地球温暖化が心配されているが、何事も無いかのように新年に入って寒さは一段と厳しくなった。昨年の長く続いた猛烈な残暑が、遠い昔に見た蜃気楼のように感じられる。太陽の照っている時間が一番短い冬至が過ぎて、少しずつ日没は伸びてはいるが、冷え切った大地を温めるには、まだだいぶ時間がかかりそうである。秋から晩秋にかけて実っていた色とりどりの各種の木の実、草の実も、クチナシやヤツデを除くと、ほとんど木枯らしと低温にやられ茶褐色に萎びたり落ちたりして、常緑のアオキの実だけがみずみずしく輝くように光っているのが印象的である。このため日本原産のアオキは、欧米でもとても人気があるという。
新年恒例となっているソシンロウバイの花見は、北風がおさまるのを待って晴天の日を選んで出かけた。正月の松の内、出来れば三箇日の内に出かけたいのだが、親戚周りだの初詣だのと渡世のお勤めをきっちりと果たしてからとなるので、4日や5日になることが多い。それでも企業や商店は休みの所が多く、三箇日ほどではないにしても正月独特の静謐な空気が街中に漂っている。フィールドは正月とは無関係なはずだが、なぜだかいつもより清められて静かであると感じるのだから不思議である。学生時代に下宿していた長野県松本市の旧市街は、一年中このような静謐さに満ちていた。常念岳の向こうに槍ヶ岳が見える北アルプスの麓、湿度が低く空気が澄んでいて、俗世間の臭いを発散させる看板等が少ない城下町は、首都圏に住んでいる者には信じられないほどの静かさがあった。
雲一つ無い晴天の冬のフィールドは空がどこまでも青い。クヌギやコナラを主体とした雑木林の梢が空に突き刺さるかのように輝いて伸びている。今年もカメラ片手の里山を中心とした花巡り、虫巡りのスタートが切られた。ここで紹介するソシンロウバイは後述するように日本の山野に自生する植物ではないものの、花の少ないこの時期、新年最初の待ちに待った恒例の花見として、いつのまにか定着してしまった。藍色とも表現できるような青空と静謐なフィールドに、クリーム色の薄い花弁がとても似合っているのである。
去年のフィールド日記を見ると、東京都調布市にある神代植物公園では、ソシンロウバイは1月下旬が見頃であったとあるが、海に近い神奈川県は武蔵野よりやはり温暖なのだろう。本で調べて見ると一月の日最低気温の平均は、大手町と新宿では約1度の差があり、吉祥寺あたりでまた1度、立川あたりでまた1度というように気温は下がって行くのだという。そう言えば中央線に乗っていて、都心では雨が降っていたのに、国分寺を過ぎる辺りから雪に変わった経験がある。
ソシンロウバイはロウバイの変種で、ロウバイの内花被が紅紫色になるのに対して、ソシンロウバイは内花被も黄色である。ロウバイは中国中部が原産で江戸時代に渡来したと言われている。ロウバイは漢字で書くと蝋梅で、花がまるで蝋細工のようだから名づけられたという説が一般的であるが、12月(臘月)に咲くからそう名づけられたという異説もある。臘月とは聞き慣れぬ言葉で、12月は師走と呼ぶはずだと思って辞書を引いてみると、陰暦12月の異称であるとある。年賀状などで『旧臘中は大変お世話になりました』などと書くこともあるという。しかし、ロウバイのロウは蝋燭の蝋で臘月の臘ではないと思う。いずれにしても花の少ない寒中に咲く花木として珍重され、12月下旬に花屋さんへ行くと正月の生花として必ず並んでいる。
<写真>冬の陽が差し込む黒川の雑木林、すっかり裸になった黒川の雑木林の梢、青空に浮かんだソシンロウバイ、神代植物公園のロウバイ、舞岡公園のヤツデの実、形の面白いコクサギの実、小野路町のクチナシの実、小石川植物園のロウヤガキの実、生垣のマサキの実、つやつや光る舞岡公園のアオキの実。
(1)新年最初の里の花