(26)カミキリムシが現れた
先週、どんよりとした梅雨空でも眩しい程に鮮やかなクリーム色だった栗の花は、早くも褐色に変わっているものが多くなった。谷戸田の稲は背丈はさほど伸びてないが、茎は青々とますます太くなって完全に活着し、夏の強烈な太陽を受け止める準備が整ったようである。雑木林のオニグルミやミズキの実は大きくなって、ミズキより花期が一ヶ月ほど遅れるクマノミズキの花が今盛りである。公園の芝地には、薄紅色の小花で螺旋階段を造るネジバナの花穂がすっと立って花が開き始め、引き続いて咲いているニワゼキショウとともに、緑一色の芝生に彩りを与えている。
今日はフィールドで数々のカミキリムシに出会ったが、まずはなんと言っても最近減少著しい日本最大級の甲虫であり、最大のカミキリムシであるシロスジカミキリに登場願おう。シロスジカミキリの幼虫はクリやクヌギヤコナラの幹の中で生きた材を食べて成長し、真ん丸いトンネルを掘って外界に出て来るという栗栽培の農家にとっては困り者のカミキリムシである。一本のクリの木に多数の幼虫が生息していると木は弱って、大風の時に折れてしまうことさえあるという。クヌギやコナラから樹液が出る原因は他にもあるように思われるのだが、シロスジカミキリが卵を産み付ける時に強靭な大顎で傷つけた丸いお灸の痕のような多数の傷や、成虫が出て来る時のトンネルが原因で樹液が出て来る場合が多いと言われている。このため、樹液好きの昆虫たちにとってシロスジカミキリはあり難い神様のような存在なのかもしれない。シロスジカミキリは日中は高い梢にしがみついて昼寝をむさぼっていたり、小枝の皮をかじって食事していたりすることが普通で見つけにくいのだが、夏になると薄暗い雑木林の中で、コナラやクヌギの幹を上へ下へと行ったり来たり、幹をぐるっと回ったりして産卵のための作業を繰り返す。こんな光景に出会ったらじっくりと観察できるチャンスである。
しかし、6月のこの時期に是非とも注意して観察して欲しいカミキリムシは、とっても美麗なラミーカミキリや真っ赤なベニカミキリである。ラミーとは麻縄や麻袋を作るための繊維をとるために栽培されている東南アジア原産のイラクサ科のチョマ(英名でラミー、和名でナンバンカラムシ)のことで、ラミーカミキリは首都圏では同じ目的で栽培されていたカラムシやヤブマオの葉の上で発見できる。しかし、ラミーカミキリはとても敏感なカミキリだから、発見したら静かに近寄らないとすぐに飛び立ってしまう。
ベニカミキリは写真を見ていただければすぐに分るように、紅色の地に胸部に黒い斑紋のあるおしゃれなカミキリである。カミキリムシといえば褐色や黒色などの地味な色のものが多いと思いがちだが、首都圏平地にもこんな色合いのカミキリがいるのだから素晴らしい。ベニカミキリはモウソウタケやマダケを食害するカミキリムシだから、会いたかったら竹林の周りが要注意の場所である。殊にモウソウチクが切り出されて褐色に山積みされていたら必ず出会うことができるだろう。
この他、写真のように各種のカミキリムシが現れて来る6月だが、もし、ヒノキの丸太が切り出されていたら丸太はもちろんのことその周辺で、カミキリムシではないが、美麗なマスダクロホシタマムシを探して欲しい。本当に可愛らしい宝石のような昆虫である。
<写真>小雨降る谷戸、稲が根付いた棚田、シロスジカミキリ、ベニカミキリ、ラミーカミキリ、ツマグロハナカミキリ、キマダラカミキリ、ハイイロヤハズカミキリ、ウスイロトラカミキリ、キイロトラカミキリ、マスダクロホシタマムシ、シラホシナガタマムシ、ケヤキナガタマムシ、ヤノナミガタチビタマムシ。