(32)樹液酒場は大賑わい


 数日前から台風が関東近海に近づいているので、耐え難い程の不快指数をもたらす気圧配置となった。気温が高いだけでなく水蒸気が大気に充満しているのだから堪らない。こんな日に首都圏平地の雑木林や谷戸を訪れる者は、余程の自然好き以外には考えらない。よろよろとよろめきながらも日陰を選んで自然観察を続けるのだから、考え方によっては大した者なのかもしれない。
 こんな極暑とも呼べるフィールドでも一部の昆虫達は元気で、溜池の周りにシオカラトンボやショウジョウトンボ等のトンボがたくさん見られ、エノキやケヤキの大木の周りをキラキラと緑色の金属光沢を持った羽を光らせながらタマムシも飛んでいる。梢を飛び回るタマムシはいくら待っても近くに降りて来ないし、梢を見つめていると太陽光線が眩し首筋も凝って来る。このような理由からか、ある程度の自然度が残されている雑木林や公園にタマムシはしぶとく生き続けているのだが、見たことが無い人が多い。こんな観察の難しいタマムシなのだが、積んである広葉樹の丸太に産卵に訪れるという生態を知っていれば、その時に至近距離で美麗なタマムシを観察することが出来る。   
 いづれにしても真夏の日向の昆虫達は種類数が少ないし、熱中症も心配だから早いところ切り上げて、木陰での観察をお勧めする。この時期、ニイニイゼミやヒグラシは盛んに鳴いているのだが、アブラゼミやミンミンゼミの本格的な出現はまだ先になるから、29項でも紹介した樹液酒場に集まる各種の昆虫達を見に行こう。樹液に集まる昆虫達を観察したいのだが、オオスズメバチやヒメスズメバチ等の大型の蜂が集まっているから心配だと感じている方も多いと思う。しかし、樹液に来ているスズメバチは、近づいて虐めたりしなければ絶対に安全である。しかし、万が一のことを考えて、スズメバチの仲間が樹液に来ていたら2、3メートル離れて遠くから観察していれば良いことだし、いなかったら近づいて各種の昆虫達を観察しよう。
 樹液に集まる昆虫達の筆頭は何といってもカブトムシである。カブトムシは本来は夜行性で、日が暮れる頃、ブーンと羽音を立てながら樹液酒場に現れる。このためカブトムシを確実に手に入れたいと思ったら、昼間の内に雑木林を歩き回って樹液が出ている所を数多く見つけ、夜になったら探しに行くのが一番である。とは言っても慣れないと夜の雑木林は危険も多く一般的だとは言いがたい。世の中の子供思いの父親が、子供の前でカブトムシを手に入れて父親としての威厳を大いに高めたいと、昼間、繰り出して来るのだが各所を探し回って手に入れられなくて、デパートやペットショップへ行くことが多いようである。しかし、昼間にカブトムシを手にするコツがあるのである。それは暗い雑木林の中に樹液の出ているクヌギの木や、雑草が繁茂する中にある若いクヌギや、根元近くから樹液の出ているクヌギを見て回ることである。
 近頃の子供たちはカフトムシよりもクワガタムシの方がお気に入りで、小型のコクワガタ(25項参照)では満足せず、オオクワガタ、ミヤマクワガタ、ヒラタクワガタ、ノコギリクワガタの順に人気があるようだ。首都圏では、これらの全てに出会うことは難しいが、平地の雑木林ではノコギリクワガタに、やや山地の雑木林に行けばミヤマクワガタに出会うことが出来るだろう。この他、樹液に集まる昆虫は昼夜問わず数多く、簡単な昆虫図鑑がすぐに出来上がってしまう程である。自然に興味を持ったら、是非とも、樹液酒場の暖簾を一度はくぐって欲しいものである。









































<写真>緑広がる水田、谷戸田、タマムシ、カブトムシの雄、カブトムシの雌、ミヤマクワガタ、ノコギリクワガタ、アカマダラコガネ、シロテンハナムグリ、アオカナブン、ヒメマイマインブリ、ミヤマカミキリ、コウヤホソハナカミキリ、ヨツボシオオキスイ、オオクシヒゲコメツキ、コシロシタバ、オオスズメバチ、ハチモドキハナアブ、ホシアシナガヤセバエ。

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