(59)土木工事ではありません
《クロナガオサムシ・ヒメマイマイカブリ・ヒメオサムシ・キイロスズメバチ》



 開発が進んだ所に住む方には勧められないし、また、いくら自然が残っていても節度をもって行って欲しい越冬昆虫の観察の仕方がある。雑木林の中に横たわる朽ち木や林道脇の土崩しである。広葉樹がすっかり落葉して明るく歩きやすくなった雑木林に出かけてみると分かるが、ちょうどマグロのフレークのように、ボロボロになった朽ち木は意外と少ないものである。そんな少ない朽ち木が昆虫たちの重要な越冬場所なのだから、朽ち木崩しは控えめにしなければならない。アオオサムシやヒメオサムシ、クロナガオサムシやマイマイカブリの地方亜種であるヒメマイマイカブリなどは土の中でも越冬できるが、各種のスズメバチや羽化したばかりで活動の季節を待っているコクワガタやウバタマムシなどには、朽ち木はなくてはならぬ生存の重要な場所である。
 また、雑木林の小道や林道脇、畑と雑木林の堺などにある土の壁や、山芋堀りをした穴や土を取った穴などの上部は、昆虫ばかりでなく、各種の小動物の格好の越冬場所である。数多く見つかる場所は、昆虫たちの冬越しの常道である温度差が少ないやや湿った北側の場所である。かつて自然が豊かにあって、しかも昆虫標本を作るために、冬期は『オサ堀り』と称して各種のオサムシやゴミムシを採集したものだが、昨今の緑地が少なくなった状況では土崩しも慎まなければならない。また、身体に水滴をつけて凍えるのをじっと耐えている昆虫たちの深い眠りを妨げるのは、たとえ自然観察とは言え気が退ける。
 『すまん、すまん』と言いながら、朽ち木や土の中で越冬する昆虫を掘り起こして調べた結果、自然度の高い雑木林では、ヒメマイマイカブリやオオスズメバチを見出すことが出来るが、開発が進んだ雑木林では、カタツムリを好んで食べるヒメマイマイカブリは生息できないようである。オオスズメバチも巣を作る樹洞や、好物であるクヌギやコナラの樹液も細って、減少の道を歩んでいるようである。オオスズメバチに変わって、開発の進んだ雑木林の朽ち木の中には、数多くのコガタスズメバチや気の荒いキイロスズメバチが越冬している。秋になると都市近郊でもススメバチに刺されたという記事が載るが、きっと、オオスズメバチではなくて、上記2種の被害であるに違いない。
 以上のようにあまりお勧めできない自然観察の一つであるが、朽ち木や土を崩す道具を紹介しておこう。最も良いのはお爺さんの時代のピッケルだが、アウトドアライフで良く使う片側がスコップでもう片方が根堀りのようになった折り畳み式の手鍬も使い易い。しかし、たとえいくら鋭利な最新のピッケルを用意したとしても、厳冬期の朽ち木や土はカチンカチンに凍っていて、崩すことは困難となる。だから、首都圏では12月一杯が観察の好期となる。

<写真>クロナガオサムシ、コガタスズメバチとキイロスズメバチ、ヒメマイマイカブリ、ウバタマコメツキ、アオオサムシ、ヒメオサムシ。



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