2005年:つれづれ観察記
(11月)


11月30日、東京都千代田区日比谷公園

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東京23区内道端自然観察館

<今日観察出来たもの>
花/ツワブキ、ヤツデ、セイヨウタンポポ、イヌタデ、ソバ、サザンカ、ハマヒサカキ等。蝶/ヤマトシジミ。昆虫/ヒメフンバエ、アカスジキンカメムシの幼虫、ミンミンゼミの抜殻、コカマキリの卵のう、ハナアブ、ホソヒラタアブ、ニホンミツバチ等。キノコ/コフキサルノコシカケ/カワラタケ/アラゲキクラゲ。その他/ヒヨドリジョウゴの実、アオキの実、ヤブミョウガの実、クチナシの実、センリョウの実、ヤブランの実、アメリカスズカケノキの実、ハマヒサカキの実、トチノキの冬芽、マロニエの冬芽等。


11月28日、東京都町田市小野路町・図師町

 なんとなく季節の端境期でこれと言ったものは無いだろう。そう思って小野路町・図師町なら何かあるかもしれないと出かけてみた。なにしろいつも期待を裏切らないフィールドであるからだ。今日は午前中は万松寺谷戸とキノコ山、午後からは五反田谷戸へも行ってみようと計画を立てた。それに昨晩、日本冬芽・葉痕普及協会なるものの会員となったので、ほんの少し面白いものを探さなければならない。まず最初にニリンソウの谷へ行ったが、この季節では昆虫は見られず、僅かに生き残ったモンキアワフキが枯れた茎に止まっていた。実ではまだウドやヤブミョウガの実が見られるものの撮影には至らない。冬芽と葉痕ではクズとムクロジを撮ったが、今一会員諸氏を驚かす程のものではなく平凡である。また、北風が強くてかなり撮影には難儀した。キノコは生えていないかと、このところかなりの種類が見られた竹林脇に行って見るが何も無い。一昨日の夜に猛烈な風が吹いたので、木々の葉はだいぶ落ちている。こうなったら地面から生えているキノコを探しだすのは大変だ。これはまたしても幸先の悪いスタートとなったなと愚痴が出るが、万松寺谷戸へ行くと、まず最初にオケラのモズの早にえを発見した。しかし、これは先だって森のきのこさんが見つけてこのHPの掲示板に送って来てくれたものと同じようで、素直に撮影したが、二番煎じになるので観察記に貼り付けられない。しかし、どうして地中生活をしている筈のオケラがモズの生贄になるのかとても不思議に思った。
 更に足を進めると、枯れたヨウシュヤマゴボウが刈られずにぽつんと一株残っていた。これなら会員諸氏をあっと驚かす葉痕がある筈だと、にやにや笑いながら丹念に調べてみると、案の定、顔では無くカブトムシに似た葉痕を発見した。とても角が長いから日本のカブトムシではなくて、南米に産するヘラクレスオオカブトムシの仲間に似ている。普通、冬芽と葉痕は樹木の専売特許と思っている方が多いので、草本植物は狙い目なのだ。これで気を良くしてジャコウアゲハの蛹を見つけに行ったが、今年はその数がとても少ないようだ。前回来た時に同好者が見つけて撮らせてもらったものはまだ残っているが、なんとなく“花虫とおる”のプライドが許さない。まだ、何処かにある筈だとかなり念入りに探したら、やっと一つだけ見つける事が出来た。探し回っている間に長く垂れ下がったオニグルミの羊のような葉痕が、おいでおいでと手招きをしている。なんと言ってもオニグルミは冬芽・葉痕のシンボル的な存在である。もちろん一カット撮影したことは言うまでも無いが、やっぱりポピラー過ぎてつまらない。そこでキノコ山の入口にニセアカシアの幼木がたくさんあった事を思い出して登って行く。いつもならこの道すがらに何らかのキノコが生えているのだが、萎びたニガクリタケがあった位で寂しい限りだ。キノコ山入口に着くと、嬉々としてたくさん生えているニセアカシアの幼木の葉痕を丹念に調べみた。なにしろ気が弱いので、せっだって同好のご婦人がこのHPの掲示板に送って来てくれた恐ろしいホラー顔はぱすして、ちょっと怖いがユーモア溢れる猿顔を撮影した。これで日本冬芽・葉痕普及協会なるものの会員となっただけの実力はあるわいとほくそえむ。
 期待してキノコ山へ登って見たが、キノコのキの字も見当たらない。しかしも前述したように、枯葉で地面は埋まっている。どうやらキノコの季節も終わったようだ。今年はいつまでも暖かい暖かいと感ずるのだが、冬に向かって一歩一歩確実に進んでいるのである。キノコ山の天辺は暖かい陽が降り注いで静寂そのものだが、ふわりふわりと白い紙切れのようなものがたくさん飛んでいる。これはクロスジフユエダシャクである。昆虫が好きな方も、野山を散策する事が好きな方も、この時期にはフィールドへご無沙汰となる方も多く、このクロスジフユエダシャクを知っている方は少ない。また、これは蛾ですよと説明して、止まった所を近づいて見せてあげなければ誰もが納得行かない事だろう。雑木林の中はお邪魔虫たる薮蚊もいなくなり、ジョロウグモも産卵が終わって蜘蛛の巣が激減しているような状態だから、今時羽化して飛んでいる昆虫がいるなんて誰も信じない事だろうし、注意していないと白い小さな紙切れのような存在自体も目に入っても来ないかもしれない。しかし、天敵の少ない冬に現れる蛾の仲間が数多くあって、これらを総称してフユシャクと呼んでいる。クロスジフユエダシャクはご覧のように決して美しい蛾ではないが、多摩丘陵の雑木林を語るに当ってかかせない存在なのである。また、かなり敏感な蛾であるから近づくとすぐに飛び立ち、なかなか写真を撮らせてくれない。そこで今日も何べんも追いかけっこをしながら撮影した。
 車に戻って食事をし、さあ五反田谷戸だと出発すると、、デジタルコンパクトカメラをぶら下げたご婦人が二人歩いている。「ここはとてものんびりして良い所ですね。どこか油絵の題材になるような良い景色の所はありませんかね」と聞かれた。そこで「棚田があって、ご婦人たちに大人気の五反田谷戸が一番ですよ」と言ってはみたものの、ハイキングにはちょいと身なりや足元が軽すぎる。「それではすぐそこの万松寺谷戸が広くて良いかな」と案内してあげた。「何を撮ってるんですか」と聞かれたので、舞岡公園の二の舞にならないように、また、日本冬芽・葉痕普及協会なるものの会員となったので、親切にデジタル一眼レフカメラの液晶ディスプレイでニセアカシアの葉痕を見せてあげた。「あれー、猿ですね、ここには猿がいるんですか」とちんぷんかんな事を言うので、「ここは町田市ですよ、猿なんかいませんよ、良く見て下さい、枝に付いているんですよ」と説明しても納得が行かないようである。そこで付近にあったクズの蔓を手繰り寄せて、「ほらここを見て下さい、ほらここにも」と指差して教えてあげたら、やっと納得が行ったようである。しかし、気安く日本冬芽・葉痕普及協会なるものの会員となったまでは良いものの、一般の方に冬芽と葉痕の魅力を布教宣伝することの大変さを味わった。どうみても60歳を過ぎているご婦人がこんな事を知らないとは、日本の理科教育は真になってない。こうなったら今度何処かで冬芽と葉痕だけの写真展を開かなければならないと痛感した。最も、そのご婦人たちの私を見る眼差しが、いくらか尊敬の念がこもっているように感じられるようになったのは言うまでもない。
 その後、キノコ尾根経由で五反田谷戸へ行き、私道に出て白山谷戸へ行き、美しい雑木林経由で車に戻ったものの、これと言った被写体には巡り会えなかった。途中、Tさん宅の斜面に早くもニホンズイセンが咲き、白山谷戸入口でヤブムラサキの実を撮った位であった。五反田谷戸には、まだノハラアザミ、アキノキリンソウが咲き残り、相変わらずフユノハナワラビも見られたが、景色ともどもとても寂しくなった。今度来るのは12月に入ってのことだろうから、雑木林の葉はほとんど落ちているに違いない。晩秋は初冬へと名前を変えて、撮るもの見るものも冬モードへと突入して行く。

<今日観察出来たもの>花/ノハラアザミ、アキノキリンソウ、リンドウ、ノコンギク、リュウノウギク、シロヨメナ、ベニバナポロギク、ノゲシ、ハキダメギク等。蝶/ジャコウアゲハの蛹(写真上左)、モンキチョウ、モンシロチョウ、スジグロシロチョウ、ツマグロヒョウモン、ヤマトシジミ、ベニシジミ等。昆虫/アキアカネ、コバネイナゴ、オオクモヘリカメムシ、クロスジフユエダシャク(写真下右)等。キノコ/ニガクリタケ、チャカイガラタケ(写真上右)等。その他/ヤブコウジの実、ナンテンの実、ヤブムラサキの実(写真下左)等。鳥/ジョウビタキ、モズ等。


11月26日、横浜市戸塚区舞岡公園

 前回19日に舞岡公園に来た時は天候が悪かったが、一週間後の今日も曇り空である。天気図をみると西高東低の冬型にもかかわらず、このような曇り日である事が不思議である。車を降りると瓜久保の家へ手ぶらで行ったが、ひんやりとして寒いくらいだ。管理事務所のMさんが落ち葉を箒で掃いている。かき集めて田んぼや畑の堆肥にするのだと言う。「23日の勤労感謝の日の収穫祭には来たの」と聞かれたが、「いつも凄い人出でごった返すから来なかった。毎年2000人位の来園者があるらしいけど、今年はどうでした」と聞くと、「天気が良かったから3000人も来たよ」と言うことである。「と言う事は餅を食べるのに行列が出来たんじゃない」と聞くと、なんと120キロもついたのだと言う。来年は餅つきに来てねと誘われたが、自宅の細い木を2本切っただけで風邪を引いたくらいだから、重たい杵を何べんも振り上げて振り下ろすことなんか出来っこない。かつての紅顔の美少年は、もちろん年老いても金と力は無かりけりなのである。ここで舞岡公園のボランティア活動に少し触れるのはちょっと横道にそれる訳だが、谷戸学校と称して様々な里山管理の活動や畑や田んぼを耕すボランティアを募集している。私がかつて勤めていた会社のSさんは、すっかり田んぼのボランティアに嵌まり込んでしまって、もう5年以上も鶴見区から通って来て活動を続けている。春の気候の良い頃なんか、舞岡産の清酒「舞岡錦」で、活動後の一時を丘の上でくつろぐのは最高だと言っていた。
 今日は午前中は野鳥撮影にしようと重たい機材をセットして河童池に期待して行くと、池にはコサギが樹木の小枝にはシジュウカラやアオジが見られる。昨日来た鎌倉のNさんの情報によると、ソウシチョウの一団が見られたと言うので頑張ったのだが一向に現れない。ソウシチョウは籠抜けの鳥で、飼い鳥として飼われていたものが逃げて繁殖したものである。原産地は中国南部から東南アジアで、一見しただけで日本の在来の鳥とは変わって見える。「ニーハオ」なんて囀りながら現れそうな美しく可愛らしい小鳥である。昨日、紅葉の中でカワセミを撮影してとても雰囲気溢れる写真を手に入れたので、今日もアオジでごっつあんのつもりであったが写欲を誘う場面に遭遇しない。しからば水車小屋の方へ行って見ようと歩き始めると、舞岡公園の野鳥撮影の主であるFさんや毎日のように野鳥観察をしているKさんがやって来た。どうやら水車小屋の方へ行っても芳しくないようである。やはり今年は冬鳥の来訪が遅れているようで、周りを見渡しても木々の葉がしっかりとかなり残っている。「まだ食べるものがたくさんあるから来ないんでしょうね」とKさんの言葉が真実をついているようだ。久しぶりに立ち止まってFさんの素晴らしい野鳥写真を見せて貰う。その中でオオタカやチョウゲンボウやタゲリの飛翔写真は言うまでもないが、マガモの雌やカルガモの飛翔写真が素晴らしかった。池の水面を泳いでいる時には地味であるから、なんだカルガモ、なんだマガモの雌なのだが、羽を開いた時は別人ならぬ別鳥の美しさだ。
 今日はたった一人で瓜久保の家にて弁当をぱくつく。このところずっと誰かと一緒だったのが嘘のようである。これから老境に入ると、こんな寂しさにも慣れなければいけないので、しっかり噛んで胃袋に流し込む。午後からはいつもの撮影スタイルに変えて出発する。まずは前回小雨のため撮影を見合わせたニガキについたチョウセンカマキリの卵のうを撮影する。次にまるでモンチッチのように見えるニガキの葉痕に目を向ける。今日も変わらずとても可愛らしい顔をしている。更によく見ると去年、一昨年と過去の葉痕もついていて、まるで可愛らしい顔のトーテンポールのようだ。にんまりと笑って撮影したが、葉痕を楽しむにはやはり賑やかなご婦人とわいわいやりながらが一番だと実感する。通りすがりの方に「何を撮っているんですか」と尋ねられたが、変人奇人に見られると困るので、「木の芽です」と無粋に受け流すが、きっと神経質で暗い人と思った事だろう。ニガキの下には植栽されたマンサクの葉が黄色く色づいて美しい。ほとんどの葉は黄色だが、一枚だけ赤が入った斑な葉を発見する。晩秋のフィールドには様々に色づいた各種の葉が美しいが、これらを一枚一枚、一樹種一樹種ごとに丁寧にカメラで切り取ってコレクションしたらとても楽しそうだ。樹木に親しんでいる方や樹木図鑑にだって、このような紅葉黄葉の写真は撮ってないし載ってない。ゴマダラチョウの幼虫の食樹であるエノキだって、黄葉はとても美しいのだ。芽吹き、新緑、花、実、幹、冬芽と葉痕に加えて、樹木の総合的な理解のためには葉の紅葉黄葉、ことに寄ったら落葉までも観察し撮影しなければならないのかもしれない。
 その後今日は毎度御馴染みのコースとは異なって、尾根の散策路を地下鉄舞岡駅に向かった。前回このコースを歩いて来たご婦人連が、たくさんのツチグリを見たと言うのだ。ツチグリは多摩丘陵でたくさん撮影していたが、比較的キノコ観察には不向きな舞岡公園に於いても、この尾根沿いのコースはキノコがたくさん見られそうな環境なのである。この予想は見事に当たって、ツチグリはもちろんのことスッポンタケも見ることが出来た。しかし、卵から顔を出しているツチグリは、このところ雨が降らなかったからか白地に黒の網目模様がくすんでいる。また、スッポンタケは頭を垂れているものがほとんどであった。しかし、よく観察するとツチグリもスッポンタケもまだ卵の状態のものがあるので、雨後に再び生長を始めるのかもしれない。午後に入ってやっと気温も上昇し薄日も差して来たので、昆虫達も現れるかもしれない、ササクレヒトヨタケが生えているかもしれないと、Uターンして尾根道伝いに古谷戸の里から谷戸見の丘へ向かった。途中、クコの赤い実を発見して撮影する。クコの花は良くみるものの実はなかなか見当たらない。一見するとクコは草に見えるのだが立派なナス科の樹木で、かなり前は土手などへ行くとかなり繁茂していた。また、その頃はクコの葉を摘む方も見られ、図鑑で調べてみると刻んでクコ飯にしたとある。このためか東南アジアでは野菜として利用しているとある。また、赤い実は強壮剤としても大いに薬効があると言われるので、少し研究してみる価値がありそうだ。
 谷戸見の丘に登ってササクレヒトヨタケが生えている場所に行ったが、あんなに群生していたムジナタケと同様に跡形も無く消えていた。キノコのこの生態、何も無いところに突然生えて、何も無かったように跡形も無く消える。こんな不思議さもキノコの魅力の一つだ。そんな訳で谷戸見の丘を下って、左手にあるカマツカの実を今日こそ撮ろうと行って見ると、なんとか写真のような小枝に残る実を撮影出来た。今日はこんな天気だから昆虫はいないなと諦めかけたが、立ち入り禁止の柵をささえる丸太の支柱の天辺にハラビロカミキリがポーズを取って出迎えてくれ、他にはいないかと支柱の天辺を見て回ると、寒さのためかやや褐色に変色したハネナガイナゴを発見した。帰路の途中、ヒャクリョウ(カラタチバナ)を発見したが足場が悪いので撮影を断念する。以上、今日はどうみても貧果に鳴いた一日だったが、久しぶりに一人で舞岡公園を散策して、なにはなくとも何とも言えない充足感を持って一日は終了した。目的も持たずにそぞろ歩く、これも満ち足りた自然観察及び写真撮影の醍醐味と効用なのかもしれない。

<今日観察出来たもの>花/リンドウ、ベニバナボロギク、サザンカ等。昆虫/ハラビロカマキリ(写真上右)、ホソアシナガバチ、コバネイナゴ、チョウセンカマキリの卵のう(写真下左)等。鳥/コサギ、カルガモ、スズメ、アオジ、シジュウカラ等。キノコ/スッポンタケ、ツチグリ、エノキタケ等。その他/クコの実、カラタチバナの実、カマツカの実(写真下右)、ヒヨドリジョウゴの実、ガマズミの実、ニガキの冬芽と葉痕、マンサクの黄葉(写真上左)等。


11月25日、東京都町田市町田ぼたん園〜薬師池公園

 いよいよ撮影するものが少なくなって来た。また、各所で冬鳥がやって来たと言う情報を耳にする。そこで今日は午前中はぼたん園周辺を歩き、午後からは薬師池公園にて野鳥撮影との豪華2本立ての予定で出発した。もっとも野鳥だけでこの観察記を飾る写真4枚を撮る自信がなかったので、姑息なる計画とも言えるかも知れない。駐車場に車を停めて薬師台住宅の中を通って行くが、住人の方々がとても花や植物が好きな方が多く、サネカズラ、ムベ、ピラカンサ等の実が美しく色づいていた。ムベはアケビの仲間であるが常緑で、図鑑によると赤紫に色づいた果実はアケビのように開かないが、中の実は生食出来るとある。また、アケビのように若い芽はおひたしにも利用されるとあるから、目隠しを兼ねて生垣に仕立てるのも頷ける。いつものように左手の雑木林の縁の小道を上がって行くが、これと言って写欲を誘うものは無いが、ぽかぽかとして暖かい。秘密の場所のセンブリはどうなったかと行って見ると、花は全て終わっていた。ぼたん園に入ると早くも寒牡丹が咲き始めている。しかし、無粋にも緑色のビニール皮膜の棒で支えてあるから絵にならずに撮影を断念する。この時期、植栽されているトウカエデの紅葉が見ごろの筈であるが、今年はかなり頑張っている。そう言えば今日の気圧配置は大陸の高気圧が広く日本列島に張り出し、低気圧がオホーツク海にあるという典型的な冬型で、少々北風が強い割にはぽかぽかとした陽気である。いったいどうなってるのと首を傾げたくなるものの散策には大歓迎だ。
 このところヒャクリョウ(カラタチバナ)、マンリョウ、ジュウリョウ(ヤブコウジ)と撮影して来たので、今日こそセンリョウをと思ったのだが、陽が強くて陰影がはっきりとしてここに紹介するのは日延べとなった。やはりクリスマスに似合うセンリョウは、寒々しく撮ってこそ情緒がある。今日の目的はツワブキである。もうかなり前から咲いていたのだがボタン園のものは今が盛りだ。しかし、こちらも晩秋の陽が強くて情緒に欠けるなあ等とぼやいていたら、たくさんの蝶や昆虫がやって来た。蝶ではヒメアカタテハ、スジグロシロチョウ、ベニシジミで、昆虫ではハナアブ、オオハナアブ、そしてそれらを狙って花に潜んでオオカマキリが顔を出していた。こうなったらツワブキの花を撮影するよりは蝶だとばかりに、ヒメアカタテハを中心にかなり粘った。拙著「蝶の棲む世界」でも紹介しているが、ヒメアカタテハは英名でペインテッドレディー、すなわちおめかしした貴婦人と呼ばれ、全世界で見られるコスモポリタン種である。ヒメアカタテハの幼虫の食草はゴボウ、ハハコグサ等だが、もし産卵しているところに遭遇したら卵を観察して欲しい。とても美しい薄赤い宝石のような卵である。思わぬ収穫でほくそえんで、これならムラサキシジミもいるかもしれないと公園の一番上まで行ったが、石楠花が咲き始めている以外にはこれといったものは見当たらない。いつものようにぼたん園から自由民権運動家の石坂昌之の墓のある雑木林を通って丘の上の畑へ行ったが、これといったものには出会えなかった。しかし、途中、草刈で生育の遅れたシラヤマギクが咲いていた。また、ヤマウルシの幼木がたくさん生えていたので葉痕を素直に切り取った。
 午後からは長靴をスニーカーに履き替え、野鳥撮影機材に換えて薬師池公園へ行った。野鳥撮影のジーズンがようやく到来したが、まだ、時期が早くてなんにも見られないかもしれないとの不安がよぎる。行く途中、大きな三脚を抱えた野鳥撮影と思われる方々が帰って来たので、何かしらの野鳥が来ているものと期待も膨らむ。池に着くとモミジが色づいて逆光にして見るととても美しい。また、池の水面には紅葉が映って、これまた美しい。時折、鯉が顔を出すのか大きな波紋が広がって行く。この波紋が現れた瞬間にシャッターを切ったらとても面白いだろうとも思ったが、心は野鳥にと向いているので、無難な場面をカメラの中に納めた。ルリビタキやジョウビタキが見られる麦藁屋根の古民家に行く途中、野鳥撮影をしている方がカワセミを狙っている。見ると紅葉したモミジの枝に止まり、背景にも紅葉したモミジ、そして水面にも映った紅葉のモミジと、それはそれは水色のカワセミをより美しく演出する舞台が整っている。これは撮らなければ一生の悔恨になるとお仲間に入れてもらった。しかし、一団の傍らではどうしても目に光が入らない。そうぼやいていると「ここなら目に光が入りますよ」と席を譲ってくれた方がいたお陰で、どうにか様になる写真を手にする事が出来た。見物する老人が、「やっぱりカワセミは良いね」と、CD世代の方にはちんぷんかんぷんの事だろうが、傷着いたレコードをかけているようで何べんも同じフレーズを繰り返す。かつて小学校時代に放送部に在籍していたが、運動会でこの傷着いたレコードのお陰で、お客様の大きな失笑をかった事が懐かしく思い出される。どんな名言も何度も聞くとうるさくなるように、この老人の「やっぱりカワセミは良いね」と言う感想も、せいぜい3回位にしてもらいたいなと思った。
 日陰にいるので鮮鋭度は落ちるものの何とかカワセミを無難に撮影できたので、ルリビタキやジョウビタキはいないかと麦藁屋根の古民家の庭に行ったが、嘘のように静まり返っていて誰もいない。やっぱりまだ来ていないのだなと悟ったが、大きな苔むした石の上にヒマワリの種が置かれていて、シジュウカラとヤマガラが来ていた。しかし、何とか撮影しようと頑張ったのだが、紅葉見物の方が多いためか落ち着きが無く撮影出来ない。それでも万が一のチャンスとばかりに頑張っていたら、このHPでリンクしているプロ写真家のIさんに出合った。どういう訳かIさんに会うのはこれで二度目だが、この薬師池公園ばかりである。いつものようにジッツオの頑丈な三脚にカメラをセットしている。見ると買いたい欲しいと思っているキヤノン20Dである。「どうですか、20Dは?」と聞くと、「60Dに比べて大幅に進化していて良いですよ」と言う。今日からまた禁煙にチャレンジしているので、禁煙が成功したら20Dを買う資金の目安がつくとほくそえむ。道端自然観察及び写真撮影もこれ以外にもっと楽しい事が現れないので続けていると言うのが嘘偽りの無い本音なのだが、禁煙して何かその代償として楽しい事が無ければ等と思うのである。明快な頭脳に立ち返り、毎日快調で体力回復、そしてキヤノン20Dも買えるとなったら、やはり禁煙を成功に導かなければなるまい。今日は左程の成果があった一日ではなかったが、もし禁煙に成功したならば、自分史に忘れがたき充実した一日と記憶されるに違いない。

<今日観察出来たもの>花/シラヤマギク(写真下左)、ベニバナボロギク、ノゲシ、サザンカ、ツバキ、カンボタン等。蝶/ヒメアカタテハ(写真下右)、スジグロシロチョウ、ウラギンシジミ、ベニシジミ、ヤマトシジミ等。昆虫/ハナアブ、オオハナアブ、オオカマキリ等。鳥/カイツブリ、ヤマガラ、アオジ、シジュウカラ、カワセミ(写真上右)等。その他/ムベの実、サネカズラの実、センリョウの実、ヤブランの実、ピラカンサの実、ヤマウルシの冬芽と葉痕等。


11月23日、横浜市緑区三保市民の森

 定期的に通う多摩丘陵や横浜のフィールドにおいて、いつまでが晩秋でいつからが初冬なのか、その明確たる境が無いので困っている。今日は勤労感謝の日で、後一週間もすると12月に入るのだが、12月もかなり遅くまで晩秋が続くように感じている。いつもそんな完全なる冬に入る手前に、三保市民の森の広場へ行って、ムラサキシジミとウラギンシジミの越冬前の日向ぼっこを撮影する事がこのところずっと続いている。この両者がほとんど風の無い晴れた日であっても、この広場に日向ぼっこに現れなくなったら完全なる冬なのである。要するに冬眠状態に入ったと言う証なのだ。三保市民の森周辺だけを散策するなんて本当に久しぶりだが、森の深さを味わいたいなら、私が定期的に通っている何処のフィールドよりここが一番である。前にも書いてある通り付近に横浜市の上水道が通っているので、この周辺は開発が免れた地域である。上水道の脇には巨木となった桜がかなり残っている。きっと上水道を造った時に植栽されたものだろう。植栽された桜がそんな巨木なのだから、周りのスギやヒノキも大木に生長して、森の中は深閑としていて、まるで低山地の森に来た様に感ずるのだ。また、通称「谷道」と呼ばれる北斜面は梅田川の源流となっていて、湧き水が心地よい音を響かせて流れている。
 土曜日曜祝日しか利用できない駐車場に車を停めて少し登った所にある広場に行く途中、日が差さない斜面にはツチグリがたくさん顔を出している。ほんとうにツチグリというキノコはそんな北斜面崖地が好きである。広場に至る右手の小道に足を踏み入れ、たくさん生えていたアメリカイヌホウズキの実を撮る予定でいたのだが、今年は綺麗に刈り取られていてなにも生えていない。たくさん植栽されているウメモドキはほとんど葉を落として、赤い実がたわわに実って実に綺麗である。なんだか知らないがここにはプラタナスの巨木があって、大きな黄色に色づいた葉が地面一杯に落ちている。また、サザンカが美しく咲き、ネズモモチの実は黒紫に重そうに垂れ下がっている。ネズミモチの名前はこの実の一つ一つがネズミの糞に似ているから、そう名付けられたと言われているが、ネズミの糞なんて見たことが無いから今一ぴんと来ない。このような周りの雰囲気は、ムラサキシジミとウラギンシジミの越冬前の日向ぼっこの毎年変わらないスティエーションとなっている。後は日が柔らかく差し込む日溜りにある常緑樹の葉上を見て回れば良いと言う訳である。
 早いものでいよいよ今年もムラサキシジミとウラギンシジミの日向ぼっこを見に来る季節となったかと感慨深げに、日が当たる常緑樹を見て回ったが、ムラサキシジミはいるもののウラギンシジミは見当らない。ムラサキシジミもいつもの年より少なく、やはり何べんもやって来た台風が影響しているのだろうか。しかも待てども待てども近くになかなか下りて来ず、かなり高いシラカシの葉の上で日向ぼっこをしている。その内に降りて来るだろうと付近を徘徊していると、キチョウが飛び出して来て植栽されているツバキの葉に止まった。キチョウは撮影が難しい蝶で、何処でもたくさんいるのだが、近づくと敏感にそれを察知して逃げてしまうのだ。しかし、今日の個体はとても眠たげで、良い所に止まってよとリクエストして飛び立たせても近くにまた止まってくれる。しかし、そんな事を繰り返していたら、キチョウのご機嫌は急に悪くなって、頭上高く飛び去ってしまった。それでは目的のムラサキシジミと頑張ったのだが、こちらの方はご機嫌斜めで手頃な場所に止まって、目が覚めるような青紫の羽の表を披露してくれない。ムラサキシシミが羽を開かずに羽裏を横から撮ったとしても、クジャクチョウ等のタテハチョウの仲間と同じでちっとも面白くないのだ。褐色に朽ちた小さな葉を撮る様なものなのである。しばらく我慢したのだが今日は幸運の女神が訪れないので、まだまだチャンスはこれからもあると、久しぶりの三保市民の森を味わおうと散策を開始した。
 谷道沿いに歩みを進めると日が差さないからひんやりとしていて肌寒い。触れるとかぶれると言われるツタウルシが真っ赤に紅葉し、ツタとその美しさを競っている。私が足繁く通った10数年前に比べるとカラスザンショウが増えている事にびっくりした。もっともまだ高木にはなっておらず、ここ数年に発芽した幼木がほとんどだ。地球温暖化の傾向はやはりここ数年その速度を増しているようだ。南方系の蝶であるツマグロヒョウモン、ナガサキアゲハ等が箱根の山を越えてまだ10年とは経っていないからだ。やや開けた場所に差し掛かると、すっかり葉が枯れ果てたハダカホウズキがとても美しい。一つ一つの実は裸電球のような格好をしていて、いつもこの形を見ると、その昔、会社の同僚と飲んだガード下の赤提灯を思い出したり、あの永遠の青春の歌「神田川」のお二人も、こんな裸電球の早稲田あたりの安アパートに暮らしていたのではないかと想像してしまう。また、私が長野県上伊那郡箕輪村御子柴にある農家に下宿していて、この裸電球の下で勉学に励んでいた事も懐かしく思い出される。私が良く行く舞岡公園にはアルミの傘を被った街路灯と古民家の電灯がこの裸電球で、いつまでこの形の電球が発売され続けるのかが心配だが、エジソンの電球発明以来この形が続いているので、かなり後々までその余命を永らえるのではなかろうか。洒落た蛍光灯では味わえない裸電球だが、こんな風情を知っている者も少なくなりつつあると考えると、なお一層寂しくなる。
 長い谷道は延々と続く、途中、エサキモンキツノカメムシがスローモーに動いている。かつてここでは晩秋に様々なカメムシを観察している。カメムシの多くは落ち葉の下やスギやヒノキの樹皮下で越冬する。しかし、温度差がある場所や乾燥している場所では安眠が出来ずに、このような日が差さない冷え冷えとした場所を好むのである。いくら寒くても眠ってしまえば分からないし、それに凍る事のない物質を体内に保持しているのだろう。ここにカメムシがたくさん見られるようになったら、もうすぐ霜が降りてもおかしくないのだ。やっと谷道の終わりまで到達して、久しぶりに尾根道も歩いて見ることにした。針葉樹の大木ばかりの尾根道は昼間も暗き森となっていて、蝶や昆虫は言わずもがな野の花もほとんど見られないのである。しかし、キノコ位は生えているのではないかと思ったのだ。しかし、針葉樹林の森の生き物達は貧弱で、ようやく枯れた根にセンチコガネが休んでいるのを発見した。センチコガネはエジプトでスカラベと呼ばれている聖タマオシコガネと同じ糞を食べる甲虫である糞虫の仲間なのだが、どういう風の吹き回しか、センチコガネはキノコも大好きな昆虫と進化を遂げたようなのだ。雑木林の小道を歩いていて立派なキノコが倒されているのを良く目にして、なんとふざけた輩がいるもんだ、これでは写真が撮れないと憤慨したことがあったが、なんとこのセンチコガネが根元に潜り込んでキノコを食べて、倒れてしまったと言う訳なのである。以上、今日は貧弱な観察及び撮影結果となってしまったが、深閑とした森をさ迷い歩く情緒をたっぷりと味わっての早上がりの帰宅となった。

<今日観察出来たもの>花/リュウノウギク、シロヨメナ等。蝶/キチョウ(写真下左)、ムラサキシジミ等。昆虫/センチコガネ(写真下右)、オオハナアブ、エサキモンキツノカメムシ等。キノコ/セミノハリセンボン、ムジナタケ、エリマキツチグリ、フクロツチガキ、ツチグリ、ツノマタタケ、アラゲキクラゲ等。その他/ハダカホウズキの実(写真上左)、ヒヨドリジョウゴの実、ツタウルシの紅葉(写真上右)等。


11月21日、東京都町田市小野路町

 今日は雲一つ無い青空で、しかも風がほとんどない絶好の散策日和である。昨日の茅ヶ崎公園生態園における里山管理のボランティアを手抜きさせていただいたために、絶好調には程遠いがほんの少しばかり調子が良い。そんな訳で久しぶりとなる小野路町へ行った。こんな上天気に雑木林の中にくすぶっているなんて身体に悪いし、雑木林に囲まれている谷戸では空が狭いので、午前中は丘の上の牧場の方へ行った。歩き始めてすぐに、この時期ウスタビガという大型のヤママユの仲間が発生するアメリカハナミズキの木を見上げてみたが、今年はツリカマスと呼ばれる緑色の独特な繭はたったの一つしか無い。発生量が少ないのか、はたまた台風に吹き飛ばされてしまったのか、今年はどうやら羽化の場面を観察出来そうもない。丘の上に向かう坂道を登り始めると、前方に定期的に小野路町で行われている自然観察会の方々が見える。今日のような天気は自然観察会には最高の日和である。途中、梅がたくさん植えられている畑があるが、そこでもかつてツリカマスをたくさん観察しているので寄ってみたが一つもない。しかし、ジョウビタキの雌がようこそいらっしゃいましたと出迎えてくれた。丘の上の竹林前の小道で、前回はキツネノタイマツをたくさん観察しているので、ことによったらササクレヒトヨタケと思ったのだが、この小道も竹林内もキノコのキの字もない。牧場横には見慣れた川崎ナンバーのカローラUが停まっている。寺家ふるさと村にて“東北のマタギ”とあだ名されているTさんの車だ。ダッシュボードにはなんと飾りとしてマンネンタケが数本飾られているのには驚いた。。きっと今日は自然薯掘りであろう。自然薯はほんの親指大の太さのものでもかなりの量になって、とっても美味しいのである。
 丘の上から下り坂になるが、畑に一本植えられているナツミカンが美味しそうに色づき始めて青空に浮かんでいた。こんな調子で散策には実に素晴らしいという一言に尽きるのだが、なかなか気に入った被写体に巡り会えない。咲き残っているお茶の花にはヒメアカタテハ、ムラサキシジミ、オオハナアブが盛んに吸蜜しているが、なかなか良い写真が撮れない。そんな訳で坂を下ってまた登って広大な植溜に行ってみると、白と薄ピンクの花が混じったボケが咲いていた。ボケと言うと早春の花なのに何故かこの品種だけは晩秋に咲く。また、たくさん植栽されているナンテンの赤い実は今が盛りで、もちろん精を出して撮影した。しかし、こんな園芸品種だけでは物足りないと思って、丘の天辺の畑まで行くと、ようやくハラビロカマキリがアメリカハナミズキの幹で暖をとっていた。カマキリとしてはふくよかで可愛らしい顔つきである。世の中の女性はダイエットに夢中だが、私なんかハラビロカマキリのようにちょっぴり太目の女性の方に魅力を感ずる。まあ、このような話はこの場にふさわしくないので、更に雑木林に入って行ったが何も撮影するものが無い。そこで急いで万松寺谷戸に下りて、秘密のキノコの穴場に行って見ると、またしてもナメコがたくさん生えていた。桜の太い50cm程に切った丸太が日陰の地面に並べてあるのだが、これはただ単に丸太置き場ではないのかと思っていたのだが、このたくさん生えているナメコを見て、ここは農家の方がナメコ栽培をしている場所なのだと初めて分かった。この場所に昨年からたびたび来ているのだが、ナメコなんて一本だに生えていなかったから気づかなかったのだろう。どうやらナメコ発生までにはかなりの時間がかかり、しかも発生時期は晩秋であったのだ。
 どうやらこれで純天然もんとは行かないまでも、今日の観察記を飾るべき写真は撮影できたので、ゆっくりと車の中で菓子パンをぱくついて、午後の定期観察コースを歩く事にした。まず最初に、今日は風も無いし鎌倉の冬芽婦人と葉痕婦人のためにアワブキの冬芽と葉痕を撮影した。そして万松寺谷戸へ向かうと、田んぼや休耕田に差してある竹の小枝にモズの早やにえが刺さっている。じゅっくり調べた訳ではないので、エンマコオロギとコバネイナゴを青空に抜いて撮影した。栗林に入って行くとカメラを首からぶら下げた若者がなにやら探している。どうやら私と同類のようなので、ジャコウアゲハの蛹ではないのかと聞いてみると、そうであると言う。まだ少し早い気もしたがやっと一つ見つけたようで、私も撮影させてもらった。谷戸奥にはこの他、久しぶりとなるヒメアカネが日向ぼっこをしていて、その小ささに改めて感動した。キノコ山に向かう途中、シラカシの伐採されて置いてある丸太に、まるで海のサンゴのような美しいキノコが生えていた。こんな黄色いものは初めてだが、シロキクラゲを黄色くするとこのようになる筈だと思って撮影する。きっと寒くなったので、シロキクラゲの表面部分が黄色く変色したのだろう。期待したキノコ山は山道脇にニガクリタケと小さな白い色のダイダイガサがあった位で何も無い。また、今日こそクヌギの幹に産卵しているクヌギカメムシと思ったのだが、これも見つからない。ナラタケがまた生えていないかと栗林に行ってみたが、これまた何も生えていない。そこでTさん宅近くの切り通しの斜面に、ツチグリとその卵を発見したので撮影した。
 こうなったら卵から顔を出したばかりのスッポンタケを撮影したように、ツチグリも卵から顔を出したばかりのものを撮りたくなった。そこで美しい雑木林の方へ行ってみた。途中、民家に植えられたオオバベニガシワが葉を落としていたので、面白い葉痕はないかと調べてみると、子ウサギのようなものを見つけたので微笑を浮かべて撮影した。美しい雑木林へ行くと、ぽつんと一輪リンドウが咲いている。棚田の縁に咲くリンドウも風情があるが、雑木林の日溜りで褐色の落ち葉の中に咲くリンドウも捨て難い。晩秋の花だからこそ寂しげに咲いて心動かされると言う訳である。そんな孤独なリンドウと対話して、小道に戻り日陰の路肩斜面を見ると、有り難い事に卵の皮が開きかけたツチグリを発見した。図鑑によると湿度の高低によって、皮は開いたり閉じたりするらしいが、眼前にあるツチグリは孵化したばかりのものである。こうして上手い具合に目的のものが撮れたので、今度は昨日マンリョウを撮影したので今度はジュウリョウ(ヤブコウジ)だとばかりに、ニリンソウの谷へ降りて行くと、これまた有り難い事に可愛らしい赤い実を発見した。たしかにヤブコウジは背が低く、おまけに実もせいぜい二つくらいしかつかないのだから、鈴なりのマンリョウに比べると十両と呼ばれても仕方あるまい。これで今日は本当に満足し、家庭菜園を耕している顔見知ったご婦人に気持ちよく「こんちわ」と声をかけると、「さっきヤブコウジを撮っていたでしょう、今日、あの場所で可愛らしいのを見つけたもの」と言うので、液晶ディスプレイで写した写真を見せてあげると、「まあ、可愛いわ」との感嘆の声が返って来た。本当に今日の小野路町は午前中こそ苦戦したもの、午後からは可愛い面白いの連続で、まさに不思議発見の一日となった。

*サンゴのような美しいキノコはシロキクラゲではなくて、広尾山荘のご主人さまに、同じシロキクラゲ科のコガネニカワタケと教えていただきました。しかし、観察記はキノコの素人らしくて良いので、あえて書き直してありません。

<今日観察出来たもの>花/リンドウ(写真上左)、リュウノウギク、シロヨメナ、ベニバナポロギク、ノゲシ、ハキダメギク、ボケ等。蝶/ジャコウアゲハの蛹、キタテハ、ヒメアカタテハ、ヤマトシジミ、ベニシジミ、ムラサキシジミ等。昆虫/ハラビロカマキリ(写真下右)、ヒメアカネ、ツチイナゴ、コバネイナゴ、オオハナアブ、エサキモンキツノカメムシ、ウスタビガの繭、コバネイナゴのモズの早やにえ等。キノコ/スッポンタケ、ニガクリタケ、ムラサキシメジ、オオイチョウタケ、コガネニカワタケ(写真下左)、ツチグリ等。その他/ヤブコウジの実(写真上右)、ナンテンの実、ジョウビタキ等。


11月20日、横浜市都筑区茅ヶ崎公園

 今日は茅ヶ崎公園生態園においての里山管理のボランティアの日である。しかし、このところ一進一退の喉の痛みが今日はかなりある。禁煙が出来ない意志薄弱のためと、昨日の雨中散策も影響しているのだろうか。熱でも出て布団の中に倒れこんでしまえば、わりかし早く治るのかもしれないが、そうならないところが最近の私の風邪のパターンである。そんな事もあって茅ヶ崎生態園の責任者のK女史に事情を話して、かなり適当に遊ばせて貰う事となった。鎌や斧や鋸を使っての肉体労働は無理なものの、カメラ一台ぶら下げての写真撮影ならなんとかなるのだから凄まじい執念と言わざるを得まい。そんな訳でボランティア仲間が里山管理に汗水流している間は、お邪魔になってはいけないと写真撮影に専念し、午後からのチェーンソウを使用しての間伐作業のみのほとんど見学に等しいお手伝いで参加した。そんな訳で今日の自然観察及び写真撮影は午前中の2時間程のものである。
 まず最初に今日は茅ヶ崎公園入口に美しく咲いているカンツバキに似ているサザンカを撮影し、ことによったらスッポンタケやエノキタケが生えているかもしれないとキノコをしばし探してみた。するとマンション下の竹林の美林にスッポンタケが生えていたが、もうかなり萎びていた。また、卵がほんの少し割れていたので、先週の小山田緑地での再現とばかりに覗いてみたが、中のスッポンタケは変色して干乾びていた。他のキノコについては分からぬものの、スッポンタケの全ての卵は無事に割れてキノコをにょきにょき生長させるのではなくて、かなりの数はそのまま育たなかったり、うまくキノコをはやせなかったりするようである。野鳥の卵についてはどうかは分からないものの、多分、羽化しない卵もあるのではなかろうか。こんな訳でスッポンタケには見事振られたものの、じめじめと湿った北斜面の窪地に入って行くと、エゴノキの枯れた幹に小さいものだったが念願のエノキタケを見つける事が出来た。
 次に丘の上に植栽されているチャンチンを見に行った。先日の鎌倉中央公園でも見ているのだが、やはり冬芽と葉痕好きの鎌倉のご婦人たちの気持ちを察して撮影しなかったから、欲求不満が溜まっていたのである。今年の冬は果たして冬芽と葉痕を撮影するのかはいまだ未定であるが、代表的な樹種でとっても可愛かったり面白かったりするものはやはり会いに行って撮影することになる筈である。なんでそんな葉が落ちた跡になんか興味があるのかと言われても説明のしようがないのだが、そこには小さな命が生きづいているように感ずるのである。去年も書いたと思うが、森の妖精たちは冬芽や葉痕の形で冬越しをするのである。そんな様々な冬芽と葉痕の中でも、圧倒的に可愛いのがチャンチンなのである。そのチャンチンだが日本にもともと自生していたのではなくて、中国原産で徳川時代に渡来したものであるから、図鑑によっては載っていないものもあるセンダン科チャンチン属の樹木である。 なお、木や花には独特の香りがあり、漢字では「香椿」と書き、その音読みでチャンチンとなる訳である。また、日本にはウルシ科のチャンチンモドキと言う木があって、チャンチンに似ていると書かれているがまだお目にかかった事がない。しかし、パッと目には区別がつかないと言う。
 一回り茅ヶ崎公園内を巡って生態園に戻って来て、今度は生態園の中を散策するとマンリョウが赤く色づき始めていた。そこで植物に詳しいKさんに話すと、「生態園にはセンリョウは東海地方以西だから無いけど、マンリョウもヒャクリョウもジュウリョウもある」と言う。「ジュウリョウはことによったらヤブコウジのことですか」と聞くと、そうであると言う。「それではヒャクリョウは?」と聞くと、カラタチバナであると言う。カラタチバナなら先日に小野路町で出会っているし、センリョウは各所の公園に植栽されているので、私は全てに出合っている事となった。しかし、なんとなくセンリョウだけは他のものと感じが異なるので、図鑑を開いてみると、マンリョウ、カラタチバナ、ヤブコウジはヤブコウジ科で、センリョウはセンリョウ科である事が分かった。その後、園内でシオデやホウチャクソウの実を撮り、Kさんによるとイシミカワがあったんですがねと言う事なので探してみたが見つからなかった。なお、早淵川に行くとたくさんあると言う情報を頂いた。
 昼食はぜんぜん手伝わないのに御握りを頂いて、午後からは雑木林の間伐作業の見学に同行した。まずはみんなヘルメットを被って、小型のチェーンソウの取り扱いから始まった。何CCかは分からないがエンジン駆動によるチェーンソウである。これには風邪気味の私も興味を引かれて、紐を思いっきり引っ張ってエンジンを始動させ、丸太を切ってみた。初めての経験だからそれ程手馴れた感じではなかったが、無事に丸太は切れたので嬉しくなった。まさしく文明の利器は素晴らしい。今度は雑木林に入って約25年も経っている直径30cm程のクヌギの木を切り倒すことになった。もちろん私はチェーンソウを使う役ではなくて、こっちに倒れて来てねという綱引きの一員となったと言う訳である。ばりばりと音がして木が倒れる瞬間を心待ちにしていたが、運悪く他の木の枝に引っかかって倒れて来ないどころかほとんど同じ場所に直立している。そこでまた1m程下を切ったがこれまた倒れて来ない。しかし、3度目の正直でまた1m程下を切ったら、ばりばりと音はしなかったが勢い良くクヌギの木は地面に倒れた。そしてシイタケのほだ木にするために約1m程の長さに幹を切り刻んで行った。その一片は20kg程の重さがあると言うので、全体ではこの25年程経ったクヌギの総重量は300s以上にはなるのではなかろうか。私たちは地面に立っている木々を見てもなんら重さを感じないが、とんでもない重量をもったものが立っているのだと言う事がわかり感動した。樹木の幹の強さは言うまでも無く、それを支える根張りも相当なものであるのだ。今日は全くの役立たずのボランティアであったが、樹木の偉大さ及び林業仕事の大変さを感じ得て、しかもおまけに写真まで撮って来たのだから、喉は引き続いて痛いものの、かけがえのない一日となった事は言うまでも無い。

<今日観察出来たもの>花/シロヨメナ、ヤクシソウ、アメリカイヌホウズキ等。昆虫/エサキモンキツノカメムシ、シロヘリカメムシ、コバネイナゴ、キイロテントウ、テントウムシ、テントウムシの幼虫(写真下右)等。キノコ/エノキタケ(写真上右)、スッポンタケ、アラゲキクラゲ、キクラゲ等。鳥/シジュウカラ、カワセミ等。その他/マンリョウの実(写真下左)、ヤブコウジの実、イヌホウズキの実、ホウチャクソウの実、シオデの実、ヒヨドリジョウゴの実、チャンチンの冬芽と葉痕(写真上左)等。


11月19日、横浜市戸塚区舞岡公園

 今日は定期的にと言うか不定期というか、はてまたいつまで続くか分からない、つれづれなる気ままに自然好きが舞岡公園火の見櫓裏の瓜久保の家にて弁当を食べ、午後から散策するという集まりの日である。まあ、普通なら自然観察会と呼ばれるものなのだが、自然観察なんて言う大それた表現を使いたくない。このHPだって道端がついている自然観察館であって、自分が好きだから誰のお役にたつ訳でもないのに、つれづれなる気ままにもくもくと続けている。言わば道端と言う言葉の持つ響きは、専門的ないし学術的ではなく、とってもアマチュア的ですよと主張しているはずである。そんな集まりを今年はもう数え切れない程こなして来ているように思うが、12月に入ると野の花や昆虫達の姿が見えなくなり、私も一箇所に陣取る野鳥撮影の季節に入るので、今回が仲間の方々と散策できる最後の日であると考えていた。しかし、当初の少なくとも午前10時には雨が止んで曇りとなるという天気予報は見事に外れて、一日中小雨の降る日となってしまった。まさかこんな日だから誰も来ないだろう、一人で弁当を食べて車の中で昼寝して帰ろうと半ば諦めて出発した。舞岡公園のいつも車を停める場所には一台も車が停まっていない。やはりこんな日だからみんな家の中に閉じこもっているのだろう。それでも帽子を被っていれば少しの時間なら散策できる霧雨なので、河童池の方へ歩いて行くと、見慣れた自転車が停めてある。どうやら下倉田のKさんのもののようである。その予感はずばり当たって河童池の向こうで双眼鏡で野鳥観察をしていた。「こんな天気だと言うのに好きですね、冬鳥はかなり現れましたか」と聞くと、「まだ舞岡公園にはツグミが来ていないんですよ」と言う。「やっぱり冬の鳥の中ではツグミは別格ですね。少し走っては胸を張るあの独特の姿は、俳句や短歌をやっている方にも有名ですものね」と以前読んだ短歌を思い出して言うと、「たしかツグミは季語になっているはずですよ」と言う事である。
 Kさんと別れると雨が止んできたので車に戻って撮影機材を出して散策すると、いつか書いたように雨の日のキクラゲやアラゲキクラゲは水分を吸ってぱんぱんになって活きが良い。またしてもアラゲキクラゲ登場ではこの観察記も飽きられてしまうかなとも思ったが、背景が美しいので撮影していると、小枝に休むキボシカミキリが目に留まった。いやはやもうすぐ12月だと言うのに立派な体格の甲虫類を発見して嬉しくなった。しかし、歴戦の勇士のごとくに長い触角の片方が途中から切れている。しかも昨日の午後から降り続いている雨に濡れていた訳でもあるのだ。今まで長い間昆虫達を観察して来たが、彼等にとっては「生きなさい出来るだけ長く、楽しみなさい寿命が尽きるまで」と命を生み出した天上の母の粛々たる無言の励ましに従っている、ただそれだけの事なのである。まあ、この掟をああでもないこうでもないと言っているのは、愚かな我々人類だけであろう。このキボシカミキリは古い図鑑ではキボシヒゲナガカミキリと書かれていると思うが、このヒゲナガとつく古い図鑑の名の方が実はその格好とぴったりなのである。なぜならその触覚の長さは雄では体長の約2.6倍、雌では約2倍にもなるという信じられない位の長さなのだ。このキボシカミキリは首都圏では普通種で、マグワ、ヤマグワ、イチジクに食害することでも著名である。ところで、こんなに寒くなるまで生き延びているのだから、北方の昆虫かと思って図鑑を開いてみると、北海道には産していないとある。ことによったら野生種であるヤマグワが北海道に分布していないのかなと思ったが、こちらの方は北海道どころかサハリンまで分布しているようである。そんな生き延びて健気なキボシカミキリと戯れていたら無常にも雨が強くなって瓜久保の家に非難し、カメラの液晶デイプレーを眺めていたら、「今日わ」と聞きなれた声がする。いったい誰だろうと思ったら、春以来久しぶりの鎌倉のMちゃんだ。その後、続々とご婦人達がやって来て、瓜久保の家に笑い声が充満した。
 しかし、雨は降る降る舞岡の里にという訳で一向に雨は止まない。しかし、いくらか小降りになったところで、傘を差して谷戸奥を目指した。途中、モンチッチを思わせる雨に濡れている可愛らしいニガキの葉痕等を見つけて、これからシーズンとなる冬芽と葉痕の話に花が咲く。なにしろこの分野が大好きで顔まで葉痕に似て来てしまった方が二人もいるのだから無理もない。最近、キノコも傘がないスッポンタケ、ツチグリ、カニノツメ等と言う腹菌類の方が面白くなって来たように、見慣れない変わったもの面白いものに興味を引かれるようになったのはどういう訳だろう。葉痕が大好きな同好のご婦人が、「葉痕が面白いので、昆虫が面白くなった」と言っていたが、昆虫が大好きな私は葉痕が面白くなり、キノコでは腹菌類が面白くなったと言う図式には、何らかの得体の知れない笑いが込み上げる命脈が感じられる。しかし、一方、美しい花、美しい蝶、美しい鳥と言う図式の果てに、タマゴタケ等の美しい傘を持つキノコという方向性も併せ持っているのだから、ただ単なるゲテモノ好きとも言い難い。まあ、生まれてこの方、間違った偏差値教育にどっぷり浸かり、社会に出ても様々な抑圧された精神状態を強いられたのだから、大声で面白いものは面白い、美しいものは美しいと素直に叫んで行きたいものである。今日は生憎の雨の中であったが、面白いものとしてはまだ残っていたカニノツメは勿論のこと、美しい雑木林には綺麗なツチグリがたくさんあった。これはキノコですよと教えてあげないと、誰が見ても植物の果実ないし種子と思うことだろう。先日紹介したスッポンタケの卵は私たちが卵を割るような不細工なひびが入るだけだが、ツチグリは丁寧にミカンの皮を剥いたようで美しい。私のHPにキノコのページとして「星のへや」を設けているが、他の星からやって来た不思議なものとしての意味合いがあるものの、このツチグリを想起して名付けたものであると言えばご理解されるに違いない。
 最後に今日最大の目的だったササクレヒトヨタケであるが、一昨日の同好のご婦人が見た時、昨日の鎌倉のNさんが見た時までは傘が開いていなかったが、今日は破れ番傘のように開いていた。まあ、一夜茸なんだから仕方がないであろう。鎌倉のNさんが以前発見した時と同じ場所にまた発生したのだから、その内に、私も洒落た洋傘をつぼめた状態のササクレヒトヨタケに遭遇することが出来るだろう。今日は不本意な雨、そしてシャッターを切ったのもほんの僅かで、右手人差し指は欲求不満のようだが、雨中に笑いありでとっても楽しかった。しかし、今年最後の瓜久保の家で弁当を食べる会の筈だったが、雨のためにこれでは除夜の鐘が聞けないと、12月に入ったらもう一度、今度は冬芽と葉痕を観察する会を設けなければならなくなった。こんな状況を神様はお察しになったのか、帰宅してこの観察記をパソコンにて書いていると、ブーンと羽音を響かせてマルカメムシがやって来た。このチビ君のマルカメムシだが、晩秋は冬眠先を探して飛び回り、洗濯物等に飛来してそのまま家の中にしまいこまれると、さあ大変。カメムシ独特の匂いを発散してなかなか匂いが取れなくなるという、主婦泣かせのお邪魔虫なのである。今日の観察記は写真不足なので喜び勇んで撮影し、舞岡公園にてのものではないもののここに紹介する事にした。もちろん、マルカメムシは感謝して屋外に無罪放免した事は言うまでもない。

<今日観察出来たもの>花/リンドウ、コシロノセンダングサ、ハキダメギク、ヒイラギ等。昆虫/キボシカミキリ(写真上左)、チョウセンカマキリの卵のう、自宅にやって来たマルカメムシ(写真下右)等。キノコ/ツチグリ(写真上右)、エリマキツチグリ、ササクレヒトヨタケ(写真下左)、ニガクリタケ、カニノツメ、アラゲキクラゲ、キクラゲ等。鳥/コサギ、アオジ等。その他/ガマズミの実、カマツカの実等。


11月17日、東京都中央区浜町公園

下記をクリックしてご覧下さい。

東京23区内道端自然観察館

<今日観察出来たもの>花/ツワブキ、イモカタバミ、イヌタデ、ノゲシ、カタバミ等。蝶/アゲハ、ウラナミシジミ、ヤマトシジミ、チャバネセセリ。昆虫/ハナアブ、アシブトハナアブ、シマハナアブ、ナミホシヒラタアブ等。その他/センリョウの実、ヤブランの実、アオギリの実、ベニバナシャリンバイの実、フエジョアの実、ハマナスの実、ハンカチノキ冬芽等。


11月16日、神奈川県鎌倉市鎌倉中央公園

 このところ順調に定期観察コースを巡回してしまったので行く所がなくなってしまった。また、一目でもササクレヒトヨタケにお目にかかりたいと初めて鎌倉中央公園へ行った。どうしてこんなにササクレヒトヨタケに固執するのかと言うと、尊敬する埼玉のAさんのHP「きのこ雑記」に、素晴らしいササクレヒトヨタケの写真が載っていて、そんな写真を撮りたいといつも思っていたのだ。それに鎌倉中央公園は、このHPの掲示板に度々ご投稿下さる同好のご婦人や鎌倉のNさん等のホームグランドでもあり、かねてから一度は行って見たいと思っていたのだ。そんな訳で今日は久しぶりに長靴をスニーカーに履き替え、電車に乗って出かけた。大船駅に行くには横浜駅からは横須賀線でも東海道線でもどちらでも良いのだが、なぜか緑とオレンジの東海道線に乗りたくなる。保土ヶ谷駅や新保土ヶ谷駅に止まらないから早く着く等と言う単純な理由からでは無い。東海道線の方が横須賀線よりロマンを感ずるのである。横須賀線は久里浜が終点でその先に鉄路は続いていないが、東海道線はその気になって乗り継いで行くと、なんと西鹿児島まで行けるのである。こんな事を思うのは私だけかも知れないが、いつか鈍行に乗って西鹿児島まで一人旅に出たいと思っているのである。いつも東海道線に乗ると最後尾の車両に席をとる。なんと16両編成だから、カーブに差し掛かると最後尾の車両なら先頭車両から中ほどの車両まで見えてとても楽しくなるのだ。地方へ行くと2両前後の編成だから、日本の大動脈たる東海道線には敬意を表してしまう。なんと言っても日本の鉄路の代表は東海道線なのである。それに今日はもう一つ楽しみがあった。それは大船駅で大船軒の鯵の押し寿司を買って食べることである。最近では鎌倉や他の東海道線の駅でも販売されているようだが、大船で買ってこその鯵の押し寿司なのである。大船に近づくと右手の丘に観音様が見えて来る。別段歴史があるものではなかろうが、観音様を見ないと大船に来たと言う思いになれないのだから不思議である。
 鎌倉中央公園に着くと駐車場脇の道を下って行って、まずは右手に曲がった。曲がるとすぐにチャンチンとサワグルミの大木がお出迎えしてくれた。どちらの葉痕も甲乙つけがたい愛らしいもので、鎌倉宇宙人集団に先んじて、この場で撮影してこのHPで紹介するのも気が引けたが、余りにも可愛らしいサワグルミの葉痕があったのでシャッターを切った。この葉痕は今年一杯“とおるちゃん”と呼ばれて、とてもご婦人達に可愛がれるに違いない。更に散策路を進むと、ここが鎌倉なのかと疑うくらいの静寂に包まれる。このような静寂は多摩丘陵や舞岡公園では存在せず、照葉樹林がメーンの鎌倉ならではの静けさなのだろう。モミジの葉もようやく色づき始め、その散った葉が幹と枝の二股の部分に引っかかっていてとても風情がある。更に登って行くと、どうやらここら辺で鎌倉のNさんがササクレヒトヨタケを見つけたに違いないと思われる場所に至った。そこでかなり執拗に探してみたのだけれど生えていなかった。またしても「やっぱり11月も半ばになると撮るものが少なくなったな」等とぼやきながら、今年まだ撮影していなかったヨウシュヤマゴボウの実を見つけたので撮影した。ヨウシュヤマゴボウの花は夏に咲くが、これが意外と可愛らしい花で、花の時期に既に花の中央に実がついている様に感じられる花なのである。ヨウシュヤマゴボウはその名にヤマゴボウとつくのだから、きっとその根はゴボウに似ているのではないかと思い図鑑を開いてみると、確かにそうであると書かれているが有毒であるとある。しかし、その実の汁は色水遊びや染物遊びに使われらしい。引き続いて散策路を歩いて行くと下りに入って、じめじめとした照葉樹林地帯ならではの日陰の斜面にアシボソノボリリュウタケが見られ、更に下ると頭を垂れたスッポンタケが二本生えていた。その後、多摩丘陵に慣れ親しんだ者にとっては、なんだかマムシが出そうで気が抜けない道は今日はスニーカーだからことに敬遠して、晩秋の陽が降り注ぐ日溜りへ行った。
 この時期何処でも日溜りは野の花と昆虫たちの憩いの場である。花ではことにノコンギクやコシロノセンダングサが咲き誇り、ヨメナはひときわ青紫で瑞々しいがぽつりと寂しげに咲いている。蝶ではモンキチョウ、モンシロチョウ、キチョウ、キタテハ、ウラナミシジミ、ヤマトシジミ、チャバネセセリと、里山の晩秋の普通種がお出ましになった。ことにウラナミシジミは活発にテリトリーを草むらに張って、ヤマトシジミが近づいて来ると猛烈な勢いで追い出しにかかっていた。トンボの仲間は少なくなったがアキアカネが複数見られ、路傍に置かれたものや稲乾しが終わってもそのままになっているモウソウチクの横木に止まっていた。甲虫ではキノコを探しているのかそれとも動物の糞を探しているのか、黒紫の金属光沢を持つセンチコガネが地面すれすれを低空飛行で飛び回っていた。ナナホシテントウも元気で、僅かに残ったワタの緑の葉裏につくアブラムシの仲間を食べていたり、のんびりと日溜りにある切り株で昼寝をしていた。また、久々にキイロテントウにも遭遇した。この時期、何処へ行ってもお目にかかれるが余り美しいとは言えず、どちらかと言うと奇怪なヨコズナサシガメの幼虫が、ヤマグワの古木でスローモーに動いている。これから寒くなると気味が悪くなる程多数の個体が集まって、集団で体温を高めあって越冬するのだ。以上、探し回って数多くの種類の昆虫達に巡りあったのだが、なんと言っても特筆ものは、ヤマトフキバッタであろう。別段、珍稀種ではないものの今年は出会う事が少なかったバッタである。写真を見れば分かるように羽が退化していて、ほんのおしるし程度にしか着いていないのだ。このため移動能力はないから日本各地で地域ごとに進化していて、学者によっては覚えきれない程の種類に分けている。
 今日の公園内はワンちゃんの散歩や子供づれのママさんたちは勿論のこと、絵を描いているグループ等にも出合った。また、休憩舎前の広場で敷きものの上で、なにやら多数の方々が寄り集まって手仕事をしていた。なにをやっているのだろうかと近づいて見ると綿をつむいでいるのである。綿の畑があったからそこで収穫したものからつむいでいるのだろう。今はどのように機械化されているのかは分からないが、手作業による木綿糸作りは気の遠くなる程の根気が必用になるようだ。現在衣料品はこんな値段で本当に良いのと信じられない程の低価格で売られているが、このような手作業による時代は糸や布はとんでもなく貴重で大切なものであったに違いない。最後に大きな池の近くにある休憩舎に寄ったが、生垣としてしつらえてあるナワシログミが咲き、鎌倉に最も似合う晩秋の花、ツワブキが至る所に咲いていた。また、植え込みの日溜りではオオアオイトトンボがテリトリーを張り、美しいジョウビタキの雄もここが僕の冬越しの場と決めたようで、植栽された樹木の枝から枝えと渡り歩いていた。今日は目的のササクレヒトヨタケには出会えず、また、夏に比べれば見るもの撮るものが少ない鎌倉中央公園だったが、今度はジンガサハムシの飛ぶ初夏から夏に、もう一度訪れてみようと心に決めて、早くも傾き始めた太陽に見送られて帰路に着いた。

<今日観察出来たもの>花/ノコンギク、ヨメナ、ヤマハッカ、イヌタデ、コシロノセンダングサ、ハキダメギク、ツワブキ等。蝶/モンキチョウ、モンシロチョウ、キチョウ、キタテハ、ウラナミシジミ、ヤマトシジミ、チャバネセセリ等。昆虫/センチコガネ、ナナホシテントウ、キイロテントウ、クサギカメムシ、アカスジキンカメムシの幼虫、ヨコヅナサシガメの幼虫、アキアカネ、オオアオイトトンボ、ツチイナゴ、ハネナガイナゴ、ヤマトフキバッタ(写真下右)等。キノコ/ニガクリタケ、スッポンタケ、アシボソノボリリュウタケ、スエヒロタケ、アラゲキクラゲ等。その他/ヨウシュヤマゴボウの実(写真下左)、モミジの紅葉(写真上右)、サワグルミの葉痕(写真上左)、ジョウビタキ等。


11月14日、東京都町田市野津田公園〜小山田緑地

 昨日メールで「鎌倉中央公園にササクレヒトヨタケ、スッポンタケが爆生」と知らせてもらったお陰で、夜もうなされてぐっすり眠れなかったが、鎌倉は日曜日には交通渋滞の名所だから行く訳にもいかない。そこで一番その両種がありそうなのは野津田公園と小山田緑地と考え期待して出かけた。昨日帰宅して新聞を読むと、未明に風速17bの木枯らし第一号が吹いたと書かれていた。道理で昨日の午前中は風が強かった訳である。今日はどんよりと雲って気温はかなり低い。風邪が治りかけているので昨日よりだいぶ厚着をして出かけた。野津田公園に着くとまずは実を撮っておこうと植栽されているサンシュユを見に行った。前回来た時はまだ葉がほとんど落ちていなかったが、今日はいくらか散って、少ないながらも真っ赤な実を撮影出来た。どうやらサンシュユにもなり年と不作の年があるようである。次にはササクレヒトヨタケが生えていそうなバラの広場へ向かった。出来うることならバラもと欲張ったのだが、両方ともあぶれてしまった。次に湿生植物園にヤナギの木がたくさんある事を思い出して、エノキタケは生えていないかと行ってみたが、池にカルガモがたくさん見られる位で何もなかった。引き続いてどんよりと曇っているし、これでは昆虫もお出ましにならないから、なんでも撮らないと大変な事になると思い、雑木林にたくさん生えていたクロモジの芽と蕾を撮影した。形の良いものはないかといろいろな株を見て歩いたら、蕾のついているものとついていないものがある事を発見した。そこで帰宅して図鑑を開いてみると、予想していた通り雌雄別株である事が判明した。クロモジを撮影したので今度はアブラチャンだと行ってみたのだが、こちらはクロモジよりかなり芽も蕾も小さいことが分かった。それでは匂いはどうかなと「御免ね」ともちろん声をかけて小枝を折って嗅いでみると、ほとんどクロモジと変わらない匂いがする。やっぱり同属なんだと納得が行く。
 しかし、木枯らしが吹いたとは言えまだ晩秋、冬芽や蕾を紹介するには早すぎる等とぼやきながら散策路を歩いていると、黄色く色づいたヤマグワの葉にセスジツユムシの雌が止まっている。太陽が出ていないのだから日光浴とは言い難いが、いくらか草むらより気持ちが良いのだろう。セスジツユムシの雌は、つい先日このHPの掲示板に度々ご投稿下さる“あるふぉんすさん”が植物園で撮影したと送って来てくれた事を思い出して慎重に撮影する。今日は昆虫は無理と思っていたので思わず笑みがこぼれる。次にやはりササクレヒトヨタケと、上の原広場のススキの原に行ってみるが、咲き残ったナンバンギセルが見られた位でなにもない。やはりササクレヒトヨタケは鎌倉へ行かなくては無理なのかなと考え、散策路をさらに登って行くと、右手下の窪みで多くの方々が畑を耕している。子供達も混じっているからボランティア活動かなと更に近づいてみると、こちらに向かって手を振っているご婦人が二人もいる。誰かなと更に近づいてみると、野津田公園雑木林の会のKさん達である。「良い畑だね。ここならジャガイモでも大根でも、なんでもたくさん取れるね」と言うと、「小麦の種を播いているのよ、お暇なら手伝って」と勧められたのだが、農作業の大変さは先日の自宅の草むしり、ボランティアをしている茅ヶ崎公園生態園で経験済みであるし、おまけに風邪気味なのでやんわりとお断りをする。そんな訳でこれ以上いたら作業の邪魔だと挨拶して更に進むと、ベニバナボロギクの一叢に出合った。私のようにとても内気でいつも頭を垂れて咲いている。南アフリカ原産で戦後西日本に侵入し、関東地方で見られるようになったのは1960年頃からだと図鑑にはある。伐採跡地や山火事跡地にいち早く侵入して来るパイオニア植物でもあるらしい。ベニバナボロギクはとっても絵にしにくい野の花なのだが、背景にヤマグワの黄葉を入れて晩秋に咲く花らしく撮ってみた。
 これで今日も何とかなると急に顔をほころばせると、今度はアカメガシワの先端でオジロアシナガゾウムシを発見した。とても発生期の長いゾウムシで、かなり寒くなるまで観察できる事は分かっていたが、11月半ばにもなって見つけたのだから嬉しくなった。じっくり観察していると葉の落ちたまだ青い葉痕に、長い口吻を差し込んでなにやら食べているようである。今まで何べんも書いて来たと思うが、ゾウムシは驚かすと地面にぽとりと落ちる習性の持ち主だから慎重に撮影したが、どうやらこの寒さでその感覚も鈍くなったのか、かなりしつこくしても地面になかなか落ちなかった。それでも三脚の脚が幹に当たった瞬間、ぽとりと地面に落ちて、ゾウムシ君ならではの習性を忘れてはいなかったようである。野津田公園では目的のものは観察できなかったが、それでもかなりの成果に満足して、午後からは小山田緑地へ行った。小山田の谷のクヌギ林の下の散策路はたくさんのクヌギの葉で埋まっていて、歩くとがさがさ音がする。向こうからやって来た熟年グループの方が、「落ち葉を踏んでのこの音はまことに良いね」等と話し合っていたが、本当にそうである。やっぱり木枯らし第一号が吹いたのだと納得する。どうしてだか分からないが、池の近くのアジサイの葉だけは瑞々しい程に緑が濃い。こんな葉に何かいたら最高なんだがなと目を光らせるとアオマツムシの雌を発見した。今年はアオマツムシが樹上で歌いだす頃、台風が何べんもやって来て、そのためもあってか今までなかなか会えなかった昆虫である。長い触角は無傷でぴんと伸ばしてお行儀良く止まっている。雑木林の木々は葉を落とし始めているのだから、このアジサイに目をつけたのだろう。今日はこんな陽気だから昆虫は駄目だと思っていたのだが、アオマツムシにまで会えたのだから本当にラッキーである。だから、雨さえ降らなければフィールドへと言う私の習性もきっとご理解いただける事だろう。
 さてと後はキノコのみと勇んではみたものの、結果としてはササクレヒトヨタケは発見できなかったが、モウソウチクの竹林でスッポンタケの爆生に遭遇した。今年に入って小野路町の万松寺谷戸でスッポンタケを沢山撮影したが、みんなスマートなものばかりで、「俺がスッポンだ」と威風堂々たるものにはお目にかかれなかったが、オロナインH軟膏の壜、ヤクルトの小瓶程の太さの立派なスッポンタケが爆生していた。もちろん夢中になって様々な角度から撮影したことは言うまでも無いが、卵から顔を出したばかりのものを撮影したくてかなり広範囲に探索した。ほとんどのキノコは卵から生まれるのだが、スッポンタケの卵はダチョウの卵大と形容しても良い程の大きさなのである。立派なスッポンタケが爆生していたばかりでなく、竹林の地面にはこのダチョウの卵大の卵がゴロゴロしているのである。しかしながら、そこから殻を破って顔を出したものとなるとなかなか見当たらない。ことによったら真夜中とか朝早くに卵は割れるのかなと思ったが、ようやく卵からほんのちょっと顔を出したものを発見した。私たちが卵を割る時にたたいてひびを入れるが、そのようなひびが入っていて顔を出しているのである。きっと卵が割れる時には何らかの音がしたのでは無いかと想像すると笑いが込み上げて来た。ビデオカメラでスッポンタケの誕生と生長を長時間にわたって撮影したら、さぞかし楽しいことだろう。しかし、どの卵がいつ割れるのかなんて予測がつかないのだから、かなり難儀な事かもしれない。以上、今日はほとんど駄目だと思ったにも関わらず、結果としては成果大で、空は相変わらずどんよりとしていたが心は秋晴れの一日となって終了した。

<今日観察出来たもの>花/リンドウ、ナンバンギセル、ベニバナボロギク(写真上左)、ノハラアザミ、リュウノウギク、ノコンギク、シロヨメナ、ヤクシソウ等。蝶/ベニシジミ、ヤマトシジミ等。昆虫/セスジツユムシ、アオマツムシ(写真下左)、オジロアシナガゾウムシ(写真下右)、コバネイナゴ等。キノコ/スッポンタケ、ムラサキシメジ、オオイチョウタケ等。その他/サンシュユの実(写真上右)等。


11月13日、横浜市緑区新治市民の森〜横浜キノコの森

 今日はいくらか風邪が快方に向かっているような気配ので、なるべくアップダウンの無いフィールドへと言うことで、新治市民の森と横浜キノコの森へ出かけた。とは言っても、遅番でしかも早退という重役出勤並みである事には変わりない。いつもの所に車を停めると新治市民の森へいきなりは行かずに、三保町のツルウメモドキにつくキバラヘリカメムシはどうしただろうかと見に行った。ツルウメモドキはほとんど葉が落ちていて、実だけが晩秋の陽に眩しく輝いている。こんな状況ではキバラヘリカメムシはもういないかなと思ったのだが、まだ幼虫も含めて複数観察出来た。とは言っても例年の賑やかさに比べるとやはり少ないようである。前回(10月28日)はキバラヘリカメムシの幼虫を紹介したので、今日は成虫を撮影して紹介することとした。これでまずは少なくなった昆虫の写真を手に入れると、引き返して新治市民の森を目指した。途中、コシロノセンダングサが咲いている。コセンダングサの花に白い花弁がついているものをコシロノセンダングサと解釈していたのだが、見回すと同じ株でもこの白い花弁がついていないもの、すなわちコセンダングサと同じ花も混じっている。これはおかしいなと帰宅して図鑑を開いてみると、コシロノセンダングサはコセンダングサの変種であると解説されている。と言う事は同種内の変異と解釈出来る訳だから、なんとなく納得は行かないものの、同じ株に2種類の花型があっても良いのだろう。
 新治市民の森は久しぶりである。しかし、時間もないし体調もすぐれないので丘を越えて一周する気は始めから無く、ハンノキ林の傍らにツチグリは生えていないか、エノキタケは生えていないかと見に行ったものの、まだ発生していない事が分かるとすぐに引き返した。私にとって新治市民の森で一番楽しい所は、鎌立谷戸入口左手の雑木林や栗林や丘の上の畑である。以前にも書いたと思うが、ここはメインの散策路から外れているので誰も来ないし、野の花や虫がたくさんいるのである。今日はまず路傍に刈り取られてたくさん積んであったウコンの葉上に注目した。そこには晩秋の陽がさんさんと降り注ぎ、そこだけがとっても暖かい憩いの場のようになっていたので、必ずなにかしらの昆虫がいるのではないかと目を光らせたと言う訳である。まず目に付いたのは褐色のコカマキリである。前足を一本だけウコンの葉にちょこんとつけいるので、片方の足はなくなっているのかなと思って調べてみたが、もう一本もちゃんとあるので安心した。この観察記には、ヘビ、ゴキブリ、ナメクジ、カマキリは登場させないと言う、心優しきご婦人に配慮をしているのだが、なんにも撮影できない時のために様々な角度から撮影した。もっとも同好のご婦人たちの中には類稀なる方々も増えているようだから、そんな配慮は必要ないのかもしれない。この他、ツヤマルシラホシカメムシやシロヘリクチブトカメムシ等も日向ぼっこをしていた。
 今日、新治市民の森で一番楽しかったのはトキリマメ(?)の実である。丁寧にも疑問符をつけたのは、浅学のため良く似たタンキリマメと区別がつかないからである。図鑑を開くとタンキリマメは関東地方以西で葉が厚ぼったく毛深いとあり、トキリマメは宮城県以西で葉が薄く毛深く無いとある。こう言う区別点から新治市民の森にあるのはトキリマメとしているのである。そのトキリマメだが秋早くはまだ葉がついていて、その存在がなかなか分からないのだが、晩秋になると葉が落ちてしかも実がご覧のようになるので発見しやすくなる。普通、マメの仲間は鞘が弾けるとその勢いで中の種子が遠くに飛ばされて子孫を残すという種子の散布方式をとっているものが多いが、このトキリマメは「嫌だよ、ここが一番居心地が良いんだよ」とだだをこねて鞘にいつまでもくっついているのだ。また、その鞘の色が朱色で種子の色が黒だから、そのコントラストはとても目立ち、黒光りする種子は晩秋の陽を反射するからますます目立つと言う訳なのである。また、このトキリマメの鞘及び実は整然と幾何学的についているのではなく、「あっち向いてほい、こっち向いてほい」と自由気ままについているかのようなのだ。そんな姿はとても絵になって、まるで抽象画の世界をカメラで切り取っているかのようで写欲がおおいに湧いて来る。そんな訳で風邪気味なんてどちら様のことかと言わんばかりに、様々なアングルからシャガールのような気分になってアートして楽しんだと言う訳なのである。トキリマメは今が旬、この観察記を読んだ方々は、にわか抽象画家になったつもりで、大いに作画して楽しんでもらいたいものである。
 遅く家を出て来たからあっと言う間に昼食の時間になった。ここへ来ると必ずコンビニではなく近くのコマツストアーへ行って弁当を購入する。コンビニさんには申し訳ないが、何処へ行ってもスーパーのお弁当の方が作りたての物が多くて美味しいのである。そんな訳で何故か食欲だけは旺盛で、たらふく食べると横浜キノコの森へ行った。もうこの時期にはいくらキノコの宝庫と言っても何もないだろうと思ったが、毎度御馴染みの定期巡回コースなのだから致し方ない。第一キノコの森へ入って行くと、しなびたニガクリタケがヒノキの切り株に見られた位で、去年と同じようにクロコノマの森に変貌していた。数メートル歩くと黒い紙切れがひらひらと舞う。また数メートル歩くと別の紙切れが舞う。みんなクロコノマチョウである。クロコノマチョウは写真のように羽を閉じていると、いつかも書いたと思うが枯葉のようである。しかも、ほとんどが地面の落ち葉の上に止まって良い写真が撮れないのである。クヌギの樹液がまだ出ていると吸汁に来ているので探してみたものの、樹液はすっかり涸れ果てていた。そんな訳で一番おとなしい止まり癖のあるクロコノマチョウを見つけると、まるでストーカーのように執拗に追い回して、なんとか絵になる場所に止まると抜き足差し足忍び足で近づいて撮影した。なにしろクロコノマチョウは雑木林の周りの明るい草原には決して飛んでいかないのだから、ご覧のような写真しか撮れないと言う訳なのである。
 第一キノコの森がキノコに関してはこの惨状なのだから、本命場所たる第二キノコの森も期待できないなと思って行ってみると、ムジナタケ、ツチヒラタケが生えているくらいで寂しい限りである。両者とも以前にこのつれづれ観察記で紹介しているので、何か他のものはないかなと探したのだけれど皆無であった。今日はノーキノコデーになるなと思ったが、帰り際に太いシラカシの幹からコフキサルノコシカケ(?)が生えていたので撮影した。これだって列記としたキノコなのである。最近、癌に効くと注目を集めているのだがどんなもんなのだろう。これで今日の道端自然観察は早々終了にしようと帰路につくと、無粋にも携帯メールが届いた。なんだろう土曜日なのにメールとは、きっと迷惑メールだろうと開いてみると、「鎌倉中央公園にササクレヒトヨタケ、スッポンタケが爆生」とある。これを見て明日はゆっくり自宅静養とも思っていたのだが、またしても自然探索に行かないとどうも落ち着かなくなる気配が漂って来た。「まぁ良いかな、早く帰って熟睡すれば、明日は大丈夫だろう。これ以上悪化したらこのメールのせいだ」と一人ごちて車に乗った。

<今日観察出来たもの>花/リュウノウギク、シロヨメナ、ヤクシソウ、ノハラアザミ、コシロノセンダングサ、ハキダメギク、ツワブキ等。蝶/クロコノマチョウ(写真下左)、ツマグロヒョウモン、キタテハ、ヒメアカタテハ、ヤマトシジミ、ウラナミシジミ、イチモンジセセリ等。昆虫/キバラヘリカメムシ(写真下右)、コカマキリ、ツヤマルシラホシカメムシ、シロヘリクチブトカメムシ、アキアカネ、ナツアカネ、ツチイナゴ、コバネイナゴ、ハナアブ等。キノコ/ニガクリタケ、コフキサルノコシカケ(写真上右)、ムジナタケ、ツチヒラタケ等。その他/トキリマメの実(写真上左)、ツタの紅葉等。


11月12日、横浜市緑区長津田町

 実は昨日、道端自然観察に出かけるつもりでいたのだが、天気予報では昨日が雨で今日が曇りであったのだが、昨日の午後になって逆転してしまった。また、治ったはずの風邪がぶり返して来たので、昨日は身体がだるくてフィールドへ行く気がしないので仕事に出かけた。私のHPを見て東京23区内道端自然観察館なるコーナーをあるミニコミ紙の社員が企画したのである。まあ、その企画がミニコミ紙の上層部の承認が出るかどうかは分からぬものの、呼ばれたので行って来たという訳である。また風邪の方だが、このHPの掲示板に度々ご投稿下さる山口県の花なばさんが激励してくれたにもかかわらず、またしても煙草を吸い始めてしまった事と、治ったと思ったので家の周りの仕事に精を出してしまった事にも起因しているようだ。狭いながらも夏の間に伸び放題になった雑草を刈るのは一仕事であるし、おまけに生長して手のつけられなくなったヤマグワとコムラサキとモチノキの木を伐採したのだ。隣との境に野鳥が運んで来たのか、いい按配にヤマグワとコムラサキとモチノキが芽生えたので、目隠しになるだろうとそのままにしておいたのが運のつき、手がつけられない程に生長してしまったのである。樹木は始めちょろちょろ中ばっぱと生長することを実感を持って確認した。これからは徳川家康のように、災いの芽は小さい内に刈り取っておくという事にしよう。
 そんな訳で道端自然観察は今日に持ち越されたのだが、起きてみると無常にも雨。しかも、喉も肩も相変わらずとても痛い。今日出かけないとこのつれづれ観察記の間隔が空いてしまうとも思ったが、雨では仕方がない。なにしろこの観察記の間隔があくと、身体がむずむずして来て落ち着かない方もいるらしいので責任重大である。まあ、風邪気味だし良い休養かなと布団に潜り込んで一寝入りして起きると、なんと雨は止んでいる。そこで午後のほんの一時だか長津田町へ出かけた。雨がまた降って来てもすぐに車に逃げ込める場所と言ったら、ここ位しか無いのである。まず最初に国道246号線の森へ行った。雨は降っていないものの空はどんよりとしている。こんな時はISO感度を高くしているデジタル一眼レフに、タムロン90oマクロレンズ一本での散策しかない。これならとても軽いから風邪の悪化は避けられよう。そんな言い訳をして散策を開始すると、まず目に入って来たのはカクレミノである。どうしてカクレミノなる名前がついたのだろうかと不思議に思って図鑑を開いてみると、着ると身を隠すことが出来る蓑に葉が似ているからと書いてある。やはり予想していたが如くである。これからも動植物の名の言われはすぐに図鑑等を開かないで、推測してからの方が楽しそうだ。そのカクレミノに実が付いていないかと探したら、お皿の無いシラカシのドングリのような実が付いていた。
 カクレミノの実をああでもないこうでもないとやりながら撮影していて、ふとクサギの葉上に目を向けると、私の鋭い視線を感じてか、なにやら葉の裏に隠れた昆虫がいる。カクレミノならぬクサギカクレという訳である。いったいなんだろうなと下から覗いて見ると、ツマグロオオヨコバイである。昆虫の多い季節なら「なんだよ、ツマグロオオヨコバイか」と気乗りのしない言葉を発する筈なのだが、晩秋でこんな曇り日であると、「ようこそお見えになりました」と恵比須顔になるのだからいい加減な人間である。ヨコバイはセミの仲間で、横に這うのが得意だからヨコバイとなった訳で、ツマグロオオヨコバイは、羽の端が黒い大きなヨコバイという訳である。「葉の下では撮影できないから、葉の上に戻ってね」と指先をそっと近づけると、くるりと言う感じで葉の上に戻ってくれた。これが気温の高い日だと飛び立ったり、戻ってもまた葉裏へ逃げたりとなかなか撮影させてくれないのだが、晩秋になるとじっしていてくれるから有り難い。これで昆虫も撮れたしと雑木林の傍らの南斜面にある畑へ行ってみると、キクの花が盛りで南国の花であるランタナも咲いていた。また、畑の下の方を見ると、ミカン、キンカン、ユズ、ナツミカンと柑橘類が全て植えられている。そこでなかなか撮影が難しいキンカンに狙いを定めた。キンカンは正月過ぎまで残っていて色づきの遅い柑橘類だが、もうすっかり美味しそうに色づいている。前述した何故キンカンの撮影が難しいのかと言うと、実が色づいた時には葉も黄ばみ始めていて、また冬の乾燥で実にも葉にも土ぼこりがついているので、なかなか美しく撮れないのである。しかし、今日は雨上がりで晩秋、背景に気を配りながら何回もシャッターを切った。雑木林の小道に入って行くと、ただ暗いだけで被写体はなにもありそうも無い。何かキノコでもと目を光らせたら、キブシの枯れた幹から小さなアラゲキクラゲがたくさん生えていた。この仲間、キクラゲ、タマキクラゲ、シロキクラゲ等は、みんな雨上がりの日の方が生き生きと充実していて撮影のチャンスなのである。この他、国道246号線の森やその周辺では、ガマズミの実やムラサキシキブの実を撮影したものの、これと言ったものは見当たらないので、空がますます暗くなって来たが、東名高速の森へ少しだけ寄って見る事にした。
 東名高速の森は鬱蒼としているから、雑木林の中に入ると、まだ午後3時だと言うのに本当に暗い。ツタウルシの紅葉やエノキの黄葉が美しかったが、これらはこの次として谷戸へ降りて行くと、何故かヤナギの木がたくさん植栽されている畑がある。このHPの掲示板に度々ご投稿下さる多摩市の森のきのこさんがエノキタケは柳に生えると言っていたので、もしかしたら生えているかもしれないと調べてみると、切り株からエノキタケが生えていた。しかし、食べるのには良いかも知れないが、写真には余りにも重なり合ってぎゅうぎゅうに生えていて絵にならない。他にはないかなと探してみたが、今度は壜詰めのもやしのような栽培エノキタケのような幼菌ばかりだ。エノキタケもこの次のチャンスにとっておいてと散策を続行すると、シオデの黒々とした実を発見した。何処にでもありそうだが意外とお目にかかれず、またあったとしても絵になるように撮影できない多年性の蔓植物である。一つ一つの実は真っ黒だが、全体はサルトリイバラの実に似ている。そこで図鑑を開いてみると、同じユリ科のシオデ属である事が分かった。ただ、シオデは草、サルトリイバラは樹木として区別され、この他、樹木としてのシオデ属にはヒメカカラ、サルマメ、ヤマガシュウ等の馴染みの薄いものがある事が分かった。春に行った新潟県ではシオデを春に山菜として食しているが、いったいどんな味がするのだろう。以上、ほぼ2時間程の短時間の散策だったが充実した成果となり、これで風邪さえ治ってくれたら最高なのだがと一人ごちて、散策は無事終了となった。

<今日観察出来たもの>花/ノハラアザミ、リュウノウギク、シロヨメナ、ハキダメギク、イヌタデ、サザンカ等。蝶/モンシロチョウ等。昆虫/ツマグロオオヨコバイ(写真下左)、ヒシバッタ等。キノコ/アラゲキクラゲ(写真下右)、エノキタケ、ナラタケ等。その他/シオデの実(写真上右)、ガマズミの実、カクレミノの実、ムラサキシキブの実、シロダモの実、キンカンの実(写真上左)等。


11月9日、東京都町田市小野路町・図師町

 昨日は曇り今日は晴れ、今度晴れたら久しぶりに図師町の五反田谷戸へ行こうと考えていた。そこで今日は五反田谷戸へ直行とも思ったのだが、一昨日観察したスッポンタケがちょうど撮影しごろの長さに生長しているのではないか、また、ムラサキシメジを色が良く出るポジフイルムで撮影しておこうと思い、万松寺谷戸に車を停めて、先にこれらのキノコ観察から一日を開始した。しかし、スッポンタケの生長はとても早く、昨日が曇りだったにもかかわらず、すっかり伸び切って頭を垂れていた。面白い事にその垂れ下がった頭近くにベッコウバエが鎮座していた。ベッコウバエは樹液や汚物に集まるのが見られるが、どうやらねとねとしたグレバも好きなようである。これは残念と落胆したが、他所にすっと伸びたスッポンタケを発見して撮影した。しかし、スッポンタケはすっと伸びた形の良いものは風情に欠ける。なにしろその名がスッポンなんだから、私のような猫背でへそ曲がりのような格好の方が風情があるのである。もっとも今まで私は、スッポンの花虫さん等との有り難くないあだ名は頂いた事はないが、こうと決めたらかなりしつこい性格なので、そう言う意味合いではスッポンに似ているのかもしれない。良い写真を撮ろうと思ったら、このスッポンのようなくらいついたら絶対に離さないという性格はとても大切だと思う。ところでムラサキシメジの方だが、一昨日とほとんど同じ格好をしていて、それ程生長したとは思えないまま生えていた。カメラには薄紫色を素晴らしい発色で写し留めるベルビアを詰めて来たから安心してシャッターを切ったが、なにしろISO感度が低いから超スローシャッターになったのは言うまでも無い。
 これらのキノコの観察がすむと足早に一直線に五反田谷戸を目指したが、途中、センリョウでもマンリョウでもヤブコウジでもない赤い実を発見した。葉が細長くてつやつやしている。帰宅して図鑑を開いてみるとカラタチバナであることが分かった。ちなみに同じような葉で乳白色の実がなるのはイズセンリョウとある。五反田谷戸へ行く途中は、この他にはこれと言ったものはなかった。しかし、五反田谷戸へ降りれば見るもの撮るもの一杯と期待していたのだが、これがこれが久しぶりに見るもの撮るものの無い谷戸へと変貌していた。ここでは盗掘が心配で種名をあげられない晩秋の花々も、年を追うごとにとても少なくなっていて、過去の賑やかさが嘘のようである。どうやらこの谷戸も多くの方々に知れ渡って俗化が激しいようだ。しかし、ノハラアザミやコウヤボウキが咲き残っていて、このつれづれ観察記に紹介していなかったので素直に切り取った。今日は期待外れの五反田谷戸だったが、そうは言っても穏やかな晴れの日に小高くなった芝地で食事をする長閑さは捨てがたい。食事がすんだところで団体さんがやって来て長閑さが破られたので、尾根一つ越えた神明谷戸へ行った。途中、竹林脇の崖地になにやら図鑑で見覚えのある格好をしたものが目にとまった。近づいて見るとハナサナギタケと言う名の冬虫夏草である。主にガの蛹に寄生すると言われている。地面に顔を出したものを素直に撮影すると、本当に蛹から生えているのだろうかと掘ってみると、白い粉状のカビがついたガの蛹が出て来た。どうみても掘り出したものの方が冬虫夏草らしいので、ハリギリの葉に乗せて撮影した事は言うまでも無い。
 神明谷戸は人っ子一人いなくてとても静である。稲もまだ乾されていてとても風情を感じる。路傍を見ると陽が当たっていない場所のノコンギクの花に露が降りている。このHPの掲示板でとても親切に色々な事を教えてくれる一人静さんが、ノコンギクの小花の写真を送って来てくれたので、久しぶりに花を手にとって小花を観察してみると、細長い冠毛が確認出来た。おなじような花に見えるヨメナは、この冠毛が無いのである。尾根に登ってみるとツタやヌルデの紅葉が見事である。また、多摩丘陵で初めて美しいマムシグサの実を見つけて感激する。長野県へ行けば普通に見られるのだが、多摩丘陵ではこの独特の実とたたずまいが今まで見られなかったのである。その他、ヤブコウジ、ムラサキシキブ、カマツカの実を見つけて撮影する。また、冬芽の両側に対称となる格好で真ん丸の蕾をつけているとても面白い常緑の樹木を見つけたので、一枝折って今日も同行していただいた“ほしみすじさん”こと新百合ヶ丘のAさんに見せようとしたら、折った瞬間にとても良い匂いが漂って来た。「この木はクロモジですよね。以前、誰かがそう言っていたと思うんですが」と聞くと、「クロモジですね」と言う。「とても良い匂いがしますね」と折った部分を差し出すと、さすが化学に強いAさんらしく横文字の成分名を教えて頂いたが、馬耳東風で思い出せない。「クロモジは良い匂いがするのでつま楊枝にするんですよ、それから同属のシロモジ、アオモジ等、みんな匂いが異なって匂いで見分けられるんです」とおっしゃる。そこで家に帰って図鑑を開いてみると、あるわあるわクロモジの仲間がたくさんある。○○クロモジとクロモジがつくものだけでも10種類、クロモジ属になるとダンコウバイ、アブラチャン、ヤマコウバシ、シロモジ、カナクギノキ、アオモジと言った按配である。この中でアブラチャンとヤマコウバシは小野路町でも見られるから、今度見つけたら「御免ね」と声を掛けてから小枝を折って匂いを嗅いでみよう。なんだかこの仲間がとても面白くなったが、この分野は樹木好きな方に大いに頑張ってもらって教えてもらうこととしょう。
 今日の神明谷戸は不作だった五反田谷戸を補って余り過ぎる程であった。このため白山谷戸にも寄ってみたかったが時間が無くて断念した。野の花や風景こそ五反田谷戸には負けるものの、両谷戸ともこれからもっとじっくりと探索せねばならないと感じ入った。ほしみすじさんと一緒に尾根に上がったが、キノコ山はもうキノコは終わったと寄らずに、この季節、クヌギの幹の割れ目に産卵するクヌギカメムシを探してみたが見つからなかった。今年は何べんも台風がやって来たので、クヌギやコナラの樹上で生活するものにとっては難儀の多い年であったことだろう。そう言えばトビナナフシもまだ多摩丘陵では観察していない。帰り道、ヒラタケやナラタケを観察して、ようやく終了間近にシロヨメナを見つけたので、これも小花を調べてみた。筒状花も舌状花もそして冠毛もとても白い。ヨメナとつくのに冠毛があるのが不思議であったので、図鑑を開いてみると、西日本に自生するイナカギクの仲間で、また、イナカギクはノコンギクの変種ないしは亜種とある。先日、茅ヶ崎公園生態園で植物に詳しいKさんが、「シロヨメナとノコンギクのあいの子があって困っているんですよ」と言っていたが、図鑑を見る限りではノコンギク、イナカギク、シロヨメナは別種とは言い難いようだから、これらのあいの子が出来てもおかしくないように思えて来た。しかし、私はウィークエンド・ナチュラリスト、関東にはイナカギクは無いのだから、白い花で冠毛があるのはシロヨメナ、花が薄赤紫で冠毛があるのはノコンギクと覚えておけば良いのだから気が楽である。そして白い花のノコンギクは写真に撮らなければそれですむ。やっぱりノー天気なウィークエンド・ナチュラリストは、一度やったら止められない。そんな事を思いながら帰路についたが、本格的野鳥撮影まで益々撮るものが少なくなって、これから何処へ行こうか、どうしようかと頭痛の種が浮かび上がった一日ともなってしまった。

<今日観察出来たもの>花/ノハラアザミ(写真上左)、アキノキリンソウ、ツリガネニンジン、コウヤボウキ(写真上右)、リュウノウギク、ノコンギク、シロヨメナ、ヤクシソウ、ノダケ、ハキダメギク等。蝶/キタテハ、ヤマトシジミ等。昆虫/アキアカネ、ナツアカネ、マユタテアカネ、コバネイナゴ、ハナアブ、セイヨウミツバチ等。キノコ/スッポンタケ、ムラサキシメジ、オオイチョウタケ、ハナサナギタケ(写真下左)、ヒラタケ、ナラタケ等。その他/カラタチバナの実、マムシグサの実(写真下右)等。


11月7日、神奈川県川崎市麻生区黒川〜東京都町田市小野路町

 今日出かけると3日連続だからじっくり家で静養しようと考えていたのだが、朝起きてみるとかなり快調である。しかも空を見上げると秋晴れで、しかも風がほとんどない。こうなったら家の中にじっとしてなんていられない性格だから、黒川目指して出発した。昨日、キツネノタイマツを撮影して、このつれづれ観察記にスッポンタケ目スッポンタケ科の仲間である等と紹介してしまったので、その目名科名となっているスッポンタケを撮影して来なければ、画龍点睛を欠くと言う訳である。去年の秋は極度のキノコの不作だったが、それでもスッポンタケを黒川で観察していたので、普通作なる今年ならかなり発生しているのではないかと思ったのである。黒川の農道の道端に車を停めると、スッポンタケやぁーい等と目的のもの目指して一直線等と言う事はいつものようにせずに、相変わらずペンネームの「花虫とおる(撮る)」が如くに、様々なものに目を配りながら散策を開始したのはさすがである。しかし、晩秋の黒川は見るもの撮るものが少なく、アキアカネやナツアカネが見られたが、地面にある竹の棒等にべたっりとへばりつくが如くに日光浴しているので写欲が湧かない。やはり生物は生き生きとしていなければつまらない。その昔、サラリーマンをしていた時に、営業マンは目が輝いていなければ仕事が取れない等と良く言われたが、それはたしかにそうであろう。このアキアカネやナツアカネは言うまでも無く、スーパーの鮮魚コーナーで鮮度の落ちた秋刀魚を買う気が起きないのと同様である。そんな訳で雑木林の小道に歩みを進めたのだが、生き生きしているものはリュウノウギクのみであった。
 雑木林を抜けるといつものように丘の上の畑を目指した。前回来た時には途中に積んである丸太にヒラタケが生えていたが、今日はキノコのキの字も見当たらない。この時期になってもアレチウリの葉は緑一杯で、こんな葉の上に昆虫がいたら絵になるのだけれどと探してみたら、ツチイナゴが眠そうに日向ぼっこをしていた。また、アレチウリはまだ花をつけていたので、何にも撮影出来ない時のために撮影した。丘の上の天辺まで来て右に折れると、かつて晩秋にヒメアカネを撮影した日当たりの良い雑木林に通じている。しかし、目指すヒメアカネはいなかったが、秋の陽に輝くヘクソカズラとヌルデの葉を撮影した。特にここに紅葉しているヌルデはとても色合いが良く、葉の軸にある翼までもが美しく紅葉している。この翼こそウルシやヤマウルシ等の同族の樹木と異なるヌルデだけの特徴である。「秋の夕日に照る山モミジ、濃いも薄いも数ある中で、秋を彩るカエデやツタは山の麓の裾模様」等と言う歌があったと思うが、今日の黒川の雑木林はモミジやカエデは紅葉していなかったが、ツタウルシやヌルデは真っ赤に燃えていた。これでなんとか今日も4枚の写真が揃いそうになったので、去年、スッポンタケの生えていたモウソウチクの林の脇の小道に行ったのだが、残念ながら見つける事が出来なかった。しかし、スッポンタケは竹薮の縁がキーワードであるから、他所を探してなんとか一本で見つける事が出来てほっとした。
 その他、今日の黒川の道端では、人差し指大のオオスズメバチの女王が日陰で凍えてじっとしていたので、なんとか厳つい顔をとってやろうと努力したのだが、ああでもないこうでもないとやっているうちに、羽をふるわし始めて身体が暖まるとブーンという羽音を響かせて青空へ飛んで行った。「まあいいや、厳つい顔だけはマクロレンズを通して見たからな」と慰めたものの、やっぱりそう多くはないチャンスだからシャッターを切りたかったのは確かである。多分、多くの昆虫がそうなのだろうが、スズメバチばかりでなくヤママユ等の大型のガの仲間も羽を小刻みに上下して身体を暖める。そうしないと飛び立てないのである。言わば寒い日に自動車の暖気運転をしてから発車するようなものなのだろう。私なんか寝床から離れるとすぐ食事、洗面トイレを済ませていざ出発の毎日だが、30分位早く起きて、ラジオ体操第一位の運動をしてから食卓に着いた方が良いのに違いない。そんな訳で今日の虫はツチイナゴかなと思ったのだが、帰り際にキバナコスモスにハナアブがじっとポーズをとっていたので、近づいて素早く撮影した。前にも書いたように先日このHPの掲示板で、ハナアブ科の各種ヒラタアブの仲間で盛り上がったのだが、科名となっているハナアブを撮影して紹介しなければ、これまた画龍点睛を欠くと思っていたので狙っていたのだ。しかし、撮ろうとすると逃げられて撮れず、それ程までに撮ろうと欲していない時にチャンスが巡って来るのはネイチャーならではの良くあることである。「欲せよ、しからば与えられよう」等の言葉があったような気がするが、人生全てしかりなのである。
 午後からは何処へ行こうかなと考えたが、スッポンタケのもう少し良い写真を撮影したいと、またしても小野路町の万松寺谷戸へ行った。最近見かけない火曜日のバイクのおばちゃんが教えてくれた、やはりモウソウチクの林の脇の小道である。その小道に足を踏み入れるやいなや、すぐに素晴らしいムラサキシメジの群生が目に入って来た。今まで各所で観察していたのだが単独で生えているもののみで、群生しているものは初めてである。良い具合に二本並んだものを傘の裏の襞が入るように超ローアングルで撮影した。しかし、帰宅してパソコンで見てみると美しい薄紫色が出ていない。フイルムカメラも持参していたのだから、なんでそれで撮らなかったのかと悔やまれた。さらに足を進めると今度はオオイチョウタケの群生が目に入った。ラッパ状に傘が開いているから良く襞が見える。これまた超ローアングルで撮影した。目指すスッポンタケもちらりほらりとあるものの、時期が過ぎて先端のグレバが乾いているものが多かった。やっぱりスッポンタケは先端が深緑色のグレバがたっぷりついていないと様にならない。そんな事を呟きながら歩いて行くと、やっと絵になるスッポンタケを見つけ、背景にアオキの葉が入るように、これまた超ローアングルで撮影した。目的を果たすと先日来た時に見つけたナラタケはどうなったかと行ってみると、綺麗に全て採取されていた。やっぱりTさんは食べたんだなと思って、Tさん宅の前を通ると、先日より血色の良い大黒様のような顔で現れた。「うどんに入れたら出汁が出てとっても美味かったよ」と言うではないか。それを聞いてほっと胸を撫で下ろすと同時に、そんなに美味いのなら自分で採取して食べれば良かったかなとの思いも込み上げて来た。今度見つけたら美味そうなのを一本だけ持ち帰って、美人薄命となったら困るので女房には食べさせずに、自分だけこっそり食べてみよう。もっともナラタケのお礼ではなかろうが、美味そうな富有柿をたくさんもらって、ポケットを目一杯膨らませ恵比須顔で車に戻った。

<今日観察出来たもの>花/コウヤボウキ、リュウノウギク、ノコンギク、ヨメナ、シロヨメナ、ヤクシソウ、ノゲシ、ハキダメギク等。蝶/ツマグロヒョウモン、キタテハ、ヒメアカタテハ、ヤマトシジミ、ウラナミシジミ等。昆虫/アキアカネ、ナツアカネ、オオスズメバチ、ツチイナゴ、コバネイナゴ、セスジツユムシ、ササキリ、オンブバッタ、ハナアブ(写真下左)、アシブトハナアブ、ニホンミツバチ等。キノコ/スッポンタケ(写真下右)、ニガクリタケ、ムラサキシメジ、オオイチョウタケ等。その他/ヘクソカズラの実(写真上右)、ヌルデの紅葉(写真上左)等。


11月6日、横浜市港北区新吉田町〜茅ヶ崎公園〜大原みねみち公園

 昨日の夕方から身体がぐったりと疲れて、肩が痛く喉が痛い。これは一種の風邪症状である。先日、NHKの気象担当の男性アナウンサーの方も風を引いていたが、温度差が激しいと風邪を引くようである。そう言った意味では今日は朝の内は曇りで次第に晴れて来ると言うから、こういった気象状況では最高気温と最低気温の温度差はあまり無いのだと言う。まあ、個人的並びに天気の事はさて置いて、そんな訳もあって今日は久しぶりに近場への自然観察に出かけた。いつものように倉部谷戸の日曜菜園から散策を開始したのだが、畑の脇に植えられている小菊が満開でとても綺麗である。また、度重なる台風で痛めつけられたコスモスが再び勢いを増して来て咲いている。コスモスと言えば今年は受難の年で、立川にある昭和記念公園では雨がたくさん降って背丈が伸び、そして台風の大風で倒れて見る影も無いとの事である。今日はまず手始めに、この小菊やコスモスに吸蜜に訪れたハナアブの仲間を撮影しようと思ったのだが、身体がだるいと追い掛け回す元気が出ない。しかし、花粉を食べに来たツユムシが鎮座していたので撮影したのだが、残念ながら後肢が一本とれていた。そこで丘の上の畑へ登って行くと、ベニシジミやヒメアカタテハがおとなしくしていたので、これまた撮影しようとしたのだが羽の一部が痛んでいた。そんな訳で今日は出だしが悪いなあと思い、以前この観察記で花を紹介しているヒヨドリジョウゴの実を同じ場所に撮りに行った。途中、植溜に植えられたアメリカハナミズの実が真っ赤に色づき、葉も紅葉していたので撮影したことは言うまでもない。
 今日は各種の実のオンパレードかなと思ったが、それもつまらないと路傍に咲くノゲシを撮影したが今一季節感に欠ける。また、ベニバナボロギクが咲いていたのだが、こちらはいつもうつむき加減に咲いていてなかなか美しく撮らせてくれない。いくら名高いアイドル写真撮影のカメラマンだって、ベバナボロギクのようにうつむいているアイドルだったら、可愛らしく撮る事は出来ないだろう。そんな訳で今日は野の花は駄目かなと思ったら、野生化したマルバアサガオがたくさん花をつけていた。以前、同じ場所でマルバアサガオの花の中に休んでいるオンブバッタを見つけて傑作写真をものにした事があったので、今日も何かいないかなと思って探し回ったら、なんと地面からキツネノタイマツが伸びていた。先日。野津田公園のバラ園や小野路町の牧場近くで見つけたものよりも新鮮で美しい。このキツネノタイマツや昨日舞岡公園で観察したカニノツメはキノコの内の腹菌類に分類されているが、キノコと言っても傘を持つキノコとは非常に形が異なっている。キノコはカビも属する菌界の中の胞子形成器官(子実体)を持つものを総称してキノコと呼んでいるが、マツタケ等の傘を持つものは帽菌亜綱、このキツネノタイマツのような傘を持たないものは腹菌亜綱、両者をあわせて真正担子菌綱とし、そしてキクラゲの仲間を異型担子菌綱と分類されている。すなわちキツネノタイマツは菌界真菌門担子菌亜門真正担子菌綱腹菌亜綱スッポンタケ目スッポンタケ科キツネノタイマツとなるのだろう。こんな生活をしている私でも税金をとられるのだから、一応、何らかの分類が行政府によってなされているに違いない。
 今日の新吉田町は駄目だな、港北ニュータウンの公園巡りに早々切り替えようかなと考え始めていたが、このマルバアサガオとキツネノタイマツで活気づいて、お昼までは新吉田町でと踵を返して谷戸奥に向かって左手にある丘に登って行った。今年の柿は成り年のようで、大きな次郎柿もたわわに実っている。富有柿にいたっては、枝が折れてしまうのではないかと思われる程の鈴なりである。あんなに台風が何べんもやって来て大風が吹いたと言うのに、たわわに実っている様を見て柿の強靭さに驚いた。子供の頃、柿の木は折れやすいから上っては駄目だよと言われていたが、風には非常に強いようである。以前、ここの柿の幹で暖をとるハラビロカミキリを見つけ、かなり気に入った写真が撮れたので、今日もいるかなと一本一本見回ったがお留守であった。丘の天辺の畑には格子の細かいネットで囲われている畑がある。そのネットにヒシバッタやオンブバッタが張り付いていた。ことにオンブバッタは反対側にいたので、日頃見慣れない身体の下部をつぶさに観察出来てとても面白かった。透明な道路の上を歩く人間を下から観察出来たらとても面白いだろうなと思えば、すぐに想像がつくことだろう。もっとも、女性がスカートなるものを着用しなくなるまで、そんな道路は絶対に建設されるはずはない。
 期待した割には後半の新吉田町巡りは不発に終わって、身体のだるさだけを極度に増幅して車に戻り、途中食事をとって、まず最初に茅ヶ崎公園へ行った。久しぶりに茅ヶ崎公園生態園へ行ってみようと雑木林の縁の小道を歩いていると、大理石モドキの石柱にウシカメムシを発見した。カメムシと言ったら前胸背側角の突起が鋭いものが多いが、このウシカメムシは身体の割りに異常に大きく尖っているのだ。写真のように正面から見ると、大きな大学帽を被っているように思われるだろう。その昔、何故かいつも大学帽を被っているフクちゃんなる少年が登場する漫画があったが、ウシカメムシはそのフクちゃんと同じように、身体には不釣合いの大きな大学帽を被っているという訳なのである。ウシカメムシの名前の由来ははっきりとは分からないものの、その大きな前胸背側角の突起が牛の角に似ているから名付けられたのではなく、ウシカメムシを頭を上にして正面真上から見ると牛の顔に似ているから、そう名付けられたと思っている。ウシカメムシは比較的観察する機会が少ないカメムシだから思う存分撮影したのだが、しばらくしてこの牛の顔に見えるアングルを撮るのを忘れていた事を思い出して引き返してみると、残念ながらウシカメムシは何処かに消え去っていた。
 生態園にはチーフのK女史や植物に詳しいKさんがいた。「リンドウはありますか?」と聞くと、残念ながら無いと言う。「もう少し雑木林を伐採して陽が入るようにしないとリンドウは無理かな」とKさんが言うので、先日の多摩丘陵や弘法山でのリンドウのたくさんある所を思い出して納得した。「来る途中、シロヨメナがありましたが、間違いないですよね」と聞くと、「それが最近、シロヨメナとノコンギクのあいの子があって困っているんですよ」とさすが植物専門家のKさんである。Kさんは早くも咲き出したシロダモの花を手にとって観察しているので、「シロダモの実って赤くてとても立派ですね」と先日長津田町の雑木林で観察した実を思い出して言った。付近には棘が対生だからイヌザンショウではなくサンショウもある。もう一歩突っ込めばかなりその分野で詳しい専門家になれるのにそれをやらない私だが、みなさんのお陰で徐々に知識が豊富になって来ている事を感じて嬉しくなった。帰りがけ大原みねみち公園にカワセミを見に寄ってみたがお留守だったので、早くも葉が落ちて冬芽姿になったトチノキを撮影すると、今日は身体の具合が悪いので、本当に早々の帰宅となった。

<今日観察出来たもの>花/ヨメナ、シロヨメナ、ヤクシソウ、ノゲシ、ベニバナボロギク、マルバアサガオ、ツワブキ、キク、コスモス等。蝶/ルリタテハ、キタテハ、ヒメアカタテハ、ヤマトシジミ、ベニシジミ、イチモンジセセリ等。昆虫/ウシカメムシ(写真下右)、ツユムシ、ササキリ、ヒシバッタ、オンブバッタ、フタモンアシナガバチ、ハナアブ、ヨウシュミツバチ、ホソヒラタアブ等。キノコ/キツネノタイマツ(写真上右)、アラゲキクラゲ等。鳥/コサギ、カルガモ等。その他/ヒヨドリジョウゴの実(写真下左)、アメリカハナミズキの実、トチノキの冬芽(写真上左)等。


11月5日、横浜市戸塚区舞岡公園

 11月に入って天気も安定して来て、おまけに仕事も一段落ついたのでたっぷりと時間がある。しかし、皮肉にもフィールドでは見るもの撮るものが減少しているな等と嘆いていたのだが、さすが舞岡公園はぽかぽか陽気も手伝って、見るもの撮るものがたくさんあって、ここにその撮影した全てのものが載せられないのがまことに残念である。最近、もっと朝遅くまで寝ていようと思っても目が覚めてしまう。これは一種の老化現象なのかもしれないが、そのためもあって舞岡公園にかなり早く着いた。しかし、さすがに晩秋、日陰になっている所は露がびっしりと降りている。そんな訳で瓜久保にはこれと言ったものが見られない。そこで今日どうしても撮影したかったマユミの実を撮りに前田の丘へ行った。ここは良く日が当たるからマユミの実が薄赤く色づいて美しい。マユミに園芸品種があるのかは定かではないが、舞岡公園にたくさん見られるマユミの中で、前田の丘のものが一番大きくて美しい実をつける。マユミとは漢字で書くと真弓となり、これと同じ名前の女性をかなり知っているが、名付けた両親は、きっと、真の弓の様に矢がまっすぐに飛んで行くような人生を送って欲しいとの意味合いから名付けたのだろう。確かにこの名前を持つ女性の多くは、清純でとても芯が強いように思われる。しかし、植物のマユミは良くしなうので弓に使われた事から来ているのだとある。無事にマユミを撮影すると、他に何かいないかと探したが、各種のバッタの住処であった草原は綺麗に草刈がなされていて、それなら樹木の幹で日向ぼっこを決め込む昆虫しかないと思って見回ると、アカスジキンカメムシの幼虫にたくさん出合った。いよいよ吸汁する実が無くなって、冬眠のための格好の場所に移動しているのではないかと感じられた。
 前田の丘を後にすると古谷戸の里へ行った。途中、電信柱にクサギカメムシ、チャバネアオカメムシ、エサキモンキツノカメムシが日向ぼっこをしていた。地面にしっかり差し込まれた木の柵の丸太の支柱に、セグロアシナガバチが静止している。刺されたら大変なので遠くから観察していたのだが、ただ単なる日向ぼっこではないようで、何らかの目的でその場にいるようである。その証拠に時たま動いて何かを探しているようにも見える。いづれにしても動きが緩慢だから刺される事は無かろうと、近づいて何枚も撮影した。もちろんこんなチャンスは少ないから、顔のアップまでもと欲張ってかなり近づいて撮影したのだが、やがてセグロアシナガバチは、「なんだよー、お前」と怒ったようで、飛び立って威嚇して来たので素早く逃げた。古谷戸の里へ行くと軒下に干し柿が吊るされていて風情がある。カニノツメはどうしたかと見に行くと、だいぶ少なくなったが、これぞカニノツメと美しく生えているものがあったので撮影した。そこで庭仕事をしていたK女史に撮影したものを液晶デイスプレイで見せてあげると、まだ一度も見たことが無いので、どれどれと言う事になった。古谷戸の里を後にして鎌倉のNさんが、数日前にこのHPの掲示板にササクレヒトヨタケの写真を送って来てくれたので、まだあるかもしれないと谷戸見の丘へ向かった。すると前方からバードウォッチングをしている上永谷のOさんと上倉田のKさんがやって来て、「ホシゴイがすごく近くでおとなしくしているよ」と言うので案内してもらった。ホシゴイとはゴイサギの幼鳥で、羽に白い斑紋があるのでそう呼ばれている。Kさんによると成鳥になるのに4、5年はかかるのだと言う。ゴイサギは夜行性だから、その子供のホシゴイも夜の活動の為に休んでいるのである。
 谷戸見の丘へ行ったがどうしてもササクレヒトヨタケには出会えなかった。ヒトヨタケはやはりKさんが言うように一夜しかもたないのだろうか。そこで引き返して来ると、水車小屋の前で鳥付きな方が大勢集まってカメラやスポッティングスコープを構えている。聞くところによると今日は鳥の出が悪く、昨日見られたノビタキは現れないと言う。しかし、ジョウビタキの雄が現れて、何だか一年ぶりの再会のようで嬉しくなった。そんな鳥好きの方にはお呼びではないかも知れないが、付近のアオキの葉で羽を開いて日光浴しているウラギンシジミの雌を見つけたので慎重に撮影した。今日は本当にいろいろなものに出会えて、昼まで後一時間もあるのに、様々なものを撮ってしまった。そこで前回来た時に観察したムラサキツバメはいないかと雑木林の縁の小川沿いの遊歩道に行って見ると、ムラサキツバメはいなかったものの、たくさんのヒメシロコブゾウムシに遭遇した。今時見るなんてとっても不思議で、ことによったら成虫で越冬するのかと思ったが、土の中で蛹で越冬すると図鑑には書いてある。となるとこのヒメシロコブゾウムシは狂い咲きならぬ狂い発生なのだろうか。しかも、面白い事に杭と杭との間に張ったナイロン製のロープの上を、まるで綱渡りのようにして歩いているのだ。どうみても越冬場所を探しているとしか思えないのだが、いかがなものなのだろうか。
 午後からは午前中に様々なものを撮影したから、年末の写真撮影に出展するご婦人の為に実技指導に専念した。「老眼が進んでいるからピントが合わない」等と情けない事を言うが、一眼レフカメラはファィンダーに視度調整機能がついているのだから、ぴっちり合わせれば老眼だろうが近眼だろうがぴっちりピント合わせが可能なのである。最近良くご一緒するAさんに比べれば、まだヒヨッコなのだから頑張って欲しい。「老眼が進んでいるからピントが合わない」等と言う方は、第一にこの視度調整機能をしっかり合わせていないか、いわゆる手ブレが起きているのではなかろうか。三脚にしっかりカメラを乗せて低速シャッターになったらレリーズを使えば良いのである。私なんか近眼、老眼、乱視であるが、ピントを外した事も手ブレを起こした事も、野鳥撮影以外では左程無い。ましてやキノコ等の動かないもの、風にびくともしないもの、絞りを絞って被写界深度の稼げるものを撮影する場合、このセオリーをしっかりと守っていればはっきりくっきりの写真を得ることが出来る。いくらカメラに手ブレ防止機構がついてようが、高感度にして高速シャッターを切ろうが、このセオリーだけは普遍だと思う。そんな訳で、今日はなるべく動かないものを見つけて撮影することを勧めた。すると良い按配にモウソウタケの柵の支柱にコバネイナゴがいるのを発見した。節の上が2センチ程残っているから窪みになっていて、そこからコバネイナゴがちょこんと顔を出している。まるで五右衛門風呂に入っているようである。「これは決まりだな。タイトルは良い湯だな」と言って慎重に撮影する事を勧めたが、上手く撮れているかどうかは年末の写真展まで待たなければ分からない。秋の陽はつるべ落とし、あっと言う間に帰宅時間となって充実した一日が夕焼けとともに終了した。

<今日観察出来たもの>花/リンドウ、ヨメナ、シロヨメナ、ノコンギク、ヤクシソウ、ツワブキ等。蝶/キチョウ、ウラギンシジミ、ヤマトシジミ、チャバネセセリ等。昆虫/ヒメシロコブゾウムシ、アキアカネ、オオアオイトトンボ、オオカマキリ、チョウセンカマキリ、コカマキリ、コバネイナゴ、ササキリ、クサギカメムシ、チャバネアオカメムシ、エサキモンキツノカメムシ、アカスジキンカメムシの幼虫、セグロアシナガバチ(写真下右)等。キノコ/ナラタケ、ニガクリタケ、カニノツメ等。鳥/コサギ、ホシゴイ(写真下左)、ジョウビタキ、モズ等。その他/マユミの実(写真上右)、カマツカの実等。


11月3日、東京都町田市薬師池公園〜ぼたん園〜小野路町

 今日は文化の日で祝日である。秋晴れの気持ちの良い日で、各方面で催し物がなされているのだろうか、とても車の多い日であった。半分若隠居のような生活をしていると、祝日の日があるのを忘れてしまう。これからもっともっと忘れてしまうのかと思うと情けない。やはり人間は社会性動物なのだから、社会のためにたってなんぼだと思う。だから祝日の日を忘れないように、私もこれから社会貢献の道を探らなければなるまい。そんな若隠居的生活をしているためか、定期的に見回るべきフィールドへはほとんど行ってしまった。今日は何処へ行こうかと考えていたら、このところ薬師池公園からぼたん園の道を歩いていない事に気づいた。また、どうしても季節の野の花としてセンブリを紹介したくて、このコースならばセンブリが生えている所を誰にも割り出せないと思ったのだ。昨日、弘法山でご一緒だったAさんは薬学を修めた方だが、「やっぱりセンブリとリンドウは特別ですね」と言っていた。Aさんが薬学の道に進んで、まず最初に親しんだ薬草がリンドウとセンブリだったらしい。また、その当時はセンブリは至る所に普通に見られて、民間の漢方として大いに利用されていたと言う。私も昨年、武蔵丘陵森林公園でセンブリの群落に出合って納得した。今でこそ絶滅が危惧されるセンブリだが、かつてはごく普通の植物だったのだ。私が野の花に興味を持って初めてセンブリに出会ったのがこのコースである。しかし、かなり頻繁に草刈が行われているようで、背丈のとても低いものばかりである。その後、他所で背丈の高いセンブリを観察して、かなりの逞しさを感じたのだが、里山の管理放棄や除草剤の多用などには敵わないようである。まだあるかなと心配したセンブリが、数年前と同じように生き残っていてくれてほっとした。相変わらず背丈の低い可愛らしいものばかりであった。
 順序は逆になるが、今日はまず最初に薬師池公園に行った。広場では菊花展が行われていて人がたくさん来ていたし、これと言った撮るものが無いので即座にぼたん園を目指した。途中、いよいよ撮るものが少なくなったからと、民家に植えられているサネカズラの実を撮った。別名をビナンカズラと言うが、漢字ではどのように書くのだろう「美男蔓」と書くのだろうか。図鑑を開いてみて初めて分かったのだが、この実の皮を剥ぐと粘液が出て来て、遠い昔には整髪料として使われていたのだとあるので、ことによったら美男蔓なのかもしれない。私のようにいつも寝癖をつけた髪がトレードマークで、整髪料も櫛も使用しない人間にとってはまことに朗報のようだが、一体全体どのような匂いがするのだろう。今度出合った時に試してみなければならなくなった。いつもぼたん園に行く時は雑木林の縁の小道を歩いて行くのだが、傍らの広大な畑はボランティアの方々によって耕作されている。この時期はソバの花がまだ咲き残っているかもしれないと期待したのだが、もう花は終わって収穫間近かなようであった。「これはこれは今日も撮るものがないな」等と最近口癖になりつつある言葉が喉元まで込み上げて来たので、クズの葉に鎮座するツチイナゴの幼虫を撮った。前にも書いたと思うがツチイナゴは成虫越冬だから、まだ幼虫がいても不思議ではないものの、早く成虫にならないとクズの葉だって黄色に変わってしまうから大変である。ことによったら成虫になれぬままに死滅してしまう個体もあるのだろうか。それとも脱皮生長ホルモンが出て、発育不全のまま成虫になって小さな個体になるのだろうか、とても興味深い事柄である。
 あまり撮るものがないので、あっと言う間にぼたん園に着いてしまった。ぼたん園の寒ボタンの蕾はだいぶ膨らんでいるが、その他、見るもの撮るものが無い。ツワブキを期待していたのだが、ここのツワブキの開花は非常に遅く、咲き始めたものがある程度であった。また、センリョウの赤い実が美しいが、これももっと先のクリスマス近くに登場させたい。植栽されているツバキやカンツバキの蕾は固いが、サザンカは咲き誇っている。ムラサキシジミをツバキの葉に見つけたのだが、まだまだ元気なようで、近づくとすぐ逃げてしまった。300ミリ程度の望遠マクロがあれば何とかなったであろう。そんな訳でぼたん園では、ごくごく普通のカタバミが美しく咲いていたので、「カタバミ!」なんてと言う声が聞こえそうだが撮影してここに紹介した。ヤマトシジミの食草であるし、よくよく見るととても可憐な花なのだが、何処にでもあるから見向きもされない。この点では他に咲いているものが無い早春に咲くオオイヌノフグリの方が恵まれている。ぼたん園を諦めて、キノコは無いかと自由民権運動家の石坂昌之の墓のある雑木林に行ってみたが、ムラサキシメジがあった位で、絵になるキノコは皆無であった。野津田神社に出て、雑木林と畑に挟まれた農道を歩いて行くと、畑に植えられたクチナシの実が色づいてとても美しい。また、雑木林の縁には紺、白、水色、紫に色分けされたノブドウの実がたくさんあった。また、畑に積んである堆肥には少なくと3種類ほどのキノコが出ていたが、これを撮るには長靴や三脚が汚れるし、堆肥に踏み跡が残るし、衣服についたら臭いだろうしと言った按配で撮影は見送った。
 今日は昼食になんだか醤油ラーメンが食べたくなった。ラーメン屋さんは各所にあるものの、まずいラーメンだと損した気分になるので、和光学園前のラーメン屋さんに寄って、それから小野路町へ行った。先日は牧場方面だったので、今日は万松寺谷戸からキノコ山経由で戻って来るコースをとった。いつもの場所に車を停めると、数メートル先に森のきのこさんの車らしいものが停まっている。ディーゼル車規制で車を代えると言っていたので間違いは無いであろう。きっと何処かで会うだろうと期待して歩いて行くと、民家にある咲き残ったシュウカイドウにヒラタアブの仲間がやって来ていた。もちろん今日も頂きと頑張ったのだが、近づくとすぐに逃げてしまう。風も強くなったしシュウカイドウの花はヒラタアブにとっては足場が悪いようだ。万松寺谷戸へ入ると、細い竹の棒の先にエンマコオロギのモズの早やにえが刺さっている。双眼鏡で野鳥観察をしている感じの良いご婦人がいたので「何かいますか」と聞くと、「アオジ、カシラダカがもういましたよ」との事であった。これ以上ご婦人のお友達が出来ると、お脳がパンクして宇宙人になるのでキノコ山へ急いだが、キノコはまったく無かった。しかし、尾根沿いのクリ林でナラタケがたくさん生えているのを発見し夢中になって撮影した。なんだかこのところ食べられるキノコばっかに巡り合う。ヒラタケ、ナメコ、ムラサキシメジと言った具合である。ひとしきり思う存分ナラタケを撮影し、これで花、実、虫、茸と揃ったわいと微笑んで、Tさん宅前まで来ると、Tさんが農作業に出かけるところであった。「ナラタケかナラタケモドキかはハッキリしないけど、柄につばのあるキノコがたくさんありましたよ」と言うと、「それは良いおかずになるな。ナラタケでもナラタケモドキでも、どちらもたくさん食べなければ大丈夫だから後で行ってみる」との事であった。その微笑んだ顔を見て、「みなさんが中毒になったら僕のせいになってしまうから、もう一度しっかり確認して下さいね」と言い添えた事は言うまでも無い。最後に極秘のリンドウやコウヤボウキの咲き乱れる場所で、切り株に腰を降ろして休息した後、晩秋にしては大満足の帰宅となった。

<今日観察出来たもの>花/センブリ(写真上右)、リンドウ、ツリガネニンジン、コウヤボウキ、アキノノゲシ、リュウノウギク、ノコンギク、ヤクシソウ、センダングサ、カタバミ(写真上左)、ツワブキ等。蝶/キチョウ、ヒメアカタテハ、ルリタテハ、ムラサキシジミ、ヤマトシジミ、チャバネセセリ等。昆虫/コカマキリ、ツチイナゴの幼虫等。キノコ/ナラタケ(写真下左)、ムラサキシメジ等。その他/ノブドウの実、サネカズラの実(写真下右)等。


11月2日、神奈川県秦野市弘法山〜権現山

 今年も残すところあと2ヵ月となった。このつれづれ観察記もあと25回前後書けば終了かと思うと、有終の美を飾らなければならないと気が引き締まる。そんな訳で久しぶりに鳥も登場させたいし、また、やって来る野鳥撮影シーズンのウォーミングアップも兼ねて、午前中は弘法山で野の花や昆虫、午後は権現山の野鳥観察施設で鳥という豪華2本立ての予定で行った。まずはいつものように弘法山へは登らないで、裾野の田園地帯を散策した。弘法山はハイキングコースを歩いていてもある程度のものに出会えるのだが、秦野市の観光課の方々は仕事熱心だし、弘法山を桜の名所にしようと頑張っているから、ハイキングコースから外れた小道の方が断然面白い。麓の農道に入るとまず目に入ったのはイヌタデの美しいピンクの群落である。イヌタデは何処へ行っても普通に見られるが、一面の群落となるとそう多くはない。多摩丘陵などでは道端に多いのだが、それでは美しい群落とはなり得ない。今までの経験だと美しい群落は果樹園の周りに見られる場合が多く、適度に除草がなされている畑が良いようだ。今日の目的の第一はイシミカワの実であるが、このイシミカワもイヌタデと同じくタデ科の植物で、どちらかと言うとイヌタデよりもママコノシリヌグイに近い仲間なのではなかろうか。しかし、ママコノシリヌグイと異なってイシミカワは青黒い実がつき、少なくとも首都圏平地ではそれ程多くないが、弘法山にはかなりある。いつもイシミカワがたくさん見られる場所に行く途中、ムラサキシジミとキタテハが飛び立ったので、どうしたのだろうかと思ったら、ビワの花が咲き始めていて、それに吸蜜に訪れていた事が分かった。初夏の果物たるビワの花は、晩秋に咲くのである。
 目指すイシミカワのたくさん見られる場所へ着いたのだが、今年は何処を探しても見当たらない。いったいどうしたのだろうかと思ったが、そのかわりにノブドウやカラスウリが見事に実をつけていてとても美しい。また、ミカン畑ではたわわに実った実が色づき始めて、今日の暖かい晩秋の光に眩しく輝いていた。まだミカンの撮影には少し早過ぎると思ったが、その美しさにシャッターを思わず切った。しかし、隣の畑に植えられているユズは、今度来た時のために撮影は止めにした。ユズと言ったら初冬、冬至の頃が似つかわしいと思っているのだが、やはりミカンと同様に色づき始めていた。弘法山の山麓にはイチョウが植えられている畑が多い。こんな場所にイチョウを植えてどうするのだろう、学校や街路樹に植栽するための一時的な植溜かなと思ったが、それにしては見事に成長していて幹が太い。今日、弘法山のイチョウ畑のその謎が解った。ギンナンをとる為に植栽されていたのである。ギンナンと言うとお寺や公園や街路樹を思い出して、まさか農家の方が専門に栽培しているとは思わなかったのだが、そうでは無かったのだ。農家の方々が一生懸命にギンナンを集めている姿を見て納得した。少し塩をまぶして炒って食べると、「止められない止まらないギンナン」となって、とてもかんばしく美味しいのだ。こんな道端自然観察及び写真撮影等と言う趣味がなかった頃は、ギンナン集めに公園を巡り歩き、たくさん食べた。そんな訳で今日の第一目標たるイシミカワには振られたしまったようだが、後からやって来たAさんと雑木林に足を進めると、小群落だが青い実を実らせてイシミカワがお出向かいをしてくれ、その隣では真っ赤なヒヨドリジョウゴの実までが歓迎してくれた。さすが弘法山である。
 雑木林の中にはリンドウやコウヤボウキがたくさん咲いている。もちろん日当たりの良い雑木林の縁にはリュウノウギクやヤクシソウも一杯だ。「弘法山へ行ったけど、リンドウなんて何処にも咲いていなかった」等と言う方も多かろうが、それは盗掘されてしまったからで、ハイキングコースを外れた雑木林にはたくさんあるのだ。多摩丘陵では谷戸田と雑木林の間の小川の縁等にリンドウが多く見られるが、盗掘が心配で教えられないのだが、多摩丘陵でも雑木林の中にたくさん咲いている所がある。同行したAさんによると、やはりリンドウは雑木林の中が本当の故郷のようである。たくさんあるリンドウで絵になるものはないかと探していると、ヒラタアブの仲間が吸蜜しているものがあった。最近、私のHPの掲示板に、ムラサキセンブリに訪花したホソヒラタアブやトキワハゼに訪花したヒメヒラタアブ等の投稿があったので、ここは私も一つヒラタアブだと頑張ってみた。しかし、一生懸命食事するヒラタアブにちょっかいを出す他のヒラタアブがやって来て、じっくり撮らせてくれないので困り果てた。「ここは僕が先に見つけた食堂なんだから、君は他を探してよ」と、小さなヒラタアブは近寄って来た仲間に盛んに話しかけているようだったが、お仲間にはそんな頼み事等いっこうに聞こえないようである。晩秋の陽だまりに咲くリンドウ、そこに訪花した小さな命であるヒラタアブ。こんな一見微笑ましい平和な光景にも、競争があるのかと思うとなんだか身につまされる思いがした。しかし、見ようによっては可愛らしい命が互いにじゃれあっているとも思えて微笑みも浮かんで来た。「仲良くおやりよヒラタアブ君」等と声をかけた事は言うまでもない。今は無き画家の熊谷守一さんは、その晩年、自宅の庭にやって来た小さな生き物を観察し描くことに熱中したと言われているが、なんだかそれが分かるような光景だった。
 ヒラタアブの仲間を撮影して尾根道に上がりAさんを待ったのだが、いくら待ってもやって来ない。いったいどうしたのだろう、ハナビラニカワタケとリンドウを写していたけど、そんなに時間がかかる訳は無い。と思って引き返してみると、蝶の大好きなAさんらしくクロコノマチョウの撮影に夢中であった。クロコノマチョウは大型のヒカゲチョウの仲間で、ほんの10年程前に箱根の山を越えて来た蝶である。それが今では首都圏こそ我が故郷とばかりに飛び回っている姿は、ツマグロヒョウモン、ナガサキアゲハ、ムラサキツバメと同様である。「クロコノマチョウは敏感で近づくとすぐに逃げてしまうから、まだ撮影していなかったんですよ。それに羽化したばかりでとても綺麗でおとなしい個体だから、今がチャンスとばかりに頑張っていたんです」との事である。クロコノマチョウは羽を開けば黒、朱、白の斑紋が上翅の上端にある美麗な蝶なのだが、羽を閉じているとクヌギ等の枯葉のようで目立たない。沖縄にコノハチョウと言う枯葉そっくりのやはりヒカゲチョウの仲間がいるが、これと同様の擬態と言う訳である。私も来年からは出来るだけ目立つことなく、ひっそりと作品作りに没等しようと思っているのだが、身なりをクロコノマチョウのように地味にする気は毛頭ない。身なりはど派手に、しかし、心中はひっそりとの合言葉で頑張ろうと思っている。昼食をすませて権現山の野鳥観察施設へ行くと、今日はかなりの方が見えていたが、なんとか観察窓は確保出来た。やって来た鳥は、シジュウカラ、エゾビタキ、キビタキの雌、メジロ、アオゲラ、モズ、エナガで、常連さんの小鳥の方が断然多かったものの、久々の野鳥撮影はとっても楽しく、あっと言う間に帰宅の時間となってしまった。まだ、本格的な野鳥撮影には入らないが、やって来るシーズンにどのような出会いがあり、作品が撮れるかと思うとぞくぞくする。そんな夢を持たせてもらって弘法山を後にした。

<今日観察出来たもの>花/リンドウ、ツリガネニンジン、コウヤボウキ、リュウノウギク、シロヨメナ、ノコンギク、ヤクシソウ、コシロノセンダングサ、タイアザミ、イヌタデ(写真下右)、ミズヒキ、ヤマハッカ、ビワ等。蝶/キチョウ、アカタテハ、キタテハ、クロコノマチョウ、ムラサキシジミ、ベニシジミ、ヤマトシジミ等。昆虫/コカマキリ、ヒラタアブの仲間(写真上右)等。鳥/シジュウカラ(写真下左)、エゾビタキ、キビタキの雌、メジロ、アオゲラ、モズ、エナガ、キノコ/ハナビラニカワタケ等。その他/イシミカワの実、ヒヨドリジョウゴの種子、ミカンの実(写真上左)等。



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