啓蟄を過ぎると夜間や早朝の冷え込みは変わらぬものの、太陽光線はすでに春で、暖かさと輝きに満ちて来る。暖められた地表では、草の根元や土の割れ目等で越冬していたナナホシテントウが本格的な活動を開始する。ちょうどこの頃、オオイヌノフグリやホトケノザ、ヒメオドリコソウ、タネツケバナやナズナ等の路傍の雑草の花も開き、ナナホシテントウの餌となるアリマキ(アブラムシ)も卵からかえって活動を開始する。ナナホシテントウは飲まず食わずの越冬中の空腹を癒すために、また、これから子孫を残すための栄養にと、忙しそうに動き回ってアリマキを捕食する。ナナホシテントウをはじめとする動物食性のテントウムシの仲間は、植物の成長を阻害するアリマキやカイガラムシを捕食する言わずと知れた天然の殺虫剤(農夫の友)なのである。
 テントウムシは、ドイツでは『マリエン・ビルムヒエン』とも呼ばれ“マリア様のちび虫”と言うのだそうである。イギリスやアメリカでは『レディ・バード』と呼ばれ、淑女の虫と訳すのではなく“貴嬢の虫”と訳すのだそうである。いずれにしてもヨーロッパでは幸福をもたらす虫とされていて、その半球形の愛らしい格好とも相まって、大変可愛がれているようである。また、テントウムシは漢字で書くと『天道虫』になり、テントウムシを細い棒や草等につかまらせると、天辺まで歩いて行って先端までたどり着くと、ためらうことなくすぐに羽を広げて飛び立つことら、御天道様(太陽)を目指して飛んで行くようで、そう名が付いたと言われている。いづれにしても、昔から大変注目されていた虫なのである。
 テントウムシの仲間は、日本では約150種類にのぼるが、最も知られているのはナナホシテントウとナミテントウ(正式和名はテントウムシ)である。ナナホシテントウは、例外なくすべての個体が赤の地に黒紋を七つ持っているが、ナミテントウには四つの型がある。黒の地に赤い紋が二つ(二紋型)、黒の地に赤い紋が四つ(四紋型)、黒の地に赤い紋がたくさん(斑紋型)、赤の地に黒い紋がたくさん(紅型)の四型である。また、以上の四つの型も厳密に見ると様々な変形タイプがあって、ナミテントウを観察する楽しみの一つである。ナミテントウの四つの型は、遺伝的なものなのだが、気温とも深い関係があるらしく、北の方に行くほど紅型が多くなり、南に行くほど黒っぽい二紋型が多くなることが知られている。
 また、ナミテントウは集団で越冬するが、ナナホシテントウの方はこのような習性はなく、草の根際などで個々に越冬する。越冬の眠りに関してもナミテントウの方は春半ばまで深く、ナナホシテントウの方はとても浅く、春早くから活動を開始する。このように一見すると良く似たナナホシテントウとナミテントウだが、生態的にはずいぶんと相違があることに驚かされる。

<写真>羽化したばかりのナナホシテントウ、テントウムシ2紋型雌と紅型雄の交尾、テントウムシの蛹、カメノコテントウ、ムーアシラホシテントウ、ヒメカメノコテントウ、キイロテントウ。
(2)天に向かって飛び立ちます
《ナナホシテントウ・テントウムシ・カメノコテントウ》




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