秋から冬にかけて現れる風も無く穏やかで暖かい晴天の日を“小春日和”と呼んでいる。小春とは旧暦の10月の別名で、現行暦の11月から12月の前半にあたるという。冬型の西高東低の気圧配置はまだ長続きせず、大陸からの移動性高気圧がやって来て日本列島を覆う時、穏やかな晴天の日が訪れる。そんな小春日和の日を選んで、弁当持参で、雑木林や自然度の高い公園へ出かけてみよう。間違い無くやって来る寒い冬の前の一時の骨休めとなるに違いない。良く日が当たる北側が常緑広葉樹林に閉ざされているような場所に来たら、敷物でも敷いて昼食の用意をしよう。日射しはまだ暖かくて、きっと昼寝でもしたくなるだろう。こんなに私たち人間様にも気持ちが良いのだから、昆虫たちにも同様で、日向ぼっこをし
に各種の仲間がお出ましになる。
特に注意して欲しい昆虫は、蝶の仲間のウラギンシジミとムラサキシジミである。ウラギンシジミは、その名の通り羽の裏面が白っぽい銀色で簡単に見分けが付く。3cm四方の銀紙が風に吹かれて舞うように、キラキラ光ながら飛んで来る。発見したら目で追って、止まるまで静かに待っていよう。常緑広葉樹のカシやツバキの葉に止って羽を広げるはずである。そっと近づいて観察の開始である。羽の表面の色は何色をしているだろう。赤いオレンジ色なら雄、裏面と同じ白っぽい銀色なら雌である。このように蝶では羽の色合いが雌雄で異なる場合が多々あり、学術的には性的多型と呼んでいる。
次にムラサキシジミを探して見よう。ムラサキシジミの幼虫は、アラカシやアカガシ、ウラジロガシやシラカシなどのドングリのなるカシの仲間の葉を食べるので、成虫(蝶)の発見もカシの木が目印となる。カシの木の仲間が回りにたくさんあったら、ウラギンシジミが現れて止まったような場所に注意を向け見よう。羽の裏が褐色の小さな蝶が飛んで来るはずである。止まったら抜き足差し足忍び足、そっと近づいて観察の開始である。紫色に光る羽の表面は美しく、きっと感嘆の声を上げるに違いない。ムラサキシジミの雄は紫色の部分が広く雌は狭いが、気品ある美しさは雌に軍配が上がる。
ウラギンシジミは幼虫がフジやクズなどのマメ科植物の新芽や花、実を食べるが、ムラサキシジミと同様に暖地性の蝶である。ちょうど常緑広葉樹林の分布をトレースするがごとくに、両種とも北限は関東平野となっている。現在の首都圏では普通種となったが、かつては比較的珍しい蝶であった。この暖地性の蝶2種の増加は、地球温暖化と雑木林の管理放棄による蔓植物のフジやクズの繁茂、シラカシなどの常緑広葉樹の勢いの増加にも原因がありそうである。そんな事を頭に入れて、観察をしてみて欲しい蝶である。
<写真>ムラサキシジミの雌、ウラギンシジミの雌、ウラギンシジミの雄、ムラサキシジミの雄、ムラサキシジミの羽裏。
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