(14)ピーチクパーチク鳴いてます
春分の日がやって来ると、ウィークエンド・ナチュラリストは“花よ蝶よ虫よ”とあちこち駈けずり回って大忙しとなる。東洋の暦では梅が咲き始める立春からが春だが、西洋の暦では春分からが春となる、毎週末、里山散歩をし続けていると両方ともなるほどと納得できるのだが、“花よ蝶よ虫よ”となるのは、年によって多少のずれはあっても毎年春分からとなる。気温はますます上がって、日中は汗ばむほどの陽気となり、もう間違っても防寒服を着ることもなかろう。まさに自然観察に絶好の季節となった。
丘の上の畑では各種の菜の花、油菜の花、小松菜の花、白菜の花、大根の花が咲いて、ヒバリがピーチクパーチクと楽しそうに囀っている。小麦は青々として勢いを増し背丈もぐっと伸びて来たから、もうすぐヒバリ君の絶好の隠れ家となるであろう。ツクシンボウやノビル、白く薄い綿毛で覆われたヨモギも伸び始めて、実に美味しそうである。これからしばらく丘の上の畑も谷戸も、一年で一番の賑わいとなるだろう。
谷戸田へ通ずる雑木林の小道を降りて行くと、昔は普通にあったが、最近探すのに苦労するシュンラン(16項参照)が咲き始めている。どうか盗掘に会わずにいつまでも頑張って欲しいと願わずにはいられない。可憐なウグイスカグラは先週に比べ花を増し葉も開き始め、クリーム色のキブシの花が暖簾のように垂れ下が咲く姿は風情がある。南斜面には可憐な小さな黄色いキジムシロも花を付け始め、タチツボスミレの薄紫の花もだいぶ多くなった。谷戸田に降りると春のフィールドを彩る宝石達、オオイヌノフグ、ホトケノザ、ヒメオドリコソウ、タネツケバナ、ナズナ、トウダイグサ等が一面に咲いて、早くもタンポポが黄色く咲いて、春の光が反射して目に染みる。昆虫の世界でも数多くの種類が目覚め、前述したチョウ達がますます陽気に飛び回り、咲き出したタンポポに無心になって吸蜜する。草むらではずっと前に目覚めているナナホシテントウに加え、スイバやギシギシの大好きなコガタルリハムシや、伸び始めたイタドリの芽に呼応するかのようにイタドリが大好きなイタドリハムシも羽化して来たようである。ミツバチや各種のハナアブも目覚めて盛んに、宝石達の蜜を吸っている。何処を見回しても生命を謳歌する春が一杯だ。
谷戸田に接する農家の庭先には、これまた数多くの花が咲いて、特にやや緑がかった独特な格好をしたトサミズキや褐色がかった黄色の手毬のようなミツマタの花が美しい。トサミズキは最近随所に植えられるようになったが、その名のように高知県の蛇紋岩土壌に生育していたもので、少し遅れて咲き出すヒュウガミズキとともに、庭木として無くてはならない存在となった。ともにミズキと名が付くがマンサク科の植物である。農家の裏山に目を向けると、切花用の花桃が、ごく一般的な桃色の花だけではなく、朱に近い赤や気品溢れる純白の花を交えて眩しいくらいに美しい。
この他、様々な色合いと形のツバキ、モクレン、ハクモクレン、コブシ、シデコブシ、ユキヤナギ、チョウセンレンギョウ、レンギョウと、数え上げたら切りが無い程に各種の花木が咲いているのだから見逃す手は無い。有料の植物園では無くて、これらの花が咲き乱れる車の来ないのんびりとした散歩道を近くに見つけ、この時期、午後になると必ず風が強くなるから午前中に出かけて、桜が咲く前にゆっくりと思う存分に春の花散歩を楽しみたいものである。
<写真>横浜市青葉区保木の花桃畑、震生湖からナノハナ畑を望む、ツクシ、カントウタンポポ、ヤブツバキ、トサミズキ、ヒュウガミズキ、ヒカンザクラ、アンズ、スモモ、ユキヤナギ、ミツマタ。