2月中旬に地上に顔を出したフキノトウは一雨ごとに成長し、3月も中旬を過ぎると青空に向かって花開く。冬の間どこかで眠っていたキタテハもようやく目覚めて、今年初めてのご馳走とばかりにフキノトウの花に集まる。越冬中のタテハチョウの仲間を今年こそはカメラに納めようと、ここ数年頑張っているのだが、いっこうに越冬現場に巡り合えない。タテハチョウの仲間が無理ならば、シロチョウ科のキチョウなら羽が目立つレモンイエローだから見つけ出せるに違いないと思っているのだが、そう簡単なことではなさそうである。密生するセイタカアワダチソウやススキの枯れ草の中とか、崖の窪みや穴、樹木の洞や根際の穴、物置小屋や神社の屋根裏等で越冬していたとしたら、雑木林の小道を歩いて探すだけでは無理なのだろう。現在までに蝶(成虫)で越冬している姿を確認したのは、後述するウラギンシジミただ一種のみである。
 首都圏平地のフィールドで見られる蝶で越冬するタテハチョウの仲間は、個体数の多い順にキタテハ・ルリタテハ・アカタテハ・ヒオドシチョウの4種類である。この中でルリタテハとアカタテハは越冬後も傷もなく比較的奇麗であるのに対し、キタテハやヒオドシチョウはボロボロに痛んでいる。特にヒオドシチョウは栗の花が咲く5月下旬から6月中旬に羽化して蝶となり、2週間程活動すると忽然と姿を消し、そのまま越冬に入り春に目覚めるのだから、何と約8ヶ月間も何処かで眠っていたことになる。この謎多きヒオドシチョウについて、蝶の生態に詳しい諸先輩方々の本を調べてみたが、依然謎のままである。運良くヒオドシチョウの越冬現場を押さえた写真を撮影出来たら、それこそ日本の蝶の世界でのノーベル賞ものである。最も技術革新が急速に進む世の中だから、いずれ仁丹粒程の電波発振器が開発されて、この謎が解かれる時が来ることだろう。
 以前、東京の小石川植物園へミツマタやコブシの花の撮影に出かけた折り、まだ褐色の芝生の上で、キタテハが羽を広げて日光浴をしていた。都心に生息するキタテハをカメラに納める絶好のチャンスとばかりに近づくと、何処からともなく別のキタテハが飛んできて、それを追って飛び立ってしまった。日光浴兼テリトリーを張っていたのである。しかし、失望するには当たらない。テリトリーを張っていたキタテハは進入して来たキタテハを追い払うと、元の場所に舞い降りた。
 濃紺の地に空色の帯が美しいルリタテハも、良くテリトリーを張る蝶である。特に、午後になって西日が良く当たる大きな石や樹木の幹で夕方までテリトリーを張っている。最近、市街地でも幼虫の食草であるホトトギスが植栽されるようになり、東京の大きな公園でも見られると言うから、この習性を知っていれば、思わぬ所でルリタテハに出くわすかもしれない。











<写真>小野路町のヒオドシチョウ、アカタテハ、ルリタテハ、小石川植物園のキタテハ、小山田緑地のテングチョウ、カントウタンポポに吸蜜するキチョウ。
(3)春だ目覚めだ活動だ
《キタテハ・ルリタテハ・アカタテハ・ヒオドシチョウ》





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