秋のフィールドは、野の花や木の実、トンボやバッタ等の昆虫類を観察するだけだって大変で、実に興味深い対象なのだけど、それにプラスして、雑木林の地面を割って様々な格好をした生命ある物体が現れ出る。キノコである。個人的にはキノコ類が大好きで、また、アガリクス、ヤマブシタケ、冬虫夏草などが持っている人間の病に対する有用性を耳にするにつけ、長生きするためにもキノコに詳しくなって様々なキノコを食べたいなと思っているのだが、毒キノコにあたったら元も子も無くしてしまうと尻込みしてしまう。
フィールドで良く出会う仲間内で“里山のマタギ”と呼ばれて親しまれている、東北出身のおやじさんにくっ付いて、レクチャーして貰えば何とかなるのだろうけど、里山のマタギと言われる程のおやじさんだって、様々な全国各地にあるキノコ同好会に顔を出してキノコの識別に精を出し、しかも“確信できるもの以外は食わん”と言うほどなのだから、食べられるキノコの判別は非常に難しい。しかし、この時期、食べることとは別にしてもキノコを登場させずして里山を語るのは方手落ちになってしまう。そこで、知人友人の力を借りて、キノコに関しては全くの素人で、今までほとんど興味を持たなかったにもかかわらず、蚊に刺されながらも精を出して雑木林の中を徘徊してみた。その結果が思わず“面白い”と叫びたくなる程に、首都圏平地の開発に取り残された小面積の雑木林でも、様々な格好をしたまるで遠い宇宙から飛来物のようなキノコが時期を違えて地面から顔をだすのだから楽しくなる。こうしてキノコ同様に、今まで異星人に見えていたキノコの写真撮影と研究に精を出している仲間の気持ちがようやく分るようになった。何事もやって見なければその楽しさは分らないものである。
まず何が何でも見つけ出して撮影したかったのが、キノコ音痴の私でさえ食べられるキノコとして知っているタマゴタケである。しかも地面から顔を出したばかりで傘が開いていない卵型のもの、出来れば大小2本が背比べをしているように地上に顔を出していて、背景の雑木林まで写し込めたら最高だと思っていたのだけれど、どうにか写真のように一本だけ地面から顔を出した愛らしい姿を撮影できた。タマゴタケを食したことのある友人によれば、スープにしたらとっても美味しかったと言う。タマゴタケは素人でも容易に判断できるために採られてしまう。タマゴタケだけを狙ってキノコ狩りに来る方もいるようで、せめて地面に顔を出したばかりのものは、写真撮影に精を出す私のような者のために残しておいて欲しいものである。この他、気になるキノコは、傘からクリームが滴り落ちているように見えるシロテングタケ、番傘を開いたようで風情のあるヒトヨタケ、傘に鋭い突起を付けた腕白坊主のようなシロオニタケ、毬から顔を出したクリやクヌギの実のようなフクロツチガキなど、秋の雑木林は面白キノコで一杯だ。
キノコといえば胞子で繁殖するため、シダやコケと同じ仲間だと思っていたら、葉緑素を欠いて自分では養分を作れない、植物でも動物でもない菌類として分類されていると言う。冬になると落ち葉の中で越冬する昆虫を探し出すために落ち葉をめくって行くと、白い菌類がたくさん繁殖しているのを良く目にする。キノコの本体はこの白い糸くずのような菌糸体で、キノコは普通の植物なら花にあたっていて、胞子を作るための生殖器官なのである。キノコを探して雑木林を徘徊していたら、自分では葉緑素を持たずに落ち葉から養分を吸収する腐生植物のギンリョウソウモドキを見つけた。こちらは花が咲き実もなるイチヤクソウ科の植物である。しかし、生態的にキノコに似ているために、素人目にはその姿格好からキノコと思えてしまうのも仕方が無い。
<写真>タマゴタケ、シロテングタケ、キノコに間違われるギンリョウソウモドキ、ヒトヨタケ、ノウタケ、ニオイコベニタケ、シロオニタケ。
(41)裏山にはキノコが一杯
<様々な里のキノコたち>
アカヤマドリ/ヤマドリタケモドキ/コガネヤマドリ/テングタケ
カワリハツ/ウコンハツ/ナラタケモドキ/チチタケ
ナカグロモリノカサ/ドクツルタケ/ムジナタケ/ニガクリタケ
キコガサタケ/ハナオチバタケ/スジオチバタケ/ヤグラタケ
ウラムラサキ/ヒナノヒガサ/ヒダサカズキタケ/ダイダイガサ
トガリアミガサタケ/クロアシボソノボリリュウタケ/マンネンタケ/スジウチワタケモドキ
アラゲキクラゲ/サンコタケ/カニノツメ/スエヒロタケ
アンズタケ/アミスギタケ/ホコリタケ/ツノマタタケ
ツチヒラタケ/ヒイロタケ/ツチグリ/フクロツチガキ
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