(19)屁っぴり虫だが超綺麗
《アカスジキンカメムシ・アカスジカメムシ》
戦前に少年期を送り、昆虫採集に熱中した方々の本を読むと、必ずと言って良いくらいに平山修治郎氏のカラー図鑑『昆虫図譜』と加藤正世博士の『趣味の昆虫採集』に心酔し、大きな夢を膨らませたと書かれている。作家の北杜夫さんもその一人だという。まだ現物にお目にかかったことがないので、機会があったら国立国会図書館にでも行って、是非とも体面してこなければならない本である。その『趣味の昆虫採集』に“美しい昆虫の色々”という図版があって、加藤正世博士が選んだ蝶を除く15種類の美虫が紹介されているという。その中の10種は台湾産(当時は日本の領土であった)のものなどで、残りの5種が日本産ということになる。その中に、ここで紹介するアカスジキンカメムシが選ばれているという。ちなみに他の4種は、エゾゼミ、キバネツノトンボ、トビナナフシ、アオマツムシであるという。
さて、そのアカスジキンカメムシだが、緑に光る地に赤の筋が入った大型のカメムシで“歩く宝石”とも形容されている。カメムシの仲間は身体から嫌な臭いを発するので、ヘッピリムシとかヘクサムシとか呼ばれているが、とても美しいものが多い。その中でも特に美しいのがアカスジキンカメムシだが、何と身近な場所にも生息しているのだから嬉しい。東京都の小石川植物園にも、アジサイが咲く5月下旬頃に現れる。一体どんな植物が好物なのだろう。図鑑によると各種の広葉樹や針葉樹を食するとあるが、小石川植物園にも普通に見られるミズキやコブシ、キブシ、アジサイなどが好きなようで、今までの観察例もそれらの葉上である。アカスジキンカメムシは成虫ばかりでなく、幼虫もまた一見の価値がある。赤黒く光る地に横に白い帯が入っていて、帯の上に黒い点が2つある。パンダのようだとする方も多いが、紙オムツを着けているようにも見えるのだがいかがなものだろうか。
最近、個体数が減ってはいるが、黒地に5本の赤のストライプを持つアカスジカメムシも美しいカメムシの一つである。かつては、ニンジンの花穂に沢山見られたが、花が咲くまで放って置く農家も少なくなり、また、農薬散布も徹底してか、ヤブジラミなどのセリ科植物の花穂に集まって吸汁しているのが見られる。ヤブジラミとは、果実がまるでシラミのようにズボンなどに付き、藪に生えているので名が付いたと言われている。チョウセンニンジンも、誰もが知っているセリ科の植物の一つである。かつて群馬県の山村に出かけた時、チョウセンニンジンの畑に出くわした。あの何とも言えぬ強烈な臭いが漂って来るので、近くを通ればすぐ分かる。アカスジカメムシも独特の臭いに引き寄せられたのか、白い花穂に沢山の個体が集って吸汁していた。
<写真>アカスジキンカメムシ、アカスジキンカメムシの幼虫、アカスジカメムシ、ジュウジナガカメムシ、ナガメ、オオホシカメムシ。