話したら、「あらまあ、以心伝心かな。今、吉田さんの大好きな夏梅陸夫さんの本を開いていたのよ」とおっしゃる。夏梅さんは植物写真家としても一級だが、イメージ的な写真を撮らせても素晴らしく、また「花風景写真」というジャンルを築きあげた尊敬する大先生なのである。まあ言ってみれば、花も植物も昆虫も鳥もキノコも、みんな足元にも及ばないだろうが、夏梅さんのように撮りたいと思ってここまで来た訳である。
 そんな私が図鑑を忍ばせたのはUさんからのご指摘を受けたからで、本気で種名を確定しなければならないと思った訳である。しかし、近づいて見たらスミレを手に取ることも無く、ナガバノスミレサイシンとは異なったやや赤茶けた葉によって、すぐにヒカゲスミレであることが分かった。こうなればせっかく図鑑を持って来たのだからと、同所にある白い花のタチツボスミレを調べたら、タチツボスミレの一品種である牧野富太郎博士が箱根の乙女峠で最初に発見したオトメスミレであることも判明した。このようにその他各所にある各種のスミレを図鑑を開いて同定しまくった。今日同定したスミレは外来種のウィオラ・ソロリア(パビリオナケア)、ノジスミレ、ナガバノスミレサイシン、コスミレ、マルバスミレ、スミレで、少なくともこれらの種に関しては、あらゆる種名確定のための箇所を頭に叩き込んだから今後間違える事もなさそうである。どうせ暇なんだから今後も図鑑片手にとは思うものの、なにしろ野鳥撮影にも双眼鏡を持参しない人間なのだから、たぶんしばらくは本気になることは無いだろう。それにしてもスミレに興味があった訳ではないものの、短期間にずいぶん沢山のスミレを見て、心が豊かになった事だけは確かである。やってみれば何事も奥が深いが、どこにも奥に入らない所が私らしいなぁ等と他愛も無い事に感心しながら、ストーブのある暖かい我が家目指して帰途に着いた。

<今日観察出来たもの>花/ジュウニヒトエ(写真上右)、チゴユリ、イチリンソウ、ニリンソウ、クサボケ、コスミレ、ノジスミレ、マルバスミレ、ヒカゲスミレ(写真下左)、オトメスミレ、タチツボスミレ、ツボスミレ、スミレ、パピリオナケア(写真下右)、ナガバノスミレサイシン、カキドオシ、ムラサキケマン、シャガ、キュウリグサ、サルトリイバラ、クサイチゴ、ニガイチゴ、オオアラセイトウ、リンゴ(写真上左)、ナシ、アメリカハナミズキ、カイドウ等。鳥/キジ、オオタカ、ダイサギ、ウグイス等。


4月11日、東京都町田市小野路町〜小山田緑地〜I公園

 7日の石砂山で山頂直下の地獄の階段を登って大汗をかいてから、すっかり鼻と喉をやられてしまった。いわゆる風邪で、これで私も人並みだった事を証明したわけだが、やはりパソコンを買い替えてからの、各種設定のし直しやトラブルに対する深夜に及ぶ作業による寝不足が影響しているようだ。しかも、一昨日は、お役にたったのかは疑問のある団体から依頼されての舞岡公園での自然観察及び写真撮影会の講師、昨日は、またまた約束していた蝶大好き人間である従兄弟と石砂山へ行ったのだから、風邪が良くなる訳がない。そんな訳で今日はなんと延々と9時間30分も寝てから小野路町へ行った。本当なら今日は一日中蟄居しているのがベターなのだが、このつれづれ観察記が更新されないと楽しみにしている方々にすまないし、また、この時期の超スピードに変化する多摩丘陵の自然を撮り逃してしまうと思ったからだ。
 遅く起きたから小野路町に着いたのは午前10時少し前、これでは五反田谷戸、神明谷戸、万松寺谷戸等は回りきれないと、またしても美しい雑木林へ行った。ようやく遅れていたクヌギやコナラが芽吹き始め、ヤマザクラの花吹雪が時々舞う。この雑木林は良く陽が差し込むから、タチツボスミレやアカネスミレは花期を過ぎて、林床には目だった野草の花は咲いてない。しかし、各種の植物が芽生えて、いわば植物の赤ちゃんで一杯だ。かつて冬越しするタンポポやハハコグサ等の植物の姿(ロゼット)を写真に収めようとしたことがあるが、余りにも絵にならなくてやめてしまった経験がある。だが、掃き清められたように美しい雑木林の林床に芽生えた各種の植物はとっても可愛らしくて、みんな撮りたくなる。その中で今日は、ノブドウとフタリシズカの赤ちゃんを撮った。他に写欲を誘うものはないかなと雑木林を歩き回ると、なんと茎の長さが1cm程の長さしかないが、立派に花を一輪つけて咲いているフデリンドウをたった一つ見つけて、とっても幸福な気分になった。
 そんなとっても幸福な気分に浸っていると、無粋にも携帯電話が鳴った。日曜日なのに誰だろう?なんだろう?と出てみると、このHPの掲示板でもお馴染みの快速五反田号さんことMさんである。「今日は何処にいるんですか?」と聞くので、「美しい雑木林です。芽吹きが綺麗ですよ」と答えた。Mさんは五反田谷戸のヤマザクラの古木があるため池にいるという。「Uさんも来ているから変わります」と、このHPの掲示板でもお馴染みの谷戸ん坊さんことUさんに変わった。「吉田さんの影響を受けてスミレに凝ってます。今日、白い花のスミレをニリンソウの谷で見つけました」と言う。「マルバスミレでしょう」と言うと、「葉が丸くなくて細長い」と言う。「可笑しいな、あそこにある白い花のスミレはマルバスミレだけなんだけどなぁー。それでは待ち合わせて一緒に見に行きましょうか」とお誘いしたが、まだ予定のコースを歩きつくしていないと言う。Uさんはなんと15年以上にもわたって、ほとんど毎週日曜日の午前中に、同じコースを歩いて自然観察及び写真撮影を続けている、まるでドイツの偉大な哲学者カントのような律儀な方なのである。そこで「私も午後は小山田緑地へ行くので、一人で行って見て来ます」ということになった。
 まだこのHPの掲示板にご投稿はないが、相互リンクしている山口県小野田市のKさんがセンボンヤリを撮影しているので、多摩丘陵のセンボンヤリも開花しているのではないかと寄り道してみると、今が撮影しごろの適期であった。Kさんの撮影した山口県のセンボンヤリは淡いピンクだが、多摩丘陵のは純白である。センボンヤリは二回も花を咲かせる変わり者で、一回目はタンポポを小さくしたような花だが、秋にはまるで「千本槍」のように閉鎖花をたくさん伸ばす。これが結実して褐色の小さなタンポのような球形の綿毛となって、とても風情溢れるのだから、本当に何回も楽しませてくれる貴重な野花である。小野路町ではセンボンヤリはやや日陰になった余り他の植物が見られない急な斜面に生えているが、同じ斜面でも陽が射す所はたくさんの植物で一杯で、今日は立派で大きなクサボケが咲いていた。
 さてと時間も無い事だしイチリンソウ、ニリンソウの咲く谷へ降りて行くと、予期していなかったがイチリンソウ、ニリンソウがたくさん咲き始めていた。本当になんと春の変身スピードは速い事だろうと感嘆した。人並みに風邪など引いてはおられないわと思ったが、やはり喉が焼け付くように痛い。とりあえずニリンソウを無難に撮影し終わり、その近くの葉の上を見るとヒシバッタが鎮座している。ヒシバッタは上翅の斑紋が様々に異なることで著名で、今森光彦著「昆虫記」福音館書店刊では9種類紹介されているが、目の前にいるのは無紋褐色型である。気温があがると逃げ足が速いヒシバッタだが、微動だにしないから撮影はいたって楽だ。思わぬ拾い物をしたわいと顔を上げると、今度は苔むした古畳の上にチャワンタケの仲間が生えている。ニリンソウの根元に生えているわけではないからアネモネタマチャワンタケではなかろうが、まるで褐色の小さな湯飲み茶碗のようだ。これも撮影して、Uさんが言っていた白い花のスミレを探したところたくさん生えていたが、時間が無かったのでぱっと見で、ナガバノスミレサイシンと結論付けた。思わぬラッキー続きで時間があっと言う間に過ぎ、車に戻る途中、本家本元のスミレ、外来種のスミレであるパピリオナケアが咲いていたが、涙を呑んでこの次とした。
 午後からは小山田緑地へ行った。季節の良い日曜日だから駐車場は満杯である。もちろん目的はコツバメである。しかし、コツバメは2頭見たものの破損色あせが著しく、やはり発生後に一週間程続いた低温の日が影響したのか、順調な発生とはならなかったように感じられた。それでもルリタテハ、テングチョウ、ミヤマセセリ、それになんとカワトンボまでが出迎えてくれて、しっかり撮影し終わると、アミガサタケを探しに、このHPの掲示板でもお馴染みの森のきのこさんことKさんに紹介して頂いたI公園へ行った。しかし、くまなく探せども何処にも見当たらず、あったと思ったら樹木の実であったりしたが、思いがけずにツボスミレの群落に出会い。また、今年は諦めたはずのカリンの花が薄紅色に可憐に咲いていた。本当に今日はラッキー続きで、風邪を引いててもさすが「腐っても鯛」と、面目を躍如した一日となった。

<今日観察出来たもの>蝶/ルリタテハ、キチョウ、ミヤマセセリ、コツバメ、テングチョウ、ルリシジミ等。虫/ヒシバッタ、カワトンボ、シオヤトンボ等。花/フデリンドウ(写真上右)、イチリンソウ、ニリンソウ、センボンヤリ、クサボケ、マルバスミレ、タチツボスミレ、ツボスミレ、スミレ、パピリオナケア、カキドオシ、クサイチゴ、オオアラセイトウ、カリン等。その他/雑木林の芽吹き(写真上左)、ノブドウの芽生え(写真下右)、フタリシズカの芽生え(写真下左)


4月7日、神奈川県津久井郡藤野町石砂山

 人それぞれに春がやって来たと感ずるものがあると思うが、蝶が大好きな人間にとっての特別な存在は、なんと言ってもギフチョウである。ギフチョウは春の女神と称されるがごとく、可憐で美麗で、しかも一年間の春の一時にしか発生しない蝶なのだ。かつては高尾山から丹沢にかけてたくさんの生息地があり、多摩丘陵の北部でも見られたのだが、その姿が見られなくなって久しい。しかし、藤野町にある石砂山だけは急峻な地形と地元の方々の努力によって、多数の個体に出会えるのだから本当に嬉しくなる。石砂山のギフチョウの発生期は、例年、東京のソメイヨシノが散り始めた頃から約2週間位の間で、終期になるに従って、破損個体が多くなって来るのは各種の蝶と同じである。ギフチョウの幼虫は分布拡大力および成長力の弱いカンアオイの仲間しか食べないから、里山の管理放棄、各種の開発などの環境変化によって、すぐに食草であるカンアオイの仲間は消滅し、ギフチョウも住めなくなってなってしまうのである。石砂山のカンアオイはカントウカンアオイで、ちなみに新潟県はコシノカンアオイ、多摩丘陵はタマノカンアオイ、かつてのギフチョウの多産地であった厚木市の里山はランヨウカンアオイが分布している。このようにカンアオイの仲間は分布拡大の力が弱いために、各地で地理的変異が生じて、別種や亜種がたくさんある植物としても著名である。
 今日は今年こそギフチョウに是非会いたいという舞岡のKさん、舞岡のTさんも同行した。二人とも蝶大好き人間および昆虫大好き人間なのだ。ことにTさんは昨年秋にアケビコノハの幼虫に魅了されてしまって、ますます昆虫大好きの度合いを急速に高めている熟年男性である。「どうして蝶や昆虫が好きなの?」と主婦であるKさんに聞くと、「身近にたくさんいて、すぐ目の前で見られるから」との答えが返って来た。蝶大好き、昆虫大好き人間に「どうして」等と言う質問自体が野暮なのである。およそこの世の中で人が魅了される事柄は、中に入れば奥が深く、それぞれが素晴らしいものなのだが、蝶や昆虫も例外ではない。そこで自己弁護も含めて、かながわの自然図鑑A−昆虫−有隣堂刊のあとがきの一部に、「こんなにおもしろい世界を知った者からすれば、それを知らないで人生を過ごしてしまうなんて、あまりにももったいなく思えてくる」と書かれているが、これは大げさでもなんでもなく昆虫の世界はとても面白い世界なのである。なんと言っても日本には約10万種が生息し、しかも卵から様々に変態して成虫となり、その餌とするものも様々なのだから、人類が永遠に続いたとしても、すべての昆虫に関して理解することは不可能だろう。
 またしても前書きが長くなってしまったが、今日は牧馬峠からの道は急峻だから、もし事故でもあったら大変と、本来の登山道を登ることにした。篠原の部落に入るやいなや早くもギフチョウが一頭、車のフロントガラスを横切って行った。初めての方を連れて来て、もしギフチョウが発生していなかったらどうしようかなと思っていたので、ギフチョウのお出ましに胸をなぜ下ろした。車を邪魔にならない安全な場所に駐車し、登山口に通ずる道に入ると、道に面した斜面に白いスミレが咲いている。よく見ると葉にたくさんの切れ込みが入っている。この特徴からするとヒゴスミレかエイザンスミレになるが、どうも後者のようである。初めて見るスミレだから感激して撮影したかったのだが、心はギフチョウ、帰りに撮影すれば良いと歩を進めると、コツバメやミヤマせせりがお出ましになった。それでもやはり心は山頂、ギフチョウで、登山道に入ると山頂までの途中の陽だまりに、ギフチョウ、ミヤマセセリが現れ、植物ではヒトリシズカ、マムシグサ、シュンラン、カントウカンアオイの花が咲いているが、山頂を目指して休むことなく登って行った。やはり登山道も山頂近くになると急峻となり、高低差のある丸太で土留めされた階段を息せき切って登って行った。
 山頂に着くと誰もいない。時計を見ると午前11時で、それから1時位まで、Kさん、Tさん、私の三人が独占する石砂山山頂となった。山頂付近には常時3頭前後のギフチョウが舞い、これにミヤマセセリ、ヒオドシチョウが加わり、一箇所で各種の多数の蝶が舞っている光景は、今まで行った何処のフィールドでも出合ったことがなく、熱心に撮影するTさんの方を見ると、4、5頭の蝶にまつわりつかれているようにすら見える。蝶好きの方だったら、まるで竜宮城に行ったような気分になるに違いない。山頂のベンチに戻って来たTさんが、「ギフチョウは少しもじっとしていてくれない」とこぼす。信じられないくらいに多数のギフチョウが舞っていても、気温が高いと遊びまわることに忙しくて、とまって羽を開いてはくれないのだ。「去年もそうでした。もっと気温が低い日か、気温が上がらない午前中早くでないとだめなのかな。なにしろ、夏、秋、冬と落ち葉の下で蛹となってじっとしていたんだから、嬉しくって仕方がないんでしょうね」と、変にみんなを納得させる言葉を吐くのだが、私だってこの観察記に載せるための写真を一枚撮らなければならないのだから次第に焦って来る。
 「まあ焦っても仕方が無い。その内、一枚くらいは撮れるだろう」とたかをくくって、ノジスミレ、クロモジ、ヤマブキ、メギ等の花や蕾を撮影した。そんな事をしていたらすぐに昼食の時間となって、三人だけが独占する石砂山山頂食堂が開かれた。食事をしている間もギフチョウが何頭もやって来た。「中には止まるのが大好きな個体もいて、そんな気の良い個体をマークして、それだけを追っていると撮れる確立が高いんです」等と話していたら、本当に気の良い“止まり症”の個体がやって来て地面にぴたりと羽を開いた。茶褐色の地面にとまるギフチョウでは様にならないのだが、一枚も撮れないよりもましと、三脚を使って慎重に撮影した。午後1時を回る頃からギフチョウは少なくなって、登山客や同好者もやって来たので下山することにした。もちろん下山途中でもモミジイチゴに吸蜜に訪れた個体等に出会い。登山口から舗装された小道に出てもギフチョウがかなり現れた。「こんなことなら、ここにずっといた方が良い写真が撮れたかもしれませんね」と言うと、「ギフチョウの乱舞が見られたんだから、やはり山頂に行って良かった」とTさんが言うとKさんも頷く。「来年来るとしたら、もっと早起きして来よう」ということになって、「こんなにギフチョウが多いんだから絶滅なんか考えられないし、長生きしていれば毎年見られますから」と私が締めくくって、ギフチョウの良い写真は撮れなかったが、とっても満足の帰宅となった。

<今日観察出来たもの>蝶/ギフチョウ(写真上左)、ミヤマセセリ、コツバメ、キチョウ、モンキチョウ、スジグロシロチョウ、テングチョウ、キタテハ、カラスアゲハ、ヒオドシチョウ(写真上右)、ルリシジミ等。花/エイザンスミレ(写真下左)、タチツボスミレ、ノジスミレ、マルバスミレ、アマナ、ヒトリシズカ、マムシグサ、シュンラン、カントウカンアオイ、カキドオシ、モミジイチゴ、メギ(写真下右)、クロモジ、アブラチャン、クサイチゴ、オオアラセイトウ等。


4月6日、横浜市港北区新吉田町〜青葉区寺家ふるさと村

 お買い得の中古のパソコンを購入し、天気の良くなかった日曜日にセッティングしたまでは良かったのだが、OSが前に使用していたパソコンのWindows-MeからWindows-Xpに変わり、メーカーが一年たったら有料サポートのとんでもないS社製から、お使いいただいている限り面倒をみますよのNEC製に変わったので、色々なトラブルが生じて、このHPを一時見られない状況にしてしまった。そんな訳で午前9時にIBMやNECに電話をし、応急の復旧作業をしてから自然観察および写真撮影に出向いたので、まずは一番自宅から近い新吉田町へ行った。今日は残念なことに非常に風が強い。もちろん観察日が雨では困るのだが、キノコ屋さんはキノコの発生を促す雨に気を使っているようだが、動植物の撮影には風が非常に気になる。風が強ければ風にも微動だにしないキノコの撮影に専念すれば良いのだが、まだ、めぼしいキノコは生えていない。そんな訳で、風による揺れと悪戦苦闘しながらも咲き始めたナシの花を撮影した。
 ナシ畑の横には必ず品種の異なる野生に近いナシの木が植えられていて、この花粉が栽培するナシの雌しべに着いて、より良好な収穫が得られるのである。それを風任せにしていると確実性が低下するので、農家の方々は手で花粉を雌しべに着けて受粉率を高めるという重労働をこなしているのである。新吉田町は、第3京浜国道の都筑パーキングエリアが新設された際に、谷戸の水源が涸れて稲作栽培が出来なくなった。そこで田んぼの多くはナシ畑に変わったのである。横浜市の東北部ではナシ栽培が盛んで、「浜梨」と呼んでとても美味しい梨として有名である。ナシの花は大きくて真っ白でとても綺麗だ。同じバラ科のリンゴの花は、ほんのりとピンク色に縁取りされてこちらも綺麗で、これにやはりバラ科ボケ属のカリンの薄ピンクの花も加わって、まことに甲乙つけがたい果実の花が勢ぞろいする。花期的には横浜市ではカリン、ナシ、リンゴの順に咲く。こんなに美人ぞろいは宝塚少女歌劇団でもお目にかかれないに違いない。
 ナシの花を悪戦苦闘してなんとか撮影できたものの、終期に近いカリンの花は残念ながら撮影できなかった。雑木林に沿った小道を歩いているとアケビやアオキの雌花が咲いている。時折、雑木林に沿った小道にツマキチョウが弱々しく飛んで来る。毎年、ツマキチョウが飛ぶ季節は風が強く、たとえ午前中は風が弱くとも、午後から風が強くなるのが普通である。こんな天候はツマキチョウが消え去るゴールデンウィークまで続いて、このためもあって、雄の前羽表の鉤状に突出した部分にあるオレンジ色の斑紋を持つ、美しく可憐なツマキチョウの写真を撮るのは至難の技となっている。やはり丘の上の小道は風が強いとナシ畑に下りて来る途中、アカメガシワの幼樹がたくさん生えていて、その名のいわれとなった赤い色をした新葉が開いている。そこで特別美しく赤く染まった葉を見つけて慎重に撮影した。
 午後からは青葉区にある寺家ふるさと村へ行った。今は冬虫夏草に夢中になって、週末になると高尾山の蛇滝周辺で冬虫夏草を探し回っているNさんから、去年、アミガサタケをたくさん見つけたという場所を聞いていたので、もう出ているだろうと探索に行ったのだ。アミガサタケはキノコだから、この風でも微動だにしない。キノコの撮影は風には非常に強いものの、晴天だと梢から漏れる陽の光が地面に斑模様を作り、美しい写真を撮るためには黒い傘を持参しないと良い写真が撮れない。また、そのような日は背景が広く入る広角レンズによる接写は無理なのだが、春のアミガサタケの仲間は多くのキノコと異なって、比較的陽が当たる場所に生えているから、晴天の日にタチツボスミレ等の草花を取り入れて広角接写すると、春らしい暖かさに溢れた雰囲気ある写真が撮れるのである。
 寺家ふるさと村の田んぼに沿ったメインストリートは風が強いというのに沢山の人出で、休耕田ではセリ等の野草摘みの方々も大勢見受けられる。しかし、Nさんに教えてもらった場所は、誰もいないからのんびりと自然観察および写真撮影が出来る。寺家ふるさと村はいつも人出が多くてうんざりしていたが、あの道この道と裏道に入れば、まだ楽しい場所もたくさんあるようだ。生憎、今日はお目当てのアミガサタケは一本も生えていなかったが、寺家ふるさと村はスミレの宝庫で、今まで11種類の野生のスミレが見つかっているだけあって、マルバスミレ、ノジスミレ、タチツボスミレ、ナガバノスミレサイシンが咲いていて、しかも風が当たらない竹林下だったので、美しいスミレの写真がたくさん撮影出来たばかりでなく、伸び始めたモウソウチクの竹の子までおまけに付いて来てラッキーだった。
 各種のスミレの花を夢中に撮影していたら、竹林の持ち主がたくさんの竹の子を収穫して降りて来た。「ここにはここにしか見られない珍しい植物があるらしいね」と笑顔で言う。多分、その植物とは上記のスミレの中の一つだろうと思われる。「竹の子持って行かない」と勧められたが、刺身で食べたら本当に美味しそうな竹の子だったので、欲しいには欲しいのだが、ビニール袋を持っていないので残念ながら辞退した。なにしろ去年の夏の信州では、毎日、各種の果実を農家の人から貰ったように、何故だかは知らないが農家の人が農作物をあげたくなると言う特異なお得な性格の持ち主なのだから、これからはポケットに中身が見えないビニール袋を忍ばせておこうと決意して、寺家ふるさと村を後にした。

<今日観察出来たもの>花/ナシ(写真上左)、カリン、アケビ、アオキ、タチツボスミレ、ノジスミレ(写真下右)、ナガバノスミレサイシン(写真下左)、マルバスミレ、カントウタンポポ、キランソウ、オニタビラコ、ヘビイチゴ、カキドオシ、カタバミ、ミドリハコベ、モミジイチゴ、クサボケ、クサイチゴ、オオアラセイトウ、シバザクラ等。蝶/ツマキチョウ、モンシロチョウ、スジグロシロチョウ、ミヤマセセリ等。その他/アカメガシワの芽吹き(写真上右)、モウソウチクの竹の子等。


4月3日、東京都町田市野津田公園〜小野路町・図師町

 今日起きて見ると晴天で風が無い。昨日の強風はまるで嘘のようである。当初の予定では、早く起きて小野路町の美しい雑木林でかなりの時間にわたって写真撮影をするつもりであった。しかし、晴天で風が無く、しかも桜が満開となると何処かの公園へ寄って、ソメイヨシノを写してから雑木林へ行けば良いということになって、まず最初に野津田公園へ行った。だが、そんな思惑をあざ笑うかのように次第に風が強くなって来た。しかし、今日の風には強弱があって、かなり待たされるのだが、ぴたりと止む時がある。そんな訳で公園内のソメイヨシノを舐めるように一本一本見て回ったが、美しい絵がファィンダーの中に現われない。それなりに撮影する事は可能だが、サクラはやはり青空に抜きたいのである。野津田公園のソメイヨシノは満開で、風が吹くと花びらがたくさん落ちて来る。明日は一日中雨の予報だから、きっとだいぶ散ってしまうことだろう。またしても今年もソメイヨシノの美しい写真が撮れず仕舞いに終わるようである。せっかく野津田公園へ寄ったのだからと、カイドウとカリンが植えられている場所に行ってみた。カリンはまだ咲いていなかったが、カイドウが咲き始めていた。しかし、カイドウはサクラ以上に風に弱い。なぜなら花柄が細くてとても長いのだ。かなり粘っても花の揺れは止らない。しかし、ファインダーの中には美しい絵が映っている。そんな訳で本当に長時間待ちに待って撮影出来た時にはほっとした。
 かなりカイドウに梃子摺ったから、小野路町の雑木林に着いたのは午前11時となってしまった。27日に来た時よりかなり芽吹きが始まっているものの、やはりコナラやクヌギの芽吹きは遅く、雑木林の梢を通して満開のヤマザクラが美しい。さて今日は何を撮影しようかと雑木林の中をさ迷い歩くと、やや青味がかった緑色の地に黒い斑紋があるホトトギスの仲間の葉が、掃き清められた地面にたくさん広がっていた。ここでホトトギスを見たことがないので、多分、ヤマホトトギスの芽生えだろう。この雑木林の中にこんなにあったのだと、秋の開花を想像して嬉しくなった。次にコナラの実(ドングリ)から芽生えた芽が成長して、3cm程の長さの針のような細い幹になり、その先端に本葉となる芽が付いていた。なんだか「ドングリ君、かなり頑張ったね」等と声をかけてあげたくなり、もちろん写真も撮影した。多分、一年間でもう少し伸びるだろうが、たったの5cm位で冬を迎える事になるようだ。待てよ!そうなると下草がこれからぐんぐん伸びてくるはずだから、埋もれてしまって枯れてしまうのでわ? やはり実生からの成長は難しく、コナラは伐採による萌芽更新が確実のようである。それでも私が写したコナラの赤ちゃんがなんとか生き延びてくれたらと願いながら雑木林を後にした。
 雑木林ではアカネスミレ、タチツボスミレ、ニオイタチツボスミレが盛りで、ことによったらマルバスミレも開花しているかもしれないと、フデリンドの生えている場所を通って見に行くと、純白で清楚な花が咲いていてほっとした。このあたりで見られる白いスミレと言ったらマルバスミレだけだから、数が少なくなっているのが心配だが、毎年咲き続けて欲しいと願わずにはいられない。さあこれから何処へ行こう。五反田谷戸のヤマザクラの古木も開花していると聞いてはいるが、ここのヤマザクラを美しく撮りたいと思ったら、晴れの日なら朝夕の時間帯、しかも中判カメラ以上を持参しないと美しく撮れないだろう。だからこのHPの掲示板に度々ご投稿下さる快速五反田号さんや谷戸ん坊さんにヤマザクラは任せてとは思ったが、やはり見に行かないのもなんだか寂しいと五反田谷戸へ降りて行った。ヤマザクラは開花していたが蕾も多く、6分程度で、今度晴れた日が満開となるだろうから来週半ばまでが見頃のようだ。
 五反田谷戸には珍しく寺家ふるさと村をメインフィールドとしているK夫妻や、このフィールドで度々出会う、かれこれ20年近く足繁く通っているご婦人も来ていた。私はムラサキサギゴケ、ミヤコグサ、ヤマユリ、ツルボ、ノハラアザミ等のそれぞれの季節の野の花が満開になる時の方が好きだが、やはりヤマザクラの古木は人気の的であることは確かなようだ。その後、Kさんらに各種のスミレの咲いている場所を教えて貰ったので、今日はスミレツアーにしようと五反田谷戸を後にした。このあたり一帯にはコスミレ、ナガバノスミレサイシン、ノジスミレもあったのだ。まずはコスミレとマルバスミレが同時に見られる場所に行った。本当にKさんの言う通りにそこだけがコスミレの大群落で、足の踏み場に困る程咲いていた。また、マルバスミレは日当たりの悪いじめじめした所に生えるものと思っていたら、コスミレが咲くようなやや乾燥した開けた場所にもたくさんあったのには驚いた。スミレの詳しい図鑑は持っていないから分からないが、ことによったら日陰に咲くものと日向に咲くものとは別の種類なのかもしれない。
 次にもう花期は過ぎているはずだと言うナガバノスミレサイシンに会いに言った。Uさんの写真集「谷戸の四季」に美しい写真が載っていて憧れていたスミレである。教えて貰った場所に行くと、確かに大きな独特な葉がたくさんあるが、花は咲いていない。やはり花期は過ぎたのだろうと残念に思っていたら、一輪だけ路傍に咲いていた。花弁の半分より基部の方が純白な本当に上品なスミレである。カメラを向けると絵にはならぬものの、初めて多摩丘陵で出会ったナガバノスミレサイシンを舐めるようにして撮影した。最後にノジスミレを撮影すると今日のスミレツアーは無事修了した。もう一度今日見たスミレを列挙すると、スミレ、コスミレ、タチツボスミレ、ニオイタチツボスミレ、ツボスミレ、アカネスミレ、ノジスミレ、ナガバノスミレサイシン、マルバスミレの9種類となった訳で、これらにアリアケスミレ、アオイスミレ、ヒメスミレ、外来種数種を加えて14種類位が多摩丘陵に自生するスミレの仲間だと思われるので、今日はそのほとんどを僅かの時間で観察することが出来た訳である。本当に毎年のこの時期のスミレ探しが楽しくなった。

<今日観察出来たもの>花/シュンラン、フデリンドウ、スミレ、コスミレ、タチツボスミレ、ニオイタチツボスミレ、ツボスミレ、アカネスミレ、ノジスミレ、ナガバノスミレサイシン、マルバスミレ(写真上右)、タガラシ、ケキツネノボタン、ムラサキサギゴケ、カントウタンポポ、キランソウ、カイドウ(写真上左)、モミジイチゴ、クサボケ、オオアラセイトウ等。蝶/キアゲハ、ルリタテハ、キタテハ、ベニシジミ、ルリシジミ、ミヤマセセリ、ムラサキシジミ等。その他/コナラの芽吹き(写真下左)、ヤマホトトギスの芽生え(写真下右)、ワラビの芽生え等。



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