(35)秋の気配が忍び寄る


 大型の台風が日本に上陸しそうな気配である。多分その影響もあるのであろう、この時期としては考えられないほどの涼しさが、秋を思わせる澄んだ青空とともにやって来た。ここ数年、7月が暑く8月が涼しいという気象状況が続いている。何とはなしに不気味である。これでは風鈴の音を聞きながら縁台で西瓜を食べるという風情や、浴衣姿に団扇を片手に持って出かける盆踊りの風情も失われてしまう。それでなくとも近年急速に日本の四季の風俗が失われつつあるのだから、この先心配である。
 フィールドにある栗畑に目をやると、毬がまん丸と大きくなっている。6月中旬に花開いたのだから驚異的な成長である。いよいよ木の実、草の実ウォッチングの季節も始まろうとしている。小道脇には早くもツリガネニンジン、ワレモコウ、ツルボ等の秋の花が咲き始め、垂直に立てられたアズマネザサの細い竹の棒に止まっているショウジョウトンボやシオカラトンボの羽は、夏の活動の激しさを刻んでいるかのように痛んでいる。開けた場所にはウスバキトンボが空を舞い、小道にはアブラゼミやカブトムシの死骸が落ちていたりして、涼しい気温と相まって、夏の終わりに感ずる寂しさが身体の回りを取り囲んで来るが、気圧配置が変われば、厳しい残暑が戻って来るだろう。
 前項で各種のセミを紹介したのだから、だいぶ遅くなってしまったが、真夏のもう一つの主役とも言えるトンボを紹介しょう。まず、筆頭はオニヤンマである。オニヤンマは体長や羽の長さでは中南米に生息するハビロイトトンボには負けるものの、体のがっちりさでは世界一のトンボで、あの恐ろしいスズメバチさえも捕食する。しかも、宝石のような薄緑色に光る大きな宝石のような複眼を持っていて、逃げる時や餌を追う時には、何と時速100kmものスピードを出すという。こんな物凄い奴が身近な雑木林に見られるのだから嬉しくなる。オニヤンマは梅雨が明けると現れて9月に入っても見られるのだが、8月の太陽が強烈に光を放つ時期にこそ相応しい。
 普通、雑木林に沿って流れる細流がオニヤンマの発生場所で、細流にそった小道があればオニヤンマが行ったり来たりのパトロールに励んでいる。その時、仲間が通り過ぎたり餌を見つけたりすると物凄い速度で急上昇をするが、程なく同じ場所に戻って来るから観察は容易い。しかも、オニヤンマのパトロールの経路沿いに細い棒を立ておくと、少しの間の休憩にとまってくれるのだからなお嬉しくなる。そんな時が物凄い奴を間近で見るチャンスだが、この習性を悪用して網で捕らえて持ち帰ることだけはよして欲しい。
 大きくて格好の良いトンボとして誰もがすぐに頭に浮かぶのはギンヤンマであるが、大きな溜池が次々と埋め立てられて行く首都圏の丘陵地帯では目にすることが少なくなった。しかし、木立に囲まれた小さな溜池や水溜りに、良く似たクロスジギンヤンマが発生している。クロスジギンヤンマの発生は初夏が最盛期なのだが、少数の個体は夏場に発生し、胸の黒い筋が細くなってギンヤンマに見間違う程となる。
 この他、雑木林のやや日陰になった細流にはオオシオカラトンボが、谷戸田や溜池には都市公園でも普通に見られるシオカラトンボ、コシアキトンボ、前述したショウジョウトンボ(第27項参照)が、ギラギラ照りつける太陽の下で、みんな元気にテリトリーを張って飛び回っている。時折、身体を休めに棒の先にとまるのだが、コシアキトンボはなかなかとまってくれなくて、撮影をてこずらせる困り者のトンボである。














<写真>夏の雲、池の亀、オニヤンマ、クロスジギンヤンマ、ウチワヤンマ、チョウトンボ、コシアキトンボ、オオシオカラトンボ、シオカラトンボ、コフキトンボ。



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