(21)木の花も選手交代


 ヤマツツジの薄い朱赤の花も終わり、ミズキの純白な花も黄褐色に変わったが、早くも日当たりの良いところにあるエゴノキの花が咲き出している。見上げると小さな白い傘の付いた電球のようで、それが数え切れない程に密集して垂れ下がっているのだから素晴らしい。たしか朝鮮に無数のガラス玉が垂れ下がるシャンデリアがあったと思うが、それに感じがとても似ている。緑が濃くなった雑木林をバックにしても良し、5月の青空に透かしてみても見飽きることがない。
 エゴノキの花に比べると小さな白い花で、目立つ存在ではないがコゴメウツギも各所に咲いている。また、里山の木の花としては出色な存在とも言えるハコネウツギが、白からピンクまでの様々な色合いで賑やかだ。
 かつて良く出かけたフィールドが市民の森になって、休耕田を田んぼとして復活する試みがなされているとテレビで放映されたので出かけて見た。ちょうど黒地に3本の白いストライプが印象的で滑るように舞う蝶であるコミスジや、緑色に金属光沢が美しいカワトンボ、谷戸で一番最初に現れる大型のトンボであるヤマサナエの観察の適期である。また、各種のハムシ、ジョウカイボン、オトシブミ等が雑木林の小道の両脇に茂る草むらで待っていることだろう。そう期待して出かけたのだが、緑に憩う市民のための安全と快適な歩行のために、雑木林の小道の両側は奇麗に刈られ、一部に舗装された部分もあって、昔日の山野草や生き物の賑わいは無くなっていた。市民の森に指定されて広大な雑木林が保存されることになったことは、とっても素晴らしいことであるし、多くのナチュラリストが熱心に運動したことによっての結果でもある。しかし、これでは山野草好き生き物好きの者にとっては大幅な後退である。求めていたカワトンボやヤマサナエの個体数はだいぶ減り、コナラのひこばえなどの葉が大好きな普通種のヒメクロオトシブミや、ヤマブドウの葉が大好きなブドウハマキチョツキリなどは、風が強いこともあってだろうが見ることさえ出来なかった。
 このような行政が関与して公園として保存することになった緑地で、皮肉にも同じような現象、山野草の減少や生き物の賑わいが無くなった所が各所にあるという。下草を刈って奇麗に山掃除された雑木林に、太い倒木が転がっていると、景観が悪いからと片付けられてしまうのだそうである。これでは朽ち木の中で冬を越す昆虫達が減ってしまうのは当然である。また、土が落ちてくるからと山側の路肩を杭や板で覆ったり、ぬかるんで靴が汚れるからと簡易な舗装をしたりして、崖地や地面に巣を作る昆虫達の生活の場を奪ってしまうのである。これでは昆虫を食べる小鳥の餌も少なくなって、小鳥達の賑わいも減じてしまう。
 山野草を含めた多くの生き物たちにとっての楽園は、農家の方々の適度な管理のあったかつての雑木林や谷戸田のようである。そんな取り組みが私のフィールドとしている町田市にある多摩丘陵でなされている。女性のためにトイレがあったらいいのにと聞いてみると、そんなものを作ったらたくさんの人が来てしまって自然が壊れてしまう。本当に自然が好きな人たちだけが来てくれればいいんだという答えが帰って来た。今日出かけた市民の森は、とりあえず貴重な緑が守られたのだから大きな前進であるが、これからは税金を使うのだからというお役所的な見栄えを重視した発想による人間中心の快適さだけでなく、そこに住む多くの生き物たちの快適さもおもんぱかった森作りが望まれるようである。





















<写真>エゴノキの花、水温む谷戸田、コミスジ、新治市民の森のヤマサナエ、新治市民の森のカワトンボ、ヒメクロオトシブミ、ブドウハマキチョッキリ、舞岡公園のウドの仲間が大好きなヒメシロコブゾウムシ、舞岡公園のイタドリハムシ、舞岡公園のセンニンソウが大好物のオオアカマルノミハムシ、ジョウカイボン。


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