しばらくぶりの雷による大雨が降ったために、フィールドの緑は生き返し、ヒマワリ、シャクニチソウ、サルスベリ、キョウチクトウと言った夏の花々が美しい。もちろん、ヒルガオやメマツヨイグサ、ヤブカラシ等の野の花や、エノコログサ等のイネ科の植物も勢いを取り戻した。雨が降ったために農家の人たちの作物への心配は無くなったものの、変わって畑の草むしりが大変である。
 雑木林や公園では発生が遅れていたアブラゼミやミンミンゼミが鳴き始めている。道ばたや空き地の草むらでは“チョンギース、チョンギース”とキリギリスの鳴き声も聞こえて来る。クヌギの樹液には羽化したばかりのゴマダラチョウも現れたのだから、もう一度晴天が戻って来れば、いつも通りの日本の夏に戻るだろう。
 夏の野の花を紹介するにあたって、この花が抜けていたら物足りないと、カラスウリの花の撮影に近所のフィールドへ行って来た。カラスウリの花は夜に咲くのだから、もちろん夜間のフィールド行きとなる。ホタルの名所でホタルを撮影したり、山梨県の里山でセミの羽化や樹液に集まる昆虫、照明灯の光に集まる昆虫等を長時間にわたって撮影するのには慣れているのだが、近所での夜間の撮影は、変質者とでも思われて警察に通報されるかもしれないと気が乗らない。しかし、カラスウリは山梨県や長野県の涼しい風の吹く、人目を気にせずにすむ山里や高原には咲いていないのだから、首都圏平地のフィールドで夜に撮影するしかないのである。
 カラスウリのように夜になると咲き朝になるとしぼむ花は、後述するがマツヨイグサの仲間もそうであるが、この他にも多くあるのだろうか。花壇の花であるがオシロイバナも、カラスウリよりやや早く夕方から咲き始めて朝にしぼむ花である。両者とも夏にはなくてはならない花というのに、ストロボの光を借りないで自然光で美しく撮影できないのは困り者である。もっとも、秋になって気温がだいぶ低くなって来ると、カラスウリもオシロイバナも朝方まで咲き残っているので、自然光で写すことも出来るのだが、夏ほどの美しさと勢いには欠けてしまう。ところで、カラスウリやオシロイバナなどの夜咲く花は、雨が降っている時、あるいは深夜から雨というような時にも夕方から咲くのだろうか。
 夏の花と言えば忘れられないのものの一つに、太宰治が『富士山には月見草がよく似合う』と書いたマツヨイグサの仲間がある。太宰が指している月見草はオオマツヨイグサであると言われるが、富士山へ行ってもなかなかお目にかかれなくなって、変わりにメマツヨイグサが荒地にたくさん群落をつくって咲いている。広大な荒地に黄色い花のマツヨイグサ、空は何処までも青く、雪が完全に溶けた富士は黒々として雄大である。ススキの穂が伸びるちょっと手前の夏盛りの富士山周辺の忘れられない印象的な夏景色である。マツヨイグサも前述したように夕方咲いて朝にしぼむ花だが、朝ならまだ咲き残っているので、この光景を見たいと思ったら、少なくとも午前8時頃までに現地に着いて散策したいものである。
 ここまで夏の花を紹介して来ると、夏は暑くて夜咲く花が多いのかなと思うかも知れないので、その名もずばり昼咲く花のヒルガオに登場してもらおう。ヒルガオはどちらかというと梅雨時の花であるが、夏の太陽が照り付けても咲き続ける生命力溢れる路傍の花である。園芸品種と見間違う程の美しい花は、朝開いて一日で寿命が終わる1日花で、夏の縁側で涼を誘うアサガオとは、誰もが納得するはずの近縁の植物である。





















<写真>ヒマワリ、トウモロコシ、オシロイバナ、カラスウリ、メマツヨイグサ、ヘクソカズラ、ヒルガオ、ガガイモ、ヤブカラシ、ナツズイセン、キツネノカミソリ、ヤマホトトギス。
(33)恵みの雨に草伸びる



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