成虫(蛾)は見たことは無いが、北風に揺れる変な物は誰でも知っている。家庭や公園の植木や果樹の葉を食べる害虫だけど、ユーモラスな格好から恨まれたりなどされずに、むしろ親しまれているという果報者がいる。ミノムシである。ミノムシは、鱗翅目の蛾の仲間のミノガの幼虫である。日本には約40種類の仲間が知られているが、私たちが知っていて親しんでいるミノムシは、一番大きなオオミノガの幼虫である。子供の頃、ナイフで蓑を切り裂いてみたことがあるが、まるまる太った愛敬のある顔の持ち主である。首都圏では数こそ減ったが普通に見られ、東北地方の北部や北海道には産せず、関東より西の地域、台湾や東南アジアまで生息しているという。絹の毛布にくるまっているのだから、寒さには強いと思われがちだが、熱帯起源の昆虫である。
オオミノガの成虫は、図鑑で見ると決して美しいとは言えない黒褐色の蛾である。成虫は5月下旬から6月上旬に現れるのだが夜間に活動し、しかも、雄だけが蛾の形となって現れるのだから、野外での観察は難しい。いったい雌はどうしているのかというと、雌は成虫になっても羽も足も触覚も無い、グロテスクな芋虫状のもので、蓑の中から一歩も外に出ず、雄と交尾して蓑の中に産卵するのだという。雄は雌の居場所を雌が発するフェロモン(性誘因物質)によって感知し、蓑の穴に腹部を伸ばして交尾する。雄はこの間、雌の姿を一度も見ることは無いのだから、普通の動物の結婚とはだいぶ様子が違う。我々がお見合い結婚をする時、まず初めに見合い写真を見るというのに。
雌が産み落とす卵の数は、何と3000〜4500個にものぼり、蓑の中は卵だらけとなるらしい。だから、オオミノガの雌は身体のほとんどの部分が
卵で占められていたことになる。卵は6月下旬になると孵り、幼虫は糸を吐いて風に乗って遠くへ運ばれて行く。夏になると各種の樹木の葉に、小さな蓑をかぶって逆立ちしている格好の幼虫を見かける。オオミノガの生態を本で知る前までは葉に虫瘤が出来ている位にしか思わなかったのだが、注意して見ると葉の表面が齧り取られて葉脈が現れている。孵化したばかりの幼虫は小さくて、葉をバリバリと食べれないのである。こうして秋が深まるまで成長し、蓑の中で冬ごもりをするのである。丈夫な蓑の中に入っているから安全のように思えるが、シジュウカラなどが蓑の穴から嘴を入れて食べてしまうのだという。
冬は寒くて外へ出るのが億劫になるが、風の無い暖かい日を選んで、
オオミノガを筆頭に、ネグロミノガやクロツヤミノガなどを探し歩くのも楽しいものである。いったい何種類のミノムシに出会えるだろうか、冬がやって来るたびにわくわくする課題の一つである。
<写真>オオミノガ、チャミノガ、種名不明、種名不明、ネグロミノガ、ウスバヒメミノガ。
つれづれ虫日記(64)へ
つれづれ虫日記INDEXへ