(38)薄紫の絨毯が


 農家の庭先の畑では、山野草なのだが今では山野でほとんど見られないシオンやケイトウが栽培されて美しい。田んぼと雑木林の堺の斜面に、ニョキニョキと赤い蕾が膨らんだヒガンバナの花茎が顔を出して成長している。南に面した斜面では、早くも燃え立つような花をつけているものさえある。彼岸まで、まだ2週間もあるというのに、ちょっと早過ぎるのではなかろうか。今年は各種の花の咲く時期が早いと言われているが、春からずっとこの傾向は変わらないようである。こんな年も珍しい。普通、どこかで低温や日照不足の日が続いて各種の花の咲く時期が調整されるはずなのに、今年はそれがなかったということになるのだろうか。
 所々にセンニンソウの純白な花が群れるがごとくに咲いている雑木林の沿った小道に、小さな赤紫の花弁が沢山落ちている。クズの花が花期を終えようとしているのである。クズの一つ一つの花は、エンドウマメに良く似ていると言われるが、手に取ってしげしげと眺めてみると、なるほどと頷き、クズはマメ科の植物であることを再認識するに至る。いったいクズの地上部の全長は何メートルに達するのだろうか。すっと伸びた杉の木等に絡まって、10メートル程の高さまで伸びているのを良く目にするから、相当長いに違いない。童話の“ジャックと豆の木”の世界では、豆の木が天まで届いてしまうのだが、クズを見ていると、絡むものさえあればどんな高さであっても登ぼって行くように思えて来る。
 地下部は、大きいものになると直径20cm、長さが150cmにも達するという、信じられないほどの大きさである。ここから良質のデンプンである葛粉が採れ、美味しい葛餅の原料となるのである。葛粉と言えば忘れられないのが、子供の頃、風邪を引いて熱が出ると砂糖を入れて飲まされた葛湯である。解熱作用と栄養補給を同時に行えるという古来からの知恵なのだが、昨今は医者に行って風邪薬を出してもらうのが普通となってしまった。しかし、葛湯の併用も考えたら良さそうで、愛情こもった葛湯と安静、それプラスの現代医学で、普通風邪なら簡単に治ってしまうに違いない。
 谷戸の手入れの行き届いた草地に目をやると、長くて細い柄の先にクズの花の一房を小さくした格好のツルボの花が、地上からニョキニョキと乱立するがごとくに咲いている。9月初めは自然観察には少々きつい厳しい残暑が残り、これから咲くヒガンバナが余りにも有名であることもあってかツルボの知名度は低いようである。しかし、一面びっしりと花が咲いているとピンクの絨毯が敷かれている様でとても美しい。ツルボの美しさと勢いに目を奪われてしまいがちだが、このような場所には、煎じて飲めばピタリと下痢が治ると言われるゲンノショウコの端正な花も見られる。花の色は東日本では白がほとんどで、関西方面に多い紅紫色の花は見られない。
 雑木林の縁に沿った小道を下って、草刈も行われないやや湿った場所には、花が美しく地下の芋が食用になるということで、幕末に輸入されて栽培されたキクイモが、小さなヒマワリのような鮮やかな黄色の花をつけてたくさん咲いている。今では河川敷などにも普通で、すっかり日本の秋を代表する野の花となった感が強い。やや半日陰になった所には、だいぶ大きくなったカラスウリの実がたくさん見られる。さらに場所によっては、可愛らしいスズメウリも見られるから注意して欲しい。本によるとカラスの卵ほど大きくなく、スズメの卵ほどの大きさだからスズメウリと名がつけられたと書かれている。それではカラスウリは、カラスの卵ほどだからそう名がついたのかというと、どうもそうではないらしい。各種の図鑑を調べて見ても、その名の由来は書かれてないが、カラスノエンドウなどと同じように“役にもたたないウリ”ということからではなかろうか。































<写真>川崎市黒川の谷戸、ツルボ咲く町田市の棚田、シオン、ケイトウ、キクイモ、ツルボ、ゲンノショウコ(白花)、ゲンノショウコ(赤花)、クズ、ボタンヅル、センニンソウ、スズメウリ、コバノカモメヅル、シラヤマギク、ヒヨドリバナ、ウド。

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