(61)じっと風雪に耐えてます
《タテジマカミキリ・ウラギンシジミ・ホソミオツネントンボ》



 誰が考えたって昆虫の越冬場所は、特に成虫は、前述したような比較的安定した所が選ばれると思うに違いない。しかし、動物界きっての大発展を遂げた昆虫の中には、そんな常識をくつがえす変わり者が存在する。小枝や葉っぱの裏で、春までじっと風雪や氷雨に耐えているのである。小枝や葉っぱの裏は冬の厳しい寒気にもろに触れるし、ひとたび寒波が来襲すれば、ちぎれんばかりに激しく揺れ動く。どう考えたって不安定極まりなく越冬に好条件な場所とは考えづらいが、甲虫の仲間ではタテジマカミキリが、蝶の仲間ではウラギンシジミが、トンボの仲間ではホソミオツネントンボがそうである。
 ヤマウコギの木を知っているだろうか。山菜摘みが趣味の方なら知っているはずだが、一般の方にはなじみが薄く、葉を落とした状態では識別は難しい。しかし、同じウコギ科のカクレミノなら公園や民家の庭にもあって、半纏を逆さにしたような独特の葉で、常緑だから見つけ出すことは容易である。見つけたらタテジマカミキリを探してみよう。自然度の高い雑木林の近くにあるカクレミノなら確率は高くなる。タテジマカミキリは水平に張りだした2、3年前の褐色に変わった小枝についている。タテジマカミキリの身体の色も褐色で、その名の通り細く黒い縞が縦に入ていて、カクレミノの小枝とそっくりである。しかも、大顎で身体がぴったりはまるように表面を削って、しっかりと小枝を抱え込んでいるから、目の良い小鳥だって気づくまい。風が少しぐらい吹いたところで、落ちてしまうなんてことも無いだろう。
 ウラギンシジミは、高柳芳恵さんの本『葉の裏で冬を生きぬく蝶』偕成社刊で詳しく書かれているが、カシ、ツバキ、モチノキ、サカキ、モッコクなどの常緑広葉樹の葉裏で越冬する。しかも、ほとんどの個体が一度決めた越冬の場所を離れることなく、葉裏に爪をしっかりと食い込ませ、じっと春が来るのを待っているだという。その間、命を落とす個体も相当な数にのぼるようで、厳しい冬はウラギンシジミにとっても、次世代に命をつなぐ最大の難所となっている。ウラギンシジミはその名の通り、羽の裏が白銀色の蝶である。濃い緑の葉に白銀色では目立ってしまうと考えがちだが、葉の裏側をのぞき込まない限り発見するのは難しい。ウラギンシジミは、ちょっとした緑地があれば生息しているので、葉の裏をのぞき込んで探せば必ず見つかる身近な蝶である。
 最後に、開発の進んだ首都圏の緑地では見られなくなったが、トンボの仲間のホソミオツネントンボ(細身越年蜻蛉)が、枯れ草や樹木の小枝につかまって越冬している。低い山などに出かけた折には、注意を払って欲しいものである。か細い体で風雪を耐え忍んで越冬する姿に、きっと感動を覚えるに違いない。


<写真>カクレミで越冬するタテジマカミキリ、ハリギリで越冬するタテジマカミキリ、モチノキの葉裏で越冬するウラギンシジミ、ほんの少し羽を開いたウラギンシジミの雄、ホソミオツネントンボ、ツチイナゴ。



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