日本列島に西高東低の気圧配置が現れ気温はぐんと下がり、冷たい木枯らしも吹いて落葉広葉樹の葉が全て落ちるのは、首都圏では12月下旬である。ちょうどこの頃は冬至の前後で、昼間は一年で一番短く、まだ寒さに慣れぬ身体に野外での観察は一番辛い季節である。しかし、防寒に十分注意して、この季節ならではの北風に揺れる変な物を探しに行こう。まず、観察を急がなければならない変な物は各種の蝶の蛹である。というのは、いくら身を目立たぬ色に変えてフィールドの片隅にひっそり隠れていても、餌が少なくなって空腹の小鳥たちには見つかってしまう。冬の始めに観察できた蛹が、春の始めにはだいぶ少なくなっているから、その数は僅かばかりではないようである。
 蝶の蛹の観察には、冬が来る前に食草や食樹のありかを調べておくことが必要で、例えば、ジャコウアゲハはオオバウマノスズクサやウマノスズクサ、アゲハやクロアゲハ、モンキアゲハ、カラスアゲハはサンショウやミカン、カラタチ等の柑橘類、モンシロチョウはキャベツやダイコンといった具合である。しかし、専業農家の栽培しているミカン畑やキャベツ畑は、農薬散布が徹底しているらしく、いくら食草、食樹があろうとも、アゲハやモンシロチョウの蛹を探し出すのは難しい。サラリーマンやお年寄りが、無農薬栽培を営んでいる一坪農園や市民菜園が、これらの蛹を探すには絶好の場所となる。
 まず最初に、最も簡単なモンシロチョウの蛹を見つけてみよう。キャベツやダイコンが植えられていた畑に行って、土が崩れないようにするための土留に注意しょう。土留はコンクリや木やプラスチックやトタンの板である場合がほとんどで、蛹は南側ではなく北側の方についているから、目をこらせば簡単に見つかる筈である。また、畑の隅に建っている物置小屋の外壁もポイントで、やはり北側についている場合が多い。時期が早いと蛹ばかりでなく、これから蛹になろうとしている終齢幼虫や前蛹にも出会える。雑木林の近くならば、同じような場所でスジグロシロチョウの蛹も発見出来るに違いない。
 次にアゲハの仲間、アゲハ、クロアゲハ、モンキアゲハ、カラスアゲハの仲間は民家の垣根のカラタチやサンショウの木の回りがポイントで、食樹の幹や枝に着いている場合もあるが、蛹になる前の終齢幼虫はいったん食樹を降りて移動する習性があるので、近くの塀や壁、背の低い木の枝に着いていることの方が多いようである。そして最後に、姿形が番町皿屋敷のお菊が木に縛りつけられているようにも見えるので『お菊虫』と呼ばれるジャコウアゲハの蛹は、食草がたくさん生えていた場所の木の枝や幹、物置小屋の壁などに着いているから、注意して欲しい一見の価値がある蝶の蛹の一つである。

<写真>ジャコウアゲハの蛹、アゲハの蛹、クロアゲハの蛹、キアゲハの蛹、モンシロチョウの蛹、スジグロシロチョウの蛹。


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(62)自由を夢見るお菊さん
《ジャコウアゲハ・クロアゲハ・モンシロチョウ》