2005年:つれづれ観察記
(7月)


7月28日、横浜市緑区横浜キノコの森〜東京都町田市小野路町

 もう若くは無いので放浪の旅の疲れがまだ抜け切らず、今日はゆっくり自宅で静養するつもりでいたのだが、台風10号が接近していて、明日、明後日は雨らしい。それに久しぶりに新百合ヶ丘のAさんから電話があったので、仕事を素早く片付けると、まずはゴマダラチョウを探しに横浜キノコの森へ2人して行った。しかし、強運も山梨県ですっかり使い果たしてしまったのか、ゴマダラチョウは観察出来ずに、フィールド案内のようになってしまった。「この辺にホソバセセリが見られたんですよ」とAさんに話すと、「ホソバセセリは最近何処でも少なくなって、山梨県でも減少著しいようですね」とおっしゃる。そう言えば、ホソバセセリが必ず見られた白州町中山峠や韮崎市武田八幡宮周辺でも、今年は一頭も見なかった。ホソバセセリの発生時期は、ちょうどオカトラノオが咲き始める頃からで、必ずオカトラノオに数頭吸蜜しているのだが、今年は全然現れないので不思議に思っていたのだ。横浜市緑区では10年以上も前になるが、2ヵ所の狭い範囲でその生息を確認している。私がかつて4年間毎週末通ってまとめた「緑区三保町の蝶」のファイルを開いて見ると、1990年7月21日、3頭目撃、1991年7月6日、2頭目撃等とある。また、雑木林の半日陰のような所に生息していて、そこにはアキノタムラソウが咲き、吸蜜に訪れていることが多いと書かれてある。このように横浜市におけるホソバセセリは、ひっそりと弱々しく生きていた印象が強く、山梨県等の多産地に於いてもこの印象を大きく逸脱するものではない。アメリカが唱える経済のグローバル化によって、各国各地にある伝統的中小の地場産業が立ち行かなくなったように、日本列島の多くのフィールドにも環境の単一化が押し寄せているのかもしれない。ホソバセセリのようなひっそりと生きる生物にとっては、環境の多様性こそがとっても大切のように思われる。
 そんな訳でAさんを案内して大いに点数を上げるつもりでいたのだが、蝶に関してはほとんど成果が無く、午後からはスミナガシを探しに小野路町へ行った。一昨日、白州町中山峠で何頭も観察し写真を撮っているのだが、多摩丘陵での遭遇はそれに比べて数倍にも匹敵する感激を伴うからだ。たくさん生息する場所に発生適期に行って観察し撮影出来るのは当たり前の事で、生息が稀少であり、しかも身近な場所で出会って撮影出来た時の感激は特別なものがある。7月初旬に何べんとも無くオオムラサキを求めて多摩丘陵を歩き回ったのも、これと同じ心的欲求からなのだろう。もっともこのような心的欲求は、さんざん多産地にて思いのたけをつくしたからこそのとっても贅沢なものであって、一度たりともオオムラサキ、スミナガシに出会った事の無い方は、たくさん生息する場所に発生適期に行って、思う存分に観察し撮影したいと思っている事だろう。何処で撮影しようが素晴らしい写真は素晴らしいものなのだが、同じ程度の出来の写真なら、もちろん生息が稀少であり、しかも身近な場所でのものの方に軍配が上がるのは誰しもが納得出来るに違いない。そんな思いを胸に抱きながらAさんと美しい雑木林へ行ったが、ジャノメチョウ、クロヒカゲ、キタテハ、ルリタテハが吸汁している以外に蝶の姿は見られなかった。「今日で7月最後の観察記にしようと思っているので、これでは写真不足で書けませんね」とAさんにぼやきながら雑木林を徘徊すると、カマドウマがクヌギの幹に止まっていた。「昔、かまどにたくさん見られたんですが、今ではなかなか昼間は見られないんですよね」等とAさんに話しかけながら、もしもの写真不足の時の為に撮影したが、カマドウマはあまり見て楽しい美しい昆虫では無く、むしろ気持ちの悪い昆虫の類に入るだろう。
 美しい雑木林に来る途中の日陰になった小道脇で、大物のアオバセセリが飛び去って行くのを確認出来たのは特筆すべき事だが、撮影できたのはヒメキマダラセセリ、シロフオナガバチで、今一、インパクトに欠ける。そんな訳で雑木林の中で目を光らせて、スミナガシはいなくともノコギリカミキリを発見しようと頑張ったのだが姿を見ることが出来なかった。しかし、片隅に生えているクヌギの樹液に、なんと1cm程の小さなクワガタムシの雄が、自分より大きな雌をガードしているのを発見した。「なんだとっても可愛いコクワガタですね」とAさんに話しかけ、こんなに小さな可愛らしい雄も珍しいとばかりに1カット撮影した。しかし、帰ってパソコンで画像を確認すると、なんとコクワガタではなくてスジクワガタであった。専門的になるが、クワガタムシのクワガタムシたる名の由縁とも言える大きな左右のハサミは、大腮(だいさい)と呼ばれる昆虫の口器を構成するものの一つである。クワガタムシはその口器を、食べることではなく身を守るために発達させた昆虫として著名である。その大腮の先端より下に内側に伸びる鋭い歯と呼ばれる突起が、コクワガタは1歯なのたが、スジクワガタは2歯なのである。クワガタムシの仲間は幼虫期の栄養の過不足によって、超大型から小型までの個体変異が大きく、このため大腮の形状も変化が大きいが、このちびスジクワガタはしっかりと種の特徴たる2歯を持っているのには驚いた。図鑑を調べてみると、どんなに小型でも痕跡は残って1歯になることは無いとある。こんなスジクワガタの大腮の特徴を調べていたら、種の不思議、遺伝の不思議、遺伝子の不思議等、種の種たる根源的な不思議に思いがはせた。今日は左程の成果もない帰宅となったが、このちびスジクワガタにはとても教えらる事が多かったように感ずる。私も生物の中の一つの種である人間であるが、今後、もっと人間らしく生きなければならないと感じ入ったと言う訳なのだ。

<今日観察出来たもの>蝶/アゲハ、キアゲハ、ルリタテハ、キタテハ、イチモンジチョウ、コミスジ、クロヒカゲ(写真上左)、ジャノメチョウ、ヒメウラナミジャノメ、ムラサキシジミ、アオバセセリ、ヒメキマダラセセリ(写真上右)、イチモンジセセリ等。昆虫/スジクワガタ(写真下右)、カナブン、クロカナブン、シロテンハナムグリ、ベッコウハゴロモ、スケバハゴロモ、アミガサハゴロモ、ヒメスズメバチ、シロフオナガバチ(写真下左)、アオメアブ、ショウジョウトンボ、オオシオカラトンボ、オニヤンマ等。キノコ/ツチヒラタケ、マンネンタケ、ドクツルタケ等。


7月26日、山梨県北巨摩郡白州町中山峠

 朝早く起きてみると小雨がぱらついている。朝食の時間になる頃には本格的な雨となった。テレビの天気予報では山梨県内は一日中雨と放送されていた。すぐ隣の長野県も雨で、今日は関東甲信越は何処へ行っても悪天候が予想されている。これにはさすが強運の私も両手を上げて降参するしかない。今日は中央高速道路に乗って早々帰るしかないなと考え、途中、三脚の具合が悪いので、メーカーの修理センターに寄ることにした。なにしろ三脚メーカーであるベルボンの修理センターは明野村にあるのだ。場所は地図で調べると山梨県フラワーセンターの下辺りである。ユースホステルから出発してしばらくの間は濃い霧の中であったが、国道141号線を走るにしたがって標高はぐんぐん下がって、雨は相変わらず降っているものの霧が晴れて来た。明野村は昔のまんまの農道が入り組んでいてとても分かりずらい所なのだが、一回、電話して道を聞いただけでベルボンの修理センターに到着出来た。担当の感じの良いご婦人が短時間に完璧に直してくれた。外へ出ると雨は小雨になったので、写真は撮れなくとも良いからと所期の予定通りに白州町中山峠へ行ってみることにした。余談だが、ベルボンさんの敷地内の街路灯近くの地面に、昨晩飛来した憧れのオオミズアオが止まっていた。しかし、片側の尾状突起が切れていたので泣く泣く撮影は断念し、車に引かれないように植え込みまで避難させたが、それにしてもバタバタと羽ばたいて善意に素直に従わないのには梃子摺らされた。
 中山峠に着くとほんの少しだが雨が降っていると言った按配で、カメラを持たずに傘なしで雑木林に入ってみると、クヌギの樹液にはオオムラサキ、ノコギリクワガタ、カナブン、オオスズメバチ等がひしめき合って樹液を吸っている。今回の中山峠来訪の最大の目的であるスミナガシはいないかと探し回ると、ぽつんと離れた暗がりにあるクヌギの木に、一頭羽を開いて無心に樹液を吸っていた。これはラッキーとばかりに車に戻ってトンボ返りで機材をセットして、いざピント合わせとなったのも束の間、おおなんとオオムラサキの雄が、「コノヤロー、ここは俺のしょばだ」とばかりにスミナガシに体当たりをくらませたのだが堪らない。スミナガシは土俵外に寄り切られ、勢いあまって足元が乱れて飛び立ってしまった。オオムラサキが横綱なら、スミナガシは前頭筆頭クラスなのだから致し方ない。しかし、私の予想通りにスミナガシが発生しているのが分かったのだから、後は雨が止むことだけを願って待っていれば良いのだと車に引き返して小休止を取っていると、雨はまもなくやんで明るくなり、様々なセミの合唱がシャワーの如く梢から降って来た。
 こうなったら早々と帰宅する等と言う考えは何処かに消え失せ、いつものようにすっかり準備を整えて歩き始めた。先週の金曜日から数えると4日連続の道端自然観察、写真撮影だと言うのに、嬉々として貪欲に好奇心旺盛に、あたりに目を光らせるのだから飽きれてしまう。今日の観察記で今月は17回目になるので、帰宅したら後一回多摩丘陵へ出かけて書けば良い等と考えたり、また、デジタル一眼レフカメラを使い始めてから作品作りを忘れているから、今後、もっと作品作りに励まなければいけないな等と考えたりしながら散策すれども、最近のペースにはまり込んでしまうのだから困ったものである。そんな好奇心の目に最初に留まったのはウスバカミキリである。なにやら立ち枯れの根元で2匹がウロウロしている。ウスバカミキリは夜行性だから昼間に観察するのは難しい種類なのだが、今日の天候でねぐらに戻るのが遅れてしまったようである。次に目に留まったのはクロヒカゲモドキである。首都圏の雑木林でも見られるクロヒカゲに似ているが、何となく丸みがあるのでそれとすぐ分かる。しかし、正確には前翅裏面の縦に3つ並んだ眼状紋で判別する事になる。
 以上のように様々なものに目を向けて観察し撮影したが、昆虫以外にも彩を添えたいと、近くにあるリンゴ畑に行って見ると、前々回、前回と来る度に実(写真上左)は急速に大きくなって、ほんのりと赤味を帯びてもうすぐ食べられそうな雰囲気にまで成長していた。それから肝心のスミナガシであるが、約30分毎に同じ雑木林の中で樹液を吸う個体に巡り会ったものの、時にはカナブン、時にはスズメバチ、時にはオオムラサキと邪魔が入って、なかなか美しい写真が撮れずに爪を噛み続けた。もし撮れなければ今日の観察記は書くのを止めようとまで思っていたら、帰り際になんとラッキーな事か他の昆虫達が去った樹液酒場で、羽を一杯に開いて夢中になって食事する個体に巡り会った。しかも何処も破損していない新鮮な羽化したての個体である。もちろん夢中になって撮影した事は言うまでも無いが、撮影が終わって時計を見ると午後4時を差していた。今日は雨が心配でどうなる事かと思っていたのだが、きっかり定刻まで道端自然観察をしてしまった事になる。急いで帰り支度を済ませると、充分な満足感を伴って自宅目指して中央高速に乗った。きっと自宅に着いたら、どっと疲れが出るだろうな等とほくそえみながら。

<今日観察出来たもの>蝶/オオムラサキ、スミナガシ(写真下左)、ルリタテハ、キタテハ、コミスジ、イチモンジチョウ、クロヒカゲモドキ(写真下右)、サトキマダラヒカゲ、ヤマトシジミ等。昆虫/カブトムシ、ノコギリクワガタ、ウスバカミキリ(写真上右)、オオスズメバチ等。


7月25日、山梨県北巨摩郡小淵沢町八ヶ岳観音平

 今日は朝から曇っていて一日中晴れ間は出ないが、山梨県は午後からは雷雨が予想されている。こんな天気ならば、今年2度程ピーカンで行かなかった長野県南牧村の八ヶ岳高原へ行こうかなとも思ったが、やはり山梨県より天気がいくらか良いようで、少しだが晴れ間が見え隠れしている。どうも野辺山高原、すなわち長野県と山梨県の県境あたりから天気が変わるようだ。宿泊した清里ユースホステルから国道141号線を登って、二つ目の信号を左折すると中央高速の小淵沢インターまで続く八ヶ岳高原ラインだ。以前は有料だったが、建設費を召還出来たために全面無料となった快適な道路である。八ヶ岳奥深くを源流とする沢をいくつも越えるから、アップダウンがあってかなり曲がりくねった道である。深く切れ込んだ沢にかかる橋をいくつも越えたが、それぞれの沢にはヤナギがたくさん生えている。途中、車を運転していても分かる程に数多くのコムラサキが乱舞していたので、車を道路の広くなった部分に停めて様子を見に行くと、羽化したばかりの新鮮個体ばかりだった。オオムラサキとは微妙に異なった奥深くから輝くような青紫色は別の意味で美しい。しかし、小枝等のゴミが散らかった地面ばかりに止まって絵にならないから撮影は断念した。また、サカハチチョウの夏型も飛んでいた。
 八ヶ岳高原ラインのほとんど終点近くに観音平まで登って行く道が分岐している。観音平とは編笠岳の中腹にある平らな場所で、広い駐車場もあって編笠岳登山の玄関口だ。この道が出来る前は、小淵沢駅からとんでもなく長い道を登らなければならなかったので、ほとんどの登山者は八ヶ岳縦走の最後の峰として編笠岳を踏んで、下山道として利用していた筈である。私も学生時代に下山路として2回歩いた事があるが、歩いても歩いても小淵沢の町並みは遠く、足が棒になった。もっとも途中、武田信玄が信州方面に進軍する時に使った棒道を横切るのだから、足が棒になるのも無理は無い。棒道とは八ヶ岳のとにかく広い裾野をうまく表現しているといつも思う。八ヶ岳は富士山にも負けない巨大な休火山なのである。
 観音平はずば抜けた道端自然観察地としてお勧めする程の所では無い小場所だが、車を停めた所がフィールドであると言う手軽さは捨てがたく、昨日行った甘利山等の南アルプスの前衛の山々に比べればしっかりとした道路で、あっと言う間の短時間で観音平に到着する。そんな手軽さが災いして花や蝶はだいぶ少なくなったが、それでも数多くの高原の蝶達に出会う事が出来るのだ。花も、ここでしか咲いているのを見た事が無いキキョウも僅かながら自生している。秋の七草として著名なキキョウは、以前はとっても身近な野の花であった筈だが、ここ以外に野性のものを見た事がない。しかし、何と言っても私がこの観音平に行きたくなるのは、コエゾゼミとエゾゼミに会いたいが為である。
 夏の高原や山地に行けば何処でもコエゾゼミやエゾゼミの鳴き声でやかましいが、それではいざ観察、いざ撮影となると、なかなか見つけ出すのが難しいセミである。しかし、観音平は多産する事と背の低い樹木があってか、比較的簡単に見つけ出す事が出来るのだ。この為、ムゼームゼーと初夏にアカマツで鳴くハルゼミや初秋に山地で見られるチッチゼミより観察は簡単かもしれない。今日は黒褐色の抜け殻オンリーなので、コエゾゼミばかりのようだ。赤褐色の抜け殻のエゾゼミは、まだ発生していそうもない。コエゾゼミとエゾゼミの成虫の見分け方は、頭部の下縁にある黄色い帯が2ヵ所で途切れるのがコエゾゼミ、途切れずに繋がっているのがエゾゼミである。いずれにしてもコエゾゼミもまだ発生初期のようで、探し出すのに相当苦労してしまったが、何とか一匹探し出せてほっとした。探し出したらコエゾゼミもエゾゼミも平地のセミと異なって、飛んで逃げたりはしないから思う存分撮影が出来る。
 目的のコエゾゼミを無事に撮影して余裕酌々と高原の蝶を狙った。1ヵ所だけ空けた場所に、蝶達が大好きなヒヨドリバナ、オカトラノオ、ノアザミが咲いていて、待っているとアサギマダラ、テングチョウ、クジャクチョウ、シータテハ、ルリタテハ、ギンボシヒョウモン、メスグロヒョウモン、ミドリヒョウモン、スジボソヤマキチョウ、モンキチョウ、キチョウ等が吸蜜にやって来た。今日は何処へ行っても左程期待出来ないし、雷雨も予想されているので、観音平でじっくりと思っていたのだ。観音平はそれ程広く無いから良い場所を見つけて粘っているのが得策の筈だ。そんな思惑は見事に的中して、数種の蝶を美しく撮ったら、早速、ゴロゴロ様がやって来た。今日は何処へ行ってもゴロゴロ様は元気なようだから、涼しい木陰に車を停めてぐっすりと昼寝をとって、清里ユースホステルに早々と戻った。

<今日観察出来たもの>花/キキョウ、ニッコウキスゲ、オオバギボウシ、クサレダマ、シシウド、ハクサンフウロウ、タムラソウ、ヤマオダマキ、シモツケ、シモツケソウ、チダケサシ、コオニユリ、カワラナデシコ、クガイソウ、フシグロセンノウ等。蝶/アサギマダラ、テングチョウ、クジャクチョウ、シータテハ、ルリタテハ、ギンボシヒョウモン、メスグロヒョウモン、ミドリヒョウモン(写真下左)、スジボソヤマキチョウ、モンキチョウ、キチョウ、ヒメキマダラヒカゲ、クロヒカゲ、ルリシジミ等。昆虫/コエゾゼミ(写真上右、上左は同抜け殻)、ノシメトンボ(写真下右)、アキアカネ、テングスケバ等。


7月24日、山梨県韮崎市甘利山

 久しぶりの甘利山(写真上左)である。国道20号線から釜無川に架かる橋を渡って山裾の部落を通り抜けると、すぐに甘利山に通じる林道入口に辿り着く。そこから完全舗装された道が頂上直下の駐車場まで続いている。かつては未舗装の部分もあってかなりの悪路だったが、今は対向車にさえ気をつけてゆっくり登れば誰でも快適に行くことが出来る。南アルプスの前衛の山々は、入笠山、櫛形山等数多くあるが、甘利山は小じんまりとしていて標高もさほど高くないから訪れる登山客も少ない。なにしろ駐車場から30分もなだらかな登山道をのんびり歩いて行けば頂上に着いてしまうのだから、登山だけの目的としては物足りないのだろう。しかし、高山植物こそないものの、高原を彩る様々な山の花に関しては、まだまだ宝庫と言えるのではなかろうか。また、蝶も以前よりかなり数は減ったとは言え、夏の高原を代表するもの達に容易く出会うことができる。
 今日は首都圏の猛烈なる極暑に耐えかねての、涼しさを求めての放浪の旅の初日である。そんな思いが天に通じたのか駐車場に着くと、時折霧に巻かれる事のある曇日である。しかも、風もとても弱くて絶好の花の撮影日和だ。眺望を期待してやって来た方々には、富士山を始めとする回りの山々が見えないから、つまらない事だろうが、涼しさを求めて写真撮影にやって来た者にとっては、願ってもないこの上ない上天気である。いくら標高が高いといっても晴れていればやはりかなり暑いし、しっとりとした写真も期待できない。最近、デジタル一眼レフカメラばかりを使っていて、今日は本格的なフイルム一眼レフカメラを持って来なかったのがとっても悔やまれる。なにしろ花の撮影に関しては、私の所有するデジタルカメラは発色が今一なのだ。それでも普及版の軽いフイルムカメラは持ってきたので、デジタルと交互に撮影した事は言うまでもない。
 まず最初に、駐車場に隣接するお花畑でヤナギランを撮影した。赤紫の花がすっと伸びた茎の先についているから、少しでも風があると揺れて撮影がままならない花である。その他、同所には、オオバギボウシ、クサレダマ、シシウド、ハクサンフウロウ、タムラソウ、ヤマオダマキ、シモツケ、シモツケソウ、チダケサシ、コオニユリ、カワラナデシコ、クガイソウ等が咲き、早くもワレモコウが咲き出しているのには驚いた。この花園の片隅には簡単な食事がとれるお店が建っている。確かカレーライス位は食べられたと思うが、いつも開いているとは限らないので、事前に確認をとって行かないと空腹にお腹がぐーぐー鳴ることになる。その建物に通ずる小道にクジャクチョウが日向ぼっこをしていた。地面に止まるものでは写真として今一なのだが、やはりクジャクチョウは美しく、慎重に近づいて撮影した。
 甘利山山頂への道は、ここからが正式の登山道なのだが、いつもかつてスキー場があった方へ林道を降りて行って裏側から登る。そんな裏道は誰も来ないから、いたって静かでのんびりと散策出来てとても好きなのである。しかし、今日はこれと言った蝶は飛んではおらず、各種の植物の茎にいるひょうきんな姿のテングアワフキを撮影した。各種の動植物、キノコの名前にテングとつくものが多いが、これらはみんなわりかし好きなもの達が多い。例えば、テングチョウ、テングスケバ、テングタケ等である。林道を左に折れて登山道を詰めると、やっとヒヨドリバナに吸蜜するアサギマダラとクジャクチョウに出会うことが出来た。下から見るとかなりきつそうに見える登山道も、時折、乳白色の霧がやって来るからとても涼しく、あっと言う間に頂上へ着いてしまった。頂上と言ってもこんもりとしたお碗状で、一面お花畑となっている。
 この甘利山を有名としているのはレンゲツツジの大群落だが、今年は異常天気も手伝ってか、例年に比べてぱっとしなかったという。また、期待していたコヒョウモンモドキも天候が災いしてか姿を見せなかった。頂上からは緩やかにお花畑の中を下る登山道で、ゆっくりゆっくり各種の花を楽しみながら降りて行った。本当に徹底した花専用の機材で来れば良かったと悔やまれる程に各種の花が美しく咲き、いつまでたっても風の無い絶好の花の撮影日和である。駐車場に着くまで、比較的珍しいものとして花ではタマガワホトトギス、蝶ではウラキンシジミを観察した。
 いつかこのような日和に再度徹底的に高原の花を撮影に来ようと車を駐車場から発進し、途中、キノコがたくさん見られる筈のサワラ池に寄ったが、残念ながらキノコは皆無であった。なにしろ甲府盆地は、我が国観測史上第2番目となる高温を数日前に記録し、雨も降っていないようだから、地面はからからに乾燥しているのである。そう思うと下界に降りて行くのが厭になったが、今晩泊まる所は清里ユースホステルだから、間違っても熱帯夜なんて事は無かろうと、オートマをローポジションに入れて、林道をゆっくり下って行った。

<今日観察出来たもの>花/オオバギボウシ、クサレダマ、シシウド、ハクサンフウロウ、タムラソウ、ヤマオダマキ、シモツケ、シモツケソウ、チダケサシ、コオニユリ、カワラナデシコ、クガイソウ、タマガワホトトギス(写真上右)、カセンソウ、ヤマハハコ等。蝶/アサギマダラ(写真下左)、テングチョウ、クジャクチョウ(写真下右)、ミドリヒョウモン、スジボソヤマキチョウ、キチョウ、ウラジャノメ、ヒメキマダラヒカゲ、クロヒカゲ、ルリシジミ、ウラキンシジミ等。昆虫/テングアワフキ、アキアカネ、マメコガネ等。


7月23日、横浜市緑区横浜キノコの森

 午前中に仕事を家で大急ぎで片付けると、ほんの2時間程たが横浜キノコの森へ行った。キノコの森と言っても、この暑さと乾燥のためにキノコはみんな頭を引っ込めてしまったから、もちろんキノコの観察ではなくゴマダラチョウを探しに行ったのである。明日から多摩丘陵の暑さに耐え切れなくなって、涼しい所へ放浪の旅に出かけるのだが、多摩丘陵で撮り残したゴマダラチョウを、どうしても撮影してから出かけたかったのである。ゴマダラチョウは身体の大きさや羽の斑紋等に違いがあるのだが、国蝶オオムラサキの親戚筋、いや弟分にあたっているのだ。その発生期はオオムラサキに比べて半月ほど遅れる。もっともオオムラサキは年に1回発生する蝶であるのに比べて、ゴマダラチョウは年に2回発生する蝶だから、今見られるのは第2化のものである。ちなみに第1化は5月だから、約2カ月ぶりの再登場と言うことになる。こんなに短期間に卵から幼虫、蛹を経て蝶になるのだから、春型に比べて一回り小さい。各種文献等を読むと、私が住んでいる辺りにもかつてはオオムラサキがたくさんいた筈だが、子供の頃の記憶にゴマダラチョウは鮮明に残っているもののオオムラサキはまったく無い。これは多分、夏休みに入ってカブトムシやクワガタムシ探しに熱中する頃にはオオムラサキは姿を減じていて、それに変わってゴマダラチョウが羽化して来るのだから、ちょうど時期的にゴマダラチョウの発生は夏休みとぴったりだった訳なのだ。
 今から10年以上も前には横浜キノコの森周辺にはオオムラサキが生息していたのだが、周辺の開発、特にズーラシアが出来てから自然環境が急激に悪化してしまった。子供達にたくさんの世界の動物達を見てもらおうと開園した訳なのだが、そのかわりに地元に暮らす様々な動植物、キノコ達を葬り去ったのだから、本当に皮肉たっぷりで笑ってしまう。まこと大笑いである。所詮、お役所仕事とはそんなものだと思っているので、怒りすら込み上げて来ないのだが、世界の珍しい動物を連れて来て、横浜に残存していた国蝶オオムラサキを消滅に導いたのだから、ズーラシア建設は本当に素晴らしい計画であったのだ。そんな訳でオオムラサキは消滅してしまったが、年に2回発生することも手伝ってか、環境変化に強いゴマダラチョウは今も健在である。今年は各所で充分に兄貴分のオオムラサキを観察し撮影したから、その弟分であるゴマダラチョウを撮影しなければ片手落ちと考えていたのだ。しかし、ゴマダラチョウは開発の進んだフィールドでも良く見かけるのだが、そのような場所はゴマダラチョウの大好きなクヌギの樹液がたくさん出ている雑木林が少ない訳で、そういう別の意味で、オオムラサキを撮影するより難しいとも言える。しかし、キノコに興味を持って雑木林の中をウロチョロするようになってから、樹液がたくさん出ている場所をたくさん見つけたのは有難い。
 先日偵察に行った時は樹液に吸汁しているものは見られなかったが、雑木林の梢を滑空する姿を見ていたので、今日は人出の少ない平日だから確実だと思って雑木林の中に入った。すると目指す樹液にゴマダガチョウが一頭無心に吸汁している。しかし、私が機材をセットして近づいた途端、暴れん坊のカナブンがミニブルドーザーのように頭を下げてゴマダラチョウに突進したため、ゴマダラチョウは堪え切れずに飛び立ってしまった。「コンチクショー、カナブンの馬鹿めぇー」と呟いて、樹液に集まっている5匹程のカナブンのお尻を棒で突付いてすべて飛び立たせた。後は雑木林を一回りして、また、キノコの本命場所等を覗いてみたりして、帰り際に立ち寄って見れば必ず飛び立ったゴマダラチョウは舞い戻って来ている筈と期待してその場を離れた。この作戦は見事に成功して、マンネンタケ以外には乾燥で変形したキノコや溶けてしまって形をなさないキノコしか見られなかったが、セアカツノカメムシやヒグラシの抜け殻(写真上左)等を撮影し時間を潰して戻って来ると、ちゃんとゴマダラチョウは指定席に戻って、黄色い口吻を伸ばして吸汁していた。おまけに邪魔者のカナブンは1匹たりともいない。こうなったらゴマダラチョウも落ち着いて食事が出来るから、様々な角度から思う存分撮影した。
 今日は非常に短時間であったが、欲すれば与えられると言う言葉通りにゴマダラチョウに会えて撮影が出来、明日からの放浪の遠征の旅がなんの心残りも無く出かけられると充分の満足感を伴っての早々とした帰宅となった。

<今日観察出来たもの>蝶/ゴマダラチョウ(写真上右)、イチモンジチョウ、ジャノメチョウ、ヒカゲチョウ等。昆虫/カナブン、クロカナブン、キマワリ、セアカツノカメムシ(写真下右)、チャバネアオカメムシ等。キノコ/マンネンタケ(写真下左)等。


7月21日、横浜市青葉区寺家ふるさと村〜町田市小野路町

 昨日は観測を開始して以来の史上最高気温39.5度を大手町の気象庁で記録した。生憎、仕事があったのでフィールドへ行くことはなかったものの、海側を高層ビルで閉ざされているために風が吹かない都心で最も気温が高いと言われる新橋を歩いている時は、異常なる高温に驚いた。このところずっと暑い日が続いていたので、かなり身体も心も慣れて来ているのか「いつもより暑いな」とは感じたものの、それでもまさか40度近くまで気温が上がっているとは思わなかった。帰宅してニュースを見ると、一種のフェーン現象が手伝っての高温との事である。明日はフェーン現象が収まるからいくらかましになるものの、かなりの暑さは見込まれている。これにはさすがの私も「本当に参った。熱中症が心配だ」と、道端自然観察へ行くことをためらわせたが、明日、明後日と仕事が入っているので、このつれづれ観察記を途切れさせないようにと、「なんとかなるさ」とばかりに家を出た。空は本当に青く晴れ渡っていて、陰影がはっきりとして目がくらくらする。これから行われる甲子園の高校球児達が、目の周りに墨を塗っているのが頷ける程である。今日のキーワードは日陰の小道、雑木林の中と言う事になって、日向など一歩たりとも歩かないぞとの決意で、まず寺家ふるさと村へ行った。
 寺家ふるさと村の谷戸奥に向かって左側は、午前中は完全に日陰になる場所なのである。また、先日、帰りがけに寄った時に、冬虫夏草に凝り固まっているNさんの一番弟子なるEさんに出会った。「お師匠様は今日は出勤してないの?」と尋ねると、「昨日、お師匠様を出し抜いてツクツクボウシタケを見つけてしまったので、お師匠様は気分を害して高尾山へ行った」との事である。たまにはお弟子さんが師を越えるのもいいのでわと思うのだが、やはり手解きを受けた恩義あるお師匠様より珍しいものを先に見つけてはならないようである。そんなEさんが2本も出たカメムシタケを見せてあげると言うので、まるでサウナ風呂のような湿潤なる薮の中へ一緒に入った。カメムシタケと言ったて、細長い針金の先に朱色のペンキの塊が着いているだけなのである。「なんのカメムシから出ているのかな」と聞いたら、「今、継続観察中なので正体はまだ見てないんです」と言う。Nさんは常々、超美麗なアカスジキンカメムシから出ているカメムシタケを見つけるんだと言っていたから、それ以外の種類なのだろう。まあ、今まで数多くの異星人を見て来ているが、飼育している冬虫夏草を枕元に置いて眠る人間等、全世界探し回ってもNさん位しかいないだろうから、彼こそ稀少種、いや貴賓種なのだ。
 そんな訳で日陰の道をじっくり観察したものの、花ではダイコンソウ、ユウガギク、オカトラノオ、アキノタムラソウ、ヤマユリが咲き、蝶ではモンキアゲハ、キアゲハ、テングチョウ、ミズイロオナガシジミ、ルリシジミ、イチモンジセセリ、コチャバネセセリ、昆虫ではマメコガネ、ナツアカネ等がいたものの、風がかなりあって撮影もままならない。道端にやけに人懐こい小鳥がよちよちと歩いているが、良く見るとハクセキレイの幼鳥のようだ。そんな訳で大したものも撮影出来ずに、カメムシタケても撮りに行くかと考えた。しかし、そこに行くには日向の道をほんの少しだが歩かなければならない。日向を見ると本当に暑そうで、いかにも日本の夏がやって来たと言う感じである。こんなに暑いのに、冬とは違って濃色に見えるアオサギが青々と成長した田んぼの畦に降りた。いったい何を食べるのだろう。それを見ながら「それでは良い汗を少しかくかなと」と決意して、日向の道をしばし歩いてカメムシタケを撮りに行った。その後、もう一箇所ある日陰の小道にも出向いて見たものの、撮影するものはほとんど無く、昆虫達はみんな涼しい木陰にもぐってしまったようである。
 こうなったら雑木林の中に入って、樹液にやって来る昆虫達を撮影するしか無い。そこで新治市民の森や横浜きのこの森のゴマダラチョウにも強く心が引かれたのだが、車を日陰に安心して停められて日向をほとんど歩かないで行けるからと、小野路町の美しい雑木林へ行った。それに、ことによったら超美麗なスミナガシにも会えるかもしれないと思ったのだ。美しい雑木林に入ってみると、さすが予想していた通りに日向に比べてだいぶ涼しい。本当はそのような事をしてはいけないのだろうが、今年もカブトムシを採るためにたくさんのクヌギの幹に鋭いナタの刃で深く傷をつけた方がいる。そのお陰で樹液がしたたり、昆虫達がたくさんやって来て、私のような昆虫好きにはとても有り難い。今日は樹液にクロカナブンは一匹もおらず、カナブンとシロテンハナムグリばかりだった。スズメバチの仲間は今日もヒメスズメバチばかりで、とてもご機嫌斜めで気が荒いのか、近づくと顔を上げて威嚇するような真似をする。蝶は風が強いためかジャノメチョウが見られた位で、他のものはやって来ていない。また、もう一つのお目当てであるノコギリカミキリやウスバカゲロウも姿がない。
 「これはだめだなぁ、観察記の写真は超普通種のカナブンとヒメスズメバチででも行くか」等と呟きながら雑木林の隅の方にあるクヌギの幹を見ると、小型だがノコギリクワガタの夫婦が樹液を吸っている。いや正確に言うと女房がお食事中なので、夫が身を挺して守っているのである。こんな仲むつまじいノコギリクワガタの夫婦を見ると、なんだか家庭を顧みずに好き勝手なことばかりやって来ている私には、とっても身につまされる思いがするのだ。ごく普通の夫婦なら日曜日になると二人して大型スーパー等に買出しに行くものだが、もうそんな家庭奉仕はご無沙汰してとんと久しい。また、女性にも腕相撲で何回も負けている位だから、ノコギリクワガタの雄のようにしっかりとガード出来るかも疑わしい。そんな事を思いながら様々な角度から撮影したのは言うまでも無い。しばらく撮影に熱中していると雷が付近で鳴り、雨もぱらついて来た。そしてかなりあった熱気は一挙に去って涼しい風が吹いて来た。これは夕立に見舞われるぞとばかりに急いで雑木林を後にし、この観察記に彩を添えるために畑の傍らに植えられているヒャクニチソウを撮影して帰宅した。

<今日観察出来たもの>花/ダイコンソウ、ユウガギク、オカトラノオ、アキノタムラソウ、ヤマユリ、ハス、ヒャクニチソウ(写真上左)、ミソハギ等。蝶/アオスジアゲハ、モンキアゲハ、キアゲハ、キチョウ、コミスジ、イチモンジチョウ、テングチョウ、ミズイロオナガシジミ、ウラギンシジミ、ムラサキシジミ、ツバメシジミ、ルリシジミ、イチモンジセセリ、チャバネセセリ、コチャバネセセリ等。昆虫/ノコギリクワガタ(写真下左)、カナブン(写真下右)、シロテンハナムグリ、コガネムシ、マメコガネ、ベッコウハゴロモ、アミガサハゴロモ、ヒメスズメバチ、キノカワガ、ナツアカネ、ショウジョウトンボ、シオカラトンボ、オオシオカラトンボ、ヒグラシ、ニイニイゼミ、トノサマバッタ、ヤブキリ等。鳥/アオサギ、ハクセキレイ等。キノコ/ゴムタケ、カメムシタケ(写真上右)等。


7月19日、東京都町田市都立小山田緑地

 このところこのつれづれ観察記に、キノコが登場していないので、久しぶりに登場してもらおうと、今日は都立小山田緑地に行った。曇り時々晴れと言う天気なのに、何だか昨日より気温が高く感ずる。きっと町田市の方が内陸的気候で暑いのだろうと思っていたので、帰ってインターネットで自宅のある横浜市港北区と町田市の気温を比較してみると、やっぱり僅か1度だが町田市の方が高かった。昨日、神奈川県下で唯一のキノコ同好会が、横浜市旭区二俣川にある「こども自然公園」で観察会を開いたようだが、カラカラに乾燥したこのところの天候が災いしてか、かなりの貧果に泣いたようである。しかし、懐の深い多摩丘陵、しかも今までの観察実績からして小山田緑地なら何らかのキノコが見られると期待して行ったのだが、小山田の谷の調整池は完全に干上がっていて、状況は芳しく無った。それでも不確かな同定で恐縮だが、ドクツルタケ、コウジタケ、オオムレイチョウタケ(?)、カワリハツ、チチタケ、ニシキベニハツ、シロハツの仲間等が見られたが、写欲を誘うものはほとんど無く、みんな「暑いよう、カラカラだよう」と言わんばかりに悲鳴を上げていた。多分、オオムレイチョウタケの幼菌だと思うが、写真のように「こんな暑くては寝るのが一番」とばかりに、地面に寝そべっているのには笑ってしまった。
 今日は暑いし何だか写真は期待出来そうもないなと諦め顔で、丸太の連中を見に行こうと管理事務所の駐車場の方に車を移動し、いつか撮影したいと思っていたフエンスに絡むトケイソウが再び花を付け始めたので、どう撮っても絵にはならないからくっきりはっきりを心がけて撮影した。トケイソウは花が時計の文字盤の針に似ているので名づけられたが、よりによって秒針まであるのだから納得が行くことだろう。図鑑を見ると小山田緑地管理事務所に植栽されているのは“CONSTANCE ELIOTT”と言う名の品種のようである。トケイソウを本で調べるにあたって、蔓性植物だからクレマチスの仲間だろうと思ったが、なんとトケイソウ科トケイソウ属で南米に400種類も産する大グループであることが分かった。ちなみにクレマチスはキンポウゲ科とある。また、更にトケイソウの記述を読んでみると、西洋ではハーブとして著名で、精神不安定、ヒステリー、不眠に効果があると書かれている。道理で小山田緑地の管理事務所の方々が、みなさんとても穏やかで良い方々であることが、これで判明した。ストレス多き現代生活には必植の植物のようだ。
 ところで肝心の丸太の連中、ルリボシカミキリ、タマムシはどうなったかと言うと、これが残念な事に自由な出入りが出来ないように工事がなされているのには驚いた。ここは私有地で丸太の連中騒ぎで、数え切れない程たびたび人盛りが出来たのだから、安全性を考えての処置だと思う。これで多摩丘陵に於いてのルリボシカミキリ、タマムシの観察はとても難しくなったが、逆に採集者や子供達の手に陥ることが無くなったのだから安心だとも言える。これで丸太の連中とも会えなくなったので、仕方なしに梅木窪分園のアサザ池まで歩いて行った。これと言った観察ポイントがある訳では無いのだが、かたわらが雑木林の田んぼ脇の小道で思わぬものに出くわすこともあるのだ。今日はコマツナギの花が至る所に咲き、たくさんのツバメシジミが飛んでいて、コチャバネセセリが早くも咲き出したヒヨドリバナに吸蜜していた。アサザ池はその名の通りアサザが植栽されている浅い池で、いかにも各種のトンボがいそうなのたが、大久保分園の第2トンボ池同様に普通種以外はこれと言ったものが見られない。都立小山田緑地は鳴り物入りで数多くのトンボ池を造ったようだが、その割には定着が見られず種類が少ない。解説書にはイトトンボの仲間を含めた24種類のトンボが見られるとあるのだがとても信じられない。きっと、開設当時のまだ周辺が開発されぬ時の種数であろう。いずれにしてもトンボを増やす事はとても大変な事で、飛翔力の無いイトトンボの仲間は特に難しい。
 今日もアサザ池には黄色い花がたくさん咲いていて、早朝に開花し午前中にしぼんでしまうという割には開いているものが多く見られた。そこでなんとか撮影しようとも思ったのだが、望遠レンズを持参しなかったから大きくは写せない。300mm以上ある開放値の明るいレンズを持って来れば、とても雰囲気溢れる写真が撮れる事だろう。帰りは初めての尾根道回りでと日陰になった登り口まで行くと、アカネ類のトンボの仲間が棒の先でテリトリーを張っていた。まだ完全に成熟していないので黄色っぽい体だ。アカネ類は赤くなってからと、これまで未成熟個体は撮影して来なかったし、どうせマユタテアカネかヒメアカネだろうと通り過ぎようとしたが、今日は撮るべきものに出くわさないのでとりあえず撮ってみた。この点、デジタルカメラはいくら撮ってもただだから良い。ところが家に帰ってパソコンで拡大して種名を調べてみると、胸の紋様からナツアカネであることが分かった。ナツアカネはアキアカネと異なって、山地や高原に避暑に行かない事は知っていたが、それでは一体何処で夏を過ごしているのかしらと思っていたら、こんな雑木林の陽が射さない涼しい所で夏をやり過ごしている事が分かった。今までずっと疑問に思って来た事の一つが氷解したのだから嬉しくなった。
 初めて散策する尾根道は雑木林ばかりではなく、ヒノキの林、竹林、山野草が見られる開けた場所とかなり変化に富んだ尾根道で、更に吊橋まであるのには驚いた。ここは時期が良ければ山野草とキノコに関してはかなり楽しめそうな場所で、今日もキノコではドクツルタケが生えていた。尾根道の終点から車を停めた管理事務所まではすぐで、昼食をすませると何処か別の場所に行ってみようとも考えたが、小山田緑地内のもう一つのキノコのポイントとオオムラサキが見られる林に行ってみる事にした。かなり気温は高くなり日差しも強くなった登り道を息せき切って歩いて行った。しかし、期待したキノコもオオムラサキにも巡り合わなかったが、大きなクワの古木があったのでトラフカミキリを探してみると、2匹見つける事が出来た。多摩丘陵では初発見のものなので、舞岡公園で何べんも撮影しているにも関わらず慎重に撮影した。以上、今日の小山田緑地は期待したものにはほとんど巡り合わなかったものの、やはり出かければそれなりの勉強とはなったが、暑さで身体はバテバテ、頭はフニャフニャにもなった。帰り際、少し時間が余ったので小野路町の美しい雑木林にスミナガシの偵察に立ち寄ったが、カナブン、クロカナブン、ヒメスズメバチ、キタテハ、ジャノメチョウが見られた程度で、やはり本格的な雑木林内での昆虫観察はこれからのようだ。

<今日観察出来たもの>花/アサザ、ヤマユリ、コマツナギ(写真上右)、アキノタムラソウ、ヤブカンゾウ、オモダカ、ツユクサ、ヤブミョウガ、ソクズ、トケイソウ(写真上左)等。蝶/アオスジアゲハ、キアゲハ、クロアゲハ、カラスアゲハ、キチョウ、スジグロシロチョウ、コミスジ、ゴマダラチョウ、ヒメアカタテハ、キタテハ、クロヒカゲ、ジャノメチョウ、ウラナミシジミ、ツバメシジミ、ウラギンシジミ、ムラサキシジミ、コチャバネセセリ、ダイミョウセセリ等。昆虫/コクワガタ、クロカナブン、カナブン、キボシヒゲナガカミキリ、トラフカミキリ、オオシオカラトンボ、ナツアカネ(写真下右)、ヤマトフキバッタ、ヤブキリ、ヒグラシ、ニイニイゼミ、ベッコウハゴロモ、アミガサハゴロモ等。キノコ/ドクツルタケ、コウジタケ、オオムレイチョウタケ?(写真下左)、カワリハツ、チチタケ、ニシキベニハツ、シロハツの仲間等。


7月18日、横浜市緑区長津田町

 昨日は3連休初日で、本当ならば涼しい所へ遠征するつもりでいたのだが、身も心も頭も脱力感一杯でクーラーの効いた部屋から一歩も外へ出たくなく、家人に当り散らすのもなんだから、芋虫のように布団の上でゴロゴロしていた。さすが連日続いた猛暑による疲れが出たのだろう。本当に記録的な暑さであったと思う。ラジオをつけると各高速道路は大渋滞とのことで、きっと何処へ行っても人人人の波、車車車の列で、身も心も休まる事は無かろう。今年は何処か遠くへ行きたい、近場では見られないものを見たい撮りたいと言う意欲が湧いて来ない。もちろん天気のせいでもあろうし、歳をとったこともあるのだろうが、近場でもとっても面白く遊べてしまうのだから、疲れに行くような遠征は気が向かないのだ。私のような自然大好き人間のかなりの方は稀少種を求めて各地を巡り歩く方が多いが、私は異端なのだろうか、昔からそれほどまでに興味がないのだ。最近になって分かったのだが、カメラを持って自分が生まれ育った多摩丘陵の微妙に変化する四季を味わいたい、表わしたいと言う事が第一義的なものであるらしい。そして普通に見られるものであっても、情緒溢れた自分の感性が納得する写真が撮影出来ればそれで良いらしい。所詮、遠くで見られる風景、動植物・キノコは心象風景からも遠いのだ。
 今日は前記した理由もあってか、また、昨日の脱力感が完全に抜け切れていないことが心配なためか、近場の緑区長津田町へ行った。今日の目的は二つあって、一つはこのHPの掲示板にも度々ご投稿下さる同好のご婦人がが、昨晩、なんとハスの蕾に止まるアオメアブの写真を掲示板に送って来てくれたために、どうしてもアオメアブを撮りたくなったのだ。もう一つは、やはりこのHPの掲示板にも度々ご投稿下さる森のきのこさんこと多摩市のKさんが、多摩川で撮影したゴマダラチョウの写真を掲示板にご投稿下さって以来、多摩丘陵にてゴマダラチョウを撮影したいと思っていたのである。そんな種々の理由から選ばれたのが長津田町のフィールドであった。アオメアブが大好きな畑があって、しかも樹液が滴るクヌギ林もあり、ことによったら薬師池公園のハス田に咲いていたミゾカクシが、谷戸田に咲いているかもしれないと思ったからだ。この地域は東名高速道路と国道246号線が走っていて、昔からの農業地域であったためもあってか、道端自然観察に好適なフィールドが両道路沿い各所に点在するのだ。
 まず最初に、国道246号線の雑木林へ行った。ここは説明するのに苦労する細い道を上がった丘の上になる。車を涼しい木陰に停めると、まず目に入って来たのが、カラスウリのしぼみかけた花である。今年もそろそろ夜に撮影しに行かなければならない。それともこのHPをご覧下さっているご婦人連の頼りないが用心棒にでもなって、「舞岡公園、カラスウリとセミの羽化の夕べ」でも開催しようかなとも思った。歩き始めると黄色いオオハンゴウソウの園芸種が目に留まった。ヒマワリよりもだいぶ小さいが、このつれづれ観察記を彩るのにはやはり園芸品種の花が必要で、小さいヒマワリのつもりで素直に切り取った。更に歩いて行くと尾根上に花がたくさん植えられている畑がある。今日はクサキョウチクトウ、サンジャクバーベナ、バーベナ、ランタナ、ミソハギ、ダリア、ハルシャギク、モントブレチア等たくさんの花が咲いていた。この花々はセカンドライフを楽しむ人の良い熟年夫婦が栽培しているもので、畑に不法侵入すればよい作品が撮れるとは知りつつ、いつも道端からおすそ分けを頂いている。その畑の反対側は植え溜めであるが、少し開けた空間になっているので、もしやアオメアブと目を凝らすと、同じムシヒキアブ科のシオヤアブがマメコガネを捕らえてお食事中であった。
 いよいよゴマダラチョウをと雑木林の小道に入って行くと、残念ながらクヌギの樹液にはゴマダラチョウは不在で、ジャノメチョウの雌が吸汁していた。雄は7月1日の観察記で紹介しているが、雌はそれより一回りも大きくて、羽の裏も焦茶一色ではなくて、かなり幅の広い白い帯が目立つなかなかシックないでたちである。もう過去にさんざん撮影しているが、この羽を閉じた姿を見ると、ばちりと写したくなる存在感溢れる美蝶だと思う。更にゴマダラチョウを求めてさ迷い歩くのだが、大きなカブトムシに出会った位でこれと言った収穫は無かった。なぜだか知らないが、ここの雑木林にはカブトムシの雄がたくさんいて、しかも皆超大型なのは不思議である。一回り探せども目的のものは見つからず、日陰になる小道に差し掛かってヘクソカズラ、ツユクサ等を撮影したり、ウワミズザクラの実を試食したりしていたら、ゴマダラチョウがやって来て葉の上に止まった。しかし、かなり距離があって大きくは写せない。付近には樹液が滴るクヌギやコナラの木は無い。ことによったら私と同じでウワミズザクラを試食しに来たのかもしれない。図鑑にはとても美味であると書いてあったが、私には今一の味であったから、ゴマダラチョウも偶然立ち寄ったのに違いない。
 かなり執拗に探したのだが樹液に吸汁するゴマダラチョウには巡りあえず、牛丼がメニューから消えてから魅力の無くなった吉野家に立ち寄って昼食をとった後、今度は東名高速沿いに広がる雑木林に行った。ここでも目指すゴマダラチョウには会えなかったが、咲き始めたクサギの花、色づいたエビズルの実を撮影した。エビズルはノブドウと異なって食べられるが、もう少し熟してからの方が良さそうである。それにしても、もうエビズルが熟し始めているとは予想だにしなかったが、そろそろ甲府盆地のデラウエアが果物店にならび始める頃だから、あながち時期外れとは言い難い。雑木林の中はとても乾燥していてキノコの姿は見られず、ヤマユリが心地良さそうに林の中を通り過ぎる風に揺れている。時計を見るとかなり時間が過ぎている。この後、新治市民の森、横浜キノコの森へゴマダラチョウを探しに行く手もあったが、夏場は疲れを残さないようにほどほどにと、アオメアブとミゾカクシを探しに谷戸に下りて行った。なんとアオメアブはネギの葉に止まっていた。アオメアブは地面から直立した棒や草等に抱きついて、獲物が来るのを炎天下でじっと待っている習性がある。確かにネギの葉も地面から直立しているから、この習性の範疇内だと笑ってしまった。一方、ミゾカクシであるが、炎天下の谷戸田を歩くのは雑木林の中を歩くのとはかなり異なる炎熱地獄で、形の良いミソハギを撮影して早々退散し帰宅した。

<今日観察出来たもの>花/オオハンゴウソウの園芸種(写真上左)、クサキョウチクトウ、サンジャクバーベナ、バーベナ、ランタナ、ミソハギ、ダリア、ハルシャギク、モントブレチア、ヤマユリ、キツネノカミソリ、アキノタムラソウ、ツユクサ、ヘクソカズラ、クサギ等。蝶/クロアゲハ、ゴマダラチョウ、キタテハ、ジャノメチョウ(写真下左)等。昆虫/カブトムシ、カナブン、キマワリ、アオメアブ(写真下右)、シオヤアブ、ウスバカゲロウ、アブラゼミ、ヒグラシ、ベッコウハゴロモ等。その他/エビズルの実(写真上右)、ウワミズザクラの実等。


7月16日、東京都町田市薬師池公園〜小野路町

 今日で7月の観察記は10回目になる。一頃の暑さのため7月の観察記を15回位書くのは大変な事で、ことによったら魔の中断なんてことも考えられるなと思っていたら、案ずるより生むが安しとなって来た。7月は31日まであるのだから、どう転んでもあと5回位はフィールドへ行けるだろう。8月は例年通りお盆休みに涼しさ一杯の群馬県嬬恋村に行くつもりだから、その時にまとめて書く事が出来るから、2004年の観察記は豪華絢爛に書き続けて行けそうである。梅雨前線は新潟から福島にかけて北上したが、それが災いしてか、新潟県の大雨の被害にはただただ両手を合わせるのみである。ゴールデンウィークに長岡市の雪国植物園に行っているから、なおさら身に迫って来るものがある。私が住んでいる横浜市港北区だって、鶴見川は暴れん坊の一級河川だから、港北ニュータウン及び源流域の町田市等の開発によって、集中豪雨に見舞われたらひとたまりも無いことだろう。天災は必ずやって来るが、それが人災によって被害がより増幅されぬよう、関係諸官庁の対策を切にお願いしたい。
 そんな訳で梅雨が明けた等とのんきな事を言って嬉しがっている訳には行かないが、炎熱地獄に咲く清らかなハスの花を撮りに薬師池公園行った。夏になるとどうしても撮りたい花のベストスリーにランクされるのがこのハスの花だ。それでは残りの2つわ?と質問されたら、ヒマワリとサルスベリと答えるだろう。しかし、サルスベリはまだしも、ヒマワリになるとなかなか美しく撮影する事が出来る場所は周辺には無い。なにしろ人の背よりも高くなり、また、今年は台風がすでに2つもやって来たので、風によって倒れてしまったものもあるだろう。そんな訳でヒマワリはお盆休みの長期休暇までお預けである。その点、薬師池公園のハスは雨が降ろうが降るまいが水はたっぷりあるし、風が吹こうが吹くまいが周りを小高い丘に囲まれているから関係は無いだろう。そういう訳で今年も順調に開花している。しかし、美しく撮影しようとしたら天候は勿論の事だが、つぎつぎに咲いて行くのだから足繁く通わないと難しい。今日もなんとか写欲の湧いたものは僅かに1カットであった。
 かなり意気込んで道具立てをしてやって来た割には今一の出来のハスの写真であったが、無事に撮影を済まして薬師池公園をぐるっと回ったが、他には苔むした麦藁屋根の古民家の屋根の天辺に、今年も相変わらずオニユリが花を付けていた。「鳥が種を運んで来て屋根の天辺にオニユリが根づいたのよ」と、散策に来たご婦人が自慢顔で仲間に話していたが、図鑑によると我が国のオニユリは染色体が3倍体で種子は出来ず、むかごで増えるのみとある。むかごは鳥が食べると消化されてしまうだろうから、鳥が屋根の天辺に止まって糞をしても芽が出るはずは無い。もっとも嘴に咥えて飛んで来て、ゆっくり見晴らしの良い場所で味わおう等と思ったカラス君あたりが、うっかり落として見失ったのなら芽生えるに違いない。それにしても、いったいどうして麦藁屋根の天辺にオニユリが根づいたのだろう。そんな事を考えながら、これも年末の写真展「2004年、里便り」にぴったりだと慎重に青空に抜いて撮影した。
 午後はいつも通りの小野路町の午後コースを散策した。前回、舞岡公園へ行った時に久々に鎌倉のNさんに出会ったが、彼女も虫探しにだんだん慣れて来たらしく、葉の上に休むトウキョウヒメハンミョウをハエと思って通り過ぎる事がなくなったようである。しかし、そんな彼女もベッコウハゴロモ(写真下左)を見つけた時は蛾の仲間と思ったらしい。そんな訳で今日は、「形は似ているけど蛾ではありませんよ、ハゴロモの仲間ですよ」と紹介せねばなるまいと、一番注意して散策した。ハゴロモの仲間はセミ、カメムシ、ヨコバイ、ウンカ等が含まれる半翅目に属し、私の持っている図鑑にはベッコウハゴロモ、ヒメベッコウハゴロモ、スケバハゴロモ、アミガサハゴロモの4種がハゴロモ科として載っている。このうちのヒメベッコウハゴロモを除いて、すべてが車を停めた道端で観察が出来るのだから小野路町は素晴らしい。しかし、一番美しいスケバハゴロモはどうも発生期が少し遅れるようで今日は見られなかった。なお、子供の頃にハトと呼んで慣れ親しんだアオバハゴロモはハゴロモ科ではなく、アオバハゴロモ科として分類されている。
 今日の小野路町はキノコはすべて消え去ってしまい、その他、別段、これと言った注目すべきものが無いので時間が余ってしまい、行くつもりの無かった五反田谷戸へ降りて行ってみると、野津田のKさん一行の4人のご婦人が休耕田でキャーキャー奇声を上げていた。何をしているのだろうと行ってみると、無数にいるトウキョウヒメハンミョウの幼虫の巣穴を掘り返して幼虫を観察しているのである。このグループはもともと多摩市のYさんを中心とした野の花のグループだと思っていたのだが、このところ夏だから仕方なしにか野の花はご卒業のようで、蝶や虫に興味を持ち始めたようである。びっくりしたのはKさんで、「吉田さん、ハンミョウを捕まえて」と言う。「嫌ですよ、噛まれたら大変だから」と言うと、おもむろに小さな網を取り出してハンミョウを捕まえると空き瓶に放り込んだ。「ハンミョウの顔をじっくり見たかったのよ」と言うのだから、このKさんも何処か遠い異星からやって来た子孫のようだ。
 Kさん達と別れて車に戻り、ようやく赤く色づき始めたウワミズザクラの実を撮影した。初夏に白い試験管ブラシのような花をつけるからご存知の方も多いことだろう。ウワミズザクラはサクラとつくようにれっきとしたバラ科サクラ属の一員であるが、ヤマザクラ等とは少し離れた存在なのだろう。図鑑を見ると熟した実は食べられ、果実酒にすると香りが良くてとても美味しいとあるから、この次に行った時に食してみよう。ウワミズザクラの実を写していると、野津田のKさん一行の4人のご婦人が車に乗ってやって来た。「あの後、素晴らしいものを見ちゃった」とKさんが言う。聞くところによると写真撮影をしていた緑山のKさんに800mmのレンズを通してアオバズクを覗かせて貰ったのだと言う。「まだいる筈だから行って見たら」と勧めてくれたが、今日はいくらかしのぎやすかったとは言えバテバテで、もう一度坂道を登る元気等出る筈はない。このところ野鳥とはご無沙汰だから、アオバズクを是非撮りたいと思うのだが撮れるだろうか。それにしても、「熟年小野路町・図師町道端自然観察愚連隊のご婦人たちは、とっても元気だなあ。熟年婦人恐るべし」と走り去った車を見送りながら、あんぐりと大きな口を開けながら呟いた。

<今日観察出来たもの>花/ハス(写真上左)、ヤマユリ、オオバギボウシ、ソクズ、アキノタムラソウ、マヤラン、ミヤコグサ、ヤブミョウガ、ガガイモ、ミゾカクシ等。蝶/キタテハ、クロヒカゲ、ムラサキシジミ、ウラギンシジミ、イチモンジセセリ等。昆虫/カブトムシ、コクワガタ、カナブン、キマワリ、オオヒラタシデムシ、ハンミョウ、トウキョウヒメハンミョウ、アブラゼミ、ヒグラシ、ニイニイゼミ、エサキモンキツノカメムシ、アオクサカメムシ、ベッコウハゴロモ(写真下左)、アミガサハゴロモ(写真下右)、アオバハゴロモ、ギンヤンマ、オオシオカラトンボ、シオカラトンボ、ヒメアカネ、マユタテアカネ等。鳥/アオバズク等。その他/ウワミズザクラの実(写真上右)等。


7月14日、横浜市戸塚区舞岡公園

 前回訪れたのが6月28日だから、実に久しぶりの舞岡公園である。自然の四季の変化は2週間位の間隔で様変わりして行くが、微妙で微細な変化を味わう為には、やはり1週間毎に出かけないと連綿と続く道端自然観察に穴が開くように感ずる。だから少し舞岡公園へ行く間隔が開きすぎてしまった。なにしろずっと晴天が続いて、どちらかと言うと日陰の少ない舞岡公園を歩くのが憂鬱であったし、交響詩オオムラサキと丸太コンチェルトを聴きに小山田緑地に行き過ぎたようでもある。今日は、昨日、関東地方の梅雨明け宣言がなされた筈だが、朝起きてみると曇り空である。何だか狐につままれたようだったが、朝食に保土ヶ谷PAで狐蕎麦を食べた為か、午後になると晴れて来た。それでも良い汗をかいたと感ずる程度だったから快適な散策日和だったとも言える。しかし、夏の舞岡公園は多摩丘陵と同じで、例年通り人影がまばらだ。今日出会ったコンパクトデジタルカメラで野の花を撮っているとおっしゃっていたご婦人が、「あまり野の花がありませんわね」と嘆いていたが、夏は昆虫に興味の無い方には、里山はただ暑いだけで何ら魅力を誘うものは無いとも言える。しかし、だから里山巡りは学校と同じで夏休みだ等と思ったら、里山道端自然観察学校の卒業証書はもらえない。なにしろ里山道端自然観察学校には長期休暇は無いのだ。
 車を停めるとさっそくクワの木でクワカミキリが出迎えてくれた。多分、正確に言うとクワではなくヤマグワなのだと思う。なにしろマグワとヤマグワは花が咲いていたり実がなっていたりすればなんとか種名判別が出来るのだが、それ以外の時はお手上げの似通った樹木である。だから一括してクワと言ってしまえばどちらかに相当するわけで、厳しいお叱りを受けなくて済むと考えている。そんなクワはカイコはもちろんの事、様々な昆虫達が大好きな樹木で、カイコのルーツであるクワコ、モンキシロノメイガ、クワカミキリ、トラフカミキリ、キボシカミキリ等お馴染みさんで一杯だ。このような樹木は他にエノキ、ミズキ等が上げられ、これらの樹木を上から下までずずずいっと観察すると、何かしらの昆虫に出会えること請け合いである。クワカミキリは図体が大きなカミキリムシなのだが、1cm以下の細い枝にいて、その樹皮を鋭い大顎で削って食べているのである。だから、フィールドでクワの木を発見したら、小枝が齧られていないかをまず確認して、齧られていればクワカミキリないしキボシカミキリが何処かにいると考えても差し支えない。もっともお蚕様のために畑に植えられているクワは、農家の方がしっかり管理しているので、これらの昆虫はほとんど見られない。
 クワカミキリを撮影して谷戸奥に向かって歩き出すと、花粉用に植えられている野生種に近い梨(写真上右)がたわわに実っている。もちろん出荷用の梨は、大切に袋をかけられて梨棚からぶら下がっているから中身は見えない。舞岡公園のボランティアの方々が耕す畑の番号札の杭にニイニイゼミが止まっている。今年の年末に「2004年、里便り」という写真展が開催されるが、こんな写真は見に来る方々の心をほっとさせ笑みを浮かべさせるものであると思ったので、背景を選んで慎重に撮影した。もちろん写真のタイトルは、年末だからベートーベンの交響曲第9番にちなんで「ニイニイゼミ第9番」としようと思う。日頃、美しい写真、情緒溢れる写真を心がけてフィールドを歩いているのだが、こんな「ニイニイゼミ第9番」のような人と生き物との織り成す心温まる一齣をたくさん撮ってみたくなった。こんな素晴らしい被写体があるのに、今日はどういう訳か舞岡のファーブルさんこと野庭のTさんをはじめ、お仲間達が誰も来ていないのが不思議である。連日続いた極暑のために体調を崩されていなければ良いがなと思った。
 古民家まで行く途中、草原に美しくツユクサ、アカツメクサ、ヒルガオが咲いていてデジタル一眼レフカメラで撮影したのだが、どうもデジタルは花の発色に関しては今一で、カメラザックの中からフイルム一眼レフカメラを取り出して撮影した。今まで試してみて私の使用しているデジタル一眼レフカメラは、鳥、蝶、虫、茸まではOKなのだが、これらの風景的な写真と花、風景になるとやはりフイルムに軍配が上がるようだ。緑一色になった田んぼを渡る風が作る波模様も、もちろんフイルムで撮影した。そんな道草をしたから古民家まで行くのにかなり時間を食ってしまって、曇り日だというのに息が上がって、木陰に置いてある丸太で作ったベンチに雪崩込んだ。ふと見るとベンチの上に煌びやかに光るタマムシの羽が幾片かに分かれて散乱している。これもアオバズクの仕業なのだろうか。そう言えば舞岡公園の主的存在であるFさんも、アオバズクの幼鳥撮影にのめり込んでいるらしく、しばらく舞岡公園で出会っていない。それにしてもアオバズクハが樹液に集まるカブトムシやクワガタムシを見つけ出すのは納得が行くが、私がどうしても出会えないでいるオオミズアオと言う大きな蛾をいとも簡単に見つけて食べてしまうのだから、きんきらきんのタマムシくらい朝飯前なのだろう。
 広場の周りにはタマムシの大好きなケヤキが植えられ、傍らには丸太もあるので、舞岡公園初のタマムシの写真とばかりに近寄って見ると、スズメバチに擬態したヨツスジトラカミキリがいた。今日もたくさんクワの幹にいたトラフカミキリに比べると小型である。きっと、トラフカミキリはスズメバチにヨツスジトラカミキリはアシナガバチに擬態しているつもりなのだろう。ヨツスジトラカミキリを撮影しようと近づくと、それを察知してか飛び立ってマサキの葉に止まっておとなしくなった。ヨツスジトラカミキリはマサキの材を食して成長するのだから、こんなにマサキが植えられているからいるのだなと納得した。それにしても図鑑によるとヨツスジトラカミキリはマサキ以外に、モッコク、モチノキも食するとある。マサキはニシキギ科、モッコクはツバキ科、モチノキはモチノキ科と科を違えた樹木を好むとは面白いが、いずれにしてもこれらの樹木はみんな生垣として植えられている点が共通しているのには驚いた。道理でヨツスジトラカミキリは住宅街でも見られる訳である。舞岡公園では前記したように野の花もキノコもとても少なくなったが、これからはトンボ、セミはもちろんの事、様々な面白昆虫が出現するので、「涼しい日は舞岡公園でも行ってみるか」を合言葉に、里山道端自然観察学校の卒業証書がもらえるように、夏場でも大いに出向いてもらいたいフィールドの一つである。

<今日観察出来たもの>花/ツユクサ、アカツメクサ、ヒルガオ、オカトラノオ、キキョウ、ヤブカンゾウ、ノアザミ、ヤブカラシ、オトギリソウ、タケニグサ、スイレン、ムクゲ等。蝶/アオスジアゲハ、キアゲハ、モンキアゲハ、クロアゲハ、カラスアゲハ、ゴマダラチョウ、キタテハ、ヒメジャノメ等。昆虫/クワカミキリ(写真下右)、トラフカミキリ、ヨツスジトラカミキリ(写真下左)、アトジロサビカミキリ、ナガゴマフカミキリ、カナブン、マメコガネ、ギンヤンマ、オオシオカラトンボ、シオカラトンボ、ショウジョウトンボ、コシアキトンボ、ウスバキトンボ、ニイニイゼミ(写真上左)、ヒグラシ、セアカツノカメムシ、エサキモンキツノカメムシ、チャバネアオカメムシ、ナガメ、ベッコウハゴロモ、アミガサハゴロモ、アオバハゴロモ等。鳥/カワセミ、アオサギ等。


7月13日、神奈川県秦野市弘法山

 今日は前々回空振りに終わった大賀ハスを町田市にある薬師池公園で撮影するつもりでいたのだが、インターネットの天気予報を見ると、なんと町田市の最高気温は38度とある。自宅のある横浜市港北区は35度とあるから、町田市は海から離れているだけあってとても内陸的な気候なのだ。これでは出かけても熱中症に罹るだけだと薬師池公園をきっぱり諦めたが、それでは何処へ行こうかと思い悩んだ。標高の高い箱根や御殿場に行けばだいぶ気温が低いものの、今週末、また涼しさを求めて放浪の旅に出かけるつもりだから、遠出はよそうと秦野市の弘法山へ行った。もちろん秦野市は盆地だから気温が高いのは確かなのだが、痩せても枯れても弘法山は丹沢山塊の一部の筈だから、いくらか涼しいと思った訳である。しかも、雑木林の中に咲き乱れるヤマユリを、今年もじっくりと撮影したいと思ったのだ。しかし、そんな思いはかなり強い風とピーカンの天気によって完全に打ち消されてしまった。もっとも風があるから体感温度はいくらか低くなって、かなりしのぎやすかったとも言えるのだから、むしろ良しとせねばならないのだろう。なにしろ、お昼のラジオの天気予報によると、関東地方は今日から梅雨明けで、東京都心の温度計は鰻上りの極暑であると報じられていた。
 花、虫、鳥、茸の観察なら任せておいてよと言う弘法山、権現山だが、今日はハイカーの姿はほとんど無く、権現山の野鳥観察施設にも人影はまったく無いと言う摩訶不思議な状況であった。中高年のハイカーたちは、涼しさを求めてこんな低山等には目もくれずに、きっと上信越の山や高原に出かけているに違いない。特に、ご婦人にとっては、低山の熱気と湿気はすぐに化粧崩れを起こしてしまうから、熱中症に罹る位に恐ろしいことなのだろう。以上のように人影がほとんど無い弘法山であったが、花、虫、鳥、茸も褒められた程には見られなかった。蝶ではモンキアゲハ、クロアゲハ、カラスアゲハ、ジャコウアゲハ等が観察できたが、大好きなヤマユリが咲いていても、ヤマユリが風にそよいでしまうので吸蜜に励む事も出来ないためか、樹木の間を縫うように飛んでいた。山口誓子の俳句「陰を出て光に衝る揚羽蝶」は有名だが、「緑陰を縫って爽やか揚羽蝶」と下手な俳句を読んでみた。これからの季節、身近な風の通る公園の木陰等でも、モンキアゲハ、クロアゲハ、カラスアゲハ等が、蝉時雨の中を軽やかに飛んでいることだろう。
 今日は風が強くしかもピーカンと言う最悪のコンディションで、キノコもほとんど見られないから、道端に積んである丸太や木陰に入って木の幹に注意して観察を開始した。いつものように太い切り出したエノキの丸太を見に行くと、前回来た時と同様にシラホシナガタマムシ、アシナガオニゾウムシ、ゴマフカミキリが見られ、それに加えてタマムシが2匹飛来していた。また、付近にある樹木の幹にはヒグラシやニイニイゼミはもちろんの事だが、ヤマトフキバッタやヤブキリの成虫、トビナナフシの幼虫が見られた。また、抜け殻だろうと思ったが、何となく身体のてかり具合が艶やかなので近づいて見ると、地中から這い出たばかりのまだ羽化していないアブラゼミの幼虫を発見した。普通、セミの羽化は天敵の少ない夜に行われ、幼虫が地上に現れるのは夕方だから、なんでこんな昼早くから地上に現れ出たのか納得は行かなかったが、これも絶好のチャンスとばかりに撮影した。平地に産するセミは成虫ならば誰でもすぐに種名は判明できるが、幼虫及び抜け殻になると種名判別にはかなり梃子摺るものである。この写真の大きさ形からすぐにアブラゼミかミンミンゼミだろうと判別出来たが、そのどちらかは触覚を注視しなければ分からない。付根から数えて第2節と第3節が同じ長さなのがミンミンゼミ、第3節が第2節の約1.5倍の長さのものがアブラゼミなのである。
 今日はまた尾根道で桜の幹で休むナナフシモドキ(ナナフシ)を発見した。これもまた厄介な昆虫で、エダナナフシと言う似通った仲間がいるのである。こちらの見分け方は触覚が短いのがナナフシモドキ、長いのがエダナナフシであるが、普通、前足をぴたりと触覚につけている場合が多く、なかなか触覚の長さが分からないのだが、今日は写真のような格好をしていたのですぐに触覚の長さが分かった。いずれにしてもナナフシの仲間は樹木の小枝に擬態していることは誰でも分かるが、その奇妙な格好とカマキリの親戚筋にあたることもあってか、余り触りたい掴みたいとは思わない昆虫である。静止していたナナフシモドキを小枝の先で軽く触れてみると、身体を左右に揺さぶってなかなか静止しない揺り籠運動を開始した。こんな運動をしない方が天敵に見つからないと思うのだが、なにか威嚇しているようにも感じられ、いづれにしても「僕は怒ってるんだぞ」と身体全体で意思表示しているかのようであった。
 今日の樹木の幹の上での観察で、一番の収穫は、何と言ってもコフキコガネである。顔の可愛らしい昆虫は数多くあるが、コフキコガネの柔和な顔は特筆ものである。他の動物の仲間でも肉食のものは顔が怖く、草食のものは顔が柔和であるのが普通だが、昆虫の世界でもカミキリムシ等の一部を除いて、そのセオリーは通じると思う。その筆頭はトホシテントウやこのコフキコガネであると思う。今日の個体はなぜか顔や胸に白い粉をたくさんつけていて、その名の通りのコフキコガネであった。コフキコガネで思い出すのがその親戚筋にあたるヒゲコガネである。触覚の立派な美しいコガネムシだが、かつては首都圏平地にもたくさんいて夜間電灯に飛来した。現在でも多摩川にかかる橋の電灯に飛来すると言うので、ことによったら多摩川を自然観察の一つとしている、このHPの掲示板にも度々ご投稿下さる森のきのこさんこと多摩市のKさんあたりが見つけ出して投稿してくれるかもしれない。以上、今日は最悪のコンディションであったが、それなりに様々な昆虫に出会って、弘法山は標高こそ低いものの、痩せても枯れても丹沢山塊の一部であることを実証してくれたように感じられた。

<今日観察出来たもの>花/ヤマユリ(写真上左)、ウツボグサ、シモツケ、ネムノキ等。蝶/アオスジアゲハ、モンキアゲハ、クロアゲハ、カラスアゲハ、ジャコウアゲハ、アカタテハ、キチョウ、ウラギンシジミ、ムラサキシジミ、ミズイロオナガシジミ、ダイミョウセセリ等。昆虫/タマムシ、シラホシナガタマムシ、アシナガオニゾウムシ、ゴマダラカミキリ、コフキコガネ(写真下左)、カナブン、ナナフシモドキ(写真上右)、トビナナフシ、ヤマトフキバッタ、ヤブキリ、ニイニイゼミ、ヒグラシ、アブラゼミの幼虫(写真下右)、チャバネアオカメムシ等。


7月11日、神奈川県川崎市麻生区早野町〜横浜市青葉区寺家町〜横浜キノコの森

 このつれづれ観察記を見ると、今年は6月8日に気象庁から梅雨入り宣言が出されたとある。また、例年なら7月中旬まで梅雨明けはなかろうから、約40日間も道端自然観察及び写真撮影の絶好期になるのだから嬉しくなるとも書かれている。しかし、期待していたような梅雨とはならず、思ったような成果が上げられぬまま、どうやら梅雨明け間近のようだ。今年は梅雨寒に震えて厚着をすることも無く梅雨の季節が過ぎ去って行ったのかと思うと寂しさで一杯だが、そろそろ頭の中も心の中もそして身体も夏モードに切り替えねばなるまい。ちょとしたボタンのかけ違いから仲の良い友達を失って、じくじくと思い悩む事は大切だが、ある時、きっぱりとその未練を断ち切って明日を目指して羽ばたかねばならないように、人生も季節も「ちょっくら待ってよ」なんて言う自分勝手な注文には答えてはくれない。「去るものは追わず、来るものは拒まず、我が道を静々と歩む」と言うのが道端自然観察及び道端自然写真撮影の極意であり、それは人生や仕事の上でもしかりのようだ。
 今日も朝起きるとまるで抜けるような青空だ。しかし、気温はいくらか低めで、昨日前線が南下して大陸の高気圧が張り出して来た様だ。しかし、多摩丘陵方面にはもくもくと入道雲が発達し始めている。きっと、午後になると雷雨に見舞われ、さんざんな目に会うだろうと予想される。雷が鳴ると梅雨明けと言うから、きっと気象庁から梅雨明け宣言が出されるのももうすぐに違いない。そんな訳で遅く起きた事もあり、また、今日は参議院議員選挙の投票日でもあるので、清き一票を投じた後の出発となった。なにしろいつの間にか60歳からもらえるはずの厚生年金が65歳からの支給となり、更に追い討ちをかけるかのような国民生活を無視した年金改正法案が可決成立したのである。年金がもらえなくっても一向に生活の困らないお金持ちの議員さんが多いから、こんなことになってしまうのだ。このHPをご覧下さっている方々は、、生き物達の棲み易い環境を常日頃からしっかりと考えていらっしゃる方が多いから、きっと棄権等はなされずに、清き一票を投じに投票場に足を運んだと思われる。そんなささやかな庶民の思いを2枚の紙切れに託した後に、午後からの雷雨が心配されるので、今日は小田急線を越える事はよしにして、駐車した車にすぐに逃げ込めるフィールドを目指した。
 私たちが季節を感ずるのは様々な事柄であってしかるべきだろうが、やはり花が最も身近で、その時その時の季節を感ずるのにふさわしい存在である。もちろん私の得意分野の昆虫だって、また、鳥やキノコだって、その季節その季節を感じさせるものが存在するが、一般的にはまた季節を追って途切れることなく連綿と続くのはやはり花、特に庭に咲く花ではなかろうか。そんな訳で早々と夏モードにギアチェンジしたので、夏空に似合う花を求めてまず最初に神奈川県川崎市麻生区早野町に行った。別段、取り立てて風光明媚で自然度が高い訳ではないが、付近に早野聖地霊園なる墓地があるので、墓前に手向ける花の栽培が盛んなのである。夏を感じさせる花は人それぞれに様々だろうが、私はまずなんと言ってもヒマワリが筆頭で、ハス、サルスベリ、ノウゼンカズラ、ムクゲ、ミソハギ、ヒャクニチソウ等がすぐに頭に浮かんで来る。みんな夏の花だから曇り日でなくとも青空に抜いても様になるのだ。昨日の観察記で書いた「待てども待てども、曇り日は来ず、じっと天気予報を見る」等と言う余計な心配事もいらないと言う訳なのだ。
 まず最初に撮影したのはサルスベリである。自慢では無いが女性と腕相撲をして何べんも負けた事のある私は、庄屋さんの門前の大木のサルスベリの木登りで何べんも敗退したと言う苦い経験のある夏の花だ。漢字で書くと「百日紅」だから、夏の間ずっと咲いている。その次に撮影したのはミソハギである。別名「お盆花」と呼ばれている位だからお盆に咲き、また、お盆の仏前に無くてはならない花である。ちょうど入道雲がもくもくと成長し始めていたので、青空とサンドイッチになるように撮影した。そして何と言っても忘れられないのがノウゼンカズラである。私が多感な青春時代にアグネス・ラムなるハワイ出身のアイドルがいたが、小麦色に焼けた肌、真っ黒な黒髪にいつもハイビスカスの花を一輪挿していたが、このノウゼンカズラの花を挿してもとっても似合うと思われるのだがいかがなものだろう。この間、そんなアイドルだったアグネス・ラムちゃんの今が放映された。もちろん昔の面影は残っていたが、ハイビスカスやこのノウゼンカズラを一輪挿すには歳相応の貫禄がつき過ぎたようで、椿の花が相応しいように感じられた。この他、ヒャクニチソウ、ペチュニア、グラジオラス、ヒマワリ、バーベナ、キキョウ、ルドベキア、サルビア、ルリタマアザミ、ランタナ等が咲いていた。
 少し時間が余ったので早野町のお隣の寺家ふるさと村に立ち寄った。ここには普通だが何処へ行っても見られないダイコンソウを写すためである。ダイコンソウの果実は人の衣服や動物の体にに引っかかって運ばれると言う散布方式を採用しているので道端に多いはずなのだが、なぜか他のフィールドでは見たことの無い植物である。それだけ寺家ふるさと村は観光地化されて人が多く来るからと言う理由だけでは片付けられない、何か生態的特性のある植物なのかもしれない。寺家ふるさと村の日陰の斜面にはまだオカトラノオがたくさん咲いて、蝶ではコチャバネセセリ、イチモンジセセリが見られ、早くもユウガギクが咲き始めているのには驚い。しかし、町田市方面を蓋っていた黒い雲が次第に広がって、お昼きっかりに大粒の雨が降って来た。その後、雷鳴が轟き稲妻が光り、バケツの水をひっくり返したような雨となった。これで帰るのもつまらないなと車の中で昼寝をし、この掲示板にも度々ご投稿下さる花なばさんこと山口県のKさんのHPに登場していたホソバセセリが、まだ横浜にも生息しているだろうかと横浜キノコの森に確かめに行った。最近、人のHPを見てもうそんな季節なんだなと気づかされる事が多いが、ホソバセセリもそうである。しかし、熟睡してしまったのが災いしてか頭が朦朧としていたので、しっかりとした確認が出来ずじまいの帰宅となった。多分、多摩丘陵のホソバセセリは絶滅したものと思われる。

<今日観察出来たもの>花/サルスベリ(写真上左)、ミソハギ(写真上右)、ノウゼンカズラ(写真下左)、ヒャクニチソウ、ペチュニア、グラジオラス、ヒマワリ、バーベナ、キキョウ、ルドベキア、サルビア、ルリタマアザミ、ランタナ、ダイコンソウ(写真下右)、オカトラノオ、リョウブ、ヘクソカズラ、ヤブガラシ、ユウガギク等。蝶/ヒメウラナミジャノメ、ベニシジミ、イチモンジセセリ、コチャバネセセリ等。昆虫/クワカミキリ、マメコガネ、シオヤアブ、アオメアブ、シオカラトンボ、セアカツノカメムシ等。キノコ/ツチヒラタケ、マンネンタケ、ニオイワチチタケ、カワリハツ等。


7月10日、東京都町田市町田ダリア園〜都立小山田緑地〜小野路町

 「待てども待てども、曇り日は来ず、じっと天気予報を見る」てな具合で、今日も天気予報は見事に外れて午前中は晴天であった。昨日は全国で数多くの方々が熱中症で倒れ、尊い命を失った方もある。まことにこの異常天気はしつこく続く。このところずっと昆虫とキノコの組み合わせで、このつれづれ観察記が続けられているので、書いてる本人も飽きてしまった。きっと読んで頂いている方々も、また昆虫、またキノコ等と不満をこぼしながらも、「仕方が無いわね」等と言って付き合ってくれているのかもしれない。そこでもう我慢が出来ないとばかりに、晴天でも良いから花を撮影しに町田ダリア園に行った。しかし、このところの晴天続きでダリアはすっかり生気を失っていて、撮影する気持ちがまったく起こらず、僅かにポーチュラカやマツバボタン(写真上左)が美しかったので撮影したのみとなった。さすが畑の雑草であるスベリヒユの親戚だけあって、暑さと乾燥にはとても強いようである。スベリヒユは茎や葉をゆがいて水にさらして食べたり、天日に干してゼンマイのようにして食べると美味しいと図鑑にあるが、このポーチュラカやマツバボタンも食べられるのだろうか。もっともその美しい花を愛でるために植栽しているのだから、そんな事を考えるのは少し可笑しい様な気もする。
 お金の事は言いたくは無いが、350円もの入園料を払って瞬時の内にダリア園を後にするとはなんだか損をしたような気もするが、お天気が悪いのであって関係者のせいではないのだから仕方ない。そこで来る途中、薬師池公園の蓮田を車窓越しに覗いたら大賀ハスが咲いていたので、去年、この掲示板にも度々ご投稿下さる快速五反田号さんこと町田市のMさんに教えて貰った図師町の蓮田へ行った。しかし、時期が早いのか、それとも来た時間が遅いからか咲いているのは数輪と言う按配で、近くの畑に栽培されている美味しそうなスイカ(写真上右)を撮影して、またしても小山田緑地へ行った。今日は昆虫とキノコ以外はそれだけでおしまいと諦め、最近ずっと続いているいつものパターンの散策となった。小山田緑地に着いてみるとニイニイゼミの抜け殻が、一挙に5倍程増えて各種の樹木の幹に付いている。小山田緑地はニイニイゼミの生息に絶好なのだと感じたが、もうすでにこの観察記で紹介しているので撮影はしなかった。
 いくら小山田緑地はキノコの宝庫だとは言え、このところの暑さと乾燥のために、すっかその姿をひそめてしまった。しかし、コテングタケモドキだけは元気で、兄弟揃って地中から伸び始めている幼菌を撮影した。誰か知り合いでも来ているかもしれないとも思ったが、毎週末続けて来ていた様だから今日は他所に違いないと、オオムラサキのいる森には行かずに、丸太の連中を見に行った。先日、タマムシの写真が今一で、同行した新百合ヶ丘のAさんが素晴らしい写真を撮っていたので、再チャレンジしてみようと思ったのだ。今日も丸太の連中はとても元気で、ルリボシカミキリよりもタマムシの方がたくさんいた。産卵のために丸太を行ったり来たりしているから、正確には何匹いるのかは定かではないが、4匹が出揃ったのが最高であった。やはりこれだけ出揃うと、灰褐色の丸太もきらびやかに彩られる。まだ見たことの無い宝塚の歌劇はきっとこのように華やかなのだろう。
 それにしても今日の自然観察及び写真撮影はとてつもなく貧果であるなと感じながら駐車場に戻って来た。これで帰宅するには時間が早いし、今まで観察したものや撮影したもので観察記を書く気になんてなれない。腐っても鯛ではないが、何にも無い時は小野路町とばかりに、性懲りも無く小野路町へ行った。天気は曇りとなったが風はかなり強い。万松寺谷戸入り口ではミソハギが咲きキアゲハが盛んに吸蜜している。大賀ハスの蕾がだいぶ膨らんだ小さな池やその隣の水田にはシオカラトンボ、オオシオカラトンボと賑やかだ。とりあえず時間も無いことだし、Tさん宅周りで美しい雑木林へ行ってみようと歩き始め、Tさん宅を左に曲がると、以前、何回も出会っている方に遭遇した。「こんにちわ、お久しぶりです」と挨拶して、小山田緑地のオオムラサキや丸太の連中の話をすると、「私も見に行きました。初めてのものばっかりでとても感動しましたよ」とおっしゃる。更にマムシの421さんこと町田市のYさんやつくし野のTさんにも会ったと言う。なんだかこのつれづれ観察記で紹介した丸太の連中は、かなり多くの方々の目を楽しませ、また、多くの出会いを演出してくれたようだ。
 「このカメラだとピントが合っているのかどうかが分かりづらいし、暗い所ではオートフォーカスが効かないので、デジタル一眼レフカメラを買おうと思っているんですよ」とその方はおっしゃる。見ると手にしているカメラは発売当時、10万円以上もした高級コンパクトデジタルカメラである。いよいよ彼も本格的な写真撮影がしたくなったようで、そうなったら迷わずデジタル一眼レフカメラに決まっている。なにしろ光学式ファィンダーは液晶デイスプレイなんて及びもつかない程にクリアーでピンと合わせが楽、しかも、ファイダーのどの位置でも容易くピント合わせが出来るから、常に日の丸構図の写真から脱却出来るのである。
 そんな訳で私の愛用するデジタル一眼レフカメラ、90mmマクロレンズ、接写用ストロボで様々な被写体を選んで撮影しながら、即席野外写真講習会となってしまった。写真のキマワリは何処にも普通の夏の昆虫であるが、「このように背景が被写体と接している場合は、シャッター速度はストロボに同調する最高速度で、予めテストしたデーター通りの絞り値でマニュアルで撮ればほらこの通り。また、背景が離れている場合は日中シンクロを使うと背景は夜撮った様に暗くはならないんですよ」、更によせば良いのにキノコを見つけて、「ほらキノコの撮影はこんなに絞り込みますから、シャッター速度が1秒前後は当たり前になります。ですからレリーズが使えないものはペケですね」等と得意顔、先輩顔でとうとうと語った。こんな長話に付き合ったのは彼にとって幸か不幸か、分かれるとすぐに大粒の雨が降って来た。白山谷戸に停めてある自転車で帰ると言っていたから、本人のずぶぬれはまだしも、機材の事が心配である。度々、このHPをご覧下さっていると言うので、この場を借りて「大丈夫でしたか」と謝っておこう。

<今日観察出来たもの>花/ハス、ミソハギ、マヤラン、ヤブミョウガ、ハンゲショウ、ヤブカンゾウ、オカトラノオ、ホタルブクロ、ネムノキ等。蝶/モンキアゲハ、キアゲハ、ジャノメチョウ、サトキマダラヒカゲ、ヒメジャノメ、ヒメウラナミジャノメ等。昆虫/タマムシ、ルリボシカミキリ、キマワリ(写真下右)、シオカラトンボ、オオシオカラトンボ、ギンヤンマ等。キノコ/コテングタケモドキ(写真下左)、ドクツルタケ、カワリハツ等。


7月8日、静岡県東名高速道路足柄サービスエリア〜御殿場市水上野

 これが本当に梅雨の中休みなのと疑いたくなるような猛暑が続いている。昨日は東京都心で35度近くまで気温が上がり、埼玉県の熊谷市では38度近くまでになったと言うから大変な猛暑である。一昨日の小山田緑地及び小野路町の散策の時も非常に暑くて、首筋から肩にかけての部分が痛くなり、もちろん軽い頭痛もしたのだから、熱中症の一歩手前だったようである。このような時は水分の補給も大切で、一昨日は帰宅するまでに、500mlのペットボトルのお茶をなんと4本も飲んでしまった。金額にしたら600円も飲んでしまったのだから大きな出費である。今日も天気予報では昨日と同じく猛暑が続くとあって、町田市は34度まで上がるとされている。これでは大好きな多摩丘陵とは言っても行く元気等出るはずはない。それならばクーラーの効いた家にいればとても楽ちんで良いものなのだが、やることも別段ないので、30度以下が予測されている所を探してみると、自宅から一番近い所は御殿場市で、最高気温29度と予測されていた。いくら愛車小野路号が軽自動車とは言え、御殿場までだと高速道路代がかなりかかる。しかし、昨日、猛暑の中をお客回りして7月分の仕事をなんとか頂いたからと、思い切って東名に乗った。泣いても叫んでも神様に祈り仏様を拝んでも、仕事がない時にはびた一文も入って来ないのだから、仕事を出して頂けるお客様は、神様仏様以上である。
 と言う訳で東名高速へ乗って、目指すは静岡県の小山町と御殿場市の境にある足柄サービスエリアである。今日の午前中の道端自然観察の舞台はなんとそこなのだ。人によっては、「えっまさか、サービスエリアで自然観察なんて出来るの?」等と疑問に思うだろうが、ここは私の極秘中の極秘の穴場なのである。しかも、トイレ、食堂、水飲み場はもちろんのこと、温泉だってあるのだ。しかも、ほとんど人も来ず車の音もしない静寂の中で、ゆっくりと自然観察出来るのだから最高だ。その極秘の場所とはサービスエリアの建物裏のかなり広い公園である。そこにはちゃんと雑木林があって、樹液が湧き出ているクヌギの木もあるのだ。もちろん、今日の注目すべきものはなんと言っても国蝶オオムラサキである。このところ何処へ行ってもオオムラサキに出会っているので、どうしても撮影したいと言う気持ちは起こらなかったが、じっくり観察するには快適な場所だ。今日は羽化したばかりの雌が1頭に雄が2頭もいた。雄も雌も羽を広げてくれたし、雄と雌のにらめっこのような求愛行動さえ観察出来た。ここで国蝶オオムラサキが観察出来るなんて、国土交通省や日本道路公団の方々も知らないに違いない。今度、投書でもしてあげようかとも考えている。もう少しクヌギや食樹であるエノキを植栽すれば、オオムラサキは確実増えるだろう。「東名高速道路に乗って、国蝶オオムラサキを見に行こう!」なんてロマン溢れる宣伝でもすれば、それこそわんさか見物人が来てくれる事だろう。
 この他、ここでは様々なものが昼夜を問わず観察できる。殊に街路灯がこうこうとつくから、夜の昆虫観察には最適なのである。ニイニイゼミを始めとするセミの羽化、オオミズアオやヤママユ等の街灯に飛来した各種の蛾、最近お目にかかれなくなったエゾカタビロオサムシなんかもやって来る。もちろん、季節の山野草だって様々に咲くのだ。今日は各種のキノコも顔を出していて、チチタケ、ニオイコベニタケ、イグチの仲間、ベニタケの仲間等、約10種類位のキノコが生えていた。しかし、注意してもらいたいのは足柄サービスエリアの自然観察のポイントは静岡方面側のサービスエリアだけであって、東京方面のサービスエリアは芝生の広場だから面白いものなどほとんど無い。着いたのが遅かった事もあり、オオムラサキの観察にだいぶ時間をとられてしまったので、あっと言う間にお昼の時間となってしまった。しかし、サービスエリア内がフィールドだったから食事がすぐとれて大いに時間節約となった。午後からは何処へ行こうと考えたが、ラジオをつけると東京方面の平地は炎熱地獄だと言うから戻る気がしない。山中湖まで行っても良いが時間と有料道路代がかかる。そこで以前よく行った御殿市水上野の雑木林へ行くことにした。なんだか知らないが小山町と御殿場市は余り出会いたくない蛇の宝庫で、それこそ青大将の大蛇がたくさんお出ましになるのだ。最近、アオダイショウ、シマヘビ、ジムグリまでは完全にお友達になり、どうにかヤマカガシにも慣れたが、マムシは依然ノーサンキューである。最もマムシ君にはなかなか出会わないから有難い。
 そんな事でしばらく訪れなかった水上野の雑木林だが、久しぶりに出向いてみると、近場の雑木林と異なって様々な昆虫、花、キノコが見られたのだから嬉しくなった。しかし、前述した蛇の宝庫も健在で、舗装された林道に大きなアオダイショウとジムグリが大の字に横たわっていた。今日観察出来たもので特筆ものは腐生ランのツチアケビである。実が赤いアケビのような格好のものがつくからそう呼ばれているのだが、まるでキリの花穂だけが地面から生えているような植物だ。褐色の外花被の中の花は黄色で大きく美しいのだが、どのような角度から写しても絵にならないので撮影は断念した。次に久しぶりに特大のシロスジカミキリに出会った事である。雑木林に入った途端、シロスジカミキリの独特な産卵痕がたくさん見られたので、これはかなりいるなと思っていたら、案の定、小枝ではなく樹液が滴るコナラの根際に昼寝をしていた。そこではせっかく見つけたのに絵にならないので、やらせとは充分承知だが、幹等に這わせて様々な角度から撮影した。この他、今日は風が強かったので蝶こそ見られなかったが、久しぶりにアケビコノハの幼虫を発見したりして、雲っていたこともあってか平地の炎熱地獄が信じられないような快適な一日となった。これからはお客様から仕事をしこたま頂いて、猛暑を避けての御殿場市周辺へたびたびやって来ようとの思いを強くして、すいすい走る東名高速道路に乗った。

足柄SAで今日観察出来たもの>花/オオバギボウシ、ヤブカンゾウ、ホタルブクロ、アカツメクサ等。蝶/オオムラサキ、ヒメアカタテハ、ジャノメチョウ等。昆虫/カナブン、アオカナブン、ヨツボシオオキスイ、ニイニイゼ、シオヤアブ等。キノコ/チチタケ、ニオイコベニタケ、イグチの仲間(写真下右)等。
<水上野で今日観察出来たもの>花/ツチアケビ、オオバギボウシ等。昆虫/カブトムシ、コクワガタ(写真上右)、シロスジカミキリ(写真上左)、キマワリ、ヒグラシ、セアカツノカメムシ、アケビコノハの幼虫(写真下左)等。


7月6日、東京都町田市都立小山田緑地〜小野路町

 このHPの掲示板による南大沢のSさんの報告だと、3日、4日の土曜日曜の小山田緑地は、かつて無い程の大フィーバーであったようである。しかし、気になったのはオオムラサキのお出ましが少なかったと言う事で、ことによったら心無い人の手に落ちてしまったのではないかと心配になった。かつては多摩丘陵にたくさん生息していたオオムラサキであるが、季節になるといつ行っても確実に観察できる場所となると小山田緑地以外に無いのが実情である。もっとも小山田緑地だって、周辺に開発されていない丘陵地帯がたくさん残っているからオオムラサキの生息が可能なのであって、周辺が開発されてしまったら小山田緑地程度の面積と自然度の緑地ではオオムラサキは絶滅することだろう。野津田公園、図師・小野路歴史環境保全地域、小山田緑地と続いているからオオムラサキが生息出来るのである。今後とも生き物達の良好なる自然環境を保全して行こうとするなら、これらの公園地域単独思考ではなく、全体として考えて行かなければ片手落ちになることだろう。
 それに今日はどうしても野の花を撮影したかったのだ。このところ梅雨の季節の筈なのに、ずっとお天気続きで情緒溢れる花の写真が皆無の状況である。このつれづれ観察記は、いつのまにかつれづれ虫日記の様相を呈していて、とっても気がかりで当の本人も何だか面白くないのである。「道端自然観察は昆虫だけではないでしょう。鳥や花や実や木や茸や獣や魚等たくさんあるものね」と言う訳なのである。そんな訳で小山田緑地の駐車場に車を停めて、午前中は周辺の田園地帯をぶらぶら歩いて、様々な野の花や民家の庭先に咲く園芸品種の花等を撮影するつもりでいたのだ。しかも、天気予報は今日一日は絶好の曇り日とある。しかし、本当に困った事にサマージャンボ宝くじのように、天気予報は外れに外れ続けて、湿度の高いうだるような晴天の日となってしまった。白山神社から田んぼの周りを歩きながら小山田緑地の管理事務所まで歩いて行ったが、ヤブカンゾウは盛期を過ぎて、花穂にはミツバウツギフクレアブラムシがたくさんたかって写真どころの風情では無い。
 途中、大きなコガネグモが農道の縁に網を張っていて、「もう僕の季節である夏だよ」とアピールするがごとくに、堂々と網の中心に居座っていた。やはりオニグモと並んでクモの横綱の風格がある。コガネグモをすっかり緑一色となった田んぼをバックに撮影すると、次に、前回来た時はお仲間と一緒だったし、時間も無かったからしっかりと撮影できなかったタマムシはまだいるかと、大きな丸太の積んである場所に行ってみた。有難い事に、今日も3匹も産卵のためにやって来ていた。南大沢のSさんの報告だと4匹も居た時があったと言う事だが、どうやら心無い方の手や子供達に気づかれずに、毎日せっせと産卵にやって来ているようである。もちろんルリボシカミキリもたくさん居て、仲間同士で取っ組み合いの喧嘩をしている光景も観察できた。互いに鋭い大顎と大顎でがっちりと組合い、まるでプロレスを観戦しているような大迫力である。きっと身体の大きい方が勝つだろうと思ったら、やや小振りの方が勝ち名乗りを上げて、負けた個体は寂しげに逃げて行った。「常に敗者は寂しいもの、喧嘩せずが一番だよ」とルリボシカミキリに声を大にしたが、聞き入れられた素振りすらなかった。
 途中からオオムラサキが見られなくなったのを心配した新百合ヶ丘のAさんもやって来て、二人してオオムラサキの探索に入った。「来年から多摩丘陵道端自然観察館なるテーマで写真を撮り始めようと思ってるんですが、オオムラサキは絶対にはずせないものですからね」とAさんに話すと、「山梨で撮影したものだって、言わなきゃ分からないけど、それでは良心が痛みますものね」と同意して微笑む。東京、横浜から最も近くて身近な自然である多摩丘陵をテーマとすれば、目を背けたくなるような写真や文章で無い限り、かなり行けるのでは無いかと思っているのだ。そのテーマの中で、この季節に無くてはならない存在がオオムラサキなのである。そんな思いがあるから、最も個体数が多く撮影しやすい小山田緑地からオオムラサキが消えてしまっては困るのである。以上のようにとても心配していたオオムラサキであったが、本命場所に雄が1頭、石畳みの道に雄2頭を発見して安堵して小山田緑地を後にする。今日もまだ新鮮な個体が見られたから、順次羽化も続いているようである。
 午後からはここまで来たのだからとお隣の小野路町を一回りしようと言う事になった。新百合ヶ丘のAさんによると、この前一回りしたけど、まだ小野路町ではオオムラサキを見ていないと言う。「そんな事は無いと思うんだけどな」と気合を入れてみたのだけれど、熱中症に罹りそうな陽気にはかないそうも無い。それでもクヌギの幹にテリトリーを張っている雄を発見して新百合ヶ丘のAさんに差し示すと、「さすが目が良いんだな」と褒められてしまった。最近までそんな事は無いごく普通の人間だと思っていたのだけれど、自分でも動植物、キノコに関しての探索能力があるのではないかと密かに思うようになった。オオムラサキはしっかりと羽を合わせていたので、「撮影します」とAさんに聞くと、もちろんと言う事になってオオムラサキに静々と近寄った。するとオオムラサキは私たちの接近を感知してか羽を少しだが開いてくれた。「やっぱり来年からの多摩丘陵道端自然観察館のオオムラサキの写真は、小野路町のものにしたいですものね」等と会話していてもオオムラサキは目の前から飛び立たない。しかし、待てども待てどもその後羽を開くこと無しに飛び去ってしまった。
 今日は雑木林の中でコテンタケモドキが見事に大きな傘を開き、一頃頭を引っ込めていたイグチの仲間も顔を出していたが、なんと言っても美しい花を付けたランの仲間を発見した。葉を持たないから腐生ランの仲間なのだろう。「このランの名はなんて言うんでしょうね」とAさんと話していると、たまたまTさんの奥さんが通りかかったので聞いて見た。「マヤランだと思いますよ」と言う。さすが小野路生まれ小野路育ちで里山管理に心血注ぐTさんの奥さんだけのことはある等と思って、写しても絵にはならなかったが、証拠写真として慎重に撮影した。この他、置かれている切り出した丸太にルリボシカミキリがたくさんいたが、うだるような暑さに根を上げての早々の退散となった。これからは薮蚊に加わえて暑さも大敵となったが、充分に体調管理をして、心休まる生き物豊かな小野路町へ極暑期間中もたびたび訪れなければなるまい。

<今日観察出来たもの>花/マヤラン、ハンゲショウ、ヤブカンゾウ、オカトラノオ、ホタルブクロ、ネムノキ等。蝶/オオムラサキ(写真上左)、ルリタテハ、メスグロヒョウモン、ジャノメチョウ、サトキマダラヒカゲ、ヒカゲチョウ等。虫/タマムシ(写真上右)、ルリボシカミキリ、シオカラトンボ、オオシオカラトンボ等。キノコ/コテングタケモドキ、ツルタケ、オキナクサハツ(写真下左)、カワリハツ、ヒダサカズキタケ等。その他/コガネグモ(写真下右)、ヤマカガシ、アマガエル、カルガモ等。


7月4日、山梨県北巨摩郡清里〜北巨摩郡白州町中山峠

 昨日は宿泊出来ると思った清里ユースホステルが団体貸切のために泊まれず、仕方なく、この掲示板にも度々ご投稿下さる快速五反田号さんこと町田市のMさんの御用達の道の駅「信州蔦木宿」のお風呂に入って、中央高速の八ヶ岳パーキングエリアにビバークした。道の駅「信州蔦木宿」のお風呂はたったの400円で、露天風呂、サウナ風呂、泡風呂、大浴場と様々なお風呂に無制限で入れるのだから素晴らしい。おまけにシャンプー、リンス、ボディソープも使い放題なのだから、タオル一枚で楽しめると言う訳である。掲示板に、「御礼95万人突破」とお風呂利用者の数が表示されていたが、金額に直すと入浴料だけ3億8千万円の売り上げとなるのだから驚きだ。素晴らしい施設、そしてリーズナブルの料金ならわんさか利用客がやって来て、大繁盛となるわけである。近頃、お国や地方自治体の各種リゾート施設の税金無駄遣いが大問題となっているが、道の駅「信州蔦木宿」のような素晴らしい成功例もあるのだから、上からの押し着せではなく、民意を充分汲み取ったものなら大歓迎ということになる。星空浮かぶ露天風呂に浸かりながら、このお風呂に入れるからと言う理由だけで、富士見町へ引っ越して来たいものだなと思った。論より証拠、是非一度みなさんも試して合点して下さい。
 と言う訳で狭い小野路号に寝たために節々が痛いが、八ヶ岳高原目指して出発した。しかし、清里有料道路に入る前にトイレ休憩して八ヶ岳方面を見渡すと、雲一つ無い群青色の空に八ヶ岳が浮かんでいる。「あーあ、山歩きには最高の天気だが、これでは高原の花の撮影は無理だな」とまた愚痴が出る。「どうなってるの気象庁さん、今日は一日中曇り日ではなかったの」等と気象庁を恨んでも仕方が無い。振り返って南アルプスの方を見ると雲がかなり多い。「こうなったら仕方が無い。また、白州町の中山峠へ行くしかないな」と、またしても昨日に引き続いて涼しさを求めて放浪の旅に出た筈なのに、里山の雑木林へとUターンとなってしまった。それではと車に戻ろうとしたのだが、トイレの照明灯に多数の昆虫が昨晩のうちに飛来し、地面や立ち木に止まっている。何か珍しいものでもいないかなと丹念に探してみると、なんとなんと立派なミヤマクワガタ(写真上右)、ヘビトンボ、緑色に光るツノアオカメムシ、セアカツノカメムシを発見した。まったく転んでもただでは起きない本領発揮とばかりに、様々な角度からこれらの昆虫をしつこく撮影した。特にヘビトンボは多摩丘陵に生息するヤマトクロスジヘビトンボとは異なって、身体が黄色味を帯びている美麗なものであるが、やはり蛇と名がつくように気味が悪い昆虫だ。
 そんな訳で思わぬ拾い物をして、お馴染みの白州町中山峠へ向かった。ちょうど2週間ぶりになるのだが、やはり見られるものは様変わりしていて、何と言っても雄大なオオムラサキが発生したばかりで、クヌギの梢を気持ち良さそうに旋回していた。このところ多摩丘陵でも昨日の敷島町でもオオムラサキには数多く出会っていたので、今日は変わったものを撮影しようと歩いていると、アカマツの枯れた細い幹にヒトクチタケが形良く生えていた。食べられるキノコではないが、焦げ茶とクリーム色の単純な二色の色分けとその漫画チックな形にほっとするのである。てっぺんの焦げ茶色はニスを塗ったように光り、その下のクリーム色の部分には胞子を放出するための小さな管孔が口を開いている。今日もオカトラノオ位で花も少なく、昆虫だけではつまらないとヒトクチタケが趣を与えてくれるとばかりに、やんわりと梢に抜いて撮影した。ヒトクチタケが生えているくらいだからアカマツもたくさん生えていて、最近、この辺りでも別荘地開発が盛んになって、各所にアカマツの大木が切り倒されているから、もしやとばかりにウバタマムシを探してみた。すると期待通りに見つかったのだから嬉しくなった。ウバタマムシは先日、小山田緑地で観察したタマムシの雌と思っている方もいるようだが、まったくの別種で、幼虫はアカマツの材を食べ、タマムシの幼虫はサクラ、エノキ、カシ、ケヤキの材を食べて成長する。
 ウバタマムシを無事に撮影したから、今度は正真正銘のタマムシをと思ったが、エノキの梢にきらきら光って飛んでいるものの、適当な切り出された丸太もないので見つける事が出来なかった。しかし、大好きなオオイシアブが丸太の上でテリトリーを張っている。先日、鎌倉のNさんがオオイシアブは人を刺すと思っていたが、この怖そうなおじさん顔を見たらそう思うのも仕方が無いものの、決して人を刺したり噛んだりはしない。それどころか黄褐色の口ひげを長く伸ばした、とっても愛嬌溢れる昆虫である。今年に入って何べんもその愛嬌顔を超接写で撮影しようと思っていたのだが、気づかれて近づけずにいた。しかし、今日のオオイシアブ君は人懐こくてかなり接近して撮影出来た。何回もシャッターを切っているとブーンと羽音を立てて飛び立った。これで撮影は終了かなと思ったら、小型のコガネムシの仲間を口に咥えて戻って来た。図鑑に拠ると甲虫類が大好きとあるが本当であった。もちろんアブの仲間だからむしゃむしゃと獲物を齧って食べるのではなく、その体液を吸うのである。こんな吸血現場は目をそむけたくなるのが普通だが、なんだか愛嬌顔のオオイシアブなら許せるように思えてくるのだから人徳ならぬ虫徳である。
 この他、中山峠には様々な昆虫がいたが、昨晩のビバークの疲れを癒し、今日の中央高速ならぬ中央低速の交通渋滞を考えて、小野路号を木陰の風通しが良く小川のせせらぎが聞こえる場所に停め、蚊取り線香をたっぷり焚いて、じっくりと心地よい昼寝に入っての帰宅となったが、この2日間で最後の涼しい幸せな一時となったのは言うまでも無い。

<今日観察出来たもの>花/オカトラノオ、ホタルブクロ、コマツナギ、ビロードモウズイカ等。蝶/キアゲハ、テングチョウ、オオムラサキ、オオミスジ、ミスジチョウ、イチモンジチョウ、ヒカゲチョウ、キバネセセリ、キマダラセセリ等。昆虫/ノコギリクワガタ、ウバタマムシ(写真下左)、ルリボシカミキリ、カナブン、アオカナブン、ヨツボシオオキスイ、オオスズメバチ、ツノアオカメムシ、ニイニイゼミ、オオイシアブ(写真下右)、ノシメトンボ等。キノコ/ヒトクチタケ(写真上左)等。鳥/カッコウ、ホトトギス等。


7月3日、山梨県上九一色村本栖高原〜中巨摩郡敷島町

 前回、「時間とお金をかけて遠くへ行かなくとも、近場でとっても面白く遊ばせてもらえるんだ」と書いて締めくくった筈たが、多摩丘陵でのオオムラサキの観察が無事終了すると、しばらくの間、どうしても会いたい撮影したいと思うものは見当たらない。もちろん、出向けば楽しさ一杯で各種のものが歓迎してくれるのだが、暑さと薮蚊には耐えられなくなって甲信越の山や高原の涼しさが恋しくなる。しかも、天気予報によると曇りがちだとあるのだから、あてども無い放浪の道端自然観察及び写真撮影に出かけた。自宅から最も短時間で行ける高原は富士山周辺である。そこでまるで下流の酸素不足が耐えられなくなった魚が、清らかな流れを目指して遡上するかのように、朝早く起きて東名高速に乗った。
 涼しさを期待した本栖高原に着いてみると、日向の林道を歩くのが眩しくなる位の上天気である。それでも林からはハルゼミ、エゾハルゼミ、ヒグラシの鳴き声が聞こえ、日陰に入ればとっても涼しい。しかし、今は太陽が一番天空高く通る季節だから、疎林の続く林道には日陰はそれ程多くない。「なんだよ、曇り日の林道を何処までも楽しく歩けると思ったのに」と即座に愚痴が出る。また、「最近、花虫とおるの花に遠ざかっているから、花を重点的に撮るんだ」と言う計画もはかなく消えた。咲き始めたノハナショウブ、ダイコンソウ、ヤマオダマキ、オカトラノオ、シモツケ等は、日向の中では情緒を逸した造花のようだ。林道には羽化したばかりのミドリヒョウモン、ギンボシヒョウモン、ウラギンヒョウモン、地面には緑色に美しいニワハンミョウがたくさんいる。しかし、みんなこの天気では浮かれ気味で、じっとポーズをとってくれる個体などいない。
 これではすぐに引き上げだなと思いながら、せっかく来たのだからもう少し奥まで行ってみようと、林道を歩いて行くと、東京の大井から来たと言うUさんなるお仲間に遭遇した。しばらく立ち話をしていると、「もしかしたら、道端自然観察館の吉田さんではありませんか?」とその方が言う。「含蓄溢れる観察記を毎回とても楽しみにしています。本にしたらきっと売れますよ」ととても嬉しい事をおっしゃってくれる。今まで写真が素敵とは何回かは言われたが、文章を褒めて頂いた事は余り無い。私個人としては写真はともかく文章に力を入れているのだから、とっても嬉しくなった。聞くとUさんは、「稀少種ばかりを追いかけているのでは無く、路傍のベニシジミだって標本とは異なって様々な写真が撮れますから、立派な一冊の写真集になりますね」等と言う。まさに私が日頃偉そうにこのつれづれ観察記で説いている身近な道端自然観察及び道端自然写真撮影の楽しさを、Uさんはしっかりと分かっていらっしゃるのには驚いた。「女房には怒られそうだが、スキャナーを買って掲示板に投稿しますね」と言う事になったので、これからのご投稿が待ち望まれる。しかし、最近、名前と顔が売れて来た様だから、言動と行動を律しなければならない。また、このつれづれ観察記を止める訳には行かなくなったと思うと、なんだか少し憂鬱である。
 午後からは涼しさを求めて高原にやって来たというのに、多摩丘陵より暑くしかも薮蚊の多い魔の甲府盆地目指して降りて行った。毎年、何回とも無く行く敷島町の雑木林である。去年の今頃はテングタケを始め各種のキノコがたくさん生えていたから、それも楽しみであったのだ。しかし、現地に着くと地面はカラカラでキノコのキの字さえ無い。甲府盆地は首都圏平地より雨が少なかったようである。雑木林からはたくさんのニイニイゼミの声が聞こえ、ネムノキの花も満開で、雑木林の梢にはオオムラサキが勇ましく滑空している。どう見てもこのような状況は夏そのものである。やはり今年の梅雨は空梅雨で、季節は完全に夏に移行したようである。甲府盆地とは言え雑木林の里山だから、多摩丘陵で鍛えられた観察勘は大いに発揮されるのだが、各種の果物がとれるだけあって日差しはとても強い。おまけに甲府盆地の薮蚊は多摩丘陵のものより貪欲で逞しいから、雑木林の木陰で長時間留まっていたら大変である。以上のように甲府盆地での道端自然観察は、日陰を選んでいかに薮蚊に襲われない程度の速度で歩いて行くかがものを言うのだ。
 今日はなんだかキノコも生えてないし駄目かなと思ったので、先ずは出発地点の公園でルドベキアの花で獲物を待つハナグモを撮影してから雑木林の小道に入った。最初に発見したのはゴマダラカミキリだ。子供の頃、首都圏でもイチジクの木にわんさかいたのだが、最近見かける事の少なくなった昆虫である。手に持つとキイキイと音を発するのが懐かしい。そんなゴマダラカミキリと戯れていたら付近のクヌギの幹にオオムラサキがやって来て羽を開いてじっとしている。こうなっては「ゴマダラ君逃げないでね」ときつくお願いしてクヌギの幹に止まらせ、オオムラサキの撮影を優先したのは言うまでも無い。何と言ってもオオムラサキが羽を開いて美しい青紫の羽の表をじっくりと見させてくれるなんて千載一遇のチャンスなのだから。しかし、かなり長い時間オオムラサキと対峙していたようだったが、たったの4枚しかシャツターを切らなかった。出来れば横向きでは無く下を向いて、触覚をVの字に開いた姿を撮りたかったので、撮影を躊躇してしまったのである。しかし、そこまでのサービスは無く、オオムラサキは羽ばたく羽の音を残して青空に向け飛んで行った。
 さてはお次はゴマダラカミキリとクヌギの幹に止まらせておいたものを見に行くと、ちょうど良い場所まで登って静止している。もちろんやらせ写真になってしまうが、待っていてくれたゴマダラ君を美しく撮影した。更に雑木林の小道を登って行くと、出ました出ました今年最初のカブトムシ、ノコギリクワガタ。すこし小型だけどごっつあんとばかりに撮影した。こんな雑木林の大物たちがぞくぞく現れるのだから今度は超大物のシロスジカミキリとばかりに探し回ったが、産卵痕は多数見られるものの、どうも小枝でお昼寝中のようである。雑木林の小道の行き着いた先にあるクワの古木には今年もトラフカミキリが見られたし、甲府盆地の夏はやっぱり完全にスタートを切ったとばかりに満足して、雑木林の小道を足早に下った。


<本栖高原で今日観察出来たもの>花/ノハナショウブ、ダイコンソウ、ヤマオダマキ、オカトラノオ、シモツケ等。蝶/ドリヒョウモン、ギンボシヒョウモン、ウラギンヒョウモン、ヒオドシチョウ、ホシミスジ、イチモンジチョウ、スジボソヤマキチョウ、スジグロシロチョウ、ウラゴマダラシジミ、コキマダラセセリ、ホシチャバネセセリ等。昆虫/ハルゼミ、エゾハルゼミ、ヒグラシ、ニワハンミョウ、キマワリ等。
<敷島町で今日観察出来たもの>蝶/オオムラサキ(写真上右)、キタテハ等。昆虫/カブトムシ(写真下左)、ノコギリクワガタ(写真下右)、アカマダラコガネ、カナブン、アオカナブン、セマダラコガネ、ヨツボシオオキスイ、ゴマダラカミキリ、ナガゴマフカミキリ、ブドウトラカミキリ、トラフカミキリ、イタドリハムシ等。クモ/ハナグモ(写真上左)等。


7月1日、東京都町田市都立小山田緑地

 今日は昨日に続いての小山田緑地である。いつの間にか有志が集まって国蝶であるオオムラサキの観察及び撮影をしようと言うことになった。集まったメンバーは、春に石砂山へ一緒にギフチョウを見に行った舞岡のKさんと野庭のTさん、それに鎌倉のNさんと新百合ヶ丘のA夫妻の計6人である。蝶大好き人間にとって、どうしても会いたいと言う蝶はそれこそたくさんあるはずだが、ギフチョウとゼフィルスとオオムラサキは特別な存在なのである。その中でゼフィルスは舞岡公園でも見られるが、ギフチョウ、オオムラサキになるとそうは行かない。先日、長年野鳥撮影を続けている緑山のKさんに、「キビタキを撮ったよ」と報告すると、野鳥を追いかけている者なら誰でも撮影していないと格好がつかない鳥の一つで、野鳥を追いかけている人は必ず撮っていると言う。それと同じように蝶を追いかけている者にとって、ギフチョウ、ゼフィルス、オオムラサキは撮っていないと格好のつかない蝶なのである。命あるものはすべて平等なのだが、例えば写真展に同じ出来の写真ならモンシロチョウよりギフチョウ、ゼフィルス、オオムラサキの方が見栄えがするし、なんと言っても国蝶なのだから注目を浴びる事は間違いない。
 そんな訳で昨日下見をしていた場所に行くと、有難い事にオオムラサキの雄が一頭樹液に吸汁している。全員それを確認し、オオムラサキに初めて出会った舞岡のKさん、野庭のTさん、鎌倉のKさんはとても嬉しそうに興奮気味である。むろん言いだしっぺで案内役でもある私も大いに胸を下ろした。しかし、みんなが三脚を立てて撮影準備に入ると、どう言う訳かオオムラサキは遠くに飛んで行ってしまった。それからは待てども探せども一頭だに現れない。「でも見られただけでも嬉しいわ」等と鎌倉のNさんは健気にも言うのだが、内心はもっとじっくり観察し写真を撮りたいに決まっている。そんな訳でオオムラサキの飛び去ったクヌギの周辺で、他のものに切り替えて探し回ると、ジャノメチョウ、トラフシジミ、ツマグロヒョウモン等が見つかり撮影出来た。しかし、本命のオオムラサキが観察出来、撮影出来ないと胸の痞えは完全には取れない。みんな待ちくたびれておなかも空いたし、クヌギの前で昼食を撮る事にした。するとクヌギの梢から滑空してオオムラサキの雄が一頭現れた。
 こうなってはみんなの中で一番の腹減らしの私以外は、今度こそはと撮影の準備に入りレンズをオオムラサキの方に向けたのは言うまでも無い。どうやらオオムラサキはクヌギの樹液のご馳走にご満悦で、今度は容易に飛び去る気配は無い。更に同じ樹液にアシナガバチもいて、時折場所争いでオオムラサキは羽を開いて威嚇する。しかし、羽を開くのは瞬時だから「まずは証拠写真として真横からの写真を美しく撮っておいたら」とみんなに勧める。もちろんみんな素直にアドバイスに従った事は言うまでも無いが、やはり美しい青紫の羽の表を撮りたいと、先ずは予想通り蝶々にのめり込んでしまった根性の異なる野庭のTさんが撮影に成功する。しばらくすると満面笑みをたたえて鎌倉のNさんもなんとか撮ったと万歳三唱をする。最後に舞岡のKさんはフイルムだから果たして上手く撮れたかは定かではないが全員一応の満足を得ると、やっと昼食を食べ出した。時間を計った訳では無いが30分以上もクヌギを見上げていたのだから、首筋が凝り固まった事だろう。こうしてたった一頭のオオムラサキであったが、痛みの無い新鮮個体で、しかも羽の表まで見せてくれて長時間にわたって観察及び撮影が出来たのだから、みんな美味しい昼食になった筈である。
 こういうラッキーな時はさらに幸運が続くもので、帰り際に小山田緑地の管理事務所に寄って、パンフレット等を貰って帰ろうと言うことになった。道すがら、切り出した丸太が積んであればルリボシカミキリにも会えるのにと思ったのだが、ふと公園外の少し離れた場所に丸太が積んであるのを思い出した。なにしろキノコにも興味を持つと、丸太の在り場所をも頭にインプットしているのである。期待して行って見ると多数のルリボシカミキリはもちろん、美麗なタマムシが2匹も丸太の上を這っていた。ルリボシカミキリは盛んに飛んで、なんと鎌倉のNさんの帽子のつばに着地するという演技までして歓迎してくれた。昆虫にも昆虫大好き人間が分かるようである。奈良の正倉院の玉虫厨子で有名なタマムシは、首都圏の雑木林ではなかなか遭遇出来なくなった昆虫だから、一斉に歓声の声が上がった。タマムシは産卵のためにやって来た訳で、手ごろな穴を丸太に見つけると、お尻から産卵管を出して産み付ける。その時はじっと静止しているから撮影のチャンスとなるのだ。
 今日は本命のオオムラサキはもちろん、その他の多くの蝶にも出会え、更にルリボシカミキリ、タマムシにも出会えたのだから大満足の筈の仲間達を見送ると、まるでキノコ図鑑を開いたように様々なものがたくさん生えているので、しばし、キノコウォッチング及び写真撮影をして仲間達の後を追った。お隣の図師・小野路歴史環境保全地域に比べれば、人の手がだいぶ入ったように見える小山田緑地であるが、これからも度々定期的に訪れなければならないなと感じさせられた。しかも今日は本園だけで、この他、アサザ池のある梅木窪分園、トンボ池のある大久保分園まであるのだから、都立小山田緑地はとびっきりの面白道端自然観察公園とも言える。またしても時間とお金をかけて遠くへ行かなくとも、近場でとっても面白く遊ばせてもらえるのだと感じた。最初はどうなるかと思ったが、終わってみれば今日もとんでもなく充実した一日となった。

<今日観察出来たもの>花/ハンゲショウ、ヤブカンゾウ、オカトラノオ、ホタルブクロ、ネジバナ、ネムノキ等。蝶/オオムラサキ、メスグロヒョウモン、ツマグロヒョウモン(写真上右)、ヒメアカタテハ、ジャノメチョウ(写真上左)、サトキマダラヒカゲ、ヒカゲチョウ、ツバメシジミ、トラフシジミ、ベニシジミ等。虫/タマムシ、ルリボシカミキリ、キスジトランカミキリ、セマタ゜ラコガネ等。キノコ/アンズタケ、ツルタケ、カバイロツルタケ(写真下右)、ヒメカバイロタケ、オキナクサハツ、カワリハツ、チチタケ(写真下左)、タマゴタケ、ドクベニタケ、ニオイコベニタケ等。



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