今日は大寒である。中国で始まった二十四節気は、日本の気候にそぐわない部分も多少はあるが、このところの寒さは大寒という名にふさわしい。理科年表で、全国80地点で最低気温を観測した日を調べた記事が新聞に載っていた。それによると大寒から立春前日までが33地点で一番多く、次いで立春から雨水前日までが18地点とこれに続くと記してあった。これから約3週間が寒さの正念場ということになる。
陽が照っていれば良いものの、どんよりとした曇り日だと、ウィークエンド・ナチュラリストを自認している私といえども、朝早く起きてフィールドへ出向くのが億劫になる。早咲きの梅はほころびはじめ、引き続いてニホンスイセンやロウバイが咲いているのだが、曇り日では光量が足らない。褐色のバックばかりでは、お天気同様、気が滅入るばかりである。やはりこの時期は、真っ青な空に花々を浮き上がらせたい。ドイツの偉大な文豪ゲーテではないが、冬の写真撮影は“もっと光を”ということになる。
しかし、こんな曇天の寒い日だからこそ、観察や写真撮影に適したものがある。成虫や幼虫で越冬する昆虫たちである。特に落ち葉の下で越冬する昆虫たちは、こんな寒い日には、じっと落ち葉の裏にしがみついているのだから最高である。まだ、越冬したての初冬や目覚めの季節を迎える少し前などは、気温が高くて、苦労して見つけ出した昆虫が、うつろな眼で動きだすから写真を撮るチャンスを逸してしまう。だから凍りつくような日がベストなのである。それにこんな寒い日であっても雑木林の中に入ってしまえば風は和らぎ、何とか観察を続けられるのだから助かる。落ち葉をめくって行くと、かなり分解がすすんでもうすぐ土になろうかどうかという地面近くの湿った部分に、ゲジゲジやミミズ、ナメクジといった昆虫好きの人間でも触れるのがはばかれる小動物が出てくる時もあるから必ず軍手をはめよう。また、頭部の保護と人に目立つようにと派手な色のスキー帽を被ることをお勧めする。こんな格好だから少しぐらいの寒さなんてへっちゃらだけど、人の多い公園では奇異な目を向けられることは覚悟してもらいたい。
一口に落ち葉の裏で越冬する昆虫といっても、越冬するのに好適な場所があるらしい。まずは風が吹いて落ち葉が容易く飛ばされたり、陽が良く当たって昼と夜との寒暖の差が激しく乾燥する所は昆虫たちは見向きもしない。北斜面の窪地などの木の根際が最高となる。こんな所にエノキの木があったら、根際の落ち葉をめくってみよう。オオムラサキやゴマダラチョウの幼虫を発見するに違いない。この他、各種の木の根際の落ち葉をめくってみれば、エサキモンキツノカメムシ、キバラヘリカメムシ、イチモンジカメムシなどのカメムシの仲間やテントウムシ、ツマグロオオヨコバイや昆虫ではないが緑色が美しいワカバグモ、運が良いとハネナシコロギスなどに出会えることだろう。
こんな昆虫の習性を利用して、罠を仕掛けて害虫退治が考え出されている。きっと一度や二度、お寺や公園で見ているに違いない。松の幹の藁の腹巻である。正確には“わら巻き”と言いい、樹木が寒さで風邪を引かないように巻いてあるわけではなく、主にマツケムシ(マツカレハの幼虫)をここに集めて退治する罠なのである。晩秋になって越冬場所を探しに木から降りて来たら、これ幸いと暖かい格好の場所があったという訳である。もちろん、春の目覚めの前にわら巻きははずされ、マツケムシと一緒に焼却処分されるのは言うまでもない。しかし、天敵のヤニサシガメやクモ等も格好の越冬場所としてわら巻きに同居しているから、同時に焼却処分されてしまって、痛し痒しということにもなる。物事そう容易いものではないようである。
<写真>寒々とした冬の朝、今にも雪が降って来そうな雲、藁巻き、オオムラサキの幼虫、ゴマダラチョウの幼虫、アオクサカメムシ、チャバネアオカメムシ、エサキモンキツノカメムシ、ツマグロオオヨコバイ、ハネナシコロギス、ムーアシラホシテントウ。
(4)落ち葉めくりは寒い日に