(39)草原にも秋来たり


 ヒガンハナが満開である。あと一週間たつとお彼岸だから今年は開花が早いとは言え、充分にその名のいわれの日幅に入っていると言えよう。ヒガンバナのことを“葉見ず花見ず下曲がり”と言うのだそうである。なぜそう言うのかというと、ヒガンバナの一年は、夏の終わり頃になると花茎を伸ばし、お彼岸の頃に咲いて、花が咲き終わると葉が出て球根に栄養分を蓄え、葉は3月になると枯れてしまう。すなわち花は自分の葉を見る事なく、葉は自分の花を見る事がないのである。このようなヒガンバナのような夏眠型の植物は結構ある。身近な花壇の花である同じヒガンバナ科のスイセンやユリ科のシラーがそうである。この他にもたくさんの夏眠型の植物があると思うが、スイセンやシラーは“葉見ず花見ず”では無いところをみると、ヒガンバナのような“葉見ず花見ず”型の植物は案外少ないのかもしれない。
 ヒガンバナと言えばお墓の回りにも多く、また、球根に有毒物質を含んでいるために、数多くの気の毒な名がついている植物も珍しい。シビトバナ、ジゴクバナ、ソウシキバナ、シビレバナ、ユウレイバナ等が有名だが、オヤコロシという物騒な名前さえあるのだという。お彼岸でお墓参りに行くと、ヒガンバナ以外にも墓地には、ムクゲ、サルスベリ、フヨウ等が植えられていて、春の彼岸の頃に咲くツバキとともに、墓地の植栽はちょうど彼岸頃に咲く花が選ばれていることが分かる。このように先祖の霊に感謝するお彼岸頃に咲き、かつて稲が不作の時には救荒植物としても重要であったのだから、ヒガンバナにはもっと有難い名が付けられていたとしても不思議ではない。ヨーロッパでは高級な花の一つであるのだから、そのうち日本でも、カンムリバナとかジョウオウバナとかメガミバナ等と呼ばれる日が来るかもしれない。
 ヒガンバナが咲いているような田んぼの畦や農道などのある程度背丈の高い草が生えている場所には、コバネイナゴやショウリョウバッタが多いが、ちょうど子供たちが遊び場にするのに好適な禾本科の短い草が生えた空き地に踏込むと、トノサマバッタが勢いよく飛び出して10数メートルの先まで飛んで行く。日本最大のバッタはショウリョウバッタとはいえ、それに勝るとも劣らないトノサマバッタは、カブトムシやギンヤンマ等と同様に、子供たちのアイドルであった。捕まえようとして近づくと飛び立って逃げ、着地した地点にまた近づくと飛び立って逃げるという、イタチごっこのような思い出が鮮やかに浮かんで来るに違いない。犬や猫などの哺乳動物に慣れ親しんだ私たちには奇妙に思えるのだが、トノサマバッタの耳は後ろ足の太股(腿節)の付け根の上の辺りにある大きな穴のような部分である。こんなに地面に近いところにあるのだから、人の接近を敏感にキャッチするのも頷ける。
 バッタの王様を紹介してしまったのだから、日本最小のバッタを紹介しよう。その名もズバリ、ノミバッタである。羽があっても小さくて飛べず、しかし、水泳は得意で、後ろ足を使っての跳躍力は素晴らしい。ノミバッタのノミは、この跳躍力から名付けられたのかもしれない。見ての通り普通のバッタとは姿形が異なるが、バッタと名が付くものの、バッタ科ではなく、日本にただ一種のノミバッタ科に分けられている。 
 バッタとキリギリスはどこが違うのとよく聞かれるが、その答えは本で調べて頂くとして、キリギリス科という科名と同じ名の、本家本元たるキリギリスに登場願おう。今ではかなり自然が残る場所でしかお目にかかれなくなったが、地方の農村地帯ではお馴染みで、私がキリギリスにカメラを向けていると、地元の古老が覗き込んで“何だ、チョンギースか”と笑って言う。キリギリスは草むらでチョンギースと鳴くのである。









































<写真>河川敷のトノサマバッタ、田んぼの畦にヒガンバナ咲く、オンブバッタの顔、ショウリョウバッタ、クルマバッタモドキ、イボバッタ、ツチイナゴ、ハネナガイナゴ、ナキイナゴ、トゲヒシバッタ、ヒシバッタ、ミヤマフキバッタ、ノミバッタ、キリギリス、ヒメギス、ウマオイ、ヤブキリ、ササキリ、ツユムシ。

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