(16)流れの石の番人です
《ミヤマカワトンボ・カワトンボ》



 新緑が目に鮮やかな5月は、アウトドアライフに最適な季節である。家族そろって近郊の渓流に、バーベキューに出かけることもあると思う。そんな時に観察して欲しいのが、ミヤマカワトンボやカワトンボである。カワトンボは首都圏平地の雑木林の小川にも生息していて、雄の羽色は変化に富んでいるが雌は透明である。ミヤマカワトンボは、雄の羽は赤褐色で雌は焦茶色で、低山地の渓流に出かけないとお目にかかれない。カワトンボの仲間はヤンマ科やトンボ科のいわゆる普通のトンボと異なって、前翅と後翅が同じ形の均翅亜目に属している。代表的なものは、この他、夏になると見られる羽が雄では真っ黒なハグロトンボやアオハダトンボが有名である。カワトンボの仲間の身体は、特に雄は緑色に光る金属光沢を持ち、美しいトンボとして人気が高い。
 渓流釣りをしている方にはお馴染みのことと思うが、渓流の中を遡って行くと、水面に突き出た石の上にミヤマカワトンボが羽を休めている。疲れた身体を休めているわけではなく、テリトリーを張って、餌になる昆虫や雌の飛来を待っているのである。まるで石の上で流れの番人をしているようで、観察しようと慎重に近づいたつもりでいても、3m位は近づけるのだが、人の接近を感知して飛び立ち、またその先の石の上に止まる。また、近づいても感知されて飛び立たれる。といったように同じことの繰り返しとなる。清流に赤褐色の羽はすがすがしく、印象に残る初夏の風物詩の一つである。
 カワトンボはミヤマカワトンボが見られる渓流でも観察できるが、個体数の多いミヤマカワトンボに押されるかのように片隅にひっそりと暮らしている。平地の雑木林に囲まれた田んぼの細流で発生するカワトンボも、良く陽が当たる南側や田んぼの中の細流では見られず、半日陰のような雑木林の縁が好きなようである。雑木林の細流で発生するカワトンボは、流れの中の石や棒に止まっていることもあるが、流れに覆い被さる樹木の小枝や草木の葉に止まることも多い。このため渓流と異なって近づくことも比較的簡単で、蚊のような小さな昆虫を捕食してモリモリ食べる姿を観察することが可能である。なお、関東地方の平地のカワトンボの雄は、褐色型の羽を持つものが多いようである。
 トンボの産卵方法は種類によって異なっていて、ミヤマカワトンボは流れの底に突き刺さる小枝や草の茎につかまって、後づさりしながら身体全体を水中に没し、枝や茎に卵を生み付ける。このような産卵方法を潜水産卵と呼んでいて、この他、ナツアカネのように飛びながら産卵する空中産卵、ギンヤンマのように茎につかまって産卵する静止産卵、ショウジョウトンボのように腹の先を水面に打ちつけるようにして産卵する打水産卵などがあって、トンボの観察の重要なポイントとなっている。











<写真>ミヤマカワトンボ、ミヤマカワトンボの生息する渓流、ハグロトンボの雄、ハグロトンボの雌、カワトンボ(褐色型)、カワトンボ(透明型)。



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