梅雨を思わせるような天気が続いている。雨さえ降らなければ晴れているより暑くもなく快適な自然観察が出来る。これから残暑の収まる9月一杯、写真撮影には曇日の方が好適となる。特に梅雨時の名花であるハナショウブやアジサイを晴天の日に撮影しても陰影がどぎつくなって、趣ある写真にはなりえない。また、少しぐらいの雨なら傘を差しての小雨にむせぶ雑木林の散策も年に一度位なら風情があって楽しいものである。
今なお残る谷戸田では早くも田植えの終わった所も見られ、田圃と雑木林が接する草地の斜面には、ノアザミ、タツナミソウ、オカタツナミソウ、ミヤコグサ、ニワゼキショウが咲いて綺麗である。昭和になって帰化した北アメリカ原産のアメリカフウロも、すっかり谷戸田周辺の住人となったようで、秋になると咲くゲンノショウコに似ていて、とっても可愛らしい尖がり帽子の実を付ける。民家の近くの空き地には、至る所に薬草の代表格であるドクダミが群落を作って咲いていて、ドクダミ茶を作るのだとご婦人が丁寧に摘み取っていた。
今日はカエルの観察会が催されていて、自然に興味のある方々が合羽に身を固めて、熱心に講師の話に聞き入っている。田圃に水が張られ天候も幸いして、カエルは大喜びのようでゲロゲロと昼間から鳴き出している。まさにカエルの観察日和である。こうなれば余り出会いたくない各種の蛇も、これからしばらくカエルを狙って田圃を住処とするであろうから、ギョッとする有り難くない出会いも遠のくであろう。いよいよ梅雨の季節が間近に迫っていることがフィールド各所で感じられた。
この時期、“歩く宝石”とも形容される美麗なアカスジカメムシが現れる。首都圏平地で見られるカメムシ、いや日本産全昆虫の中でも、比類無き美麗な昆虫である。アカスジキンカメムシは、屁っぴり虫と嫌われ者のカメムシの中で、その美麗さ以外にも何となく異質の趣のあるカメムシである。まず第一に体高があって丸っこく気品を感じさせる。次に葉の上で眠っているがごとくに休んでいる。しかも、とっても身近な緑の多い公園にも生息していて、東京都文京区の小石川植物園にも数多い。終齢幼虫はオシメを着けた赤ちゃんのようで可愛らしい。そんなアカスジキンカメムシについて、もっと詳しく調べてみようと各種の図鑑を開いてみた。
アカスジキンカメムシは姿格好からクチブトカメムシ類やサシガメ類と異なって、動物食ではなく植物食のカメムシであることが予想されるが、なんと落葉樹のコナラ、ミズキ、キブシ、エゴノキ、常緑樹のツバキ、アオキ、針葉樹のスギ、ヒノキ等と、とてもバラエティーに富んでいる。食物食といっても半翅目に属するのだから口はストロー状で、植物の葉や実から汁を吸う訳である。分布は北海道を除いて日本全国、台湾、中国からチベットまで生息しているという。
もっと深く知りたいと期待して図鑑を開いた割には、簡単な説明ばかりで拍子抜けしてしまった。とっても身近に生息していて美麗なアカスジキンカメムシといえどもこの程度のことしか分かっていないようで、研究するに値する昆虫たちが身近にわんさかいるのだから楽しくなる。私の観察ではアカスジキンカメムシは首都圏平地ではミズキやキブシが好きなようで、昼寝ばっかりしているので、殊によったら夜行性の昆虫かもしれない。なお、冬期にミズキの木の周辺の落ち葉を捲ってみると、オシメ姿の終齢幼虫が縮こまって越冬しているのが観察できる。
<写真>今にも雨が降りそうな谷戸、ノアザミ咲く谷戸、タツナミソウ、アカスジキンカメムシ、アメリカフウロ、ドクダミ、ミヤコグサ、ニワゼキショウ。
(23)小雨の中の自然観察