2005年:つれづれ観察記
(6月)


6月30日、東京都町田市都立小山田緑地

 今日は明日の国蝶オオムラサキ観察会の下見とばかりに小山田緑地に向かって車を走らせたのだが、行き先の雲はどす黒く厚い。しばらく走ると大粒の雨が降って来た。「最近の天気予報は当てにならないから、そのうち止むだろう。それに最近お疲れ気味だから、近くまで行って車の中で昼寝でもして待機しよう」等と考えながら野津田公園の駐車場に向かった。なにしろ愛車小野路号には常時布団が引いてあるのだから、とても気楽で便利なのである。先週末、南大沢のSさんが小山田緑地でオオムラサキを観察しているので、発生していることは確かなのだが、どうしても自分の目で確かめておかないと落ち着かないのである。無事に野津田公園の駐車場に着いたのだが、雨脚はだいぶ強くなり時折雷鳴まで聞こえる。しかし、車の屋根を打つ雨の音も遠くに聞こえる雷鳴も子守唄とばかりに、心地良くぐっすりと寝入ってしまった。
 目が覚めて時計を見るともうすぐお昼である。しかし、雨は相変わらず降っている。これではやはり引き上げだなと思い車を自宅方向に走らせたのだが、どうしても美味しいラーメンを食べたくなって、鶴川の和光学園前の「みそ家」に立ち寄った。いつもなら最も安価でシンプルな醤油ラーメンを注文するのが常なのだが、隣のお客がてんこ盛りのネギラーメンを美味しそうに食べているのを見たら急に食べたくなった。何しろ意志薄弱で他人に左右されてしまうのは昔からの習性である。そんな訳で醤油ラーメンよりも量が多く、充分に噛み砕かなければならない筋張ったネギがこれでもかとばかりに入っているから、ゆっくりと時間をかけて食べた後に外へ出て見ると、黒川から小野路町、小山田緑地にかけての上空だけ雲が薄くなり青空さえ少し見え始めた。周辺は真っ黒な雲が厚く低く立ち込めているというのにどうした訳か不思議な現象である。これを見たらもちろん一目散に、小山田緑地を目指して車を走らせたのは言うまでも無い。
 小山田緑地の駐車場に着くと案の定雨が上がっている。いざオオムラサキのいる本命場所へとも思ったが、途中、樹液が出ているクヌギを見回りながら行こうと余裕たっぷりと歩き出した。雨のためかたくさんのミミズが道路に這い出ていて、これを目当てにアオオサムシやオオヒラタシデムシが喰らいついている。普通なら人の接近を素早く感知して逃げ出すはずのアオオサムシだが、今日のご馳走はとても美味いらしくて脅しても付近に留まりじっとポーズをとってくれたから撮影は非常に楽である。このアオオサムシは多くのオサムシと同様に後ろ羽が退化して飛ぶ事が出来ないために、多くの地理的変異を起こしている昆虫としても著名である。石畳の坂にあるクヌギを見回ったがオオムラサキは発見出来ず、見晴らし広場まで行くと片隅にたくさんあるニセアカシアの幹からニイニイゼミの声が聞こえて来た。見ると根元近くにはたくさんの泥んこ坊やであるニイニイゼミの抜け殻がついている。幹を丹念に調べてみると、まるで幹に同化した様な今年初めてのニイニイゼミを発見した。この幹に同化した色合いこそニイニイゼミの長い進化の産物なのである。
 いよいよ坂を下った所がオオムラサキの集合場所である本命の樹液したたるクヌギの木が生えているのだが、残念な事に一頭だに見当たらない。しかし、そんな事では挫けない私だから、「青空も見え始めたから、そのうちやって来るだろう」と、運動広場の方に降りて行って散策すると、草原に羽化したばかりの美麗なヒメアカタテハがアカツメクサやシロツメクサに吸蜜していた。また、ヨモギに盛んに産卵している個体も見られる。今までヒメアカタテハの食草はゴボウやハハコグサと思っていたのだが、家に帰って図鑑を開いて見るとヨモギも大好きとある。ヨモギなら何処でも普通だから、今度ヒメアカタテハを飼育してみようと思った。更に草原上のシラカシ林に行ってみると、アンズタケを初めとした各種のキノコが生えていた。今までキノコでは小山田緑地を軽んじていたのだが、どうしてどうして大きな池もあるから湿度もあって、キノコの発生には絶好の緑地である事が分かった。また、オオムラサキの成虫(蝶)の主要な食べ物であるクヌギの樹液もこの湿度があるからこそ他所に比べて豊富に出るのだろう。
 さてそんな訳で充分に楽しみながら時間をつぶして、再度本命場所に戻ってみると、いましたいました大きな羽化したばかりの雌が1頭に、雄が3頭も集合しているではないか。なんとか羽を開いた青紫に光るものを撮りたいなと思ったが、待てども待てどもサービスはしてくれない。きっと今日私が素晴らしい写真を撮ってしまっては、明日同行する方々に失礼だよと言わんばかりに、オオムラサキも気を遣っているようである。こんなにたくさんオオムラサキが発生しているし、明日は天気も回復するだろうから、きっと参加する方々が大満足の国蝶オオムラサキ観察会になると確信し、参加者全員の嬉々とした顔と歓声がとても楽しみになった。そこで羽を開いた青紫に光る写真は潔く諦めて、心朗らかにな早上がりの帰宅となった。

<今日観察出来たもの>花/ハンゲショウ、ヤブカンゾウ、オカトラノオ、ホタルブクロ、ネジバナ、ネムノキ等。蝶/オオムラサキ、ヒメアカタテハ、ジャノメチョウ、サトキマダラヒカゲ、ヒカゲチョウ等。虫/アオオサムシ、オオヒラタシデムシ等。キノコ/アンズタケ、ツルタケ、カバイロツルタケ、ヒメカバイロタケ、オキナクサハツ、カワリハツ、ドクベニタケ、ニオイコベニタケ等。


6月28日、横浜市戸塚区舞岡公園

 今日は久しぶりの舞岡公園である。しかも、天気は一日中曇りとあるから良い作品が撮れるぞ!と心弾ませて出かけた。そんな気持ちが天に通じたのか、舞岡公園へ着くと駐車している車は一台も無く、小学校や幼稚園の遠足も無いらしくとても静である。早速、キタテハが瓜久保入り口の門の前で出迎えてくれたので、平凡なる写真だがシャッターを切った。門に沿ったカラタチの生垣を見ると、その実がゴルフボール位の大きさに成長している。アジサイの盛期は終わったようだが、植栽されているコムラサキの花が美しい。どうやら自生しているヤブムラサキより花期が遅いようである。河童池の方を見やるとネムノキの花が美しく、その手前の湿地には黄色いクサレダマが咲いている。夏の高原へ行くとクサレダマは普通だが、首都圏の丘陵地帯では見た事もなく、舞岡公園になぜあんなにたくさんあるのか不思議だ。舞岡公園の昔を良く知っている舞岡のSさんによると、前からあったとの事である。今度、この公園の責任者であるK女史に聞いてみることとしよう。
 様々な生き物が見られる舞岡公園だが、キノコに関しては観察するに足る好適な場所は少ない。ただ唯一、河童池横の暗がりに様々なキノコが顔を出す。今日もタマゴテングタケモドキ?を見つけたが、傘が小さく純白だから他の種類かもしれない。最近、多くの図鑑を開いても種名が分からないキノコばかりで、もうキノコの世界から足を洗おうかとも思っている。確かに多くのキノコ研究者のように、手にとって匂いを嗅いみたり傷つけてみたり、傘の裏のヒダ等の様々な種名確定に足る部分を写真に撮って調べれば、よりもっと種名判別が可能な筈だが、出来うるなら手に取らないでそのまま生え続けさせてあげたいと思うのである。そんな事を思いながらも美しい姿で静に自己主張するキノコを見つけると、パチリとやりたくなるのはどうしてなのだろう。しかし、今日は河童池の畔の散策路脇で、絶対種名を間違えることは無い腹菌類のサンコタケを複数発見した。地方へ行けばたくさんあるようだが、首都圏平地では比較的珍しい部類に入るキノコである。
 この河童池のある瓜久保の小さな谷戸は、舞岡公園でも屈指の道端自然観察の不思議な場所である。何処でもたくさんいるが余りにも小さいハンミョウであるトウキョウヒメハンミョウも河童池奥が一番いた。図鑑によってはタイワンヒメハンミョウと記載され、京浜地方と九州の小倉地方にのみ分布する変種をトウキョウヒメハンミョウとしている。どうしてだか実に不思議であるが、遠くはなれた地域に生息するものが似ているとは面白い。このトウキョウヒメハンミョウは小さいだけあって一戸建ての庭にもたくさん見られるのだが、気をつけないから“ただの虫”がいるという目で見過ごされてしまう。個体数は非常に多く、身近にいるにもかかわらず注目度が低いためか、子供向けの図鑑には割愛されて記載されていないという存在感の低い昆虫なのだ。しかし、写真を見ていただければ分かるように確かにハンミョウの形をしていて、その習性も良く似ているのだが、地表よりも葉上に見られるのが唯一の相違点とも言えよう。超美麗種のハンミョウや大型のニワハンミョウは自然度の高い場所でなければ見られないが、トウキョウヒメハンミョウは何処にでもいるのだから、もっと注目し観察して欲しいものである。
 以上のように瓜久保だけで本日の観察記に載せる写真は撮れてしまったので、尾根道にある三角畑へアカスジカメムシを撮影しようと道路へ出ると、舞岡のKさんが、今日は傑作写真を撮るんだという雰囲気で現れた。そこで“ようこそ”とばかりに、また河童池にUターンして各種の観察したものを指し示すと、「やはりサンコタケとトウキョウヒメハンミョウは、教えて貰わなければ私には気づかないわ」等と尊敬されてしまった。Kさんも年末の写真展に友情出展してくれることになったので、今日は何とか半切の大きさにも絶える作品を撮ってもらおうと、私も真剣に構図、絞り値、露出補正値をたっぷり指導した。その結果、三角畑で見つけたヒルガオの花に潜むクモが作品のモチーフとしては素晴らしかったので、わざわざザックからユニクロで買った折り畳みの傘を取り出して開き、柔らかい光が被写体に注ぎ込むようにと、いつもに無いサービスまでしてしまった。これでKさんの視力が正常なら、ばっちりとした写真が撮れている筈である。
 午後からは用事があるKさんと別れて、どうした訳か天気予報は見事に裏切られた晴天となったのだが、クワの古木で本日最大の目的たるトラフカミキリを見つけた。とても足場の良い場所にじっとしている。何しろトラフカミキリはスズメバチに擬態しているから、堂々と幹の上で自己主張していても、そう簡単には天敵が襲って来ないのだ。そこで様々な角度、レンズを駆使しての撮影を試みていたら、無粋にも携帯電話が鳴った。誰だろうと出てみると、私より唯一歳下のやはり年末の写真展に友情出展してくれることになった鎌倉のNさんだ。今いる場所とトラフカミキリの事を話すと、若いだけあって瞬時に現れた。「そんなに無理はしないで、2Lを数枚半切用の額内に入れたもので良いのですよ」と言うと、半切に挑戦するんだと言う。そこでクワの古木にじっとしているトラフカミキリは絶好の被写体とばかりに、またしても構図、絞り値等の即席講習をし、私の三脚も貸して頑張って貰った。これで最近怪しくなって来たというNさんの視力が正常ならば、ばっちりとした写真が撮れている筈である。以上、今日は道端自然観察及び写真撮影に来たのか、臨時無料写真撮影指導に来たのか分からなくなったが、目的のものは撮影したのだからまずまずと、瓜久保の水道で顔を洗ってから、さっぱりと目覚めての帰宅となった。

<今日観察出来たもの>花/ヤブカンゾウ、チダケサシ、クサレダマ、ダイコンソウ、ウツボグサ、キキョウ、ヤブカラシ、ヨウシュヤマゴボウ、コマツナギ、ハエドクソウ、オカトラノオ、ホタルブクロ、ドクダミ、ネムノキ等。蝶/クロアゲハ、キタテハ(写真上左)、ツマグロヒョウモン、コチャバネセセリ、キマダラセセリ等。虫/トウキョウヒメハンミョウ(写真下右)、オジロアシナガゾウムシ、コフキゾウムシ、トラフカミキリ(写真下左)、ウスバキトンボ、ショウジョウトンボ、オオシオカラトンボ、シオカラトンボ、トホシテントウ、アカスジカメムシ、チャバネアオカメムシ、ナガメ、キバラヘリカメムシ等。キノコ/サンコタケ(写真上右)、タマゴテングタケモドキ、イタチタケ等。その他/アオサギ、アマガエル、アオダイショウ等。


6月26日、神奈川県川崎市麻生区黒川

 愚痴っぽくなるのは歳をとった証拠だし、また、お天気の事を言うのはもう止めにした筈であるが、今日は絶えられない程に異常な蒸し暑い日である。それでもピーカンでは無く薄曇だから、今日はフイルムカメラの方に出番を願って作品作りに励んでみた。この掲示板にも度々ご投稿下さる快速五反田号さんこと町田市のMさんのなみなみならぬご尽力によって、年末の写真展に参加させて頂けるようになった。もう既に10年以上も前に、とあるマンション会社のショールームで、みんなお任せの盛大な写真展を開いて貰った事があるが、今度はお仲間が集まっての手作りの写真展だから、私もこのHPでは紹介しない隠し玉をひそかに用意して、みんなをあっと言わせてやるんだと子供心が湧いて来ているのだ。しかも、会場は私なんかにはもったいないほどの美麗なギャラリーだから、力が入るのは当然である。
 先日の新治市民の森での観察記で、「ヨウシュヤマゴボウやヤブカラシ等の日頃カメラを向けない花に、マクロレンズで超接写を試みたら、これが意外や意外、両者ともとても個性的な可愛らしい花であることが分かった」と記したが、頑張った割には天気が良くて今一だったので再挑戦してみた。ちょうど手ごろな高さのフェンスの上にヤブカラシがたくさん咲いていたので、慎重に背景を選んで撮影する事が出来た。写真を見れば分かるように、橙色の蜜を蓄えた花盤に4本のおしべが直立し、その真ん中にメシベが爪楊枝の先端のような格好で鎮座している。図鑑によると朝早くに花開いて、花弁もおしべも午前中にはすべて落ちてしまうとあるから、この写真は花弁が既に落ちてしまったものである。それでは写真にあるビンク色した花盤はどのような状態のものなのかと思ったのだが、生憎図鑑には書いてない。しかし、開花前ないし時間が経った開花後のものなのは確かであろう。いずれにしてもヤブカラシは「貧乏葛」とあだ名を持つくらいに馬鹿にされ嫌われている植物なのだが、こうして超接写してみると、なかなか美しい花である事が分かる。しかも花の蜜は非常に美味しいらしくて、あの美麗なアオスジアゲハや恐ろしいキイロスズメバチをはじめ各種の昆虫がたくさんやって来るのだ。馬鹿にされ続けた人生を送り続けている私だが、いつも心は錦と思っているから、なんだかヤブガラシにとっても親近感を持ってしまった。
 フェンスに絡むヤブカラシの花を撮影してから目を地面に落とすと、やはりもうすぐ夏、コマツナギが咲いている。なんとか美しく撮ってみようと思ったのだが、這いつくばってローアングルにしないと絵になりそうもない。今日は前述したように高温多湿だから這いつくばる元気が出ないばかりか、雑木林の縁の日陰が恋しくなって逃げ込むと、イノコズチに似た植物の花が咲いている。こんな花を撮影しても絵にはならないがと思ったが、目立たぬ花でも超接写してみると新たな発見があるかもしれないとカメラを向けると、意外と可愛らしい花であることが分かった。家に帰って図鑑を開いて見ると、ハエドクソウ(蝿毒草)なるその可憐な花に似合わないおどろおどろしい名前が付けられている。根を煮詰めた汁で蝿取り紙を作ったのだとある。更に図鑑を読み進むと、この植物はハエドクソウ科、ハエドクソウ属、ハエドクソウに分類されていて、なんと世界に1科、1属、1種の稀な植物であるのだとある。なんだこんな花を撮ってもと思ったのだが、調べてみればとても勉強になった訳だから、これからはフイルム代がかからないデジタル一眼レフの利点を大いに活用して、こんなものものも大いに撮影し、道端自然観察をより充実したものにしたいと思った。
 日陰の道端を注意して歩いて行くと、今度はなんと真っ赤なショウジョウトンボがドクダミの葉に止まっているではないか。「おかしいな、昨日雨だったから休んでいるのかな」と思って近づいても飛び立たない。しかし、生きている証拠に腹部を周期的に膨らませる。この動作はトンボで言ったら人間の胸と同じで呼吸している証拠である。昆虫には脊椎動物の肺にあたる臓器は無く、腹部にある気門と呼ばれる外界に開いた穴より空気を取り入れ、体内に張り巡らされている気管系によって血液に酸素を送る仕組みとなっている。だから、人間が胸を上下して空気を肺の中に取り入れ、血液中に酸素を送るシステムトはだいぶ異なるのだが、空気を体内に取り入れるにはやはりポンプ運動を腹部でしない訳にはいかないのである。だから、じっとしているショウジョウトンボは生きているのだが、どんなに近づいても飛び立ったりしない。これは撮影の絶好のチャンスなのだが、なんだかかなり重病に罹っているようで気が進まない。しかし、死んでいる訳では無いので美しく撮影して、あの世に送ってやろうとシャッターを何回も切った。ショウジョウトンボの止まっている路傍の傍らに目をやると、日影であるから花期も遅れ、実の熟すのも遅れていたヤブヘビイチゴが真っ赤に色づいて美しい。昨日の雨に洗われた緑の葉の中にあるのだから格別なのだろう。今年はヘビイチゴの仲間を撮影するのを忘れていたので、程良く絵になる部分を切り取ってみた。こんな平凡な写真では年末の写真展にはそぐわないが、自然の美しい部分を絞りをやや絞って素直に切り取るのもとっても好きだ。
 いつまでも日陰の小道を歩いていたかったのだが、もう車に戻る時間となった。リンゴ畑の小道を歩いて踵を引き返す途中、だいぶ大きくなったリンゴの実はもちろん、柿の実、梨の実、キウイの実、クリの実、民家から垂れ下がったミツバアケビの実と、様々な果実に出会った。いよいよギラギラと太陽が輝く夏がやって来て、より中身が充実し大きくなり甘くなって収穫へと進むのか思うと、自然の営みの正確な歩みの素晴らしさに、ただ感嘆して脱帽した。これからはじっくりと年末の写真展に向けて、ただしずしずと自然の営みに目を向けて、その感動を美しく切り取ってみようと黒川を後にした。

<今日観察出来たもの>花/ヤブカラシ(写真上左)、ヨウシュヤマゴボウ、コマツナギ、ハエドクソウ(写真上右)、オカトラノオ、ホタルブクロ、ドクダミ等。蝶/キタテハ、イチモンジチョウ、ムラサキシジミ、ツバメシジミ、ベニシジミ、キマダラセセリ等。虫/オニヤンマ、ショウジョウトンボ(写真下左)、オオシオカラトンボ、シオカラトンボ、オオニジュウヤホシテントウ、トホシテントウ、マダラアシナガバエ、ミサキオナガミバエ、トホシオサゾウムシ、スグリゾウムシ、セアカツノカメムシ、チャバネアオカメムシ、ナガメ、エサキモンキツノカメムシ等。その他/ヤブヘビイチゴの実(写真下右)、カルガモ等。


6月24日、東京都町田市小野路町・図師町

 毎度のように天気の事をぐちぐち言うのはもうやめにしよう。そんな事を気にかけていないで、その時の天候状況によって、フレシキブルに対応すれば良いのだとばかりに、マイフィールドたる小野路町・図師町へ行った。本当は今日のつれづれ観察記は書かないつもりでいたのだが、晴天続きであった為もあってか、一週間しか経っていないと言うのに小野路町・図師町のフィールドの様子はだいぶ変化していた。一口で言ってしまえば、梅雨の季節は終わって夏の兆しが各所に現れ始めたと言う事だろうか。蝶ではジャノメチョウがたくさん見られた。蝶の仲間で年に一回しか発生しない蝶を年1化の蝶と呼んでいるが、この年1化の蝶の割合が高ければ高いほど、そのフィールドの自然度は高いと以前に書いたと思う。このジャノメチョウも年1化の蝶で、夏になると現れる蝶の代表種である。ちなみに多摩丘陵で夏にだけ発生する蝶は、この他に国蝶のオオムラサキとホソバセセリが上げられるが、何処でも比較的多く観察できるのはこのジャノメチョウだけである。昆虫図鑑を開いて蝶のページに至ると、ジャノメチョウ科の地味な焦げ茶色の面々が紹介されていると思うが、その科名ともなっている代表種であるジャノメチョウは雄大で美しい。特にその蛇の目が青白色に輝いているのだから心憎い。今日はまだ発生初期であった為に、黒褐色の小型の雄が多かったが、ジャノメチョウはより雄大な雌の方が美しいと思う。ジャノメチョウの幼虫の食草はススキで、雑木林の中に点在するススキが大好きで、河川敷や土手のススキは及びでない様である。これはきっと成虫(蝶)の食物とも関係していると思われ、ジャノメチョウは各種の花の蜜ばかりかクヌギやコナラの樹液が大好きなのである。
 夏を告げる昆虫と言ったら数え切れない程あり、また、甲虫だけに絞っても数え切れない程あるのだが、夏の初めに発生する美麗なルリボシカミキリは忘れられない存在である。以前は多摩丘陵には生息しておらず、奥多摩や丹沢等の低山地にのみ見られた山里の昆虫であった。しかし、どういう訳かいつのまにか多摩丘陵にやって来て繁殖を開始した。今現在、多摩丘陵のどの辺りまで南下しているのかは定かでないが、多分、まだ小田急線より南には生息していないものと思われる。小野路町・図師町の雑木林では年を追うごとに個体数が増しているようで、昆虫大好き人間にはとても歓迎されている筈である。この美麗なルリボシカミキリに会いたかったら、道端に積んである広葉樹の丸太に注意すれば容易く観察できる。とは言っても、これからのギラギラと焼けつくような日差しはお嫌いなようなので、日陰か半日陰になるような場所に積んであるものが一番である。図鑑によるとリョウブの花にも集まると言うから、時期的には今がぴったりと言うことになるのだろう。また、黒色の斑紋は個体によって変化があるから、たくさんいたらそんなことも頭に入れて観察すると楽しいことだろう。
 今日観察した昆虫の中での特筆すべきものは、これ以外に、何と言ってもマダラマルハヒロズコガの幼虫であろう。まったく舌を噛みそうな長たらしい名前である。漢字で書くとたぶん「斑丸羽広頭小蛾」となるのだろう。すなわち角が丸い羽に斑模様があって、頭の幅が広い小さな蛾と言う意味で名づけられたのに違いない。図鑑を見ると確かにそう感ずる蛾であるが、お世辞にも美しい蛾とは思えない。しかし、この蛾を一躍有名にしたのは、まるでマメ科植物の種を思い起こす褐色の巣(袋)の中に幼虫が潜んでいるからだ。写真を見て頂くと幼虫が顔を出しているから巣と分かるが、幼虫が完全に巣の中に潜んでしまったら、一般の方はやはり植物の種としか思えない筈である。ちなみにこのように顔を出していても、驚かすとすぐに巣の中に潜んでしまって、待てども待てどもなかなか頭を出さない。ところで、この幼虫の移動方法だが、身体を伸ばして巣を手繰り寄せると言った感じで移動する。だからいつも身体の半分は巣の中にあると言う訳である。これまでも多くの昆虫の驚くべき擬態や生態を紹介して来たと思うが、このマダラマルハヒロズコガがどうしてこのような進化の道を辿ったのかを考えると、途方も無く不思議な感慨に浸る事が出来るだろう。突然変異によるところの適者生存等と言うダーウィン流の進化論では、とうてい説明は付きそうも無いのだが、皆さんはどうお感じになるだろうか。
 今日は昆虫では以上のような興味深いものをたくさん観察して、はや昆虫の季節である夏がやって来たと感じたわけであるが、これではキノコはもう姿形も無いだろうと思ったのだが、さすが小野路町・図師町の雑木林の懐の深さは他所と異なるのだろう。アシボソノボリリュウタケ、ツルタケ、タマゴタケ、コテングタケモドキ、ニオイコベニタケ等の他に、ベニタケの仲間を数種観察した。この中で一番嬉しかったのは写真こそ写欲が湧かなかったから撮らなかったが、真っ赤なタマゴタケである。少し小さめなものが一本、アズマネザサに隠れて傘を広げていた。前回来た時に観察したたくさんあったアワタケは跡形も無く忽然と消えていたのだが、代わって懐かしい様々な連中が顔を出しているのだから嬉しくなった。今年は今のところ梅雨も梅雨らしくは無く、何処も彼処もキノコが一杯という状況は見られぬものの、少数ながらも各種のキノコが発生すると言う小野路町・図師町の雑木林は、まことに期待を裏切ることの無い貴重な奥深いフィールドである事を、またしても実感してしまった。どんな天候が続こうが、こちらが自然に対して常に素直な求める心と感性を持っていれば、確実に多くのものが現れ出るのだと言うことを改めて感じさせてくれた。良く何にも無かった等と愚痴をこぼす方を目にするが、そんな方はやはり心構えや修行が足りないのだと心しょう。道端自然観察は男女の差、歳の差、氏素性の差、頭脳の優劣、視力の優劣等はまったく関係なく、聖書かなんかにあったと思うが、「汝いざ求めん、そうすれば与えられん」と言う事のようである。

<今日観察出来たもの>花/オオバギボウシ、ノアザミ、ミヤコグサ、ウツボグサ、オカトラノオ、ホタルブクロ、ドクダミ等。蝶/メスクグロヒョウモン、ルリタテハ、イチモンジチョウ、キチョウ、ミズイロオナガシジミ、ムラサキシジミ、ルリシジミ、ヤマトシジミ、ツバメシジミ、ベニシジミ、ヒカゲチョウ、サトキマダラヒカゲ、キマダラセセリ等。虫/ルリボシカミキリ(写真下左)、ハンミョウ、コクワガタ、カナブン、キマワリ、ヨツスジハナカミキリ、ゴマフカミキリ、マダラマルハヒロズコガの幼虫(写真上右)、ナナフシモドキ、オオニジュウヤホシテントウ、マダラアシナガバエ、ミサキオナガミバエ、ホタルガ、カシルリオトシブミ(写真下右)、トホシオサゾウムシ、オジロアシナガゾウムシ、ウリハムシ、クロウリハムシ、シロオビアワフキ、ミミズク、エサキモンキツノカメムシ、ホウズキカメムシ、ヤマサナエ、オオシオカラトンボ、シオカラトンボ等。キノコ/アシボソノボリリュウタケ(写真上左)、ツルタケ、タマゴタケ、コテングタケモドキ、ニオイコベニタケ等。その他/ヤマカガシ、アマガエル、ガビチョウ等。


6月23日、横浜市緑区新治市民の森〜横浜キノコの森

 いったい梅雨はどうしてしまったのだろう。晴天が続いた後に季節外れの大型の台風が上陸し、そしてまた晴天続き、いったい梅雨はどうしてしまったの?と首を傾げるどころか、もう梅雨は終わったのではなかろうかと諦めてしまう程のお手上げの状況である。6月8日のこのつれづれ観察記で、「気象庁からようやく梅雨入り宣言が出され、例年なら7月中旬まで梅雨明けはなかろう。と言う事は、これから約40日間も道端自然観察及び写真撮影の絶好機となるのだから嬉しくなる」と書いたが、本当に梅雨らしかったのは、梅雨入り宣言されてからのほんの1週間程であった。去年の今頃は梅雨らしい天候が続いて、何処へ行ってもたくさんのキノコが発生していたのに、今年は飽きれる程少ない。まだキノコの観察に関しては初心者だが、一年間の内で梅雨時と秋の半ばが発生のピークで、年に2回の発生の山があることが分かったが、その前半の山場がこの体たらくではとても寂しい。まあ、お陰さまで何でも観察し何でも撮影すると言う、大型スーパー並みの万屋人間だから、観察対象、撮影対象に困る事は無いものの、連日の高温とピーカンにはお手上げである。とにかくフィールドを散策する人間の息が上がって、へとへとにくたびれてしまうのだからどうしょうもない。
 最近、行きつけの写真店にフイルムの現像を依頼する量が減っている。それはデジタル一眼レフを使い始めた事もあるが、しっとりとした情緒溢れる梅雨らしい日々が無いから、フィルムで撮影する気になれない事も原因している。動きの素早い野鳥や図鑑的な昆虫やキノコの写真はデジタル一眼レフカメラで、花や風景や情緒的な昆虫やキノコの写真はフイルムでと使い分けを考えているのだが、ピーカン続きでは後者の出番が無いのが実情だ。フイルム撮影に於いては、何処のメーカーの機材を使おうが、その使用するフイルム特有の発色が得られるものだが、デジタルカメラになるとメーカーや機種によって、その発色が極端に異なるようである。私の使用しているメーカーのデジタル一眼レフカメラは、どうも花や風景、情緒的な写真における発色が今一である。もちろんPhotoshop等の画像ソフトを使いこなせれば良いのだが、その知識も時間も無い。デジタルカメラ専門家によると、その内に、フジフイルムベルビア色、コダックコダクローム色等のボタンを押すと、その様な発色に撮れるカメラが出現するかもしれないし、バソコンに於ける画像加工用ソフトにも、そのような簡易な画像編集が出来るものが出現するかもしれないと言うのだが、それまではフイルム、デジタル兼用の撮影が続く事だろう。
 そんな訳で今日も昨日のような台風一過の抜けるような青空ではなかったものの、ピーカンに近い空で気温も湿度も共に高い日となった。クリやクマノミズキの花が完全に終わったフィールドには、早くも赤いネムノキの花が咲いている。しかし、このネムノキの花はとても撮影の難しい花なのだ。カメラを引いて風景的に撮影すれば良いのだろうが、ある程度接近しての撮影となると、とても絵にし難いのである。ネムノキの花期は非常に長いが、それは一つの枝に次々と咲き続けるからである。しかし、一つの花が咲き終わると細い毛の束のような花はすっぽりと完全に落ちず、いつまでも未練がましく汚らしい褐色の枯れた状態で残っているのだ。これが良い写真にならない最大の要因なのだが、やはり木の花だけあって高所に花がつき、風による揺れにも弱いことも原因のようである。そんな訳で今日も良い写真は撮れなかったものの、これから咲き始めようとする蕾の状態を間近に観察することが出来た。写真では分かりにくいかもしれないが、あの細い赤い毛のようなものの先に、花粉の入った葯が付いている事が分かることだろう。やはり図鑑にあるように、今まで花弁だと思っていたものは雄しべであったのだ。
 ネムノキの観察が終わると新治市民の森まで来たと言うのにハンノキ林まで行く気が起きない。クリの花は完全に終わった事だし、ミドリシジミをはじめとするゼフィルスの季節は完全に終わったと思ったからだ。また、くどくなるがこの暑さの中の日向を歩く勇気なんて何処にも無い。しかし、入り口周辺を歩き回っているだけで、ヤブジラミにたくさんのアカスジカメムシを見つけたし、田んぼの畦にたくさん生えるヤブカンゾウの蕾には、ショウジョウトンボ、オオシオカラトンボ、シオカラトンボが止まってテリトリーを張っていた。また、ヨウシュヤマゴボウやヤブカラシ等の日頃カメラを向けない花に、マクロレンズで超接写を試みたら、これが意外や意外、両者ともとても個性的な可愛らしい花であることが分かった。咲き始めのネムノキの花もそうであったが、見方や撮り方を変えれば、日頃見慣れた野の花も、また違った魅力ある被写体となってくれることを再認識した。熱くて動き回れないから身近でつぶさにゆっくりとと言う今日の作戦は、フイルムを使えなかったから情緒溢れる写真は今一だったが、見事に成功したようである。
 午後からはいつものパターン通りに横浜キノコの森に行った。しかし、台風の影響による雨は降ったものの、その前がずっと晴れ続きであったから見るも無残な惨敗となってしまった。ここでこれだけしかキノコが見られないのだから、恐らく首都圏の何処のフィールドへ行っても同じ事だろう。ことによったらこのまま梅雨らしい長雨が無ければ、首都圏の梅雨時のキノコの発生はこのまま見られぬままに終わり、秋まで待たなければならなくなるかもしれない。キノコに挑戦してみて感ずる事は、その発生が天候に実に大きく左右され、身近に観察できるキノコでさえも載っていない図鑑が多いと言うことであった。しかし、なんとかツルタケとマンネンタケ等を発見しカメラに納める事が出来てほっとした。今日は見られたキノコも少なかったが、襲ってくる薮蚊もとても少なかった。やはりこの時期はじっとりとして薄暗く、薮蚊が嫌と言うほどたくさん襲って来るような天気が続かなければ、キノコばかりか道端自然観察も意気が上がらないと言う訳である。今週末は曇りや雨が多くなると予報されているので、週末全開となる為に身体を休めるための早帰りとなった。

今日観察出来たもの>花/ネムノキ(写真上左)、ヨウシュヤマゴボウ、ヤブガラシ、ホタルブクロ、ドクダミ、ナワシロイチゴ等。蝶/キチョウ、メスグロヒョウモン、ジャノメチョウ、ベニシジミ、ルリシジミ、キマダラセセリ等。虫/ショウジョウトンボ、オオシオカラトンボ、シオカラトンボ、アカスジカメムシ(写真下右)、トウキョウヒメハンミョウ、オオニジュウヤホシテントウ、キイロテントウ、マダラアシナガバエ、クロウリハムシ等。キノコ/マンネンタケ(写真下左)、ツルタケ(写真上右)、テングタケダマシ等。


6月20日、山梨県北巨摩郡白州町中山峠

 朝起きてみると清里ユースホステル周辺は深い霧が立ちこめ、ほんの少しだが小粒の雨が混じっていた。これでは予定していた八ヶ岳高原も深い霧の中だろう。なにしろユースが標高約1300メートルで、八ヶ岳高原はそれ以上の標高だから、ことによったら小雨混じりの霧かもしれない。しかし、新聞の天気予報をよると甲府地方は曇時々晴れとなっている。こうなったら、せっかく高原に来たというのに、標高をぐんと下げて、白州町の中山峠へ行くしかないと出発した。広大な八ヶ岳の裾野をぐんぐん下って国道20号線まで降りてくると、霧は完全になくなり曇り空となった。八ヶ岳の方を見上げると中腹以上は灰色の雲がかかっている。大型で強い台風が日本列島に近づいていて、山は荒れ模様だと予報されていたが見事に当たった。月曜日から昨日の土曜日までの首都圏は、梅雨だと言うのにずっと晴れ間続きで気温が高く、曇り空と涼しさに飢えていたから、外れっぱなしの天気予報など信じずにやって来た。しかし、今度はさすが台風、お見事と降参するしかない。
 国道20号線から中山峠へ通ずる林道に入ると、えんえんと長い道端自然観察が可能となる。首都圏の低い山の林道は杉や檜等の針葉樹が植林されいて、林道は昼なお暗き所が多いが、なだらかな山全てがコナラやクヌギを主体とした広葉樹だから林道も明るく、道端には様々な下草が生え、その葉上をじっくり観察しながら歩いていれば様々な昆虫に出会う事が出来る。最近、別荘地開発で開けて来て自然度はだいぶ減ったが、そのかわり不気味な日本猿の群に会わなくなったのは有難い。今日は久しぶりに野の花と思っていたのに、標高を下げてしまったので咲いている花も首都圏とさほどかわり無い。オカトラノオの咲き具合からして、首都圏よりいくらか遅いかなと言った程度である。もちろん本格的なる里山だから、ドクダミだらけと言うことは無く、ホタルブクロとオカトラノオが一番目立つ野の花であった。
 本意ではないが今日も道端の下草の葉上を蟻の歩く早さで注意して歩くと言う、このところずっと続いている昆虫観察パターンとなってしまった。それでもやはり山梨県白州町だけあって、イタドリの葉上には様々昆虫が見られた。そのトップバッターはテントウムシに擬態したイタドリハムシだ。春のイタドリの芽が伸び始めた頃が一番たくさん見られるのだが、まだかなりの数が見られるのは驚きだ。また、粉チョコレーをまぶしたようなカツオゾウムシもたくさんいる。その名の通りチョコレートの粉は次第に剥げて黒褐色のカツオブシ色に変わり果てる。たいていの昆虫図鑑には粉の完全に剥げた黒褐色のものが載っているはずだから、粉チョコレートをまぶした姿を図鑑に求めても見つからないことと思う。まったく湯上がり前と湯上がり後とでは想像もつかない程に変わるご婦人のようである。
 しかし、何と言っても緑色にぴかぴか光るドロハマキチョッキリが、今日のイタドリの葉上のスターだ。昆虫に興味を持ち始めた幼少の頃、何としても会いたいといつも念じていたものの一つである。最初に出会ったのは、ウスバシロチョウを探しにあきる野市五日市町の盆堀川の林道に行った時のことである。図鑑ではかなり大きく拡大されて載っているのだが、体長はわずか1cmにも満たない大きである。それでも緑色にぴかぴか光る美しさに飛びあがらんばかりの嬉しさだったの言うまでもない。その後、低山地や高原で極く普通の昆虫であることを知ったが、今日もマクロレンズを通して拡大された姿を見て、見飽きない美しさに感激した。
 この他、さすが自然度の高いフィールドだけあって様々な昆虫に出会ったが、特にキバネセセリとキンイロジョウカイが出色ではなかろうか。残念ながらキバネセセリは撮影することが出来なかったが、キンイロジョウカイはびくともせずに葉に静止していたから、思う存分あらゆる角度から撮影することが出来た。キンイロジョウカイはジョウカイボンの仲間では一番身体が大きく、写真を見れば分かるように金色に縁取らた羽は鮮やかな紫色である。実はこんなに長く自然観察をし続けて来たと言うのに、このキンイロジョウカイに出会ったのは今日が初めてだったのだ。今まで分布域は箱根の山から西の地域と思っていたので、はなから出会いを諦めていたのである。それがまさか南アルプスの山麓で出会うとは驚きである。蝶でもツマグロヒョウモン、ナガサキアゲハ、ムラサキツバメ等の西ないし南の地域のものが北上しているから、キンイロジョウカイもその流に乗ってやって来たのだろう。このように今まで見られなかった昆虫達が見られるようになって、昆虫好きには確かに幸せなのだが、これも将来危惧されている地球温暖化の兆候の一つなのだろうから複雑な思いがする。
 今日は目的であった涼しさも野の花も、八ヶ岳高原に行けなくて不発に終わった訳だが、ただ、舗装された林道を歩いているだけで様々な昆虫に出会うと言う、まさに道端自然観察の典型的な楽しさ一杯の一日となった。このような広葉樹に包まれた明るくほぼ平坦な林道がお近くにあれば、一年を通して定期的に通い続けることをお勧めする。様々な昆虫達が季節折々に出迎えてくれる事だろう。かつては何処にでもあった山裾の雑木林の小道だが、山はあっても山裾がなくなった高尾山のように、これからも各地で開発され失われて行くことだろう。生き物達はもちろんのこと、私のような自然大好き人間は山頂を極める訳ではないのだから、山があっても山裾がなければ魅力は激減してしまう。山間部における生き物の多様性に富んだ里山とは、まさにこの山裾なのであるからだ。

<今日観察出来たもの>花/ホタルブクロ、オカトラノオ、ナワシロイチゴ、ドクダミ、アカツメクサ、ツユクサ、クサノオー、ノアザミ、ヒレアザミ(写真上左)等。蝶/キアゲハ、オオミスジ、コミスジ、イチモンジチョウ、ルリタテハ、テングチョウ、ミズイロオナガシジミ、オオミドリシジミ、ベニシジミ、ルリシジミ、ダイミョウセセリ、キバネセセリ、オオチャバネセセリ等。昆虫/カワトンボ、ハラビロトンボ、コクワガタ、キンイロジョウカイ(写真下左)、ジョウカイボン、ゴマフカミキリ、キスジトラカミキリ、エグリトラカミキリ、ウスイロトラカミキリ、ドロハマキチョツキリ(写真下右)、カツオゾウムシ、コフキゾウムシ、マメコガネ、カタビロトゲハムシ、アカガネサルハムシ、キモンガ、トンボエダシャク等。その他/ウグイスカグラの実、モミジイチゴの実、ニガイチゴの実(写真上右)等。


6月18日、東京都町田市小野路町・図師町

 今日は三角畑に美麗なアカスジカメムシがたくさんいるという情報を頂いたので、舞岡公園へ行くつもりでいたのだが、天気予報を見ると町田市の方が曇る時間が長く、しかも風が弱いとある。こんな予報を見たら目がくらくらしそうな日向を歩くのにうんざりしていたから、もちろん町田市の方へ車を走らせた。しかし、着いてみると見事に天気予報は外れてしまってピーカンの青空で、おまけに風が強いという最悪なコンディションである。こうなったら、風の弱い木陰での昆虫観察及び写真撮影しかないと、それこそ蟻の歩く早さでゆっくりと植物の葉上に注意しながら観察して行くことにした。まず最初に見つけたのは極小のオトシブミであるカシルリオトシブミだ。これまでの観察によって、カシルリオトシブミはイタドリの葉が大好物であると思っていたのだが、外来植物であるオオブタクサを食べていた。そこで図鑑を開いてみると、イタドリ、フジ、カシ、ガマズミ等を食し葉を巻いて葉らんを作るとある。オオブタクサには葉らんは見当たらないから、成虫のみの食べ物なのだろう。
 次にやはりオオブタクサの葉にシロオビアワフキが鎮座していた。ヤナギ、マサキ、クワ、バラ等に寄生し、幼虫は樹液を吸ってお尻から泡をふいて身を守って成長するわけだが、オオブタクサにもたくさんこの白い泡が着いていたので、シロオビアワフキが寄生していたのかもしれない。しかし、この忌み嫌われているオオブタクサであるが、夏になるとたくさん見られるスケバハゴロモ等も養っているのだから、昆虫達には重要な植物と言えよう。実はオオブタクサを調べようと植物図鑑を開いた時、てっきりその葉の形からしてクワ科と思って探してしまったが、ブタクサと同様にキク科植物であった。ただし別名をクワモドキと呼ばれているのだから、その葉の形に騙されたのも無理はなかろう。その他、オオブタクサの葉にはオオニジュウヤホシテントウやマダラアシナガバエ、ミサキオナガミバエ等の常連さんばかりか、何とオオミドリシジミまで止まっていたのだから楽しくなった。きっとクズの葉と同様に微細な毛がたくさん生えていて止まりやすく、少しぐらいの風にも滑り落ちないに違いない。
 蟻の歩く早さでゆっくりと植物の葉上に注意しながら昆虫を探したのだが、やはり風の為か種類が少なく、この他、クズの葉に極小のタマムシであるクズノチビタマムシ、ツユクサの葉にトホシオサゾウムシ、ヘクソカズラの葉にとても美しいが極小のヘクソカズラヒゲナガアブラムシ、そしてどう言う訳かアワブキの葉にセアカツノカメムシがいた位であった。これだけでは今日は観察記に載せられる写真は無理だな。このHPにたびたびご投稿下さる鎌倉のOさんやKさんも馴染みのフィールドへ行ったら、花はドクダミだらけと言っていたが、まさにそのような惨状である。それでは風もあるしキノコだと、まずは毎年どういう訳だか知らないが同じ場所に生える、可愛子ちゃんキノコであるニオイコベニタケを探しに行った。色合いは私の大好きな桃の色、しかし、なんだか傘の格好と柔らかさは私の嫌いなマシュマロみたいにフワフワしているようだ。図鑑によるとカブトムシに似た匂いがあると言うので、今度、見つけた時は「すいません」と一声かけて摘み取って匂いを嗅いでみよう。
 これで花では無いが赤い色合いの写真がこの観察記に載せられると喜んで、雑木林の小道に入って行くと、何と黄色いイグチの仲間がたくさん生えている。たぶんアワタケではなかろうか。これはまことにラッキーな事で、これで赤についで黄色の写真が加わって、非常に賑やかになった。このように多様な動植物・キノコの宝庫である図師小野路歴史環境保全地域が、東京都の特別保護区になったと、組合長のTさん宅で栃木の鹿沼で買ったと言う鉢植えのカキランを見ながら、今日Tさんから聞いた。これで植物の盗掘や昆虫やキノコの採集が完全に出来なくなるとほっとした訳だが、それでも盗る人は盗るだから、今日これから何処へ何を探しに行ったかは書けない。でも、こう書いただけでこのHPをたびたびご覧になっている方には想像がつくと思うので、「来週一週間が最高ですね」とだけ記しておこう。そんな訳で何処かへ行って何かを見て来た訳だが、その後、今日はキノコデーにしようとキノコ山へ行った。キツネノカラカサと傘が黒く変色した巨大なベニタケの仲間が生えていた。
 最後に美しい雑木林に行くと、まだ完全なウラナミアカシジミに2頭も出会ったが、見つかったキノコはドクベニタケ位であった。しかし、キノコを探していると私の目に瑠璃色の光が閃光のように入った。見ると細いコナラの幹から染み出た樹液に、羽化したての美しいルリタテハが吸汁している。これは今日最大の収穫になるぞとばかりに、三脚を立てて地面に腰を降ろし、じっくり撮影準備に入った。なにしろルリタテハは羽を閉じていてはただのこげ茶色の地味な蝶でしかない。だから羽を開いて青黒い地に瑠璃色のストライプを見せてくれなければシャッターを押せないのだ。しかし、このように樹液を吸っている場合は、ハエ等が近づいた時にだけ羽を瞬時開くだけだから、シャッターの押しどころで写真の良し悪しが決まってしまう。開き始めも水平に開いた時も駄目で、45度位に開いた時がベストの写真となるのだ。しかし、そこはデジタル一眼レフカメラ、何回切ってもただだから気楽にシャッターを押して何枚も撮影し、その内の一枚を選べば良いのだから気が楽だ。そんな訳で、日向の暑さを忘れる雑木林をわたる涼しい風に吹かれながら、ずいぶんと長い間、ルリタテハに遊んでもらった。最初はどうなるかとはらはらの出だしだったが、終わってみれば、やはりなるようになる収穫多き、いつもの小野路町・図師町であった。

<今日観察出来たもの>花/オオバギボウシ、ノアザミ、ミヤコグサ、ウツボグサ、オカトラノオ、ホタルブクロ、ドクダミ、ナワシロイチゴ等。蝶/キアゲハ、ルリタテハ(写真下左)、イチモンジチョウ、オオミドリシジミ、ウラナミアカシジミ、ミズイロオナガシジミ、ムラサキシジミ、ルリシジミ、コジャノメ、サトキマダラヒカゲ等。虫/オオニジュウヤホシテントウ、マダラアシナガバエ、ミサキオナガミバエ、ホタルガ、カノコガ、カシルリオトシブミ、トホシオサゾウムシ、ウリハムシ、クロウリハムシ、セアカツノカメムシ、ヘクソカズラヒゲナガアブラムシ(写真下右)、シロオビアワフキ、ヤマサナエ等。キノコ/ニオイコベニタケ(写真上左)、ドクベニタケ、ツブカラカサタケ?、アワタケ?(写真上右)等。その他/シマヘビ、アマガエル等。


6月16日、神奈川県川崎市麻生区黒川

 今日もまた青空一杯のピーカンで、写真撮影には最悪な天候となった。天気予報を見ると土曜日まで晴れると言うので、何と6日間も晴れ間が続くことになる。梅雨の季節でなくとも、こんなに晴れの日が続くのは珍しいことだから、いったい地球はどうなってしまったのと不安に思えて来る。歳より身体も心もだいぶ若く見える私だが、急激な変化よりも平穏無事が一番有り難い。それに野の花も本当に少なくなり、この天候と相まって、植物派の方々の嘆き節が聞こえて来そうである。しかし、昆虫なら日陰を選んで丹念に各種の葉上等を探せばなんとかなるので、こんな晴天の日でも充分楽しむことが出来る。そのような雑木林の縁に沿ってえんえんと長く日陰が続くフィールドはそんなに多くは無いが、今日行った黒川は各所にそのような場所が点在しているから有り難い。また、これから夏を迎えてもそのような場所は昆虫観察には最適だから、その予行練習とばかりに各所にそのような場所を探しておく事をお勧めする。
 デジタルカメラが出現する前までは、そのような木陰での昆虫撮影においてはシャッター速度が極端に遅くなりマクロストロボの力を借りなければならなかったが、ISO感度を上げても画質に左程の劣化が無いデジタルカメラのお陰で、ノンストロボでもなんとかなるのだから素晴らしい。ちなみに今日の木陰での撮影で、中望遠マクロレンズでも充分な被写界深度が得られる絞りf8にし、画質劣化がほとんど無いISO400にセットすると、15分の1秒以上のシャッター速度が得られた。これ位なら手持ち撮影では手ブレが心配だが、三脚にカメラをセットして撮影すれば、極小の昆虫だって鮮明な写真が得られるのだから有り難い。もちろんそれ以下のシャッター速度となったらレリーズでシャッターを切ればよい訳だが、雑木林の中でのキノコ撮影ではないので、それ程の低速にはならないから安心だ。
 今日行った黒川で一番多く昆虫が観察できる筈の木陰の道端にまず最初に出向いて見ると、谷戸奥での畑造成が終わらないようで、そのため頻繁に工事関係の車が通って騒がしく、期待していた昆虫はほとんど見られなかった。昆虫達も休息には騒音や振動がお気に召さないようである。かつてここで羽化したばかりの美しいアゲハモドキや、多摩丘陵では珍品とも言えるクチナガチョッキリを撮影したのが懐かしい。今日は出だしが悪いなと感じたが、久しぶりに美しい雑木林に入って見た。早春の頃まではまるで掃き清めたような褐色の地肌であったが、各種の植物が繁茂して緑一杯だ。しかし、目ぼしい花も無く、晴天続きでキノコも頭を引っ込め、ゼフィルスの仲間も見られない。ただ、秋になったら楽しみにしているオヤマボクチ、オケラ、ヤマホトトギスが今年も順調に成長しているのに胸を撫で下ろした。
 少し発生時期からして遅いかなとも思ったが、ゴイシシジミを探しに尾根道へ行った。この尾根道は「よこやまの道」と名づけられて、延々と続く快適な緑道だ。今日は昼食を用意して来なかったから歩けなかったが、端から端まで、また交差する小道や一本杉公園等を覗いていたら、それこそ丸一日でも時間が足りなくなる道端自然観察の適地である。なぜ「よこやまの道」と名づけられたのかと言うと、古代にこの地域を勢力下に納めていた、武蔵七党と言う武士団の一つである横山党から来ている。この横山党は源頼朝が鎌倉幕府を開く時に助力したのだが、幕府成立後に起こった内部権力闘争の和田の乱に破れ鎌倉で討ち死にし、この横山庄は勝利を納めた大江広元の領地となったのである。そんな歴史に思いを寄せる事も時折通る鎌倉古道や随所にある案内板によって出来るから、道端自然観察のみならず魅力一杯の緑道である。そんな緑道で見つけた昆虫は、ウラナミアカシジミ、カノコガ、ホタルガ、ウスモンオトシブミ、トホシオソサゾウムシ等で、目的のゴイシシジミはやはりもう少し早い時期に来なければ無理のようであった。
 緑道をほんの少し歩いただけで国士舘大学裏からまた黒川の谷戸に下りて行った。ここにもホタルガがたくさんいた。ホタルガは頭部が赤く羽に一筋の白いストライプが入ってなかなか洒落た蛾である。もちろん、ほっほっホタル君に配色が似ているから名づけられた訳である。このホタルガを見つけたら辺りをぐるっと見回してみると、必ず幼虫の食樹であるヒサカキが生えている筈である。このヒサカキはとても強靭な植物で、小鳥等によって種子が運ばれる種子の散布方式の一つである鳥散布方式に頼っていて、また、余り光の射さない場所でもOKの陰樹だから雑木林の内部でもへっちゃらである。以前、このヒサカキを除去する里山管理のボランティアをしたと書いたと思うが、ヒサカキが繁茂しすぎると地表が暗くなって山野草が生育出来なくなるのだ。そんな事もあって、アズマネザサ、モウソウチクと並んで、美しい里山の雑木林を維持して行くための憎き植物となっているのは可愛そうな限りである。
 谷戸に降りて今度は田んぼに沿った日陰の小道を散策すると、アマガエルの若者がたくさん日陰で休息していた。写真のようにオタマジャクシ時代の尻尾の痕跡が残っているし、お腹も凹んで痩せているからすぐ若者と分かる。去年の長者番付の第一位は、ダイエット食品を販売する健康食品会社の社長さんだったが、どうして女性は写真のような若いアマガエルのように痩せたいのか、私には理解不可能である。カエルと人間とでは異なることは充分承知だが、やはりカエルはお腹がある程度膨らんでいた方がカエルらしい。このように思わぬ珍客と遭遇した後、枯れたモウソウチクが大好きなベニカミキリ、クズが大好きで死んだ振りの大得意なオジロアシナガゾウムシ、シロコブゾウムシ、コフキゾウムシ、昼寝の大好きな寝ぼけ眼の可愛子ちゃんであるセマダラコガネ等を撮影し車に戻ったら、何と羽化したてで美しいオオミドリシジミの雌が車の傍の葉上で休んでいた。以上のように例えピーカンでも木陰を丹念に見て歩けば、たくさんの昆虫達に出会え、おまけに涼しいし紫外線も少ないのだから、一挙三得の楽しさ一杯の道端自然観察が約束されていると言う訳である。昨日行った弘法山の木陰には昆虫が少なかったが、きっと黒川の木陰は水田が近くにあるからこそ、面白昆虫木陰となっているのだろう。

<今日観察出来たもの>花/オカトラノオ、ホタルブクロ、ドクダミ、ナワシロイチゴ等。蝶/オオミドリシジミ、ウラナミアカシジミ、テングチョウ、ルリシジミ等。虫/ホタルガ(写真下左)、カノコガ、ベニカミキリ(写真上右)、セマダラコガネ(写真下右)、オジロアシナガゾウムシ、シロコブゾウムシ、コフキゾウムシ、ウスモンオトシブミ、カシルリオトシブミ、トホシオサゾウムシ、トホシテントウ、オオニジュウヤホシテントウ、キイロテントウ等。その他/アマガエル(写真上左)、シュレーゲルアオガエル、カルガモ等。


6月15日、神奈川県秦野市弘法山・権現山

 梅雨はいったい何処へ行っちゃったの?と思うほどの晴天が昨日から始まって、どうやら今週は晴天の日が続くようである。昨日、出入りの写真店に寄ったら、マスターが「こんなピーカンの日は写真を撮る日じゃないね」と言っていたが、まこと同感である。実は昨日も舞岡公園に行ったのだが、仕事上での急用が出来た為に、午前中のほんの少しの自然観察のみのトンボ返りとなってしまった。しかし、舞岡のファーブルこと野庭のTさん、舞岡のKさん、鎌倉のNさんに久しぶりに会えたばかりか、オオミドリシジミにも遭遇したのだから、一回もシャッターを押さなかったが良しとしよう。そんな事もあって、今日はずいぶん期待しての弘法山・権現山になったはずだが、このピーカンではお手上げである。花ではアジサイ、ガクアジサイ、ホタルブクロ、シモツケ、オカトラノオ、ドクダミ、ナワシロイチゴ、クサノオーが咲いていたが、梅雨の花をピーカンで撮っても仕方が無いと匙を投げる。こんな日はキノコも美しく撮影できないから、それでは蝶よ昆虫よと日陰を中心に散策した。こんなピーカンの日は昆虫達も目がくらくらして暑いのか、日向に出ているものはキアゲハ位のものである。他の昆虫達は日陰で涼しくなるまで待機中と言う事なのだろう。
 いつも沢山の様々な昆虫が見られる場所も今日は完全店終いと言う状況で、また前回、ヒオドシチョウを観察した場所に行ってみると、1頭お出ましになったが、すぐに遠くに飛んで行ってしまった。また、とても美しい羽化したばかりのルリタテハにも出合ったが、こちらもあわてて遠くへ飛んで行ってしまった。まことピーカンでは蝶達も落ち着かないのである。こんな時は道端の日陰に積んである伐採した丸太に注意するしか無い。そう思ってエノキの丸太を丹念に見て回ると、青藍色の光沢のある地に3対の白点のあるヒラホシナガタマムシをまず見つけた。この白点は図鑑によると白い微毛が密生しているとの事である。ヒラホシナガタマムシは成虫はエノキの葉を食べ、幼虫は枯れたエノキの材を食べるというエノキオンリーの狭食性の昆虫だ。次に見つけたのはお馴染みのゴマフカミキリだ。こちらは各種の広葉樹の丸太に見られ、シラホシナガタマムシとは異なって雑食性の昆虫である。その地味な体色は、もちろん樹肌に溶け込むようにとの迷彩色である。どんな理由があろうと戦争には反対だが、戦争が行われている戦地の環境によって迷彩服の色と紋様が異なるように、昆虫達も潜む場所によって迷彩色は様々と言う訳である。
 今日の一番の収穫は何と言っても、やはりエノキの丸太上で発見した初めて見るアシナガオニゾウムシである。ゾウムシの仲間は近縁のオサゾウムシ科やオトシブミ科等を除いた狭義のゾウムシ科でも日本に1000種類位生息するのだが、その中でずっと会いたいと憧れていたのがこのアシナガオニゾウムシである。かなり大型で異常な程に前肢が長い特異な格好のゾウムシだ。図鑑によると夏に枯れたエノキに集まるとあるので、去年もずいぶん探し回ったのだが見つからなかったが、こんな匙を投げてしまったピーカンの日に、しかもお馴染みのフィールドである弘法山で見つけたのだから嬉しくなった。ゾウムシをゾウムシらしく撮影するのには、何と言っても象のような長い口吻を伸ばし触角を左右にぴんと張った姿だが、このアシナガオニゾウムシは顎を常に引いた格好で歩き回るからなかなか絵にならない。それでも3匹もいたからまずまずの写真は撮影出来た。この特異な格好のアシナガオニゾウムシも死んだ真似をするのかと試してみると、なんとなんとしっかりとかなりの長時間に渡って身を縮めて動かない。硬い外骨格にこの死んだ真似、ゾウムシの現在の繁栄の要因はそれに尽きるのだが、日本人は余りにもゾウムシ的で怒りを爆発させないから、一向に政治が良くならないのは困ったもので、例えば6年後に貰えた筈の年金が、いつのまにか65歳からの支給となってしまった。
 アシナガオニゾウムシを発見して気を良くし、今日はついているのかなとオオミドリシジミを探したが、オオミドリシジミだけでなくゼフィルスの仲間は一頭だに見つけることが出来なかった。それではヒノキの丸太に集まる金ぴかのマスダクロホシタマムシや、カラムシの葉上にいるはずの緑色の美しいラミーカミキリを探し回ったのだが、これらすべてに振られてしまった。ただ、路上に黒紫に光るセンチコガネを見つけて撮影した。センチコガネは動物の糞を食べる俗に言うところのフン虫である。エジプトでスカラベと崇められ、ファーブル昆虫記にも登場するタマオシコガネのお仲間である。センチコガネはもちろん糞を食べ、糞の下に穴を掘って糞を運び産卵するのだが、糞以外にも動物の死骸やキノコも食べる悪食家である。キノコに興味を持って探し回ると、誰の仕業か立派なキノコが倒れている事がよくあるが、始めの頃は心無い人間の仕業か傘の裏を見るために抜いたのかと憤慨したが、なんとこのセンチコガネによる仕業である場合も多いようである。午後からは例によって権現山の野鳥観察施設へ行ったが、ヒヨドリ、メジロ、エナガ、シジュウカラ等の常連さんしか現れず、またしても昨日に続いて急な仕事が入ったので、やもなく早上がりの一日となった。

<今日観察出来たもの>花/オカトラノオ、ホタルブクロ、シモツケ、クサノオー、ドクダミ、ナワシロイチゴ、アジサイ等。蝶/キアゲハ、モンキアゲハ、クロアゲハ、ヒオドシチョウ、ルリタテハ、テングチョウ、ルリシジミ等。虫/アシナガオニゾウムシ(写真下左)、センチコガネ、シラホシナガタマムシ(写真下右)、ゴマフカミキリ、ウスイロトラカミキリ、オオヒラタシデムシ、ヨコヅナサシガメ、ヤマトフキバッタの幼虫(写真上左)等。鳥/ヒヨドリ、メジロ、シジュウカラ、エナガ等。キノコ/オオワライタケ?(写真上右)等。


6月13日、横浜市港北区新吉田町〜茅ヶ崎公園

 今日も昨日と同様に天気予報に騙されてしまった。午前中は雨の筈だったが午前9時にはすっかり雨が止んだ。寝ぼけ眼で今日はどうしようかと考えあぐんでいると携帯電話が鳴った。日曜日なのになんだろう誰だろうと出てみると、この掲示板にも度々ご投稿下さる快速五反田号さんこと町田市のMさんだ。「今何処ですか?」と聞くので、「雨が降っていたからまだ自宅ですよ」と答えると、Mさんは早くも町田市図師町の五反田谷戸にご出勤で、薄日が差して絶好の光線状態であると言う。「こんな雨上がりの薄曇りの日は、写真撮影に絶好ですものね」と言うと、「雨に濡れたホタルブクロ等の草花も撮ろうと頑張ってます」との事であった。どちらかと言うと風景が専門のMさんが花を撮るなんて珍しいと思ったが、雨上がりの谷戸、まだ雫をしたたらせて頭を垂れるホタルブクロ、想像したただけで日本の梅雨風景が浮かび上がって来る。そんな魅惑的な風景や野の花が頭に浮かんで来たが、「今起きたところだし、身体も疲れているようだから行けたら行きます」と無粋な返事となってしまった。このところの天気の変化等もあって、カントのような規則正しい生活は乱れて、今日はなんとなく本当にかったるいのである。
 それでも支度が出来て自宅を出発したのはなんと10時となった。これでは遠くまで行ったら写真撮影に好適な午前中の光線を逸してしまうと、車で10分もかからない新吉田町の倉部谷戸へ行った。もうすでに何べんも書いたと思うが、開発が進んで昔日の面影は無いものの、少ない被写体を真剣になって「ああでもない、こうでもない」と作画するからか、かなり良い写真が撮れるのである。「近くに写真撮影に好適な場所がないから、なかなか良い写真が撮れないんですよ」等と言う方がいるが、確かに風景写真なら頷けるが、花、虫、キノコ等なら、その気になればどんな道端でも傑作写真は撮れると思っている。最も、そう言う私もより自然度が高い所へ出向いているのだから、そう大きな事は言えないのだが、それは本当の事なのである。そんな事を今日は実証してみせるぞとばかりに散策を開始した。
 まず最初に目に飛び込んできたのはザクロとクチナシの花だ。しかし、雫を垂れて情緒はたっぷりとあるのだがやや花期が過ぎ、雨に打たれてしっかりとした形の良いものが見当たらない。畑の片隅にはアルストメリア、ヘメロカリス、ルドベキア、ダリア等が美しいが、丹精込めてつくっている花園に入り込む訳には行かない。それでも、道端から咲き残ったハナビシソウとゼニアオイを何とか美しく撮影する事が出来てほっとする。ずっと雑木林や谷戸ばかりを歩いていたので、多くの園芸植物の花と疎遠だったのだが、気がつかないうちに早くも梅雨末期、あるいは夏の初めの花が咲き出しているのには驚いた。花は撮ったから今度は虫とばかりに目を向けると、この時期ならではのセマダラコガネが伸び始めたアレチマツヨイグサの葉の付根で休んでいる。セマダラコガネはいつも今日の私のようにけだるく眠そうな愛嬌者である。普通、これだけの取り合わせでは写欲は湧かないものだが、アレチマツヨイグサの葉の形が面白く、また、背景が美しいので、頂きますとばかりに慎重にシャッターを切った。更に歩みを進めた広大な植溜めにはウッドチップが引かれていたり、また、朽ちた丸太もたくさんあって様々なキノコが生えていた。
 そんな近場だが楽しさ一杯の散策をしていたら時計の針は正午を軽く回ってしまった。これからMさんのいる町田市に行ったらかなり遅くなるし、また、身体もだるくて国道246号線を超えてまで行く元気が湧いて来ない。そこで午後からは港北ニュータウンにある茅ヶ崎公園へ行くことにした。むろんMさんには「今日は246を越える元気が出ません」との旨の電話をした事は言うまでも無い。茅ヶ崎公園に着くと、まず最初に出会ったのはエゴノキの黒い幹に這っているカタツムリである。カタツムリなんて地方に行けばたくさん見られる筈だが、都市周辺では貴重な生き物なのだ。また、見つけたとしても歌のような顔出し角出しのでんでん虫では無く、殻の中に身を縮めた状態の単なる陸生巻貝では情緒もへったくれも無い。しかし、さすが今は梅雨、しかも雨上がりだからカタツムリもいたって元気である。以前、美しく咲くアジサイの花とその葉に這うカタツムリを撮るチャンスに恵まれたが、これも日本の梅雨風景の一齣としては最高で、ご自慢の一カットとなっている。
 私が月に一度、里山管理のボランティアに出かける茅ヶ崎公園生態園に立ち寄ってみると、雑木林の中には様々なキノコが生え、大きなイグチの仲間や小さな白い傘がたくさん寄り集まったかのように見えるイヌセンボンタケ、まるで私の大嫌いなコンニャクを薄く切って束ねたようなシロキクラゲなど様々なものが生えていた。これらのキノコを撮影し終わると、カワセミ君はどうしているだろうかと大原みねみち公園まで足を伸ばしたが、カワセミ君は今日もお留守で寂しかったが、早くも咲き出したハギの赤紫の花を撮影していたら、死んだ真似が得意の無抵抗主義者、平和主義者のシロコブゾウムシがたくさんいた。手を差し伸べるといつものようにポロリと地面に落ちた。こんな小さな生き物でも複眼で人の接近を知り得るのにはいつも感心する。虫けら等という軽蔑されたような呼び方をされる場合も多いのだが、一生懸命に生きているその生き様は、夢遊病者のような日々を送っている現在人よりも何倍も美しい。様々に傷ついた心をこんな小さな命に勇気づけられるのも道端自然観察の御利益、自然度の高いフィールドに行かなくとも、傑作写真が撮れ、しかも生きる勇気までも与えられるのだ等と超偉そうな事を言って、本日の締めくくりとしょう。

<今日観察出来たもの>花/ザクロ、クチナシ、アジサイ、アルストメリア、ヘメロカリス、ストーケシア、ルドベキア、ダリア、タチアオイ、ハナビシソウ(写真上右)、ゼニアオイ(写真上左)、ヒルガオ、ワルナスビ、ホタルブクロ、ドクダミ、クマノミズキ等。虫/セマダラコガネ(写真下左)、シロコブゾウムシ等。キノコ/ムジナタケ、イタチタケ、アミスギタケ、アラゲキクラゲ、キクラゲ、シロキクラゲ、イヌセンボンタケ、ヒダサカズキタケ等。実/エゴノキの実等。


6月12日、東京都町田市小野路町

 本当に梅雨時の天気って分からないものだ。今日は台風から変わった低気圧が通り過ぎて、風が強く午前中は雨と言う予報であった。これは幸いと朝寝坊して起きてみたら、陽が射しているのには驚いた。週末を楽しみにしている多くのウィークエンド・ナチュラリストの方に、こんな事を書いたら殴られそうだが、雨が降っていなかったり強風が吹き荒れていなかったり仕事が無かったりしたら、フィールドへ行かなければならないと言う掟を掲げて生活を続けているのはかなりきついものなのだ。たまにはこの掟を破って家でゆっくりしたり海へ行って釣りでもした方が良いはずなのだが、フィールドへ出かけないと何だか損をしたような気分になるのだから困ったものである。このHPも早くもアクセス数が3万に達する。これと言ってたくさんの方々と相互リンクをしている訳でもないし、途中から自分自身の雑記帳兼写真アルバムのつもりに方向転換してやって来た。最も唯一、「waiwai club」と言う掲示板だけは皆さんのご投稿があって、とても楽しいページになっているので、HPの更新を頻繁にやらなくともアクセスしてくれる方はいると思うが、これまた貧乏性の性格が災いして、暇があるとパソコンに向かってHPをいじっている。何だか職業が道端自然観察人、道端自然撮影人、HPいじくり人になってしまったようである。
 何だか日頃のうっぷんを晴らしてしまったが、今日はそんな訳で小野路町に着いたのは10時半となった。これでは午前中のコースを歩き終える前に腹の虫がぐーぐー鳴りそうなので、コンビニで買った草団子を胃袋に納めて出発した。小野路町・図師町はとっても広いから、このところ歩いていない牧場周辺を散策することにした。名勝万松寺の門前を右に曲がって六地蔵まで来ると、道端に置かれている丸太に、たくさんのアラゲキクラゲが生えている。キクラゲにしてもアラゲキクラゲにしても雨上がりにはたっぷり水を含んで美味しそうである。私は生えているキノコを手に取って、ルーペで覗いたり、匂いを嗅いだり、齧って味わってみたり、引き裂いてみたり、傷つけてみたりというキノコの種名判別法はほとん試みない。だから、キノコの種名判別はかなりいい加減なのだが、それでも確実に食べられるキノコを数種知っていて判別出来る。まさにこのアラゲキクラゲは、私でも分かる食べられるキノコの筆頭格である。それでも埼玉県に在住のマムシに3回も噛まれ、必ず胞子を顕微鏡で覗いて種名を判別し、また、夫婦揃ってキノコ好きの方が、私のキノコとのかかわりをほほえましく感じて頂いた。とにかく、いい加減でもキノコ好きは大歓迎と言う事なのだろう。太っ腹な人間で、本当のキノコ好きな方なのだ。
 そんな訳でアラゲキクラゲと六地蔵の前で挌闘していると、とっても感じの良いご婦人がカメラを下げてやって来た。「こんにちわ、何を撮影しに来たんですか?」と尋ねると、笑顔で「ほら、ここにある道祖神よ」と指差して言う。私は道祖神と言えば、道祖神と漢字で書かれた石柱と思っていたので、ご婦人が指差した神様か仏様かは分からないが、とにかく石仏が彫ってある小さな石柱(写真上右)はお地蔵様かその類と思っていたので驚いた。「石仏を写真に撮ったり、訪ね歩いたりするのがご趣味なんですか?」と聞くと、「石仏の写真集を出している先生に色々教わり、訪ね歩いているのよ」と言う。「野にある石仏って言うか、野仏って言うか、とにかく風情がありますものね」と、何べんとも無く各地で出合った石仏を思い出して言った。私は道端自然観察に精を出している訳だが、全国各地を歩いて野にある石仏を訪ね写真を撮るって言う趣味は、とても上品で優雅な趣味のように思える。私なんか蛇に脅され薮蚊に襲われ、地面に這いつくばって衣服を真っ黒に土で汚し、いつも長靴姿なのだから上品で優雅な趣味とは言いがたい。よくよくそのご婦人の顔を見ると、何だか菩薩様のように見えて来たのには驚いた。キノコ好きのご婦人の髪型が知らず知らずの内にマッシュルームカットになると言うから、ことによったら私の顔は昆虫に似て来ているのかもしれない。
 その菩薩様のようなご婦人としばし話した後、牧場目指して坂を上ってゆくと、オオアラセイトウの茎にもうすぐ羽化するスジグロシロチョウの蛹を見つけた。上翅の紋様が透けて見え、明日か明後日に夏服に着替えた姿で飛び出すことだろう。ここは春にたくさんのオオアラセイトウが花を咲かせていた所だが、もうすべてが褐色と変わり、熟した実は完全に飛び散っていた。モンシロチョウはキャベツ専門の蝶と化しているが、このスジグロシロチョウやツマキチョウは、野生種のアブラナ科植物を食し、最近では野生化しつつあるオオアラセイトウを好んで食べるようである。また、スジグロシロチョウとモンシロチョウの蛹の違いだが、蛹の上部のおでこのような部分がスジグロシロチョウは突出しているのですぐ見分けがつく。スジグロシロチョウの蛹を撮影して道を左手に曲がり坂を上がって行くと、いつも様々なキノコが生えるシラカシの朽ちた丸太がある。今日は何が生えているのかなと覗き込んで見ると、種名は分からぬもののクリーム色の柔らかい平らなまだ見ぬキノコが生えていた。
 この分で行くと今日もやはりキノコデーになってしまうかなと思っていたら、坂の中腹の畑の傍らに赤紫のクス球のようなアリウム・ギンガティウムが咲いていた。こんな横文字ではなんだかぴんと来ない。日本ではハナネギ(花葱)と呼ばれている葱坊主の親分である。図鑑によるとギンガティウムとは「巨大な」と言う意味で、このハナネギの葱坊主がネギ属の中で一番大きいから付けられたのだとある。そんな訳で牧場に着いたのは11時半にもなっていた。いつもここで撮影するワルナスビの花を撮る。本当に棘だらけの植物であるが、その花は純白で美しい。また、その実もミニトマトを更に小さくしたようでとても可愛いのだ。しかし、これが雑草として鎌でなど刈っていたら、とんでもなく痛い目に会う事だろう。さて花も撮ったし後は実を撮影して戻ろうと思ったところ、ちょうど良い具合にヒメコウゾの実がオレンジに色づいていた。図鑑には食べられるとあるが、じっくり試食する時間も無く車に戻った。午後からはニリンソウの谷、墓場下の朽木、万松寺谷戸、キノコ山、美しい雑木林と回ったが、各種のキノコや昆虫に出会ってまたまた充実した一日となった。

<今日観察出来たもの>花/ハナネギ(写真下右)、タチアオイ、ヒルガオ、ワルナスビ、ホタルブクロ、ドクダミ、ニワゼキショウ、クリ、クマノミズキ、ヤブムラサキ等。蝶/キアゲハ、ヒメアカタテハ、イチモンジチョウ、スジグロシロチョウ、ベニシジミ、ルリシジミ、ミズイロオナガシジミ等。虫/カノコガ、オジロアシナガゾウムシ、ヤマサナエ等。キノコ/オオホウライタケ、ムジナタケ、イタチタケ、アミスギタケ、アラゲキクラゲ、ヒイロベニヒダタケ、ヒメカバイロタケ、ヒトヨタケ、ネナガノヒトヨタケ、イヌセンボンタケ、ニオイコベニタケ等。実/ヒメコウゾの実(写真下左)等。


6月10日、横浜市緑区新治市民の森〜横浜キノコの森

 今日は平地産ゼフィルスの中で一番遅く発生するミドリシジミを求めて新治市民の森に出かけた。ミドリシジミは湿地に生えるハンノキの葉を食べて幼虫は成長する。だからハンノキが無ければミドリシジミに出会うことは不可能である。かつて溜池の周りや小川沿い、低湿地等にハンノキがいくらでも見られた。私が住んでいる港北区では、現在、南日吉団地になっている所が広大なハンノキ林であった。しかし、平坦な低湿地は土砂を運べば簡単に住宅地になってしまうから、まず最初に埋め立てられてしまった。それでも溜池の周りや小川沿いのハンノキは残っていたものの、あいつぐ宅地開発はそれをも許さなかった。今現在、横浜市や周辺で私が知ってる広大なハンノキ林が残っている所は、今日行った新治市民の森、舞岡公園、川崎市の早野霊園の僅か3ヶ所である。しかし、片手で数えられる程しかハンノキが生えていなくとも、その緑地の自然度が高ければ生息している場合が多い。このようにミドリシジミはハンノキが無ければ生息できないのはもちろんだが、必ずしもその過多で、その生息が左右されるとは言いがたいのである。国蝶オオムラサキもそうだが、幼虫の食樹と成虫の食物があっても、充分に広く自然度が高い緑地でないと生息出来ないようだ。
 今日の午前中の目的はミドリシジミ一本の筈たが、例によって丘の上の畑や栗林をさ迷い歩いてからハンノキ林へ行った。道端から観察できるものなら何でも御座れだから、畑の傍らに植えられている園芸品種のスカシユリやタチアオイを撮ったり、畑に咲くジャガイモの花を撮ったり、農道脇に生えていた可愛らしいキノコであるニセホウライタケを撮ったりしながら余裕しゃくしゃくと歩いて行った。この余裕は実は去年、ミドリシジミを新治市民の森で思う存分に撮影していたからである。去年の観察記にも書いたと思うが、強風が朝まで吹き荒れた日にハンノキ林に行ってみたら、複数のミドリシジミが撮って下さいとばかりに下草に降りていたのだ。しかも、羽化したての完全個体なのだからとても嬉しかった。ミドリシジミもオオミドリシジミと同じく雄の羽の表は緑色に美しく輝くのだが、オオミドリシジミと異なって、羽を開いて静止しているのに出会ったことが無い。一説によるとミドリシジミが羽を開く時間帯があって、それ以外の時間は常に羽を閉じていると言うのである。私は日中しかフィールドに行かないから、おそらく早朝とか夕方とかに羽を開くのかもしれない。日本産のゼフィルスは同一場所に生息していると、種類によって活動する時間帯が異なる場合が多い。これは限られた空間とクリの蜜等の食物を有効に活用するためのゼフィルス達の知恵で、このような時間的隔離によっても、生物種は進化を成し遂げて来たのだ。
 そう言う訳での余裕しゃししゃくだったのだが、ハンノキ林へ行ってみたものの1頭だにミドリシジミに会えなかったばかりか、今日はゼフィルスの仲間すべてに会えなかったと言う惨状であった。まだ、クリの花が咲き残っているのだからゼフィルスの季節は完全に去ったとは言いがたいが、やはり発生のピークは確実に過ぎたようである。それならば、さぞかし道端自然観察も写真撮影も目も向けられない程の惨状かと言うと、それは大間違いで、生き物達が一番たくさん見られる6月だから、蝶よ花よ虫よ茸よで、昼食の時間を1時間も遅らせる程の素晴らしい午前中となった。特に蝶達は新鮮で、ムラサキシジミが紫に輝く羽を広げて休み、ヒメジオンにはベニシジミの夏型が群がり、シロツメクサにはツバメシジミがライトブルーに輝く羽を広げていた。確かにゼフィルスのピークは過ぎたものの、これから次々と様々な蝶が羽化して来ることだろう。何しろ一年間で6月が一番多種類の蝶が見られる月なのだ。また、今日はカメムシもたくさんいて、久しぶりに十字架植物の好きなナガメやミズキが好きなセアカツノカメムシに出会った。来週は超美麗種であるアカスジカメムシを探しに、舞岡公園の三角畑に行かなければならなくなった。
 午後からはもちろん定番の横浜キノコの森へ行った。前にも書いたが横浜キノコの森とは私がつけた名前で、地図を探しても何処にも載っていない。キノコを食べるのが好きな方やキノコの研究家に知られると、私が撮るキノコが少なくなってしまっては困るので、あえて場所を隠していると言うわけである。今日は本当にこれは凄いと叫びたくなる程に各種のキノコが生えていた。何と36枚撮りフィルム一本と516メガのコンパクトフラッシュを使い切ったのだから、おそらく150回位キノコでシャッターを押した事になる。一番目についたのは立派な傘を持つカワリハツとツチカブリだ。傘の窪んだ所に昨晩の雨をたっぷりと蓄えていてとても風情があった。また、詳細に検討しないと種名は確定できないが、黄色の柄に触ったら青く色が変わった可愛らしいイロガワリの幼菌や、ここだけでしか観察したことが無いツチヒラタケが地面にクリーム色の花を咲かせていた。その他、撮って来た写真を図鑑やネットで詳細に調べなければ種名を確定できないが、余り出会えないサンコタケを始めダイダイガサ、シロホウライタケ、オオホウライタケ、ツルタケ、コツブヒメヒガサヒトヨタケ、ザエラノヒトヨタケ、ムジナタケ、イタチタケ、マンネンタケ等数え切れないキノコが生えていた。今日は目的のミドリシジミにこそ出会えなかったが、新治市民の森も横浜キノコの森も両森とも面白自然観察ワンダーランドで、帰宅時間が大幅に遅れてしまった充実した一日となった。

<今日観察出来たもの>花/スカシユリ、タチアオイ、ジャガイモ、ウコン、クリ、クマノミズキ、ヤブムラサキ(写真上左)、ホタルブクロ、ニワゼキショウ、オオキンケイギク、ムシトリナデシコ等。蝶/キアゲハ、キタテハ、コミスジ、イチモンジチョウ、スジグロシロチョウ、ムラサキシジミ、ベニシジミ、ツバメシジミ等。虫/ナガメ(写真下右)、セアカツノカメムシ、クロジョウカイ、カノコガ(写真下左)、ヤマサナエ、カワトンボ等。キノコ/カワリハツ、ツチカブリ、ツチヒラタケ、サンコタケ、ダイダイガサ、シロホウライタケ、オオホウライタケ、ニセホウライタケ、ツルタケ、コツブヒメヒガサヒトヨタケ、ザエラノヒトヨタケ、ムジナタケ、イタチタケ、マンネンタケ、アミスギタケ、アラゲキクラゲ、イロガワリ(写真上右)等。


6月9日、東京都町田市野津田公園〜薬師池公園

 今日は曇り日だが昨日と異なって気温も湿度もだいぶ低い。梅雨寒とは言えないものの、こんな日は野山を散策するのは至って快適である。本当は今日は少し仕事があったのだが、午前9時半に机を置かせてもらっている仕事仲間のTさんに連絡を入れると、「そんな少しの用件でわざわざ九段下まで出て来なくって良いですよ。僕がやっといてあげますから写真を撮りに行って下さい」と、まさに涙がこぼれんばかりの熱き友情のお言葉だ。そんな訳で自宅を出るのがだいぶ遅くなったが、野津田公園と薬師池公園を目指して出発した。梅雨の季節は梅雨前線のご機嫌一つで雨が降ったり晴れたりするのだから、天気予報など信用せずにいつもGOなのだ。もちろん最近はそんな無茶な事はしなくなったが、お天気待ちで一日中フィールドに停めた車の中で昼寝をしたり、小雨の中を傘をさしての撮影が懐かしい。
 撮影目的はもちろん梅雨の名花たちだ。昨日は野の花を追い求めたから、今日は園芸品種の花達だ。梅雨の園芸品種の花と言うと数多くあるが、有名なものから列挙すると、アジサイ、ハナショウブ、ビョウヤナギ、キンシバイ、クチナシ、ナツツバキ、タチアオイ等であろう。その中でまず第一に撮影したかったのはもちろんアジサイで、毎年、野津田公園の西口駐車場周辺をカメラをぶら下げて散策する。アジサイは伊豆半島に自生していたガクアジサイからの変種として作出され、江戸時代には西洋にも渡って様々な品種が作り出されている。手元にある相模原公園で頂いた相模原市が発行した「アジサイ」と言う立派なパンフレットを見ると、なんと141種類にものぼる品種が紹介されている。相模原市の市の花はアジサイなのだ。
 その中の品種名を列挙する事は困難だが、ガクアジサイ系統、ヤマアジサイ系統、エゾアジサイ系統、コアジサイ系統、ガクウツギ・コガクウツギ系統、タマアジサイ系統、ツルアジサイ・ヤハズアジサイ系統、ノリウツギ系統、外国種(中国種、アメリカ種)、西洋アジサイと大別されている。樹木に詳しい方なら、おおよその花形の見当がつく事だろう。私は試みる事は永遠に無いだろうが、少なくとも100種類位のアジサイの品種を尋ね歩き、カメラに納めるのも楽しそうである。ちなみに私が知っている多品種が見られる公園は、町田市の薬師池公園と相模原市の相模原公園である。そんな多品種に分かれていると知ってはいるものの、私がいつも撮影するのはガクアジサイ(ヤマアジサイ)と西洋アジサイの中のハンブルグである。ハンブルグはもちろんドイツ産で、酸性土では青、中性土ではピンクになる端正な品種である。
 もちろん野津田公園でその両方を撮影すると、今度は黄色の花であるキンシバイとビョウヤナギを撮影した。どんな種類の黄色い花でも、白と同様に撮影するのが一番難しい花色である。晴れていなくては花咲かない早春のフクジュソウは別としても、晴れた日に撮影すると花弁の微妙な模様や皺、おしべ、めしべ等がすっかり飛んでしまうのである。私達の肉眼だって、晴れの日にこれらの花を見るとただ眩しいだけだが、曇り日に見るとしっとりと落ち着いて目に入って来るのである。黄色い花の次は真綿のような花弁のナツツバキを撮影しようと散策したが、まだ、花期が少し早いようであった。しかし、芝生に目をやるとネジバナ(モジズリ)の螺旋階段が各所で見られた。野生のランの仲間はほとんど盗掘にあっているものの、唯一、ネジバナだけは被害にあっていないのは希少価値が無いからだけで、その花の美しさは梅雨空にこそ似合う。
 野津田公園でおおよその花を撮影してしまったが、この時期にどうしても撮影したくなる花がある。それはタチアオイだ。どうしてタチアオイが好きなのかは分からないが、なんだかロシアのチャイコフスキーのバレエ組曲「白鳥の湖」等に出てくる、踊り手のスカートのような色合いと格好と質感があるからかもしれない。そんなタチアオイがたくさん咲いている場所がある。それは薬師池公園から町田ぼたん園に通ずる道を登って行くと左手にある農家の庭だ。もちろん花の色や形も様々なものが植えられていて、おまけに近縁のゼニアオイまで植栽されているのだ。この農家の方は非常に花が好きなようで、いつ通りかかっても何かしらの花が見られる。また、その農家の横の広大な植え溜めには様々な花色のカルミアが一面に植えられている。しかも、畑の周りにはサクユリも植えられていて、ここからボタン園経由でダリア園まで歩くと様々な野の花や昆虫達に出会えるのだから素晴らしい。
 風に弱く撮影を梃子摺らせる花と言ったらたくさんあるが、野津田公園で撮影したネジバナやこのタチアオイは特別弱い。今日はお陰さまでほとんど無風状態だったから、背の高いタチアオイがファインダーの中でびくとも動かないのだ。無事にタチアオイが撮影出来て意気揚揚と薬師池公園へ向かうと、道路から見下ろす位置にクマノミズキの花が咲いている。よく見るとやはりミズキと異なって花柄がとても長い。これは千載一遇のチャンスとばかりに撮影し、薬師池公園に降りて行ったが、ハナショウブとアジサイのお花見の方達で、人、人、人の混雑ぶりだ。きっと鎌倉の明月院等もそうなのだろう。梅雨の花は梅雨空の下、一人で、孤独に鑑賞してこそ美しいのだ。そう感ずるとハナショウブも撮らずに、逃げるようにして薬師池公園から退散した。

<今日観察出来たもの>花/ガクアジサイ(写真上左)、西洋アジサイ(写真上右)、ハナショウブ、ビョウヤナギ、キンシバイ(写真下左)、クチナシ、ナツツバキ、タチアオイ、ゼニアオイ、スイセンノー、オオキンケイギク、ムラサキツユクサ、ホタルブクロ、ネジバナ(写真下右)、クマノミズキ等。蝶/モンシロチョウ、スジグロシロチョウ、キチョウ、ムラサキシジミ等。


6月8日、東京都町田市小野路町・図師町

 気象庁からようやく梅雨入り宣言が出され、例年なら7月中旬まで梅雨明けはなかろう。と言う事は、これから約40日間も道端自然観察及び写真撮影の絶好機となるのだから嬉しくなる。サラリーマン時代には週末しか休めなかった訳だが、有給を活用してなんとかこの絶好機を有効に活用した日々が懐かしい。今は仕事が無ければフィールドへお邪魔する事が出来るようになったが、それでも仕事の日はなるべく雨か晴れになるようにと祈っている。梅雨は今日のように湿度が高くじめじめした曇り日の方が梅雨らしくて最高である。久しぶりにサウナ風呂に入ったような高温と湿潤のフィールドを歩くのは、苦痛どころかむしろ快感である。生きているから汗をかくのだし、身体の調子が良いからそれを快感と受け止められるのだ。また、そんな日にこそ梅雨の花を梅雨の花らしく撮影できるし、蛇や薮蚊との遭遇は御免こうむりたいが、各種の蝶や昆虫達も生き生きと活動し、また、カビの季節だからこそ、その親玉的存在であるキノコもたくさん生えて来ると言う訳なのだ。
 そんな訳で3日前にピーカンの為に断念した梅雨の野の花を撮りに、今日は図師町の五反田谷戸を目指した。しかし、その前に「吉田さんは今年はついている。アカシジミ、ウラナミアカシジミ、オオミドリ、ミドリシジミ、ミズイロオナガシジミ、ヒオドシチョウと、この時期の蝶を美しく撮影出来て」と同行した新百合ヶ丘のAさんが言うので、それではと秘密の雑木林へ立ち寄ってからと横道にそれた。すると前方に色白のご婦人がドクダミの花を撮影している。近づいて見るとつくし野のTさんだ。日曜、月曜と雨だったからうずうずしていたようである。Tさんはすぐに帰らなくてはならないと言うので、付近で見つけたアカスジキンカメムシとタマゴテングタケモドキを指し示した。どうしてだか知らないが昆虫大好き人間がひそかに増えつつある。多分、野鳥は特殊な撮影機材が必要で一箇所で粘っていなくてはならないし、キノコは薄暗いじめじめした所へ行かなければならない。その点、花や風景を撮る機材で気軽にウォーキングしながら撮れるものと言ったら、やはり花虫撮るになってしまう訳である。
 Tさんと分かれてゼフィルスがたくさんいる雑木林に行ってみると、ウラナミアカシジミ、ウラゴマダラシジミ、オオミドリシジミが各1頭いただけで、3日前に比べると、いったいどうしたのだろうかと思う程である。あんなにたくさんいたミズイロオナガシジミが1頭もいないのだ。なんだか今年はゼフィルスの発生が早くて、桜の古木の下で弁当を食べる会があった5月30日が一番多かったようである。この日に参加出来た方は本当に幸せ者であったと言わざるをえまい。きっとゼフィルスは羽化するとしばらくの間じっと下草に止まって羽を乾かし、羽が乾くとクリ等の花の蜜を求め、あるいは結婚相手を見つけに羽ばたいて拡散して行くのだろう。そんなゼフィルスの習性をAさんと話しあった。しかし、1頭だけとは言え、Aさんにとっては今年初めてのウラナミアカシジミ、しかも破損の無い個体だったのだから、Aさんも私も何だかほっとした思いで雑木林を後にした。
 花の谷戸である五反田谷戸へ下って行くと、ノアザミ、ミヤコグサ、ウツボグサ、ニワゼキショウ、コモチマンネングサが出迎えてくれた。曇り日だからこれらの花が実にしっとりと見える。本当なら撮影が出来ないので困ってしまうが、霧雨降る中で見ると最高なのだ。微毛が生えた葉や花に小さな水滴が丸くなってたくさん輝いていると、今年も日本の美しい梅雨の季節がやって来たなと、うっとりと見入ってしまうのである。そんな各種の花を撮影していたら、可愛らしいショウリョウバッタの赤ちゃんがたくさんいて、ウツボグサの花に休んでいる。こんな光景を素直に背景を選んで撮影すれば、フォトコンテストの佳作位に入ることは間違いない。また、違うウツボグサの花にはヘクソカズラが絡んで小さな葉が開き、まるで花から小さな緑の羽が生えているように見えて笑ってしまった。蝶では羽化したてのキアゲハ、ツバメシジミ、メスグロヒョウモン、ルリシジミがいて、もちろん、乾いた休耕田の住人たるハンミョウやススキの葉には黄褐色のエビイロカメムシも鎮座していた。
 今日は少し風が強かったが、ほとんど無風で曇り日ならば、それこそ一日中ここにいて、マクロレンズのみカメラにつけて、面白いもの美しいもの感動するものを探し求めて散策すれば、きっとちょっとしたページ数の写真集がすぐに出来上がる事だろう。特に花と虫がセットになった作品が撮影できれば、花だけ、虫だけよりも自然を美しく表現できるし、もし、前述した水滴が輝いていたら、より一層感動を呼ぶ作品になるに違いない。まだ梅雨入りして僅かの日しかたっていないものの、あらためて梅雨入り万歳と叫びたくなった。後ろ髪を引かれる思いで五反田谷戸を後にし、神明谷戸からキノコ山、万松寺谷戸経由で車を停めた場所まで戻ったが、満開のクリの木の下にはアカシジミ、キノコ山には各種のキノコ、万松寺谷戸には各種の昆虫やクマノミズキの花が咲いて、何処を見ても観察するもの撮るものが一杯だ。そんな訳で36枚撮りのフィルム1本に、128メガのコンパクトフラッシュを使い切ってしまった。やはりこの時期は曇り日が最高なのである。

<今日観察出来たもの>花/ホタルブクロ、ギンリョウソウ、ドクダミ、ナワシロイチゴ、ノアザミ(写真下右)、ミヤコグサ(写真上右)、ウツボグサ(写真上左)、ニワゼキショウ、コモチマンネングサ(写真下左)、クマノミズキ等。蝶/キアゲハ、メスグロヒョウモン、ウラゴマダラシジミ、オオミドリシジミ、ウラナミアカシジミ、アカシジミ、ルリシジミ、サトキマダラヒカゲ、コジャノメ等。虫/コクワガタ、エビイロカメムシ、セアカツノカメムシ、エサキモンキツノカメムシ、アカスジキンカメムシ、カノコガ、ヤマトシリアゲ、ムカシヤンマ、ヤマサナエ、オオシオカラトンボ、シオヤトンボ、ショウリョウバッタの幼虫等。キノコ/ウコンハツ、ダイダイガサ、タマゴテングタケモドキ、ヒイロベニヒダタケ、ヒメスギタケ等。


6月5日、東京都町田市野津田公園〜小野路町

 今日は観察記を書かないつもりでいた。天気予報によると明日は曇りと言うことなので、町田市図師町の五反田谷戸へ行って、雰囲気あふれる風景やノアザミ、ミヤコグサ、ウツボグサ等の野の花を撮影して、このつれづれ観察記を豪華絢爛に花で飾る予定でいたのだ。しかし、無常な事に明日は雨。いったい今日こんなに晴れ晴れとした青空だと言うのに、何故、曇り日を挟まないで雨になっちゃうの?と不思議に思う。普通、晴れ後曇り後雨後曇り後晴れとお天気は循環して行くものとばかり思っていたので、快晴後雨と言う急激なる変化には首を傾げたくなる。これはおそらく梅雨前線の動き一つで、天気が大幅に変わってしまうと言うことなのだろう。まるで社長さんのご機嫌次第でリストラされてしまう中小企業の社員の明暗のようである。例え小さくとも会社はパブリックなものだから、自然現象のお天気とは異なって、急激なる変化は御免こうむりたいものである。
 そんな訳で、今日は二日続きのピーカンである。もう、日頃元気な私と言えども気分は完璧にしょ気てしまった。それに不精な男の代表としては、日焼け止めクリームを塗りたくるのは面倒だし、それに腰に薮蚊対策の金鳥蚊取り線香をぶら下げなくてはならないのだ。確かに晴れていれば日向には蚊はほとんどいないのだが、キノコだ樹液に集まる昆虫だとなると雑木林の中に入って行くから、待ってましたとばかりに薮蚊が襲って来るのである。以前、蚊にほとんど刺されたことが無いと言うボーイスカウトの団長さんに出会ったが、私の辞書には蚊に刺されない人間なんて書いていないのである。そんな訳で野津田公園駐車場に車を停めると、念入りに各種の対策を練ってから歩き始めた。雑木林に沿った小道を歩くと、日陰にアカシジミ、ウラナミアカシジミ、ミズイロオナガシジミが羽を休め、クズの葉にはシロコブゾウムシ、オジロアシナガゾウムシがお食事をしている。また、超美麗種のアカスジキンカメムシも発生期で各所に多数見られた。花ではホタルブクロがようやく咲き始めた位で撮るべきものが本当に少ない。
 雑木林に入って行くと、このところの快晴続きで地面も朽木も乾燥していて、キノコちゃんの姿は何処にも見当たらない。食べる訳ではないし深く研究するつもりも無いミーハーだが、キノコはその生えてる姿、立ち姿が独特で、その形も面白いものが多いから好きになった。それにキノコは、植物の花のように芽生え伸長し蕾が膨らみ等と言う成長過程等を経ないで、突然現れ突然消える。こん神出鬼没なところもとても気に入っているのだ。花の命は短くて等と形容されるが、花は咲き終わってもその植物体は依然地上に残るものの、キノコは忽然と消えた後には何も残らない。しかし、本当の事を言うと、地面の中や朽木の中に菌糸という白いカビのようなものが残っているのだが、私達の目に触れる事がないから神出鬼没に見えるわけである。理由がなくして起こるなんて事は自然界にはなにも存在しないのだから、そのうち地震だって完全に予知出来るようになるだろう。一番怖いのはやはり理由も無しに突如と変身する人間様(特に女性)が一番怖いのかもしれない。
 そんな訳で野津田公園にランの仲間だがランには決して見えない、まるでゴマやアレチマツヨイグサの枯れた穂のようなオニノヤガラを探しに来たのだが、オニノヤガラを発見出来なかったばかりか目ぼしいものに出会えず、ほとんど写真を撮ること無しに午前中は終了した。今日の食事はラーメンとばかりに中華料理屋へ行ったが、この暑さでは冷やし中華が食べたくなった。しかし、メニューを見るとラーメンは500円、冷やし中華は950円なのである。確かに冷やし中華には具がたくさんのっているから高いのはいたしかた無いのだが、約倍近い値段にはいつも眉をしかめてしまう。そのへんを知り合いの中華料理屋のマスターに聞いたところ、冷やし中華は季節物だからだという。何だか納得できるような出来ないような変梃りんな答えが返って来た。蝶の場合も、年に一回しか発生しないギフチョウやゼフィルス等は珍重されるが、常連さんの年多化の蝶は以下同文扱いである。まあ、年一化の蝶のように、冷やし中華も年に一回夏だけのの季節物と解釈すればなんとなく納得させられてしまいそうだが、やはりちょっと変である。いづれにしても冷やし中華はこの時期、ラーメンよりも確かに美味しかったのは事実である。
 午後からは小野路町へ行った。いつも車を停める道端には、シュレーゲルアオガエルのような色合いと格好のホンダフィットが停まっている。新百合ヶ丘のAさんの車だ。多くの生き物達に触れて思うのだが、様々な分野のデザイナーや工芸家、芸術家等は、各種のヒントを多くの生き物達(特に昆虫)から学べるのになぁ等と、ホンダのあのカローラを抜いて販売台数トップになったフィツトを見て感じた。確かにあの可愛いシュレーゲルアオガエルにフィットは似ているのである。最近益々蝶大好き人間となっているAさんは、各種のゼフィルスが飛んでいると思うと家の中にじっとしていられなかったのだろう。私も午後からはデジタル一眼レフに変えて午後のコースを一回りした。お墓の下の暗闇のシイタケのほだ木や伐採された木々が積んである場所に行くと、やはりキノコの穴場だけあって、ヒイロベニヒダタケやヒメスギタケがたくさん生えていて嬉しくなった。しかし、こんな場所はマムシ君が大好きな場所だから、恐る恐るの探索と撮影になったのは言うまでも無い。
 小野路町に来た途端、デジタル一眼レフに変えた途端、多くの被写体が現れて意気揚々と舗装道路に出てくると、可愛子ちゃん主婦の寺家のKさんが、ベレー帽を被ってやって来た。「ギンリョウソウ、イチヤクソウが咲いていますよ」と言うと、見たい撮りたいと言う事になって、またまたご案内役を承ることとなった。ギンリョウソウは今日がベストの状態で、一本だが形良く咲いていた。しかも、Kさんも蝶大好き奥さんだから、アカシジミ、ウラナミアカシジミ、ミズイロオナガシジミをたくさん見てとても嬉しそうだった。「今日、他に行かないでここにずっといれば良かった」等と感激して言う。まあ、こんな私だが、こんな事で人に喜ばれるのだから、この世に存在する価値は少しはあるんだと納得しての帰宅とあいなった。

<今日観察出来たもの>花/ホタルブクロ(写真上左)、イチヤクソウ、ギンリョウソウ(写真下左)、ドクダミ、ナワシロイチゴ、ノアザミ、アジサイ等。蝶/テングチョウ、ミズイロオナガシジミ、ウラナミアカシジミ、アカシジミ、ルリシジミ、イチモンジチョウ、サトキマダラヒカゲ、ヒカゲチョウ、ダイミョウセセリ等。虫/コクワガタ、カメノコテントウ、エサキモンキツノカメムシ、アカスジキンカメムシ、カノコガ、マダラアシナガバエ、ヤマトシリアゲ、ナガゴマフカミキリ、ヤマサナエ、ショウジョウトンボ、シオヤトンボ等。キノコ/ヒイロベニヒダタケ(写真下右)、ヒメスギタケ等。その他/クマヤナギの実(写真上右)等。


6月4日、横浜市戸塚区舞岡公園

 6月に入ってじめじめとした梅雨の季節となった筈だが、今日は抜けるような青空が広がった。先週末は前線が日本海上にあって太平洋高気圧に覆われていたから、同じ晴れていても気温が高く湿度も高いと言う夏のような天候だったが、今日は前線が太平洋上に南下して大陸の高気圧に覆われているから、晴れていて気温が上昇しても湿度が無くていくらかは過ごしやすい。とは言っても、この時期の写真撮影には最悪のピーカンだから、花も虫も日陰を狙って探し歩き撮影しないと、陰影のはっきりしたどぎつい写真となってしまい情緒の欠けたものとなる。だからと言って、日陰のものを狙うとシャッター速度は遅くなるのは当然で、撮った写真はコントラストが低く彩度の足りない写真となってしまう。こんな場合には、フイルムなら例えばISO50のベルビアのようなコントラストと彩度の高いものを、デジタルカメラなら現像パラメーターで彩度とコントラストを高めに設定することが望ましい。いずれにしても、三脚とレリーズがあれば出来るだけ使用したいものである。
 舞岡公園に来るのは約二週間ぶり位になるが、道端や草原の草刈が行われたようで、それを見ただけでピーカンの天候とも相まって気分はすっかりしょ気てしまった。昨日の弘法山と言い、この舞岡公園と言い、定期的に草刈が行われる所は、草刈前までと草がまた生え出した頃からが絶好の道端自然観察の適期と考えた方が良いかろう。自然のメカニズムや農作業上の理由からなら仕方が無いが、公園等は美観優先なのだから困ったものである。しかし、作業する方から言えば、梅雨があけて真夏の太陽が照りつける時に草刈をするのは、とんでもなく厳しい労働となるはずだから、今が適期なのだと言われれば、確かにそうであると頷ける。また、昆虫達や野の花は、人間側の勝手な草刈なんてなんのそので、毎年、季節になると現れ出て来るのだから、自然の生命力の強さにはいつも感服する。今日はそんな訳で草刈が行われていない雑木林の日陰になった小道を中心に散策を開始した。
 このような小道はメインの散策路から外れればいくらでもあるのだから、自分がここぞと決めたフィールドのあの道この道は、必ず歩いてみておくことはとても大切なのである。私のような何でも屋にはオフシーズンと呼べるような季節は無いのだが、一般的な道端自然観察のオフシーズンである冬に、見るもの撮るものがなくとも、探検家になった気分でフィールドをさ迷い歩く事をお勧めする。今日はそんな日陰の道端で、蛾では腹部がとても細長いからその名がついたと思われるトンボエダシャクや、羽の鹿の子模様が印象的なカノコガを見つけた。カノコガはもう一回発生するとは言うものの、トンボエダシャク、キスジホソマダラ、マドガ等と共に、この時期の忘れられない蛾である。カメムシの仲間もたくさん見られるようになって、今日は超美麗種であるアカスジキンカメムシやアカスジカメムシは見られなかったものの、背中にクリーム色のハートマークをつけたエサキモンキツノカメムシやチャバネアオカメムシ等が見られた。エサキモンキツノカメムシとはとても長い名であるが、昆虫学の大先達である故江崎悌三博士にちなんで名づけられたものである。
 昼食は鎌倉の宇宙人集団のご婦人達等と瓜久保の家のミツマタ横のベンチでと言うことになっているが、こんなに太陽光線が強くて気温が高いと、日向にいるだけで身体が参ってしまう。そこで河童池の木陰のベンチで弁当を食べる事にした。このベンチの前にはヌルデの古木がある。前々回は見られたが前回は見られなかったので、もう何処かにお引越しかなと考えていたあの奇怪なマダラアシゾウムシが、自分と同じ仲間である奇怪な鎌倉の宇宙人集団のご婦人達と仲良くしたいと思ったらしく2匹も幹に這っていた。やはり類は友を呼ぶということわざは本当のようである。そればかりで無く今日は無心になって目を輝かせる、このHPの掲示板に度々ご投稿下さる“かぼちゃさん”こと鎌倉のKさんが大活躍で、「この虫は何と言う名前ですか」とデジカメの液晶ディスプレイを見せるので覗いて見ると、そこには憧れのミドリシジミが写っているではないか。こうなっては蝶好きの面々は、「何処、何処、何処」と色めきたつ。ここよとばかりにご案内願うと、羽化したばかりのミドリシジミがコナラの葉に止まっていた。もちろん、傍らには食樹であるハンノキがあった。
 次にまた鎌倉のKさんが、「この虫は何と言う名前ですか」とデジカメの液晶ディスプレイを見せるので覗いて見ると、今度は今まで見たことが無いカミキリムシが写っていた。山地に行くと見られる薄緑色の美麗なヤツメカミキリを褐色にしたようなカミキリだ。帰って図鑑を開くと、黒い斑紋の数や位置からやはりヤツメカミキリだ。そこで更に図鑑を良く読んで見ると、ウメ・サクラ・シナノキの老木・枯れ木等に集まり、体色はウメノキゴケに良く似ているとある。どう見ても薄緑色のウメノキゴケに体色が似ていないので、ヤツメカミキリとは判別出来なかった訳である。まあ、ウメノキゴケもからからに乾くとやや黄褐色を呈して来るし、低地ではこのような色になるのかもしれない。それにしても鎌倉のKさんは、こんなに多くの昆虫を見つけると言う事は、ことによったら虫愛ずる姫君の血筋を引いているのではなかろうか。それは冗談にしても、正真正銘の昆虫好きになる可能性があるのかもしれない。
 そんなこんやで野の花はやっと咲き始めたホタルブクロ以外には見るべきものはなかったものの、例え草刈が定期的になされても、やはり舞岡公園は面白昆虫公園を証明した訳で、この他、ショウジョウトンボ、オオシオカラトンボが池に、ヒメシロコブゾウムシがヤツデに、アカガネサルハムシがノブドウに、カミキリムシではキボシヒゲナガカミキリ、アトジロサビカミキリ等と言った具合で、例えピーカンの日和と言えども、丹念に探し歩けば各種の蝶や昆虫に出会える事が実証された。しかし、いかんせん観察するこちらの方が参ってしまっては元も子も無い訳だから、今度行くときは梅雨寒の曇り日にしたいと思っての夕暮の散会となった。

<今日観察出来たもの>花/ツユクサ、ホタルブクロ、ハタザオ、キケマン、イモカタバミ、ドクダミ、シモツケ、ヤマボウシ、クリ等。蝶/クロアゲハ、アゲハ、ゴマダラチョウ、キタテハ、イチモンジチョウ、コミスジ、アカシジミ、ミドリシジミ(写真下左)、ウラゴマダラシジミ、ルリシジミ、コジャノメ、ヒカゲチョウ、サトキマダラヒカゲ等。昆虫/マダラアシゾウムシ、ヒメシロコブゾウムシ、ハスジカツオゾウムシ、コフキゾウムシ、キボシヒゲナガカミキリ、、ヤツメカミキリ(写真上左)、アトジロサビカミキリ、アカガネサルハムシ(写真下右)、ジンガサハムシ(写真上右)、ショウジョウトンボ、オオシオカラトンボ、エサキモンキツノカメムシ、チャバネアオカメムシ、トンボエダシャク、カノコガ等。


6月3日、神奈川県秦野市弘法山・権現山

 前回、弘法山へ行ったのが5月25日だから、9日ぶりと言う事になる。この9日間をどう見るかだが、今の季節に於いては、ほんの少し間が空いてしまったように感じられる。前回、行った時にはまだ青かったビワの実がオレンジ色に色づき始めて、とても美味しそうである。また、あちこちに植栽されているアジサイも色が濃くなり、梅雨時の花であるホタルブクロ、シモツケが咲き始めている。前回行った時に満開だったサイハイランが盗掘に会っていないかと見に行くと、すっかり花は枯れていたが無事に残っている。この分なら来年まで盗られずにあるだろうから、来年こそはベストショットを狙いたいものである。まったく例年飽きれる程に、この時期になるとまるで他のフィールドが目に入らないかのように弘法山詣を繰り返している。いつ行ったって面白山なのだが、見たいもの撮りたいものが、この時期に殊にたくさん現れるのだから仕方が無い。
 今日はいつも車を停める“めんようの里”の弘法山第一駐車場では無く、尾根道の広場に停めた。午後からは重たい野鳥用撮影機材を権現山の野鳥観察施設まで運ばなければならないので、ここが一番好都合なのである。しかし、車は5台程しか停められないから、早く行かないと満車となってしまうので注意が必要だ。ここからほんの少し権現山の方に歩き右手に雑木林を下って行く道が絶好の自然観察場所となっている。「弘法山へ行ったけど、あまり観察するものが無かった」との声を良く耳にするが、この公園を管理する秦野市の公園課の職員が草刈大好き人間だから、主要な散策路だけを歩いていたら、面白山も都市公園並みとなってしまうのである。そんな時は草を刈ってない小道を見つけて散策すれば良いのだ。
 尾根筋から雑木林の中に入って行くと、すぐに黄色いキノコが目に留まった。キノコの同定に自信はないが、これは間違いなくウコンハツである。これから梅雨に入ると様々なキノコが見られるが、ことにベニタケ科の仲間は梅雨時が好きな様である。柄が太く肉厚の色とりどりのふんわりとした傘を持つとても愛らしいキノコ達だ。そんなベニタケの中でも特別美しいウコンハツを良く見ると、傘に茶褐色の落ち葉がついていて、せっかくの美しい黄色い傘が台無しだ。しかし、この落ち葉を無理に取除こうとすると、傘の皮がぺろんと剥がれてしまって、もっと台無しにしてしまう事がある。このため注意深く落ち葉を取除いたが、すべてを取除けぬままに撮影し終わると、雑木林がいったん切れて畑と接する所まで降りて行った。ここからは雑木林の縁に沿って歩く事になるから、昆虫や野の花の観察及び写真撮影には好適である。
 今日は何に出くわすかなと胸を膨らませて歩いていると、なんと羽化したばかりのヒオドシチョウが2頭もお出ましになった。やっとクヌギの樹液が滲み出て来たようで、お食事中に変梃りんな人間が近づいて来たのだからびっくりしたと言う訳である。しかし、こんな場合いつもそうだが、ヒオドシチョウは近くに止まって様子見をしてくれるから撮影には有難い。きっとクヌギの樹液に目が無いのであろう。もう何処かで書いたと思うが、ヒオドシチョウは謎深い蝶で、越冬後の春の一時と羽化したばかりの6月の一時以外は私達の前から忽然と消えて、その姿を見ることが無いのである。定説によると、その間ずっと眠っていることになっているのだが、飲まず食わずで約8月間も眠っていられるのだろうか。私達現代人は慢性的寝不足状態だが、せいぜい眠り続けても10時間もすれば目が覚めてしまう。定説が本当なら、なんとヒオドシチョウは5千時間以上も眠り続けることになる。ヒオドシは漢字で書くと緋縅で、緋色の糸でつづり合わせたよろいの縅のような色合いから名づけられている。
 更に雑木林に沿って降りて行くと、蝶ではミズイロオナガシジミの発生期で各所に薄水色の小さな蝶が止まっている。傍らに積まれた伐採された丸太にはゴマフカミキリ、キイロトラカミキリが見られ、路傍のカラムシの葉上には超美麗なカミキリであるラミーカミキリが鎮座している。林内に目をやるとイチヤクソウがたくさん咲いている。開けたとは言え、あの道この道を選んで歩けば、やはり弘法山は自然度が高い。このラミーカミキリであるが、ラミーとは東南アジア原産の麻を取るチョマの英名で、ナンバンカラムシとも呼ばれている植物である。日本ではカラムシが代用されていて、弘法山の至る所にカラムシが生えているのは、農家の老人の話によると、戦時中にこのあたり一帯にカラムシを植える事を強要されたからだと言う。いくら刈っても根こそぎ取除かなければまた生えて来るのだと言う。まさに麻にする茎の繊維が強じんだけでなく、その生命力もまた強じんなのである。
 午後からは当然の如く権現山の野鳥観察施設へ行った。今日は鳥のお出ましが少なく、午前中にいた3人の方は諦めて帰ったと言うことで、一人の方が粘っていた。しかし、私が来たからか、エナガ、メジロ、ヒヨドリ、ヤマガラ、シジュウカラが入れ替わり立ち替わり現れる。「ヒヨドリは撮る気がしない」とご一緒した方が言うので、「私なんかどんな鳥でも情緒溢れて美しく撮れれば良いんです」等と言ってはみたものの、内心は前回キビタキを撮ったから、今度はオオルリを撮りたい等と言う大それた欲望を持っているのだ。しかし、待てども待てども常連さんの小鳥達ばかりだ。やっとの事で美しいキビタキが一羽現れたのだが、手前の木が邪魔をしてシャッターが押せない。しかも、止まっている場所が暗くて絵にならない。キビタキはそれっきりしか現れず、前回、絵になる小枝に止まってくれ、しかもピンが合って撮影出来たのは幸運であった事が分かった。もちろん、憧れのオオルリは現れなかったが、それでもこんなに近くで多くの野鳥に会える場所は他には無いのだから、犬も歩けば棒に当たるように、何べんでも通えばオオルリに当たる筈である。そう思って今日は潔く早々と野鳥は諦め、デジタル一眼レフの試し取りに専念した後の帰宅となった。

<今日観察出来たもの>花/ホタルブクロ、シモツケ(写真上左)、イチヤクソウ、クサノオー、タツナミソウ、ドクダミ、ナワシロイチゴ、ノアザミ、スイカズラ、イボタ、アジサイ等。蝶/ヒオドシチョウ(写真下右)、ゴマダラチョウ、テングチョウ、ミズイロオナガシジミ、ウラナミアカシジミ、ウラゴマダラシジミ、ルリシジミ、ベニシジミ、モンキアゲハ、イチモンジチョウ、コミスジ、サトキマダラヒカゲ、ヒカゲチョウ、ダイミョウセセリ等。虫/ラミーカミキリ、キイロトラカミキリ、エグリトラカミキリ、オオヒラタシデムシ、ヨコヅナサシガメ等。キノコ/ウコンハツ(写真上右)、ベニタケの仲間一種等。鳥/キビタキ、ホトトギス、ガビチョウ、ヒヨドリ、メジロ(写真下左)、シジュウカラ、ヤマガラ、エナガ等。その他/ビワの実等。


6月1日、横浜市緑区新治市民の森

 いよいよ6月に入った。一般の方々は雨の季節である梅雨に入るので、6月を好印象に感じている方は少ないと思うが、稲作には豊かな水が必要だから、農家の方にとっては、とても大切な月なのである。それでは私のような自然大好き人間にとってはどうかと言うと、一年間で最も多彩な動植物、菌類が出現する、とても大切で忙しい季節なのである。そんな大切な月の初日だと言うのに、朝起きてみると無常にも本格的な雨がザァーザァー降っている。まあ、6月らしいと言ってしまえばそれまでだが、この大切な月の“つれづれ観察記”をどうしても1日から始めたかったのだ。しかし、有難いことに正午になると雨はすっかり止んで、しかも、昨日の強風がまるで嘘のように風も穏やかとなった。そこで前回のラッキーなオオミドリシジミやウラナミアカシジミとの遭遇をまた期待して、新治市民の森に出かけてみた。
 車から降りると独特なクリの花の匂いが漂って来る。クリ林を見上げると六部程度に咲いている。クリの花は決して美しいとは言えないので、一般の方々はなんとも思わない事だろうが、クリが咲き終わった後に咲くリョウブと同様に、様々な昆虫達の大好きな花なのである。梅雨の花と言えば誰もが思い起こすのはアジサイとハナショウブだが、これらの花はほとんどの昆虫達に見向きもされない。どうしてクリやリョウブの花が昆虫達に好まれるのかは分からないが、きっと、その蜜は栄養価が高くてとても美味しく、また蜜の湧き出す点が浅くてすぐ餌にありつける快適な食堂なのであろう。安くて美味しく栄養満点で注文すると瞬時に出て来るという、なんだかクリの花は牛丼屋さんのようである。しかし、今日は雨が止んだ直後だから、昆虫達の食堂は空っぽであった。人間様のように昆虫達は傘を差して来れないのである。
 今日は久しぶりに丘の上の畑へ行ってみると、様々な農作物が作られいて、そろそろ収穫出来るものもたくさんあった。その中でも広々とした畑一面に大きな葉を広げていて、真黄色の大きな花が咲くカボチャ畑が好きである。そのカボチャもだいぶ大きくなったものも見受けられるのには驚いた。その隣の畑はキュウリ畑、その次はトマト畑、その次はナス畑、その次はピーマン畑と続いて、これらの農作物の花と実を撮りたかったのだが、道端からではいかんともし難く断念するに至った。また、最近健康食品として著名になったウコンの畑があって、ちょうど地面から多肉植物の花を思い起こす美しい花が咲いていた。ウコンは葉より花の方が先に伸びて花開くのである。その他、果実ではブルーベーリーが黒紫に色づきはじめ、農家の庭先にはナツグミの仲間のトウグミやその改良種であるダイオウグミ(ビックリグミ)がたわわに実っていた。
 さて本命のゼフィルスを狙って雑木林に入って行くと、今日はゼフィルスどころか他の蝶もほとんど現れない。「可笑しいな? 大風が吹いた後は、ゼフィルス達がクヌギやコナラやハンノキの葉に止まっていられないので下草に降りているはずだが! 去年の大風の後も、複数のミドリシジミを含めてアカシジミやウラゴマダラシジミがたくさん見られたというのに」等とつぶやきながら探すのだが、やっとミズイロオナガシジミを一頭見つけただけであった。去年の大風の日は風だけで雨は降らなかったから、今日とは条件が違うのだろう。今回は昨日の大風の後に雨が多量に降ったのだから、風でいったん下草に避難した後に雨が降って来て、雨に濡れてはと今度は下草の根元等に逃げ込んでしまったのだろう。その真偽については分からないものの、下草に降りた多数のゼフィルスに喜色満面に出合うことはなかなか難しいようである。
 今日は野菜や果実の写真を撮影したから、このつれづれ観察記用に4枚の写真はばっちり確保したが、新治市民の森に来て農作物や園芸品種の果実だけでは何だか変だ。天然自然の物も撮りたいと徘徊するのだが、蝶も昆虫もお出ましはあっても写欲を誘う場所には休んでいない。それではキノコだと目を光らせるのだが、雑木林の中は非常に暗く、しかも地面はびっしょりと濡れている。それでもクリ林に小野路町と同様に、立派なタマゴテングタケモドキが多数顔を出しているので撮影した。これで今日の自然観察はお仕舞いかなと落胆気味に雑木林の小道を降りて行くと、クリーム色の独特な形をしたミツバウツギの若い果実がたくさんぶら下がっていた。
 なぜこの木の名前を知っているかと言うと、ある出版社に頼まれてアブラムシ(アリマキ)を撮影した事があった。アブラムシはその寄生する植物名を頭に冠している名が多く、例えば、ダイズアブラムシ、キョウチクトウアブラムシ、ヘクソカズラヒゲナガアブラムシ、ニワトコヒゲナガアブラムシと言った具合で、ミツバウツギフクレアブラムシと言う名のアブラムシがいて、このアブラムシはその名のごとくミツバウツギとそのお仲間のゴンズイに寄生するのである。私の持っている図鑑には、ミツバウツギ科の樹木は、ミツバウツギ、ゴンズイ、ショウベンノキの3種が載っていて、ともに葉痕が似ているから、お仲間同士である事がすぐ分かる。アブラムシはセミやカメムシと同じ半翅目の昆虫で、たくさん集合していると気持ち悪いが、一匹一匹をルーペで拡大して見ると、背中から後方に角を生やしていて、とても可愛い昆虫である。それに、一緒に植物名も覚えられるから、たまには目を向けて欲しい。
 どんな小さな身近なフィールドだって、そこの生態系の中に相互に組み込まれて共存し、命を永らえているのだから、たまには専門分野だけでなく多くの動植物、菌類、土壌等に目を向けて欲しいものである。今日は一年間で最も多彩な動植物、菌類が出現する、とても大切で忙しい6月に入ったと言うのに、貧果に泣いたが、出かけてくれば何がしら興味を誘われるものが見つかる身近な道端自然観察であった。

<今日観察出来たもの>花/ウコン、クリ、キショウブ、ニワゼキショウ、ハコネウツギ、ヤマボウシ、スイカズラ、オオキンケイギク、ムシトリナデシコ等。蝶/ミズイロオナガシジミ、ルリシジミ、スジグロシロチョウ等。虫/クロジョウカイ、セボシジョウカイ、マドガ、カノコガ、キスジホソマダラ、ヤマサナエ、カワトンボ等。キノコ/アミスギタケ、タマゴテングタケモドキ、アラゲキクラゲ等。実/ミツバウツギ(写真上右)、トウグミ(写真下右)、ダイオウグミ、ブルーベリー(写真下左)、トマト、ナス、キュウリ、カボチャ(写真上左)



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