おもしろ昆虫記
(4)

脈翅目の美麗種です(キバネツノトンボ)

 脈翅目という名は漢字が難しすぎるのか、現在の多くのジュニア向け図鑑ではウスバカゲロウの仲間とかアミメカゲロウの仲間とか呼ばれている場合が多い。しかし、この仲間の昆虫は羽が広くて翅脈が多く、見た目には脈翅目という感じがする。また、羽の形は前後とも大きさは異なるがほぼ同じで、羽を屋根形に閉じて止るというのも特長である。この仲間は、ヘビトンボの仲間、ウスバカゲロウの仲間、ラクダムシの仲間の3つの亜目に大別されていて、キバネツノトンボはウスバカゲロウの仲間に入る。ウスバカゲロウと言うと誰もが知っている神社等の軒下の乾いた土に蟻地獄を作る昆虫で、それ程美しい昆虫とは言いがたく、触覚も短く飛び方も弱々しく感じられる。しかし、キバネツノトンボは前翅の基部と後翅が鮮やかな黄色で、触覚は名前の通り角のように長くて立派である。また、その飛翔は非常に軽やかで早く、紙飛行機のようなスマートさがある。普通はやはり屋根形に羽を閉じて止るが、写真のように羽を開いている時は、すぐにでも飛び立てるという姿勢で、やや興奮しているようにも感じられる。かつては首都圏平地でも見られたのだが、キバネツノトンボの大好きな広大な萱原が無くなって、今では遠くに行かないとお目にかかれなくなった。
<2003年5月25日、山梨県北巨摩郡明野村>

お鼻が長くて心配です(ツバキシギゾウムシ)

 こんなに長く細くて大丈夫と心配させるほど、体以上の長い口吻を持つゾウムシである。このような独特な口吻の持ち主だから、ゾウムシの仲間でも特別なグループに属しているのではと考えるが、正真正銘のゾウムシ科の一員である。ゾウムシの仲間は狭義ゾウムシだけでも日本に約1000種類以上いると言われ、具体的に分類すると狭義ゾウムシはゾウムシ科、オサゾウムシ科等で、体が頑丈で口吻が長いものが多く最もゾウムシらしい仲間である。広義ゾウムシとしては、上記の科にヒゲナガゾウムシ科、オトシブミ科、チョッキリゾウムシ科、ミツギリゾウムシ科、ホソクチゾウムシ科等が入る。こんなゾウムシの面々の中で、シギゾウムシという名がついているものがいて、口吻がまるで鳥のシギのように長いから名付けられたのは当然である。私の持っている図鑑には11種類紹介されていて、今まで観察したことのあるものは、クリシギゾウムシ、エゴシギゾウムシと、このツバキシギゾウムシの3種類である。ともにこの長い口吻はドリルの歯、錐の歯のようなもので、クリの毬から実に、エゴノキの実に、椿の実に、それぞれ穴を空けて卵を産み付けるという訳である。この作業中に運悪く口吻を折る場合もあっると言うから、まさに命がけの作業なのである。
<2003年5月24日、神奈川県相模湖町底沢>

暗い所が大好きです(コジャノメ)

 蝶と言えば誰もが陽光が燦燦と降り注ぐ日向にいて、各種の美しい花に甘い蜜を吸いに来ると思ってらっしゃる方が多いと思う。剥げ落ちる鱗分が嫌いで蝶が嫌いという方もいるが、最近、女性の間にも人気が急上昇しているのが蝶である。花と蝶、数多い野生動物の中でも、とても絵になる光景である。しかし、ここに登場するコジャノメは薄暗い所にいて、花の蜜を吸っているのを見たことがない。蝶の中でも異端児かと言うと、蝶を知るにつれて、そんなに特殊な性格では無いと分って来る。コジャノメに瓜二つだが羽の裏がやや明るいヒメジャノメという蝶がいて、その第1化はコジャノメより1週間ぐらい遅れて出現し、草むらなどのそれ程暗くない所に生息している。どちらかが先祖か、また、共通の先祖から分かれたのかは謎だが、生息する環境が異なると微妙だが別の種となってしまう好例である。私達人間だって、別の種類になることは無いが、育った環境がもし異なっていたら、違った人生を送っているかもしれない。そんな事を思いながら両者を見比べて見るのも良いだろう。見分け方は、コジャノメの羽裏の帯は紫がかっていてやや湾曲し、後翅の一番大きな蛇の目紋の上の紋が、コジャノメはその上の紋より大きいのですぐ分るに違いない。
<1998年5月16日、神奈川県厚木市上古沢>

見ようによっては奇麗です(サトキマダラヒカゲ)

 雑木林がある所なら、最も普通に産するジャノメチョウ科の蝶である。東京都内に於いても木立が多い公園等があれば見られる。、各種の樹木の腐りかかった落果の汁を吸っているので、何となく不潔な蝶としてのイメージもあることだろう。以前、ゴミ収集車が来ない時代、地面に穴を掘って生ゴミを捨てたが、そんな所もサトキマダラヒカゲの人気の食堂だったのである。サトキマダラヒカゲがこんなに多いのは、その食草が何処にでもあるアズマネザサやメダケで、里山管理が放棄された雑木林に足の踏み場も無い程にはびこっているからだ。多くのジャノメチョウは羽を水平に開いて日光浴をするが、サトキマダラヒカゲはコツバメと同様に、閉じままで太陽に向かって羽を傾けながら日光浴をする。だから、フィールドで羽の表を見たことのある人はいないはずである。図鑑を見て頂ければ、意外や意外、黄土色に斑紋が散りばめられて、見ようによってはとても美しい蝶である。サトキマダラヒカゲにも極々近縁の種類があって、ずっと昔には同種とされていたヤマキマダラヒカゲである。こちらは房総半島を除いて山地に見られる。この両者の区別は静岡で蝶の研究家によって解明された。日本の蝶学は、多くがアマチュアの手によってなされて来たのである。
<1994年8月16日、横浜市緑区三保町>

変な名前のコメツキムシ(サビキコリ)

 5月に入ってフィールドを歩いていると、とっても目に付くコメツキムシである。コメツキムシというとたいがいピカピカ光る羽を持っているのだが、まるで泥の中から出て来たみたいに土で汚れている場合が多く、土が付いてなくとも鉄板が腐食して錆びている様にも見えるので、その名の頭に「サビ」が付いたのだと思われる。しかし、「キコリ」とは何だろう。普通、木こりとは山で木を切り出す職業の方を指すが、サビキコリのキコリはどのような意味があるのであろう。各種の図鑑を調べて見ても分らない。コメツキムシは世界に約1万種、日本にも約600種類も生息しているが、タマムシ等と比べると美麗種や大型種がいないためか、研究者や収集家が少ないようである。その幼虫は土の中や朽ち木の中に潜んでいて、土壌中のものの多くはハリガネムシと呼ばれていて、農作物の塊茎や根を食害する害虫として嫌われている。このサビキコリも土壌の中に潜んでいるが、他の小動物を捕食すると考えられているので害虫ではなかろう。朽木の中に潜んでいるものは小動物を捕食するものが多く、越冬のために朽ち木の中に潜り込んだスズメバチの新女王も餌食になるとある。また、ウバタマコメツキは、各種の松くい虫の幼虫を捕食する益虫として重要であるという。
<1999年5月9日、神奈川県秦野市大倉>

英名はホワイト・アドミラブル(イチモンジチョウ)

 英名は勇壮なホワイト・アドミラブルと呼ばれる白い提督である。東京付近では年に3回発生すると言われているが、初夏に発生する個体が一番大きく美しく、そしてその数も多いように思われる。食樹、食草がスイカズラ科のスイカズラ、タニウツギ、ハコネウツギで、その発生時期とは関係はないと思うが、ちょうどそれらの花が満開になる頃、第1化が発生する。しかし、それらの樹木は、雑木林の管理放棄によってだいぶ少なくなり、イチモンジチョウもだいぶ減っているが、美しい花を咲かせるハコネウツギがたくさん植栽されている自然公園等では極々普通に見られる。その飛び方はコミスジ程では無いが、羽ばたくと滑空するという独特なものである。その名の謂れは写真を見て頂ければ分るように、やや中心がへ込んでいるものの白い帯がほぼ一直線に見えることより来ている。イチモンジチョウに似ている蝶と言えば、日本アルプスや北海道に産する憧れのオオイチモンジが有名だが、メスグロヒョウモンの雌やサカハチチョウの夏型も似ている。しかし、これらは見慣れてくればはっきりと判別できるのだが、イチモンジチョウに極々近縁のアサマイチモンジとなるととても難しい。一番の決め手は複眼が前者は毛で覆われているのだが、後者は無毛である。
<2002年5月14日、横浜市戸塚区舞岡公園>

英名はグライダーです(コミスジ)

 写真を見れば分るように羽を開くと黒地に白色の3本の細い帯が浮かび上がる。以前は首都圏の雑木林にも生息していて、現在は山地に行かないとお目にかかれなくなった大型のミスジチョウより小さいためにコミスジと名付けられた。日本ではその形態から名がつけられているが、英名はグライダーまたはセイラーで、1回羽ばたくとまるでグライダーのように滑空する独特な飛び方から名付けられている。コミスジに似ている蝶はミスジチョウは勿論だが、山里のスモモやウメを食樹としている大型だがおっとりと飛ぶオオミスジ、高原に多い白点を散らしたように見えるホシミスジ、そしてやはり高原に多い白い帯が2本に見えるフタスジチョウがいる。コミスジは、首都圏では4月中旬から晩秋まで断続的に発生を繰り返しているようで、年に3回ないし4回発生していると思われる。食草はフジ、クズ、ハギ等のマメ科植物で、ハルニレ等のニレ科の樹木の葉も食べると言うから、意外と食性の幅は広いのかもしれない。この為、激減する首都圏平地のタテハチョウの中で、コミスジとキタテハは普通に見られる。初夏に現われる第1化は、ちょうどハルジオンが満開の頃で、白い花に黒地に白いストライプのコミスジが吸蜜していると、その対比がとても印象的である。
<1999年8月9日、長野県小県郡真田町>

正真正銘のオトシブミです(オトシブミ)

 大げさのタイトルだが頭に何もつかないオトシブミだから「正真正銘のオトシブミ」で、最も普通に見られるのかというと、あにはからんや山地でしかお目にかかったことが無い。オトシブミの仲間は広義のゾウムシの仲間で、世界で約350種類、日本で約85種類生息している。その中で一番大きいオトシブミだから代表選手として「オトシブミ」と名付けられたのだろう。図鑑によると分布は日本全国で、見られる樹木はクリ、クヌギ、ナラ、ハンノキ、ニレとあるから、平地の雑木林にいてもよさそうなものであるが、観察している限りでは山地のヤマハンノキの葉上である。平地の雑木林で見られるオトシブミは、ヒメクロオトシブミ、カシルリオトシブミ、ゴマダラオトシブミ、ウスモンオトシブミ、ブドウハマキチョッキリ、モモチョッキリ、クチナガチョッキリ等であるが、新緑の5月にルーペ片手に目をキョロキョロさせてオトシブミを探すのも楽しいものである。低山地に行けばイタドリの葉を巻く、緑色に光り輝くドロハマキチョツキリの美しさにびっくりするだろうし、ケヤキの葉を巻く前足の腿節がまるでポパイの力瘤のように膨らんだルイスアシナガオトシブミに、思わず笑みが顔に浮かんでくることだろう。1cmにも満たない甲虫だが、だからこそ生命の不思議さに感動するに違いない。
<1998年6月28日、山梨県白州町中山峠>

ウドの仲間が大好きです(ヒメシロコブゾウムシ)

 ハナウドという植物を知ってるだろうか。河川敷や土手や雑木林の北側の縁にある荒地などに生えている。4月も半ばを過ぎて葉が開いたら静かに近寄ってヒメシロコブゾウムシを見つけてみよう。あんまりガヤガヤドタドタ近づいたら、死んだ真似をしてぽろりと地面に落ちてしまうからである。ヒメシロコブゾウムシは前述したシロコブゾウムシよりやや小さく、体色はこちらの方が色白で、背に細長い二等辺三角形のような形をした黒い帯がある。また、シロコブゾウムシは尾端近くの左右にあるイボが突出しているが、ヒメシロコブゾウムシはそれ程でも無い。こんな点が見分けるポイントだが、死んだ真似や人が近づく気配を感じる能力はシロコブゾウムシの方が勝っているようである。シロコブゾウムシの死んだ真似は何時間も続きそうだが、ヒメシロコブゾウムシはそれ程でも無く。シロコブゾウムシは1メートル位離れてカメラを向けていても、それを関知してポロリとなることも多いのである。また、ヒメシロコブゾウムシの大好物は、ハナウド、シシウド、ウド、ヤツデ、チョウセンニンジン等のウコギ科植物だが、シロコブゾウムシは、クララ、クズ、ハギ、ニセアカシア、フジ等のマメ科植物で、外見はとっても似ているのだけれど、こんなにも違うのだから昆虫って楽しくなる。
<1994年4月24日、横浜市港北区小机町>

触るのが憚れます(カワゲラ)

 初夏に渓流に行くと、各種の植物の葉上に触るのが憚れる風体のカワゲラが静止している。写真を見て頂ければ分るように、何となく気味悪く感ずることだろう。こんな形をしている昆虫を探せば、同所で数種見つかるはずである。これらの全ては例外なく水の中で生活していて、渓流中の石裏や沈んでいる葉裏などにしがみつき、渓流魚の餌として釣師りなら誰もが知っている「川虫」の一つである。カワゲラは身体が平たく、腹部の先端に一対の尾を持ち、後翅が前翅より大きくて独特な形をしていて、蛹という形態をとらないで成虫となる不完全変態の昆虫である。このため、カワゲラ目という大きな分類単位でひとまとめにされている。水中での幼虫は他の水生昆虫を食べるものと、藻類などの植物を食べるものとに分かれていて、とても冷たい流れの中で生活しているためか成虫になるまで数年間かかるとある。幼虫は渓流の石の上や川岸の石や付近の樹木の幹にしがみついて脱皮して成虫となる。山岳地帯の雪渓には、羽が無くて飛べない真っ黒なセッケイカワゲラという仲間が生息していて、飛べないからひたすら雪の上を歩き、雪に含まれている微生物を食べながら上流に向かって移動し産卵するという、不思議な生態の持ち主として知られている。
<1999年5月22日、東京都青梅市二俣尾>

竹林に住んでます(ベニカミキリ)

 
我が国には600種類以上のカミキリムシが知られているが、体色が紅色となるとそんなに多くは無い。首都圏の平地の丘陵地帯で見られるのは、タブノキやクスノキがたくさん生えている海岸沿いの照葉樹林に生息するホシベニカミキリと、多摩丘陵などのクヌギやコナラを主体とした雑木林でも普通に見られるベニカミキリが代表的である。ベニカミキリの幼虫は、モウソウチクやマダケ等の硬い材を食べて成長する。最近、雑木林は管理放棄されてモウソウチクは暴れ放題に広がっているから、ベニカミキリもたくさん見られるようになった。ベニカミキリを見たいと思ったら、これらの竹が切り出されて積まれて枯れている所や、竹林の立ち枯れの竹の幹を探すのが一番だが、成虫は意外と甘党でクリやハゼやネギボウズを訪れて甘い蜜を吸う。どのようにして硬い竹に産卵するのかは図鑑で調べても書いてないが、幼虫は竹の中で越冬し、翌年の夏に成虫となってそのまま越冬し、また翌年の初夏に出て来て飛び回るとある。要するに卵から成虫になって現われるまで、まる3年かかると言うわけである。写真を見て頂ければ分るようにベニカミキリは全身が全て紅色と言うわけではなく、前胸背の黒紋がワンポイントで、この黒紋は個体変化が激しいという。
<2001年6月3日、東京都町田市小野路町>

触ってはいけません(アオカミキリモドキ)

 
前述したジョウカイボンやカミキリムシに似ているが、じっと写真を見て、その姿格好をしっかりと頭に刻み込んで欲しい。注意して観察すれば頭部や口器が違っていることが分るはずだ。アオカミキリモドキは体液にカンタリジンを含んでいて、これが皮膚に触れると飛び上がらんばかりにしみて痛く、水ぶくれが出来る皮膚炎を起こすのである。もちろん、首都圏平地の雑木林で最も普通に見られるのはアオカミキリモドキだが、それ以外のカミキリモドキも同様だから「君主危うきに近寄らず」と肝に命じて欲しい。こんなとんでもない事を書くと自然観察なんて危険、マムシやスズメバチもいる上に、アオカミキリモドキ等と言う昆虫もいるのだからと思うかもしれないが、実際、危険な程にアオカミキリモドキはいるわけではなく、道端自然観察ならばまずは大丈夫である。もし、恐る恐るこのアオカミキリモドキを見たいと思ったら、クリの花に注意していれば確実に見つけることが出来る。かつて自然が豊かであった時代には、電灯の光に集まる習性があるため、家の中で触れて痛い思いをしたことがある方もいると思うが、ルームクーラーも普及して、そんな話は遠い昔話となった。しかし、金緑色に輝くアオカミキリモドキは、どうしてどうしてとっても美しい昆虫であると思う。
<1999年6月1日、神奈川県秦野市弘法山>

身体の粉は剥げ落ちます(カツオゾウムシ)

 イタドリの芽が伸びて葉が広がって来る頃、4月下旬に現われるのがカツオゾウムシである。カツオゾウムシはタデ科の植物を食べるとあるが、何と言っても葉が広いイタドリが一番で、ミゾソバ等の葉にいるのも確認しているから、意外と多くのタデ科植物を食べているのかもしれない。昆虫図鑑を持っていらっしゃる方だったら、この写真と図鑑の写真を見比べて欲しい。多分、図鑑の写真は黒褐色のカツオブシみたいな色をしていて、この写真のような鮮やかな赤茶色では無いと思う。それはまるで別種のようにみえるのだが、それにはそれなりの深いわけがある。カツオゾウムシは羽化してからしばらの間、粉チョコレートのような色の粉で身体中をお化粧しているのである。この粉が活動することによって剥げ落ちて行くと、図鑑のような鰹節色になってしまうわけである。すなわち鰹節色の身体に赤茶色の粉をつけてお化粧していると思えば良いわけである。どうしてこのような粉を身につけているのか図鑑にも専門書にも書いてないが、きっとそれなりの生存上有利な訳があるのだろう。成虫はゾウムシの謂れとなった尖った口吻で茎に穴を空けて乳白色の卵を産み、幼虫は茎の内部(髄)を食べて成長し、茎の中で蛹となって羽化して来るとある。
<1996年8月3日、神奈川県平塚市土屋>

ブリキの玩具じゃありません(カメノコテントウ)


 今は売ってないかも知れないが、幼児がお風呂に浮かべて遊ぶブリキの玩具があったが、カメノコテントウの色彩は、てかてかした光具合で懐かしさを呼び起こす。オニグルミという木を知っているだろうか。おもに河川沿いに生えていて、低山地の渓流に行けばたくさんある。オニグルミを見つけたら目を凝らして注意していると、この大型のテントウ虫が小枝を行ったり来たりしているのに気づくはずである。大好物であるクルミハムシの幼虫を探しているのである。カメノコテントウは5月下旬にオニグルミやサワグルミの葉裏に産卵して、孵った幼虫は約2週間で成長して蛹になる。とんでもなく超スピード成長なのだが、それには訳があるのである。大好物のクルミハムシは成虫で越冬する年1化の甲虫である。そのライフサイクルは、オニグルミの葉の伸張に合わせていて、葉が柔らかいうちに産卵して幼虫になる訳だから、カメノコテントウの成虫や幼虫の食べ頃の幼虫がいるのは、ほんの短時間と言うことになる。そこで急いで食べて成長しなければ、この図体の大きさにはなれないと言う訳である。写真を見て頂ければ分るように、複眼横の肌色の斑点や濃いオレンジがかった肌色の亀甲紋といい、一度見たら忘れられない亀さんみたいな甲虫である。
<1996年9月23日、神奈川県厚木市七沢>

カミキリムシではありません(ジョウカイボン)

 首都圏平地では5月初旬から現われて6月一杯まで何処でも普通に見られる年一化の甲虫である。成虫は花の蜜や他の昆虫を捕食して生活しているのだが、昼間は葉の上などに静止していることが多く、昆虫等を捕食している現場に遭遇しない。図鑑等には記載されていないが、ことによったら夜行性の昆虫なのかもしれない。あまり昆虫に興味が無い方ならジョウカイボンを見て「カミキリムシ」と思うだろう。確かに風袋はカミキリムシそっくりだが、身体は平べったくて羽は非常に柔らかく、触覚も糸状で細く、顔つきは肉食性の昆虫らしくいかつく迫力かある。こんな点を注意して観察すれば、普通に見られるカミキリムシとはかなり違う甲虫であることが分るはずだ。また、カミキリムシは幼虫が植物の幹の材を食べて成長するのだが、ジョウカイボンは土の中にまとめて卵を生み、幼虫は地上を這いまわって昆虫を捕食する。そして春になると苔や石の下で蛹になるとある。ジョウカイボンは首都圏平地で見られる仲間の内では大型の方で、ウスチャジョウカイ、ヒメジョウカイ、セボシジョウカイ、マルムネジョウカイ等の小型のものも見られ、低山地へ行くと青緑の光沢を持つアオジョウカイやキンイロジョウカイ等のやや大型のジョウカイボンが見られる。
<1996年6月1日、神奈川県平塚市土屋>

流れの石の番人です(ミヤマカワトンボ)

 渓流釣りの趣味の方や渓流の河原でキャンプやバーベキューをする趣味の方なら、初夏に何べんも見ていることだろう。浅い流れにある飛び出た石に止っていて、近づくと飛び立ち、また数メートル先の石に止る。こんな習性は林道で出会うハンミョウと同じようだが、、ミヤマカワトンボは石の周りに縄張りをつくっているのである。渓流にはこの他、似たようなカワトンボが居て、こちらの方はミヤマカワトンボより弱いのか、片隅の大石等にひっそりと暮らしている。また、やや下流の清流域には良く似たハグロトンボや、稀にはアオハダトンボが生息していて、カワトンボ科の仲間も実に多士済々である。ミヤマカワトンボの注目すべき習性はその産卵方法で、雌は時には水にもぐって単独で植物組織内に産卵する。図鑑によると最長潜水時間は何と49分であるとある。この長時間の潜水は胸の周りに空気を溜め込んでいて、そこから酸素を取り入れるので可能だとある。このような産卵方式を「潜水産卵」と呼び、この間、健気な雄が付近に止って産卵警護をするのである。たかがトンボの夫婦だが、見上げた行動だと感心する。写真はミヤマカワトンボの雄で、雌は後翅にはっきりとした白い紋があり、羽もやや薄い褐色で、身体も雄のようなキラキラ光る金緑色ではない。
<1995年5月25日、東京都あきる野市乙津>

谷戸で春一番の大型トンボ(ヤマサナエ)

 横浜市や町田市では、雑木林の丘陵に囲まれ、湧水や雨水が長い年月に渡って削りとった谷状の地形を谷戸と言い、その中に広がる田んぼを谷戸田と言っている。このような地形を千葉県では谷津と言い、田んぼのことを谷津田と呼んでいる。こんな地形で一番早く現われるのはシオヤトンボであるが、大型のトンボならヤマサナエが一番てある。その名に「ヤマ」と付くのだが、図鑑によると平地や低山地の河川に生息するとある。こんな生息地を間違えそうな名は昆虫には結構あって、ミヤマセセリやミヤマチャバネセセリ等が良い例である。前者は平地の雑木林にも普通で、後者は河川敷に多い。ヤマサナエは大型のトンボだから飛翔は素早いものの、ヤンマの仲間のように飛び続けることもなく、不器用な感じで木の葉の上に不時着するかのように抱きついて静止する。また、分布にも好みがあるらしく、何処の谷戸にも生息しているわけでは無い。ヤマサナエの産卵方式はダビドサナエよりいくらか進んでいるようで、雌が水面を腹部末端で打ち付けるようにして産卵する打水産卵方式を採る。似た種類にキイロサナエがあって、関東地方以南に生息している。どちらも胸部の側面が鮮やかな黄色を呈しているので、間違ってもオニヤンマとは言わないで欲しい。
<2003年5月3日、神奈川県城山町穴川>

初夏の渓流の普通種です(ダビドサナエ)

 トンボは世界で約6000種類、日本で約200種類もいるのだから沢山撮影しなければと思うのだが、なかなか近場にトンボが多い所がない。何と言ったって子供が危ないからとか、ダンプで泥を運べばすぐに平坦な土地が出来てしまうのだから、池や沼はどんどん埋め立てられ、河川や小川はコンクリートで両岸を固められ、しかも農薬が水田にばら撒かれたのだから、トンボにとっては受難続きである。そんな訳で私の昆虫写真ストックには、タガメやゲンゴロウといった水生昆虫はもちろんのこと、トンボのストックも貧弱である。ここで紹介するダビドサナエは、初夏にウスバシロチョウを撮影しに行くと渓流沿いに見られる。ダビドサナエは図鑑によると普通種で、産卵は雌が単独で渓流の傍の湿地にバラバラと卵を落とすとある。子孫繁栄を願って雌雄ペアで産卵方式を工夫するトンボが多い中では、産みっぱなしの異色種とも言えるようだ。「サナエ」とは漢字で書くと早苗のことで、田植えの頃に多くの種類が羽化して飛び始めるので付けられた名前で、その中でもダビドサナエは5月から見られるトップバッターである。サナエトンボの仲間は、ヤンマの仲間と異なって複眼が離れているのですぐ分るようになったら、かなりの昆虫通と言っても良いだろう。
<2001年5月4日、神奈川県城山町穴川>

春一番のヒョウモンチョウ(クモガタヒョウモン)

 春も順調に進んで行き、降り注ぐ陽光も強さを増し、時には夏ではないのと勘違いさせるような気温の高い日もあるが、風だけは薫風で頬に心地よい。そんな時に低い山が連なる山里へ行くと、栗林の下などにたくさんのハルジオンが咲いていて、クモガタヒョウモンやウスバシロチョウ等が軽やかに飛び回っている。初夏に現われるヒョウモンチョウはクモガタヒョウモンだけだから、種名を間違えることなんて、まずは無いと思う。かつて開発が進む前、首都圏の雑木林周辺にもたくさんの草原があり、里山管理も定期的になされていたために、多くのヒョウモンチョウの仲間が生息していた。クモガタヒョウモンも多摩丘陵のような平地の雑木林にも生息していたようで、私の持ってる資料によると東京の世田谷区、川崎の生田、横浜の港北区、相模原の東林間などでかなりの数の個体が採集されている。今では低山帯の山里の蝶となってしまったが、現在でも多摩丘陵に健在なメスグロヒョウモンやミドリヒョウモンと同様、かつてはとても身近なヒョウモンチョウであったわけである。発生はゴールデンウィークの頃からで、年1回の発生だが、その後姿を減じて再び秋になると姿を現すので、その間、暑さを避けて涼しい藪や草むらで夏眠をむさぼっているようである。
<2002年5月12日、東京都青梅市二俣尾>

ヤマイモが大好きです(ダイミョウセセリ)

 セセリチョウというと大多数の仲間がススキやエノコログサと言った禾本科の植物や、アズマネザサやクマザサ等の笹類を幼虫が食草としている場合が多いものだが、ダイミョウセセリはヤマノイモ、オニドコロ等のヤマイモ科の植物を食べていて、もちろん、畑で栽培するナガイモも大好物のようである。そんな訳でダイミョウセセリは、雑木林の縁や雑木林の中の空けた場所や広い山道の陽が当たる場所に多く見られる。写真を見て頂ければ分るように黒色で美しい蝶とは見えず、蛾ではないと感ずるだろう。しかし、前翅の透けて見えるような銀白色の斑紋や後翅の縁にある白い縁取り、また、頭部を中心としてコンパスで半円を書いたような斑紋列が印象的な蝶である。この半円は関西に行くと、後翅は前翅のような斑紋となって見事である。発生は関東地方以南では年に3回で、4月も下旬の頃になると発生し、ハルジオンの花が大好きである。また、道端の広葉樹の葉に止ってテリトリーを張り、同種の雄ばかりか他の昆虫が侵入して来ても物凄い速度で追い払い、また、元の位置かその近辺に静止して羽を開く。羽を閉じているか独特の半開きの場合が多いセセリチョウ科の中にあって、チャマダラセセリ亜科の仲間は通性として羽を水平に開く。
<2000年8月19日、東京都町田市小野路町>



おもしろ昆虫記NO.5へ