<様々なオトシブミ・チョッキリの仲間たち>
アシナガオトシブミ/ムツモンオトシブミ/ヒメコブオトシブミ/ゴマダラオトシブミ
ヒゲナガオトシブミ/クビナガオトシブミ/ウスアカオトシブミ/ウスモンオトシブミ
ハイイロチョッキリ/チャイロチョッキリ/ドロハマキチョツキリ/ブドウハマキチョツキリ
(10)揺りかご造る名大工
《ヒメクロオトシブミ・カシルリオトシブミ》
四月下旬から始まるゴールデンウィークは暑くもなく寒くもなく、頬に気持ちの良い微風は何とも言えぬ香りを含んで、自然観察には快適な最高の季節である。各種の草木の若葉は瑞々しく広がり、どの葉でも天ぷらやお浸しにしたら美味しそうである。私たちがそう思うのだから、地球上で最も繁栄している昆虫たちがこの若葉を見逃すはずはない。蝶や蛾をはじめ各種の昆虫たちが、若葉をもりもり食べて成長を開始する。その中でも、葉を巻いて子供たちの育児部屋兼食事の用意をする習性で知られるオトシブミの仲間は、忘れることが出来ない存在である。オトシブミとは洒落た名前だが、漢字で書くと『落とし文』となる。遠い昔、好きな人が良く通る場所に、恋文を書いて落としておいたと言われている。昔の手紙は紙を巻物にする。その格好がオトシブミの作る揺籃とそっくりなので、小さな甲虫はオトシブミと名付けられた。
平地の雑木林のオトシブミの仲間は各種生息しているが、それぞれが好む植物があって、どこでも普通に見られるヒメクロオトシブミは、主にコナラやクヌギ、バラの葉を巻いて揺籃を作る。前足がまるで漫画の『ポパイ』の力瘤のように盛り上がったルイスアシナガオトシブミはケヤキの葉を、小さいが青緑の金属光沢を持つカシルリオトシブミはイタドリの葉を、ウスモンオトシブミはエゴノキやキブシの葉を、ヒメコブオトシブミはカラムシやコアカソの葉をと言った具合である。ほとんどのオトシブミの仲間は葉を丸ごと一枚巻くのであるが、小さなカシルリオトシブミは、大きなイタドリの葉の一部で揺籃を作る。体が小さいから子供の成長のための量は、それで十分なのだろう。平地の雑木林ではまだ発見していないが、ハンノキ類の葉を巻くナミオトシブミは、身体もいくらか大きく赤褐色の上翅が印象的なオトシブミである。
ちょっとした雑木林があれば普通に見られる、ヒメクロオトシブミの揺籃作りを紹介しょう。まず葉の上をあちこち動き回って子供のための食料として好適かを確認し、次に主脈を中央にして左右の葉端から一直線となるように切り込みを入れる。次に葉の裏側に回って主脈に傷を付けて葉を萎れさせ、縦に二つ折りにして先端から巻き始める。数回巻くと口で穴を開けて産卵し、最後まで巻き始める。途中、何回も葉の両端を内側に畳み込んで揺籃がほどけないようにしながら完成させる。他のオトシブミもほぼ同様な手順で揺籃を作るのだが、完成すると主脈を噛み切って落とす場合と落とさない場合があり、それは種類や状況によって様々なようである。この点もオトシブミの観察テーマの重要なポイントとなっている。長々とヒメクロオトシブミを例に揺籃造りを説明したが、論より証拠、親に教えてもらったわけでもない本能の不思議さを、初夏の陽を浴びながらじっくりと観察してみよう。
<写真>イタドリの葉を巻くカシルリオトシブミ、雑木林に最も普通なヒメクロオトシブミ、ヤマハンノキ類の葉を巻く(ナミ)オトシブミ、ポパイのような力瘤のルイスアシナガオトシブミ。