私の昆虫撮影術

昆虫の撮影の仕方を教えて欲しいと言うご要望があり、いろいろな撮影の仕方があると思いますが、
私なりの撮影法をご紹介します。以前、書いた文章を元に加筆訂正し、作例写真も順次入れて行きま
すので、たびたびページ内容が変わると思います。その点をご了承の上、ご覧下さい


■誰もが楽しめる昆虫写真

 室内にも昆虫は多少生息していますが、一歩外へ出れば数多くの昆虫たちに出会えます。緑が多い公園や河川敷、雑木林や山里等に出向けば、より一層多彩な昆虫ワールドが広がっています。しかし、漫然とフィールドを歩いているだけでは身体の小さいものが多い昆虫は、なかなか目に止まりません。こちらから好奇な目を持ってじっくり探さなければなりません。見つけたら図鑑を開いてその場で種名を調べることも可能ですが、時間をかけていたら昆虫は飛び立ったり姿を隠したりしてしまいます。そこでここでは出会った各種の昆虫を美しい写真に残して置く方法を紹介します。写真が出来上がったら、じっくり自宅で図鑑と見比べて名前を調べてみましょう。昆虫は地球上で最も繁栄している動物だけあって微妙な差異があり、実際には採集してじっくり調べなれば種類分けは難しいものです。しかし、最近の自然破壊による昆虫の減少を考えますと採集は控えなければなりませんし、採集禁止の場所も多くなっています。そこで写真を撮って楽しむことが昆虫と親しむ最善の方法となりつつあります。かつては昆虫写真は難しいジャンルとなっていましたが、今ではカメラやレンズの改良発展によって、誰もが楽しめるものとなって来ています。皆さんも端から敬遠しないで昆虫を撮ってみれば『こんな面白い世界があったのか』と、昆虫写真の魅力に引き吊り込まれることになるでしょう。そして身近な場所に足しげく通って、自分だけの郷土の昆虫図鑑等を作ってみましょう。
<写真/ナズナに止るベニシジミ、ニコンF801、ニコンMF28mm、絞りf8AE、露出補正+0.3、フジクロームRD、1996年4月21日、平塚市土屋>

■撮影機材

<昆虫写真に適したカメラ>

 カメラ店に行くと様々なカメラが並んでいますが、身体の小さいものが多い昆虫の撮影には、35mm銀鉛フイルム使用の一眼レフカメラが最適です。1cmの昆虫をフイルム上でも1cmに写せる等倍マクロレンズが発売されていて、プリントにすれば拡大されるので見応えのあるものになります。最近はデジタルカメラが出現し、接写の可能なデジタルコンパクトカメラが発売されています。しかし、図鑑的な写真を撮るには好適ですが、マニアルフォーカスでファィンダー面の何処でもピント合わせができるようになるのは至難の業です。それなら一眼レフタイプのデジタルカメラならと考えがちですが、最近発売された100万円近くもするCCD(撮象素子)の大きさが35mmフイルムと同じものなら良いでしょうが、それより小さいと同じ撮影距離で同じ写真を撮ろうとすると焦点距離の短いレンズを使うことになりますから、後述する被写界深度が深く、背景の奇麗なボケが期待できません。最も100mmマクロが150mm前後のレンズと同じ画角となるわけですから、近づくと逃げる蝶などには、35mm一眼レフカメラに100mmマクロを着けたのと同じ写真が遠くから写せるのですから適しているかもしれません。しかし、従来の35mmフイルム使用の一眼レフカメラと併用すると距離感で戸惑います。ですから手の届く値段の一眼レフタイプのデジタルカメラは、35mm一眼レフカメラと併用しないという事を前提にするか、併用するなら、同じ撮影距離なら被写界深度の深い図鑑的な写真になると割り切って使うようにするしかないように思われます。しかし、今後大いに期待できるカメラであることには変わりません。また、中判カメラにも等倍マクロレンズが発売されていますが、画面サイズが大きいだけあって、フイルム上に写る像は背景が広い分、こじんまりとしたものになってしまいます。同じフイルムを使っていれば、等倍の昆虫部分に関しては同じ大きさで同じ画質ということになります。要するに、35mm一眼レフカメラと同じような背景と昆虫の面積配分で撮ろうとすると、より拡大率をあげなければならないということになります。しかも大きくて重く、フィールドで昆虫写真を楽しむアマチュアには大変です。しかし、大きめの昆虫や背景を広く取り入れた写真等には、高画質が期待できる中判カメラはとても魅力的です。
<写真/キンセンカに来たマメヒラタアブ、ニコンF801、ニコンAF105mm、絞りf4AE、露出補正+1、フジクロームRDU、1995年5月8日、横浜市港北区>

<昆虫写真の種類と撮影機材>

@絵画的、主観的な写真
 その場の空気や季節感をも写真に盛り込もうとする写真で、私が最も撮影したい写真です。主にF2.8の100mm前後のマクロレンズを、絞り開放か一絞り位絞って、自然光で午前中か花曇日に撮影します。構図も極端なものが多く、ファィンダー面の片隅に昆虫が来る場合も多く、ファイダーのどの場所でも昆虫の目にぴしっとピントが合わせられなければ困ります。もちろんマニュアルフォーカスです。このような撮影もいずれデジタル一眼レフになると思いますが、今のところは銀鉛フイルム35mm一眼レフカメラしか考えられません。

A自然光による図鑑的写真
 晴天の日は午後になると赤味が増し、また、影が黒く出るコントラストの高い写真になりますので、午前中か花曇の日に撮影します。また、ベルビアなどの発色の鮮やかなフイルムなら、日陰に休んでいる昆虫も積極的に写します。主にF2.8の100mm前後のマクロレンズを使用し、絞りは背景の煩雑さによってf5.6かf8を使い分けています。被写界深度が深いデジタルコンパクトカメラやデジタル一眼レフカメラが得意とする分野です。

Bストロボ使用の図鑑的写真
 午後は薄曇り日以外、主に上記の理由で、主にF2.8の100mm前後のマクロレンズを使用したストロボ光による生態写真に切り替えます。ストロボを使えば、午後の赤味を増した光も鋭い陰影もストロボ光に置き換えられ、また、日中シンクロも多用して自然光に近い撮影も試みます。接写用のリングライトがつけられるデジタルコンパクトカメラやデジタル一眼レフカメラでも撮影できます。

C昆虫風景的な写真
 広角レンズによる接写です。昆虫がどのような環境に暮らしているのかを背景に取り入れる撮影です。いまのところ自然光中心の午前中の撮影が主です。35mm一眼レフ換算で28mmからのデジタルコンパクトカメラやデジタル一眼レフカメラでも撮影できます。
<写真上/ナツアカネ、ニコンF801、ニコンMF200mm、絞りf4AE、露出補正+0.7、フジクロームRD、1997年10月1日、横浜市青葉区>
<写真下/ヤブキリの幼虫、ニコンF4、ニコンMF105mm、絞りf16AE、ストロボ、フジクロームRDU、1996年5月4日、埼玉県森林公園>

<35mm銀鉛フイルム使用の一眼レフカメラの具体的な留意点>

@軽量なAFカメラ
 従来のMFカメラはファインダーの中心に、ピント合わせをし易くするための円形のマイクロスプリットがあるのが普通です。これが接写の場合、作画上、非常に邪魔です。また、手動巻上げは昆虫を驚かしてしまいますので、モータードライブ(自動巻上げ)がついていないと困ります。その点、AFカメラならそのような危惧はありません。
Aプレビューボタンが付いていること
 背景のボケ具合を確認するための装置です。自分のイメージにあった写真を撮影するのに必要です。廉価版のカメラには付いていない物がありますので注意して下さい。
Bピント合わせがし易いファインダーであること
 ファインダーの何処の部分でもマニュアルフォーカスでピント合わせのし易いカメラは快適です。一般に高級機は合わせやすいのですが、予算と軽量さとの兼ね合いも含めて選択しましょう。私の使っているペンタックスMZ3は、軽量コンパクトにもかかわらず、ピント合わせのし易さは抜群です。
C露出倍数を加えない表示であること
 難しい説明は省きますが、マクロレンズは至近距離になればなる程、露出倍数がかかり、暗いレンズと同じようになってしまいます。このため従来の絞り環による絞り値の選択が出来ない最新のカメラの中には、露出倍数を加えた絞り値を液晶表示するカメラがあります。絞りf2.8で撮ってるつもりが、撮影距離が至近になるに従って、いつのまにかf値が大きくなって行くのです。このようなカメラは、後述するPオートでPシフト等を使って慣れれば良いのでしょうが、私にはとっても使いにくいカメラです。露出倍数を加えた表示と加えない表示が選択できるカメラが望まれます。私の持っているニコンF80が露出倍数を加えた絞り値のみを液晶表示するカメラなのですが、軽いので色々面倒ですが使ってます。
D三脚にしっかり据え付けられること
 カメラの底の三脚を取り付ける穴がセンターになく、おまけにゴム底のカメラがあります。これでは三脚につけても不安定です。私の愛機であるニコンF100がそうなのですが、その他の部分が素晴らしいので使っています。
<写真/スグリゾウムシ、ニコンF801、ニコンMF105mm、絞りf16AE、ストロボ、フジクロームRDU、1995年7月16日、山梨県敷島町>

<私の撮影機材

・フル装備
ニコンF100、AF200mmマクロ、AF105mmマイクロ、MF55mmマイクロ、MF28mm、シグマ24mm、AF20mm、マイクロストロボSB21、サンパックB3000ストロボ、、クローズアップレンズ、レリーズ、自由雲台付カーボン三脚。
・お気軽装備
ニコンF801S、AF105mmマイクロ、シグマ24mm、マクロストロボSB21、ケンコー1.5倍テレコン、クローズアップレンズ、レリーズ、自由雲台付カーボン三脚。
・ラクラク自然光装備
ペンタックスMZ3、タムロン90mmマクロ又はシグマ90mmF2.8マクロ(1/2倍までの絶版中古品)、28〜200mmズーム、クローズアップレンズ、レリーズ、自由雲台付カーボン三脚。

<お勧めセット>

・お金持ちの男性の方
ニコンF100、ニコンAF105mmF2.8マイクロ、プロテクターフィルター、レリーズ、ベルボン530ELカーボン三脚+ベルボンPH263自由雲台。
・中古でも良い方
ニコンF801S、ニコンAF105mmF2.8マイクロ、プロテクターフィルター、レリーズ、ベルボン530ELカーボン三脚+ベルボンPH263自由雲台。
・軽さ一番のご婦人の方
ペンタックスMZ3、タムロン90mmF2.8マクロ又はシグマ105mmF2.8マクロ、プロテクターフィルター、レリーズ、ベルボン540ELカーボン三脚+ベルボンPH263自由雲台。

 以上のセットで、周りの方はいろいろ言うでしょうが、他のレンズなどには目もくれずに、自然光で1、2年、撮影に専念するのが上達の早道だと思います。昆虫だけでなく花の撮影にも最適です。絵画的、主観的、図鑑的な写真はすべてOK。撮り方によっては風景的にも撮れることでしょう。しかし、近づくと逃げてしまう虫をどうしても撮りたいなら、ケンコーの1.5倍テレコンバーターをポケットに入れておきましょう。また、パソコンを持っていてフイルム及び現像代にお金をかけたくないという方は、上記のセットにマクロライトが取り付けられる、出来れば35mmフイルム使用カメラに換算すると28mmからのデジタルコンパクトカメラを図鑑的、風景的な写真に限って併用すると良いでしょう。

<どうしても必要な中望遠マクロレンズ>

 身体の大きなアゲハチョウやカブトムシなら一般撮影用のレンズでも可能ですが、前述したようにほとんどの昆虫は身体が小さいものです。極大極小の昆虫を除けば1cm〜5cm位のものがほとんどです。このため昆虫写真には接写がスムーズに出来る等倍マクロレンズが必要です。等倍マクロレンズは標準、中望遠、望遠の3種類が発売されています。焦点距離に直すと50mm前後、100mm 前後、200mm 前後となります。この中で一番使いやすいのは、昆虫は近づくと逃げてしまいますので、ある程度の撮影距離を置いて使える中望遠マクロレンズがお勧めです。一般の方は、それなら200mm 前後の望遠マクロレンズの方がもっと遠くから昆虫を狙えるので便利ではないかと考えがちです。しかし、手ブレが起こりやすいため手持ち撮影は困難ですし、被写界深度も浅く、レンズが暗いものが普通ですのでピント合わせに苦労します。それよりなにより重量があり値段が高いので、ケンコーの1.5倍テレコンバーターやズームレンズで我慢して、どうしても必要になったら購入すると良いでしょう。また、標準マクロレンズは画角も広く被写界深度も深く、しかも軽くて安価なので、昆虫に近づく術をフィールドで会得して積極的に使いこなしたいレンズとも言えます。以上のような各種のマクロレンズの特徴がありますが、昆虫写真にまず一本ということなら、やはり中望遠マクロレンズがお勧めです。
<写真/カノコガ、ニコンF801、ニコンMF105mm、絞りf2.8AE、露出補正+0.3、フジクロームRDU、1995年6月29日、神奈川県南足柄市>

<一味違った広角レンズでの接写>

 ある程度の大きさの昆虫なら、1/4倍程度の大きさまで撮影できれば絵になる作品に仕上がります。中望遠マクロレンズを使って背景をぼかしたポートレートや図鑑的なクローズアップ写真ばかりでは変化が生まれません。また、時間と費用をかけて広大なフィールドへ出かけた時などは、その場所でしか撮れない背景を広く取り入れた写真を積極的に撮りたいものです。もちろん、撮り方によっては中望遠マクロレンズでも背景を写し込んだ写真は撮影できますが、広角レンズの画角の広さと被写界深度の深さを活用した昆虫写真には独特の味が有ります。一口に広角レンズと言っても、魚眼レンズから超広角の20mm、24mm、28mm、35mmと焦点距離は様々です。それぞれ捨てがたい魅力を持っているのですが、身近な公園や雑木林での風景写真を撮ることも考えに入れますと、28mmないし24mmクラスの広角レンズがお勧めです。お手持ちのカメラメーカーに1/4 倍程度の撮影最大倍率の高い(最短撮影距離が短い)広角レンズが無い場合には、レンズ専業メーカーのものを使用するか、薄い中間リングやクローズアップレンズを活用することになります。
<写真/ルリボシカミキリ、ニコンF801、ニコンMF28mm、絞りf2.8AE、露出補正+0.7、フジクロームRD、1997年8月2日、山梨県笹子峠>

<ますます改良が進むズームレンズ>

 最近、ズームレンズも改良が進んで、1/2 倍までのマクロ機構を持つものが増えています。例えば、24〜135mm のズームレンズで135mm の所でマクロ機構が働いて1/2 倍まで写せるものや、24〜85mmのズームレンズで35〜85mmの間でマクロ機構が働いて、85mmのところで1/2 倍まで写せるものが発売されています。このような技術進歩を考えますと、将来、焦点距離の全域で最短撮影距離が20cm前後というズームレンズが発売されるかもしれません。そうなればレンズ一本で広角から望遠までの撮影が出来、風景や人物等の撮影はもちろんのこと昆虫や花の撮影も出来るようになりとても便利です。なお、現在発売されている1/2 倍までのズームレンズでも小さい昆虫や顔のアップ等は無理ですが、チョウ等の大きめの昆虫なら十分間に合い、また、昆虫を小さめに入れた情緒的な作品作りにも使えます。しかし、ズームレンズのマクロ機構はあくまでもおまけ的なものですから、マクロレンズと異なってレンズの明るさが暗いためにピントが合わせずらかったり、シャッター速度も遅くなり、その結果としての手ブレも心配です。また、周辺のピントの甘さや画質の低下もあるとも言われています。しかし、風景や人物写真を兼ねて、ちょっと接写でもと考えている方にはお勧めのレンズです。なお、焦点距離が100mm 前後で1/2 倍になるものを選んで下さい。また、感度の低いフイルムを使用するときは手持ち撮影は厳禁で、必ず三脚を使用しましょう。

<ズームレンズ活用法>

 
上記したようにマクロ機構の付いたズームレンズでも昆虫の写真は撮れますが、中望遠マクロを手にしたらズームレンズを使うのが馬鹿らしくなる筈です。マクロレンズはレンズの明るさが明るいからピンと合わせもし易く、ここがとても大事なのですが、イメージがつかみ易いからです。しかし、最近人気のある28〜200mmを一本持っていれば、近づくと逃げてしまう昆虫を200mm側で撮影できますし、後述するストロボをホットシューに付けての日中シンクロも出来ます。また、クローズアップレンズを活用すれば取り外しの面倒臭さや、ある一定の距離にしかピントが合わないと言うことが生じますが、広角レンズを使用したような広角接写も標準マクロレンズを使用したような接写も可能になります。

<フイルムはポジフイルムで>

 フイルムにはプリント用のネガカラーフイルムとスライド用のポジ(リバーサル)フイルムがあります。本格的な昆虫写真を目指し将来の印刷物の使用を考えている方には、色彩再現が正確なポジフイルムをお勧めします。ポジフイルムはプリント時に補正出来るネガカラーフイルムと異なって、シビアな露出を要求され、使いこなしが難しいのですが、露出補正を勉強して、より忠実で鮮やかな写真を手にしましょう。また、スライド用といってもダイレクトプリントやレーザープリントでプリントにすることが出来ます。一枚当たりの価格は割高になりますが、良いものだけをプリントするならば、さほどの出費増とはなりません。またバソコンがあればスキャナーで取り込んでプリントアウトができます。フイルムの感度はISO100から始めるのが無難で、数あるメーカーのフイルムを試してみて、自分の好みに発色がぴったりのものを見つけましょう。私のお勧めフィルムは、地味な発色のプロビアではなくトレビ100Cです。なお、ISO100位の感度のフイルムなら選択する絞りにもよりますが、晴れていればシャッター速度が1/250 秒以上になりますから蝶等の手持ち撮影も可能です。しかし、昆虫の写真でも可能な限り三脚の使用をお勧めします。
<写真/ナツアカネ、ニコンF801S、ニコンAF70〜180mmマイクロ、絞りf5.6AE、露出補正+0.7、トレビ、2001年10月15日、神奈川県川崎市黒川>



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