雑木林の縁にある渋柿が色づき、畑ではサツマイモの収穫が始まった。芋掘りは稲刈りと異なって子供でも手伝えるので、日曜菜園ばかりでなく農家の畑にも子供たちが見受けられる。イモ掘りは、土の中のどのあたりに芋があるのか、どのくらいの大きさの芋があるのかと興味の尽きない夢誘うものである。もっとも、数株掘ると子供たちばかりでなく私たち一般人も飽きてしまって、農家の方々の重労働に思いを寄せることになる。丘の上の畑では綺麗に耕運され地ならしされた畑が沢山ある。これから正月に向けての小松菜やほうれん草の種まきに入るのである。正月向け冬向けの花とは言えないが、玄関先を彩るハボタンが畑で育てられていて、だいぶ大きくなって根際が色着き、後半月から一ヶ月もすると出荷出来そうである。
 秋は実りの季節、言い換えると多くの植物が次の世代に生命を託す季節とも言えよう。衣服や動物の毛にくっつく“くっつき虫”は有名だが、鳥に食べられて分布を広げる種子散布の方式である、被食動物散布の中の鳥散布についても記さねばなるまい。秋に野山を歩いていると、ノイバラ、ピラカンサ、ナンテン、ガマズミ、サルトリイバラ、ニシキキギなどの赤い実がやたらと目につく。どうして赤い実が多いのだろう。まさか人間様の目を楽しませるためでもなかろう。そう思って本を開いてみると、赤い実は“美味しい実が有りますよ、どうぞたっぷり食べて下さい”と、その存在を鳥達にアピールしているのだそうである。色を見分けることが出来る動物は、脊椎動物では霊長類と鳥類だけと言われ、目立つ色をしていれば鳥に容易に発見され、果肉は消化されるが種子は糞と一緒に排泄されるから、植物の分布拡大に大いに役立つことになる。
 以上のようにフィールドに赤い実が多いことに対しての答えを、進化論で有名なダーウィンを始め多くの学者が説いているそうである。しかし、待てよ、フィールドには赤い実だけではなく、アオツヅラフジ、イシミカワ、イボタ、ヤブランなどの青や黒い実もたくさんある、と反論する方も多いと思う。これに対して、黒い実は鳥が多く棲息する気温の暖かい熱帯や暖温帯に多く、赤い実は気温が低く鳥の少ない寒帯や亜寒帯に多いという調査から、鳥が多い所ではそれ程目立たなくても食べてくれるから、黒い実の比率が多くなると解説されている。何となくすっきりしない結論である。そもそも私たち人間は鳥ではないのだから、どのような色であったら発見し易いかなどは分からない。ことによったら黒い実は赤い実よりも鳥に気づかれ易いのかもしれない。
 また、ゴンズイやクサギの実のように果実を取り囲む苞は赤いが、果実は黒っぽい色をしていたり、サクラの実のよう熟すにつれて赤くなり、しだいに黒くなると赤い実の中に黒い実が混じって、より目立つようになるのだという。このような赤と黒とでより目立つような仕組みを“二色効果”と呼ぶらしい。いずれにしても、赤い実と黒い実は鳥に目立つことだけは確かなようだ。しかし、鳥によって食べられ分布を広げる植物の種子は、果肉が発達して美味しそうな赤や黒の水々しい実だけではなく、カヤツリグサ科のサンカクイやイヌザンショウ、カラスザンショウ、ヤマウルシなどの目立たぬ堅い果実もあるという。回りの栄養分を消化して糞と一緒に排出し、植物の分布拡大を手伝っているのだそうである。こうみると植物の種子の鳥散布はなかなか奥が深く、一筋縄ではいかないことが分かる。ここはひとつ性能の良い双眼鏡を手に入れて、どのような鳥がどんな植物の実を食べているのかを調べて見なければならなくなった。

<写真>平塚市土屋の里、五反田谷戸、渋柿、カラスウリの実、ノイバラの実、ナンテンの実、ピラカンサの実、ヘクソカズラの実。


(46)赤い実が何故多い



<様々な木の実・草の実たち>

クサギ/ニシキギ/ヒサカキ/コセンダングサ










メギ/マユミ/ウバユリ/サンシュユ










センリョウ/シャリンバイ/スイカズラ/ヤブコウジ










アメリカハナミズキ/アサガオ/ゴンズイ/ゴシュユ










ヒヨドリジョウゴ/イボタ/イヌホウズキ/サンショウ










カマツカ/コムラサキ/マムシグサ/ノブドウ










オニドコロ/トキリマメ/ツルウメモドキ/ウメモドキ










ウツギ/ヤブミョウガ/ヤブラン/ヨウシュヤマゴボウ










アワブキ/ヒノキ/コブシ/モッコク










イシミカワ/ツリバナ/ウド/アオツヅラフジ












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