だいぶ暗くなったのでそろそろ家に帰ろうと、丘の上の畑から降りかかると小道脇のアズマネザサの茂みから新鮮なアゲハチョウが飛び立った。アゲハチョウも今日一日の活動を終えて眠りに就こうとしていたのである。先週は同じ時刻に眠りに就こうとしているスイバの花に止まる新鮮なキアゲハに出会ったし、どうも今はアゲハチョウの仲間の第2化の季節のようである。第1化が4月中旬だから、約2ヶ月ぶりということになる。今日出会ったアゲハチョウも先週出会ったキアゲハも、ともにねぐらと決めた場所がお好みのようで、写真撮影でびっくりさせて飛び立たたせても、一回りしばらく飛んで戻って来る。
 もっとも縄張りを張っているヒカゲチョウの傍を通る時には“俺の所場に入るな”と追い立てられるが、飛び立つ前とさほど変わらぬ場所に静止する。アゲハチョウはアズマネザサの葉が、キアゲハはスイバの花が6本の足で止まるのに好都合のようである。カメラに納めようと近づくと接近を察知して、共に羽を威嚇するがごとくに水平に開くので写真撮影には好都合である。アゲハチョウはミカンやサンショウ等の柑橘類をキアゲキハはウドやセリやニンジン等を幼虫が食していて、だいぶ異なっているように見えるのだが、姿格好と習性は似通っている点が多いようである。
 ところで、アゲハチョウもキアゲハも第2化の方がくすんだ色となることが知られている。なぜ直射日光の強い夏期の方が黒ずむのであろう。吸収する光の量が多くなって暑くて堪らないはずである。われわれ人間だって夏になると反射率の高い白っぽいシャツを着るというのに。動物でも植物でも暑い地域のものに黒っぽいものが多くなることが知られている。たとえばテントウムシだが、テントウムシの羽の色には4つの型があって、黒の地に赤い紋が二つ(二紋型)、黒の地に赤い紋が四つ(四紋型)、黒の地に赤い紋がたくさん(斑紋型)、赤い地に黒い紋がたくさん(紅型)の4型である。これらの型の分布は北のほうに行くほど紅型が多くなり、南に行くほど二紋型が多くなるという。どうしてそうなるかの科学的な説明はなされていないが、春に比べて温度や陽光の強さ以外にも、例えば木や草の葉が色濃くなってびっしりと繁茂し、雑木林の中や草地の地面に届く光の量が減って、そこに生活するものは、色が黒っぽくなった方が生存競争に有利になると言った具合に。
 しかし、花の世界ではこの時期も白い花が優勢で、雑木林では各種の昆虫達が大好きなリョウブやオカトラノオが咲き、本来は山地性であるが、花と樹肌の美しさから植えられているナツツバキはまるで繭玉のような美しい白さだ。まさかそれらにつられて白くなったのではなかろうが、夏至から11日目の半夏生の頃に咲くので名づけられたというハンゲショウの葉も白くなりだしている。ハンゲショウはドクダミの仲間で、葉が半分白く化粧したようにも見えるので、『半化粧』からその名がついたとも言われている。白くなることで各種の虫を呼び寄せるのだという。葉が白くなるといえば猫の大好きなマタタビも白くなるが、同様の目的なのだろうか。残念ながら図鑑には書かれていない。この時期、芝地に彩りを添えているラン科のネジバナも花を螺旋状につけるが、何かきっと訳があってねじれているのだろう。何故何故と突き詰めて行くとつまらなくもなるが、身近な自然の中にも不思議なことが一杯だ。




<写真>アゲハ、キアゲハ、オニグルミ、ネジバナ、リョウブ、ナツツバキ、ハンゲショウ、オカトラノオ。


(27)夏だから黒くなる



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