ミノムシやイラガの繭と同じように、誰もが一度は見た事がある北風の中に揺れる変な物にカマキリの卵のうがある。ことにオオカマキリの卵のうは、まるでお菓子の“かるめ焼き”のようで、親しみを持っている方も多いと思う。オオカマキリの母虫は、産卵する時に寒さや外からの衝撃から卵を守るために、白い液を放出して、お尻でこねて泡にするという。この泡は次第に固まって、まるで発泡スチロールのような弾力と保温性のある褐色の固まりになる。この中に約200個の卵が詰まっているわけで、オオカマキリの母虫は3時間以上もかけて念入りに作り、産卵すると言うのだから大変である。私たちが普通、カマキリの卵と呼んでいるのは、卵がいっぱい詰まったこの固まり(卵のう)を指している場合が多い。間違っている
とは言えぬものの、カマキリたちのこの苦労と工夫を知って、ここで認識を改めておいて欲しいものである。また、カマキリの卵のうは、種類によってそれぞれ形が違い、産み付けられる場所も違いがあるので、冬の自然観察の楽しいテーマとなっている。
オオカマキリの産卵場所は、細長い茎で、セイタカアワダチソウやススキの枯れた茎で見かけることが最も多い。ハラビロカマキリは、樹木の小枝にも見られるが、大きな木の幹に産み付けられることが普通で、時には、孵った幼虫が困るだろうと思われる棒杭や電柱、ブロック塀にも産み付けられている。卵のうの形は茶褐色で、堅くてラグビーボールに似た丸いチョコレートのようである。チョウセンカマキリは、樹木の小枝に産み付けられることがほとんどで、白っぽい褐色の四角張った卵のうである。コカマキリは、樹木の幹や小枝、草の茎に産み付けられることはほとんどなく、フィールドにある物置小屋や土留め、草むら脇の民家や塀等の壁面に産み付けられている。形はナメクジのような形で色は白っぽい褐色である。いづれのカマキリの卵のうも非常に堅く、この中にある卵は強固な要塞の中にあるようなもので、天敵などは無いと思われるが、自然界は厳しく、甲虫類のカマキリ
タマゴカツオブシムシや蜂の仲間のオナガアシブトコバチが卵に産卵し、孵化した幼虫がカマキリの卵を食べてしまうそうである。
カマキリの仲間は、こんなに暖かそうな卵のうを作って卵を保護しているというのに、寒さにはめっぽう弱いらしく、北海道にはオオカマキリがほとんど見られないと言われている。また、世界には約1800種類ものカマキリが生息しているが、ほとんどが熱帯や亜熱帯地域に分布している。はたして熱帯や亜熱帯のカマキリはどのような卵のうを作るのであろう。ことによったら暖かいので作らない種類もいるのかもしれない。いずれにしても、多くの種類のカマキリが卵のうを作るのだろうから、
世界のカマキリとその卵のう図鑑が出来上がったら、とても見事で楽しいことに違いない。しかし、そんな本は何冊も売れないから、定価のとっても高いものになるに違いない。
<写真>河川敷のセイタカアワダチソウの枯れた茎のオオカマキリの卵のう、クリの小枝のオオカマキリの卵のう、棒杭のハラビロカマキリの卵のう、ブロック塀のハラビロカマキリの卵のう、ウメの幹のチョウセンカマキリの卵のう、トタン板のコカマキリの卵のう。
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