小寒から大寒を経て立春前日の節分の日までを寒の内というが、その名にたがわぬ異常な寒波が日本列島を覆い尽くしている。おまけに先週山に積もった雪が溶けずに残っているのだから、吹く風は鋭く肌を刺す。それでも朝6時に起きてフィールドへ向かうのだから、一般の方々から見れば変人として映っても仕方がない。少なくともフィールドに8時には着きたい、霜や氷が作り出す様々な模様をフイルムに写し止めたいからである。
 今日はドンドンヤキの日である。遠い昔には、横浜市の各所でも行われていた子供たちの冬の楽しみであった。樫の小枝に紅白のだんごを刺して、正月の松飾りの等を集めて来て燃やし、その火でだんごを焼いて食べると病気にかからないと言われていたのである。集まった子供たちは、そんな風習にはお構いなしに、美味しいだんご目当てで集まったものである。現在は何処の家庭でもそれこそ溢れんばかりにお菓子があるが、遠い昔の子供たちは常にお腹を減らしていたのである。翌朝の新聞に目を通すと、横浜市の各所でドンドンヤキが復活しているとある。寒い最中に子供たちが集まって、正式には左義長と呼ばれる火祭りを行うことは、色々な面でとても有益なのではなかろうか。
 『森の妖精は冬芽に宿って冬を越す』と言った方がいたが、各種の葉の落ちた後に残る可愛らしい戯けた表情を見るにつけ“なるほど”と頷かずにはいられない。森の陽気な妖精たちが宿っていると思われる程に、様々な変化に富んだ表情は、どんなに優れたキャラクター・デザイナーでも敵うまい。そんな魅力に溢れた表情に会いたくて、寒さにもめげずに冬芽観察を毎年繰り返している。妖精が宿る部分は、正確には冬芽ではなく、冬芽の下の葉の落ちた部分、葉と幹とを結ぶ養分や水分の通り道(維管束)の痕である。もし写真を見て妖精に会いたくなったら、近くの公園へ駆けて行ってみよう。公園には必ずといって良いほどにアジサイが植栽されているからだ。アジサイにもたくさんの園芸品種があるから、そこに宿る妖精たちも様々である。もし公園にフジがあったら丸顔の妖精に会えることだろう。
 雑木林に出かければたくさんの妖精たちに出会えると思うが、同時に、その上にある冬芽にも注意を払らえば、冬の一日がますます楽しくなる。冬芽は大きく鱗芽と裸芽に分けられ、鱗芽は葉の変形した芽鱗(鱗片)によって芽が保護されている。これに対して裸芽は毛深くはなっているが裸の芽で、葉が縮こまっているかのようである。鱗芽の代表格として、ベトベトした粘液で覆われたトチノキ、毛皮のコートを着たようなモクレンやコブシ、ビニールコートを着たようなホウノキ、裸芽の代表格として維管束の痕がとっても可愛いオニグルミやサワグルミ、春になったら開くはずの縮こまった葉が良く分るアカメガシワ、クサギ、ムラサキシキブには是非とも注目して欲しい。こうして樹木に興味が生まれら、春の芽だしから新緑、開花から結実、そして紅葉と一年を通してつき合える。また、樹木は建築材料としてばかりでなく家具を始め様々な用途に使われているから、材としての樹木への関わりもとても楽しいものがあるだろう。木枯らしが吹き始める12月から梅が咲き出すまで、カメラ片手にフィールドへ現れる方々の数はぐっと減るが、どっこい冬の雑木林は楽しさに満ちている。

<写真>冬の丹沢連峰、ハクモクレンの冬芽。

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(3)吹く風は肌を刺す



<様々な冬芽と葉痕たち>


アジサイ/ヤマトアオダモ/トチノキ/フジ










ドウダンツツジ/アワブキ/コナラ/チャンチン










ハコネウツギ/ニガキ/ゴシュユ/カキ










ホオノキ/ハンカチノキ/イイギリ/ゴンズイ










キハダ/クヌギ/アカメガシワ/キリ










クリ/ネムノキ/ムクロジ/ミズキ










クズ/ニシキギ/クサギ/ハリエンジュ










ニワトコ/ヌルデ/ニワウルシ/オニグルミ










リョウブ/サンショウ/サワグルミ/センダン










アカメヤナギ/ハンノキ/アオギリ/タラノキ